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参考人(
仲上健一君) 立命館大学の
仲上と申します。今日はどうもありがとうございます。
私のテーマは、メコン川の
流域開発問題ということに焦点を当てて御報告させてもらいたいと思います。(
資料映写)
報告内容はこの四点でございます。
私の自己紹介につきましては、後で見ていただければというふうに思います。
メコン川というのを理解するためには、このように整理いたしました。
一つは、非常に長い川で四千九百キロメーター、
流域面積は七十九万五千五百平方キロメーター、そして、チベット高原から雲南省、そしてミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、
ベトナムを縦断して南シナ海に至るという非常に特色を持った
河川です。もう
一つの特色は、雨季と乾季の流量が非常に大きく異なるというのが特徴で、雨季の総流量は四千七百五十億トン、そして乾季の総流量は七百八十八億トンというふうになっております。国別にもいろいろな
状況があり、そしてもう
一つの特色は、メコン川
流域には大小含めておよそ百二十五の支流があり、また非常に多くの小
流域を形成しているというのがメコン川の特色です。
この特色につきましては、それぞれの
データを各国比較できるような形で整理をいたしております。
この図は、
経済産業省の方で日メコン経済
産業協力イニシアティブというような形で、現在、
アジアのみならず、全
世界がこの
メコン流域にいろいろな
インフラストラクチャーを造るということで、特に国道、有名なのは東西経済回廊、南部経済回廊、南北経済回廊という道路、そして橋、港が今一斉に造られている
状況でございます。
こういう中で、メコン川を理解するためには、その歴史を知らなければいけないと。今日はそのことをるる申し上げる時間はございませんが、まず第一期として戦略的要衝としてのメコンということで、このメコンの有史以来の歴史があるんだということが第一期でございます。
第二期は、開発の
中心としてのメコンということで、特に第二次
世界大戦後、メコン川に関心を示したのは
国連の
アジア極東経済
委員会、エカフェとアメリカでございました。そこでいろいろな
調査が行われ、下の方に書いてございます、一九五七年にホイラー報告書、これが出まして、これがこのメコン川の開発に関する基本的な報告書になっております。さらに、この報告書を受けまして、カンボジア、ラオス、タイ、当時の南
ベトナムの
流域の四か国が一九五七年にメコン川下
流域の
調査調整
委員会、通称メコン
委員会を創設をするという中で、みんなの合意の下に開発を考えようというメコン・スピリットというのがこのときに出ました。
それで、第三期は、その
考え方に基づいて開発を進めようというのがありましたが、域内における混乱により停滞が行われました。特に
ベトナム戦争の
影響は非常に大きかったというのが第三期です。それの中でも更に
調査が行われて、特に
日本との関係では、
日本企業が担当したラオスのナム・グム・ダム、それから南
ベトナムのセー・サン
上流の計画
調査ということで、一九六〇年代にも深く
日本政府はかかわっております。
次、そのような中で、第四期としまして経済発展が行われます。これはメコン
委員会の中で、一九九〇年代になって冷戦が終結をいたしまして、そして一九九五年四月にメコン川
流域の持続可能な開発のための協力協定が調印をされまして、これを受けまして正式にメコン川
委員会が設置いたしました。
メコン川
委員会の特色をここで整理いたしておりますが、まず、基本的には持続可能な開発というテーマがこの基本になっております。さらには、二〇〇二年の会合で
中国がステートメントを出すなどで、次々にこのメコン
委員会に大きな
影響力を持ってきたというのが特色になっております。
その中で、
委員会の目的を、より焦点を当てて、
流域管理、そして一九九九年から二〇〇三年の戦略計画ということで、コアのプログラム、そしてサポートプログラム、そしてセクタープログラムというような
課題を整理をいたしました。二〇〇六年には戦略計画ということで、二〇〇六年から二〇一〇年ということで、十二項目という統合的なプログラムが今
メコン流域では展開をいたしております。
こういう中で、二〇〇九年十一月六、七におきまして
日本・メコン
地域諸国の首脳会議が行われて、非常に
日本の役割の重要性が再確認され、そしてその成果として東京宣言と行動計画が
発表されました。この特色は、一言で言いますと、緑あふれるメコンに向けた十年、グリーン・メコン・イニシアティブの開始ということでスタートしたわけです。この中身は、従来の開発に加えて、持続可能な開発、
流域環境保全、統合的水管理というような理念がこのメコン川の開発に入ってきたわけでございます。
その中で、メコンの問題を、水問題を特にどのように考えるかという背景といたしまして、次の
スライドにございます
アジアの水問題というのは、先ほどのお二人の
参考人からございましたように、非常に深刻であると同時に重要な問題であるということで、水問題を悪化させないように各国政府は
水資源の管理を始めなければいけないと。と同時に、水ストレスは既に深刻で、各国政府と
地域社会が真剣に対策に乗り出さない限り、更に厳しい
状況に追い込まれるというような認識が共通にございます。
このことを受けまして、
日本では、二〇〇七年十二月に第一回
アジア・太平洋水サミットというのが行われました。これは三つの
課題を整理して、水供給と衛生の
課題、そして水と災害、そして水と食料というような
課題を設定して、そして目標を数値的に明確にしたという重要な意味を持っております。
こういう中で、メコン
委員会が今どのように評価されているのかというのがこの点でございます。
一つは、九五年の協定の下で、
水利用プログラム、
流域開発計画というのが行われましたけれども、現在は、その実際の活動は、加盟国の開発テーマを列挙することが
中心で、そのため、加盟各国の開発プロジェクトに対する
支援の窓口と化して個別の国内プロジェクトの実施にかかわるだけだと。援助を提供する側はMRCに対する信認度を低下するとともに、MRCを経過しないで直接対象国を
支援するようになり、MRCの存在意義が今大きく損なわれている事態に現在なっているという評価になっております。
こういう中で、メコン川の
流域についての
現状ということで、現在は第三次五か年計画、〇九から二〇一三年に基づきまして、持続可能な開発を志向した統合的
水資源管理を実施をするということと同時に、持続可能な開発を理念に掲げて環境に対する負荷を最小限にすると主張して、本流における水力発電のダムの建設計画を遂行と。従来は、本流におきましてダムを造るというのは非常に難しい問題がありましたが、現在はもう実行され、更に展開をするというようなことになっております。
これに対しまして、援助国、下流国、環境NGOから強い反発を受けると。また、
上流国、
中国によるメコン川の本流でのダム開発が現在多く、十四近く進んでおります。これに対しまして、下流国、特にタイとの深刻な対立が起こっているということで、一言で言いますと、メコン川
委員会におきましても内憂外患というような形で、例えば、内憂に関しましては、域内で最も
影響力の強いタイと電力を輸出したいラオスの思惑が一致したり、経済発展のためのMRCもこれに
支援せざるを得ないということで、ある面ではメコン
委員会が建設側と反対をしている反対勢力との板挟みになっている
状況。また、外患といたしましては、実害が出ると対立が表面化するために、どのようにこの問題をアセスメントすればいいかと。三番目に、MRCに利害調整の機能がないということになれば、もうMRCの存在危機が、非常に危うくなってきているというようなことで、現在はこのメコン
委員会についての評価そのものが大きな
課題になっております。
それで、例えば、新たな
課題といたしまして気候変動の問題があります。これにつきましては、メコン川
流域のIPCCのみならず各国政府も研究をいたしております。気温は〇・七九度上がり、
流域の北部においてもっと上昇するというような形で、非常に、例えば
洪水の可能性も増大をすると、乾季における降水量が減少するというような形で、水災害及び干ばつへの適応策が喫緊の
課題であるという認識はメコン
委員会も持っております。
そういう中で、昨年度、このタイを始め、これはタイだけではなくて、ラオス、カンボジアでも非常に降水量が平年と比べて大きく、約一・四から一・七倍ほど変化がありました。この
傾向は更に高まっていく可能性はあるというふうに考えております。
そういう中で、タイの
被害、特に
洪水発生県五県、そして死者が七百五十二人、行方不明者が三人というような事態が起こりましたけれども、このことを、二〇一一年度の教訓をベースに二〇一二年度は更に対策が必要だ、事前の対策が必要だというふうに考えております。
そういう中で、メコン川
流域の水問題ということで、どのようにメコン
委員会は考えているかということで先ほどのことを整理いたしますと、メコン川主流におけるダム開発動向は、
上流地域における
中国サイドに四つのダム、さらに十二以上のダムが計画をされていると。下流部においては、主流部で十地点でダム開発が計画されているという、このダム開発動向が非常に活発に動いております。そして、
中国とMRC諸国間における関係ということで、下流部の諸国の主張では、環境、農業、漁業へのインパクト、これはあるというだけではなくて、例えば
ベトナムなどでは、特に最下流になります
ベトナムでは非常に大きな
影響があり、従来の主要
産業である農業、漁業が成り立っていかないというまでの強い主張がございます。また、
中国も、立場はもうメコン川の
利用に関しては同等の権利を有するんだというような形で、この
国際間の対立というのはますます緊迫をしていくんではないかというふうに考えております。
そういう面では、プロジェクトにおきましてもメコン水系の
水資源の管理やそれを取り巻く環境についての言及というのが、いろいろ重要であると言いながら見られていないという中でこの
被害というのが報告をされ、これをどう調整するかというのがメコン
委員会の
課題になっております。
そういう中で、三番目に、メコン川
流域の政策的
課題をどのようにとらえるかということで、
一つは、先ほどの東京の会議でございましたように、第一点の持続可能な経済発展と。
この
地域が
中国の発展及びインドの発展に連動して更に発展をする、特に
インフラ整備が進む中で確実に発展するだろうと、そういう中では、やはり経済交流が持続可能な発展を保障するためにも、メコン川
流域諸国のみならず近隣諸国とどのような経済依存関係を確立するかが重要であるというような形で、まさに単なるメコン川の
水資源問題ではなくて、
中国、そしてメコン
地域、インドの発展を踏まえた経済依存関係の確立というのが重要になっております。特に、
日本の関係では、メコン
地域とは非常に深い関係が歴史的にもあり、かつ友好な関係がありますので、そこにどのようなリーダーシップを取るかというのが重要になると思います。
二番目に、
流域環境保全の問題でございますが、
水資源開発事業におきましては、戦略的環境アセスメントの導入とともに、少数民族の
生活保障、
感染症などの人間の安全保障の視点が重要であると。特に、水危機と戦略的適応策についての方策の検討が求められるというような形で、気候変動とも関連して新たな
流域環境保全が必要だと。
三番目に、統合的水管理ということで、いろいろなセクターがございます。この複雑なセクターにおきまして、
国際機関、国家、そして地方政府、
企業、市民、NGOなどのステークホルダーの調整が必要になり、そこのことを踏まえて、統合的水管理の共通の認識が必要ではないかというふうに考えております。
最後に、政策提言というほどまでのことではございませんが、メコン川
流域をどのようなガバナンスで考えることが重要であるかというので、四点ほど整理しました。
一つは、メコン川
流域開発の持続的発展と環境保全ということで、
アジア、
世界の経済発展を保障するための
流域環境保全政策を構築するという形で、
流域の保全ということと経済発展をどう調和させるかというのが一点でございます。
二番目は、メコン川
委員会の基本的精神はメコン・スピリットということでございますが、もう既に
中国及びインドとの関係が非常に大きくなった中で、さらに、
日本との関係を踏まえて新たなメコン・スピリットの確立が要るのではないかというのがこのメコン川
流域のガバナンスの重要な視点ではないかというのが二点目です。
三点目は、メコン川
流域ガバナンスと
日本の
取組ということで、長い歴史、古くからいえば山田長政以来の長い歴史があります。そういう中で、技術、経済に裏打ちされた存在感をアピールするということが重要ではないかと。
四番目に、水への希望ということで、二十一世紀は水の時代、そして
アジアの時代という面で、水の安全保障という視点でこのメコン川
流域にそれを確立することが重要ではないかというふうに考えております。
そういう中で、例えばメコン川
流域への
日本のかかわり方ということで、非常に現在成功している例といたしましては、今、環境改善技術の輸出ということで北九州市によるカンボジアへの
水道技術協力、これはもう十年も前から行われております。
こういう面で、急速な経済発展に伴って環境悪化が
顕在化している中で、この
日本の技術は、非常に丁寧にかつ確実に、そして
継続的に行われるという高い評価が行われております。そういう中で、戦略性については
中国、インドとは大分異なっておりますが、こういう一個一個仕事をきちんと行っていくというのが非常に高い評価を行われていると。例えば、
日本の一村一品運動なども非常にカンボジア、ラオス、またタイでも高く評価されているというような技術がございます。
もう一点は、気候変動の適応策に関しましては、
日本がこれまで蓄積した治水技術、例えば治水ダム、スーパー堤防、地下の貯水池、そのようなものの活用、また雨季における多過ぎる水と乾季における少な過ぎる水への両面の対策、こういうふうなシステムを導入することによって、
日本のプレゼンスというだけではなくて、真にウオーターセキュリティーに対する
対応策ができるのではないかというふうに考えております。
以上でございます。
どうも御清聴ありがとうございました。