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公述人(
山本清君)
山本でございます。よろしく
お願いいたします。
私は、元々といいましょうか、パブリックセクター全般のマネジメントでありますとか非営利
組織の経営につきまして研究をしておりまして、国家
公務員制度改革につきましても、もう少し広い視点から今日は
意見を述べさせていただきたいというふうに考えております。
お手元にレジュメが配付されていると思いますものですから、それに基づきまして申し上げたいと思います。
最初に、
公務員制度の今回の
改革を考える場合の視点でございますが、ここには書いてございませんが、多分、恐らく二つの大きな流れがあるんだと思います。
一点は、やはり戦後、
日本国憲法によって民主的な行政を行うということになっておったのでございますが、やはり
官僚の役割というのが基本的に余り大きく変わってないのではないかということで、それについてのやはり政治主導の確立を今回明確にしようというのが大きな目的の一点としてあるのではないかと。
もう一点といたしましては、民主的統制という以外の面で、いわゆる
官僚制
自身の機能低下が見受けられるのではないかと。いわゆる高度成長期等を支えておった
官僚制
自身が、今のような不透明な時代にもういろいろな問題が、トラブルが起こっておる、それに対して
官僚制
自身の見直しをやはり立法府においても
制度設計を再構築すべきではないかという大きな流れの中で今回の
改革がなされて、検討なされておるんだというふうに
理解しております。
その中でも、とりわけ
飯尾公述人のお話にもありましたとおり、国民とかあるいは社会に対する適応性ということも当然重要になってまいりますし、あるいはこの財政危機下における執行の効率化ということについても
公務員制度改革を通じて貢献していくということが同時に要請されているというふうに思っております。
ただ、我々、
公務員制度改革をとらまえる場合に、
公務員というのは、確かに主要な人的資源の大きな、公務サービスの場合の大きな要素でございますが、やはり我々としては、国民あるいは社会に対してより効果的なあるいは効率的な行政サービスを提供する
一つの資源の主要な機能としていわゆる
人事管理あるいは
公務員制度があるんだということでございますものですから、あくまでも今回のような
公務員制度改革を考える場合におきましても、いわゆる目指すべき
行政運営システムあるいは行政の経営
システムがどういうものを目指しているのかということの中で整合性が取れているかどうかということがやはり大きな
ポイントになるだろうというふうに私は思っております。
とりわけ、我が国は
議院内閣制でございますものですから、今回、政官
関係ということで、行政府の中におきます国
会議員と
官僚との
関係、これは
幹部公務員、
幹部職員について新たな対案等も出ているわけでございますが、こういった行政府の中における政治家と
官僚機構あるいは行政官との
関係をより改善していくと同時に、やはり立法府と行政府の
関係、いわゆる立法府が行政府をコントロールする場合においてどういった機能がこの
公務員制度改革に伴って必要であるのかということについても、是非こういった場で御
議論を賜りたいというふうに考えておる次第でございます。
現在のところ、公務についても民間的な発想なり思想をどんどん導入したらどうかということがいろいろ
議論はされております。しかし、少し注意しなきゃいけない点といたしましては、やはり
幹部職員の任用等においても重要な点になってまいりますが、公正でありますとか中立性ということは非常に大きな問題でありますし、公権力の行使を伴いますものですから、それに対する一種の担保といたしまして民主的統制をどういうふうにしていくかということを同時に忘れてはならないと思います。
ただ、世界的には、そうはいいながら、パブリックとプライベートセクターの境界をなるべくなくそう、そういったニュー・パブリック・マネジメントでありますとかガバナンス的な思想が非常に拡大しているということも事実でございます。こういった中で、我が国の行政
システムあるいは
公務員制度がどうやって進んでいくのかということを考えていく必要があるかと思います。
二ページ目の方に参らせていただきますが、今回の
閣法あるいは衆法あるいはそれの改正等につきまして、我が国がどういう方向を目指しているのか、その政官
関係について図で書いてございますが、上の方が政治家であって下の方が
官僚というイメージで見ていただきたいと思います。上がAからBとかいうふうに変わっておりますのは、
政権が交代した場合に
官僚機構がどういうふうに変わっていくかということを示したわけでございます。
私が聞くところによりますと、今回の
閣法なり衆法等の基本的な
考え方といたしましては、英国的なモデルがかなり参照されているやに聞いておりますが、もし英国的なものをイメージするとなりますと、英国そのものは、
政権が替わりましてもいわゆる
幹部公務員も含めました
公務員自身は替わらないと、すなわち、主人が替われば主人の好みに応じてある
意味でエージェントの方もそれを支えていくということでございます。
したがって、そういうことからいきますと、
政権への忠誠と中立性が非常に必要になってまいりますし、いわゆる都合が悪いことについてもやはり
政権にとって言わないと、かえってその
政権にとって足を引っ張るということになりますものですから、素直な助言を可能にするためにはやはり任命
人事の中立性が非常に重要になってまいります。いつ降任になるかもしれないとか、あるいは免職になるかもしれないという状況においては
政権に不利なことを、専門的な助言ということを申し述べることは非常に難しくなりますものですから、いわゆる政治家と
官僚との
関係においての適切な距離感というのをいかに確保するかというのが
制度設計上において非常に重要な
ポイントになってまいるだろうというふうに思っております。
したがいまして、そこら辺をどういうふうに考えるかということでありましょうし、あるいは
政治的応答性をということであれば、政治的任命職を非常に増やすということになりますし、米国とか独仏等のタイプになろうかと思います。
ただ、独仏等のいわゆる
キャリア公務員といいましょうか上級
公務員につきましては、かなり政治信条的に不一致の場合というのはやはり政治的忠誠心というのが欠ける場合がございますものですから、その場合に対応して、いわゆる
政権与党等とイデオロギー等で大きく違う場合においては、いったん地方政府の方に入るであるとか、あるいは中央政府の中でも別のそういう企画とか立案部門以外のセクションに移ると、こういった
一つの生活の知恵的な発想が同時に生涯職の場合でも担保されておるわけでございます。
したがって、それぞれの国はそれぞれの特質の中にあるものでございますから、もし
日本が目指すのが英国的なものであるとすれば、それが何ゆえに機能しているのかということについて正確な
理解が私は必要ではないかというふうに思っております。
そういう点からいきますと、
日本の現在の
官僚制
自身がどういうふうな状況にあるのかというのは、ごく最近村松岐夫先生が出版されました本の中から抜粋してまいりましたが、村松先生は、一九八〇年、一九九四年、二〇〇三年―二〇〇四年にかけまして三回にわたる、
官僚だけではなくて政治家あるいは圧力団体等について調査をなさっておられます。
それから見ますと、ここに網掛けがしてございますとおり、
官僚自身が、今後政治主導になるというような
意見の順位が徐々に上がってきておりまして、少なくとも二〇〇三年から二〇〇四年にかけては第一順位が、
官僚としては、今後は政治主導が、政治の影響力が強まって
官僚の影響力が弱まるのではないかというふうな認識が一番多くなってございますものですから、
官僚機構の方としても今回のような政治主導についての受入れ体制というのは整ってきている。そういう
意味においては、今回の
制度設計の検討時期というのはそれなりに適切な時期にあるのではないかというような感触は得られるわけでございます。
ただ、問題は、それを、どういうふうに政治主導を完結していくかということになろうかと思います。その点で私が考えますものでは、
改革すべき事項のところに書いてございますが、やはり行政府内部での新しい政官
関係の確立ということでございまして、とりわけ立法府との
関係を含めました政治家と
官僚の分担
関係をどういうふうにしていくかということが、私はまだ
改革基本法あるいは今回の三つの
法律を読んでもなかなか見えないというのが正直なところでございます。とりわけ、今後、国際的な動向等を踏まえた迅速な意思決定とあるいは戦略的な決定をする場合のそういった専門性であるとか決断力等が政府全体の機能の中で担保されているかどうかということについてはかなり疑問点が残って、それを担保するような
公務員制度改革が必要ではないかと思います。
とりわけ、中立性、公正性と専門性の確保というのは、これは
官僚制のもう基本であるわけでございますが、私は
官僚の
皆様ともお付き合いあるわけでございますが、やはり政策の立案、分析、助言の機能というのは私は正直言って低下しておると思います。そして、いわゆる調整型
官僚と言われておった時代があったわけでございますが、非常に国会対応でありますとかいろいろな
調整機能で日常的な活動のほとんどが取られて、肝心な政策の仕込みであるとかあるいは分析をしていくというのが低下しておって、その分析であるとかいうのがシンクタンク等の方に、丸投げとは言いませんが、かなりなっていって、それが、適切なシンクタンクが
日本において育っておればいいんでございますが、
日本においてはかなり中立的なシンクタンクというのが非常に少のうございますものですから、そういう点からいって、
官僚のシンクタンク的機能がどんどん低下していった結果が国力の大きな減退につながっているのではないかというふうに考えておる次第でございます。
時間も参りましたので、三ページの方に移らせていただきます。
法律案へのコメントでございます。これは、三案、今日出ておりますが、三案についての包括的な私の
意見でございます。
私は、目指すべき方向というのは、確かに今、政治家から場合によっては
官僚に対する働きかけが全くゼロではないでしょうし、あるいは
官僚側が政治家に対しての働きかけは依然として行っているということもあるかもしれませんが、そういった実態はやはり断ち切るべきであろうかと思います。
ただ、問題は、その政治的なネゴシエーションであるとか政治的な調整をやるということの機能をいわゆる
幹部職員あるいは
幹部公務員に担ってもらうことがいいかどうかということについては、私はやや疑問に思っております。むしろ、非常に政治的なことというのは、
改革基本法にも書いてございますとおり、むしろ政務スタッフ等を活用した方がいいのではないかというふうに考えておるところでございます。その点を強調しておきたいと思います。
なおかつ、
内閣人事局の役割でございますが、これは実際運用をどうするかによりまして、
幹部公務員法案あるいは
幹部職員法案あるいは
閣法、どちらもどうなるかは不透明でございますが、やはり
官僚機構が持っている専門的知識、助言というのを、忌憚のない
意見を言うためには、それなりのバッファーといわゆる身分の
保障ということが確保される必要があるということで、なるたけその
人事については公平性、中立性が担保されるような措置がいずれにいたしましても必要ではないかというふうに思っております。
あと、大きな問題といたしましては、
労働基本権の付与ということが大きな
議論になろうかと思いますが、私は
原則的には三権を付与すべきであろうというふうに思っておりますが、ただ同時に、現在も有しておりますような
人事院の中立的、専門的機能をもっと活用した方がいいのではないかというふうに思っております。
なお、人件費の二割削減の問題でございますが、
国家公務員、五兆円でありますとか、あるいはそういうお話が出ておりますが、国、これは独立行政法人も含めた連結ベースの人件費というのは十兆五千七百六十億円ぐらいございます。これを、企業会計ベースの
業務コストは百五十二兆円でございますから、このベースでいきますと七%ぐらいになります。
それで、五兆円というのを一般会計と特別会計の純計の二百兆円で相当いたしますと二・五%ということでございますが、いずれにしても、
公務員の人件費を、全体でこれぐらいの割合でございますから、これを削減することだけではとても現在の財政
改革は達成できないわけでございまして、むしろ今必要なことは、人件費も含めた総コストの抑制が重要でありまして、人件費がたとえ二割減ったとしても物件費等が増えれば何にもならないわけでございますから、やはりむしろ、人件費の
管理だけではなくて、そういった行政の執行コストをどうやって減らすかということの中で人件費
改革を位置付ける必要があるのではないかというふうに思っております。
最後に、四ページ目の結論でございます。
これは読み上げさせていただきますが、世界各国の
公務員制度改革、特に
幹部公務員制度はいずれの国も
改革を進めているが、いまだ成功と言えるものはないのが現状でございます。それは、生涯
職制は適応性を欠き、
職位制は集団性を欠く欠点があるためでございます。前者には絶えざる革新性と専門性の維持が必要でありますが、なかなか、生涯職になりますと安定志向になりますので、それは難しゅうございます。一方、後者には共通の公共価値観、いわゆるパブリックバリューと
公務員としての集団意識の醸成が求められていますが、これもやはり
ポジションごとの、要するに職を充てるということでございますから、これは一体化がなかなか難しいということで、これらは各
制度の基本理念と矛盾する
側面がありまして、両者とも必ず正解がないわけでございますものですから、我が国における
改革におきましてもやはり種々基本的な理念に立った試行錯誤の中で模倣から創造に進化させていただきたいというふうに思っております。
以上でございます。