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参考人(
高田創君)
みずほ総合研究所の
高田でございます。どうかよろしくお願いいたします。
先ほどお二方の先生の方からいろいろ理論的なお話がございましたので、私の方は、持分といたしまして、できるだけ市場、足下も含めた市場の
状況、それから、
日本ということだけではなくよりグローバル、中でも昨今の欧州の債務危機と言われるような
状況とどのような今、
日本との関係にあるのかというところをちょっと中心にしてお話をさせていただこうかと思います。
私の方は、
レジュメがございますけれども若干分量もございますので、ややはしょらせていただきながらお話をさせていただこうかと思います。
まず最初に、一ページ目のところでございますけれども、最初にアメリカの十年金利、長期金利ということなんですけれども、足下も一%台であります。二%を若干割れたくらいというようなアメリカも低金利になっているというような
状況でございます。
それから、二ページ目のところでございますけれども、こちらが
日本とアメリカとヨーロッパの十年金利を並べたものでございますけれども、大体
日本が一%前後、それからアメリカそれからドイツ辺りが二パーをやや下回るぐらいというような
状況でございまして、極めて低下をした。先ほど、一ページ目のところもそうなんですけれども、実は今のアメリカの長期金利の水準は一九五〇年代以来でありまして、私、今五十三歳なんですが、私が生まれる以前の世界になっているというくらいの
状況であるということでございます。
じゃ、どうしてこのような
状況が生じているのかということを考える一つの仮説なんでありますけれども、三ページ目以降のところで、
日本が九〇年代以降のバブル崩壊、これがバランスシート調整とよく言われますけれども、アメリカもヨーロッパも同じとは申し上げませんけれども、やや類似した側面のあるバランスシート調整に二〇〇七年以降入っているのではないかというのが一つの問題意識ということでございます。その概念図がこの三ページ目のところ以降なんですけれども、その前提となるバランスシート調整というのは、ある面でいいますと、それまでの信用拡張の反動であるものとそのバブルの崩壊という部分がございます。
当然、その前提が信用拡大、四ページ目のところをちょっと御覧いただきますと、
日本は八〇年代に大変な信用拡張が起きます。これが失われた十年、実際には十年から十六、七年ぐらい掛かりまして調整をしたというのがこの絵の示すところなんですけれども、アメリカなりヨーロッパも九〇年代以降、また、場合によってはそれ以前から相当な水準まで積み上げて、二〇〇七年ぐらいからその症状が現れ出しているということではないかと思います。
ですから、非常に単純化した議論をさせていただくとしますと、この四ページ目のところでございますが、
日本が九〇年、アメリカが二〇〇七年、十七年間ぐらい平行移動したらどうなるかというようなことになるわけで、実は十七年間平行移動してかいた絵が五ページ目から十ページ目に至る六ページ分にわたる絵でございまして、
日本の九〇年、それからアメリカ、場合によってはヨーロッパの二〇〇七年を同じスタート時点にしてかいた絵ということで、最初の五ページ目が、これが不動産の絵でございまして、非常に四、五年間似た動きをしております。それから次の六ページ目、これが中央銀行が決める
政策金利でございますが、この動きも非常に似た動きをしております。それから、七ページ目のところが、これが長期金利でございますが、この動きも非常に似た動きをする四、五年間であるということでございます。それから、八ページ目のところの銀行貸出しの動向でございますが、これもアメリカなりヨーロッパのこの四年間の動きは非常に似た動きをしている。それから、九ページ目のところの株価のところはやや違った動きをしておりますけれども、十ページ目のところにあります
実質経済
成長率、財政赤字の
状況、これも非常に似た動きをしているということでございまして、全く同じと申し上げるつもりもございませんけれども、信用拡張とその反動という動きは、これを場合によっては昨今
日本化現象というような見方もございますけれども、私は、別に
日本化という固有の
状況というよりは、ある面で信用拡大をしたその後の反動というものがやや類似して共通に現れる現象というものが、少なく
ともこの四、五年間アメリカなりヨーロッパで見えているというふうに見るべきなんではないかと思っている次第であります。
そういう
状況の中で、ヨーロッパの場合はそれに加えてより複雑な様相を抱えている。それを十一ページ目以降でちょっと考えてみたいと思います。
ヨーロッパの場合の問題の背景は何があるかということを考えますと、この十一ページ目のところにありますのが各国の国債の利回りということになりますけれども、例えばドイツの金利でございますけれども、この二十年間、ユーロの統合は九九年以降なんですが、実は二十年間そんなに変わっておりません。大体四、五%ぐらいのところから変わっておりませんで、さすがに足下、二%ぐらいのところまで落ちておりますが、二十年でほとんど変わっておりません。何が変わったのかといいますと、この十一ページ目で見ますと、一番極端な例がギリシャなんですけれども、一番左側のところには二十数%であったのが二〇%も下がったということになります。しかも、ユーロで統合されてからの十年近くというのはドイツとほとんど同じ金利だったということでございます。これは、これだけ金利が安くなればこれは幾らでも借りれるぞというような
状況になった。極端な例がギリシャでございますが、それ以外にもポルトガルでありスペインでありといったところも一〇%近い低下になったわけでございます。これが内需の極端な拡大を生んでしまったということでございます。
また一方で、次の十二ページのところでございますが、為替、ユーロというのはこうした地域も全部同じ通貨にするわけであります。となりますと、自分の実力以上に実は為替が上がった国と下がった国ができてしまうということでございまして、ドイツにとっては極めてユーロの為替は安いということになるわけでございますが、ギリシャにとっては極めて高い為替になってしまうと。当然それは経常収支には非常に不利に出てくるということになるわけであります。
ですから、ヨーロッパの債務問題とよく一言で言われます。確かに、十三ページ目のところにございますように、これはヨーロッパ各国の財政収支、中でも財政赤字の
状況を示すものでございまして、ギリシャを筆頭に大変な財政赤字ということであるわけでありますけれども、しかしながら、実際の問題というのは、次の十四ページ目のところにございますように、実は経常収支のアンバランスという構造が、先ほど申しました金利が実体以上に非常に格下がってしまった国々、それから、為替が実体以上に高くなってしまった国々とそれ以外の国々と申しましょうか、要はこの十四ページのところでいえば、ドイツとそれ以外の赤字というような
状況で、極端な赤字と黒字という二極化が生じてしまったという構造がそもそも一つの通貨を行うには非常に無理が出てしまったということになるわけでございます。
こう考えますと、このユーロの問題は極めて難しい問題という感じもございますけれども、ある面で
日本と併せて考えてみることもできようかと思います。
日本も一つの共通通貨、円を使っておりますけれども、四十七都道府県の中で一つの通貨を使っております。そういう
状況の中で、各都道府県を考えてみれば、当然単純に自分のところの
税収だけで対応できるところと、当然のことながら、財政平衡制度と申しましょうか、地方交付税を使った対応の中で保たれているところと、二極化しているということもあるわけであります。
そういう
観点で考えますと、ヨーロッパの
状況というところは、ある面でいえば国債というよりは、
日本でいえば地方債と考えることもできるのではないかと。ただし、
日本でいえば地方交付税のような財政平衡化の制度がそもそも準備されていなかった地方債だと考えればいいわけであります。
例えば十五ページのところでございますけれども、
日本の例も考えるまでもなく、今ヨーロッパで議論されておりますのは、単に各国々と申しましょうか、
日本でいえば都道府県に当たるところがそれぞれが全部緊縮化するなり、若しくは税を上げて対応しようと、すべきであるというようなことが今回のギリシャの債務危機の中でも言われているわけでございますけれども、しかしながらなかなかそう簡単になるわけでもない。一方で、二番目の十五ページ右のところのように、ある面で平衡制度を利かせようとすれば、ドイツが全部のところにというような
状況になってしまう。これもなかなか難しいというようなところに今難しさがあるわけであります。
日本を考えてまいりましても、次の十六ページ目のところでございますが、こういう平衡制度がある
日本でも地方債の危機というものが過去十年間を振り返れば起こっておりました。そういう
状況の中で、
日本では共同発行債であり、また、場合によっては地方財政の再生制度を自らつくり、また、金融の制度であります
地方公共団体金融機構等の制度も用意しながら対応したわけでありますが、今の欧州にはこういう制度が全く完備されていないといったところに今のそもそもの問題が生じているというふうに考えることもできるのではないかと思います。
そうして考えますと、確かに十七ページ目のところにございますように、今回ギリシャが大変な危機に陥ったわけでございますが、ただ、ギリシャの国債の残高は、ここで考えますと、
日本円に直しましてせいぜい二十兆円
程度でございます。もちろんこれは大変大きな金額と考えることもできますけれども、大きな国々からすればそう大きな金額ではございません。
しかしながら、十八ページ目のところにございますように、今後こうした欧州の問題というところが普通の経済全体に波及し、それが不良債権化してくる、マクロ経済の問題につながってまいりますと、今申し上げました国債の議論にとどまらないところにあるといったところに今の欧州の難しさがあるというふうに考えるべきではないかと思います。
ただ、いずれにいたしましても、十九ページ目のところにありますように、各国の信用度を表すもの、ここでは信用度を表す一つの指標としまして、それが売買されておるデリバティブ市場ということで、クレジット・デフォルト・スワップという国の信用度を売買するような指標が出てきておりますけれども、ここにございますいわゆるPIIGSと言われた債務危機の国々、実はこうした国々はこの信用度というものを表す数字がどんどん大きくなる。それは逆に言えば信用度が下がるということになったわけでございますけれども、実はこうしたところの信用度というのは、先ほど御紹介した経常収支の赤字というところの序列でもって大体決まっていたということでもございますし、またこうした国々が、二十ページのところにございますように、政治の問題にも波及するような
状況につながっていたというのが今年、昨年にかけての大きな論点であったということでございます。
それでは、今欧州の問題を人ごとのように申し上げてまいりましたけれども、
日本の状態はどうなのかということも考える必要があるわけで、これまでお二方の先生方から議論ございました。その辺が二十一、二十二のところの財政
状況ということでございますけれども、その中でちょっと一つ考えてみたいのが、二十三ページ目以降の議論でございます。
ここに、市場でもって暴落暴落という議論が出る中でよく言われますのが、一つはドルの暴落、それからもう一つは
日本国債の暴落論でございます。これは現在でも非常に言われ続け、アメリカのドルは四十年間言われ続けておりますし、
日本の国債の暴落論も過去十年、二十年にわたって言われ続けておりますが、その割にそうなっていなかったのはどうなのかというところもちょっと市場の
観点から考えてみる必要があろうかと思います。
そういう意味で見ますと、私は、こうした
状況に実際にはならなかったのは、ある面でいえば収支が赤字でも取りあえずお金繰りが付いていたということではないかと思います。その背景は何かと申しますと、ドルの場合は基軸通貨制でというような
状況。これは、経常収支が赤字でも基軸通貨がというような
状況、ある面では特権でございます。一方で、
日本の場合は、財政赤字ではあるけれども経常収支が黒字であるという
状況の中で、何とか国の中でのファイナンスが保たれていたという構造ではなかったかと思います。
二十四ページは、そういう中で、過去の債務危機と比べた場合の
状況というところ。トップにあるアメリカのところは、双子の赤字と言われるような財政・経常収支は赤字ではありながらも、基軸通貨というような、誰もがドルを持ちたいという
状況の中で、
日本の場合は、財政収支は赤字であっても経常収支が黒字の中で何とか保たれていたという構造でございます。
こうした構造が実は今のヨーロッパ諸国若しくは過去の債務危機のあった
状況とが違うという点でございまして、具体的に見たものが次の二十五ページ目以降でございます。
二十五ページ目のところにありますのは債務残高を
GDP対比で取ったものでございまして、一番右側、ある面では最悪なのは
日本ということでございます。こうした
状況が
日本国債暴落論の大きな背景になっているのも事実でございまして、隣のギリシャよりも悪いと。一方で、二十六ページ目のところにありますように、経常収支は黒字であったと。一方で、先ほど、クレジット・デフォルト・スワップに現れるような問題は二十六ページのこの経常収支の赤字議論で生じていたと。
この構造というものは私は過去十年ぐらい一つの例えを使っておりまして、次の二十七ページの例えでございます。ある面でいえば、
日本は、
日本の家としては借金はないと。しかしながら、
日本の家の中でお父さんがお母さんから借りていて、さすがのお母さんも不安になってきた、本当に返してくれるのかしらと。そういう意味でいいますと、こうした家の中での議論というのは、経常収支が黒字でということと、同じ家の中ではあってもその中に信頼関係が保っている、保っていて、ある面ではお母さんが家の中に、そのまま外に出ない、外に出てしまうというのは経済でいえば資本逃避、キャピタルフライトということになるわけでありますが、そういう構造にならないで何とか済んできた構造ということにもなるわけであります。
こうした構造というのは、二十八ページ目のところにございますように、常に暴落すると言われながらそうはならなかったというのは、ある面でいえばこの経常収支、
日本の家の中でと言える
状況であったということと、それから、家の中にあってもある面では信認、場合によっては我々市場参加者から見れば市場への愛と申しましょうか、そういうようなところが、まあいずれは何とかなるのではないかという一抹の信頼関係という、ここに、二十八ページに
日本の投資家が
日本国債に抱く暗黙の信頼の三
条件と書かせていただいたようなものを何とか保つことができている状態にあったということではないかと思うわけであります。それは、いずれ
成長軌道に戻り、そうした場合にはある面での
増税、租税高権を発揮し、そのガバナンスというようなものが発揮できるというような信頼ということでございますので、そういう
観点からいたしますと、今後、今非常に議論となっておりますのは、この経常収支を保つことができるのか。
そういう
観点で申しますと、次の二十九、三十ページはその一つの
資料ということでございますけれども、そこに大きな前提として考え得るものは、例えば原発等の問題も含めたエネルギー問題であり、また、石油価格がどうなるのかといったところ、また、今後輸出というようなものが
日本は伸びるような
状況にあるのかといったような市場環境若しくは制度と。また一方で、そういう中でこの信頼を留めることができるかといったところは、完全にプラスになるということは別にいたしましても、ある
程度市場への規律若しくは市場への信頼、愛というようなものが保つことができるのかといったような、そういう意味では、昨今いろいろ言われております政治
課題といったところはこうした国債の議論にも相つながるところがあるというのも事実ではないかと思います。
また、二十九ページ、三十ページのところにございますように、三十一年ぶりに
日本の貿易収支が赤字になったというような
状況、また、そういうような
状況の中から経常収支も今後どうなっていくのかと。もちろん、
所得収支があるだけですぐに経常収支が赤字になるという議論ではございませんが、しかしながら、こうしたところも不安な一要因になっているという点でございます。
三十一ページ、これは
日本のソブリン、
日本の国債のCDSのプレミアム、先ほどヨーロッパ諸国は示させていただいたわけでございますけれども、拡大が一時出てきているとはいいながらも、まだそれなりに安定した
状況にはございます。しかしながら、海外の投資家から見れば、何とか
日本の国債というようなもの、暴落の糸口を引くようなことができないかと。昨今非常に話題になっております本に「ブーメラン」なんて本がございますけれども、そこでの最初の糸口は、
日本国債が海外の市場家から、国債の暴落になる、そういう中でも非常な関心は今後の
日本の経常収支の行方若しくは消費
増税を含めた財政等への問題というところにあるということは、一つ重要な点ではないかと思います。
最後になりますけれども、ここにソブリンワールドカップと私書かせていただきました。先ほど申しましたように、今や世界は経常収支のところで生き残りを懸けた戦い、それを通常の戦場というよりは各国の国債市場のところで対応している。そういう
状況の中で、経常収支の赤字国が負け組になり、アメリカの場合は何とか基軸通貨でシード勝ちをしたわけでございますし、
日本は何とか経常収支の黒字で予選は突破したわけでございますが、しかしながら今後二次予選に進めるのかどうかと。
また、こうした
状況ということは、例えば「坂の上の雲」でございますけれども、百年前を振り返りましても、こうした調達力の安定というものが
日本の国力を支えていたということを考え、また、今回大変な悲劇である大震災の中でもこれだけの復興の支出ができたというのも非常な
日本国債の調達力によるものだということを考えますと、こうした金の卵を産む鶏と申しましょうか、調達力の重要さというものが世界の中でも非常に問われているということは重要な論点ではないか。
そういう中で、今の申し上げましたようないろんな
日本が抱える
課題があるんだということは、私は市場参加者としても非常に重要な論点として申し上げなければいけない点ではないかと思いますし、その点を海外の投資家というものが非常にウの目タカの目で見ているというのが今の
状況ではないかと思います。
以上でございます。