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参考人(
土居丈朗君) 慶應義塾大学の
土居でございます。
今日は、このような機会を与えていただきまして、ありがとうございます。
お
手元にあります「大震災後の
社会保障・税一体改革
財源を中心に」ということでお話をさせていただきたいと思います。(
資料映写)
御承知のように、非常に大きな被害をもたらしました東
日本大震災ですが、私は、この震災復興、これは非常に重要で、それを進めていかなければならないこれからの時期においても、なお
社会保障・税の一体改革を同時並行で進めていくべきであり、それがむしろ震災復興、さらには被災者の
方々にもためになるというふうに思っております。特に、その大きな根拠は、被災地において多くの方が高齢者でありまして、高齢化が被災地で進んでいるということですから、ここに
社会保障を充実させるということは被災者のためにもなるということになります。
もちろん、そのためには
財源の裏付けというものは当然必要となってまいりますので、ここではやはり
社会保障と税の一体改革というものも震災復興と同時並行で行うべきであると。そんなことは本当にできるのかという、そういう見方もあるかもしれませんが、私はこれは実現可能であるというふうに思っております。その実現
可能性についてはまた後で申し上げますけれども、それが実現可能であるならば、むしろそれを積極的に同時並行で進行をさせていくべきではないかというふうに思っております。
震災前の段階で既に我が国の
財政状況は、
社会保障が高齢化に伴って増えていくということが分かっておりましたので、もし
社会保障給付の増大に伴ってきちんと税や社会
保険料の
負担を増やしていかなければどんどん
財政赤字が膨らんでいくということが予測されておりました。
スライドの四枚目でありますけれども、ここの赤い線、これはイメージでありますが、足下では
政府債務
残高対
GDP比はGDPの二倍、二〇〇%ぐらいに達していると言われておりますが、これが二二〇%、二五〇%と、さらには二〇三〇年になると三〇〇%になるかもしれないなんというような、
財源の裏付けがなければそれぐらいの
借金の累増というものが懸念されておったわけでありますが、震災前からも、
社会保障と税の改革を進めることで、
社会保障の
財源をきちんと確保するとともに
財政健全化にも資するという、一挙両得と言えるようなプランというものはできるのではないかというふうに思っています。
もちろん、増税をする前にやるべきことがあるだろうというのは、それはもちろんそのとおりであります。無駄な支出を削減する、それから、できるだけ
経済成長を促して税収がより多く入るようにするということはもちろん期待したいところであります。
しかし、今の
社会保障の仕組みに関して言えば、我が国の
社会保障は残念ながらその
財源の多くを
赤字国債で賄っております。もちろん
赤字国債は色は付いていないわけですけれども、
赤字国債の発行額を見れば、
社会保障の全てを税で賄い切れていないという、
社会保障は税の
財源で賄うべきところを税で賄っていないということであります。
そういうことを考えますと、
社会保障給付というのは、基本的に今を生きる者が恩恵を受ける。それが
財源を将来に先送りして、子や孫のために、今の
社会保障の恩恵を受けるために
借金をツケ回しているということでは、それは将来
世代に対して我々は責任を果たしていないのではないかというふうに思うわけであります。ですから、今の
社会保障給付のための
財源は今を生きる
世代の者どもで分かち合っていくということが求められる。それはひいては
社会保障の
給付のために
借金を増やすというようなことにはしないようにするということになるわけで、それはひいては
借金の累増を食い止めるということにつながっていくということであります。
もちろん、増税をするという名目を
借金を増やさないようにするというようなことでは、国民の理解はなかなか得られないということはあろうと思います。ですから、最初の政治のメッセージとしては、
社会保障の
財源をきちんと今の
世代で賄うということを、責任を果たすということで賄っていくということが第一義的にあって、それがひいては
社会保障の
給付が十分に
財源が賄えていないということで
借金が膨らむというようなことを防ぐということを通じて将来
世代に対しても責任を果たしていくということにつながってくるんだろうというふうに思います。
その上に、悩ましい問題として、震災復興のための
財政支出の
財源をどうするか。恐らくある程度は一時的に
国債発行をせざるを得ないとは思いますが、その震災復興のための
財政支出の
財源として発行された
国債を、ずっと
償還を先送りすると、返済を先送りするということになりますと、ただでさえ震災前から
借金が増えていくということが予想されていた上に更に震災復興のための
国債発行でもっと
借金が増えてしまうということになりますと、二〇二〇年代、二〇三〇年代にもっと
借金返済のための
負担が増えてしまうということになります。
二〇二〇年代というのは、御承知のように団塊の
世代が七十五歳以上になるという年代であります。そういたしますと、今よりも医療費や介護、これの
お金がもっと掛かることは必至であります。もちろん必要な
お金はきちんと手当てするべきで、増やさないようにするということに躍起になるという必要はないと思いますが、二〇二〇年代に団塊の
世代の
方々が七十五歳以上になられるということであるならば、その
負担をきちんと二〇二〇年代にしなければならないと。その上に、二〇二〇年代に震災復興のための
借金、この返済がまだ終わっていないということになると更にその
負担が上乗せされてしまうということになりますので、やはり二〇二〇年代以降のもっと本格化する高齢化の前には震災復興もきちんと成し遂げておき、そして、その二〇二〇年代以降の本格的な高齢化に備えた制度改革を今すぐ着手していくべきであろうというふうに思います。
もちろん、震災復興のための
社会保障に関する優遇措置というのは、これは復興初期においてはあり得ると思います。被災者の医療費の窓口
負担の減免とかいろいろあると思いますが、しかし、例えば一つ、この窓口
負担の減免というものを、
社会保障の充実だということで復興が終わってもなおこれを全国展開して一般化するということで果たして本当に良いのだろうかということは私は一つ懸念をしておりまして、一九七〇年代にあった老人医療費無料化の失敗というものの繰り返しを避けるためにも、やはり、無料化すればそれでいいと、優遇したことになると、
社会保障を充実したことになるという話ではなくて、本格的に高齢化する二〇二〇年代までには、
先ほど大沢参考人もおっしゃったような、同じ
お金を投じるとしても、その
お金が有効に
社会保障で使われるようにきちんと制度を整えていくというような取組の方がむしろこの震災復興期においても重要であろうというふうに思います。
少し震災の話から離れまして、我が国の税制を取り巻く環境についてお話しさせていただきたいと思います。
私の見方は、我が国の税制というのはもちろん先進国として胸を張れるだけの徴税システムを持っているわけでありますが、残念ながら、税の取り方としていろいろ今、
日本が直面している課題をうまくこなし切れていないというものになっているのではないかというふうに思います。
私は、例えばその税で、税制に関連する四つの
日本の重要課題、少子高齢化、グローバル化への対応、
財政健全化に向けた税収確保、それから地方分権化というものがありますけれども、この四つの課題については、今の税制のままだと十分にはこれにこたえられていないと思います。
例えば、後で御紹介するように所得税。これは実は勤労
世代に集中的に
負担が及んでいて、高齢
世代はほとんど所得税を払わないということになっておりますので、高齢者には所得税は余り
負担を強いないけれども、若い
世代には所得税の
負担を強いるという税制になっているという点で
世代間格差、これは
小黒参考人も
先ほど紹介されましたような
世代間格差が税制ではなかなか是正できないという現状であります。
それから、グローバル化への対応ということでいえば、中国、韓国、アジア諸国ではかなり低い企業の税
負担というものがあるわけですが、我が国は
アメリカと並んで法人税率が高いという
状況がある。
それから、
財政健全化は、
先ほど触れましたように
借金の累増が止まらないという意味で十分な税収が確保できていない。
さらには、今日は余り重立って触れませんが、地方分権を進めるならば農村部でも十分な税収が入るような税収構造を持たなければならないわけですが、沖縄と東京の税収格差というのは、東京の一人
当たりの税収というのは沖縄の一人
当たり税収の三倍という、この格差が地域間であるというような地方税制になっているので、こういったものはそれぞれ一つ一つ解決していかなければならないという意味においても、
社会保障の
財源を確保するということと同時に、こういった課題に備えるためにも税制改革を抜本的に行っていくということは急務の課題であろうというふうに思います。
その中で、残念ながら今まで我が国は支出に見合うだけの税収を確保してこなかったと、それだけ
借金を膨らましてきたということなので、減税をどしどし行うような税制抜本改革というのは残念ながら今後できません。むしろ、増税を国民にお願いしなければならないという方向に変えていくということしか方向は残されていないわけですが、増税をすれば
経済成長を阻害するではないかということは当然懸念されます。
ですから、私が思うのは、ある程度の税収確保のためには税
負担を国民にお願いしなければならないのはやむを得ないにしても、できるだけ
経済成長率を下げないようにするような税の取り方というのはないのだろうかということは、一つの税制改革の焦点として検討する重要な一つのポイントであろうというふうに思っています。
結論から申しますと、実は法人税、所得税、消費税、それぞれ多くの税収が上がっている税目がありますが、重立った税収が上がる税目の中で
経済成長率をできるだけ阻害しないようにするということ、この一点に関していえば、実は所得税や法人税よりも消費税の方が
経済成長率を下げないで済む税目であります。
例えば、同じ十兆円の税収を得るにしても、所得税や法人税よりもそれを消費税で賄った方が
経済成長率は下がらないで済むと。もちろん、増税すればするほど
経済成長に悪い影響を与えるという
可能性はあるわけですが、得なければならない税収は、確保しなければならない税収はやむを得ず国民に御
負担をお願いしなければならないわけで、それを前提としたならば、どの税で取るならまだましかという観点でいえば、消費税の方がまだましだろうというふうに思います。その根拠は九枚目の
スライドに研究を紹介しております。
それから、
社会保障の
財源として消費税を考える上で、幾つか利点があるというふうに思っております。
それは、まず一つは、消費税というのは景気の変動に左右されにくい税収ということで、景気が良くても悪くてもある程度皆さん消費されるということで、
社会保障の
給付というのは、景気が良ければ減らして景気が悪ければ増えるというほど景気によって年金の
給付が増えたり減ったりするというものではありません。ですから、
社会保障の
給付のための
財源というのはできるだけ景気の変動を受けにくいような形で収入が入ってくるものにした方が望ましいという、そういう一つの性質があろうかと思いますが、これは所得税や法人税よりも消費税の方がそれを担える資格があるということであります。
それからもう一つは、後で詳しく申し上げますが、なかなか所得税だと高齢者から御
負担をお願いするというのが難しいと。もちろん、高齢者の
方々は既に年金
保険料を中心として若いときに既に御
負担をなさっておられて、更に高齢者になってからもまた税という形で
負担を求められるのかという御不満は聞こえてくるわけでありますが、あいにく、
先ほど小黒参考人が御紹介になったように、残念ながら我が国の
社会保障をめぐる受益と
負担の
世代間格差があります。今の若い
世代は今の高齢者よりも
負担の割には
給付が受けられないという、そういう
状況がありますので、やはりここは
世代を超えて
負担を分かち合っていただくということが必要なのではないかというふうに思います。
その意味においても、社会
保険料や所得税だと勤労
世代に
負担が集中してしまうという問題が残ってしまいますので、消費税によって高齢者の
方々にも御
負担をお願いすると。もちろん、そのためには年金
給付の物価
スライドには工夫が必要ですけれども、消費税をお願いすることで高齢者の
方々にも御
負担をお願いして、
世代間格差をできるだけ広げないようにするという点も消費税というものは利点としてあると思います。
所得税がなぜ高齢者の
方々から余り御
負担をいただけないものなのかといいますと、典型的にいえば所得税制の中に含まれる公的年金等控除と言われるものであります。高齢者の方で年金
給付をたくさん受けておられる方がおられるわけですが、そのほとんどの
部分は課税対象所得から外れる形で控除されます。したがって、この
スライドの十二枚目にありますように、七十歳以上の世帯で半分以上の、五〇%を超える世帯が所得税非課税ということであります。それに比べて、四十代、五十代の世帯主の世帯では年間に五十万円以上の所得税を納めておられるという
方々が相当数いらっしゃると。
さらには、社会
保険料ももっと顕著でありまして、年間に八十万円以上の社会
保険料を納めておられる四十代、五十代の
方々がその
世代の中の半数おられるわけですが、高齢者の
方々は五万円から十万円といったところがより多い階層ということになっております。
老いも若きも消費が多ければ消費税を多く納めるということですので、これには
世代間で特に顕著な差異はないということでありますので、そういう意味では、今の
日本の所得税制を前提とすれば、若い
世代に集中して所得税や社会
保険料の
負担が及んでいるということになっているという点はこれから改善が必要なのではないかというふうに思います。
それから、実は残念ながら消費税、今五%でありますが、その五%の消費税だけでは十分に今後の
社会保障の
給付の
財源を賄い切れないということを十九枚目の
スライドでお示しをしております。
消費税は、御承知のように、全てが国庫に入るわけではありません。税率五%分のうちの一%分は地方消費税となり、四%分のうちの二九・五%は地方交付税の
財源となっておりまして、四%の国税の消費税のうちの七〇・五%分、税率に換算いたしますと二・八二%分が消費税としてこれを国のための支出に充てることができるということになります。したがって、この十九枚目の
スライドの水色の
グラフで「消費税収(国分)」と書いているのは、税率に直しますと二・八二%分の消費税収ということで示しております。
御承知のように、今も予算総則では高齢者三経費を消費税の
財源を充てるという形で示されておりますけれども、昨年度の予算でいいますと、高齢者三経費は十六・六兆円あったわけですが、二・八二%分の消費税は六・八兆円ということで九・八兆円の
財源不足と。もちろんこれは、残りは所得税とか法人税とか
赤字国債とか様々な、色は付いていないけれどもその収入が充てられているということで、消費税だけでは十分に賄い切れていない。これが二〇二〇年になりますと、更に高齢化によって
給付が拡大するとともに、景気が良くなったとしてもこのすき間が埋まらないというような
状況。つまり、
経済成長で税収が増えるというスピードよりも、高齢化によって
社会保障給付のために投入しなければならない税
財源が増えると、そっちの方がスピードが速いということを意図しているわけです。そういう意味では、しかるべき時期にきちんと
財源を確保できるような増税が求められると思います。
残り時間僅かですので簡単に残りの論点を触れさせていただきたいと思いますが、消費税は逆進的だと、低所得者により重い
負担を課すのではないかという話がありますが、逆進的というのはある一年、単年度を取ったときには確かにそうであります。高齢者は貯金をする、その貯金をした分には消費税は掛からないので、消費した分だけしか掛からないので、例えば低所得の方が百万円稼いで百万円を消費すればその分の五%の消費税が掛かるということに対して、高所得の方で、四百万円稼いだけれども二百万円しか消費しなかった場合にはその分の消費税しか払わなくて済むので
負担率は二・五%になるというようなことで、これを称して、より高所得の人ほど税
負担が低いということで逆進的だということですが、実は高所得の方も、生きている間にその貯金を取り崩して消費するということになりますと、消費したときに消費税を
負担するということになりますので、実は消費税というのは所得に対して比例的な税だと言うべきであります。ただし、消費税は累進的な税ではない。つまり、高所得の人により多く
負担を求めるというものに適したものではありません。
ですから、その意味においては、もし累進性を担保するべきだということであるならば、やはり所得税でその累進性を担保すると。ただし、所得税ばかりであると、勤労
世代に
負担を求めたり、さらには
経済成長に悪化の影響を与えたりということになりますので、そのバランス、消費税で取るということと所得税で取るということとのこのバランスが重要なのではないかというふうに考えております。
それから、
あと最後に一点だけ申し上げたいんですが、
社会保障に関連して、
社会保障の
財源は御承知のように税と
保険料の二つから重立った収入を得ておりますが、
保険料をこれ以上引き上げたくないということから、国庫
負担をもっと増やすべきではないかという
議論があります。ただ、私が思うのは、どうも国庫
負担というと、それがスケープゴートになってはいないのかと。国庫
負担といえども国の税で賄うべき
財源というものでありますので、国民が広く
負担を分かち合うということであります。
確かに、目先の
保険料を上げたくないということで、それを税
負担で
保険料が上がらないように措置してもらえないかという
意見はあります。ただ、
保険料が上がらないからそのほかに何ら
負担増はないと、あたかも打ち出の小づちであるかのように、
保険料を引き上げないで国庫
負担を増やすということで物事が解決するかというと、それはそうではない。国庫
負担を増やすということは、すなわち、国税による
負担を増やさない限りこの国庫
負担をきちんと賄うことはできないという点には留意すべきなのではないかというふうに思っております。
以上です。どうもありがとうございました。