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鈴木参考人 大和総研金融・
公共コンサルティング部の
鈴木文彦と申します。
金融・
公共コンサルティング部とあるように、
地方公共団体とかの問題解決をやる部署でございまして、そういった観点で、
地方公共団体の
財政分析の方法、特に民間で言うところのキャッシュフロー分析に力点を置いた研究をやっております。来るべき厳しい
財政制約の中、合理性とか戦略性とか、そういった民間
企業の手法を取り入れて、いかに必要な公共サービスを提供していくかというテーマのもと、水道事業とか
地方公営
企業、第三
セクターにも手を広げて、そうしたところの適用について研究をしている次第でございます。
今般の
意見陳述の主題であるところのレベニュー債につきましても、そういった民間
企業の手法を取り入れた問題解決の手段として、幾つか私の方で小論文を書かせていただいている次第でございますけれども、出したタイミングがよかったのか、おかげさまでいろいろな方に読んでいただきまして、幾つか問い合わせもいただいております。恐らく、そうした御縁できょうこの場に呼んでいただいたと推察申し上げる次第でありますけれども、その節に関しましては、大変光栄に存じます。
それでは、早速、本文に沿って始めさせていただきたいと思います。
レベニュー債ですけれども、今般の議案の問題意識に沿っていけば、
一言で言えば、厳しい
財政制約のもとで効率的かつ効果的な公共施設の整備を行うために
資金調達をどうやってするかという
資金調達の仕組みのことなんですけれども、この来るべき厳しい
財政の中、どうしてそういうようなことが言えるのか、一体何なのか、そういったものがそういう問題解決に使えるのか使えないのかについて、順を追って
説明させていただきたいと思います。
まず、レベニュー債とは何かでございます。
指定事業収益債と
説明されることもございます。要するに、
資金使途、使い道が特定されており、事業収益が返済
財源となる
地方債のことでございます。ただし、単に
資金使途が特定されているということだけで定義するのはなかなか難しいです。
なぜならばですけれども、例えば
企業融資、普通の、
銀行が中小
企業とかに貸す融資ですけれども、それにおいては、あらかじめ
資金使途というのは決まっているのが普通でございます。普通の、中小
企業が
銀行から
資金を借りるときは、審査を受けて借りるという手続をとりますけれども、そうした場合の融資かわり金というのは
資金使途があらかじめ決められているものでございます。返済
財源もその
企業の収益に求められます。
この点ですけれども、第三
セクターとか
地方公社とかは、公的ではあるんですけれども、いわゆる会社には違いありませんので、そういったところでいくと、何ら普通の
貸し出しとは変わらないわけでございます。特に目新しいものではないんじゃないかというふうに思っております。
資金使途と返済
財源が決まっているという当たり前の
借り入れが、例えば、
地方公共団体、今回、
震災とかでいろいろインフラの復興とかをしなくちゃいけませんけれども、そうした公共施設を整備するに当たってそういう普通の基準の
借り入れが適用されたときに、レベニュー債というものではないのかと思うわけでございます。
ただ、これも、しかしがつきます。しかし、通常の
地方債、現行の
地方債とか公営
企業債も、もともと特定
財源でございまして、
資金使途が決まっているものでございます。そもそも、
地方債は初めから使い道が決められた特定
財源でありまして、何にでも使える一般
財源とは違います。さらに、公営
企業債においては、原則として、借入返済も事業収益から賄うことになっております。公営
企業というのはいわゆる独立採算制原則というのが働いておって、それが決められているからでございます。
それでは何なのか。ますます、レベニュー債というのは何だかわからなくなってしまいました。単に事業目的があらかじめ決まっておって、その事業がもたらす収益を返済
財源とするという定義だけでは、レベニュー債は理解できないことになります。また、実際には事業収益が返済
財源になっていないという見方も一部にございます。
要するに、レベニュー債というのは、単に使い道とその返済
財源が決まっているというだけではなくて、使い道が決まっていることによってもたらす効果、すなわちその機能によって定義されるものだと私は考える次第でございます。
そこで、レベニュー債のレベニュー債たる本質とその機能、ありていに言えばメリットについて考えてみたいと思います。
レベニュー債のメリットとしてまず挙げられるのが、まずわかりやすいところからいきますと、オーナーシップの向上でございます。使い道がわかりますので、自分が出した
お金で建てたという実感がわいて、丁寧に使うようになるといったような効果が期待できます。
適切な例えではないとは思うんですけれども、例えばゴルフ場のクラブハウスに入ると、会員の名札がずらっと並んでおります。また、田舎の公民館とか神社をちょっと思い出してみてください。この場合は、寄附と言うより寄進と言った方がいいんでしょうけれども、いわゆる
お金を出した人、スポンサーの名前が、かもいの上に名札でかかっていたり、神社の柱に書いてあったりしますけれども、ああいったイメージで参画意識というのがわくわけです。
これを公共施設に当てはめてみますと、今度、救急病院を整備することになりましたとします。ついては、病棟を建てるために
お金を集めるので、何口か
地方債を買ってくださいよというようなぐあいになります。実際は、こうした個人向けが主力になるのではなくて、地元の
銀行なり金融機関が買うことになるんでしょうけれども、いわゆる地産地消みたいなイメージになるわけですが、そうすると、直接であれ間接であれ、地元住民がスポンサーになれるわけですので、勢い、当初の企画どおりに使われているかとか、医療の充実という目的は達せられているかとか、そういった住民の厳しい目が働くようになるわけです。温かい目とともに、厳しい目が働きます。
もっとも、これだけですと、例えば、今でも市民風車債のようなミニ公募債も同じ効果をもたらすので、これも、レベニュー債の決定的な特徴ではなく、それを構成する
一つにすぎないということになります。
もう
一つ、
財政規律の向上でございます。これが重要なんですけれども、これの反対概念が放漫
財政ということになります。
例えば、
家計で申しましても、安全な国産牛肉を食べたいとか、車は安全な高級車に乗りたいとか、教育は最高の私学に入れたいとか、そういったいろいろないいものというのはあるんですけれども、それを全部やっていったら
家計が破綻してしまう。何が大事なのか、優先順位を決めるのが必要である。それの反対で、やらないと借り過ぎになってしまって、
財政規律の向上というのは、そうした借り過ぎ、食べ過ぎ、飲み過ぎ、借り過ぎを防ぐという効果が期待されるわけです。
事業目的が決めてあって、そして返済が事業収益に限定されるとなりますと、
銀行とか貸し手から見た回収
可能性というのは、全く事業の成否によって判断されることになります。なので、例えば
地方公共団体が後先を簡単に考えて
借り入れを起こしちゃったりしますと、事業計画の実現
可能性とかを疑われて、
金利が高くなるわけです。あるいは、借り手の
借り入れがもともと多くて、危険水域にあるとします。そうしたケースでも、返済
可能性に不安を持った貸し手というのは、それなりの
金利を求めるようになると考えられます。
これを、逆に
地方公共団体の側から見れば、まずは
金利、自分の
金利が何%かというシグナルを持って、あと金融機関の態度、
貸し出し態度とかを見ながら、例えば
財政健全性をアピールするような努力というのをするようになります。
借り入れを起こす前に事業計画というのをしっかり吟味するようになりますし、先ほど申し上げましたように、優先順位を持って、本当に必要な整備案件というのを選ぶようになります。
財政を健全に保とうとすると、これは体重と同じですけれども、身の丈に合った
借り入れ、
財政にしようという、いわゆる恥じらいと規律というのが生まれるわけです。
三つ目、厳しい
財政制約のもとで、効率的、効果的な公共施設の整備を行うための
資金調達の仕組みとしてのコンセプトでございますけれども、これは、民間のプロジェクトファイナンスの論理を単純に適用した例え話で
説明しようと思います。
例えば、民間
企業が、本体の親会社の
企業の
財務状況が悪化して、
借り入れをふやすことがもうできませんとなりました、そういう民間
企業があったとします。それでも、どうしても新店舗を出したい、この新店舗は将来性が有望で、新店舗
自体の、その店
自体の収支を見れば返済に何ら懸念がない。そうした場合に、レベニュー債のような、この新店舗の事業目的と返済
財源というのを限定した
借り入れを起こせば、問題解決はできます。
本体と新店舗をひっくるめた会社そのもので新規に
借り入れをしようとすると、
金利は、その
財政悪化した本体
企業の返済能力を反映して高くなってしまいますけれども、そこで、業績のよい新店舗に限定した「レベニュー債」、かぎ括弧つきのレベニュー債ですけれども、それによって、理論的には安い
金利で借りることができる。
これを単純に
地方公共団体に例え話として挙げてみますと、将来、
地方公共団体の
財政が
震災とかで悪化して、
金利が高くなって、それでも水道管の更新とか救急病院の整備とか、そういう必要な公共施設整備があったとします。そうしたときに、例えばレベニュー債を使えば借入
金利が安くなるというような話になります。
これは何かに似ていると思うんですけれども、このほど
改正されましたPFI、PFIの文脈と同じです。つまり、厳しい
財政制約のもとで、効率的かつ効果的な公共施設の整備を行うための
資金調達の仕組みという点ではPFIと同じ、レベニュー債はそうした仕組みでございます。
三つ目、レベニュー債の課題でございます。
ところが、厳しい
財政制約のもとで、効果的、効率的な公共施設の整備を行うための
資金調達の仕組みという
意味でのレベニュー債というのは、まだ
日本には出てきていないというのが私の
意見でございます。
理由は、
財務状況にかかわらず、
金利水準というのは
地方債の方がまだ低いからです。逆に言えば、レベニュー債のような事業目的をあらかじめ決めて事業収入を返済の原資とする、すなわち事業の収益性で
金利が連動するという
意味での本当のレベニュー債というのを使うと、かえって
金利が高くついてしまうというのが現実でございます。
例えば、PFIとかレベニュー債の本質は、事業運営のリスクを民間に転嫁する、民間に移転するというところで、親団体、
地方公共団体の
財政悪化に波及しないようにする仕組みとも言いかえられるんですけれども、そうした事業リスクを、売り上げが上がったり下がったりする赤字リスクですけれども、そうしたものを民間に転嫁してもしなくても、少なくとも
金利上昇圧力には働かないのが現実です。
現状、
財政状況のいかんにかかわらず、
地方債を起債して入札にかけると、農協とか
銀行とか、入札にかけてやるんですけれども、今は
地方債は
国債に限りなく近い
水準で
資金調達ができます。そこに
財政状況のいい、悪いは
関係ありません。
財政が厳しいというのがいろいろなところに何となくコンセンサスではあるんですけれども、一方、それが
金利という状態に反映されていない。
具体的には、例えば
財務省の方で、貸し手の
立場から、借り手である
地方公共団体の融資審査を民間
企業と同じような方法で、
銀行が審査するような同じ方法で損益計算書のようなものをつくってやっておるんですけれども、例えば
銀行が審査するときに使うキャッシュフロー分析を使って行っているんですが、それでもやはり入札で決まってくる
金利というのは
国債に限りなく近いものが出てきます。表面的には、最近は、入札結果によってはそれを下回る
金利で調達できるときもある。
つまり、
金利から見れば、
地方公共団体、
地方公営
企業というのは、超の上にまたさらに超がつく優良
企業とみなされてしまうわけです。
こうした認識のギャップというのがございます。つまり、
財政のいかんにかかわらず、別の論理で返済が可能だというふうに貸し手は見ているわけです。
その別な論理というのは何か。
よくも悪くも、レベニュー債というのはメリットがあるんですけれども、その実現を目指すということであれば、幾つかの課題がございます。
例えば、国とか
地方公共団体、外郭団体のリスク限定の仕組みと、レベニュー債の対象のみならず、
地方公共団体本体のキャッシュフロー分析を行う仕組みというのが必要だと考えます。
レベニュー債、PFIも同じですけれども、さっき申し上げましたとおり、オーナーシップの醸成と
財政規律の面では非常によい仕組みだと考えております。しかし、これも
財政悪化というのが
金利に連動するというのがそもそも前提となっておりますので、まずは現状の親団体、
地方公共団体が、レベニュー債の対象となる
地方公共団体を初めそのほかの外郭団体、さらには親団体の無限保証人となっている国との
関係においてリスクを限定する仕組みをつくらないと、なかなか実現は難しいと考えます。
リスク限定というのは、ちょっとまたわかりにくいかもしれませんけれども、要するに、ここまでは助けるというか補助金を出すとかという保証をするという上限を決めて、その上限を超えた分は民間が負うというような仕組みでございます。それによって、
金利水準は一般の
企業よりはちょっと低くなる、それでも民間よりは低くなるとは思うんですけれども、少なくとも、キャッシュフローから見た返済能力がよい事業体はよいなりに、悪いところは悪いなりに
金利がつくようにならないと、なかなかレベニュー債、PFIのような、そういった
市場の調達をやるような仕組みというのは困難だと考えます。
もう
一つ、レベニュー債が生み出す返済
財源、いわゆるキャッシュフローの
状況によって与信するのが基本なので、対象になる公営
企業を初め外郭団体とか、体育館とか文化ホールのような公共施設がありますけれども、そうしたキャッシュフローを生み出す単位でキャッシュフロー分析ができるような
財務分析の仕組みをつくること、まずこれが大事です。
もう
一つ、例えば、
地方公共団体において、参考
資料にありますような経営
状況把握とか水道事業に対する修正損益計算書というような、キャッシュフロー分析に足る
財務分析の仕組みというのが既にありますので、そういったものを使うというのが
一つだと思います。
次いで、それがレベニュー債またはPFIの方法で、
地方公共団体から公営
企業を初め外郭団体を切り離して
財政上のメリットがあるのかということをそもそも比較するために、親団体たる
地方公共団体のキャッシュフロー分析もきちんと分析をして、それで外郭団体を切り離し、そこでメリットがあるのかという比較対照をつくるという仕組みが必要だと思います。
そういったところを、まとめますけれども、レベニュー債やPFIというのがよいか悪いかはまた別にして、こうした条件、今言ったような条件というのが整わなければ、実現というか、同じことですけれども、PFIとかレベニュー債の期待されている機能というのは十二分に発揮するのは難しいと考えているところでございます。
ちょっと言葉足らずのところがありましたかもしれませんけれども、私の発言を終わらせていただきます。どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)