○長島昭久君
民主党の長島昭久です。
私は、ただいま
議題となりました
自衛隊法の一部を改正する
法律案につきまして、外務大臣及び
防衛大臣に対し、
民主党・
無所属クラブを代表して質問いたします。(
拍手)
この議場に、
自衛隊法の改正案を上程してあるにもかかわらず、自衛隊の最高指揮官である
総理大臣がおられない。甚だ残念であります。
今回の
自衛隊法改正案によって、自衛隊の海外任務がまた一つふえることになります。在外邦人を救出するに当たって、これまでの海と空の
輸送に加え、自衛隊による陸上
輸送を可能にするというものです。
ただし、武器使用基準は、相変わらず厳しい制約が課されたままになっております。
この陸上
輸送は、PKOに派遣された自衛官によるいわゆる駆けつけ警護と基本的な構造は同じです。
昨年、野田
総理の補佐官を務めていた際に、私は、PKOに派遣された自衛官が、同じ地域で活動しているNGO、国連職員あるいは
企業の方々が生命の危機に瀕した際に、その場に赴いて
保護することができる法
制度を構築するべく努力いたしました。しかし、
内閣法制局の憲法解釈の壁に阻まれ、自衛隊に十分な権限を与えることができず、最終的には断念せざるを得ませんでした。
今回の陸上
輸送は、基本構造が同じ駆けつけ警護に比べても、はるかに難易度が高いものであります。
すなわち、PKOの駆けつけ警護は、自衛官が状況をほぼ知り尽くしたエリア内で移動して他人を
保護するというものであります。しかし、今回の陸上
輸送は、突発的な
緊急事態に際し、ほぼ未知の環境に入り込んで実施するものであります。港湾や空港からの離脱作戦と比較しても、難易度は格段に高いものであると考えます。
そこで、
防衛大臣、今申し上げたような陸上
輸送にかかわる状況の困難性について、自衛隊のオペレーションを統括する立場としてどのように認識しているか、まず伺います。
その上で、陸上
輸送の任に当たる自衛隊の武器使用権限が十分なものかどうかという、今回の
自衛隊法改正案をめぐる議論の核心について、以下、質問してまいります。
確かに、陸上
輸送の難易度は高いものの、部隊が一たび邦人を
保護下に置き、
輸送を開始した後は、邦人の命を守るための武器使用も柔軟に認められております。
しかし、
輸送の出発点では、そうはいきません。
例えば、救出を求める邦人の
皆さんが、大使館の
敷地内で集合して待機しているとします。そこに陸上自衛隊の
輸送部隊が車列を組んで近づいていく。しかし、大使館が目前に迫ったその瞬間に、正体不明の武装集団が邦人たちに襲撃を加えたとします。自衛隊がいまだ邦人を
保護下に置いていないこの状況では、加害者、邦人、自衛隊がそれぞれ三角形の頂点をなす位置関係にあります。この位置関係がポイントです。
このいわば三角構造の場合において、自衛隊部隊は、邦人が襲われている姿を目の前にしながら、残念ながら、手をこまねいて傍観せざるを得ません。自衛隊には、襲撃を抑止するために、警告射撃を含め、必要最小限の武器使用を行うことすら認められていないからです。これが、現行の
内閣法制局の憲法解釈であります。
理由は、この邦人を襲撃から守るための必要最小限の武器使用が、何と、憲法が禁じている武力行使に当たるおそれがあるからだというのであります。全く、一般常識では考えられない見解であります。
したがって、私は、四月十六日の予算
委員会で、この三角構造における自衛隊の武器使用基準は重大な立法上の不備ではないかと、
内閣の立場をただしました。私の質問に対し、
安倍総理は、
課題は確かに残っている、自衛隊の最高指揮官としてじくじたる思いだと、何度も言っておられました。
しかし、そもそも、
課題を残しながら新たな行動を自衛隊に付加することは、最高指揮官として余りにも無責任ではないでしょうか。
それでは、
解決すべき
課題とは何でしょうか。この点について理解を深めるため、少々迂遠に聞こえるかもしれませんが、日本という国家の統治権能の行使のあり方について取り上げてみたいと思います。
ところで、私自身もかつてはそのように考えておりましたが、同僚議員の
皆様の中にも、日本の統治権能は、日本の領域内あるいは日本国籍の船舶の中においてのみ行使されると思われている方がいらっしゃるかもしれません。
私は、五月十七日の外務
委員会でこの点を取り上げ、外務省の
政府参考人から、大要、次のような
答弁を得ました。
日本の領域を超えた公海上を航行している外国船舶があるとして、この船舶で生じた事柄については、船舶の国籍国、すなわち旗国が排他的に統治権を行使する、これが大原則です。一方、その旗国の同意を得れば、我が国もその統治権能の一部である執行管轄権を行使することができ、日本の公務員による公権力行使は当該外国船舶の船内にある者に対しても有効に及ぶ。これが
答弁でありました。
この点こそ、
解決すべき
課題を理解する上で重要な論点でありますので、この場で改めて、外務大臣からわかりやすく
説明をしていただきたいと思います。
要するに、本来統治権を行使すべき立場にある国の同意を得た上であれば、我が国は、その領域外で生じた事案についても統治権能を及ぼすことができるということであります。
したがって、私は、公海上の外国船舶に対する公権力の行使と同様の議論が、他国の領域内においても行うことができると考えます。
そこで、もう一点伺います。
外国の領域で生じた事柄について、領域国の同意を得た上で、我が国の統治権を及ぼし、統治権能の一部である執行管轄権を行使すること、すなわち公権力を行使することに、一般国際法上の問題はありますか。そして、その外国に所在する人々が日本の執行管轄権の行使を免れる国際法上の根拠はありますか。外務大臣の
説明を求めます。
国際法上の
説明は外務大臣の
答弁に委ねたいと思いますが、日本の国内法上の答えは既に明らかです。
平成十年三月十八日の外務
委員会において、警察庁は次のとおり
答弁しております。すなわち、警察による職権行使につきましては、国の公権力の行使に該当する行為でございますから、当然ながら、外国においては相手国の主権を侵すことのないよう、相手国の同意が得られた場合に限り、我が国の国内法の範囲でこれを行使することができるということでありますと。
つまり、ここで明らかになったことは、日本の公務員が、外国の領域内で、その国の同意の範囲内で、統治権を及ぼし、執行管轄権を行使することには何ら問題はなく、その領域内に所在する者に対しても有効に機能するということであります。
しかも、刑法第三条の二は、この
法律は、日本国外において日本
国民に対して次に掲げる犯罪を犯した日本
国民以外の者に適用するとして、殺人罪などを列挙しております。すなわち、外国の領域における日本人に対する殺人行為は、日本の刑法違反であります。
以上を踏まえ、陸上
輸送の出発点で生じる、先ほど申し上げた、加害者、邦人、自衛隊が三角形の頂点をなす三角構造における武器使用の法的性格について、
政府の見解をただしたいと思います。
まず、外務大臣に伺います。
この三角構造において、陸上自衛隊部隊が、邦人の命を守るべく、合理的に必要な範囲で武器を使用しながら加害行為を抑止すること、その法的性格はいかなるものと考えますか。
領域国の同意の範囲内で、日本の統治権能の一部である執行管轄権、具体的には行政警察権を行使し、日本の刑法違反の殺人行為から日本人の命を守るための行為については、武器使用を含め、加害者としてもこれに服するべきものではないでしょうか。あるいは、少なくとも、そのような行為と性格づけることは可能だと思いますが、外務大臣の見解を伺います。
三角構造における邦人
保護のための
措置を日本の統治権行使と位置づけることが可能であるとすれば、四月十六日の予算
委員会で
法制局長官が行った
答弁、この場合の武器使用について、自己保存のための自然権的権利によるものとは言えず、国または国に準ずる組織に対して行った場合には、憲法九条の禁ずる武力の行使に当たるおそれがあるとの主張は、明らかに矛盾したものと言わなければなりません。
このような矛盾した議論を続けていて、目の前で日本人が襲撃を受けているのにこれに有効に対処できない仕組みを維持しようとするのは、邦人
保護に関し、
政府として責任ある
姿勢とは言えないと思います。
せっかく
法改正を行うのに、現実の要請に応えられない、ましてや現場の自衛官に過重な負担をかけ続ける、これは余りにも無責任ではないかと思いますが、
防衛大臣の見解を求めます。
これも四月十六日の予算
委員会の
質疑で明らかになりましたが、海上保安官の場合、我が国の領域の外にあっても、日本人が襲撃を受けた場合には、襲撃されたという外形的事象に基づいて、我が国の統治権能の一部である警察権を行使して、その日本人の防護のために武器を使用することができます。加害者が国に準ずる組織であるかどうか、その国籍、職業、主義主張などを武器使用に先立って調べ上げることは求められていません。もとより、そんな悠長なことをやっているいとまはありません。
同僚議員の
皆さん、自衛官も、海上保安官と同じ公務員であります。同じ憲法九条に服します。それなのに、統治権の範囲内で日本人を
保護するために必要な武器使用を行うことが自衛官だけ認められないという
内閣法制局の主張を放置したままでいいんでしょうか。法のもとの平等の観点からいっても、そうした欠陥を残したまま
法案を通過させることは、
国会の怠慢ではないですか。
防衛大臣、三角構造において、何者かの襲撃を受けている邦人を
保護することは、国際法上も、憲法九条との関係でも、何ら問題のない、日本の統治権の行使なのではないですか。にもかかわらず、目の前で日本人が攻撃を受けているのにその命を
保護できない
制度にとどめておくことは、日本という国家が正当な統治権行使を放棄することになりませんか。この点について、
防衛大臣の見解を求めます。
改めて、
安倍総理及び同僚議員の
皆様に問いかけたいと思います。
今回の
自衛隊法改正に当たり、
解決すべき
課題とは何でしょうか。
冒頭申し上げましたとおり、私は、
総理補佐官時代に、PKO活動における駆けつけ警護の
制度を構築すべく、
内閣法制局と議論しました。その際、
法制局は、駆けつけ警護が警察活動であるとするには、相手方が統治権に服するものでなければならないという主張を繰り返しました。実は、そこに
課題解決のヒントがあったわけです。
すなわち、これまでるる述べてまいりましたとおり、たとえ他国の領域内であったとしても、その領域国の同意があれば、我が国の統治権の一部である行政警察権を及ぼすことができるわけですから、三角構造において、日本人を
保護下に置くために必要な武器使用を認めることは、国家として正当な統治権行使であり、憲法解釈の変更ではありません。
PKOにおいても、今回の陸上
輸送においても、あらかじめ領域国の同意を取りつけて自衛隊部隊を派遣することは改めて申し上げるまでもありません。
総理、
課題が残っていると
総理は言われましたが、今回の
自衛隊法改正において残された
課題とは、憲法解釈の変更ではなく、
総理のもとにおける
内閣の決断であります。
安倍総理は、施政方針演説の冒頭で、福沢翁の言葉、一身独立して一国独立すを引用し、この壇上から、
国民に向かって、独立自尊の精神を喚起しました。
海外で頑張っている日本人の身体生命を、他の国や国際機関に依存することなく、我が国独力で守り抜くことこそ、
総理が訴えた独立自尊ではないでしょうか。
集団的自衛権の行使も、憲法の改正も、大事な
課題でありますが、そのようなことの前に、この現行憲法の解釈の範囲内におさまる行為の合憲性を確実なものにすることが、
内閣総理大臣として、あるべき
姿勢ではないでしょうか。
最後に、真に実効性のある邦人
保護を実現するため、改めて、
総理そして副
総理の決断を強く求め、私の質問を終わります。
御清聴ありがとうございました。(
拍手)
〔
国務大臣岸田文雄君
登壇〕