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藤井参考人 藤井でございます。
それでは、貴重なお時間をいただきまして、
我が国の
火山噴火と
防災対策について御説明をさせていただきます。
まずは、
火山噴火というのがどういうものかを簡単に御説明いたします。
火山噴火は、
地下に
高温のために
岩石が溶けてできる
マグマというものが
地表に接近するか、あるいは
地表に噴出して起こる
現象のことをいいます。
その
マグマというのは、
通常は千度ぐらいです。
高温のものでは千二百度ぐらいありますし、低温のものでも九百度ぐらいの
温度で、
化学組成によって
温度が少し違っております。
噴火の
直前には、数キロから十キロぐらいのところに一
たんマグマのたまりができまして、それが
地表に向かって移動して
噴火に至るわけであります。
マグマの中には水や
炭酸ガスといった
揮発性成分が少量ですが含まれておりまして、これが
火山の
爆発の原因になるものであります。ですから、水や何かが
最初に抜けてしまいますと、次は
溶岩になって、余り
爆発的にならない。当初は
爆発的な
噴火をしても、終わりの方では
溶岩になるというようなことが起こります。
マグマは、
化学組成によって粘り気が物すごく違います。十億倍も
変化をしますので、
地下で
マグマが移動するときの速度というのも十億倍ぐらい
変化があるわけですね。そういう
高温の、ある量を持ったものが
地表に向かって動いてくるわけですから、何らかの
前兆現象があります。ですから、動き方がゆっくりなので、
かなり前から
前兆をつかまえることができるかもしれないとお思いかもしれませんが、そのときにはシグナルが小さ過ぎてなかなかわからない。
ですから、私どもが
前兆現象として把握できるのは、大体数時間から数日、あるいは長くても数週間
程度ということになります。
ただし、
地震と違うのは、
地震は
地下で
岩石が突然割れますから、
前兆をつかまえることはほとんど難しいわけですが、
噴火の場合には、
マグマが移動してくるので、きちんとした
観測をしていれば
前兆は必ずつかむことができる。
次、お願いします。
これまでに
噴火前兆の我々がつかまえた例というのをここに書いておりますが、右側の方を見ていただきましょうか、ここに七七年の
有珠山の
噴火から二〇〇九年の浅間まで書いてありますが、数時間から数日
程度前に
前兆現象をつかまえているということになります。
ただし、すべてで
前兆現象がつかまるとは限りませんで、ことしの、二〇一一年の
新燃岳噴火では、
噴火が近いことはわかっていても、
直前の
現象をつかまえることはできませんでした。
次、お願いします。
これは、
我が国が持っているというか、
我が国に存在する
活火山の分布であります。
百十の
活火山があります。北方領土、
海底火山も含みますが、百十の
活火山があって、このうち四十七
火山を
気象庁が二十四時間
体制で
監視しております。つい最近までは三十四でしたけれども、
気象庁の努力によって今四十七
火山までふえているということになります。ただし、我々
日本国民が住んでいるところに直接かかわり合いのある
火山というのは百十のうち八十ぐらいありますから、まだ四十近くの
火山が常時
監視の網の中には入っていないということになります。
次、お願いします。
火山噴火にどういうものがあるかというのをこの図に簡単に示しました。
左側から、噴石、降灰、これは
有珠山の二〇〇〇年の
噴火の場合ですね。それから、
雲仙の
火砕流。それから、これは
伊豆大島の例ですが、
溶岩流の例。それから、融雪型の
火山泥流という、雪を
火山噴火の熱で解かして、それが
泥流、
土石流を発生することがあります。それから、
火山灰が降り積もっている中に降雨がありますと、
土石流が発生する。それから、
火山ガスが長く噴出して人が住めなくなるということがございました。これは
三宅島の例であります。
このほかにも
火山の
現象というものがございます。
火山灰による
被害でありますが、
火山灰と
航空機というのは非常に相性が悪い。
火山灰に
航空機が遭遇しますと、
操縦席はや
すりがけのようになりますし、一番怖いのは、
エンジンの中に
火山灰を吸い込みますと、
火山灰を溶かして出口のところで再び固まる、そのためにタービンが回らなくなって
エンジンがストップしてしまうということがあります。
例えば、八〇年代にはこの二例ほど、
エンジンがすべてとまったために一万
メーターほど落ちかかって、
地表付近でようやく一基の
エンジンだけが復帰したために不時着ができて助かったという例があります。
最近では、二〇一〇年のアイスランドの
噴火で、
ヨーロッパじゅうの
飛行機がほとんどとまってしまうということがございました。このときには、
航空会社の
被害だけで十七億ドルに達するというふうに聞いております。ことしも、
チリの
火山が
噴火をしまして、一週間で地球を一周して、オーストラリアとニュージーランド、全然違う
場所の
飛行機をとめるという
事態も生じております。
次、お願いします。
最近の
日本の
火山災害の例を三つほど出しました。
雲仙の
火砕流、それから
有珠山の二〇〇〇年の
噴火、それから
三宅島の
噴火ですね。
こういうものが最近
日本では起こっておりますが、この後に、二〇〇四年、二〇〇九年に浅間山の
噴火もございました。それから、桜島では現在もなお
噴火をしています。ことしは既に九百回近くまで
爆発をしておりますが、その例は省略させていただきまして、次、お願いします。
ことしの一月二十六、二十七日と大きな
噴火をいたしました
新燃岳、二〇一一年の例を
お話しさせていただきます。
噴火活動の推移としては、ここに書きましたけれども、今から考えれば、二〇〇八年の八月の
水蒸気爆発が始まりだったというふうに考えられます。その後、実際には一月の二十六、二十七日に激しい
マグマ噴火、これはおよそ三百年
ぶりでありましたけれども、こういう
噴火をしまして、その後は、先ほど申し上げたように、
揮発性成分が既になくなってしまったために、
溶岩流として、直径七百
メーターの火口の中を深さ百
メーター以上にわたって
溶岩が埋めるという
事態が続いております。
現在もそこに
溶岩が残っておりまして、表面の数
メーターを除くと、恐らく千度ぐらいの溶けた
状態になっております。その後、何回か
爆発的な
噴火をいたしましたが、九月七日以降三カ月間、非常に静かな
状態が続いております。
次、お願いします。
霧島の
新燃岳の
噴火の前の
状況ですが、一年以上前から、
新燃岳から六キロほど離れた
場所の十キロ深いところに
マグマを蓄積していたということがよくわかっております。ですが、
霧島全体として
地震活動は少し
高目でありましたけれども、
直前に
地震がふえるとか、そういう
前兆がないまま
噴火に至ったわけであります。ですから、活発な
地震活動などの顕著な
前兆がなかった例として、
霧島・
新燃岳の
噴火は特徴的であったというふうに思われます。
次、お願いします。
これが一月十九日以降の
新燃岳の
活動経過を
気象庁がまとめたものですが、先ほど申し上げたように、二十六、二十七日で
爆発的な
噴火をし、その後、
山頂部に
溶岩をためて、
あとは断続的な
爆発的噴火が起こったという例を示してあります。
次、お願いします。
それで、こういうものをどういうふうに我々は探知するかといいますと、
マグマだまりが深いところにあります、その上の
GPSという
人工衛星を使いましてこの間の
距離をはかる、あるいは
伸縮計というものでここの伸び縮みをはかるというようなことをやります。
ここに
マグマが供給されますと
マグマだまりは膨張しますので、ここの
基線長が伸びる、それで逆にこちらは縮むということが起こりますが、次の例に出しますように、
マグマが
山頂に向かって移動しますと、これが縮みますので、ここが縮む、これが伸びる、それで
噴火が起こるというようなことが起こるわけです。ですから、この
あたりを
観測していますと様子がわかることになります。
次、お願いします。
これが
GPSによる
距離をはかっていた例でありますが、二〇〇九年の十二月から、次々と
マグマが供給されるために伸びていったということがわかります。ここで
噴火が起こって、急激に縮みます。その後、再びここで伸びていることがおわかりだと思いますが、
地下で
マグマがずっと
噴火の直後から供給が続いている、今も続いております。ですから、間もなく
噴火直前の
状態に、多分来年の二月ぐらいにはそれと同じぐらいの量まで
マグマがたまることが予想されておりますが、今は静かな
状態にあります。
次、お願いします。
火山噴火予知の現状ですけれども、大抵の
火山で、きちんとした
観測をしていれば
前兆をとらえて
噴火を予知することができます。ですが、どういう大きさの
噴火であるとか、激しい
爆発的な
噴火を起こすのか、
溶岩流を出すだけなのかというようなことを予知する手法はまだ完成しておりません。
ですから、
噴火予知というのはまだ完成した
技術ではございませんので、
噴火予知に向けた基礎的な
研究がまだ重要な段階であります。ですが、
日本のものだけを見ていますと
噴火の
事例が少ないので、
海外の
事例を参照することも必要です。
海外では毎年六十
火山が
噴火をしていますから、そこをきちんと調べるということが重要になります。
次、お願いします。
これは、
世界の
火山の最近二百年間に十億
立方メーター以上の
噴出物を出したという
巨大噴火の例をすべて書き出してあります。これで全部で十五の
噴火がここに書いてありますが、ここで見ていただきたいのは、
史上初というところに
丸印がついている。
この十五
火山のうちの十一
火山が
史上初の
巨大噴火をしたということが書いてあります。ここらの国は
日本や
イタリアと違って
歴史が浅いんですけれども、大
航海時代以降は
歴史がございますので、丸がついているということは、数百年休んだ後に
噴火をした
火山が大きな
噴火をしたということになります。
次、お願いします。
もう一つの例は、ここにありますが、二〇〇八年に
チリ南部の
火山で九千四百年
ぶりに
噴火したものがございます。ここでは
かなりの量の
マグマを噴出しました。あるときには、
噴火が始まってすぐには噴煙高度が三十キロにまで到達するという、
世界じゅうに
火山灰がまき散らされるということが起こりました。
このように、
海外の
火山からしますと、数千年以上の
静穏期の後に
噴火するものもあれば、数百年
程度の
休止期間は普通であるというふうにお考えになっていただきたいと思います。
噴火の再開の前に十分長い
前兆期間があるかというと、決してそうではなくて、
最初に申し上げたように、数時間から数日
程度というのが普通であるというふうに御承知ください。
噴火の前の
前兆現象というのは非常に微弱でありますので、
火山の近くで
観測をするということが重要になります。
その点では、先ほど申し上げたように、約四十ぐらいの
火山は、
気象庁が二十四時間
監視をしているわけではございませんので、そういう
火山に関してはまだ無
監視の
状態に近いということになります。
次、お願いします。
火山噴火の
スケールは、ここに書きましたけれども、
日本で
最大級だと思われる
雲仙・普賢岳がこのくらいです。これはすべて同じ
スケールで
世界の
火山を書いてありますが、セントヘレンズでは二十キロを超えるような
火砕流が出る。それから、ピナツボでもそうですね。
火砕流が出て、さらに二十キロの外側にまで
土石流が出るという非常に大きな
噴火があります。
日本でも、かつて大きな
噴火をしたことがあります。
富士山の三百年前の
噴火ですね。ここでは、
東京でも数センチの
火山灰が積もりました。横浜では十センチぐらい
火山灰が積もるんですね。
それから、もっと古い時期には、七千三百年前には
鬼界カルデラの
噴火というものがあって、
東京では十センチぐらい
火山灰が積もっています。それで、
カルデラの
中心では、二百キロぐらいで
火砕流が発生して、その域はほぼ全滅になりました。
次、お願いします。
歴史的にわかっている
火山噴火の例をここに示しました。
日本の場合ですね。
十七
世紀以降は古文書でよくわかりますので調べてみますと、三億立米以上の大きな
噴火というのが、
通常は一
世紀のうちに四回から六回ぐらい起こっていました。ところが、二十
世紀には、
最初のときにこの二つが起こったきり、
あと百年近く大きな
噴火は起こっておりません。
したがって、これから先は、二十一
世紀には
かなりの数の
噴火が起こることを覚悟する必要があると思います。
次、お願いします。
これは、三月十一日まで私がそう申し上げてきたんですが、三月十一日の日に、二百キロ掛ける五百キロの岩盤が数十
メーターにわたって
東北でずれるという事件が起こりました。
マグニチュード九の
地震でありますが、
世界の例を見ますと、
マグニチュード九というのは、二十
世紀にはこれぐらいの数あります。ここには
東北も含めていますが、こういうことが起こると次に何が起こるかというのが次の
スライドにあります。
すべてのM九を超える
地震の後には、
火山噴火が起こっている。特に、一九五二年のカムチャツカの
地震の後には、三年後でしたけれども、ベズイミアニという
火山が千年
ぶりの大
噴火をして、その後はほとんど毎年のように、現在もですが、
噴火をするような
火山に変身してしまったという事実があります。
それから、二〇一〇年の
チリのときには、しばらく
噴火がないので、
マグニチュード八・八だったから、九に至らなかったから
噴火をしないのかと思っておりましたけれども、一年三カ月後のことしの六月になって
噴火をして、現在も
噴火を続けております。
次、お願いします。
したがって、
日本列島は、三月十一日を境に大
変化をしたと考えるべきであります。M九で
噴火が誘発されるということも覚悟しなければいけませんが、別の考え方もあります。
マグニチュード九のあのような大きな
地震が起こったのは、
日本の地学的な
現象は今異様な
事態になっているんだと考えることもできます。
それと同じような例が、九
世紀に
日本ではありました。
貞観のころですね。このときに
貞観の
地震が起こって、
西南日本ではその後十年ぐらいたってから
地震が起こります。このときに何が起こったかというと、この
あたりで
富士山が
噴火をする。それから、
伊豆大島も
噴火する、神津島、新島という、これは千年ぐらい
休止期間を持つのが普通の
火山でも
噴火をしているわけですね。
三宅島も
噴火をするというようなことが起こりました。
ですから、これから先、
日本の数十年間というのは、こういう
火山活動も覚悟しなければいけないというふうに思います。
次、お願いします。
ところが、そういう
事態で、
日本の
火山観測がどうなっているかということを見てみます。
アメリカ、
イタリア、インドネシア、フィリピンという
火山国においては、すべてが国が責任を持つ一元的な
機関、そこに
火山監視の
専門家を擁する
観測機関があります。
ところが、
日本の場合には、
気象庁が先ほど申し上げたように四十七の
火山を二十四時間
体制で
監視をしておりますが、それ以外に、
国立大学や
地理院や経産省の
産総研、それから
防災科技研といったいろいろなところで
観測をしたものを、
気象庁長官の
私的諮問機関である
火山噴火予知連に持ち寄って
火山活動の
判断をしております。
地震の方について言いますと、
地震調査研究推進本部というもので一応は一元化がなされておりますけれども、
火山観測研究にはこういった
本部体制がございません。ですから、ここに書いたような、
予知連を
中心とするグループで
火山の
判断をしているということになります。
次、お願いします。
これは最後の
スライドになりますけれども、
世界じゅうで起こる
地震を
赤点で、それからブルーの三角で
火山の
位置を示してあります。それから、ここに
星印をかいているのは、これはG8、
先進国の首都の
位置に
星印をかいていますが、
日本だけが
地震と
火山のど真ん中にあるんですね。
アメリカでは、
地震、
火山は起こりますが、西海岸だけで、東海岸は何事も起こりません。
ヨーロッパもそうですね、
イタリアだけが
南部で
地震、
火山が起こりますが。ですから、
先進国の中で
日本だけがこの
自然災害にさらされるわけです。
ことしの三月十一日の後で、
文科省の
科学技術・
学術審議会の方で、「国土のあらゆる地域で
自然災害への
備えが求められる
我が国の
地学的状況」ということは言われましたけれども、ここでは、
地震、
火山に対して
日本では特別の配慮が必要だというふうに思います。
以上で私の
お話は終わらせていただきます。(拍手)