○
三井参考人 横浜国立大学の
三井と申します。
私は、
中小企業の
研究を三十年以上やっておりまして、
日本中小企業学会の前の会長であり、また昨年閣議決定されました
中小企業憲章に関する
研究会にも参加しておりました。また、
海江田先生のもとで設置されました
中小企業政策審議会の
企業力強化部会というところにも加わっております。
今回、この
財務金融委員会にお呼びいただいたわけですが、私は
税制や
金融の
専門ではないし、
税金は、使い道には関心はありましても、いわば私自身は取られる側の
立場でありまして、なかなか
税制の新しい
あり方等の
議論には貢献できないかもしれません。どちらかといえば、
中空先生に比べれば、出口の話ということになってしまいます。ただ、
金融庁の
金融審議会のリレバンワーキンググループにも加わっておりましたので、
金融政策を含め、さまざまな
政策における
中小企業の
立場の反映、
中小企業の持てる力を生かした
経済社会システムの
重要性、こういう
立場で考えてきているわけでございます。
さきの、この
中小企業憲章というものを昨年閣議決定された。これが示したのは、これは世界共通して、
経済社会の多数派である、
経済の背骨、あるいは国家の財産、
社会の主役たる
中小企業の普遍的な
存在意義、その
可能性を生かせる
社会、そして
中小企業の
立場で考える諸
立法、制度、
政策というものが必要であると。先ほど
中空先生から
ヨーロッパの大変さという
お話がございましたが、
EUというのは、この二十年来、非常に
発展を遂げてきた。その中で、九〇年代以降、
中小企業政策を非常に重視、強化してきたという経過がございます。
二〇〇〇年につくられました
EUの小
企業憲章、二〇〇八年のSBA小
企業議定書、これらに、シンク・スモール・ファースト、リスニング・ツー・スモール・ビジネスという、小さい
企業のことをまず考えよう、そして
中小企業家の声に耳を傾けよう、こういう
立場というものが示されてきた。
私は、そういうものを、別に
ヨーロッパの
猿まねをしろとか言っているわけでは全くございませんで、いわば世界の共通の流れ、その中に
日本がある。そしてしかも、皮肉なことに、
ヨーロッパのそうした流れというのは、かなりの程度、
日本の
経験を
参考にした。八〇年代、九〇年代あたりまでの
日本の
経験。
だから、何となく私は、こう言っては大変口幅ったいのでありますが、
日本は、
トップランナーで頑張っていると思ったら、いつの間にか一周おくれになっちゃったんじゃないのかと。それが事実かどうかわかりませんが、少なくともそういう
危機感を持って
中小企業の
現状というものを考え、その将来を展望したいと思っておるわけでございます。
さきの三・一一の
大震災、原発の
危機、こういうことによる
中小企業への影響はもちろん申すまでもありません。しかし、
バブル崩壊以降、残念ながら
中小企業の
経営状況は決して好ましくない。やはり
バブルのマイナスの遺産が二十年たってもまだまだ続いているという感じはあるわけでございます。
そういう中で、短期的には、最近の
景気動向に関する各
機関のいろいろな
調査等によりますと、やはりことしは三・一一で非常に大きな落ち込みがあったわけですが、幸いにして、ことし中期以降、かなり持ち直してきているという
動きがあります。しかし、どの
調査もやはり共通して言っていることは、
円高を初めとする大変厳しい
経営環境の中で、将来につきましては非常な不安があるということ、これは否定できない。だからこそ、今の時点において
中小企業の
現状をどう
発展させるのかということは、やはり私は大事なことだと思います。
そして、これは私がやはり繰り返し申さねばならないのは、かつて
日本は
中小企業の役割が大きく、それが明治以降の
近代化、さらには戦後の
復興と
経済成長を支えてきたということはだれの目にも明らかだと思いますが、近年、明らかに、統計的にも、
日本の
中小企業は衰退の
傾向にあります。
皆様御存じかと思いますが、今、
企業全体の数がどんどん減っております。これは
経営環境の厳しさや
高齢化等によって廃業していく
企業がどんどんふえている一方で、新たに開業しようという方が非常に少なくなっている。これは、世界じゅうみんな同じ
傾向ならしようがないよねということになるんですが、むしろ例外的なぐらい
日本の現象なんですね。
私、ことしの六月にスウェーデンの
ストックホルムで開かれました国際的な
中小企業に関する
会議に行ってまいりましたが、こういう場で、今、国際的にこうした
企業の
起業家精神の
発展や
新規開業についての
調査を行っておりますGEMという、グローバル・アントレプレナーシップ・モニターという
機関がありまして、そこが
調査結果をその都度発表しておりますが、もう
日本はほとんど、
先進国、
発展途上国を問わず、例外的な
状況だというのは定評ができておりまして、
さきのことしの
ストックホルムの
会議では、
日本は
震災を受けて大変だねという同情の声のほかは、全く
日本に対する言及すらない、まさにジャパン・パッシングという
状況でありまして、私は大変寂しい思いをしてまいりました。
こうしたことにはもちろん、いろいろな要因が働いておるわけでございますが、私は幾つか注目すべきことがあると思います。
例えば、
中小企業白書におきましても、これまで繰り返し出されてきたことは、かつて
高度成長や八〇年代ごろまでは、
自営業等を開業いたしますと、かなり高い
所得が平均して期待できるという統計結果があった。しかし、それが近年逆転いたしまして、雇われている、
雇用者でいる方が
所得が平均して高い。これではやる気は起こらぬでしょうという
状況があります。
それは、もちろん個々の
企業の
経営責任はありますが、しかし、何よりも、
中小企業をめぐるこの
経営環境の厳しさ、これが大きな問題であるということがそこで指摘できるかと思います。
この問題は、特に、単に
経営環境だけではなくて、先ほど言った
高齢化で、かつて
高度成長等の
時代に開業した
方々がどんどん年をとりまして、
世代交代期を迎えている。しかし、後を継ぐ人がいない。後を継ぐ人がいないというのは、今の
時代、
企業を起こすことがダサいという
印象があるのかもしれませんが、それ以上に、先ほど言った
経営環境の悪さ、こういう中では
息子たちに継がせることも難しいよね、そういう
印象が多々あるわけでございます。
この
意味から申しますと、私は、特に、
事業承継に関する
税制の対応ということ、これは大変望ましいことであると。
近年、
政府の方でも御努力いただきまして、新しい
立法やさまざまな
措置をいただいておるわけでございますが、しかし例えば、残念なことに、
経営承継円滑化法、これについての
中小企業白書における記述を見ましたら、
実施件数が二十九件と、まだまだ大変寂しいわけでありまして、
日本の
中小企業五百万近くの数に比べれば圧倒的に少ないという
現状があります。この辺は、
税制面でのもっと御配慮が必要だし、そして、これは
日本だけの問題ではございません、先ほど言った
EU等も同じような
状況で取り組んでいるところでございます。
さて、何よりもかよりも、しかし、今回の
大震災によりまして、
地域に存在している
中小企業、とりわけ小規模零細な層まで含めて、これらが、
地域経済とのかかわりの深さ、逆に言えば、
地域はまさにそれによって支えられている。しかし、それらがこうした
震災や
津波で大きなダメージをこうむりますと、もう
地域の
経済自体が立ち直れない、こうした深刻な
状況があるわけでございます。
これに対して、今、ちょうど昨日、
国会で正式に決まったそうでありますが、
政府の方でも、いわゆる二重
ローン対策という形で、これまでの
借金で入れていた建物、設備、
機械等がみんな流されてしまってゼロからスタートせねばならない
企業を何とか救わねばならぬ、これを救わないと
地域の
金融機関も
不良債権の山に囲まれてしまう、これに対して、与野党の間でいろいろな
動きがあったということを私も承っております。
そして、これまでの
政府の路線に加えまして、新たな
立法が昨日正式に成立したということで、私は、これは大変喜ばしいことだと思っておりますが、何よりかよりも、
震災からの
復興ということに対して一番大事なことは、やはり思い切った資源の投入を迅速にやることです。
被災地の
企業の
方々の声を伺いますと、やはり大変厳しい。しかし、もう何もないんだから、裸一貫からもう一度スタートするんだという
意味で、私は、宮城県の方の
料理店のあるじの方の
お話を聞いた機会がありますが、もう
津波ですべてを失った、
借金しか残っていない。しかし、その方が、ある
意味にこにこしながら、でも私は再建できるという確信があります、この二重
ローンが何とか解決できて、新しい店を再建できればということをおっしゃっていた。これは非常に
印象がありました。
そして、この方はなぜそんなに
自信を持って再建できるとおっしゃっているのかというのは、もちろん
お金の問題は心配でありますが、それ以上に、実はさっきの
事業承継が絡んでおりました。
息子さんがもう後を継ぐ形で店に入っていた。
息子がこれから頑張ってくれるということで安心していたら、この
津波を受けてしまったということですが、逆に言えば、
税制等において、こうした
被災地の今頑張っている
企業の後を押していただくということも大事なことかと思います。
個別の
税制についての問題等々は、いろいろ御質問等が後であろうかと思いますので、それはおいておきますが、やはり、今
政府の方で、特にこの三次補正におきまして、
中小企業庁関係で六千九百五十億円という新しい予算がつく、これは大変画期的であり、喜ばしいことであります。
しかし、何よりもかよりも、先ほど言ったように、今の、この
震災の
被災地のみならず、全国の
経済、その地力をもう一度よみがえらせるためには、思い切った踏み込みをしていただきたい。
では、その
財源はどうするんだと言われると、私も大変苦しいところでありますが、しかし、それをやらないで、今ひたすら、何とか
現状を、あらしが過ぎるのを待っているわけにはいかない。
日本の
経済の、明治以来の、戦後のこの地力というものをもっと生かすような、そういう
可能性に向けて積極的に有効に
お金を使っていただきたいというのが私の考えでございます。
以上でございます。(拍手)