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尾本参考人 おはようございます。
福島の
原子力の
事故と
原子力政策に関して、考えるところを述べたいと
思います。
まず最初に、
原子力災害により、
避難等多くの
方々にさまざまな艱難辛苦をおかけすることになったのを、
原子力関係者の一人としてまことに申しわけないというふうに考えております。
私
自身は、
原子力工学を専攻した学生時代を含めまして、一貫して
原子力にかかわってまいりました。大学を出た後は、
電力会社で
原子力発電の仕事をしてまいりました。かつて、三十年以上前になりますが、私
自身、
福島の地で勤務しておりまして、そこで親しみました大熊、双葉、富岡、浪江等々の
地域の
方々が、現在
避難で非常につらい
思いをされていることに、非常に心苦しく思っております。大変痛恨のきわみであります。
私は、その後
電力会社を離れて、
国際機関IAEAにおきまして、途上国における
原子力導入のための基盤
整備支援等にかかわってまいりまして、二〇〇九年末に帰国後、二〇一〇年初めに
原子力委員を拝命しました。
委員会では週二日の非常勤の
委員ですが、そのほかの日は大学に勤務している毎日であります。
まず、
福島事故との
関係で、
原子力委員会の
役割は何かという点ですが、既にお話がありましたように、
委員会の設置法と
原子力災害対策特別
措置法のいずれにおきましても、
原子力災害に際しての
委員会の
役割が定義されていないところではありますものの、
委員会としては、現在目を向けるべき重要な点は何かを適宜発信することが大切ではないかというふうに考えております。
その
観点から、四月五日の定例の
委員会におきましても見解を出しておりますが、
個人としても、至極当然なことではありますが、短期的には、一刻も早く
事故を
収束させて、生態系を含む
環境への
放射線による
影響を最小限に抑えるべきこと、そして
避難されている
方々に今後の見通しを明らかにし、プラントの安全な冷却保管と汚染水
管理に万全を期すること、さらに
国内外の
原子力発電所における
事故未然防止方策、そして炉心損傷
事故に至る場合をも考慮して、今回の
事故から得られた教訓をできるだけ速やかに反映すべきこと、こういった
考え方を述べております。
今後さらに、
環境の除染
対策や廃棄物の
処理処分、廃炉に向けた
技術開発、あるいはこの分野への
人材の傾斜配分といったことなどに
政策的に取り組む必要が出てくるものと考えております。
福島の
事故を踏まえての今後の
原子力政策全般の
あり方につきまして語るのは、まだ
事故収束とは言えない段階ゆえ早計かとは
思いますものの、当面は、設置法上は安全
委員会にゆだねられた事項が多いかとは
思いますが、いずれの
委員会に属する事項かということを余り気にすることなく、今、私が考えるところを
原子力発電を軸に申し上げたいと
思います。
まず第一のステップとして、
政府により、早期に客観的で中立な
事故調査委員会が設置され、その場で事実
関係の解明が体系立ってなされる必要があると考えております。その結果を、
国際機関の場で
世界の
専門家のレビューも得て、
世界じゅうに今四百三十基ある
運転中の
原子炉、さらには六十基を超す建設中の
原子炉の今後の
安全確保に早急に役立ててもらうことが重要であると考えます。
既に、六月末にIAEAにおきまして
大臣級会合が
事故に関して開催される予定であるところ、まだ
事故が
収束していない今日において大変困難ではあるかと
思いますが、例えばチェルノブイリ
事故の場合には四カ月でIAEAに出された包括的なレガソフ報告、報告者の名前にちなんでこう呼ばれていると記憶しておりますが、このレガソフ報告に相当するファクトファインディングと、これに立脚して出された主要な教訓事項を含んだ報告がなされて
議論される必要があるのではないかというふうに考えております。憶測や主観ではしっかりとした教訓事項は得られませんし、
世界をミスリードする可能性があるというふうに考えます。
第二に、
利用に伴うリスク、すなわち核
拡散、セキュリティー、安全の三つのリスクでありますが、この
リスク管理が十分に行われるシステムのもとでの
原子力発電の
利用という、いわば資格要件を満足しているということの確認に、
原子力安全委員会も含めて当面の
原子力政策の軸が置かれるべきものと
思います。
ここでは、国内的な
処理だけではなくて、安全基準や安全設計のレビューのやり方などについて国際的な枠組みの強化といった
議論があり得るかと推察しますが、ここに
福島事故を経験した国としての
考え方を発信する必要があるというふうに考えております。
工学
技術の
利用は、失敗を含む経験の積み重ねが重要で、
世界における
運転経験と
データ、これは今までに一万炉年を超える膨大な
運転経験を踏んでおりますが、そこから得られた経験と教訓を生かして、
技術を安全に
利用することが大切と考えています。
その
観点からしますと、今まで得られた経験に比べて、歴史時間による
データ蓄積に依存して、
データも豊かにはない頻度の低い自然現象に関しては、
原子力技術者一般は、より謙虚な姿勢が必要であったのではないかというふうに
福島の
事故を見て考えております。しかしながら、当時の
知見に照らして限界があったのではないかとも同時に思っておりまして、まことに残念に思っております。
第三に、その先ですが、将来の長期にわたる
原子力利用に関しての
議論は、
原子力以外のさまざまな発電オプションの現実的な
利用可能性、低炭素社会への移行シナリオとこれに伴う
国民経済負担、さらには、今の市場価値評価には含まれていないが将来の世代にも及ぶ可能性のある負担、
エネルギーの需給動向などを総合的に見て決めていく必要があるというふうに考えております。
このように、
エネルギー全体を見る必要があり、かつ、市場でのプレーヤーと需要家にその選択の多くがゆだねられるところかというふうに思っております。
この中での、長期にわたって
原子力の果たすべき
役割につきましては、
専門家あるいは
国民の間にさまざまな
意見があるのを聞きながら
議論を進めていくのが当然であると
思いますが、既に
事故前から進めておりました
原子力政策大綱の発電の中間取りまとめ文においても示しておりますように、核不
拡散や
核セキュリティーに関する国際約束を遵守し、
原子力発電が
安全性、
信頼性、経済性に関してすぐれた
エネルギー供給であることを絶えず示していくことがどこまで可能か次第というふうに考えております。
なお、市場でのプレーヤーと需要家にその選択がゆだねられるというふうに申しましたが、
原子力とその他の
エネルギー源との比較におきましては、市場価値以外の要素、すなわちいわゆる外部性を含めた考察が、諸外国においてもとられてきている
原子力政策の背景にあるというふうに考えております。
具体的には、オイルショック後に、
エネルギー供給構造の脆弱な国にとっては、短期あるいは長期で見ても、石油、ガスと異なり価格が安定で、資源供給においても安定性のある電源の持つ価値は重要というふうに考えて
原子力を進めてきた国がたくさんあるわけであります。その後、八〇年代以降、温室効果ガス放出が長期的にもたらす可能性のある経済と
環境への
影響も考慮して、低炭素社会への移行は
原子力なしでは容易ではないというふうに多くの国が考えてきたのも事実であると
思います。
なお、今日、
原子力事故は、その
発生確率が低くても、一たん
発生すると経済と
環境への大きな負担をもたらすという現実を前にして、
原子力政策の中では、こうした市場以外の要因も考慮した
議論を行う必要があると思っております。
最後に、
原子力委員としてこれまでの
原子力政策の形成に関して持ってまいりました
考え方について少しお話ししたいと
思います。
開発途上国を含めて
世界の共有する価値観は、持続可能な発展を追求することだというふうに考えております。経済、社会、
環境の三つの次元で見たときに、
原子力は重要な選択肢の一つとして、その
技術開発、基盤
整備、国際協調が
政策上重要という考えをとってまいりました。もちろん、今後につきましては、ポスト
福島の
環境の中でよく検証していく必要があると考えております。
しかしながら、とりわけ重要だと考えてまいりましたのは、第一に、今申しました持続可能な発展の追求という
世界が共有する目標に照らして考えること、第二に、
国際機関で諸外国を見ながら仕事をしてきた経験から、
日本が狭い
世界にこもることなく、
世界各国の経験をよく見て、よい慣行を広く習得し、
世界の標準から乖離することのない形で
原子力利用を進めること、第三に、長期にわたる
技術開発で国際協調と国際標準化を考えるべきこと、第四に、
技術リスクの
管理には、
世界からの多様な
意見に耳を傾けていく必要があるという
立場をとってまいりました。
この最後の、
世界の多様な
意見に耳を傾けるという
観点ですが、
原子力発電に関しては、
開発途上国が、その経済成長、人口増加、
生活水準の
改善に伴い急速に増加する
エネルギー需要を、安全、セキュリティー、核
拡散というリスクは最小限にしながら
原子力オプションをとろうとしていること、そして、そういった数が数十に及ぶことを
国際機関の勤務を通じて知っております。
原子力を運営する基盤が脆弱な国において満足すべき
運転基盤、これは法的なものの
整備から
人材育成、
産業基盤等を含む非常に広範なものでありますが、この
整備に国境を越えて
日本が積極的な
支援をすべき、さらには国際的な安全レビューの
仕組みもつくるべき、そうしないと、さきに述べました三つのリスクが顕在化しかねないというふうに考えてまいりました。
そういう
立場で、
原子力委員会が深くかかわっております、アジア諸国の
原子力開発にかかわるFNCAと呼ばれる
会議におきましても、
原子力基盤
整備に貢献してまいりました。
昨年十一月に開催されたFNCAの
大臣級会合におきましても、地震、
津波、火山といった自然
災害の多いアジア
地域で
原子力開発を行う場合に、専門的な
技術と経験をできるだけ共有し、さらには、他国であれ、設計のレビューをも考えて、お互いにリスク低減を進める必要があるということを
会議の場で提言してきたところであります。しかしながら、
日本がまず第一に問題視される国になってしまったのは、まことに皮肉で、残念なことであるというふうに考えております。
以上、
福島事故及び
原子力政策に関する私の考えを述べさせていただきました。
ありがとうございます。