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国務大臣(前原誠司君) 第百七十七回
国会の開会に当たり、
外交の
基本方針について所信を申し述べます。
私は、
外務大臣就任以来、ダイナミックに変革をする
アジア、世界の中で
日本外交がより一層建設的な役割を果たしていくために、中長期的視点に立った
経済外交を展開していく重要性を強調してまいりました。
日本は、これまで、ODAなどを通じてさまざまな国際貢献を行ってきています。そのような
日本国民の国際貢献への意志は、
国際社会で着実に評価されています。世界の
地域のほとんどで
日本人が親近感と敬意を持って迎え入れられるのも、その証左であります。
ただ、これらの
支援や
協力、例えば、教育を受けたい子供のいる村落に新たに学校をつくるのにも、新興国で発生する
環境汚染
対策のために
協力するにも、
日本自身の
経済力が基盤となることは言うまでもありません。身の丈以上の
外交を展開することは困難であるという
現実を踏まえ、
経済外交を戦略的に展開し、
我が国の土台である
経済を
強化することは、
我が国の総合的な
外交力を強めることにつながるのであります。
しかし、現在、
我が国は、
国内外でさまざまな困難や
課題に直面をしています。
国内的には、人口減少、少子
高齢化、莫大な
財政赤字という
三つの制約要因を抱えています。国外に目を転じれば、
我が国を取り巻く安全
保障環境は厳しさを増しており、
国際社会には、
環境問題やテロなど、
課題が山積をしています。資源、エネルギーをめぐる競争も激化しています。
我が国がさらなる発展を遂げるためには、これらの
変化に柔軟かつ能動的に
対応していかなければなりません。
このような新たな
地域、
国際社会の戦略
環境下で、将来にわたって平和で安定した豊かな
日本を
実現し、それに資する国際関係を構築するためには、日米同盟を基軸とした盤石な安全
保障体制が必要不可欠であります。昨年末に改定された防衛計画の大綱でも示されたとおり、
我が国自身の防衛力を
強化するとともに、日米安保体制を新たな安全
保障環境にふさわしい形で深化、発展させていきます。
また、
米国そして近隣諸国等と
協力しながら、
国際社会が直面するさまざまな
課題への
取り組みを通じて、新たな
地域の秩序
形成にイニシアチブを発揮していくことが大事であります。
大きな変動期にある
国際社会において、法の支配の
確立を一層
推進し、各国との協調
行動のもとで、
国際社会の共生に向けて主体的な
外交を展開していく
決意であります。
以上の
方針に基づき、本年の
日本外交の具体的
取り組みについて申し述べます。
まず、私の掲げる
経済外交の四つの柱、自由な
貿易体制、資源・エネルギー・食料の長期的な安定供給の
確保、インフラ
海外展開、
観光立国の
推進について御説明申し上げます。
第一の柱である自由な
貿易体制を
推進するための
取り組みといたしまして、昨年十一月に閣議決定をいたしました
包括的経済連携に関する
基本方針に基づき、各国との間で高いレベルの
経済連携を
推進してまいります。
経済連携協定に関しては、昨年、インドとペルーとの
交渉を完了いたしました。ことしも、EUやモンゴルとのEPA
交渉開始に向けて
努力するとともに、豪州等との
交渉の早期妥結と、
韓国との
交渉の早期再開を目指します。
アジア太平洋自由
貿易圏に向けた道筋の中で唯一
交渉が進んでいる
環太平洋パートナーシップ協定につきましては、
関係国との間で情報収集、
協議を開始した段階であります。
国民の
皆様の御理解や
対応策の準備などを総合的に勘案し、
協議の
状況を見きわめつつ、ことし六月をめどに、
交渉参加につき政府として判断をしたいと考えております。
また、日中韓FTA
共同研究を
推進し、東
アジア自由
貿易圏構想、東
アジア包括的経済連携構想などの
議論に積極的に参加をいたします。
世界
貿易機関ドーハ・
ラウンド交渉の早期妥結に向けても積極的に取り組んでまいります。
第二の柱である資源・エネルギー・食料の安定供給の
確保のために、在外公館を通じた情報等の集約に一層努めるとともに、要人往来やODA等の
外交ツールを活用し、オール・ジャパンとして戦略的に各国との連携を
強化してまいります。
特に、レアアースを含む鉱物資源につきましては、菅政権
発足以降、アメリカ、オーストラリア、モンゴル、インド、ベトナム、カザフスタン等との間で、
協力関係を
強化することで一致をしています。
今後も、官民連携のもと、多角的な資源
外交を
推進し、資源国との間で
協力関係を
強化いたします。
第三の柱は、インフラの
海外展開です。
アジアを初めとする新興国を中心に世界各国でインフラ需要が増加する中、
日本のすぐれた技術を積極的に展開し、
日本の
経済の
成長につなげたいと考えます。
昨年、新興国においては初めて、
我が国がベトナムにおける
原子力発電所建設の
協力パートナーに選ばれました。また、昨年十二月の第二回
日本・アラブ
経済フォーラムには私も参加をし、魅力的な市場及び
投資先へと変貌しつつあるアラブ諸国との
経済関係の
強化につき一致をいたしました。
今後も、重点分野の
原子力発電や高速鉄道、水分野について、
アジア、中南米、中東、アフリカなど各
地域の新興国へのトップセールスをみずから行ってまいります。
また、インフラプロジェクト専門官の指名を含む在外公館における
取り組みの
強化や国際
協力機構による
海外投融資の再開など、関係政府機関のファイナンス面での機能
強化を目指し、民間を
支援する必要なツールを含め、包括的な
取り組みを進めてまいります。
第四の柱は、
観光立国の
推進であります。
政権交代以降、羽田の国際化やオープンスカイの
推進を図るとともに、中国人個人観光客に対する査証発給要件の緩和や
医療滞在ビザの
創設などの措置を講じており、昨年の外国人観光客数は過去最多となる見通しであります。
訪日観光客の増加による内需拡大、
雇用増を通じて
日本経済の活性化に資するため、在外公館を通じた
海外での
我が国の魅力の発信など、観光庁と連携しながら、外国人観光客の誘致に向けた
取り組みを
強化してまいります。
経済外交を展開し、
日本の総合的な
外交力を高めていくには、安定した
地域・国際
環境が必要不可欠であります。
日米同盟は、
日本の
外交、安全
保障の基軸であり、
アジア太平洋
地域のみならず、世界の安定と
繁栄のための
公共財です。昨年の菅政権
発足以来、日米首脳は、累次にわたり、安全
保障、
経済、文化・
人材交流を三本柱として、日米同盟を二十一世紀にふさわしい形でさらに深化、発展させていくことで一致をしております。
先般の私の訪米の際も、クリントン国務長官との間で、本年前半に予定をされている総理訪米に向けて、日米両国が直面する国際
環境にふさわしい新たな戦略
目標を策定し、
共同で
対処していくことを再確認いたしました。総理訪米の機会には、二十一世紀の日米同盟のビジョンを
共同声明のような形で示すべく、引き続き両政府間で緊密に
議論してまいります。
我が国をめぐる安全
保障環境が厳しさを増す中で、
我が国は、安保分野における同盟深化
協議プロセスを加速させ、幅広い分野での具体的な日米安保
協力を着実に進めてまいります。
普天間飛行場の移設問題については、まず、一昨年の
政権交代時の経緯や
沖縄県への米軍施設・区域の過度の集中について、
沖縄県におわびを申し上げなければなりません。その上で、政府としては、昨年五月の日米合意を着実に実施してまいりますが、同時に
沖縄の
負担の軽減にも
全力を挙げて
取り組み、
沖縄の
皆様の御理解を得られるよう、誠心誠意
努力をいたします。
また、在日米軍駐留経費
負担特別協定につきましては、速やかに御審議の上、本年度内の御承認をお願い申し上げます。
経済面では、TPP等、
貿易・
投資等の
自由化に関する情報収集、
協議を進め、クリーンエネルギー、高速鉄道や超電導リニア、レアアース等、戦略資源などの分野のパートナーシップを
推進してまいります。
次に、ダイナミックに
変化をする
アジアを初めとする近隣諸国との関係
強化について申し述べます。
我が国は、
アジア太平洋
地域において、アメリカや
アジア諸国と
協力、連携しながら積極的に
外交を展開し、
地域の平和と
繁栄に貢献をいたします。
日中両国は、世界第二及び第三の
経済大国として、今後もさまざまな面で相互依存関係がより強まっていくと考えております。こうした大局的観点から、戦略的互恵関係を深め、東シナ海資源開発、
環境、気候変動、国際金融といった幅広い分野において具体的な
協力を
推進してまいります。
一方で、
我が国は、中国の透明性を欠いた国防力の
強化や海洋
活動の活発化を懸念しており、中国が
国際社会の
責任ある一員として、より一層の透明性を持って適切な役割を果たすように求めてまいります。
日韓両国は、基本的価値や
利益を共有する最も重要な隣国同士であります。私は、今月十五日に
韓国を訪問し、先方との間で、
政治、
経済、交流、安保といった幅広い分野で、日韓間の戦略的関係の構築に向けてともに
努力していくことを確認いたしました。日韓図書協定については、速やかに御審議の上、今
国会での御承認をお願い申し上げます。
昨年の日韓併合百年に続き、本年を、未来志向の新たな百年を切り開いていく元年と位置づけ、
協力関係を一層に進めてまいります。
また、日中韓それぞれの二国間関係を補強し、
地域の平和と安定をより確かなものにするためにも、
日本が本年
議長を務める日中韓サミットの成功に向け、三カ国の
協力を着実に
推進してまいります。
ロシアとの関係では、最大の懸案である北方領土問題を解決すべく、精力的に取り組んでまいります。同時に、
アジア太平洋
地域のパートナーとしてふさわしい日ロ関係を構築するために、あらゆる分野において関係を発展させるべく、
努力してまいります。
このような
考え方に基づき、なるべく早い時期にモスクワを訪問し、ロシア側と実りある意見交換を行いたいと考えております。
北朝鮮とは、日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、国交正常化を図る
方針であります。
我が国は、拉致問題を初めとする
北朝鮮の人権侵害問題について、国連を含む
国際社会との一層の連携に努め、すべての拉致被害者の一刻も早い帰国を
実現するために
全力を尽くしてまいります。
北朝鮮による延坪島砲撃については、
我が国は強い非難を表明いたしました。また、先般、
北朝鮮が六者会合
共同声明に反するウラン濃縮
活動を公表したことを強く懸念しております。
北朝鮮が六者会合
共同声明を真剣に履行することが大事であり、
米国及び
韓国を初めとする
関係国と連携をし、
北朝鮮に、六者会合
共同声明や国連安保理決議に従って非核化等のための具体的な
行動をとるように強く求めてまいります。
東南
アジア諸国連合は、
国際社会での役割が大きくなっています。
我が国は、ASEAN
共同体構築及びASEANの一体性を高める連結性
強化を
支援するとともに、
日本・ASEAN関係を新しい段階に
引き上げるべく、新たな宣言と
行動計画を策定いたします。メコン
地域との関係も深化をさせてまいります。
本年のASEAN
議長国でもあるインドネシアとは、戦略的パートナーシップを抜本的に
強化いたします。三月には、
地域の
災害対応能力向上のため、ASEAN
地域フォーラム
災害救援実動演習を共催いたします。また、バリ民主主義フォーラムへの積極的な関与を通じて、民主主義を目指す国との対話を
推進いたします。
東
アジア首脳
会議につきましては、米ロの参加を歓迎し、EASが
アジア太平洋
地域の平和と
繁栄のためにより一層の役割を果たすよう、積極的に取り組んでまいります。
豪州とは、昨年十一月の訪問の成果も踏まえ、相互依存的
経済関係の
強化に加えて、安全
保障分野での
協力を進めます。この関連で、昨年署名を行いました日豪物品役務相互提供協定については、速やかに御審議の上、今
国会での御承認をお願い申し上げます。
インドとは、
経済や安全
保障を初め、幅広い分野で
協力を
強化し、両国間の戦略的グローバルパートナーシップを発展してまいります。また、ミャンマーの民主化、
国民和解が一層進むよう、同国との対話を
強化いたします。
欧州は、基本的価値を共有するパートナーであり、英国、ドイツ並びに本年のG8及びG20
議長国であるフランスを初めとする欧州諸国や、統合を深めるEU等と緊密に連携をいたします。
国際社会で存在感を飛躍的に増大させているブラジル、メキシコ等の新興国を初めとする中南米諸国との間でも、さらに連携、協調を深めてまいります。
次に、グローバルな
課題の解決に向けた
我が国の
取り組みについて申し述べます。
気候変動分野では、昨年のカンクン合意を発展させた新しい
一つの包括的な法的文書の採択に向け、引き続き
交渉の進展に尽力してまいります。生物多様性の保全については、昨年の生物多様性条約第十回締約
国会議で得られた成果を着実に実施してまいります。これらの
取り組みを
推進する上で、途上国
支援を引き続き活用してまいります。
ODAにつきましては、
国際社会のさまざまな
課題の解決に向けて、また、
我が国の平和と豊かさの
実現に向けて、戦略的かつ効果的に活用してまいります。
そのため、ODAのあり方に関する
検討を踏まえ、
貧困削減、すなわちミレニアム開発
目標達成への貢献、平和への
投資、持続的な
経済成長の後押しを引き続き重点分野とするとともに、さきに述べた
経済外交の
推進への積極的活用を、
我が国と途上国の双方に裨益するものとして、特に重視をしてまいります。
また、
我が国としては、人間の安全
保障の視点に立って引き続きMDGsの達成に貢献する
考え方であり、本年六月、MDGs国連首脳会合をフォローアップするための国際
会議を
我が国で開催いたします。
特に、
経済成長の反面、紛争、
貧困などに苦しむアフリカを
支援するため、
我が国は、第四回アフリカ開発
会議でのアフリカ向けODA倍増等の公約を確実に実施し、この
地域の開発と
成長を後押しいたします。
PKOへの
協力は、
国際社会の平和と安定への貢献の最も有効な手段の
一つであります。既にハイチ等において自衛隊が重要な貢献を行っていますが、今後もより積極的な役割を果たすべく、さらなる貢献について
検討してまいります。スーダン、ソマリアを含む紛争
地域や脆弱国家における平和定着
支援にも積極的に取り組んでまいります。
米国における同時多発テロから十年目を迎える本年、テロ行為や組織
犯罪の撲滅は、引き続き
国際社会全体の
課題であり、
我が国としても
取り組みを継続いたします。
アフガニスタン及びパキスタンの安定と復興は、
我が国及び
国際社会の最優先
課題の
一つであります。アフガニスタンについては、引き続き、治安、再統合、開発を三本柱とした、おおむね五年間で最大五十億ドル程度の
支援を着実に実施してまいります。パキスタンについては、昨年の洪水被害から復興を果たし、治安
対策と
経済改革の
取り組みを加速させるよう、
支援を継続してまいります。
中東和平
交渉につきましても、パレスチナ
支援等を通じ、和平プロセスの進展に貢献をいたします。
海洋国家である
我が国にとって、海上航行の安全
確保は重要な
課題です。自衛隊等による海賊
対処行動や、ソマリア周辺国の海上保安能力向上に向けた
支援を継続いたします。
核軍縮・不拡散分野につきましては、二〇一〇年核兵器不拡散条約運用
検討会議の合意の着実な実施を促進するとともに、昨年
立ち上げました核軍縮・不拡散に関する外相会合の
活動を進め、核リスクの低減を通じた核兵器のない世界の
実現に向けて、
国際社会の
議論を主導してまいります。
また、来年の核セキュリティーサミットに向け、主催国
韓国や
米国との
協力を
強化し、具体的
取り組みを進めてまいります。
イランの核問題につきましては、平和的、
外交的解決を目指して、
国際社会と連携しつつ、イランへの
働きかけを継続いたします。
人権・人道分野においては、普遍的価値である人権及び基本的自由が、
我が国はもちろん、世界各国・
地域で
保障されることが重要であり、引き続き、国連や二国間人権対話等の場を通じて
働きかけてまいります。
また、難民問題の解決に向け、今年度より開始をした第三国定住による難民受け入れを積極的に進めてまいります。
これらのグローバルな
課題を解決するために、G8、G20等における
議論に積極的に参加し、主導してまいります。
国連が果たす役割を重視し、その実効性を高めるべく、国連の組織
改革と機能
強化を積極的に
推進してまいります。特に、安全
保障理事会が今日の
国際社会を反映した正統性を備えた機関となるよう、安保理
改革の早期
実現及び
我が国の常任理事国入りを目指し、積極的に取り組んでまいります。また、国連を含む国際機関の邦人職員の増強に努めます。
最後に、これまで述べてきた
政策を効果的に
実行するために必要となる総合的な
外交力の
強化について述べます。
在外公館の新設や在外公館職員の再配置を含む体制整備を
推進するとともに、情報収集・分析能力及び情報保全を含む
外交実施体制を
強化してまいります。
予算の効率化、適正な文書管理及び
外交記録の公開にも努め、
国民への説明
責任を果たしてまいります。
また、
我が国に対する諸外国の
国民の理解と信頼を得ることは必須の
課題であり、重要
外交政策の積極的な対外発信に取り組むとともに、戦略的な
日本事情、文化の発信や
日本語の普及にも努め、人の交流をさらに活発にしたいと考えております。そのことは、
外交政策の円滑な
推進や、
日本企業の
海外展開の
支援につながるものと考えます。
これらの政府の
取り組みに加え、地方自治体やNPO、市民の
皆様との連携を
強化し、オール・ジャパンで
外交を
推進してまいります。
世界各地で活躍する多くの
日本人及び
海外に進出する
日本企業が力が発揮できるよう
環境づくりに努めるとともに、適切に
支援し、
日本の国力向上につなげてまいります。
アジアそして
国際情勢は激動の
時代を迎えております。この荒波の中で
日本が引き続き世界の平和と
繁栄のための役割を果たしていくには、
国民一人一人の力が源泉となるのは言うまでもありません。
今日ある
日本を築いたのも、
日本人の主体性と独自性でありました。その誇りと気概を持って、あしたの
日本を築き、
アジア、世界に新しい秩序を
形成していけば、チャレンジをチャンスに変えることができるのです。私たち一人一人がその
覚悟で
行動していけば、未来を切り開いていけるものと確信をしております。私は、その先頭に立って、菅政権の
外交のかじ取りを担っていく
決意であることを表明いたします。
議員各位、そして
国民の
皆様の御
支援と御
協力をお願い申し上げます。
御清聴ありがとうございました。(
拍手)
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