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参考人(
飯田泰之君) よろしく
お願いいたします。
駒澤大学の
飯田でございます。
私、
駒澤大学の
経済学部で教えるのと同時に、財務省の
財務総合政策研究所で
客員上席研究員をしております。元々の専門は
マクロ計量モデルでして、その意味では、
高齢化社会の問題というのは比較的統計的にとらえているのみで、
中川さんのように現場の知識というのは乏しいんですけれども、その統計的な側面からの
お話というのを中心にさせていただければと思うんですが、まずは、今日は
参考人として招致していただいておきながら、僣越ですが、実は今日は陳情をしに参りました。(
資料映写)
高齢者雇用安定法適用の
除外縮小によって、現在、
希望者全員を六十五歳まで
雇用を確保していこうという
お話が進んでいる、又は
検討をされているかと思います。しかし、これを断固阻止する必要があるというのが今日の
お話の枕でありまして、なぜかといいますと、これが、おまけが付いているんですが、現在の
経済状況ではということになります。現在の
経済状況で、こういった形で、ある
程度法規の形で
希望者全員の
雇用というのを、
高齢者雇用というのを促進していくと何が起きるのかという
お話につきまして、少し、ここ数年来の
論壇の中でのはやりであります
経済論壇、又はそれ以外の
一般の評論の世界で非常に特徴的になっている
定常型社会論の
お話をさせていただければと思います。
定常型社会論といいますと、例えば
内田樹さん、また平川克美さんなどの定常
社会への提言というのが有名なんですけれども、実際国際的にも、また
国内は特に、リーマン・ショック以降、
経済成長だけでは様々な
人間の幸せというのを達成することができないのではないか、したがって、
経済発展だけではなく、より多様な形での行政であったり生活であったり労働の
在り方が必要なんではないかといった
観点から、
経済成長なんてもう要らないという
お話、しばしば耳にされることがあるかと思います。
また、これ、出てきた背景としましては、
日本において、失われた十年と言うよりも実際は二十年と言った方が正しいかと思うんですけれども、この失われた二十年というのは、実は仕方がなかったんだと思うための正当化の論理としての成長不可能論というのが登場している。
つまりは、
日本は、例えば少子高齢化であり、又は幸せ、国民幸福度の
観点からいって、成長しなくてむしろよかったし、成長なんか到底できなかったんだという考え方、実際、これは長期の
経済停滞が生じるとどの国でも大なり小なり登場する考え方です。これをアダム・ポーゼンはポリシーディフィータリズム、政策における敗北主義というふうに呼んでおりまして、現在、例えば
アメリカの文脈では、
日本に見られたような政策敗北主義が
経済政策の手足を縛っているんだという形で提言をポーゼン自身が行っていたりする。
しかし、この定常型
社会、何か美しいイメージで描かれることが多いんですが、パイが一定のときに何が起きるのかというのは、
皆さん容易に御想像いただけるかと思います。
例えば、一定の議員定数の下で自民党の議席数が伸びるということは、これは他党から議席を奪うしかないわけです。ですから、この一定のパイを分配するときに、伸びるためには誰かから奪うしかないということになる。ちなみに、こういった形で、
経済学的にはゼロサムゲームと呼ばれますが、一定のものを取り合うという競争、これが
日本人における競争感を強く支配している。これ、競争の江戸化といいまして、愛知県立大の與那覇潤という若手の歴史学者が非常に重視する概念なんですけれども、一定の中で奪い合う、一定のパイを分配する場合には、奪い合うという競争しか起きない。
さらに、パイが一定で更に競争を回避するならば、例えば一定の議席数の配分の下で選挙を二度と行わないならば、これは議席の比率変わりませんので、これは階層の固定が起きるわけです。こういった階層が固定化した
社会というのを、レビー・ストロース、文化人類学者のレビー・ストロースは冷たい
社会というふうに呼んでいます。「悲しき熱帯」という本の中で冷たい
社会と呼んでいます。
つまりは、定常型
社会、
経済成長のない
社会において何らかの政策を考えるときには、奪い合いか階層の固定、この二つの方向性しか算術的にあり得ないということになるわけです。その中で、現在、先ほど
高齢者の
雇用継続の促進というのが大きな問題だと申し上げましたのは、一定の労働需要の下で
高齢者の
雇用を促進するということになったならば、これはどこか、より具体的には若年層の
雇用を奪うしかなくなってしまうわけです。
実は、先ほど
中川さんからも
お話ありましたように、多くの場合、やはり
高齢者が重要な役割を果たし、かつ
企業によって積極的に
雇用させていくためには、
企業全体の
事業の成長、
事業の
拡大というのが不可欠になっています。実際、ダイキンさんですと、
売上高で九〇年代以降、リーマン・ショックの年を除いて伸び続けている、そういった中での
雇用促進は非常に大きな意味、雇う側、雇われる側に大きな意味を持つんですけれども、現状の平均的な
日本企業の場合は、
高齢者を
雇用するイコール若年層を
雇用しない若しくは首にするということであります。
実際、これを見てみますと非常に特徴的なのは、二〇〇〇年代、労働年齢人口、これは十五歳から六十四歳までを指します、この労働年齢人口は六%減少しました。十年間で六%の減少です。しかし、同時期に完全失業者数は十六万人増加しています。実際、これはピーク時、おととしですね、おととしのピーク時は三十万人増加しています。
そうしますと、現状の
経済状態では、深刻なのは人口減少、つまり労働供給が減少している、だから何らかの形で
高齢者又は女性というのを
活用していかなければならないというよりも、労働需要が停滞している、つまりは雇いたいという
企業の数が減っているというところが大きな問題になっている。
実際、この世代間格差というのは
年金の問題で最近クローズアップされているんですが、実は元々のこの問題の発端は
雇用における格差です。若年層の
雇用のクラウドアウト、押し出されてしまった場合、若年層にとって非常に大きいのが
雇用訓練
機会を逸失するということであります。二十代又は三十代の早い時期において訓練又は職能というのを身に付けていないと、それ以降、給与が上昇するその要因がまるでないことになってしまう。つまり、
技能がない、そして、私三十六ですけれども、徐々にやっぱり体力が落ちていきますので、体力が落ちて
能力がない人ということになってしまう。そうしますと、より深刻な問題としまして、将来時点での
社会保障費が増大する懸念がある。つまり、生活保護へのなだれ込みというのが起きる可能性がある。さらには、そういった三十代の生活困窮者というのが増えれば
社会というのは不安定化していくだろうと。
実際、この若年層へのしわ寄せというのについて特徴的なのが次の図です。
これ「若年無業者の推移」と書いたんですが、失礼しました、これ若年失業率の推移です。大変申し訳ありません。こちら若年層、年代別の完全失業率の推移です。
実は、若年無業者という統計はなかなか難しくて、統計の取り方によって数値のぶれが大きいので
余り使わないんですけれども、この若年の完全失業率の推移について、十五から二十四又は二十五から三十四の層を見ていただければと思います。
十五歳から二十四歳の完全失業率が全年代平均に比べてかなり高くなる、これは世界中どこでも必ず見られる傾向ですし、戦後一貫している傾向です。これ自体は大した問題では実はありません。御注目いただきたいのは、二〇〇七年以降の黄色、十五から二十四とトータル、赤の動きの違いです。
かつて、九〇年代まではトータルの失業率の動きと若年失業率の動きというのはそれほど違いませんでした。並行して動いている。どの年齢層も失業が多くなる時期がある。景気が悪いときですね。その一方で、景気がいいときには両方とも低くなる、だったんですけれども、二〇〇〇年代以降、十五歳から二十四歳の完全失業率の分散が大きくなっています。これはどういうことかといいますと、景気の動向によって他年代に比べ若年層の失業率は大幅に変化する。何を表しているかといいますと、これは
雇用のバッファー、景気に対する
企業側の対策が主に若年層の調整だけで行われている。だけと言うと語弊がありますが、他年代に比べ若年層の
雇用を変化させる形で調整が行われていることを示しています。
一方、その後、供給側についてなんですけれども、労働人口の減少が大きな問題であるというふうに言われているんですが、こちら多くの方、これ聞きますと、労働年齢人口、労働人口の減少はどのぐらいのピッチで進むかと聞きますと、中には二、三%で年率減ると思われている方がいるようなんですけれども、それは少々イメージが過ぎまして、年平均に直したときの労働年齢人口の減少は、二〇〇〇年代は先ほど申し上げましたように〇・六二%の年率、二〇一〇年代はそれより少し上がりまして約一%、二〇二〇年代は少し一段落しまして〇・七%云々といいますと、最も深刻な労働年齢の人口は二〇三〇年代にやってきます。ただし、二〇三〇年代であっても年率に直しますとマイナス一・五%です。
人口の推移、特に
高齢者人口の推移についてはそれほど推計というのはぶれないと思います。これ将来人口推計の中位推計なんですけれども、出生率に比べますとこの年齢のデータというのはそれほどぶれません。
こういった労働人口の減少に対しまして、労働生産性、一人当たりの生産性の平均的な伸びというのは、これ先進各国ほぼ共通で二%となっています。そうしますと、二〇三〇年においてすら頭数の減少は一・五%、一人当たりの生産性の伸びは二%ですので、効率単位で見た労働人数、労働投入量というのは
日本では減少が起きないということが分かります。
さらには、女性の労働力化率、現在、三十代から五十代女性平均で六九%となっています。そうしますと、これが北欧並みの九割まで上がるならば十分人口減少はカバーできるのではないかと。したがって、現状、特に目先についてですけれども、労働市場に関して注目すべきは、むしろ労働需要が足りないと考えるわけです。
そこで、
高齢者雇用対策というもののためには何が必要かといいますと、これ少しレジュメの方では飛ばしてしまっていますが、
高齢者の
雇用対策というのは、一言で言うならば、
企業が
高齢者を自発的に雇いたいという
経済環境を導くこと。そのために
高齢者が果たす役割というのは、又は
高齢者に期待したい役割というのは、むしろ
高齢者の労働供給の増加よりも、現時点では
高齢者の消費の活性化ではないかというふうに考えられます。
高齢者の消費の活性化といいますと、これは
経済産業省又は厚生労働省等の研究会、幾つも話を出していまして、
高齢者に優しい自動車の普及促進、医療生活産業の創出、ロボット、福祉機械の実用化というふうに、いろいろな
意見というのがありますが、これは私はいずれも見当外れだと思っております。
なぜかと申しますと、これらいずれも行政のやる
仕事ではないわけです。例えば
高齢者に優しい自動車が実際に販売、売れるのであれば、民間が勝手にやってくれます。医療生活産業の創出、例えば
高齢者向けの医療生活サービスというのを充実させるためには、医療生活産業において参入規制が撤廃されさえすれば、もうかるなら民間
企業はやりますし、もうからないならば国が何を言ってもやらないわけです。まあ補助金を付ければ話は別なんですけれども。
したがって、是非、いまだに各省庁又は議員の先生の方も、
経済政策というと政府がこういった産業をつくってそれを盛り上げていくんだという、これ旧来型の産業政策というふうに呼ばれる視点というのを重要視されますが、この視点ではないんだと、むしろ
高齢者がこれまた自発的、率先的にお金を使うような環境というのをつくる必要があるんではないかと。
ひとつ、
高齢者の
方々が安心してお金を使える、支出できる環境というのをつくるために、ここでは三つの柱というのを
お話ししたいと思います。
一つ目の柱が
社会保障への不安の解消です。
社会保障、現在、
高齢者の方に伺いましても、今後ずるずると給付が削減されていくんではないか。実際、厚生労働省の方は、又は政府の方はもちろん安心ですというふうにメッセージを発するわけなんですけれども、それが多くの
方々にとって必ず信用できる、確信できるというのには至っていないように感じます。こういった給付削減の不確実性というのを減ずるためには、一つは、大きな
年金、
社会保障の
改革として人口構成に依存しない
年金システムの構築というのが必要ではないかと、これが一つ目であります。
次に、もう一つは、使い残しが損になるような税制というふうに書いたんですけれども、現在、毎年
日本において八十兆円の相続財産が発生しています。それに対して徴税額は一・四兆円を切る水準です。実効税率に直しますと約二パー弱しか徴税できていないと。事実上、
日本においては、これは控除枠の上手な節税法次第になりますけれども、特に脱税に当たるような租税回避を行わなくても、上手に節税すれば事実上市場価格二億ぐらいまでは無税で相続が可能です。市場評価額でです。
このような
状態が続きますと、子孫に対して財産を残すということが非常に楽であり有利であり、かつ税金をそれほど取られないということになる。このようなシステムですと、使い残しというふうに書きましたけれども、
高齢者がただ消費をするのではなくて、貯金又は資産として自分の財産を積み続け、消費に回らない、
経済活性化に回らないという事態が生じ得る。そのために、この使い残しを避ける一つの方法というのが、広く薄くの相続税というのを課することかと思います。
例えば世代間相続、つまり配偶者を除く相続に関して一律二〇%の課税、これは決して国際的には不自然な税率ではありません。一律の二〇%課税によって、ごく目の子の試算ですが十兆円の財源が確保できます。さらに、財源確保の上に使い残し、つまり相続が不利になるわけですから、消費の前倒しを後押しすることになる。またさらに、より短期的な視野での消費の先送りに関しては、インフレ期待の醸成が極めて必要である。これは別に
高齢者に限ったことではないんですけれども、資産の内訳を見てみますと、
高齢者ほどに預貯金又は
個人向け国債といった名目固定資産による資産形成が目立ちます。
この名目固定資産といいますのは、百万円の国債、そしてそれが一年後に百五万円、実際は利付債ではなくて割引債なんですけれども、話を単純化するために、一年後又は数年後に返ってくる金額が固定しているタイプの資産というのを多く持っている。こういった場合、デフレで物価が下がると、表面の金利以上の利回りを得ることになります。そうしますと、やはり消費は後に延ばせば後に延ばすほど得であるということになる。
こういった不活性資産からリスク資産又は消費へと資産シフトを生じさせるためには、どうしてもある
程度の定率のインフレーションというのが要されるであろう。
実際、労働年齢人口の本格的減少が始まる二〇二〇年代、又は最も激しい二〇三〇年代、この段階で、一つは
希望者全員が六十五歳まで働ける、そして六十五歳どころか、六十五歳までではなくもっと現役を続けられる
社会というのをつくっていくためには、実際には十分な準備が必要だと。つまりは、景気が正常化し、さらに
経済成長の経路に移行するような
経済環境というのを整えてあげなければいけない。更に言えば、そういった
拡大する
経済環境においては、
企業側も是非
高齢者を雇いたいと考える。
企業側が雇いたいと考えてしまえば、これは政策的に何かする必要はなくて、
企業が自発的に
雇用の継続を選択するようになるわけです。
そのために、比較的、これは時間視野別なんですけれども、一つは相続税制の見直し、つまり控除枠の縮小というのを一層進める。これによって、現在どちらかというと様々な
社会保障財源として消費税というのを中心に
検討が進められていますが、現役世代の可処分所得を低下させる、又は生活に困っている、困窮
高齢者の生活を脅かす消費税よりも、むしろ消費の前倒しを通じて消費促進効果のある相続税に財源を求めることで
経済を活性化していってはどうか。
また、これは昨日、この
資料を作ったのは日曜日でして昨日の日銀の宣言を全く予想をしていなかったんですけれども、より積極的な継続的金融緩和というのが必要である。実際、ゼロ金利といいましても、まだまだ金利には低下余地があります。長期金利には低下余地があります。
さらに、ステップの三として、
社会保障改革によって
年金への不安、つまり将来不安を減じることで現時点での消費を刺激するという方法が必要になるんではないか。
というわけで、私の
お話をまとめさせていただきますと、
経済環境の正常化により、さらには
経済成長により
企業が自発的に
高齢者を是非
雇用したいという環境をつくる、これが実際には最大の
高齢者雇用促進策なんではないかというところであります。
御清聴ありがとうございました。