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安部参考人 安部でございます。
私、
専門は
運輸機関の安全問題ですとか
事故調査問題をやっております。
五年前に、私の大学のあります大阪の吹田で大きな
事故が起こりまして、そのときも直後からこの問題を
調査いたしました。かなり関心を持って取り組んでおりまして、その後、御承知の、
総務省で
実態調査、
行政評価のかなり詳しい報告が出まして、これにも協力させていただいた
経験がございます。
そうした
経験を踏まえますと、今回の
事故を見ておりまして、まず、大変残念な気がしております。
貸し切りバスの中の
ツアーバスの問題をめぐる
事態というのは五年前よりも一層悪くなっている、あるいは深刻化しているんじゃないかというふうに感じております。
直接の
原因は
居眠りということなんですが、単にドライバーの
居眠りということだけに
原因を帰すのではなくて、なぜああいった問題が起こったのかということを構造的に調べていって、
制度を直す必要があるというふうに考えております。
同種事故の再発の防止のためにはそれが必要だというふうに感じております。
今から、四点につきまして
所感を述べさせていただきます。
まず、事の発端は、先ほどから出ておりますように二〇〇〇年の
規制緩和でございますが、この
規制緩和は
消費者利益の
確保ということを
目的としたものでございまして、
目的自体はいいわけでありますが、私の見るところでは、
消費者利益の
確保ということが運賃の点ばかりにいってしまって、
価格の点ばかりにいってしまった。
実は、
消費者利益の
確保というのは、二〇〇五年にJRの
福知山線の
事故が起こりましたし、いろいろな
事故が起こった
関係で、二〇〇六年に
運輸安全一括法というのが成立いたしまして、ちょうど当時も私、この
委員会に
参考人で呼ばれまして
意見を述べさせていただいたんですが、二〇〇六年の
法律改正によりまして、各
事業法の中に、第一条の
目的に安全の
確保ということが盛り込まれることになりました。これは大変いいことだというふうに思います。
安全の
確保ということが
事業法の
目的に盛り込まれているわけですから、当然これは、
消費者の
利益の増進、
確保の中に安全の
確保ということが盛り込まれるべきでございまして、今回の
事態を見ておりますと、
価格競争の方ばかりにいってしまって、そこがおろそかになっているんじゃないかというふうに感じております。
では、なぜそういう
事態になっているかというと、
規制緩和によって
参入のところのハードルが低くなりまして、たくさんの
バス会社が入ってきて、非常に
競争が激しくなっているということが
一つ大きな理由としてあるのではないかというふうに思っております。例えば、
貸し切りバスにつきましては、
規制緩和の前は
大都市圏では十両というのが
最低の
参入の要件になっていたわけでありますが、これが五両以下、中型を含む場合は三両というふうに大きく変わっております。
運行形態は違うんですが、
高速の
乗り合いの
バスがありますが、
大手の
バス会社の実情を調べてみますと、
運行管理者というのを必ず毎晩二名ほど配置をしている
会社がございます。つまり、夜中に万が一、
運行中に
事故が起こりますと、これは
会社に
連絡をして
対応する必要があるわけで、そのために
運行管理者というのを二名ほど常時置いております。
大手の
乗り合いバスのところはそういうことをしております。
これは
事業規模によりますので、二名の
運行管理者を置くというのはかなり無理な点があるかもしれませんが、
最低一名の
運行管理者を置く必要があるのではないかというふうに考えております。そういたしますと、例えば
最低の車両数、五両の
会社がそういった
運行管理者を余分に置くことができるかというと、これはちょっと無理だろうというふうに思っております。したがいまして、入り口のところについてはちょっとハードルを下げ過ぎたので、これをもとに戻す必要があるというふうに考えております。
これは実はタクシーで例がございます。タクシーも同じようなことをいたしまして、二年前に特措法というものをつくっていただきまして、
最低のところの
参入を少し
見直ししました。こういったことがございますので、
貸し切りバスの分野につきましても、そこの
見直しというのが
一つのポイントになるのではないか。
監査ということで事後
対応するということなんですが、今、国交省の
監査の職員の方はたしか三百名ほどだと思うんですけれども、この三百名が全国に散らばって、
貸し切りバスだけでも四千社、それから
乗り合いバスが約千社、タクシーは、個人を除いて法人のタクシー
会社が八千社、それからトラックが六万社ほどあると思いますが、これだけを三百人がどう
監査するのかということで、
監査は重要でございますが、事実上、これに頼ってしまっては質の担保ができないんじゃないかというふうに思っております。
以上が一点でございます。
二点目、
国土交通省の方では六百七十キロという二人乗務の基準をつくられたわけですが、これは私は余りにも緩過ぎるというふうに思っております。
これも、二人乗務三百八十キロということで、
高速乗り合いの方で、
ツアーバスとは違うんですけれども、そういう自主基準を持っておられる
会社もありますし、四百キロという
会社もございます。私の知っている
貸し切りバス会社ですと、二百キロ以上の夜間走行は二人乗務のところもございますので、これについても早急に
見直しをしていただいて、しかるべきキロ数を設定していただくということが必要ではないか。これは
総務省の
行政評価でも言われている項目ですので、しかるべきことをしていただく必要があるんじゃないかというふうに思っております。
三つ目でありますが、
ツアーバス会社というのは
高速乗り合いバスのような費用負担をしてございません。例えば停留所がございませんので、私、吹田の
事故の後、かなり大阪の事情を調べましたが、例えば天王寺というところで路上に駐車をして集客するということをやっておりまして、非常に道路交通自体にも支障を与えております。
それから、今回の
事故車両も、東京ディズニーランドが最終
目的地というのは、いわゆる車庫を持っておりません。既存の
乗り合いバスの場合は車庫を持っておりまして、そこに駐停車をさせるわけですが、それがないものですから、ただでとめられる遊園地を最終
目的地にするというようなことがあります。こういったことから考えても、適正な費用負担をしていないということでございますので、
高速乗り合いバスと
ツアーバスの整理をどうしていくかというのも急ぐべき
課題というふうに考えております。
それから、
最後でございますが、ツアー
会社にも問題があるというふうに考えております。
実は、五年前の吹田のスキー
バスの
事故の後、民事裁判が起こりまして、大阪地裁の方で、この民事裁判の中で、ツアー
会社の方にも一部過失の
責任があるという判決が出ております。これは、ツアー
会社の方の社員が、
事故を起こしたあずみ野観光の方に無理な
運行を強いたというところで、この点で
責任が一部認められてございます。
これは氷山の一角でございまして、今、
貸し切りバス業界は大変業者が多うございますので、
ツアーバス会社の方がどちらかというと優位に立って、いろいろな
契約の内容を決めているというようなことがあるのが
実態でございます。
例えば、公示運賃というのは幅があって、その公示運賃の幅の中で届け出運賃を決めて、これを
契約の中で書面上はするわけでありますが、では、この届け出運賃がどこまで収受されているかというと、なかなかされていないことがあって、実際には表向きの運賃とは違う運賃の取引がされている。そういった
実態にございますので、そこをどういうふうに考えていくのかということで、これは
旅行業法等の改正も必要になってくるのではないかというふうに思っております。
改正する場合のポイントといたしまして、二つぐらいあるんじゃないかと思いますが、届け出運賃の適正収受ができるように、そういうことをやはりきちっと義務化なりする必要があるのではないかというふうに考えております。
それから、公示運賃どおりの適正な収受ができるためには、途中に仲介業者を介して中抜きを許すようなことをしてしまうとまずいと思いますので、ツアー
会社が実
運送を担う
バス会社に対して直に
契約ができるように、中抜きを許さないような仕組みを法律上も明記していくことが必要ではないかというふうに思っております。
とりあえず急ぐべき
課題はこの四点で、今、
業界は大変混沌としておりまして、その構造的なところにメスを入れて
制度を変える必要がある。そうしないと、なかなか
ツアーバスというのは
消費者に対して安全を提供することができないのではないかというふうに考えております。
とりあえず、最初の
意見として以上を申し上げたいと思います。