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橘法制局参事 幹事会での御
指示に基づきまして、
先生方の御
議論の参考に供するため、
国会と司法をめぐる諸問題のうち、特に弾劾裁判所等に関する
事項につきまして、お
手元配付の参考
資料、
衆憲資八十八号を御参照いただきながら、ごく簡単に御
報告をさせていただきます。
まず、弾劾裁判所につきましては、
憲法六十四条におきまして、「
国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の
議員で組織する弾劾裁判所を設ける。 弾劾に関する
事項は、
法律でこれを定める。」と
規定されております。弾劾裁判所は、この
規定によって設けられている独立した特別の
憲法上の機関でございます。
次に、このような機関を設ける
趣旨につきましては、
衆憲資八十八号の一ページ目に掲げておりますように、次のように
説明されております。
すなわち、裁判官は
憲法や
法律に基づいて公正な裁判を行い、
国民の権利を守るという重い責任を負っており、他の
国家機関や政治的、社会的勢力からの圧力や影響を受けずにその職務を遂行できるようにするため、独立した職権行使や、心身の故障による職務
執行不能の場合以外の罷免の禁止、在任中の報酬の減額禁止など、その身分が手厚く保障されているところである。
しかし、
他方、司法といえども主権の存する
国民の信託により裁判所に属せしめられたものであり、裁判官の地位の
根拠も究極的には
国民の意思に求められるものである以上、裁判官であっても
国民の信頼を裏切るような行為を犯した場合にはやめさせることができなくてはならないというわけで、この裁判官弾劾の
制度は、裁判官の身分保障の必要性と
一定の場合の罷免の必要性との調和のために設けられた
制度だと言うことができるかと存じます。
憲法では、このような弾劾裁判所について、「両議院の
議員で組織する」と述べるほかは、どのような場合に裁判官を罷免できるかという弾劾あるいは罷免の事由も含めて、全て
法律に委ねているところでございます。しかし、だからといって、
法律でいかなる事由も定めてよいとは解されておりません。
そもそも、弾劾とは、
一般に、
国民の意思を
根拠とする訴追に基づいて、公
権力により公務員を罷免する
制度でございまして、
憲法六十四条が当然に予定する裁判官の弾劾の事由も、根本的には、裁判官が
国民の信託に反すると見るべき場合であって、身分保障による特別の
保護を与えるに値しない場合に限定されると解されておりますから、その罷免事由を過度に広範かつ漠然とした基準で定めることはできないものと解されているところです。
このような
考え方に基づきまして、これを
具体化しているのが、
衆憲資八十八号の四ページ
冒頭に掲げました
現行の裁判官弾劾法の
二つの罷免事由でございます。
一つは、「職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠つたとき。」であり、もう
一つは、「その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき。」とされているところでございます。
次に、多くの
先生方、特に訴追
委員や弾劾裁判所の裁判員を務めておられる
先生方がこの場にも多くおられますが、そのような
先生方にとりましては文字どおりの
意味で釈迦に説法であるとは存じますけれども、御
指示でございますので、お許しいただきまして、この裁判官弾劾法に定める弾劾裁判の組織と
手続について御
報告を申し上げたいと存じます。
まず、裁判官を弾劾するためには、
二つの機関がこれに
関与することとされております。
衆憲資八十八号の三ページをごらんください。
一つは、
憲法六十四条が「罷免の訴追を受けた裁判官」と述べているところから、裁判官弾劾法では、裁判官を訴追する機関として裁判官訴追
委員会を設け、衆参それぞれ十人の訴追
委員と五人の予備員で構成するものとされております。
もう
一つは、この訴追された裁判官について弾劾の裁判を行う
裁判官弾劾裁判所でございまして、衆参それぞれ七人の裁判員と四人の予備員とで構成されるものとされております。
次に、その
手続ですが、
衆憲資八十八号の四ページから六ページにありますとおり、まず、裁判官訴追
委員会の訴追
手続がございます。訴追
委員会において
調査を開始する契機となるのは、
一つ、
国民からの訴追の請求、
二つ、最高裁判所からの訴追の請求のほか、
三つ目として、新聞報道等によって、みずから職権によって
調査を開始することもできるとされております。
訴追請求の数自体はかなりの数に上っており、その九五%近くが誤判不当裁判等の職務上の義務違反等を理由とするものであるようでございます。そして、これらの請求に基づいて審査をして、罷免の訴追の決定をするには、衆参それぞれに十人中七人以上の訴追
委員の出席のもとに、出席をした訴追
委員の三分の二以上の多数によらなければならないとされています。
次に、訴追
委員会による訴追状の提出を受けて、弾劾裁判所は罷免訴追事件として
手続を開始することになるわけですが、弾劾裁判所での公判
手続は、刑事裁判に類似した
手続で進められてまいります。
その
手続は、衆参それぞれに七人中五人以上の裁判員の出席がなければ開廷できないものとされており、また、最終的に罷免の判決を宣告するには、その審理に
関与した裁判員の三分の二以上の多数によらなければならないとされております。
罷免の判決が宣告されたときには、その被訴追者は、裁判官としての身分を当然に失うほか、検察官や弁護士となる法曹資格等も失うことになりますし、また、退職金等も支給されません。
ただし、先ほども言及いたしましたように、
一般の公務員とは異なり、その在任中、報酬の減額が禁止されておりますから、訴追され、その職務の
執行が判決までの間停止された裁判官であっても、罷免の判決が出るまでは、その報酬は全額が支給されることになっております。
なお、一旦罷免の判決を受けた元裁判官について、五年を経過した場合において相当の事由があるときなどの場合には、その失われた法曹資格等を回復させる
手続も定められております。
最後に、過去の事例等についてでありますけれども、まず、先ほども申し上げました訴追請求につきましては、
衆憲資八十八号の十五ページに掲載しておりますように、
一般国民の方々からはかなりの請求がなされていることがわかります。そして、その九五%が誤判不当判決等の職務上の義務違反等を理由とするものであることも、この
資料からおわかりになると存じます。
これに対して、罷免の判決が下されたのは、同じ
資料の九ページ以下に掲載しておりますとおり、
制度発足以来七件でございます。職務上の義務違反等を理由の
一つとして掲げている二件を含めて、その全ての事案について、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったことを理由とするものでございます。直近の罷免事例である本年四月に罷免が宣告された事例も、女性の下着盗撮等を理由とするものであったようでございます。
以上、
国会と司法をめぐる諸問題のうち、特に弾劾裁判所等に関する御
報告を終わります。