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参考人(
川本哲郎君)
同志社大学法学部の
川本でございます。
まず
最初に、このような機会を与えていただいたことに御礼を申し上げます。
私、同志社大学の法学部で刑事法を学んだ人間です。
最初、心神喪失とか
責任能力とか、そういうところに関心を持っておりました。そこから精神医療の勉強をしていたところ、当然、精神医療の方では強制入院というのがございますので、この診断、判断に誤りがあれば当然人権侵害を生むということで、今現在はもう精神医療
審査会というのが設けられています。私はその
委員をもう十年以上務めております。そうこうしているうちに、今度は
感染症、実はその強制入院が認められるのは精神医療と
感染症だけでございます。つまり、他人に対する危害を加えるということで、本人の意思、同意がなくても強制的に入院させるという
制度を取っているわけです。
そこで、
感染症についてもやっぱり国は配慮しようということで、
感染症法を改正されて、そこで
感染症診査協議会というのができまして、その
委員になりまして、そうこうすると、今度は京都府と京都市が
新型インフルエンザの
対策の
専門家会議をつくりたいと。それで、私に依頼がありまして、それで国の行動
計画を検討するということになって、それを見ておりましたら、どうも人権の保障ということについてはまだまだ不十分だと思って見ておりましたら、実はこの
専門家というのは、今、私が自己紹介をこうしているのは、
専門家というのがほとんどおられないんです。つまり、
新型インフルエンザと法というようなテーマを
研究している法律学者は、私を除いておられないというのが
日本の現状だろうと思います。これは
一つまた問題ですけれども、またその点については後で触れさせていただきます。
それで、どなたかが私、書かれると思ったんですけれども、どなたも書かれないもので、仕方がないので自分で書いたと、こういう次第でして、レジュメの一番下に私がこれまでに書いた論文を出しております。一番
最初は、イギリスの資料を見ましたら、イギリスではかなり
政府がその当時から取組を進めておりまして、人権に関する取組ですね、取組を進めておりましたので、それを
参考にして論文を書きました。さらに、先ほど出ておりました大学の休校の問題というのも、自分が大学の教員なものですので、それについても調べました。そのときに
新型インフルエンザがはやりました。したがって、もう生の素材が豊富にあるという
状況でしたので、更に考察を進めるということで現在に至っております。
それで、もう少し申し上げると、京都産業大学に私、この三月まで奉職していたんですけれども、そこで
鳥インフルエンザ研究センターというのをつくりました。
鳥インフルエンザの
専門家がおられたもので、理系と文系の融合
研究をしたいというお誘いを受けて、私がそれに入ってこのような
研究をしたということでございます。
それで、その
研究で私、国、厚生労働省、文部科学省、法務省、東京都庁、沖縄県庁、京都府、京都市というような地方自治体、さらには、一番最後の方に出てきます論文で、精神科病院、それから刑務所、そういうようなところを合計十二か所、もちろん
国立感染症センターも伺いました。そういうところで現場の声を聞かせていただきました。そうしますと、やはり、国の基本方針がどれだけ浸透しているかということについては、この間の
新型インフルエンザのときの
経験を振り返りますと、まだまだ改善すべき点が多々あるのではないかということに気付いた次第でございます。
それで、人権の問題ですが、ほとんど議論はされておりません。当然、今までお話があったように、
インフルエンザがはやれば、それをいかにして抑え込むのかが優先課題になるのは当然のことですので、
病気の
対策が優先されるのは当たり前だと思いますが、それにしても人権については余りにも軽視されているのではないか。それで、今度の特措法、さらには厚労省の行動
計画を見せていただいても、ほとんど進展はございません。
最初から人権という点では変わりはない、むしろ後退しているかも分からないというふうに私は感じております。
人権の問題というのは、差別とかそういうものが重要課題であることは、これは全
国民が知っていることだと思います。実は、人権感覚が試されるのは、こういうような非常にマイナーな問題ではないか。イギリスなんかはやっぱりその点では非常に伝統がある国だなというふうに私は思っております。したがって、まだ大きな課題があるということです。
それで、ちょっと時間の
関係で、まず
法案について法律家としての
意見を述べさせていただきます。
法案を作られる、私は前向きに
対策を取られるということにはもちろん大
賛成です。ただし、先ほど来申し上げているように、それに対する手当てというか、人権の面の手当てなんかが必要であるというふうに思っております。
まず
一つ、行動
制限が有効だというのを承認しましても、その行動基準の明確化ですね、例えば四十五条の三項であるとか四十九条の二項であるとか、特に必要があると認めるときにはという文言を置かれています。財産の問題にしても、まず
最初は
要請から入ります。
要請の次に強制というふうに行くと、その条件が、特に必要があると認めるときにはと書いてあるんですね。これに対して反対される方はおられないわけですけれども、特に必要があるというのはどういう場合なんだろうか。それをその下位の法令で決めていただかないと、法律ができたとしても適正な運用はできないだろうと思います。それがまず第一点です。
あと、国と地方自治体、医療がこの法律を基にいかに連携できるのか。先ほど申し上げたとおり、現場、最前線の医療、
行政を担っておられる方には非常に大きな戸惑いがあるというふうに感じておりますので、そこの手当てが必要である。
そして、六十二条、補償をされる。これも大
賛成です、もちろん反対するものではございません。ただ、補償というのは、もう原発の補償で広く周知されているところだと思いますが、その範囲をどうするのかというのが実は問題でありまして、補償をするかしないかという問題ではなくて、どこまで補償するかということをどれだけ明確化できるかというのが実は一番大事な問題だろうというふうに思います。
それともう
一つ、これは法律家の
立場から申し上げて、この法律には、行動
制限が
規定されているとか、あるいはそういう財産の徴収とか、そういうものがあるにもかかわらず、不服申立ての
規定が全く置かれておりません。ほかのところでということなのでしょうけれども、ちょっとバランスを失しているのかなというふうに思います。つまり、人権侵害が起きたときに、先ほど申し上げたとおり、精神医療については精神医療
審査会、
感染症については
感染症診査協議会というのが置かれているわけですね。それがこの法律には全くないという、ちょっと奇妙な感じがしたという次第です。
時間がだんだんなくなってまいりましたので先を急ぎますが、あと今後の課題を、私のこの数年の
研究で気付いた課題を列挙いたしますと、第一に、やはり省庁間の連携、これはもう完全にその縦割り
行政の弊害が出ております。つまり、法務省管轄の刑務所の中で
新型インフルエンザが発生したときに、厚生労働省がどこまで指導をして
責任を持ってくれるのかということをお考えいただけばはっきりすると思います。それはもう全く法務省の
責任で行うということになっております。そして、精神科病院と刑務所、ここなんかが本当に見捨てられるところなので、こういうところにまで目配りできるかどうかというのが私は本当の人権感覚だろうというふうに思っています。
そして、
研究者の養成です。これは法律学の任務でもあるとは思いますが、先ほど申し上げたとおり、こういう学問を担う人材を養成しないことには、これ、私だけが申し上げていれば、批判がないわけですね。ですから、それは非常に重要なことだろうということを国には
お願いしたい。
そして、人権の救済については、もうちょっと
感染症診査協議会を活用していただいてはどうかというふうに思っております。ちょっともう時間の
関係で詳しく申し上げませんが、精神医療
審査会と
感染症診査協議会の開催の仕方は異なっております。その
理由は定かではございません。
次に移りますが、現場のお話を聞くと、この間の
新型インフルエンザの
対策でフロントのところで一番役に立ったと私が感じているのは、
専門家同士のリンクを張られたということだろうと思います。
情報交換をされたわけです。つまり、地方自治体の保健衛生課長とか、そういう方たちがリンクを張って
情報交換をされたんですね。これが、やっぱりインターネットの時代ですから、非常に私は有効だったというふうに思っておりますので、今後やはりそれを更に向上させるような努力を
お願いしたいと。
そしてさらに、ここも、次もほとんど触れられるところがないわけですが、コミュニティーの重要性ということです。これは、イギリスはコミュニティーが崩壊しておりますので、インフル友達をつくろうと。自分が倒れて誰も助けてくれないときに、インフル友達、
インフルエンザの友達をつくりましょうというのを、これ、ちゃんとホームページで呼びかけております。
日本ではそういうことはございません。それはコミュニティーがしっかりしているからだろうと思います。ただ、残念ながら、私も京都市でそれにかかわっておりますが、コミュニティーの安全、安心町づくりというのが中心課題でありまして、そこに
インフルエンザが登場するということはございません。ここのところももうちょっと考えていただくといいかなと思っております。
そしてさらに、広報ですね。
専門家、特にお医者さんのおっしゃることがどれだけ伝わるのかというのが
行政、国の重要な任務であろうと。私の見たところ、
インフルエンザでいろんな説明がありますけれども、
国民のどれだけの方がそれを理解されているのかというのは非常に心もとないところがありますので、是非しっかり広報をやっていただきたいということです。
ということで、まとめとしましては、もう少しきめ細かな
対応を
お願いしたいと。だから、基本方針に対して私は異を唱えるものではございません。こういう法律を作って更に検討を重ねていっていただくというのは非常に結構なことだと思っておりますが、それをどうやって詰めていくのか、実際にどうやって運用していくのかということを更に考えていっていただきたいというのが私の感想でございます。
以上です。