○山根
参考人 口蹄疫対策検証
委員会の座長の立場から、これまで取りまとめを行いました内容につきまして御説明申し上げたいと思います。
皆様御存じのように、
平成二十二年の四月二十日に
宮崎県で一例目の発生が確認されました
口蹄疫は、同県の川南町を中心とする
地域におきまして、爆発的に感染が拡大されました。最終的な殺処分頭数は、
我が国の
畜産史上最大規模であります約二十九万頭、正式には二十八万八千六百四十三頭でございます。防疫
対応には相当の財政負担が必要になるとともに、
地域社会、経済社会にも甚大な被害をもたらしたわけであります。
そうした背景をもとに、
平成二十二年七月、
農林水産大臣の要請によりまして、九名の第三者から成ります
口蹄疫対策検証
委員会が設置されまして、八月五日に第一回目の
委員会を開催したところでございます。また、本
委員会は、今回の
口蹄疫の発生前後からの国、
宮崎県などの防疫
対応を十分に検証しまして、問題点を把握した上で、
我が国でこのような大惨事が二度と起こらないように、今後の
防疫体制の改善
方向を提案したわけでございます。
本
委員会の開催の経緯でございますけれども、本
委員会では、
口蹄疫疫学
調査チームの
調査状況を詳細に聴取するとともに、
宮崎県、県内市町村、
生産者、
生産者団体、これは全国段階でございます。それから他県、獣医師会、獣医師、防疫
作業従事者等の多数の
関係者からのヒアリングを行いました。これらのヒアリング結果などを踏まえまして、意見交換を行い、九月十五日の第七回の
委員会におきまして、これまでの
議論の中間整理を行ったわけでございます。そして、公表を行いました。
その後、ヒアリングの
対象をさらにふやしまして、
地元マスコミ
関係、さらに家畜衛生の専門家などを加えまして、これまでの
議論の整理につきまして意見聴取も行いました。
ヒアリングの実施
対象者数は、合計で四十一名に上ったわけでございます。
加えて、十月十九日の第十二回の
委員会におきまして、
宮崎県
口蹄疫対策検証
委員会との意見交換も行いました。そして、
議論の客観性のさらなる向上にも努めまして、合計十七回の
委員会を開催したわけでございます。十一月の二十四日に第十七回を開きまして、最終取りまとめを提案させていただいたわけでございます。この文書の中身は、九名の検証
委員会の方々に分担して執筆をしていただいたのが現実でございます。
まず、検証
委員会の報告書の内容でございます。
今言いました経緯で開催したわけでございますけれども、
口蹄疫というのは、
皆様御存じのように、国際連合の食糧
農業機関などでは、国境を越えて蔓延し、発生国の経済、貿易及び
食料の安全保障にかかわる重要性を持ち、その防疫には多国間の協力が必要となる疾病と定義されました越境性動物疾病の代表例でございます。伝染力が他に類を見ないほど強く、一たん感染しますと、長期にわたり
畜産業の
生産性を著しく低下させまして、また、外見上治癒したように見えますけれども、継続的にウイルスを長期間保有し、感染源となる可能性を有した厄介な疾病でもございます。
口蹄疫が蔓延いたしますと、
畜産物の
安定供給を脅かしまして、
地域社会、経済社会に深刻な打撃を与えるものでございます。国際的にも、
口蹄疫の非清浄国として信用を失うおそれがございまして、そうなりますと、現在の科学的知見のもとでは、
口蹄疫の清浄国では、早期発見及び迅速な殺処分、埋却処理を基本とした防疫
対応を講じているところでございます。御存じかと思いますけれども、二〇〇一年、英国では六百四十五万トン殺処分をいたしまして、一兆四千億の被害が出たわけでございます。
口蹄疫ウイルスは国内に侵入する可能性は今でもどこでもあるということを前提にいたしまして、実効ある
防疫体制を早急に
整備する必要があるということでございます。最もその中で重要なのが、発生の予防、それから続きまして早期の発見、通報、さらに初動
対応でございます。そうすることが国民負担を小さくすることにつながるのではないかなということにまとめたわけでございます。
今回の防疫
対応の問題点を幾つかお挙げして御説明申し上げます。
まず、
防疫体制が十分に機能しなかったということでございます。といいますのは、国と県、市町村、これらの役割分担が明確ではなくて、意思の疎通が図られていなかったということに落ちついたわけでございます。
それから、豚への感染が起こったことにより急激に発生件数が増加いたしまして、五月の初めには防疫
対応の改定が必要となってまいりました。五月十九日に殺処分を前提とする緊急ワクチン接種が決定されましたけれども、結果的には、この決定がタイミングとしては遅かったのではないかなということでございます。
さらに、
宮崎県が所有いたします種雄牛の特例
措置は現場に多くの混乱をもたらしたということでございます。
さらに、国際空港、海港においては靴底消毒などの検疫
措置を実施しておりましたけれども、オーストラリアやニュージーランドのような徹底した入国管理は実施されていなかったということも判明いたしました。
それから、
畜産農家段階におきまして飼養衛生基準が十分守られていたとは言いがたいという結論になったわけでございます。特に、バイオセキュリティーが高いはずの
宮崎県の
畜産試験場、さらに
宮崎県家畜改良事業団、JA
宮崎経済連の施設でウイルスが侵入したことを許したことは、
関係者は深刻に受けとめるべきだということでございます。
そしてさらに、
宮崎県の家畜防疫員一人当たりの管理頭数、
農家戸数は、他県に比べまして格段に負担が大きいということがわかりました。といいますのは、端的に言いますと、一家畜防疫員、一獣医師当たりの管理戸数が、全国平均五十二戸でございますけれども、
宮崎県ではそれが二百四十六戸に及んでおるわけでございます。また、家畜単位というのがございますけれども、家畜単位から見ますと、一獣医師当たり、全国平均は四千二百四十四単位、それが
宮崎県の場合には一万五千三百四十二単位と非常に多いということがわかったわけでございます。そして、その結果、家畜を飼育している場所の所在地とか、それから畜種、種類とか、頭数などにつきまして、
宮崎県は十分把握ができていなかったということがわかったわけでございます。
今回の事例では、異常畜の発見の見逃しや通報のおくれがあり、感染を広げる大きな原因となったということでございます。
診断確定後二十四時間以内の殺処分、七十二時間以内の埋却ができなかったことが感染を拡大させた大きな要因であるということ、さらに、殺処分、埋却などの具体的な
作業のイメージがないために
作業が円滑に進まなかったということも言えます。
今回、
我が国で初めて、健康な家畜にも殺処分を前提としたワクチンの接種が実施されたのでありますけれども、経済的な補償を含めた法的裏づけがなく、その決定及び実行に時間がかかり過ぎたということも言えます。
我が国では、国際競争力強化や
生産効率向上のため、規模拡大
政策が進められてきましたけれども、大規模化に伴って、規模に見合う
防疫体制がとられるべきでありますけれども、必ずしもそうした
体制がとられていなかったということも言えます。
今後の改善
方向、これが一番重要かと思いますけれども、国と都道府県、市町村などの役割分担、連携のあり方をもう少し明確にすべきだということが言えるのではないかなということでございます。また、国は、防疫
方針の策定、改正に責任を持つとともに、その
方針に即した都道府県段階の具体的
措置が確実に行われるよう、必要な改善指導を行ったり、さらに防疫演習を実施したり、そして緊急
支援部隊などを派遣するなどの
支援を考慮すべきだということも書いてございます。
それから、防疫
方針のあり方でございます。
国が定める防疫
方針につきましては、海外におけます発生の状況や科学的知見、技術の進展などを常に把握し、常に最新、最善のものとして準備しておくべきだということも設けております。それから、初動
対応で感染拡大が防止できない場合には、速やかに防疫
方針を改定することが必要でありますし、国は、第一例の発生後直ちに防疫の専門家を現地に常駐させ、感染の
実態を正確に把握した上で、感染拡大を最小限とするための防疫
方針の改定を判断できるようにすべきだということでございます。
それから、種雄牛を含む、
畜産関係者の有する家畜については特例的な扱いは一切すべきではないと結論づけました。といいますのは、これはヒアリングでもかなり厳しい批判が出ておりました。
それから、
我が国への
口蹄疫ウイルスの侵入防止の
措置のあり方でございますけれども、オーストラリアを初め諸外国では非常に厳しい
対応をしているわけでございますけれども、
我が国への
口蹄疫ウイルスの侵入を防止するための
措置をもう少し強化すべきではないかということに至ったわけでございます。
さらに、
口蹄疫ウイルスの
畜産農家への侵入の防止
措置のあり方でございます。
これは、
畜産農家にも飼養衛生管理基準を確実に遵守すべきための家畜防疫員による定期的な立入検査を行うべきではないかということでございます。ほとんどこれが行われていなかったということでございます。それから、飼養衛生管理基準を遵守していない
畜産農家には、何らかのペナルティーも科すべきではないかということでございます。さらに、飼養衛生管理基準を実効あるものにするためには、もう少し具体的なものにすべきではないかということもございます。
さらに、農場間を移動する車両につきましては、日ごろから消毒を徹底し、そこに立ち入る獣医師とか人工授精師とか削蹄師、家畜運搬業者、死亡獣畜処理業者、
飼料運搬業者などにつきましても消毒をさらに徹底すべき必要があるということでございます。
それから、発生時に備えた準備のあり方でございますけれども、都道府県は、問題点から言いましてもわかりますように、家畜を飼っている農場の所在地とか、それから畜種とか飼養頭数とか、飼養管理の状況などを日常的に詳しく把握しておくべきだということでございます。そのためには、全国平均に比べまして家畜防疫員の数が少ない都道府県は、家畜防疫員の増員に努めるべきであるということでございます。
さらに、患畜の早期の発見、通報のあり方でございますけれども、ここも非常に大事なことでございます。
口蹄疫が発生した際には、防疫
措置が一日おくれても被害が飛躍的に増大することがOIEの提言でわかっております。このため、早期の発見、通報を徹底するための手段として、具体的な通報ルールをつくるべきだということを提案いたしました。例えば、国があらかじめ示した一定の症状に照らして
口蹄疫を否定できない家畜につきましては、症状がわかる写真を添付した検体を直ちに国、動物衛生研究所のようなところに送るといったルールを定めるべきであるということでございます。それから、そのようなルールに従わない、いわゆる情報をおくらせたような
畜産農家とか都道府県などに対しましても、何らかのペナルティーを科すべきではないかということでございます。
それから、早期の殺処分、埋却などのあり方でございます。
日ごろから、都道府県は、埋却地の事前の確保とか、
作業のやり方、手順の明確化を、民間獣医師、自衛隊などの協力
体制のもとに準備を進めておくべきではないかということでございます。さらに、国は、今回の経験を踏まえ、
作業現場で実践的に活用できる
作業マニュアルを定めて、防疫演習により現場に定着させるべきであるということでございます。
それから、その他の初動
対応のあり方でございますけれども、日ごろから、都道府県は、消毒ポイントの具体的な設置場所や消毒方法についても準備しておくべきであるということでございます。
それから、初動
対応では感染拡大が防止できない場合の防疫
対応のあり方でございます。
初動
対応では感染拡大が防止できない場合の防疫
方針につきましては、国が責任を持って機動的に
対応する必要があり、第一例の発生後直ちに防疫の専門家を現地に常駐させ、的確に判断すべきであるということでございます。それから、ワクチンに安易に依存すべきではなく、現在のワクチンの限界などについても十分に周知を図るべきであるということ。それから、初動防疫では感染拡大が防止できないときの
対策として、経済的補償も含めて、予防的殺処分を
家畜伝染病予防法に明確に位置づけるべきであるということを提案しております。
それから、防疫の
観点からの
畜産のあり方でございます。
規模拡大や
生産性の向上といった
観点だけではなく、これが今大きな問題になっているわけでございますけれども、防疫
対応が的確に行えるかという
観点からも十分見直すべきであるということでございます。いわゆる飼養規模とか飼養密度などを含めた
畜産経営のあり方につきまして、一定のルールを定めたり、コントロールできるように法令
整備も検討すべきであるということでございます。
それから、あともろもろの、その他でございます。
産業動物に関する獣医療
体制を実効あるものにするように強化
推進すべきである。それから、
口蹄疫の検査方法とか、ワクチン接種、それから抗ウイルス薬とか、消毒の方法、効果など、
口蹄疫全般について実効性の高い研究を進めるべきであるということでございます。さらに、動物衛生研究所につきましては国立の機関として位置づけることについても検討すべきである。これはイギリスでもやっていることでございます。
それから、終わりになりますけれども、本報告書を踏まえまして、国におきましては、
家畜伝染病予防法の改正、的確な防疫指針の提示を初めとしたさまざまな具体的な改善
措置を早期かつ着実に実施するべきである。それから、都道府県におきましては、具体的防疫
措置の実行責任者であることを深く自覚し、国の防疫指針に基づき、市町村、獣医師会、
生産者団体などとの連携協力をしつつ、予防、発生時に備えた準備、発生時の早期通報や的確な初動
対応に万全を期すべきであるということでございます。さらに、
畜産農家には、人、車、物の出入りに際しまして消毒に万全を期し、みずからの農場にウイルス侵入をさせないようにするなど、衛生管理を適切に実施することを期待するというものでございます。
最後になりますけれども、最も重要なのは、発生の予防であり、さらに早期の発見、通報であり、さらに早い初動
対応であるということを、力を入れまして、まとめさせていただいた次第でございます。
以上でございます。(拍手)