○逢見
公述人 連合で副
事務局長を務めております逢見です。きょうはよろしくお願いいたします。
連合は、働く者の立場から、
我が国の経済社会の
状況を克服し、希望と安心の社会づくりに取り組んでおります。具体的には、デフレ脱却・消費回復に資する経済対策と
雇用の創出・人材育成、そしてワーク
ルールの
確立によるディーセントワークの
実現、社会的セーフティーネットの強化を三本の柱として、さまざまな政策
課題に取り組んでおります。
本日は、こうした考え方や問題認識を示し、
予算委員会における審議においてぜひとも反映していただくようにお願いをいたします。
お手元に資料もございますので、逐次それも参照しながら
意見を申し上げたいと
思います。
連合は、これまで、目指すべき社会の
あり方として掲げてきた、労働を
中心とした福祉型社会というのを約一年かけて再定義、深化させて、働くことを軸とする安心社会というのを
ビジョンとして掲げました。
二〇〇八年のリーマン・ショックに端を発した
世界同時不況は、それまでの新自由主義的な政策などによってもたらされた格差あるいは貧困、社会の不条理といった問題に対する反省を
世界と
日本に促し、根本から問い直しを求めてきたのではないかと
思います。
労働の尊厳、労働の価値を軽視してきたこれまでの経済政策や社会政策を転換させるべく、時代の潮流は明らかに変わってきていると
思います。ILOが提起するディーセントワーク、
日本語では働きがいのある人間らしい仕事というふうに訳しておりますが、こうしたディーセントワークはこのような背景を踏まえた
世界へのメッセージでもあると考えております。
こうした
世界的な潮流変化の中で、パラダイムの転換が始まっております。すべての働く者、そして働くことを願う者の利益を結びつけ、新しい社会を切り開いていくことが求められております。このような問題意識から、働くことを軸とする安心社会、すなわち、働くことを通じて支え合う希望と安心の社会を築くために全力を挙げることといたしました。
働くことを軸とする安心社会は、働くことに最も重要な価値を置き、だれもが公正な労働条件の
もと多様な働き方を通じて社会に参加でき、社会的、経済的に自立することを軸として、それを相互に支え合い、自己
実現に挑戦できるセーフティーネットが組み込まれている、活力あふれる参加型の社会であります。だれもがいつでも働く
機会、参加の場を得ることができるという安心が、人々の希望につながる社会のかなめとなります。
お手元の資料に図表一というのがございますが、ここには五つの安心の橋というのがかけられております。
すべての人々に、人間的で誇りの持てる働く
機会が保障されなければなりません。しかしながら、安定した職が得られないでいる若者、育児や介護のために就労をあきらめざるを得ない労働者、
障害のある人々など、困難を抱えている人々が多数
存在いたします。こうした困難を取り除き、働くことを人々に結びつける安心の橋がかけられなければなりません。それは、意思があれば自由に行き来ができる橋であります。
橋の1というのが左側にありますが、これは教育と
雇用を結ぶ橋であります。
学業を終えて社会に出る前に、働くこととつながっている社会であります。学卒未就職といった事態は避けねばなりません。また、教育の場でしっかりとした職業観をはぐくむことも重要であります。
橋の2は、家族と働くことをつなぐかけ橋であります。
その
一つとして、出産から子育てに至る一連の
課題が挙げられます。
我が国が人口減少社会に転じており、合計特殊出生率が回復傾向にあるとはいうものの、人口の減少傾向には歯どめがかかっておりません。子育て費用、教育費の負担、貧困層の増大、不安定
雇用の増大による将来不安などにより養育費用が
確保できないことなど、少子化の原因は多岐にわたっており、まさに切れ目のない安心を
実現するための総合的な対策が必要であります。
また、人々を
雇用に結びつけると同時に、その
雇用が人間的で誇りの持てるもの、すなわちディーセントワークの
実現が求められます。それが橋の真ん中にある3であります。
我が国でこれを
実現するためには、仕事の価値に見合った所得、職場コミュニティーとそれを支えるワーク
ルールの
確立、ワーク・ライフ・バランスの
実現が不可欠であります。
働くことを軸に支え合う安心社会とワーク・ライフ・バランスを追求するということは、矛盾するものではありません。ワーク・ライフ・バランスこそが、
雇用の質を高め、より多くの人の就労を可能にするものであります。労働力の質の向上が労働生産性を向上させ、従業員のより豊かな暮らしにつながるとともに、やりがい、働きがいのある職場をつくり、それが
企業価値の向上にもつながっていきます。
職業訓練などの積極的労働
市場政策を充実させ、生涯教育を拡大し、ワーク・ライフ・バランスを定着させるならば、質の高い労働力による
成長戦略が可能になります。
国際的にも質の高い労働力によって培ってきた
我が国のすぐれた技術力、開発力を維持強化しつつ、それをベースに、
成長が期待できる
産業分野に積極的に進出し、
雇用機会をつくり出していく必要があります。例えば、環境
関連の分野、再生可能エネルギーの分野、住宅、施設のエネルギー効率改善など、新しい分野で
雇用機会をつくり出していくことが可能であります。
また、これまで地域経済を支えてきた建設業や、農林水
産業といった第一次
産業にも新しい可能性が芽生えております。環境保全や安全を高める分野の公共事業には強いニーズが生まれております。農林水
産業などの第一次
産業については、商工との
連携による第六次
産業化や国産材の活用などで
雇用を拡大し、地域を活性化させることが可能であります。
働くことを軸とする安心社会は、だれもが自己
実現に挑戦できるセーフティーネットが
整備され、生涯を通した切れ目のない安心を提供する社会であります。橋の4のところには、失業から就労へのトランポリン型の社会のイメージが描かれております。
今国会は、デフレ脱却、
雇用対策に資する
予算措置、あるいは
平成二十三年度税制改正、求職者支援法案、
雇用保険法改正案、そして労働者派遣法改正案など、国民生活、
日本経済にとって極めて重要な法案が審議されることになっております。その中から、特に重要と考える
課題について、連合の考え方や問題認識を述べたいと
思います。
まず第一は、新
成長戦略の着実な推進であります。
デフレを脱却し、
日本経済を持続的、安定的な
成長軌道に乗せるためには、まずは、昨年六月に取りまとめられた新
成長戦略を着実に推進し、
雇用の創出、維持を図る必要があります。
雇用情勢は依然として厳しい
状況が続いております。特に、ことし三月の新卒者の内定率が五七・六%と過去最低水準になっているなど、若者、新卒者の
雇用状況は深刻であります。
政府は、昨年九月に三段構えの経済政策を掲げ、予備費の活用、二〇一〇年度補正
予算として新卒者、若年者
雇用対策を打ち出しております。また、昨年十二月には、私ども連合の参加した
雇用戦略対話において
雇用戦略・基本方針二〇一一がまとめられ、その中で、
雇用をつなぐ、つくる、守るという三本柱による政策がまとめられました。
平成二十三年度
予算案では、特別枠を活用して、若年者
雇用対策となるキャリア
制度の
構築などが示されております。
また、新
成長戦略に関して、昨年末に国内
投資促進
プログラムが取りまとめられております。国内
投資促進が
雇用を創出し、さらなる
成長につながっていくという好循環が求められます。そのためにも、
官民それぞれが
課題を克服し、行動目標の
実現に向けて取り組んでいくことが重要であり、私ども労働界も協力をしていきたいと思っております。
経済対策で示された若年者、新卒者の
雇用対策の効果を高め、改善を図る上でも、また新
成長戦略を早期に
実現するためにも、
平成二十三年度
予算の早期成立をお願いしたいと
思います。また、
予算と一体となる
予算関連法案についても、できるだけ早期の成立をお願いしたいと思っております。
次に、社会保障
制度と税の一体改革について、所見を申し述べたいと
思います。
言うまでもなく、
日本は、
世界でも類を見ない超高齢化の進行、労働
市場の
規制緩和と非正規労働者の増大、貧困と格差の拡大など、国民の生活をめぐる
状況は大きく変化しております。
図表二に示してございますように、生活保護世帯は、二〇一〇年十一月時点で百四十万世帯を超え、増加の一途をたどっており、十年前と比べて約一・八倍となっております。
日本の相対的貧困率は一四・九%であり、OECDの二〇〇〇年代半ばのデータではOECD平均を上回っており、子供の貧困などが深刻化しております。これは図表三に示されたとおりでございます。
しかし、こうした社会経済の変化に社会保障
制度を初めとしたセーフティーネットが十分機能しておらず、人々に将来の不安を抱かせております。
現在、連合は、新しい社会保障
ビジョンとそれを支える税制改革の大綱の
策定に取り組んでおります。その中で、幾つかの点を述べさせていただきたいと
思います。
まず、必要なことは、全世代型の社会保障体系を
確立するということであります。
従来、社会保障機能の多くを家庭や
企業が担っていたために、
日本の社会保障体系は高齢期にシフトしたものとなっておりました。今後は、生産年齢人口の減少によって、社会保障の支え手の減少も危惧されております。
社会保障を支え、社会経済を活性化させるためにも、子供や若者など次世代の育成を積極的に進め、社会の持続可能性を重視する必要があります。人生前半期、子供や若者の育成支援、現役世代への就労支援を重視した全世代型の社会保障体系に改革をすべきであります。
イメージとしては図表四のようなものでありまして、従来、高齢期に偏重してきた社会保障政策の体系、そして若年期に手薄であったものを全世代型に移すべきだということであります。
そのためにも、
雇用保険と生活保護の間を埋め、労働
市場への復帰を図る第二のセーフティーネットである求職者支援
制度の
確立は不可欠であり、求職者支援法の早期成立をお願いしたいと
思います。
三層構造による社会的セーフティーネットの構想は、図表五に示されている部分でございます。
また、子供、子育てを社会全体で支える
仕組みの
構築、すべての子供の子育ての権利が保障され、子供の貧困が解消される社会、安心して妊娠、出産、子育てができるような切れ目のない子育て支援
サービスの
整備も重要であります。
連合は、子供、子育てにかかわるすべての政策と財源を子ども・子育て基金といったものに統合し、総合的かつ体系的な支援策を
構築すべきと考えております。
次に、税の再分配機能の強化と財源調達能力の回復についてでございます。
社会保障の財源構成は社会保険と税を基本とし、社会保障と税の一体改革を通じて、国民合意の
もとに安定財源を
確保する必要があります。
この二十年間、所得税のフラット化や資産課税の軽減等によって税の再分配機能が弱っております。一方、給付面では、社会保障費の伸びの抑制が継続されてきたことによって、社会保障と税全体を通じた再分配機能が弱まった、このことへの対応が必要と考えております。
図表六の一と図表六の二に、それぞれの再分配効果の国際比較が載っております。
こうした現状を打破するためにも、公平、連帯、納得の理念に基づいた税制改正を行うべきであります。具体的には、納得を高めるための納税者の立場に立ったわかりやすい税制、公平を高めるための税と社会保障を通じた所得再分配機能の強化、連帯を強め、少子高齢化を支える税制、地方分権とバランスのとれた地方税財源の改革、経済と環境を両立するための税制、グローバル化への対応、経済
成長と持続可能な財政基盤の
確立といった視点での改革が必要であります。
また、社会保障の財源は、税だけではなく、社会連帯を基礎に重層的に組み立てられているわけでありますが、特に社会保障については、労使や利用者などのステークホルダーが参画する社会保障基金の設置など、社会保障全体の総合的なガバナンス機能の
確立が必要と考えております。
それから、社会保障・税の共通番号について、一言申し上げたいと
思います。
一月に、社会保障・税にかかわる番号
制度についての
政府の基本方針が取りまとめられました。この共通番号
制度は、連合も以前から導入を求めてきたことであり、その
実現に向けて一歩前進したことは高く評価しております。
今後は、国民各層の納得と理解を得ながら、法
整備や運営体制の検討、
整備を図っていくこととなりますが、できるだけ早期導入に向けた丁寧かつ慎重な議論、
情報発信をお願いしたいと
思います。
また、地球温暖化問題についても、一言申し上げたいと
思います。
働くことを軸とする安心社会の
構築には、グローバル化の負の側面を克服し、持続可能な社会の
構築に向けて、
我が国が国際的にも役割と責任を果たすことが求められます。その中で、地球温暖化対策は大変重要な
課題の
一つであります。
昨年十二月に開催されたCOP16で、カンクン合意が採択されました。
日本政府は、京都議定書の枠組み単純延長の回避に向けて、すべての主要排出国が対象となるコペンハーゲン合意をベースにして、公平で実効ある枠組みの
構築を目指すとした方針を堅持して、
最後まで粘り強く交渉を行いました。その結果については、我々も高く評価しております。
ことしの十二月にはCOP17が開かれるわけですが、それに向けてさらに厳しい国際交渉が続くことが予想されますが、これまでの方針を堅持し、公平で実効性のある新たな国際的な枠組みを
構築すべきであります。また、カンクン合意の
実現に
日本も積極的に貢献するとともに、地球全体での排出量削減に向け、新興国に対する技術や
資金援助など、新たな提案を行っていくことも必要であります。
国内的には、エネルギー基本計画で、二〇三〇年に一九九〇年比でエネルギー
関連のCO2を三〇%もしくはそれ以上削減する見通しを示しております。これを
実現するため、新
成長戦略において、グリーン
イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略というのを
政府は掲げ、環境
関連の新規
市場、新規
雇用、温室効果ガス削減量の目標を打ち出しております。
環境と経済の両立、そして
雇用の拡大を図るとともに、
世界全体の温室効果ガス排出量の削減に貢献していくためにも、グリーン
イノベーションの推進をお願いしたいと思っております。このことが
雇用の改善、地域の活性化につながり、ひいてはデフレ脱却に資するものと考えております。
主要三施策を含む地球温暖化対策について、温暖化対策のための税については
平成二十三年十月から導入する、再生可能エネルギーの固定価格買い取り
制度については今国会で法案を提出する、国内排出量取引
制度については
海外の動向やその成果などを検証し、慎重な検討を行うこととされております。これらの結論は、この一年の知見の積み重ねの結果と理解しております。
今国会で継続審議となっております地球温暖化対策基本法案は、今後の対策を進めていく上での
我が国の基本戦略と位置づけられるものであります。主要三施策など個々の施策について、与野党協議の
もとで、国民の負担や
産業、
雇用の競争力への影響などについて
政府の方針を踏まえつつ、必要な修正を含め成立させるようにお願いしたいと
思います。
最後に、ディーセントワークの
実現に向けた公契約基本法などについて、一言触れたいと
思います。
昨年十二月、川崎市議会は、公共事業などに従事する労働者の適正な労働条件を契約事項に入れる公契約条項を盛り込みました。二〇〇九年には野田市が条例を制定し、これがやがて全国に広まるということが期待されております。
公契約で働く人たちのディーセントワークを通じた経済
成長と
雇用創出を
実現するためにも、公契約基本法などの国内法の
整備を図っていく必要があると
思います。
経済
雇用情勢はまだまだ予断を許さない
状況にあります。生活の安定と不安解消を求める国民の期待に十分こたえるためにも、
政府また国会は、建設的な政策論争と国民の負託と信頼にこたえる運営をお願いしたいと思っております。
以上で私の発言を終わります。(拍手)