○
参考人(
白波瀬佐和子君)
白波瀬です。よろしくお願いいたします。(
資料映写)
今日は多様さを包み込む
互恵社会の構築という
テーマで、現在私
自身が考えていることをということで
お話をさせていただきたいと思います。
今日の
キーワードは多様さということなんですけれども、この言葉はかなりいろんなところで使われているにもかかわらず、その
中身というのはなかなか見えにくく、かつ、対策として具体的にどういうような
政策がその多様さに対応できるのかということについてもまだ実は本格的には議論され尽くしていないというところであるかと思います。
それで、
三つの点についてこれから
お話を進めていきたいと思います。
今申し上げましたように、多様さというのは本日の
キーワードで、実はたくさんいろんな人がいるという
中身に
格差が隠されているということです。専門は
社会学の
階層論なんですけれども、
格差の前に
階層、
世の中が層化しているという話を
実証データとともにお
示しをしたいと思います。
そして、いろんな人がいるという
中身は、実は量的なバランス、アンバランスということがございまして、
少数派という問題はやはり避けては通れません。そういう
意味で、
少数派についての
目配りが実は非常に重要な
ポイントとなってくるのではないかと。特に、
互恵社会というようなものをつくり上げるには
少数派への
目配りが必要であるということを
お話ししたい。
そして、
最後には、いわゆるここの
調査会の中心的な
テーマであります
共生社会ということなんですけれども、それについて、今、
山内先生の方からも
お話がちょっとあったんですけれども、
お互いさまというような互恵的な
関係性というのを制度としてつくり上げるにはどういうことを考えたらよろしいかということを
お話ししたいと思います。
これは
厚生労働省が行っております再
分配調査の一九六二年から、今日持ってきたのは二〇〇五年、実は二〇〇八年の
データが公表されていますけれども、そこで
ジニ係数、これも一九九〇年代終わりに
格差論がかなり活発化したんですけれども、そこで議論された
ジニ係数ですね、
所得としては再
分配所得をベースとして測ったものであります。
一番新しい二〇〇八年
調査についてはこの値が〇・三七五八となっているということなんですけれども、ここでの
ポイントは、実は
実態と申し上げても、線形的な
変化、つまり一様に
格差が拡大しているというようなことは実はこの六〇年代からの
データを見ると余り見れない。その一方で、
人々の
気持ちというところでは
格差に対して非常に敏感になっているということであります。ですから、全体としての
指標がどうかということと
世の中の
人々の
意識というのがどうであるかというのは、実は、リンクはしているけれども、必ずしも直接的には
整合性がないということですので、例えば
意識調査をした場合にその
調査の結果をどう読んで
政策的に反映するかという場合に、その読み込みするときにかなり注意が必要ではないかということであります。
ここで、その
中身ということなんですけれども、多様であるということの
背景には実は
二つの大きな
ポイントがあります。
一つは、
個人の
生き方、
人々の
生き方がたくさんに多様化してきた。つまり、
特定の時期に予定された出来事が起こるとは限らないという
状況であります。具体的には、私の世代だと
クリスマスケーキなんて言われたんですけれども、二十五歳前に結婚しなければという話で、ある
特定の時期になりますと親も焦ってきて、結婚しなさいというのがあったんですけれども、実はその時期もずれてくるし、ずっと結婚しないという人も現れてきたと。ずっと結婚しない、生涯
未婚ということなんですけれども、その生涯
未婚の
人たちが実は経済的に非常に困難を抱えているという
実態と密接にリンクしているということであります。
それと、その
個人の
生き方と連動して
家族の在り方も一様ではないということです。具体的には、最近、
貧困との
関係で
母子家庭ということも言われているんですけれども、
子供がいる
世帯については二人の親がいて
子供がいるという
状況が想定されたわけですけれども、実は一人で
子供を育てているという
状況があるということですね。ちなみに、五十歳時の
未婚率をもって生涯
未婚率というふうにいうわけですけれども、二〇〇五年
時点で、一番新しい手に入る公表された
データでは、
男性生涯
未婚率一五・九六%、一六%。
女性の場合は七・二五%です。
参考までに、一九六〇年、
日本が
高度経済成長で上
向きになった
時点での生涯
未婚率は、
男性は一・二六、十分の一ですね。
女性の場合は一・八八、二%であったということであります。
こういう
個人の
生き方というのが
世帯のありようとリンクしているわけですけれども、この図は
世帯の
種類別に
年齢層を
三つに分けて、
ライフステージで、どういうような
家族が経済的な困難を抱える確率が高いかということを見たものなんですね。それで、ここで明らかなことは、いわゆる
独り暮らし、あと一人親と
未婚の子、まあ一人
親世帯というふうに申し上げたいんですけれども、ここで相対的にどの
年齢層でも高い
貧困率が見られる。しかしながら、若い
年齢層に至っては一人親と
未婚子、代表的には
母子家庭ですね、ここの
貧困率が非常に高い。
高齢期については
独り暮らしなんですけれども、特に
女性の
独り暮らしの
貧困率が非常に高いということがここで見えることであります。
ですから、経済的に困難を抱える
人たちが増えているということと、
生き方が変わってくる、
高齢者になって
息子夫婦と一緒に暮らすという
状況が典型的ではなくなったところの人にとって高い
経済格差、
貧困率が見られるということがここでも明らかであります。
これは何回かいろんなところで話しているんですけれども、ある
意味で
日本の現状を
示している図ではないかと思うんですね。これは何を言っているかというと、
子供の
貧困率なんですけれども、二人親のいる
子供の
貧困率と
母子家庭の
子供の
貧困率の差が見れます。これを国際比較しました。そして、青い
線グラフは全体
世帯に占める
母子世帯の
割合を
示しております。ここで
日本が明らかなのは、二人親の
子供の
貧困率と
母子家庭の
貧困率の差が非常に大きいということと、それに比べてまだ
母子世帯の
割合は他国に比べると低いということですね。これをどう読むかというと、非常に少ない人に高い経済的な困難が集中している
傾向がありますよということがここで言えるかと思います。
これが、
一つの
共生社会というのを考えるに当たってある
意味で
ポイントではないかなというふうに思っているんですが、今までは
経済格差とか経済的な困難、
貧困率で代表した経済的な困難というところで
実態を見たんですけれども、これはいわゆる
人々の
気持ちということでの
調査結果を持ってきました。これは二〇〇七年
時点で二十歳から四十歳、
若年あるいは壮年に掛かっている人を対象に、
パネル調査の結果でございます。これは
東京大学社会科学研究所が二〇〇七年から行っております働き方とライフスタイルの
変化に関する
全国調査、二〇一〇年の
調査結果なんですけれども、青いバーが将来の
希望。あなたは将来の
自分の仕事や生活に
希望はありますかという問いに対して、
希望があると答えた人の
割合が線形的に、一律に下がっている。同じ
個人の中で二〇〇七年と二〇一〇年の
意識を比べると、こういうような
傾向が見られるということです。それで、オレンジの
ラインは、
自分自身の十年後の
暮らし向きというのを考えた場合に、今よりも良くなっていますというふうに答えた人の
割合なんですけれども、これについても、ある
意味線形的に、一律に低下していると。つまり、将来の
見通しというのが非常に悪くなっていて、この
データは二十歳から四十歳ですので、そのほかの
年齢層と比べてどれぐらいこの将来への
見通しが
若年で悪いかということがここでは言えないんですけれども、いずれにしても総体的に将来への
見通しは悪くなっているということであります。
実は、これは若干話がずれますけれども、いわゆる中規模、中層にいる、真ん中にいる
人たちの問題ということで
中間層の話ということと関連しているんですけれども、六〇年代の
高度経済成長期は、やっぱり上
向きというのが人の
気持ちの上でもあったというのは非常に良かったんですけれども、現在においては
気持ちの上で非常に上
向きではなくなっているということです。
ここから考えると、では、その
共生社会、共に生きる
社会においてやっぱりいろんな人がいると。いろんな人をどう大切に育ててあげるかというのが、これからの
社会を考えるに当たっては非常に重要であるということです。ですから、今申し上げたように、年齢によって、特に
日本の
社会は年齢によって非常に整然と規格化された
社会制度というのが前提としてあったし、それがうまく機能していたという過去の事実があります。しかしながら、今は既存のスケジュールとは違うような人生設計を送っている
人たちが増えているし、多分この数は増えるであろうと。より増えるであろうということになるので、この
人たちを受け止める
社会というのはどういう
社会なのか。
で、そのためには、多分多層的な人材形成システム、つまり、今まで学歴
社会と言われた
背景には一発勝負で
自分の将来が決まってしまうというのがあったんですけれども、そうではなくて、一回失敗をしてもまた頑張れるというチャンスを与えてあげる。
それと、もう
一つはやっぱり評価システムですね。これは男女共同参画
社会とも
関係しているんですけれども、
自分が男だから、女だから、あるいは外国人の
子供であるから、あるいは貧しい家に生まれたからということで、スタート
ラインが凸凹であるということが
最後まで影響を及ぼすようではもちろん
人々の
気持ちも士気も下がるであろうということですので、
自分にやっぱり
希望を持たせてあげるというのは非常に重要だと思います。
これは、やっぱり
背景として、今申し上げたように、
年齢層内、同じ若者の中でも、あるいは
高齢者の中でも
格差があるということ、それと、年金制度の
背景にありますけれども、
年齢層間で少子高齢化の影響として世代間のギャップがあるという世代
階層間の
格差、そしてジェンダーの
格差というのがあって、これはやっぱり複層的な人材形成システムと、やはりスタート
ライン自体が凸凹ですので、これは事実ですから、これをできるだけなだらかにするようなシステムということ、あるいは、褒めてあげる、評価してあげるという昇進システムと報酬の保証というのはやっぱり組み合わせた形で人を育てていかなくてはいけないのではないかということです。
ですから、多様であるということを認識することの大切さなんですけれども、ただこれは、たくさんいるよというのは、言葉で言うのは非常に簡単なんですけれども、それを実感として納得するというのはそれほど簡単ではない。
で、やっぱり
三つの点がここでは重要なのではないか。
一つは、やはり意思決定の場に多様なメンバーを入れていただくということです。それはどういうことかというと、これも男女共同参画とも
関係しているんですけれども、やっぱり様々な立場にある人が、意思を決定する、ある
政策を決定する場に参画することによって、今まで気付かなかった点とか今まで見落とされていた点というのを声として上げられるということがやっぱり一番大きいと思います。
そして、やっぱり参画ということになりますと、実は既得権になるというリスクも入っておりますので、それはやっぱりその制度の中にも自浄機能を組み込めるような、組み込むようなことは必要であろうというふうに思います。
そして、
自分が全てのことに当事者になれないというのは、これは現実であります。男が女になれないように女も男になることはありません。あるいは、障害を持つ
人たちについても、もちろん生まれたときからというところもありますけれども、皆がそういうような
状況の当事者になることはできないという限界をやっぱり認識するということです。
で、見えないことに対して非常にたくましい
社会的な想像力が今すごく求められている。つまり、今回の
被災についても、もちろん足しげく
被災地に通うということは非常に重要なんですけれども、やっぱりその中で、私
自身の
個人的な
気持ちとしては、やっぱり
自分としてどういうふうに受け止めるべきかというのはすごく悩むところであります。ですから、それには
社会的な想像力というのが、言葉で言うと非常に平たいんですけれども、やっぱりそれが鍵になるのであるし、そこに核になるのはやっぱり教育、幼い
子供たちを、いろんな
子供たちを含めた教育というのが非常に重要になってくると思います。
このように、いろんな
人たちを包み込む
共生社会なんですけれども、
共生社会というのは、この一
時点、横軸のところでいろんな人がいるということなんですが、ここで
お互いさまという考え方をどうして持ってきたいかというと、時間軸の中で、人様からお世話になる時期もあるけれど、
自分が人様にお世話をしてあげる時期もできる、つまり、時間軸の中で
お互いさまの
関係というのがあるんだよということです。
ギブ・アンド・テークという
お話が今、
山内先生からも出たんですけれども、やっぱりすごく働ける時期もあるんですけれども、なかなか時間的に制約されて働けない時期もあると。そういう時間軸の中で、やっぱり当事者になる時期もあるし当事者でない時期もある、あるいは、現場に常にいることができないということと、
自分が
少数派のカテゴリーに入るときと、そうじゃなくて多数派のカテゴリーに入るときもある。これは同じ
自分という
個人の機会の中で交差しているということであります。
ですから、こういう
状況というのを常に制度の中でも自覚的に組み込んで、本当にいろんな
人たちが、いろんな
ライフステージにいる
人たちが生きる
社会こそが
お互いに恵み合うような
社会ではないかというふうに思います。
私からは以上です。