○西根
委員 罪名としては窃盗が圧倒的に多く、次に詐欺が続くわけですが、専門家によりますと、窃盗の中身としては万引きなどの軽微なものが多く、詐欺についても、そのほとんどは無銭飲食や無賃乗車だとのことです。そして、
犯罪動機としては、今御答弁がありましたように、困窮、生活苦が一番多くなっているということです。
つまり、知的障害者または知的障害が疑われる者が、
社会において適切な福祉サービスを受けられずに、生活に困って万引きや無銭飲食を犯したというパターンが多く見られる、こういうことでございます。
本来は、障害を持つ人が確実に福祉サービスを受けられる体制をつくる、このことが最重要課題です。他方、福祉の手から漏れ、それゆえに
犯罪を犯してしまう障害者が多数いる。この現状におきましては、司法が福祉と連携して、障害者の再犯を確実に防ぐ
役割を果たしていくことが重要だと考えております。
ところで、
平成二十三年七月に、私の地元の大阪市平野区で、当時四十二歳の男性が、約三十年の引きこもりの末、自宅で姉を殺害するという
事件がありました。この男性は、発達障害の一種であるアスペルガー症候群でした。
ここでアスペルガー症候群について少し
説明いたしますと、アスペルガー症候群とは、生まれつき中枢神経がうまく働かないことにより、一、人と上手につき合えない、二、コミュニケーションがうまくとれない、三、想像力が乏しく、こだわりが強いという三つの特徴を持った自閉症の一種です。学業成績などでの落ち込みは目立たず、言葉の理解はできているものの、人とのかかわりが一方的になりやすい、こういう障害だとされております。
話を戻しまして、この
事件は裁判員裁判の
対象事件となり、
平成二十四年七月、大阪地裁は、母や二番目の姉が被告人との同居を明確に断り、
社会内でアスペルガー症候群という精神障害に対応する受け皿が何ら用意されていないことを挙げ、許される限り長期間、刑務所に収容することが
社会秩序の維持にも資するなどとして、検察側の懲役十六年の求刑を上回る、懲役二十年の判決を言い渡しました。
私は、この判決が出たときに、発達障害を理由として求刑よりも重い判決が出たことに大変衝撃を受けました。
その後の大阪高裁の二審では、被告人が、障害を周囲に気づかれず、適切な支援を受けられないまま約三十年にわたり引きこもり生活をしていたことを
指摘し、犯行の経緯や動機形成には被告人のみを責めることができない障害が介在しており、量刑判断で考慮されるべきとしました。そして、十分に反省態度を示せないのは障害の影響のためで、再犯可能性を推認させる
状況ではないとし、
社会の受け皿についても、
地域生活定着支援センターなどの公的機関による
一定の対応があり、受け皿がないとは言えないとして、一審判決を破棄し、懲役十四年を言い渡しました。
この
事件は、精神障害者や知的障害者の更生、
社会復帰をどう図っていけばよいのかについて、大きな問題提起をするものです。
ここで留意しなければいけないのは、精神障害や知的障害自体が
犯罪を引き起こすのではなく、障害ゆえに周囲との関係がうまくいかず、いじめに遭ったり、引きこもりになったり、
社会的に孤立する、いわば二次的障害とも言える状態が
犯罪を引き起こす場合があるということです。
さて、
平成二十三年、障害者基本法に、国に対して、障害者が司法手続において権利を円滑に行使できるようにするために必要な施策を講じることを義務づける、二十九条が追加されました。
ここで裁判所にお伺いします。
刑事公判手続において、精神障害者、知的障害者の権利
保護に関し、どのような対策を講じているのでしょうか。また、精神障害、知的障害の影響を量刑上どのように考えるかについての研究は進んでいるのでしょうか。教えてください。
〔若宮
委員長代理退席、
委員長着席〕