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参考人(
片山善博君) ありがとうございます。
先ほど
委員長から御紹介いただきました
慶應義塾大学の
片山であります。
今日は、私の非常に個人的にもまた
仕事の上でも関心の深いこの三法の審議に当たりまして、
意見を
委員の
先生方に聞いていただく
機会を与えていただきまして、本当にありがとうございます。先ほど
委員長から
忌憚のない
意見をとおっしゃられましたので、ちょっと
忌憚がなさ過ぎるかもしれませんけれども、
お話を申し上げたいと思います。
最初に、
地域主権改革の
推進を図るための
関係法律の
整備に関する
法律案でありますけれども、これは先ほど
辻山参考人からも
お話があったとおりでありまして、一つは、
地域戦略会議の
設置を根拠
付けるということで、これは
政府がそうやられるのを
国会で承認するということですからそれはそれで結構だと思いますが、残余の部分、すなわち
自治体に対する国の
関与、
義務付けでありますとか
枠付けでありますとか、これを整理するという、その分野については、私の役人をやっていたときの
経験とかそれから
現場の
自治体を預かっていたときの
経験からいって、ほとんど
意味がありません。
お手元に配付していただいている資料を御覧いただくと、これ
シャビーと書いていますけれども、実に
シャビーであります。これで一体何が変わるのだろうか、
国民にとってどういう
意味があるのだろうかということを考えますと、あの大部の
法律案をしらみつぶしに読んだわけではありませんけれども、要綱その他を見た限りでは、
国民にとって何の
意味もない
改正だと思います。この
法案に
賛成される
委員の
皆さん方は、例えば
国民に対してこれによって何が変わるのかということをどう説明されるのかと私は実は案じているんであります。何も
中身がないんではないかということであります。
一方、先般、
鳩山総理大臣は
国会における
施政方針演説で、そこにも書いておりますけれども、この
地域主権改革というのは国の形の
一大変革であると、こうおっしゃっています。
鳩山内閣の
改革の一丁目一番地だと、こうもおっしゃっています。差し当たってこの三
法案というのは、この
地域主権戦略の第一弾だとおっしゃっていますから、これが国の形を変える
一大変革で、
改革の一丁目一番地で、その第一弾なんだということです。どこが第一弾なんだろうかと思います。
じゃ
反対するのかというと、
反対することはありません。それは
辻山参考人のおっしゃったとおりで、一万分の百でも、ちょっと本当に
シャビーでも進めばそれは
反対する理由はありませんけれども、笑われるんではないかと、私は、心ある
国民から笑われるんではないかと思います、この
内容の乏しさに、ということです。
それで、
地域主権改革で
義務付け・
枠付けを外すということであれば、やることはいっぱいあるんです、ほかに。特に一丁目一番地ということでありますと、私の
自治体の
経験でいいますと、例示をそこに書いていますけれども、例えば起債に対する国の
関与、これはいまだにやっています。昭和二十年代に、二十二年にこの
地方自治法ができたときに、戦後のどさくさもありまして、
自治体の
地方債の発行に対しては当分の間、国が
関与するという、そういう
規定を
地方自治法の
附則に置きました。当分の間です。ところが、どういうわけか、今はもう
附則ではなくて
本則の方に、
地方財政法の
本則の方にしっかりとした
関与を書いてしまっているんですね。こんなばかげたことはありません。どういう
関与かというと、
自治体が
借金をするとき、
地方債を発行するときには国の承認、
同意が要るわけです。従来
許可だったのを
同意にしたから前進だとか
総務省なんか言っていますけれども、全くそれは詭弁です。
現場から見たら何も変わっていません。規制はむしろ従来よりも強まっています。
今、自らの
判断と
責任で
借金ができない、そういう存在にある人、人といいますか主体はどういうのかといいますと、
未成年者、これは親の
同意が要ります。それから
成年後見制度の下にある方。例えば
認知症などで
自分でちゃんとした
責任が取れない、この
人たちを守るために、
自分では
借金の
是非を決められないことになっています、
後見人の
同意が要るということになっています。
三つ目が
自治体なんですね。
自分の
判断では
借金ができない、
後見人であるかのごとき
総務省の
同意が要るという。
私は
知事を八年間やっておりましたけれども、どういう
関与が一番屈辱的であるかというと、この
地方債の
関与であります。こんなものは
自分たちで決めればいいんです。
議会もあります。国に
国会があるように、
自治体には
議会があるんです。それでも頼りなければ、アメリカのように大きな
借金をするときは
住民投票で決めればいいです、その
是非は。一々一々国にお伺いを立てる、こういう
関与こそ
廃止すべきです。これが一丁目一番地です。
今回の
法案は、こういうところはするりと隠してしまって、
シャビーでつまらないことばかりと言うと失礼ですけれども、ちょっと
忌憚がなさ過ぎるかもしれませんけれども、そういうものばかり羅列して、
法律改正案を見ましたらこんなに分厚いですね。
重量でいうと非常に重い
法案ですけれども、
内容は非常に至って軽い
法案であります。
あと、もう一つ言いますと、広い
意味での
関与でいいますと、
ひも付き交付税。
地方交付税というのは本来、税の
代替物でありますから、
ひもなど付いてはいけないんですけれども、今は
ひもだらけであります。元来
ひもが付いてもいい
国庫補助金、これはもうもちろん、
国庫補助金というのは元々
ひも付きであります、何に使えということですから。その
ひも付き補助金でさえ整理をして一括交付金化しようというときに、本来
ひもなどあってはいけない
地方交付税が
ひもだらけなんです。そういうものこそいち早く
改革をすべきでありますけれども、そんなものはもう全くこういうところに登場しないで、つまらないものばかりが出ている。
これ、
官僚の
皆さん方の妥協の産物です。だから、あの重たい、
重量だけは重いこの
法案の
中身というのは、私なんかが見ますと
官僚の
皆さん方の修辞、すなわちレトリックの集大成であります。こんなものに
政治がだまされてはいけないと私は思います。
二つ目の国と
地方の
協議の場に関する
法律案ですが、これは私は
反対であります。私は
知事をやっておりまして
全国知事会にも属しておりましたけれども、あえてこの
法案には
反対であります。これは民主党の
皆さんがマニフェストに書く書かないで去年
議論をされていたときも私は明確に
反対の
意思をしかるべくお伝えしておきましたけれども、残念ながら入ってしまったということです。
なぜ
反対かということですけれども、
地方の声を聞くというのはこれは重要なことです。
自治体がどうあるべきかとか、
自治体の権能がどうあるべきかとか、国と
地方の
関係はどうあるべきかということで、国だけの都合で、国だけの考え方でそれを律するんではなくて、
地方の
意見を聞くというのは重要であります。その際の
地方の
意見というのは一体だれから聞くのがいいかということなんですね。これは
地方自治の理念にも関することです。
地方自治はだれのために存在するのか。
もしこれが首長のためとか、
知事や
市町村長さんのために
地方自治はあるんだとか、
地方議会の
議員の
皆さんのためにあるんだということであれば、この
法案で結構だと思います。
知事や
市町村長の
代表、それから
議会の
代表から
意見を聞いて、その
人たちが
仕事をしやすいようにしてあげればいいです。その
人たちの
権限を強めて、その
人たちの処遇を高めてあげればいいです。
でも、
地方自治というのはそうではないはずです。
知事や
市町村長や
議会の
議員のために
地方自治はあるんではなくて、名もなき
国民、
住民のためにあるはずなんです。だったら、
住民から聞かなきゃいけないんです。
住民から聞くのは、
国会の
皆さん方は
国民の
代表ですから、聞けるはずなんです。あえてこういう
人たちに
法律上の地位を与えて聞くことは私はないと思います。
しかも、首長さんとか
議会の
議員の
皆さん方というのは、もちろん
住民が選んでいるんですけれども、どうも御自身たちが考えているほどには
住民の信頼感は高くないです。ずれていると思われているケースが多い。
地方議会に至っては、評判は非常にどこに行っても芳しくありません。
例えば、東京都の例を
ひもときますと、先年、新銀行東京に四百億円の追加出資をされました。都民のだれもそんなものは喜んでいません。私の知る限り、みんな
反対であります。ところが、それは石原都
知事の肝いりでできた銀行で、東京都
議会も当時の都
議会は
賛成多数で可決されました。どうしてそんなことが起こるんだろうか。そんな四百億円をどぶに金を捨てるようなところに使うんであったら、もっとほかに使うところがあるでしょうと多くの
皆さんが思っているんですけど、四百億円は新銀行東京に行ったわけであります。これは東京都の例ですね。
そのほかでも例えば、いろんな最近話題になっていると思いますけれども、飛行機が飛ばない空港を造ったとか、飛行
機会社に空席補償までして乗らない飛行機を維持しているとか、いっぱいありますけれども、多くの
皆さんはそれにまゆをひそめているわけです。もちろん
賛成だという人もおられますけれども、その数は少ない。
もちろん非常に信頼度の高い首長さんなどもおられますけれども、
地方自治の全体を見渡しますと、やっぱり評判の悪い、ずれが目立つところが多いというのが私の印象であります。そういうところの
代表を集めて、果たして
地方の
意見をそこで代弁してもらったことになるのかどうか。それでもって
地方の
住民の
皆さんが、ああ、
自分たちの
意見をああやって
政府に私たちの
代表を通じて伝えられているんだなというふうな納得感が得られるかというと、私はそれはないと思います。むしろ逆に出るんではないか。
要らざることですけれども、先般、福岡県で副
知事が逮捕されました。これは言いにくいですけれども、
全国知事会長の腹心であります。収賄容疑です。贈賄容疑で捕まったのは町長さんで、これは辞めましたけれども、ついこの間まで
全国町村会長だったんです。
地方六
団体というのはそういう人も今含んでいたりするんですね。よくも私はこういう
法律を作られたなと思って感心しているんであります。
もう一つ。
地方六
団体というのは、大体いつも決議をしたりして、いろんなことを
政府に要求されます。どんなことを要求するかというと、
権限を移譲しなさい、
関与をなくしなさい、
地方交付税を増やしてください、
地方消費税をもっと分け前を増やしてくださいというようなことです。こういうのを要求するというのは、これは
政治学では一般には圧力
団体というんです。プレッシャーグループです。プレッシャーグループと
政府が
法律上
協議の場を設けるって、これは非常に珍妙なことであります。プレッシャーグループはあっていいんです。
政治に対してアクセスをし働きかけるというのはあっていいですけれども、わざわざその圧力
団体と
政府とが
法律上
協議をしなければいけない。なおかつ、そこに参加した人はその結果を尊重しなければいけないというのはどういうことなのか、非常に不可解で私はなりません。
もう一つ、
地方六
団体は天下り
団体です。
総務省の天下り
団体です。ちょっと言いにくい面もありますが、ずっと代々もう例外なく
総務省の
官僚OBの
皆さんが
事務総長に座っております、現在もそうであります。一方、今、民主党政権はこの天下り
団体に対して、その
見直しを積極的に進められておられます。来週からは行政刷新
会議の下で独立行政法人の
見直しも、事業仕分も始まります。ここでの焦点は、いかに天下りを解体するかということのはずであります。そういう時期に、何ゆえに、れっきとした堂々たる天下り
団体を
政府の
協議相手として
法律に位置
付けるのか。私はどうもダブルスタンダードではないかと思うのであります。こんなことは絶対やめられるべきだと思います。
それから、この
協議の場というのは年来、従来から、ずっと前から、自民党時代から
協議の場を法定化しろという要求は
地方側から出ていました。
地方側からというよりは
総務省から出ていたんですね。これは何で出ていたかといいますと、実は、
官僚主導
政治の中でこそこの主張は出てきたんです。
どういうことかといいますと、当時、ちょっと自民党の
皆さんに申し訳ないですけれども、役所間の
意見の対立とか主張の違いについて、必ずしも
政治主導でもって裁きをされませんでした。そうすると、
官僚同士で死闘を尽くすわけです。
総務省と財務省、昔の自治省と大蔵省が交付税の額などをめぐって死闘を繰り返すわけです。アンパイアがいませんからエンドレスになるんですけれども、最後は財布を握っているやっぱり大蔵省が強いので、
総務省の方が負けてしまう。そこで、
政府内でその省庁間の
協議とか折衝を有利に進めるために応援団を求めたわけです。これを
法律上、
協議の場ということで位置
付ければ非常に強い応援団になるわけです。だから
総務省の応援団なんです、これは、
官僚主導時代の。
今、一転、
政権交代が行われて、
政治主導を標榜されている民主党政権の下で、こんな
官僚主導の環境の中での一つの省庁の応援団は要らないはずであります。
政治家の
皆さん方が財務省と
総務省の
意見の違いは裁かれたらいいはずであります。しかも、そのときには
国民の
意見を尊重しながらということですから、
政治主導を標榜する
内閣にこういう変な
協議の場が
法律上できるというのは非常に私は不思議に思うんであります。ひょっとして本当に
政治主導やられる自信がないのかなとまで思ったりするわけであります、大変失礼でありますけれども。
地方自治法の一部を
改正する
法律案でありますが、これは、三つの
法律案の中では私は唯一評価できる部分を含んだ
法律案だと思います。
どんなことかといいますと、
地方議会議員の
定数の
上限数の撤廃をする。これは先ほど
辻山参考人もおっしゃったとおり、こんなことは
自治体が決めればいいことであります。まあ決め方についてはいろいろ問題があります。私などは、進んで
住民の
意思を酌み取るすべも含んだ上での例えば憲章、
自治体の憲章、チャーター、そういうものを位置
付けるというようなことも立法政策上はあるんだろうと思いますけれども、取りあえずその
上限数、国の
関与を排除するというのは、これは賛同できます。
それから、議決事件を拡大する。これはいわゆる
法定受託事務、先ほど
自治事務の話がありましたけれども、
自治事務ではない概念の
法定受託事務について、従来は
地方議会が議決事件とすることはできませんでした。これを今回、新たな
法律改正でこれを議決事件にするということですから、これは自治権の拡大になりますから、これは私も
賛成します。
ということですが、余り手放しで評価はできません。何となれば、さっきも
お話がありましたけれども、やっぱりこれは全体の中でのごく一部なんです。
地方自治法の
改正すべき点はまだまだほかにいっぱいあります。
総務省の
関与なんかもいっぱいあります。そういうのを本来は落としていかなきゃいけないけれども、これはその前哨戦といいましょうか、後で
地方自治法の大
改正、抜本
改正をやられるというようなそういう構想も表明されていますから、
政府の方で。ですから、これはそれの先駆けだと思えばそれなりの
意味があるということで評価をしていますけれども。
細かいことを言いますと、例えば、先ほど言った
法定受託事務を議決事件の対象とするといったときに、でもしないよというのが盛り込まれるんですね、この
法律の中に。対象にするけれども、でも対象にしないものがありますよ、それは政令で決めますとなっているんです。こんなものは政令に任せるんじゃなくて、
是非法律でやられたらいいと思います、書かれたらいいと思います。
今までさんざん
官僚組織の抵抗に遭って
改革ができなかったところをこの度
改革をするというときに、一番大事な、まんじゅうでいえばあんこの部分をやっぱり
官僚たちに任せるんです、政令で決めるということは。これぐらいのことは
政治が
法律で決められたらいいのではないか、労を惜しまれない方がいいのではないかと思います。
最後に、
地方自治法の抜本
改正の話をさっきしましたが、これは
内閣とかに申し上げることですけれども、いずれ
国会で審議になりますから少し
お話ししておきますと、
是非、
地方自治法改正のミッションというものを間違えないようにしていただきたい。ミッションというのは、だれのために、何の目的でやるのかということです。
これは、はっきり言いますけれども、首長や
議会のためではありません。まして
総務省のためでもありません。
地方六
団体のためでもないはずです。
住民のためのはずです。ところが、従来のこの分野の
地方分権
改革というのは、大体、今ここに書いてある
自治体や
地方六
団体や
総務省のために行っていると思われる節のものばかりであります。
今回の三
法案を見ましても、例えばこの中で
住民のための
改正の
項目ってどこにありますかというと、見当たりません。出てきません。都道府県が自由になるとか
権限が増すとか、そういうのはありますけれども、どこにも
住民は登場しません。これがミッションを間違えているとまであえて言いませんけれども、まだミッションが理解不十分であるということの結果かなと私は思っております。次の抜本
改正では、
是非、
住民から見て
自治体はどうあるべきかというこのミッションにそぐった
改革案を
国会で成立さしていただければと思います。
どんなことがあるかといいますと、例えば、先ほど
地方債の
関与をなくせと私申しましたけれども、じゃ
地方債の
関与をどうするんですかといったら、先ほど言いましたけれども、
議会が決めればいいし、それでも不十分だと思えば、
住民が投票で重要なものについては決めていくと。こういう
改正が、国の
関与を外して
住民が中心の自治に変わるということの一つの具体例なんです。こういうことを
是非やっていただければいいと思います。
あともう一つは、
地方自治法の抜本
改正といったときに、
地方自治法だけに、個別の
法律だけにとどまらないで、
地方財政法や
地方税法という非常に重要な
法律がありますから、これらについても
是非同様の視点で点検を加えられて、
地域主権改革が円滑に進むようにされたらいいのではないかと思います。
以上です。