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参考人(
池上清子君) 改めまして、皆様こんにちは。
国連人口基金東京事務所の
池上と申します。二十分ほどお付き合いいただければと思います。
まず
最初に申し上げたいことは、皆様に対してお礼です。というのは、
地球環境それから食糧という問題を考えていくこの
調査会の中で、本当は、包括的に考えていただくということであれば人口問題というのはその基本にいつも上がってくる問題です。というところで、人口問題を忘れずに今日呼んでいただけましたことをまず
最初に感謝したいと思います。ありがとうございました。
私は、今国連人口基金というところで
仕事をしておりますけれども、NGOとそれから国連の組織で三十年以上、開発の問題というのを現場で取り組んでまいりました。ということで、今日お話しさせていただきます内容は、開発ということを考えつつ、人口とそれから水、
環境という大切な、重要な課題についての接点を
途上国の現場を含めて皆様と一緒に考えていければというふうに思って今日参りました。よろしくお願いいたします。
ということで、今日はこの四点ほどをお話しさせていただきたいと思います。(
資料映写)
最初に、人口問題についてお話ですが、ここに書きましたように、二十世紀、まあ十九世紀から二十世紀にかけて人口は非常に大きく増えてまいりました。今年、七十億人に
世界人口がなります。ここにありますように、二〇五〇年には、これは予測ではありますけれども、九十二億人になるだろうというふうに言われております。これからまだ二十二億人ほど増えるということですが、
日本におりますと少子高齢化という
社会問題がいつも耳に入ってきますし、非常に重要な問題ですけれども、
世界的に見ますとまだ人口は増えております。
一年間に七千九百万人増えていって、この七千九百万人というのは、ドイツの人口が八千三百万人ですから、ほぼその同じくらいの、ドイツと同じ国が毎年増えているという感じで、問題はもう
一つありまして、その七千九百万人の九五%が開発
途上国で増えているというところです。ここに書きましたように、特に人口が三倍くらいに増えるという国はこの赤い文字で書いた国です。ほとんどがサブサハラのアフリカの国です。
人口問題と
環境問題の接点ということですと、現象的には、人口が増えるということから、農地の劣化があったり森林が減ったり水不足になったり都市化になったりというふうな現象としては出てまいります。
もう
一つ、これ、私が実際にサハラ砂漠の近郊の村で見た話なんですけれども、サハラ砂漠が広がっている、砂漠化というふうに
環境問題として上がってきますけれども、砂漠が増えているというか、砂漠が拡大しているということ自体は、本当に雨が少ないから、
環境が変わった、状況が変わったから砂漠化が増大しているのか、拡大しているのかということですが、実は、それもありますが、もう
一つ大きな問題があります。
それは、砂漠の周り、周辺に住んでいる私たち
人間なんですけれど、そこが、家族がどんどん増えてまいります。そうすると、家族が増えると、そこに家族を養うために食料をたくさん作らなければいけない、また、薪を取ってきて御飯を作らないといけない、そして家族を養うためにヤギとか砂漠でも飼えるような動物を飼う。そうすると、ヤギは草を食べますが、草は、草だけだったらいいんですが、ヤギは草の根っこまで食べてしまう。ということで、ヤギが通った後には何も残らないというふうに言われるくらい、そしてそこから砂漠が広がっていくということが言われています。私もその現場を実際に見ましたけれども、やはり
人間の生活ということと
環境というところというのがそんなふうに非常に密接につながってきているということです。
ちょっと古い話で恐縮なんですけれども、皆さん、ポール・アーリックというアメリカ人の学者を御存じかもしれません。「ポピュレーション・ボム」という、人口の爆弾という本を出した人なんですけれども、いまだにこのポール・アーリック以来、私はこれ以上人口と
環境の問題を非常に的確に簡単な数式で求められるものを提示した人はいないというふうに思っていまして、それがこれです。
人口にというか、
人間が
環境に与える
影響というもの、インパクトと考えた場合には、それは掛け算で、ポピュレーション、人口の数が多くなる、又は一人
当たりの豊かさが上がってくる、レベルが上がる、そしてテクノロジーが上がる、テクノロジー、技術のところだけは分母になりますけれども、この掛け算で
環境に対するインパクト。ですから、もちろん人口が増えるということになりますと
環境へのインパクトというのが大きくなってくるということになります。
今、プラスとして考えられる、今の数式の中で、私たちが
環境を考える上でプラスとして考えられることというのは技術が革新的に伸びているということで、省エネやエコの技術というものが進歩してきているということが言えると思います。
気候変動が実際に私たち一人一人の
暮らしにどう
影響があるのかというところですけれども、海面の水位が上がるですとか書きました。それで、もしかすると熱中症、今までは熱帯
地域でしか考えられないような病気がもしかすると私たち
日本にも来るのではないかというふうなことも含めて様々な
影響というのが言われています。
もう
一つ、食料との
関係なんですけれども、これもまた非常に古い、マルサスの論理からなんですが、人口が増えると食料がそれに追い付かないという、人口の増加というのがネズミ算のように増えていくのに比べて、食料の供給というのが非常に
余り増えないと。増えるにしても、今この地図で、地図というか
グラフでかきました一番下の非常に増えない真っすぐ平らに近いというふうな
グラフでしか表しにくいということがあります。
先ほど来、
環境、水、食料というお話がされてまいりました。ここで、穀物の需要ということも
一つございますので、ちょっと見ていただければと思います。
途上国で人口が増えたり所得が増える、これ自体は、所得が増えること自体は喜ばしい話であるわけですけれども、生産量と消費量というのがこういう形で、行きつ行きつつというか、抜かれ抜かれつつというふうな、こういう形で増えてまいりました。今、多分穀物の問題というのは投資の対象になっていて、アグフレーションというところが多分一番、要するに、食料の価格の高騰は投資によって引き起こされつつあるというところではないかと思います。
様々の大きなところから見てまいりましたけれども、ちょっと安全な水という今日の水のテーマのところでもう少し皆様に地図を見ていただきたいんですけれども、これが安全な飲料水が入手できるかどうかというところです。青色が強くなればなるほどですけれど、薄くなったりというところが悪い国です。これ一見して明らかなように、南アジアとそれからアフリカというのが悪い
地域というふうに言えると思います。
それでは、これからどういう形で水が不足してくるのかという、これはエンバイロメント・カナダというカナダのNGOが出している数字なんですけれども、推測ですが、特にこのピンク色のところを見ていただければと思います。このピンクの色がやはり多いところは、南アジアとサハラ以南のアフリカです。このピンクというのは、二〇二五年に新たに、現在ではないですが、二〇二五年ころになって、又はそれまでに水不足又は水のストレスを抱えるであろうと予測できる国です。
ですから、こういう国がどういう国なのかというところをもう少し見てみたいというふうに思いますが、その前にちょっと円
グラフのところを、左側を見ていただければと思います。
二〇〇〇年と二〇二五年の
世界人口をそれぞれ書きましたが、その中で水が十分行き渡るというところが、六十一億人の二〇〇〇年のときでは九二%がまあまあであったにかかわらず、二〇二五年では六二%に減少していくという統計がございます。
それでは、この水不足の国というところで人口指数を見ると何が見えてくるかというところです。
二〇二五年までに水不足に陥るであろうという国にとって水不足の原因というのは様々あると思いますけれども、この人口の指数というところから見えてくることは二つ大きくあると思います。
一つは、人口の数の多いところにやはり問題が起きているというところ。もう
一つは、TFR、合計特殊出生率が高い国で、つまり一人の女性が一生涯にたくさん
子供を産むという傾向が多い国でやはり水不足の傾向があるというところが言えると思います。
というのは、開発途上
地域の平均と、それから皆様、一番右側の合計特殊出生率のところの各国を比較していただければ非常に明らかだと思います。
途上国の平均で二・六七人、一人の女性が生涯で
子供を産んでいますけれども、この今取り上げました水不足になりそうな国、これイランを除きですけれど、ここは非常に
子供の数というのが多くなってくるということが明らかだと思います。
もう
一つ、
途上国で森林がどうやって減っていくのかということについては、主な原因というところで
最初に来ますのが、やはり人口増加ということが言われています。これはFAOのデータです。
問題は、様々、開発が進んでいかない、又は開発が進む途中のプロセスである開発
途上国がこういった
環境の問題に直面しているということです。つまり、二〇五〇年に、もう
一つ人口の問題で申しますと、開発が進まない、つまり
経済的にテークオフできないまま
環境をどうにかしなければならないとか、人口問題でいいますと、高齢化する
社会に突入するということです。ですから、開発が進まないうちにもう
一つ大きな課題、
環境、人口というふうなところを抱えざるを得ないというのが今の開発
途上国の
現状であります。
ここに書きましたが、赤字で書きましたが、インフラの不備ということ、
資源の配分の格差、この辺をどうにかしなければならない開発
途上国であるにもかかわらず、その
資源、また人的な
資源と両方ですけれども、それが整わないうちに問題が早く来てしまうというところです。ということですので、今、
社会開発というところが非常に重要な
視点となってくると思います。
人口と
環境というのを結び付ける戦略ということで、教育というのを
一つここを事例として挙げましたけれども、そういった取組ですとか、女性がもう少し
自分たちで考え、
自分たちの声を出せるような、これ
途上国での話ですけれども、女性の能力を開発していくというふうなところももう
一つ重要だと思われます。
特に
社会開発を進めるという意味では、ミレニアム開発目標というのが今一番大きな開発の枠組みとして
世界で実施されています。皆様の今お手元に「国連人口基金」というオレンジ色のパンフレットを置かせていただきましたが、その裏面を見ていただければと思います。ここに、細かくターゲットまで書き入れましたミレニアム開発目標の、二十一のターゲットありますけれども、それまで入りましたミレニアム開発目標を入れさせていただきました。
MDGsに関しまして、特色として、
社会開発ではありますけれども、特に人権ですとか成果というものを重要視しています。
日本を含む
先進国にもターゲットとしてありますけれども、主に一から七までのこのMDGsの目標は、七の
環境の部分は別途として、一から七に関しては開発
途上国が実施するという責任を負っているものです。
先進国は、七の
環境とMDGsの八のグローバル・パートナーシップというものが
先進国の責任と言われているところです。
目標の七に関しましては、二〇一五年までに改善された水源を手に入れる、そして、入らない
人たちの人口を半減させるということなんですけれども、今、この
グラフを見ていただきますと、徐々にではありますが、
世界的にはうまくいきつつある。ただ、これはサハラ以南のアフリカでこれが達成できないというところです。
目標の七、もう
一つ、水、衛生に関するというところですけれども、これのところは、本当に難しいところで、下
水道などを含めますと、
世界人口の三九%が利用できないというところです。よく言われる数字ですけれども、この目標七を達成するというためには、もうあと四年しかないわけですけれども、十三億人に
水資源を、水源を提供しなければなりませんし、十七億人に基本的な衛生設備という話で言われています。
じゃ、具体的に
途上国でどういう問題があるのかというところなんですけれども、これ
調査、イギリスのDFIDという開発庁が、これ政府系の開発援助庁ですが、
調査したものをここに載せました。ウガンダ、ケニア、タンザニアですけれども、先ほどもお話ちょっと出ましたけれども、水をくむという作業、
水くみは女と
子供の
仕事だというふうに言われています。この女と
子供の
水くみ作業というのが、ここに書きました平均で一時間四十分掛かると。この一時間四十分が短縮できれば何ができるかというと、もう健康に対してプラスにもなります。これは身体的な負担というのが減りますし、それから教育やそして家族と一緒に過ごすというふうな時間に使うことができるということで、この女性に対して投資をしていくことというのが
環境に対してプラスの、非常に大きなプラスの
影響があるということは、やはり皆様のお手元に配らせていただきました
世界人口白書の中に書かれて、触れていますので、是非後で見ていただければと思います。
では、あと残された時間で、
日本のどういう取組が現場で行われているかということについて御
説明させていただきたいと思います。
これは、実際にこれ私が撮りました写真なので、
余り写真の画質が良くないので失礼いたしますけれども、これはセネガルの事例です。JICAの実施している水のプロジェクトのところを視察させていただいたときのものですが、以前の、このJICAのプロジェクトが入る前の
水くみ場というところがまだ残っておりまして、こういうふうになっていました。そして、これは安全な上水という、確保をするということで、これが給水塔が百か所以上になりましたと。
ポイントとしましては、これはできていますけれども、一番大きな
ポイントは何かといいますと、料金を徴収しているということなんです。ただではありません。これはJICAが造った施設ではなくて、その後の水の利用をする、進めるというときに料金を取っています。一家族十円くらいなんですね、
日本円に直しますと。
ただ、それは家族の
人数が多いと十円よりちょっと多いですし、少なければ少なくなるというふうな形なんですけれども、これはボランティアの方たちが
一つの組織をつくって、そして運営をしている。その徴収した
お金というのが、造ったこの機材の修理費などに使っているということです。
この水タンクができてからどういう村で変化があったかということなんですけれども、これは病気や流産が減ったということが保健所の方からありました。それから、
水くみをしなくてよくなったということで就学率が、特に女の子の就学率が上がったということなどなど言われています。
もう
一つ、
日本のNGOの
活動を御紹介させていただきたいと思います。
JOICFPというNGOですけれども、これは中米のグアテマラで保健
委員会というやはり住民組織をつくって、こういった水の感染症からどういうふうに防ぐのか、
自分たちが健康を守っていくかということで、
子供の検便の学校保健というものを推進しています。手洗いコンクールというふうなことを推奨しつつ、検便をして、そして
子供たちが健康になっていって、水のことを考えるということを親にも伝えていけるような形にしています。おかげさまで、この村では、周りがコレラがはやったときにも一人もコレラ患者を出さずに済んだという記録が残っています。
もう
一つ、女性の教育と
子供の健康、そして水ということの関連ではORTというものが言われています。経口補水療法ということなんですけれども、これは、
途上国では一番
子供の死亡原因というのが脱水症、下痢からくる脱水症です。そうしますと、下痢という、脱水症というところで、ここの時間稼ぎをすることによって
子供の命というのを助けることができるんですが、これは安全な水と少々の食塩又は砂糖、〇・七%の食塩水、砂糖水を作って、それを
子供に飲ませると脱水症が一時的に収まります。ですので、お母さんたちが
子供を脱水症で死ぬ前に医療機関まで走って連れていく、又はトラックに乗せてもらって連れていくという形で生存率につながります。
最後ですが、水、
環境についての国益と
地球益の接点ということについてお話をちょっとさせていただければと思います。
環境に関して
世界の
CO2の排出量というものの統計を見ますと、九七年と二〇〇八年の比較をしてみますと、
先進国が排出しているのが五八%から四六%に実質減っています。アメリカが離脱しているということではありますが、アメリカを入れて四六%です。ということは、今は
途上国、そして新興国というのが非常に重要な課題として浮かび上がってきます。インド、中国、そして
途上国の問題ということです。
途上国ということになりますと、もう一度人口の話に、人口の圧力というところに戻らせていただきますけれども、今年の人口推計と二〇五〇年の推計というところを見ていただきますと、二〇五〇年に
先進国はアメリカ一か国だけが入っていて、これトップテンの人口を有する国ですが、インド、中国以後以後、全部以下
途上国になっているということです。
皆様、政策決定者ということで、是非このレスター・ブラウンが言っているところにも着目をお願いしたいなと思って、今日はここに
グラフとして持ってまいりました。
レスター・ブラウンには直接、図表化していいかということを聞きましてオーケーをもらいましたので、今日皆様にこうして見ていただけるわけですが、「プランB4・〇」という、今年出されたもの、
日本語版ですが、ものがございます。
その中で、軍事支出というところがずっとありますけれども、それと比べて、非常に、今まで申し上げましたような
国際支援が必要だと、目標を達成するために必要だというのはこの一番右側の数字なんです。黄色いところなんですね。それ全部足してもこの数字にしかなりません、初等教育全部
世界中に行き渡らせても。それから、例えばHIV予防のコンドームを全員に渡しても、ここに基礎教育、保健全部やってもこの黄色にしかなりません。この黄色の額、六十二と書きましたが、というのがアメリカやロシアや中国の軍事的なものの予算と比べるといかに少ないかというところが分かっていただけると思います。
最後に、
日本の
国際的な役割への期待というところで幾つかあると思うんですけれども、技術移転、ここが非常に重要だと思います。
環境保全というところだけではなくて、それをサポートするインフラの整備ですとか、それからその国全体の開発を進めるためのデータを見ていく国勢
調査ですとかということ。
そして、ここにありますように、最貧層、
社会的に弱い立場の
人たちに直接援助が行くようなというところ。
そして、
社会開発でありますけれども、実は内閣府の
調査によりますと、
日本のODAの中で、ODAをサポートしてもいいと皆さんが考えていらっしゃるところというのが、第一位が保健医療、第二位が衛生と水、第三位が教育という結果が出ています。ですので、今日のテーマであります水につきましても、
日本の
人たちはかなりサポートをしていただけるのではないかなというふうに思います。
できれば
途上国との共生というところを視野に入れつつ、国益と
地球益が対立するものではない、これが同じ方向を向いているというところで包括的な政策を是非お願いしたいと思います。
どうもありがとうございました。