○
溝上参考人 御
紹介いただきました
溝上です。どうかよろしくお願いいたします。
それでは、私が用意しました資料に沿って御説明させていただきます。
最初に、総論を述べさせていただきます。
B型肝炎と
C型肝炎では、
感染経路、
感染性、臨床経過、
治療法及びその効果等が大きく異なっております。これが一つのポイントでございます。
二つ目に、現在、本邦におきましては、
B型肝炎ワクチンの導入により母子
感染はほぼ制圧されましたが、性
感染による
感染が増加中であります。
三番目に、核酸アナログ製剤の長期服用により、
慢性肝炎、
肝硬変の人
たちの病態改善が可能となる兆候が出てきております。
最後に、今後、さらに科学的解明を進めることで、
B型肝炎の病態コントロールが可能になると思われます。一方、
患者自身につきましては、
肝硬変、肝
がんに進行するまで臨床
症状はほとんどございません。このため、検診による早期診断というのがますます重要になっていくと思われます。
次のページでございますが、三番目のスライドを説明いたしますと、
肝炎ウイルスといたしまして、今まで十何種類、世界じゅうから報告されております。しかしながら、現在、A型、B型、C型、D型、E型、この五つが
肝炎ウイルスとして世界的に認められております。この中で肝
がんを引き起こしますのはB型とC型でございまして、これの制圧が一番でございます。
まず
最初に、B型
肝炎ウイルスの
感染性、
感染経路について御説明いたしますと、五ページ目をごらんください。
先ほど来、
戸田先生がB型
肝炎ウイルスの歴史的な
お話をなさいましたが、B型とC型をまとめてみますと、実は、二十年も早くB型
肝炎ウイルスは見つかりました。それで、検査法の確立も、実は二十年も早くできております。しかしながら、その性質が大きく異なっております。
ウイルスはDNAとRNAと二種類ございますが、性質は男性と女性ぐらい全く違うということをまず御理解ください。
二つ目に、
感染経路でございますが、
感染力と非常に関係しておりまして、
C型肝炎ウイルスは、はっきり言いまして、非常に弱いです。
感染性はほとんどありません。
家族内で、夫婦間
感染というのはほとんどございません。
それに対して、B型
肝炎ウイルスは、先ほど
香坂先生の
お話がございましたように、ハネムーンヘパタイティスといいまして、新婚さんが、結婚して一カ月か二カ月ぐらいして黄疸になる。我々がまず
最初に習ったことは、だんなを調べろ、奥さんを調べろというふうに三十年前に習いました。そのように強いわけです。それで、そのときのマーカーに、
感染力が強い弱いというのは、
e抗原、
e抗体というのが実は使われております。
このように
感染力が強いものですから、いろいろなルートでうつります。今現在、世界じゅうで大体四億人ぐらいB型
肝炎ウイルスの持続
感染者はいますが、このうち二億人は中国人です。中国人だけが何でそんなに多いんだということの一つの説明要因として、実ははり、きゅうが言われております。中国では、二十年前、三十年前は、まず
病気になったらはり、きゅうに行く。そこは、先祖代々、これはおじいさんが使っておったはりだからということでやっていたというようなことが実は言われている。それくらいいろいろな
感染ルートがあるということを言いたいわけです。単純ではないということはぜひ御理解ください。
それも、先ほど
戸田先生の
お話がございましたように、
年齢によって大きく異なります。実は、持続
感染化、
感染形態というのは
年齢によって大きく異なっておりますが、最近では、三歳まではほぼ一〇〇%うつる、成人ではほとんどうつらないとされていたんですけれども、
ウイルスの型によって、どうも成人でも慢性化するらしいということがわかってきました。
ただ、この問題につきましては、まだよくわかっておりませんで、現在、
厚生労働省のお金をいただいて、
研究班で鋭意調べております。現在、八百例ぐらいの
急性肝炎の症例を
日本全国から集めまして、解析中であります。この解析が出れば、大体どの程度かというのはもっと詳しくわかるかと
思います。
それから、肝
がんへの進行率ですが、ジェノタイプBとかCというタイプが
日本に多いわけです、後から説明いたしますが。これですと、ジェノタイプCというのが、生涯トータルで見たときには大体一〇%、マキシマムでも二〇%。この理由は何かといいますと、高齢になってきたからです。平均寿命は、私が卒業したころは一〇%ぐらいで教科書として習いました。ただ、その後、
高齢化が進んでおります。二十年、平均余命が延びております。そうすると、それに伴って発
がん率がふえてきたということでございます。C型につきましては、
肝硬変になればこれは確実に進行しますが、B型の場合はまた少し異なります。
それから、予防法は、C型はございません。B型は、もうワクチンとグロブリンでほぼ完成しております。ただ、もっといいワクチンをつくれということで、今世界じゅうで競争が始まっております。
治療法につきましても、核酸アナログというすばらしい薬が出ていまして、これはB型
肝炎ウイルスが実はHIV、エイズ
ウイルスの酵素と非常に似ております。もともとどうも先祖が一緒だったらしいんですけれども、それが似ておりまして、それでエイズ用につくられたものが何千、何万とありました。それを製薬会社が
B型肝炎に当ててみたところ、非常によく効くということが二十年ぐらい前にわかりまして、それでこの十年ぐらい、物すごい勢いで核酸アナログ製剤というのが出てきたわけです。これでコントロールできつつあります。
その下を見てください。
B型
肝炎ウイルスは、一九六四年に、
オーストラリア抗原として、オーストラリア原住民の血液で、
抗原抗体反応とは、白い丸のところにオーストラリア原住民の血液を入れて、もう一つの方に例えば私の血液を入れて、
抗原抗体反応というのがこの赤い線として出てくるわけです。非常に簡単な方法でございます。これで見つかります。
抗原抗体反応が出る以上はこれでワクチンができるはずだということが、実は一九六四年にはもう既にわかっていたわけです。
ところが、これは
感染実験に実はチンパンジーしか使えませんでした。要するに、マウス、普通のネズミとかは使えなかったわけです、
感染実験に。それと、培養系、つまり、シャーレの中で、試験管の中でふやすことができませんでした。
それのブレークスルーが起こったのが、実は二〇〇一年でございます。
人間の
肝臓をある特殊なマウスに打ち込みますと、その
人間の
肝臓とマウスの
肝臓が入れかわることができるようになりました。そうすると、いろいろな
感染実験が簡単にできるようになりました。これによって
研究が大きく進みました。これが二〇〇一年でございます。
日本では、このマウスが二〇〇四年から使えるようになりました。これによって進みました。
その次の七枚目でございます。
実は、B型
肝炎ウイルスは
人間とチンパンジーしか
最初は見つかりませんでした。
人間の一番近い先祖がチンパンジーでございますので、それが、チンパンジーから
人間に約五百万年前にアフリカで分かれて、そのうちの一種でありますホモサピエンス、我々の先祖であります現生人類がアフリカから出てきて世界じゅうに広がっていったと言われています。
例えば、南米のインディオと言われる人
たちは、我々と同じモンゴロイドであるというのは、ベーリング海峡を渡っていったということで説明されておりまして、それで持っていって世界じゅうに広がっていったんだろうと。したがいまして、我々が南米の人
たちと顔つきが似ているというのはそういうことで、アラスカとかグリーンランドとかのエスキモーの人
たちに多いのはそのせいだと。しかも、我々日
本人のタイプと非常に似ております。そういうことで、歴史的な背景がございます。
その後、実は、一九九二年ごろから、世界じゅうの遺伝子配列を持ってきまして、それを分子進化学というんですけれども、そういう手法でやっていきますと、B型
肝炎ウイルスはそれまで一つだと世界じゅうから思われていたわけです。ところが、全然違っていたわけです。
例えば、私と
委員長の先生とは、多分、遺伝子配列を全部決めますと、〇・一%から〇・三%しか違いません。ところが、沖縄と九州のジェノタイプBとCを比べますと、八%以上違います。物すごく違います。八百倍以上は違うわけです。これぐらい違うものですから、性質ががらっと違っていたわけです。だから、C型の方は
がんになりやすいけれどもB型はなりにくいというのは、そういうことがあるわけです。そういうことがわかりました。
それを頭に入れて次の父子
感染を見ていただきますと、ワクチンが導入された一九八五年までに生まれた
子供は、実はお母さん由来がほとんどだったんですけれども、一九八六年以降では、お父さん、
家族内
感染。これはお父さんと書いてありますけれども、おばあさんとか
家族、同居している方、そういう方からもうつってくるということがわかってきて、実はこれが今ワクチンの問題になっているわけです。
ただ、ワクチンの能書には、
家族内にB型
肝炎ウイルスキャリアのある方は、
家族内の人に全部ワクチンを打て、勧めろというふうに書いてございます。だから、それが徹底されていないということが一つの問題であると
思います。
次の九番目をお願いいたします。
本邦の急性
B型肝炎は、実はこれが一番大きな問題でございます。一九八二年から二〇〇四年までに大体四百例ぐらい、
日本じゅうの専門家にお願いして集めました。その結果、現時点では、
輸血とか
医療事故でうつるのはほとんどございません。ほとんどが性
感染でございます。後ろのクエスチョン、不明というのも、非常にそれが疑わしいと実は思っております。
それで、その人
たちの状況を、遺伝子配列を決めていきますと、東南アジア型でうつっていたのが、最近ではもう欧米型がどんどんふえてきております。
では、その結果それがどれくらい慢性化したんだと。
急性肝炎で、治ればもういいわけですね。それが慢性化してしまう。それがどうかということで調べていきますと、二〇〇〇年に調べたときには一・七%しかございませんでしたが、二〇〇六年には三・五%です。現在、二〇一〇年度を測定中でありますが、この数字は明らかにふえてきております。特に首都圏におきましては物すごい勢いでふえてきておりまして、非常に憂慮しております。
次、お願いします。
臨床経過・
治療法及び効果についてですが、十二枚目を見ていただきますと、学生さんに私が大学で教えているときは、まず、いつうつったかを聞け、もしくはそれを推測しろ、それによって臨床経過が全然違うからだと。成人で来た場合には一%の劇症
肝炎があるからこれを注意しろ、これになりそうだったらすぐ
治療しないといけない。ところが、ほとんどの場合は自然と治るんだ、だから何も手を出すな、じっと見ておればいい、変なことをするとかえって慢性化すると。
といいますのは、
戸田先生の御説明にありましたように、自分の免疫が働いて
ウイルスを排除しようとするから、ついでに肝細胞も壊れて
肝炎を起こしているわけです。それを抑えつけちゃうと慢性化するわけです。そういうことで、自然治癒するから何もするな、じっくり見ておれと。
一方、赤ちゃんのときは、
症状は出ませんで、こういう形で
日本では百十万から百四十万人ぐらいいると推定されて、世界じゅうで四億人いるという状況になっているわけです。
問題は、
日本におきましては、これは世界におきましては違いますけれども、
高齢化社会になってきましたので、
最初は一〇%としていたんですけれども、最近では二〇%ぐらいだろうと推定しますが、八割の方は一生異常がございません。三十代ぐらいまでに
肝炎を起こしますが、
本人さんは全く気づかないで済んでしまうという方がほとんどでございます。残り二割ぐらいの方、マキシマム二割ぐらいの方が、知らないうちに
肝硬変になっている。
天野さんの
お話があったような、そういう形になっていくわけです。
したがいまして、この間、無自覚、無
症状なんです。だから、検診が絶対に必要だぞ、それをちゃんとしないといけないということですけれども、その検診がなかなか、三割ぐらいしかいかないという大きな問題がございます。
次の十三ページをお願いいたしますと、本邦の
C型肝炎と比べてみますと、
C型肝炎は
年齢に関係ございません。うつった人の大体三割は自然と治ります。これはどうしてかということは、同じ
ウイルスが
感染しても、ある人が治ってある人は治らないというのは、個人差、個体差というのの遺伝子のどこだというところまでもう既にわかっております。したがって、これがある人は
感染してもほぼ大丈夫だろうということは既に今ではわかりました。
それで、七割の方がなって、それで十年続いて、
慢性肝炎から
肝硬変。一たん
肝硬変になると、F4というような
状態になっていきますと、やはり高率で肝
がんになっていきます。
それで、この間、やはり
肝硬変になるまでは無自覚、無
症状ということでございまして、ぜひ検診の重要性というのを御理解いただきたいと
思います。
最近の一番新しいデータでございます。ことしの九月号のヘパトロジーというアメリカの
肝臓学会雑誌で、十四ページに出しております。実は、二〇〇五年にこの論文は、核酸アナログという薬ができまして、非常にいいのができました、それを一年間飲ませると非常によくなるという論文ができまして、それで千例ぐらい登録されています。
実は、五年間、六年間、平均六年で三年から七年間使った、そういう人
たちがどうなったかというのを見ていったところ、括弧内にございますように、
ウイルス量がほぼ一〇〇%コントロールできておりますし、GPTも正常になっておりますし、
e抗原が消えた人が五五%、
e抗原から
e抗体になった方が三三%となっております。
実は、これらしいデータは
日本でもあちこちにあります。これだけ長くはまだ薬が使われていませんからあれですけれども、ちゃんとやれば非常にうまくコントロールできそうだと。問題は、一般のかかりつけ医の先生とかほかの
先生方まで、そこまでの知識がまだ行ってない。これはことしの九月号、先月、十月に来た雑誌でございます。これにこういうふうに載っております。
次のページを見てください、十五ページでございます。
この中の一例でございます。六十歳の白人男性で、
e抗原陰性の方が、この人は
肝硬変ということで、
治療前、一年後、五年後を見ていただければ、青いところが、
肝臓が壊されましてこういう皮膚に置きかわっているわけです。だからかたくなる、だから
肝硬変。その線維がどんどん消えていっているというのがこの図でございます。典型例でございます。
したがいまして、このデータは非常に興味深くて、
肝硬変の方でも、ちゃんとここのところをやっていけばうまくいくだろうと。もちろん、いいデータだけをとってきた可能性もありますから、これについてはまだ慎重な対応で見ていく必要がございますが、今までと比べて明らかに容体がコントロールできそうだということを示しております。
肝硬変といいますと、非常に
患者さん自身もびっくりされますし、
家族の方もびっくりされますが、私が
医者になったときには、
肝硬変というのは、腹水でおなかがぱんぱんで、もうやせ細ってどうにもならない、余命半年という方が
肝硬変という診断名でございました。それが現在では、エコーとかそれからCTとかMRIとか、血液検査も物すごく進みまして、肝生検なんかやりますと、何度も言いますけれども、
本人さんは何ともないのに
肝硬変というのがいっぱい出てきたわけです。したがいまして、そこのところの区別というのが非常に大事で、それを区別した上で、
治療、それから相談、そういうことをする必要がございます。
さらに、その中でも、まだどこまでいけるか慎重に考えないといけませんけれども、線維化というのがどうも抑えられそうだというところまで来ております。
B型肝炎の
研究は、一九六四年に見つかりました。それからもう五十年
たちます。それにもかかわらずということをいつも言うんですが、やっとこの十年、サイエンス、科学となってきました。先ほど言いましたが、マウスがいろいろ使えるようになったとかいろいろなこと、テクニックがよくなったということ。
それから、エイズが一九八一年に見つかって、八三年にその
ウイルスが見つかって、八五年にはHAART療法という、たった五年でコントロールできるようになりました。それは、いろいろなテクニックが、そこに物すごい金を投入してできたからです。
現在、そういうところまで来ております。今やHIVで死ぬ方はほとんどいません、ちゃんと薬さえ飲んでくれれば。死ぬ方は、ほとんどが
B型肝炎とか
C型肝炎で今お亡くなりになっているのが、まあそれ以外にもございますけれども、そういうことが多いわけです。
したがいまして、B型につきましてもやっとそこまで来ました。これからどんどんコントロールすることができる時代に来たというふうに私自身は、
研究者としては思っております。
以上でございます。