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新里参考人 日本弁護士連合会の副
会長の
新里宏二でございます。
きょうは、こういう場を与えていただきまして、ありがとうございます。
私自身は、被災地仙台の
弁護士でございまして、十六日に、東
日本大震災の民事扶助に関する特例の
法律を当
委員会で御採決いただきまして、きょうの昼だとお聞きしておりますけれども参議院の本
会議で成立になるということを聞いておりまして、大変感謝しておるところでございます。地元で、何とか被災者の救済のために特例をということでございましたので、被災地でも大変喜んでいただいているというふうに思っておるところでございます。
本日は、私自身は、公明党の
修正案に
賛成をする
立場から、
給費制の問題、それから
法曹養成の抱える問題点について、当連合会の基本的な考え方を御説明し、
参考人としての
意見とさせていただきたいと思っております。
まず、
法曹養成制度全体の問題でございますけれども、
法科大学院の統廃合と定員削減、
司法試験合格者数の目標
見直し、
司法試験の回数制限の緩和、
法科大学院生及び
司法修習生に対する
経済的支援の強化等の、
法曹養成制度全般の
見直しを早急に行うべきと考えております。
少なくとも、このような
法曹養成制度全体の議論の結論を見るまでの間は、
司法修習生の
給費制を何らかの形で維持すべきであると考えるところでございます。この件について御説明させていただきたいと思います。
既に出ておりますけれども、
平成二十二年十一月の
裁判所法一部
改正により、
給費制は一
年間延長され、現在危機に陥っている
法曹養成制度の改善をめぐる議論が始まりました。当
委員会の諸
先生方の英断に当連合会としては深く感謝するものでございます。
残念ながら、昨年十一月の
給費制延長の期限切れで
貸与制が実施されましたけれども、その結果は、
司法修習と
法曹養成全体に看過できない悪影響をもたらしていると考えているところでございます。
現在、
貸与制のもとで
修習しているいわゆる新六十五期に対しビギナーズ・ネットが実施したアンケートでは、
貸与制による経済的負担に対し、持ち家も車も売った、
奨学金の
返済を
貸与金で払っている、就職が厳しいと実感しており、就職できなければ借金だけが膨らむという不安がある、縁もゆかりもない地方都市で
修習するが引っ越し等の費用も自己負担、
貸与制になったことで
司法修習は就労に当たらないことになり子供を認可保育所に預けられなくなったといった悲痛な声も寄せられておるところでございます。
また、
司法試験に合格しながら
司法修習ではなく
行政、
企業への就職等を選択した人が、新六十五期では従前をはるかに上回る六十人に上っておりますけれども、これも
貸与制の実施が影響していると考えざるを得ないと思っているところでございます。
法曹養成制度は
司法の
人的基盤にかかわる問題であり、
国民の権利保障や公正なルールに基づく
社会の
実現にとって極めて重要な
課題として御
審議いただくようお願いいたします。
まず、
法曹養成制度の現状でございます。
現在の
法曹養成制度には、憂慮すべき
三つの問題点があると考えております。
まず第一に、
法科大学院志願者の減少、特に
社会人、非法学部出身者の激減でございます。
平成十六年の
法科大学院創設当初は、多数の
社会人、非法学部出身者を含め四万人にも及ぶ入学
希望者がありましたが、現在では志願者は八千人を切っており、そのうちの
社会人、非法学部出身者の割合はさらに急激に減少しています。これは、多様なバックグラウンドを持つ優秀な人材を
法曹界に迎え入れようという新しい
法曹養成制度の理念に照らして大きな問題でございます。
第二に、
司法試験合格率の低迷とそれによる
法科大学院教育のゆがみでございます。
合格率の低迷は
法科大学院志願者の減少の大きな要因となっていますけれども、それだけでなく、
法科大学院を
法曹養成の中核として位置づけ、
社会の国際化、高度化に対応した充実した
法曹専門
教育を
実現するという理念が十分
実現できなくなっております。
第三に、法的需要をはるかに上回る新
法曹の急増、そして、その結果としての
弁護士のいわゆる就職難の深刻化でございます。
昨年十二月のいわゆる新六十四期
弁護士の一斉登録では、ついに未登録者は四百人、
修習終了者の五分の一が登録できないという深刻な事態となっております。
法曹志望者減少の大きな要因となっているものと考えるところでございます。
専門職である
法曹の
養成には、多大な時間と費用がかかります。これは、
法曹志願者
本人の多額の経済的負担だけでなく、
法科大学院と
司法修習には多額の国費が投じられています。
司法試験に合格し、
司法修習を終了しても、多数の者が
法曹として活躍できないというのであれば、
本人にとって不幸であるのみならず、
社会経済的に見ても大きな損失です。
法科大学院の定員と
司法試験合格者数は、
法曹への
社会のニーズを踏まえて適切に定められるべきと考えております。
以上の三点は相互に密接に関連した問題であり、悪循環に陥っていると考えているところでございます。
このように、従前よりも経済的負担が増したにもかかわらず
司法試験合格率は低迷し、
弁護士の就職難なども相まって
法曹志願者が大きく減少している現況のもとで、
給費制を打ち切り、
貸与制に移行することは、
司法修習生に多大な負担を強いるのみならず、
司法試験に合格しながら
法曹の道を選択しない人の増加をもたらすことになっており、このことは、
法曹志願者の減少に拍車をかけ、現在の
法曹養成制度の危機をますます深刻なものにしかねないという危機感を持っておるところでございます。
なお、この悪循環を解消し、
法科大学院が多様で優秀な人材を受け入れ、質の高い
法曹専門
教育を
実現するためには、経済的負担の緩和とともに、厳格な成績評価と修了認定を経た
法科大学院修了者の大部分が
司法試験に合格し、
法曹として活躍できるような
制度とする必要があります。現状の法的ニーズに見合った適正な規模にまで
法科大学院の定員削減を行い、あわせて地域適正配置に配慮しつつ統廃合を進めることにより、
法科大学院教育の質を向上させることにあると私たちは考えております。
法科大学院でしっかり専門
教育を受ければ
法曹として活躍できるという見通しがあれば、
法科大学院創設当初のように、
社会人、非法学部出身者も含め、多数の方々が
法曹を目指すようになると考えておるところでございます。
日弁連は、このような基本的な考え方から、昨年三月、現在の
法曹養成制度が陥っている問題点を改善するための緊急提言を行いました。資料の八十一ページでございます。
骨子でございますけれども、一として、地域適正配置と
学生の多様性確保の観点を踏まえ、統廃合を含めた
方策を通じて
法科大学院の一学年総定員を大幅に削減すること、二つとして、
法科大学院生に対する
経済的支援の充実を図ること、
司法試験への対応が
法科大学院教育に好ましくない影響を与えている現状に鑑み、
司法試験の
あり方を見直すこと、
司法試験の受験回数制限を当面の間五年五回等に緩和することなどを含む八項目の提言を行っておるところでございます。
昨年五月から開催されている
法曹の
養成に関する
フォーラムは、
平成二十二年十一月の当
委員会の附帯
決議の
趣旨からしても、本来はこうした
法曹養成制度全般に関する改善
方策をまず
検討すべきでしたが、東
日本大震災で開催がおくれたことから、短期間で
給費制廃止と
貸与制の実施で
取りまとめを行い、現在は
法曹の活動
領域の拡大についてヒアリングを行っているところであり、これから
法曹養成制度に関する論点整理をする予定となっております。
しかし、やはりこれは議論の
順序が逆であり、私たちは、
法曹養成制度全体の問題点と改善
方策の
検討をきちんとやるべきであり、しかる後に
給費制の是非を
検討すべきであったと考えるところでございます。
今回の
修正案は、
法科大学院の
教育と
司法試験等との
連携等に関する
法律附則第二条の法施行後十年後の
検討を一年前倒しにし、別に
法律で定める合議制の
機関を設置して
検討を行うとされていますが、私たちも、この問題の
重要性にふさわしい位置づけを持った
機関で、開かれた議論と検証を行うべきと考えているところでございます。
そして、以下に述べるように、検証期間中は
貸与制を一旦
給費制に戻し、
法曹養成制度に与える悪影響を最小限に抑えるべきと考えるところでございます。
司法修習生の
給費制の暫定的存続について述べたいと思います。
まず第一に、
法曹三者統一
修習制度の始まりとその意義について確認していきたいというふうに思います。
そもそも、現在の
法曹三者統一
修習制度は、国が
司法官の
養成のみを行っていた戦前の
制度を新憲法の民主主義と人権保障の精神に基づき改めたものであり、全国が焦土化し、
国民は物質的にも精神的にも疲弊していた
昭和二十二年に
司法修習制度が開始されて以来、この統一
修習制度は我が国における
法曹養成の一貫した方針となっていました。
戦後の民主主義
社会を形成する上で、
司法制度の拡充とそれを担う
人的基盤である
弁護士を含む
法曹三者の
養成は、当然に
社会のインフラ整備のコストと考えていたものと
理解しております。その
制度が六十四
年間維持されてきたものでございます。
統一
修習は、
裁判官、検察官、
弁護士のいずれの道に進む者も区別せずに同じカリキュラムで行われますが、これは、三者それぞれの
立場から事件の見方を学ばせることにより、広い視野や物事を客観的、公平に見る能力を養うとともに、
法律家間の相互
理解を深める意義もございます。このような統一
修習制度は、国際的に見ても特徴のある
制度であり、我が国においても高い評価を受けてきたものと
理解をしているところでございます。
次に、
貸与制導入とその
理由について述べさせていただきたいと思います。
こうした見地から当連合会は一貫して
給費制廃止に反対してきましたけれども、
司法改革関連
法案の最後に成立した
平成十六年の
裁判所法改正により、
給費制を廃止し
貸与制を導入することが決まりました。その
理由とするところは次のとおりでございます。
一つ、閣議決定による
平成二十二年、
年間三千名の
合格者の大量増加に対応し、財政支出を削減したい。
司法修習生の多くは
弁護士になる、
弁護士は安定した
収入が得られると考えられたため、
法科大学院の
奨学金返済を考慮しても
貸与金の
返済は十分できると見られていたということでございます。
さらに、財務省財政
制度等
審議会の
平成十四年十一月二十日付、
平成十五年度予算の編成等に関する建議においては、
給費制を廃止し
貸与制への切りかえを行うべきであるとした上で、
貸与制導入の
理由として、
法曹という個人資格を取得するための費用を税金から支出することはできない、受益、
法曹資格を得る者がその負担、費用を負うべきであるとされておりました。
貸与制導入時の附帯
決議に触れたいと思います。
この
改正時に、衆参両院は、
給費制廃止、
貸与制への移行を
決議したものの、
政府、
最高裁に対し、「経済的事情から
法曹への道を断念する事態を招くことのないよう、
法曹養成制度全体の財政支援の在り方も含め、
関係機関と十分な協議を行うこと。」との附帯
決議をつけております。
次に、
貸与制実施の一年延期と
給費制の延長の問題について述べたいと思います。
ところが、
平成二十二年に
司法試験合格者を三千人とするという閣議決定の目標は達成されず、二千人
程度にとどまっており、しかも、この二千人でも現在の法的需要をはるかに上回る急増ペースであるため、三千人の目標の
見直しは不可避と私どもは考えているところでございます。
しかも、
法科大学院時代までの
奨学金などによる借金が、当連合会の調査で平均三百四十万円、多い方で千三百万円に及ぶことに加えて、
給費制が廃止されて
貸与制が実施されるとさらに三百万円に上る借金が重なることになることから、これでは経済的に裕福な者しか
法曹になれなくなるとの批判が
国会内外で強まり、
平成二十二年十一月の議員立法による
裁判所法一部
改正により、
貸与制の実施は一年延期され、その際の当
委員会の附帯
決議により、
個々の
司法修習終了者の経済
状況を勘案した
措置とともに、
法曹養成制度の
あり方全体についても速やかな
検討を加えて、必要な
措置を講ずることが求められたものでございます。
法曹の
養成に関する
フォーラムの開催と第一次
取りまとめでございます。
この附帯
決議を受けて、昨年五月二十五日、
内閣官房長官、総務
大臣、
法務大臣、財務
大臣、文部科学
大臣、経済産業
大臣による申し合わせにより、
法曹の
養成に関する
フォーラムが開催されていますが、さきに述べたとおり、この
フォーラムでは、本来、先に
検討すべき
法曹養成制度の
あり方全体の
検討を行わないまま、実質二回の
審議で、昨年八月三十一日に
給費制の廃止と
貸与制の実施を決めてしまいました。
この第一次
取りまとめでは、
法科大学院での
奨学金等の経済的負担の大きさに加え、
法曹志願者の急激な減少により人材の多様性を確保できなくなるおそれ、
司法修習生は
修習専念義務を負い、兼職禁止や守秘義務の厳しい制約が課されており、給費はその代償であるなどの当連合会などの指摘も記載されておりますけれども、これに対する
フォーラムでの
検討は到底十分であったとは考えるところではございません。
司法修習制度の
重要性と
修習専念義務の必要性について述べさせていただきたいと思います。
しかし、この
取りまとめでも、
司法修習制度の
重要性については次のように確認されております。
司法修習は、新しい
法曹養成制度においては、
法科大学院教育との有機的連携の下に実務
教育の主要部分を担うという重要な位置付けを与えられている。
司法修習においては、
社会で実際に起きている生きた事件を素材として、臨床的に実務的なスキルやマインドを磨くことがその主眼とされており、
裁判所、検察庁、
弁護士事務所に籍を置いての実務
修習を中核としてカリキュラムが構成されている。
修習は
法曹として活動するための共通の基礎となるものであり、新しい
法曹養成プロセスにおいては、必須の課程として置かれている。
このような
修習の
重要性に鑑み、我が国においては、
法曹三者を統一的に
養成する
修習制度を国が国費で運営する一方、
司法修習生は、
修習期間中、
修習に専念すべき義務を負うこととされている。
当連合会としても、このような
司法修習制度の
重要性と
修習専念義務の必要性を認めており、それゆえにこそ、新たに借金の負担を強いる
貸与制ではなく、
給費制を維持すべきと考えているところでございます。
では、公務員でない
弁護士になぜ給費が必要かについても述べさせていただきます。
裁判官、検察官、
弁護士の
法曹三者は、いずれも国の統治機構の重要な一部である
司法制度を担う存在です。
法曹三者は、それぞれ補い合い、時にお互いの
役割をかえながら、法と
社会正義の
実現に貢献しています。実際にも、
弁護士から
裁判官に任官する者は毎年数名おり、この間の震災ADRや原発ADRでも見られるような準
司法機関の設置、運営にも多数の
弁護士がかかわっております。また、経済の高度化、国際化と
企業の海外進出の活発化、あるいは多様化する国家間の利害調整と交渉の
局面で、公正な法的ルールに沿って国益を
実現する存在として、諸外国でも
弁護士は国家戦略的に重要な存在として位置づけられております。
このように
弁護士は、個人の職業的資格という以上に、国の統治機構である
司法制度の維持、運用に
裁判官、検察官と同等の資格で関与し、法と
社会正義の
実現を担う存在であり、それゆえ、
日本国憲法制定とほぼ同時に
法曹三者の統一
修習は国が責任を負うという
制度が確立したものでございます。
司法修習制度と
給費制は不可分一体のものでございます。
司法修習生の地位と身分について、
司法修習生がその身分を離れる際に退職手当の支給を求めた
昭和四十二年四月二十八日の
最高裁判決は、一、
修習期間中は国庫から
一定額の
給与を受けるほか、扶養手当等の諸手当や、公務のため旅行する国家公務員等として
司法研修所入所、滞在などに必要な旅費の支給を受けること、二つ、
司法研修所長の統括に服し、配属地の高等
裁判所長官の監督を受けること、三、兼職を禁止されること、
修習に当たって知り得た秘密を漏らしてはならない義務を負うこと、一定の事情があるときはその意に反して罷免されることを指摘した上で、その
理由について、これらのことは全て、
司法修習生をして右の
修習に専念させるための配慮ないしはその
修習が秘密事項に関することがあるための配慮であると判示しております。この事件自体は敗訴判決ではございます。
実際、
司法修習生は、
裁判官の合議や
裁判員の評議に立ち会い、被疑者取り調べを検察官の指導のもとに行い、
弁護士と依頼者との面談に関与するなど、高度な職業倫理と守秘義務を要する作業に従事しており、そのために公務員に準じた厳しい規律が課されてきたものでございます。
修習生の給費はこの公務員に準じた身分と不可分一体なものであり、上記の
最高裁判決が
修習に専念させるための配慮として説明したものでございます。
ところが、
貸与制への移行を決めた
平成十六年の
裁判所法一部
改正では、
司法修習生への給費を定めた
条項の削除と同時に、
修習専念義務を条文上明記いたしました。しかし、
貸与制による
修習貸与金は
本人の自己負担である点で
奨学金や学資ローンと同種のものであり、
貸与制のもとで公務員同様の厳しい規律を課して
司法修習への専念を求めることは著しい不正義ではないかと考えているところでございます。
最後になりますけれども、当連合会としては、今回の公明党の
修正案のとおり、現在の
法曹養成制度について検証し、その改善
方策の結論を見るまでの間は、現在の財政
状況を考慮して給費額を見直すなどでも可能でございますけれども、何らかの形で
給費制を維持すべきであると考えるところでございます。
以上でございます。(拍手)