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野口参考人 日本大学の
野口です。
レジュメは用意してありますけれ
ども、その前に。
日本全体が混乱している。私が経験した、私は研究
機関を代表していろいろな活動
報告ができるわけでもないし、
ボランティア活動をしているわけでもないんですけれ
ども、ただ、全体を見ていて、非常に混乱をしている。原因は
情報不足だと思います。
先週、私の同僚で、私のところに訪ねてきた人がいまして、奥さんと
子どもが今沖縄に疎開をしていると言うんです。びっくりでした、東京にいながら、なぜと。
最初、三月中は名古屋に疎開したんだそうです。
子どもが小
学校二年で、当時は一年生、春休みということですけれ
ども、奥さんの実家の名古屋に行った。二週間ほどいて、はたと気づいた、浜岡が近いと思ったんだそうです、ちょっと思うのが遅いと思いましたけれ
ども。その後、沖縄に行ったんだそうです。沖縄には知り合いはだれもいない。そこで、
最初二十日間ほどホテル暮らしをして、しかし、お金が相当かかるから、今、家を借りて、沖縄の小
学校に
子どもを通わせていると言うんですね。いつ東京に戻れますかという話を私のところに持ってきたので、もう
最初から行く必要がないんだから、すぐ戻るように言いました。ただ、向こうで学期が始まって、学期の途中でと言うので、そんなことよりも、
子どもは相当精神的なストレスを受けているから、これはもうできるだけ早く戻した方がいいですよということを言ったんですけれ
ども、残念ながら、一学期が終わるまでは向こうにいますという返事が後で来ました。
これは全くの間違いですけれ
ども、東京にいて怖いというイメージを持っている。なぜそういう判断をしたのか。やはり
情報が足りない、あるいは正しくない
情報がいっぱい流れているということでもあるんだと思うんですね。
今はインターネット、携帯メールの時代ですから、たくさんの
情報が出ています。中には、正しい
情報はあるんですけれ
ども、故意に悪い
情報を流す人もいるし、あるいは善意でみんなに知らせたくて流している
情報が実は間違っていたりすることもあって、むしろそれが多いんだと思うんですけれ
ども、非常に混乱しているなと感じました。
もう
一つ、金沢に行ったときに、水戸に住んでいる人で、だんなさんだけ置いて、奥さんが金沢の実家に戻った、同じです。母親が私のところに
相談に来まして、いつ水戸に戻したらいいでしょうか。
最初から水戸を離れる必要もなかったし、すぐ戻るように。だんなさんにはペットボトルの水を送っていると言うんですね。奥さんと
子どもが金沢、すぐ戻るように言いまして、わかりましたということで、納得して帰っていきました。水戸などは
放射線レベルが
事故前の二倍くらいの
レベルでしかないんです。当初、何十倍か高いときはありましたけれ
ども、全く
避難の必要もない。
それからもう
一つ、いわきで、これは福島県の人ですけれ
ども、やはり
子どもと奥さんが実家の八王子の方に
避難しているんだ、いつ戻したらいいでしょうか。これも、いわきの
線量率を聞いたら〇・三とか〇・四マイクロ
シーベルト毎時だというので、たとえ一マイクロを超えていようが全く
避難の必要がないということで、すぐ戻るように言いまして、本人
たちは戻っています。
この三つの例、ほかにもいっぱいあるんですけれ
ども、やはり
情報が不足している。そして、正しい
情報がとにかく極端に不足している。その結果として、しかし、
情報はいろいろ出ているんですね。ですから、正しくない
情報を受け取って、
かなり深刻に、過大に
対応しているんだと思います。やはり
情報がないから、どうしても家族を守るために過大に
対応する。そうしがちになるのは当然のことで、そこはやはり、
政府の方でしっかりと
情報を丁寧に出して
説明をするということが非常に必要だということを強調したいと思います。
それで、福島の問題に戻りますけれ
ども、私は
事故以来、福島、二本松、本宮、大玉、郡山などを訪れまして、
現地の
状況を視察してきました。
郡山などでは、段ボールで仕切って、それぞれの家族がまだ住んでいる。一週間、二週間じゃなくて、もう二カ月たとうとしていて、既に二カ月を超えましたけれ
ども、そういう
状況がいまだにある。たくさんの家族がそういう
状況だと思うんですけれ
ども、それを視察しました。
それから、
学校の教育の関係者、先生方とも懇談をいたしました。安達地方の二本松、本宮、大玉村では、校庭とか園庭の表層土壌の剥離の話が出ていまして、
意見を求められました。剥離するのはいいけれ
ども、郡山のように、外に出して、持っていこうと思った先から苦情が出て、結局、校庭に積み上げているというような
状態、やはりそれは避けなければいけない、どうしたらいいんでしょうかという
相談を受けまして、
報告書も提出をいたしました。
言うまでもなく、実はもう新学期が始まっています。これは私は確認しておりません。県の教育
委員会は、現在の
状況が安全な
状況であるか否か、一切語らないまま新学期が始まったということを
現地の教員の方が言っていました。そういう中で、保護者は非常に不安に思っているというわけです。先生方も大きな不安を感じて、保護者、生徒に
対応しているという
状況です。
保護者、生徒、教員ともに不安を感じたまま新学期に突入したために、ある県立高校のPTA総会で、四月の末ですけれ
ども、
放射線とどう向き合うかというタイトルの講演を頼まれて、私は一時ためらいました。
放射線とどう向き合うか、つまり、もうその場にとどまって
生活をしなければいけない、そういう中で、では、どうつき合っていったらいいんだという
かなり深刻なタイトルで、少しためらいましたけれ
ども、行ってきました。
現地にとどまって不安な
生活を強いられている。見えない放射能、
放射線、そういう恐怖と向き合わざるを得ない保護者、生徒、教員がいるんだ。ですから、そういう人
たちの安全を確保し、安全だけじゃだめなんですね。やはり安心を与えないといけない。そういう
政府の
施策が必要だというふうに思います。
とりわけ、
現地で混乱と困惑を生み出しているものは何かといいますと、実は、四月十九日付の文科省の発表した「
福島県内の
学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的
考え方について」、これであります。児童生徒等の受ける
線量上限値、
年間二十
ミリシーベルト、それを逆算しまして、一時間当たり三・八マイクロ
シーベルトという空間
線量率を算出しまして、この値を超える
学校の校庭における屋外活動を制限するというふうにしたわけです。
この暫定的
考え方についてですけれ
ども、夏季休業終了までの、おおむね八月下旬までの
期間を対象とした暫定的なものであるにもかかわらず、
年間二十
ミリシーベルト、こういう数字の表現の仕方などから、これはどうも来年の三月まで、一
年間の
政府の
施策として誤解されている面があります。これはしっかり
説明しないといけないと思うんですね。
それともう
一つ、
年間二十
ミリシーベルトの被曝を
政府が容認したんだ、
自分たちはどうも見捨てられたようだ、そういう考えを持っている
住民の人にもいっぱい会いました。ですから、しっかり文科省の出している文書を読めば、決してそのようには書いていないわけですけれ
ども、しかし、そのように思い込んでいる人がたくさんいるということもわかりました。
ですから、こうした誤解も、やはり
政府が丁寧に
説明をしていれば起きなかったと思うんです。一片の文書を出して、後は地元の方でやってくださいみたいな形では、やはり問題が問題だけに、放射能とか
放射線について、残念ながら、小、中、高、大学と、教育はほとんど行われておりませんので、そういう点でもやはり丁寧な
説明をしなければいけなかった。
住民の理解を得る
努力をもっともっとすべきであるというふうに思います。
それと、
現地で混乱と困惑を生み出しているのは、暫定的
考え方についての誤解だけではなくて、そもそも暫定的
考え方についての
内容そのものが問題ではないかというふうに私
自身は思います。
児童生徒等の受ける
線量上限値、
年間二十
ミリシーベルト、そこから、一日のうちの十六時間を屋内にいて空間
線量率の六〇%の値だ、それから屋外では三・八マイクロ
シーベルトだということで、一時間当たり三・八マイクロ。ですから、そういう値を超えなければ、
年間で二十
ミリシーベルトを超えることはないというふうに言っているわけですけれ
ども、計算上確かにそのようにはなる。
しかし、問題はこの二十
ミリシーベルトの根拠なんだと思うんですよね。この根拠について、暫定的
考え方についてというのは
国際放射線防護委員会の刊行物百九というのを引用しておりまして、
事故収束後の
基準である一から二十
ミリシーベルト・パー・年を適用する
地域の存在を認めており、ことしの三月二十一日に同じ
国際放射線防護委員会が、改めて、今回のような非常
事態が収束した後の
一般公衆における
参考レベルとして、一から二十
ミリシーベルト・パー・年の
範囲で考えることも可能という声明を発表したことを挙げています。
では、なぜ、一から二十
ミリシーベルト・パー・年のうちの最大値である二十
ミリシーベルトという値を
政府は採用したのかということになると、依然としてその根拠は示されていないというふうに思います。福島県民にも
説明もされていない。私は、
現地で混乱と困惑を生み出している原因の
一つはこれではないかというふうに思います。
私
自身は現在五十九歳、残りの人生は恐らく二十年くらいだと思っておりますけれ
ども、しかし、例えば十歳の
子どもであれば、残りの人生は恐らく七十年以上あるということになります。そうすると、残りの人生が長ければ長いほど、その間での発
がんの
影響の問題、これは大きいものがあって、決して
大人と同じようには扱ってはいけないと思います。また、成長期にある
子どもというのは
放射線感受性が
大人よりも高い、これも疑いようがない。そうであるならば、
子どもの
被曝線量を可能な限り低くするという
努力をすることが
政府に求められるはずであるし、根拠不明なまま、二十
ミリシーベルト毎年というのを適用するのは慎まなければいけないのではないかと思います。
事故に伴う被曝、では、幾つが妥当ですかという質問をいつも受けるんですが、私に言わせれば、妥当な
線量なんてありません。
事故による被曝ですから、やはり受け入れがたいです。しかし、そういう中で
生活をしなきゃいけないというところで、我慢的に何か決める、これは
政府のあり方として当然だと思うんです。ですから、
子どもに適用するときには、より慎重な
施策というのが求められると思います。そういう慎重な
施策を現在受けとめられていないですね。ですから、暫定的
考え方については
現地で信頼されていない。残念ながら、信頼されておりません。混乱と困惑を生み出している原因でしかない。
二本松市の健康演説会で、県のアドバイザーを務める国立大学の医学部の教授が来て、この問題は大いに
現地では関心になっていますので、いろいろと質問が出て、最後はこのように言ったそうです、国の
施策に従うことは国民の義務であると。義務かもしれませんけれ
ども、そういう発言をする前に、やはり
懸念を表明した市民に対して丁寧に
説明する、アドバイザーなんですからね。そういう点で、まだまだ
説明不足ではないのかなというふうに思います。
私は、五月三日に、初めて二本松市長、本宮市長、大玉村村長にお会いし、校庭の
線量低減化について
相談を受けました。私
自身、基本的には、全体が汚染している中で校庭だけをやってどうなるかという思いがあるんです、これははっきり言いまして。しかし、校庭だけは何とかしたいという
現地の
住民の気持ちもよくわかるんですね。ですから、こういう場合には、私がどうというよりも
現地の
住民の要望が重要ですから、では、低くするためにどうしたらいいかということで一、二、三と。
一番目が、
事故直後に大気中に漏出した放射性セシウム、
沃素、これは土壌表面に付着しているだけなんですね、現在は。表面部分だけです。
それから、福島原発の漏れている箇所はふさがれてはいないです。しかし、現在はほとんど出ていない。出ているにしても、当初に比べればもう何万分の一以下と非常に少ないというわけです。
四月初めまでに土壌の放射能濃度の最大の寄与割合を占めていた
放射性沃素ですけれ
ども、五月の初めには寄与割合が全体の放射能の中で五%に減っています。六月初めには〇・三から〇・四%にまで減る。七月の初めには〇・〇二%まで減っていくというわけです。
それから四つ目は、
放射性沃素の消滅後、放射性セシウムだけになるんですね、陸上は、これ以上の
放射性物質が出なければということが前提ですけれ
ども。そうすると、これ以上は、
沃素がなくなっちゃいましたので、空間
線量率はほっておいても下がらないという
事態であります。
そういう中で、空間
線量率を現在よりも低減する確実な方法というのは、汚染している表層土壌をはがすことだというふうに思います。はがす工事は生徒のいない休日になされなければいけないと思います。
六つ目は、はがした表層土壌は他の
場所に移動して処分するということは難しい。他の
場所も実は汚染しているから、そこに少し持っていったくらいでという気持ちは私
自身にはあるんです、研究者としては。それで果たして深刻な
事態が起こるのかという思いはあるけれ
ども、しかし周辺
住民の思いもわかる。そんな、
自分たちは要らないからここに持ってこられても困る、これも当然の思いだと思います。ですから、
学校の中で出てきたものは
学校の中で処分するということで、例えば校庭の隅に穴を掘る、そこに埋める、そして穴を掘ったときに出てくるきれいな土壌を百センチかぶせれば、これはその埋めたところの地上一メートルの
線量率は百分の一以下の
線量率に減るはずです。
ですから、そういうことを提案して、現在、二本松、本宮、大玉村とそういうことをやりつつあります。やった結果として、三分の一以下、五分の一以下に
線量率は減っています。丁寧にやると十分の一以下までいくということもわかっていて、それは国も福島大学の附属の中
学校、幼稚園で試験的にやっていますので、よく
御存じのことだと思いますけれ
ども、表面に付着しているんですから表面を取り払うことが最も確実で、
線量を低減できる方法であるんだと思います。
暫定的
考え方についてというのは夏休み終了までのおおむね八月下旬までの暫定的な措置なんだと言っているわけですけれ
ども、そうであるならば、現在もなお、三・八マイクロ
シーベルト毎時以下であっても屋外活動を控えて、ほとんどの
学校が屋外活動をしていないんですよ。三・八マイクロを超えている
学校は極めて少ないにもかかわらず、屋外活動をやっている
学校はこれもまた極めて少ないです。ほとんどみんな体育館で授業をやっている。そういう
状況なんですね。
ですから、自由に校庭で遊ばせたいという気持ちを先生方は持っているわけですから、そのあたりは、そういった気持ちを酌んで、
政府は九月以降の新たな
施策をこの際早急に提示すべきではないかというふうに思います。
二本松市では、校庭の表層土壌をはがすことにとどまることなく、市民の
放射線被曝による健康を守るために、市民の健康
調査、ホール・ボディー・カウンターによる検査を独自に行う。これに私は驚いて、私
自身はそれは必要ないというふうに市長に言うつもりですけれ
ども、やはりそこまで追い詰められているんですね、自治体の長さんは。ですから、そういった
状況をよく酌み取って、安全だけじゃなくて、安心も与えて
住民の信頼をかち取る、そういう
施策が今必要ではないかというふうに思います。
以上です。(拍手)