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小柴参考人 私、きょう、こんなにたくさんの
国民を代表する諸
先生方の前で
意見を述べさせていただくのは大変に光栄に存じます。私、もうすぐ八十五になりまして、相当ぼけておりますが、何とか一生懸命に
自分の
考えをまとめて聞いていただきたいと存じます。
先ほどちょっと伺ったことによりますと、この
委員会というのは四月に生まれた新しい
委員会だそうで、こうやって拝見しますと、いろいろな党からたくさんの議員の
先生方が集まっておられて、
基礎科学、それから
イノベーションについて、これからどうやるべきかということを諸
先生方が
本気になって
議論なさって方向を打ち出されれば、
日本にとって大変大きな
役割を果たすことになるだろうと期待しております。
さて、
基礎科学と申しますと、
皆さん一番たやすく手にとっておわかりになるのは、私は
応用科学の方だろうと思うんです。つまり、何か新しい技術的な開発をこの
分野でやって、このくらいの
人数を使って、このくらいの
予算を使って、三年間やればどれくらいの獲物が得られるだろうかというのは、
大概その道の人なら見当がつくんです。
ところが、
基礎科学の
分野というのは、そういう
見通しがつかないんです。
見通しのつくようなことだったら、
基礎科学としてやる必要のないことなんです。
これはよく御理解いただきたいんですけれ
ども、例えば、私
どもが何十年もかけて
ニュートリノという
素粒子のことを調べてまいりまして、
日本の
素粒子物理学で
ニュートリノに関する
研究というのは
世界を圧しております。では、例えば、ある
種類の
ニュートリノが生まれて、それが飛んでいる間にほかの
種類に変わっちゃうよというようなことを発見したとしても、
産業界に何の役にも立たないんですよ。ですから、そういうふうな
研究の
仕事にかかる
費用を
産業界に期待しても、得られるような
種類のことじゃないんです。
ですから、私はよく
質問を受けるときにお答えするんですけれ
ども、ある国が
基礎科学をどのくらい
本気でやるかということは、その国がどのくらい
文明国なのかということによって決まることなんです。
ある国が、
基礎科学なんて、もうけに何もつながらないんだから、そんなばかばかしいことには
お金を使わない、もうかることだけに
お金を使う、これは
一つの生き方です。ただ、それをやると、その国は商人の国としては立派に発展していくでしょうけれ
ども、
世界の
文明国とは言えないという結果になると思います。
それで、国家の財政ということを
考える
立場にある
先生方は、例えば、こんな
研究にこんなに
国民の税金を使っていいのか、それよりもっと役に立つことに回した方がいいんじゃないかというような
議論がよくなされるんです。
昨年もありました。ある
世界一のコンピューターを目指している
プロジェクトに対して、一流じゃなきゃいけないんですかという
質問があった。この
質問自体が、その人はもう
基礎科学をどうするかという
議論をする資格がないと私は思わざるを得ないんですよ。
よその人がもうやっちゃったようなこと、二流のことというのは、
基礎科学では何の価値もないんです。だから、
世界で初めてのこと、
人類が今までやったことのないことをやって初めて
人類に新しい知識をつけ加えることができる、その
可能性があるというだけなんです。
では、どの
計画を毎年毎年選んでいったらいいか、これは大変に難しい問題です。だれも、一〇〇%の
自信を持って、ことしはこの
計画に何億円つけろというようなことを言える人はいません。ベストの場合でも、その
分野に何十年と一生懸命になって
仕事をしてきた人が、
自分の勘を働かせて、この
計画をこのくらいの規模でやったら何かいいことが出てくるんじゃないかという勘、それしかないんですよ。
これは、本当に
政治家としては判断のしにくい対象じゃないかと思うんですけれ
ども、
現実の問題として、そういう事実は認めなきゃならぬと思うんです。
ですから、私は、国として、例えば
日本の国は、我々の国は
世界の中の
文明国としてこのくらいの、
予算の何%をこの国の
基礎科学に使おうかということを、国会かあるいは
総理大臣か知りませんけれ
ども、それをまず決めるべきで、そういうふうに決めたものを、具体的にどういう
計画にどのくらいずつ回していくのが一番いいのかということを
議論するためには、先ほど
お話しした
基礎科学の
分野でずっと
本気になって苦労してやってきて、それで相当の
成果を上げたという
人たちを集めて、その
人たちの勘を働かさせる。
それをずっと聞いた上で、
政治家の方が判断なさって、それでは、ことしはこれにこのくらい使うというようにしたらどうだろうとやるよりほかに手はないんだろうと私は思います。
これで大丈夫ですよと保証のついた
基礎科学の進め方というのはだれにも
考えられないんです。これは
現実の問題として難しいことですけれ
ども、それが事実です。
それから、もう
一つ、私は、
基礎科学ばかりでなくて、物事について、
政治家の人にもそうですけれ
ども、
学者の人にも、もっと謙虚な
態度をとらなきゃいけないんじゃないかということをこの間から痛切に感じております。
それを感じた契機になったことは何かといいますと、先ほど
委員長も言われた、この間の
大震災で
原子力発電所が大変な
被害をこうむった。これはいまだに解決していませんね。我々が、
日本の国があの
災害に対してとった
態度というのは、あれは一番いい
態度をしたんでしょうか、私は大変疑問に思うんです。
というのは、
日本は
世界で唯一の
原爆被爆国です。ですけれ
ども、
原爆で
被害を受けたんですけれ
ども、そのときの中性子がどのくらいの量がどういうふうに拡散していって、どういうふうな
被害を与えたかなんというデータは、
アメリカが派遣してきた
医学調査団が全部集めていったので、
日本人はそれに対してそんなに詳しく知らないんです。
さらには、爆発させるというような臨界以上のことを何遍も何遍も
実験をやって、太平洋の中で大変な
実験をやって、我々にも迷惑をかけた。砂漠でも爆発を何遍もやって、それで、そのときに出てきた大変な量の放射能をどういうふうにしたらいいのかというようなことを実地で知っているのは
アメリカの軍なんですよ。これは素人が
考えたってすぐわかることなんです。
ですから、私がもし
日本の
総理だったとしたら、あの
原子炉の
災害がこんなにひどいことになっておるといったら、これは大変に恐ろしいことだ。だから、私
どもにはできないけれ
ども、秘密かもしれぬけれ
ども、
アメリカのうんと経験を持った軍の
連中をすぐ派遣してもらって、ぜひ事態を回収するのに応援してくれと、私がもし
総理だったらすぐ
アメリカの大統領に電話してお願いする。僕はそういうのが謙虚な
態度だと思うんですね。
僕は、何か、おれは偉いんだとかおれは何も人に聞く必要ないんだというような
態度というのはやはり改めるべきで、もう少し謙虚な
態度をとることが大事じゃないかと思います。
時間が
あと五分ぐらいになりましたが、
あと考えつくことを申し上げますと、
皆さん御存じだと思うんですけれ
ども、前
世紀、二十
世紀の百年間というのは、
基礎科学の進歩というのは大体
ヨーロッパ、
アメリカでなし遂げられた。
それで、
アジアは悲しいことに、最近
日本が
ノーベル賞を
物理や化学で十何人ももらっている、
人口一億二千万に対してそれだけの
人数がもらっているというのは、
アジアでは非常に例外的にいい結果を出している国だ。
中国とかインドとか、十何億の民を抱えていながら、そういうふうな功績を残した人というのは、例えば、
アメリカに若いころから留学して、
アメリカで
教育を受けて、
アメリカで
研究して、
アメリカでやった
仕事に対して
ノーベル賞をもらう、それでうんと年をとってから
中国へ戻った、そういうふうな人だけなんですよ。そういう場合には、その国の若い人に与える
インパクトというのはそんなに大きくないんです。
私は、この二十一
世紀というのは、今までそういう
寄与をしていない
アジアの若い
人たちが、この
世紀には
基礎科学を担ってそれを進めていくという
役割を何とか果たしてもらいたい、こういう願いから、あるいは新聞やテレビでごらんになった方もあるかもしれないんですけれ
ども、おととし、
日本でエーシアンサイエンスキャンプというのを一週間開きました。
それは、
アジア、特に
日本関係の
ノーベル賞学者を十人ぐらい招いて、それから
アジアの十二カ国から百人ぐらいの若い
人たちを招いて、つくばで一週間一緒にキャンプをする。それで、
アジアの若い
人たちに、二十一
世紀の
基礎科学を背負っていくんだという気概を何とか持ってもらいたい。これをやりましたら
大変反響が大きくて、
あと一週間ぐらいでその続きを韓国で開くことになっております。
日本でやったときには、ありがたいことに両陛下もおいでくださって、
アジアからの
若者たちを励ましてくださった。
僕は、そのために何が必要かということを
考えてみますと、前
世紀に
アメリカと
ヨーロッパがそういう
寄与をどんどん、若い人が次から次へと
仕事をやっていったというのはどこにあったかというと、やはり、
物理の
最先端を
研究する高
エネルギー加速器というのが、
最先端のものが
ヨーロッパや
アメリカに次々とつくられていった。今、
最先端の
加速器というのはスイスのジュネーブにあります。
日本からも行って
実験しております。
その次の
世界的な大
加速器、
最先端の
加速器はどういう
計画かというと、
線形加速器という、ぐるぐる回すんじゃなくて、直線的にこういうふうに加速してぶつける、そういう
加速器なんです。
線形加速器センター、ワールドリニアコライダーセンターという名前で呼ばれていますけれ
ども、それを次の
世界計画にしようということはもう決まっておりますけれ
ども、それをどこにつくるかというのはまだ決まっていないんです。
今、ユネスコの
関係の
委員会などでいろいろ
議論しておりますけれ
ども、それを何とか
アジアに設置すれば、それを設置したことによって
アジアの
若者たちの受ける
インパクトは、大変に大きなものになるはずです。
私は、そういうことを何とか実現したいと思って、年はとっておりますけれ
ども、いろいろと努力をいたしている次第でございます。
時間が参りましたので、この辺で私の
発言を終わらせていただきます。(拍手)