○林芳正君 私は、自由民主党を代表して、菅総理の
所信表明演説について質問します。
質問に先立ち、この度の新
内閣発足に伴う
政治空白の間も
口蹄疫問題が拡大しましたが、手塩に掛けて育て上げた家畜を処分しなければならない怒りと悲しみと、今後の生活への不安にさいなまれておられる
畜産農家を始め関係者の方々に心よりお見舞いを申し上げます。
まず冒頭、本院の
議事運営に関して
江田議長に一言申し上げます。
去る六月二日の本会議は流会になりましたが、その際の議長の発言には耳を疑いました。
予定どおりの本会議を主張する自民、公明の議運の理事に対し、今回は、それを超えた動きがあるとすれば、議長としてはそこまで云々する立場にないと発言されたと聞いております。
国権の
最高機関である国会における本会議を超える動きとは何でありましょうか。後で急に決まった民主党の
両院議員総会が、先に与野党の合意の下で決まっていた本会議を超えるものなのでしょうか。本会議で法律案などを審議することは我々議員に課せられた最高の責務であります。これを超えるものがありますか。議長の見識に疑問を持つものであります。
思い起こせば、平成二十年度
歳入法案は、衆議院から送付後六十日が経過して、憲法五十九条第四項の規定によりみなし否決という最悪の結果を招き、参議院の歴史に汚点を残しました。このときも、
江田議長は委員会の混乱の収拾に乗り出されませんでした。参議院が何の結論も見出せなかったという現実は、
参議院無用論につながる院存立の否定であります。七月に任期が切れますが、
江田議長は、この三年間、多数会派の横暴を黙認してきたと言っても過言ではありません。今回の流会を正当化する
江田議長には猛省を促しておきます。
さて、まずは同じ長州の出身者として新総理に祝意を表したいと思います。その上で、長州人として一言申し上げておきます。
新
内閣発足に当たり、総理はこの内閣を
奇兵隊内閣と名付けられました。総理もよく御存じのように、奇兵隊の目的は倒幕でありました。明治の
思想家徳富蘇峰は、その著書「
吉田松陰」の中で、大きな国の改革を成し遂げるには三種類の人物が必要であると述べています。すなわち、思想家、破壊者、創造者であります。奇兵隊はまさに成功した破壊者でありました。
まさか、今回の
政権交代が明治維新に匹敵するなどという思い上がりはお持ちではないでしょうが、あえて並べてみたとしても、
政権交代後の菅内閣がなすべきことは破壊ではなく創造であります。松陰や晋作は私も尊敬してやまない郷土の英雄ですが、今、菅内閣として、総理としての
歴史的使命がもしあるとすれば、それは奇兵隊よりは伊藤公や
大久保公の役割に、すなわち創造者に近いと思いますが、総理の思いをお聞かせください。
六月四日午後、
衆参両院で
首班指名が行われ、
民主党菅代表が
総理大臣に指名をされました。これに先立ち、内閣は総辞職をしております。ただ、憲法七十一条、内閣は、新たに
内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行うの規定で、鳩山前内閣が
職務執行内閣として存続しました。八日の皇居での親任式まで事実上二人の総理が存在し、総辞職した内閣が丸四日間も存続したことになりました。
職務執行内閣の権限には明確な規定がなく、重要な
政策決定はできないと解釈されてきたはずであります。政府・与党は、この間に不測の事態、例えば有事で自衛隊に
防衛出動を命ずるような判断が必要な事態が生じたとき一体どうしたのでしょう。辞めた
鳩山総理に任せるのですか。今回の総理の交代は
危機管理上大きな問題を残しましたが、なぜこのように時間を掛けたのか、その理由をお示し願います。
鳩山前総理の突然の
辞任表明もあり、中一日置いただけの新
代表選出となりました。なぜ
鳩山政権が九か月余りで国民の信を失い、
政権運営が行き詰まったか、これほど短期間の代表選の中でその総括は十分なされたのでしょうか。
一方で、国会は、
会期終盤の中、衆議院から送付された法案の審議もすべて中断し、民主党の
代表選挙のために国会は
開店休業に追い込まれました。そのようなぎりぎりの状況で内閣が発足したにもかかわらず、一度署名した
連立合意に基づく
郵政法案の取扱いをめぐって国会の
会期延長に関する政府・与党内の
意思決定がもたつき、貴重な残り少ない会期を浪費した上に、果ては
亀井大臣の辞任に至りました。
政権交代後に発足した
連立内閣の党首であった鳩山、福島、亀井三氏が、たった九か月でだれもいなくなってしまったわけであります。
なぜ、ほやほやの
連立合意を踏みにじってまで、
参議院選挙の日程を変えなくて済むたった一日の延長、それすら行えないことになるのでしょうか。菅新政権の
基本政策を、
予算委員会や
決算委員会などの審議を通じてじっくりと国民に説明するべきではなかったでしょうか。まさか、支持率が高いうちに、閣僚のぼろが出ないうちに選挙をというよこしまな思いがあったとは思いたくありませんが、総理の見解を問います。
与党が政権を担う能力を失ったならば、直ちに野党に政権を渡し、総選挙を行うのが
議会制民主主義の筋道だと心得ますが、総理は憲政の常道というものをいかがお考えでしょうか、お答え願います。これは、平成二十年十月一日、麻生新総理の初めての
所信表明に対する当時の
小沢民主党代表の質問であります。
だれの目から見ても、支持率が一〇%前後という
麻生政権も、常識的に言えば行き詰まったと見るわけで、そのときに、いいんですよ、そのまま解散するのも一つの手です。しかし、首のすげ替えをまたやれば何とかなるという考え方が、二大政党というものを理解していない、あるいはそれを機能させようとしていないことになるんじゃないか。これは、昨年二月二十七日、
衆議院予算委員会における菅委員の発言です。
野党時代に主張されてきた、総理の交代に伴う衆議院総選挙の機会が到来いたしました。衆議院を解散して国民に信を問うことこそが新総理の最初の仕事と存じますが、いかがされますでしょうか。
菅総理は、
財務大臣のときには、日本は
三権分立ではない、なぜなら、
日本国憲法には
三権分立とはどこにも書いていないからと述べておられます。
私はそのときにも申し上げましたけれども、
三権分立、すなわち立法、行政、司法の三権の間の抑制と均衡という考え方は、
近代国家の存立の基本的な思想であり、
三権分立という単なる言葉としてでなく、
統治構造の
基本理念としてどこの国の憲法にも採用されている思想であります。これは、三権のうちどれか一つが強力になり過ぎることから国民の権利、自由を守るために人類が生み出した英知であると理解しております。
これに対して総理は、三権の抑制と均衡という
考え方そのものが間違っている、つまり、国会は国民が直接選んだ
国会議員で構成されているから、他の二権よりも権力的には上にあるのであって、国権の
最高機関とはまさにそのことを述べていると、いわゆる
政治的美称説を明快に否定されました。選挙で選ばれた者が権力を握るのであって、これを抑制するのは、あえて言えば任期しかないと述べられておられます。所信でも、御自身の基本的な
政治理念は
国会内閣制と述べておられます。総理に御就任されてもこの考え方は変わりませんか、お答えください。
また、
法制担当の
仙谷官房長官にも確認の意味で、総理のこの考え方は菅内閣としての
正式見解なのか、また、総理を始めとする閣僚の
憲法尊重義務に反しないのか、お尋ねします。
次に、普天間問題を中心に外交・安全保障問題について伺います。
鳩山前総理は、退任の際、政治と金、そして普天間問題が解決できなかったことが政権を投げ出した理由だと述べられました。最低でも県外という代表としての発言、総理になられるまで沖縄の海兵隊の抑止力を正しく認識していなかったことなど、あきれ返るばかりのことが続きましたが、
鳩山内閣ナンバーツーであった菅総理は、普天間問題をどう考えておられたのでしょうか。
総理の座が目の前に近づいてきたからでしょうか、君子危うきに近寄らず、火中のクリは拾わず、副総理として何をされたのか、全く分かりません。しかし、言うまでもなく、菅総理は当時、普天間問題についても指導力及び
調整能力を発揮する立場にありました。
県外移設ができない責任を取って
鳩山総理がお辞めになったにもかかわらず、自分はのうのうと昇格する、全く信じられません。
所信表明演説では、普天間問題は先月末の
日米合意を踏まえつつ進められるとのことですが、総理は、
鳩山政権が
日米同盟にどのような影響を与えたと考えるか、また、普天間基地問題をこれだけこじらせた
鳩山政権の対応の責任をどうお考えになっておられるか、お伺いいたします。
鳩山政権は、普天間の移転先について何の展望も国家としての戦略もなく、各閣僚がばらばらに無責任な発言をし、沖縄の期待感を高めた挙げ句、手ひどい裏切りをいたしました。
今後、沖縄との
信頼関係を回復されるのは容易なことではありません。このずたずたになったきずなをどう回復される
おつもりでしょうか。
鳩山内閣で
沖縄担当であった
前原大臣を始め、
岡田外務大臣、
北澤大臣と戦犯三大臣は留任されておられます。当然、退任されるものと思っておりましたが、なぜ留任なのでしょうか。
また、総理は、
所信表明演説で、外交について、時には自国のために代償を払う覚悟ができるか、国民一人一人がこうした責任を自覚し、それを背景に行われるのが外交であると考えますと国民に覚悟を迫っておられます。代償を支払う覚悟とは一体どういう意味でしょうか。
自衛隊員は、職に就くに当たり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえるとの服務の宣誓をいたします。総理は、一般の国民の皆様にも同様の宣誓を強いる
おつもりでしょうか、お伺いいたします。
また、総理は、
日米同盟を着実に深化させると述べておられますが、ここまで悪化した
日米関係を立て直すための具体案はありますか。
集団的自衛権の行使に向けての取組、
武器輸出三原則の見直しなどを含んだ前向きな議論を行い、一刻も早く
防衛大綱の見直しと中期防の策定を行うべきだと思いますが、総理の見解をただします。
次に、
経済政策についてお聞きします。
今月中には菅内閣としての新
成長戦略を
中期財政フレームとともに取りまとめられると聞いております。これは中長期的な
日本経済の再構築につながる重要な
経済政策の指針となるべきものと理解をしております。
鳩山内閣では昨年の十二月三十日に
成長戦略の骨格をまとめておりますが、その後これを具体的に実行していくための予算や税制などを含む具体的な支援策を盛り込み、六月に公表するとされていました。
所信表明では、昨年末の骨子と同様の六項目がただ並んでいるだけで、どうやって実行していくかの具体策が欠けており、全く
期待外れと言わざるを得ません。我々の
成長戦略は実行のための
補正予算を伴ったものでありましたが、今度おまとめになる
成長戦略を実行していくために
補正予算を編成したり、税制の手当てをする
おつもりがありますか。学者の論文ではありませんので、中身のあるものを出していただいてきちっと国会で議論すべきだと思いますが、総理の見解をお伺いします。
菅総理は、
成長戦略の考え方として従来より、
公共事業中心の第一の道、
市場原理主義による第二の道のいずれでもない第三の道を追求すると宣言されています。その説明として、
経済社会が抱える課題の解決を新たな需要の創出や
雇用創出のきっかけとし、その成長につなげようとする政策ですと説明されております。
しかし、私には何遍聞いてもこの第三の道が少なくとも
経済政策としては理解できません。
少子高齢社会の進展の中で、医療や介護といった分野による
需要創出を考えているのかと想像はいたします。しかし、こういった分野の多くは、税金や保険料といった公的な財源により支えられており、
サービスも
診療報酬といった公定価格による部分が大半であります。
経済学的には、第一の道の
公共事業と同じことではないでしょうか。要は、課題の解決を政府自ら若しくは公的支出で行うのか、若しくは企業が行うのか。政府ならば第一の道、企業なら第二の道ではないかと考えますが、いかがでしょうか。
私は、強い経済というのは、まず競争力のある力強い
企業活動から始まるものと理解しております。多くの企業が、
内外市場における競争を通じて、良い商品、良い
サービスを供給することで販売を拡大し、利潤を上げ、そこから設備投資の拡大、雇用の増加を行っていく、そしてそれが家計収入を増大させ、
個人消費を拡大させるといった好循環を生むことにより
日本経済が成長するものと考えます。政府の役割は、呼び水的な誘導策によってこの好循環を促進すると同時に、これを阻む要因を取り除くとともに、
経済活動が行われやすいようなマクロの
経済環境の維持に努めることです。
しかしながら、私の誤解であれば幸いですが、菅総理と委員会などで経済、財政に関する議論を交わした上での率直な感想を申し上げますと、総理は、
資本主義や
市場経済、企業の
営利活動といったものに対してどうも否定的な見解をお持ちなのではないでしょうか。かつての社会主義的な思想が、経済問題を考える際にも、菅総理の頭に残っているように思えます。
確かに
計画経済の社会では、乗数効果や
消費性向という概念はないのかもしれません。しかし、菅総理、日本はれっきとした
資本主義の
市場経済国家であります。総理となられた今、
日本経済を間違いない方向にかじ取りしていただかなければなりません。そして、自由な
企業活動を大前提に、強い
日本経済を再生されんことを望みます。総理に新
成長戦略の柱となる
経済思想に関して御所見を伺います。
次に、
財政健全化の方策について伺います。
自民党は二〇二〇年度までを目途に
基礎的財政収支の黒字化を達成するとの目標などを定めた
財政健全化責任法案を既に国会に提出しており、総理からも、
財務大臣として委員会で前向きな答弁をいただき、
所信表明演説でも言及いただきました。
菅内閣においても、遅ればせながら
財政再建の必要性を認識され、またそのために何をすべきかとの議論が始まったものと少しは安心をしております。そして、かつて民主党が野党であったころ、そうした認識は全くなく、予算の組替えで幾らでも財源は出てくるという根拠のない自信の下で、我々の
財政再建の提案にもほとんど興味を示されなかったことを今懐かしく振り返っております。
我々の
財政健全化責任法案に賛成いただけるのであれば、早速、
財政金融委員会に付託していただき、すぐにでも審議を開始し、速やかに成立させるべきだと考えますが、総理の見解を伺います。
その上で、
財政健全化検討会議を開き、具体的な検討を進めていければと思いますが、そのためには二つのことが当然必要になります。
一つは、予算の組替えや仕分などによる財源の捻出には限度があること、消費税の引上げは不要であるとした民主党の
マニフェストが全く間違いだったことを認め、それをきちんと国民におわびすることであります。二つ目は、巨額の
ばらまき施策が並んでいる民主党の
マニフェストを根本から見直すこと。この当然のことをおやりになる覚悟があるのか、総理並びに政調会長を兼務しておられる
玄葉大臣に伺います。
現内閣は、来年度の
国債発行額を今年度と同額の四十四兆円以下に抑制するという考えを示しています。しかしながら、
マニフェストの実行を前提とすれば、
財源不足は明らかです。少なくとも五兆円以上抑制しないと、
国債発行額の目標は達成できないでしょう。このため、最終的には増税しかないという方向に内閣の判断も傾いてきたものと思います。
四月に
仙谷戦略大臣は、消費税だけではなく
税制改革、
歳入改革を掲げて選挙をしなければ国民に甚だ失礼だ、今の税収のままなら財政は大きな壁にぶち当たると発言、また、
野田財務大臣は、
財源確保は
マニフェストの大事な要素だ、財源を確保しながら実現していくというフレーズは絶対に入れていくべきだと言われております。
我々は、
参議院選挙の
マニフェストの中で
消費税率一〇%を明記し、国民に
財政再建の必要性と
社会保障目的税化による持続可能な
社会保障制度を提案いたします。
これに比べ、政府・与党の消費税を含む税制の
抜本的改革についての考え方は依然として不透明であります。具体的に、消費税は何%が適切であり、どのようなタイミングで見直すべきなのか、そして法人税の水準など税体系全体をどのように見直すお考えなのか、総理の認識を確認します。
次に、
口蹄疫問題について伺います。
四月に発生して以来、いまだ感染は収まらず、ついには先週、
国内最大級の
畜産地帯、都城市でも疑似患畜が確認されました。
鳩山内閣は口蹄疫に関し全く危機感が欠如しており、辞任された
赤松大臣は我が党が第二弾の対策の申入れを行った四月三十日から、国内にとどまるべきだという我が党の忠告を振り切って、中南米に
不要不急の九日間の外遊に出かけられました。さらに、
鳩山総理が本部長を務める
口蹄疫対策本部の初会合が行われたのは、口蹄疫の発生を最初に確認してから約一か月後のことであります。このような政府の
危機意識の甘さにより、すべての対策は後手に回りました。
私どもが政権を担っていた平成十二年、口蹄疫が九十二年ぶりに発生したとき、処分された家畜は七百四十頭でありました。被害が拡大しなかったのは、我が党のリーダーシップの下、百三十二億円を確保し、様々な施策を迅速に打ち出したからであります。当時は発生当初から現場には国から迅速な指導がなされました。発生農場から半径十、二十、五十キロメートルのところに
消毒ポイントを設置し、
対象地域では埋却処分が終わるまで自宅の出入りを禁じるなど、非常に厳格な体制がしかれました。早急に予算が確保され、国が責任を取るという意識が明確に示されたことによって、現場が安心して様々な対応をすることができたのではないでしょうか。
それに比べて、この度の
消毒ポイントは発生した農場から半径十、二十キロメートル地点にある国道十号線の四か所のみで、周囲の住民も自由に出入りができました。また、感染が広がっている地域の県道を閉鎖するにも数日を要し、四月二十日の発生後、JAが消毒薬の不足を懸念し政府に
追加支援を要請しても、到着したのは二十八日だったそうであります。初期の段階で国が先頭に立ち
道路閉鎖などの対策を厳しくしておけば、これほど被害が拡大することはなかったのではないでしょうか。
菅総理は
鳩山内閣の初動の遅れをお認めになりますでしょうか。また、
赤松大臣はこの度
農林水産大臣に再任されませんでしたが、
口蹄疫拡大の責任を取って再任されなかったということでしょうか、お伺いいたします。
また、鹿児島県などからは、国会を延長して更なる対応策を検討することを要望するとともに、選挙による人や車両等の移動による
口蹄疫拡大に対する懸念から
参議院選挙を延期してほしいとの声も出ております。かつて
ブレア英首相が狂牛病の拡大を防ぐため総選挙の延期を決断したように、菅総理もこの地元の悲痛な叫びにおこたえになる気持ちがおありですか。
次に、
郵政法案の中身について伺います。
そもそも
郵政改革の出発点は、入口が出口を決めてしまうという
財政投融資の改革でありました。郵貯や簡保に入ってくる多額な資金を運用するため、
不要不急の投資や融資が行われ多額の損失を出した反省から、
預託義務を廃止し、
政策金融機関がそれぞれ必要な額を
財投機関債の発行により市場から調達する仕組みに変えました。その結果、
財政投融資の規模はピーク時の半分になったわけであります。
今回の法案は、この官から民への大きな改革の流れをまさに逆転させるものであります。そもそも民主党の二〇〇五年
衆議院選挙の
マニフェストでは、
郵便貯金の限度額は二〇〇六年度中に七百万円に、その後更に五百万円に引き下げると掲げられておりました。現行からの
大幅引下げであります。それが、どうしたことか、今回の案では、
郵便貯金が二千万円、
簡易保険が二千五百万円と公約が大逆行しております。これは、民間の
金融機関に預けられ
民間企業に投融資されるべき資金を、官営の郵貯、簡保にシフトさせ、非効率な投融資を再び復活させるものであります。これが菅総理のおっしゃる第三の道なのでしょうか。
このような
民業圧迫法案に対し、国内のみならず国外からも懸念が表明され、WTOに提訴する動きすらも出てきております。
この
改革逆行法案が廃案となるこの機会をとらえ、今申し上げた改革の原点に立ち戻り、
市場経済国家日本にふさわしい法案に変えるべきだと思いますが、総理の見解を伺います。
次に、八
ツ場ダムの問題であります。
前原国土交通大臣が
建設中止を明言したのは昨年の九月十七日でありました。約九か月たった現在でも、大臣と
建設継続を求める地元の方々との話合いは進まず、
本体工事は凍結のままであります。二十年間にわたって
ダム建設を前提にした町づくりをしてきた住民と、最初から
建設中止を前提とした
生活再建策の話合いを促す
前原大臣との協議はいまだ平行線であります。
住民の移転先の代替地間を結ぶ湖面一号橋はダム湖ができなければ不要として凍結を検討しながら、生活に欠かせないとの地元の声を受けて
工事継続となるなど、全く一貫性が見られません。
水没予定地で転居を決めた方も、休業を既に決めていらっしゃる温泉旅館の方もいらっしゃるんです。
政治主導とやらで
公共事業を削減する一環でしょうが、
地域主権の金看板が泣かないよう、地元住民が十分に納得できる説明と誠意ある対応を可能にするために、まず中止ありきの
マニフェスト至上主義を見直すべきだと思いますが、総理の御所見を伺います。
実際、民主党は
マニフェストで、
ガソリン等の
暫定税率は廃止と約束されましたが、今年度予算で早くも公約破棄をされ、
暫定税率を実質維持しております。なぜ八
ツ場ダムだけは
マニフェストを変えられないのでしょうか。
高速道路料金の無料化はどうですか。今月末に試行を始めると伺いましたが、余り実験の成果の期待できない路線です。今国会では衆議院に、
高速道路建設財源を新たに確保するため、
高速道路料金の
実質値上げをする法案が提出されております。
しかしながら、この法案を審議する
衆議院国土交通委員長は、あの
ガソリン値下げ隊の隊長でありまして、法案に賛成することができないと宣言されております。与党所属の委員長が政府提出の法案に反対されているという異常な状態であります。
マニフェスト違反は明白であり、方針変更をせよと身内から御意見されているのであります。いかがする
おつもりですか、総理の見解をお聞きします。
次に、日本航空の再建策について伺います。
同社の稲盛会長は、先月、裁判所への会社更生計画の提出期限を、当初の予定の六月より二か月先送りして、八月末と表明されました。会社更生法の適用を申請してから既に四か月を経過しておりますのに、いまだに日航をどのように再生し、どんな会社にしていくのかが全く見えてきません。
前原大臣は当初タスクフォースをつくって取り組まれましたが、高い手数料を掛けて細かな資産査定をする前に、本来大臣がやるべきことは、国家の航空戦略、すなわち日本にメガキャリアが何社必要で、国内、国際それぞれの線をだれがどう担当していくのかという骨太の方針を示すことではなかったのでしょうか。この基本戦略がないことが、JALの再建計画が迷走し、結果として税金で損失補てんをするリスクを増大させていると思いますが、総理の見解を伺います。
次に、地球温暖化対策についてお聞きいたします。
所信では、強い経済の実現の中で、グリーンイノベーションには、鳩山前総理が積極的に取り組まれ、二〇二〇年における温室効果ガスの二五%削減目標を掲げた地球温暖化も含まれますと述べられました。この目標数値が本当に強い経済につながるのなら、世界中の国がこぞって二五%削減を採用することでしょう。しかし、残念ながら、国内外、少なくとも経済界で本気でそう思っている方にはいまだにお目にかかったことがございません。
鳩山前総理の辞任のごたごたで、
郵政改革法案共々、参議院で審議中の地球温暖化対策基本法案は廃案となる見通しです。衆議院で強行採決したにもかかわらず、あっさりと成立をあきらめられました。まあ法律事項は本部の設置だけで、あとは削減計画を含め閣議決定で足りるという内容だということであれば、それも当然でしょうか。問題点がかなりある法案でしたので、この際、国民負担の議論からきちんと始め、数値目標を含め一から見直すべきではないでしょうか。総理のお考えを伺います。
以上、基本的な
政治理念から政策の各論に至るまでお聞きをしてまいりました。
これらの政策等の中身と同様に大事なのが、これらの政策を練り上げ実行していくための体制づくりやその運営の仕方であります。鳩山前政権の失敗を反省し、与党の中の政調会を復活させたのは、遅きに失したとはいえ、正しい方向だったと思います。
しかし、今後の運営の仕方として、与党の事前承認を内閣提出法案に義務付けるかどうかが大事なポイントとなります。これがなければ、今までの勉強会と何ら変わるところはないことになるでしょう。若しくは、事前承認をしない代わりに党議拘束を掛けないということも理論的にはあり得ますが、議院内閣制とは相入れない仕組みではないでしょうか。
また、政と官の関係についても菅総理は、官僚は大ばかだという従来の見解を修正され、プロとして評価をするという姿勢に転じておられますが、いつ宗旨変えをされたのでしょうか。真の
政治主導とは、官僚を排除することではなくて、官僚を使いこなすことであると思いますが、総理の見解をお伺いいたします。
こうして見ると、普天間移設問題では回り回って現行案、
財政再建も超党派で消費税を含む税制の抜本改革、与党の政調組織も復活、
政治主導も官僚排除から官僚使いこなしへ、民主党政権もだんだん与党らしくなってきたということなのでしょうか。これが
政権交代の成果なのでしょうか。それにしても、そのために国民が負担した授業料は余りにも大きかったと言わざるを得ません。
まさに内憂外患、国の内外に課題が山積する今、国のかじ取りに一瞬の油断も許されません。その重責に堪えられずに政権を投げ出す前に、一刻も早く国民に信を問うことを再度要請し、また答弁が不十分な場合は再質問をさせていただくことも申し上げ、私の質問を終わります。(拍手)
〔
内閣総理大臣菅直人君登壇、拍手〕