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参考人(
宮下清貴君) 農
業環境技術研究所の
宮下でございます。
本日は、福島第一原子力発電所事故による農産物・
農地土壌の放射性物質による汚染というテーマで少しお話をさせていただきます。よろしく
お願いいたします。
では、座って続けさせていただきます。
今回の農産物・
農地土壌の汚染なんですけれ
ども、少し経緯を振り返ってみたいと思います。(
資料映写)
これは簡単に経緯をまとめてみました。三月十一日、地震発生がありまして、その後原子炉に異常が発生したと。一号機に水素爆発、三号機でも水素爆発があった、二、四号機でも火災があって電力が止まったと、それで原子力発電所の周囲で
環境中で放射能が検出されたというようなことが立て続けに起こったわけであります。
厚生労働省から食品衛生法に基づく食品中の放射性物質に関する暫定規制値、これが発表されたのが三月十七日になります。それと前後する、そのころから、私
どもも農水大臣の依頼を受けまして野菜の放射性物質の分析等を行ってまいりました。三月十九日には原乳、ホウレンソウから暫定規制値を超えた放射性物質が検出された、二十一日以降、
関係する都道府県知事に対しまして原子力災害
対策本部長から特定の農産物の出荷を控えるように要請が出されたと、立て続けに起こっているわけでございます。
そのころ、私
どもは
土壌の放射性物質の分析を始めております。四月八日には政府が稲の作付に関する考え方を決定して、これまた後ほど
説明いたします。また、二十二日には災害
対策本部長より県知事に対しまして、
避難のための立ち退きを指示した区域とか等々に対する二十三年産の稲の作付けの制限ですね、控えるよう、そういった要請が出されているというわけでございます。
それで、御存じ、食品の規制値、暫定規制値でございますが、これは一キログラム当たりのベクレル値という形で示しています。ここにございますように、放射性の沃素131と、
あと放射性のセシウム134、137がございまして、それぞれ食品ごとに規制値が三百とかそういった形で決められてございます。
ベクレルにつきましては、そこに書きましたが、一秒間に
一つの原子核が崩壊して放射線を放つ放射能の量ということになりまして、
土壌も食品もこのベクレルで放射能の量を示します。農
水産物の汚染が問題となる主要な放射性核種でございますが、沃素の131、
あとセシウムの134、137、ほぼこの三つと考えてよろしいかと思います。
そこに半減期を示しましたが、沃素131の場合には非常に短くて、八日で半分になります。ですから、急速に減ってまいります。ただし、チェルノブイリのときも、今回もやはりそうでしたが、事故の当初はかなり大量に発生いたします、この汚染が発生いたします。ただし、その後は急速に消えていくということになります。一方、セシウムの方は、134が半減期二年、137が三十年、どちらも長いんですが、特に137は長くなっております。チェルノブイリなどを見てみますと、もう二十五年たっておりますので、134はもうかなり減衰していると。今問題となっているのは
土壌に残っているセシウム137と、そういった
状況になります。
それで、事故後、放射能の高い農産物あるいは
土壌の検出が続いていたわけなんですけれ
ども、農
作物がどのように
影響を受けるかと、放射性物質がどのように汚染するかというのを簡単にまとめてみました。
経路としては
二つございます。
一番目と書きましたのが、放射性物質の直接の降下によるものでございます。大気から降下した放射性の物質が直接農
作物に付着する。この右側の絵でいきますと上の
部分になりますが、この降下による汚染がございます。これは原子力発電所事故に伴う大量の放出が続く間は大気からの放射性物質の降下による付着の
影響が大きいということが言えます。
一方、二番目が
土壌からの移行になります。これは
土壌に降下した放射性物質が、これが根を通して農
作物へ移行する、吸収されて移行すると、そういった経路になります。ですから、フォールアウトが止まった後には二の方が問題になりまして、例えば現在チェルノブイリでは二の
土壌からの移行が専ら問題になるということになります。また、これは
土壌を耕起した後、耕作した後に作付けを行う農
作物に対する
影響もこれはかなり顕著に出てまいります。
環境中の放射性物質ですね、汚染は、農
作物や
土壌の汚染ですけれ
ども、これは当然のことながら、事故がそんなに起こっては困りますから当然なんですけれ
ども、例は非常に少ない、したがって情報も限られております。
一つは、これ
日本で
環境放射能の
調査研究というのを行っております。もう
一つがチェルノブイリの原発事故ということになります。
環境放射能の
調査研究なんですが、これは一九五〇年代から六〇年代、大気圏内の大規模な核爆発実験が盛んに行われました。その結果、その核爆発実験による大量の放射性物質、核種ですね、この降下が
我が国にも及ぶといった事態になりました。それを受けまして行われたのが
環境放射能の
調査研究、これは旧科技庁の放射能
調査対策研究費でずっと行われていたものでございますが、これになります。
私
どもは、
土壌及び農
作物、特にこれは米と小麦ですが、この放射能をずっと調べてまいりました。定点
調査の実施を行いました。これは一九五九年から続いております。これがその例ですが、これは玄麦、麦ですね、玄麦の放射能になります。赤い折れ線グラフがございますが、一九五九年から始まりまして、高いピークが一九六三年にございます。これは核爆発実験が最も盛んだった時期でございますが、このとき大体四十ベクレル、高いところで百ベクレル程度の放射能が検出されております。
その後、核実験が減りまして全く行われなくなりまして、急速に減っております。これ、単位がミリベクレルで、千分の一で示してございます。ちょっとベクレルとは違いますが、一番高いピークが大体四十ということになります。ずっと減ってまいりまして、途中で高いピーク期がございますが、これが一九八六年、あのチェルノブイリ事故のときになります。このとき、八千キロという非常に長い距離なんですけれ
ども、
日本にも実は降下してまいりまして、ちょうど玄麦で検出されました。〇・〇四ベクレルだったものが突然六ベクレル、範囲としましては一・二から十六ベクレルまで高いピークが認められました。ただしこれは一年で済みまして、翌年にはまた〇・〇四まで下がっております。このときはホウレンソウとかキャベツでやっぱり沃素も検出されているわけでございます。
後半になって問題になります
土壌からの
作物の放射性物質の吸収ですが、このときに移行係数という考え方を使います。移行係数というのは特定の放射性核種、例えばセシウムとかでありますが、これにおける
作物、可食部一キログラム当たりの
濃度を
土壌一キログラム当たりの
濃度で割った値ということになります。
作物の方は生鮮重当たりでございまして、
土壌の方は乾土重、乾燥重量当たりで示します。これは、
土壌に含まれる放射性核種の根を通じた吸収の程度、平べったく言えば吸収しやすいかどうかということを示します。この値、
土壌中の放射性核種の
濃度と
作物の移行係数というのは、その
土壌で
生産される
作物中の放射性核種の
濃度を推定する、この
土壌で、この程度の汚染の
土壌でこれを栽培すればどの程度の汚染が予想されるかと、そういったことを推定する際の
参考となります。
ただし、
課題もございまして、試験データから得られた移行係数の幅が広いし、データの数も現在のところ限られているというわけでございます。
四月八日に出されました稲の作付に関する考え方について簡単に御
説明いたします。
ここでは、先ほど御
説明いたしました私
ども農環研が行っておりました
環境放射能
調査、モニタリング
調査の結果であります。一九五九年から二〇〇一年まで全国十七か所の
水田の
土壌及びそこで収穫された米の放射性セシウム、これを分析した結果を用いて解析を行いました。統計解析を行いまして、それで信頼限界が九〇%ということで、そこで、二段目になりますけれ
ども、
水田の
土壌から玄米へ移行する放射性セシウムの比率の指標を〇・一と算定いたしまして、玄米中の放射性セシウム
濃度が暫定規制値であります五百ベクレル・パー・キログラム、これ以下となる
土壌中セシウム
濃度の上限値、これが五千ベクレルと算出されたわけでございます。
したがいまして、それの結果、
生産した玄米が食品衛生上の放射性セシウムの規制値を超える可能性の高い
地域について稲の作付け制限が出されまして、また
避難のための立ち退きを指示された区域でありますとか計画的
避難区域、こういったところにおきましては平成二十三年度の稲の作付けを控えるよう、こういったような要請が出されていたというわけでございます。
それで、非常に実は厄介な問題でございまして、
影響の予測でありますとか
対策、そういったことを考える上で
土壌中の放射性セシウムがどのような挙動を示すかということを理解しておくことが重要かと思います。
土壌中のセシウムというのは粘土鉱物に非常に強く結合いたします。剥がすのが非常に大変であります。二番目と三番目はその逆になるんですけれ
ども、水溶性、水に溶けた形ではほとんど存在いたしません。また、可給態というのはこれ弱く存在していて、植物が吸収できるというふうに考えていただいていいかと思いますけれ
ども、それもかなり少なくなっております。ですから、こういった性質を理解することが重要です。
また、降下後しばらくは表層にとどまっております。時間とともに徐々に下層へ移行いたしますが、これは年単位、場合によっては十年、二十年という、そういったような単位で移行していく、それも非常にゆっくりした単位であるということでございます。
また、放射性物質、セシウム137、多分五千ベクレルと言うと非常に多量に思うんですが、重量的には非常に僅かでございます。
土壌一キログラム当たりのグラムにいたしますと〇・〇〇〇〇〇〇〇〇一六グラムという、非常に微量な数であるということであります。ですから、高
濃度のいわゆる化学物質の汚染とは違った形であるということを理解しておくということが重要かというふうに思います。
以上でございます。