○
参考人(
佐和隆光君) それでは、
御覧のようなタイトルについて、私の思うところを忌憚なく話させていただきます。(
資料映写)
まず、
内容の要約でございますが、人類の生存を脅かす九つの危機というのは一体何なのかということをまず最初に列挙いたします。
続きまして、これらのいずれもが
気候変動とグローバリゼーションに由来すると。
それからさらに、グリーンニューディール、つまり、先進国では
気候変動
対策なくして
経済成長なしだということを明らかにしたいと思います。
続いて、やはり先進国ではいわゆるケインズ主義的な財政金融政策は今や無効と化した、しかしながら、まだグローバルなレベルは生きていると。これはどういうことかというと、例えば、今回の
世界同時不況から脱出するに当たっても、中国が四兆元という財政出動をやったと。その余波で
日本経済も息を吹き返しつつあるというのが
現状でございまして、つまり、一言で言えば、新興国や途上国には、まだ掘り起こす余地のある潜在的な需要が山のようにあるということなんですね。ですから、そういう意味では、グローバルなレベルでケインズ主義的な政策を
考えなければいけない。
それから五番目が、クリーン
開発メカニズムという制度がございますが、これによって途上国、新興国の潜在的内需を掘り起こして先進国への
製品、部品の需要を誘発すると、今申し上げたことの繰り返しになりますが。これはまさしく
気候変動問題というのが実はこれからの
世界経済の
成長の
かぎとなるであろうということを意味しているわけでございます。
まず、人類の生存を脅かす九つの危機の一番目は、テロと
国際紛争であります。
これは、同時多発テロに始まって、アフガン、イラクというところに
アメリカを
中心とするいわゆる有志連合というのが派兵して、そしていまだにアフガンでもイラクでも状況は泥沼化していると。こういったことの根源にあるのは、やはりグローバリゼーションの下での国家間の貧富の格差と資源争奪が火種であるということであります。
それから次に、二つ目が、
気候変動による被害の頻発であります。
二〇〇三年の欧州熱波に始まって、ハリケーン・カトリーナ、それから長江のはんらん、それからオーストラリアの干ばつによる小麦の収量の減少とか、それからおととしにはミャンマーをサイクロンが襲って十万人以上が死亡するといった、今までの常識では
考えられないような
気候異変というのが現に起きているということなんですね。
それから、三つ目の危機というのは、原油価格の高騰であります。
二〇〇二年一月から〇八年七月にかけまして原油価格が七倍高という高騰ぶりを示したわけですね。その後、
世界同時不況の襲来によって急落いたしましたけれ
ども、〇九年二月を底に反転上昇に転じました。そして、
IEA、
国際エネルギー機関の
予測によりますと、二〇三〇年には二百ドル・バレル、バレル
当たり二百ドルまで上昇するであろうと。
高価格化した希少資源である石油は一体何に使われるのかと。そうすると、自動車をガソリンで走らせるなんてもったいない、ディーゼルで走らせるのももったいないということで、結局、いわゆる石油化学ですね、石油化学
製品というのにやはり非常に希少化した、乏しくなった原油というものが向けられると。そして、自動車、飛行機、船舶というものの燃料転換が図られねばならないと。
これは、原油価格の急騰と急落、そして、同時にまた、去年の二月を底にして再び上昇に転じて、今は七十八ドルぐらいでしょうか、バレル
当たり、というその模様を示したものであります。
それから、四つ目の危機というのは、
再生可能エネルギーの利活用でございます。
気候変動の緩和、低
炭素社会の構築の切り札として、太陽光、風力、バイオマスなどの利活用が欧米先進国、中国、そして
日本でも推進されるようになりました。
しかし、これはなぜ危機なのかといいますと、電力送配電系統が不安定になる。つまり、こういう
再生可能エネルギーというのは、供給量、発電量そのものが非常に不安定であり、電圧も不安定、周波数も不安定な、そういう不安定な電気が大量に送配電線に流れ込んだらどうなるかということで、そこで出てきた
考え方が
一つスマートグリッドというやつでございまして、送配電網の系統の
安定化とか、そのほかスマートグリッドといいますといろんな意味合いがあるわけでございますが、そういったところがその危機克服のための
一つの打開策として提案されているわけであります。
それから、五つ目の危機は食料価格の高騰であります。これは皆様方御記憶のとおり、二〇〇六年から〇八年の半ばにかけて
世界の穀物市場で価格が急騰いたしました。理由は幾つか挙げられますが、ここでは省略させていただきます。
しかし、これも実は
気候変動と非常に密接不可分の関係にある。この②のところに
地球規模の
気候変動の影響ということで、これは先ほど申し上げた、オーストラリアで二〇〇六年に干ばつが襲って、その結果として小麦の収量が六〇%減ったということを申し上げましたが、
気候変動の影響で穀物の収量が激減するというようなことが現に起こっている。
それから、バイオ燃料というのは、これはいいんだということで、トウモロコシやサトウキビというようなものがバイオエタノールに転換されて、それでガソリンに混ぜて走るというようなことが特にブラジルや
アメリカで盛んに行われるようになった、それも
一つの原因。それから輸出国の輸出規制、それから投機マネーの穀物市場への乱入等々が挙げられるわけです。
次の図は、これは穀物の価格上昇をそのまま示したものでございますが、意外なことにといいますか、実は米が二〇〇八年に急騰しているわけですね。これはインドが輸出規制をやったからなんです。禁輸措置を講じたからであります。その後、やはりオイルと同じように下がって、そして再び上がり始めているというのが現況であります。
それから、公衆衛生の旧態化。これは一見関係ないようでございますが、これは要するに新型インフルエンザをイメージしていただければいいかと思うんですが、やはり新しいグローバルな規模での公衆衛生の展開というものが図られなければならないのではないでしょうか。
それから、
国際金融危機ですが、これは二〇〇八年に米国のサブプライムローン問題に端を発して
国際金融危機が起きたわけでございますが、それが〇八年九月のリーマン・ショックを経て後、米国では金融
安定化法の修正版が上下両院を通過ということで、七千億ドルもの公的資金を用意して経営破綻目前の金融機関を救済したと。ヨーロッパの金融機関ももうどんどん国有化されるというようなことで、
国際金融危機というのは特に
アメリカ、そしてヨーロッパ諸国にこの危機が生じたわけであります。
一方、
日本では金融危機はさほど深刻ではなかったわけですけれ
ども、これ実は、その金融危機は間を置かずに実物
経済にも深刻な影響を及ぼしたと。象徴的なのは自動車産業への影響でありまして、自動車産業という、自動車というのはまさに
アメリカンライフのシンボルのようなものですね。そういう二十
世紀の
アメリカ経済のシンボルともいうべき自動車産業の凋落というのは、これは大変
一つの歴史の転換点を示唆する意味を持つのではないでしょうか。
これは簡単な図でございますが、これは
年率換算した各月の売上台数ですが、やはりこれ二〇〇八年に入ってから二〇〇九年にかけて激減していると、ひどいときには
半減しているという様子が見て取れるかと思います。そして、今、
年間一千四百万台という大台を割り込みまして、とうとう中国が自動車販売台数で
アメリカを抜くというような
事態になっている次第でございます。
それから、八つ目の続きでございますが、
日本ではやはり
経済成長に対して非常に深刻な影響が及んだということであります。私がグローバルなケインズ問題というふうに呼ぶものは何なのかといいますと、発展途上諸国の工業化に伴って工業
製品の供給力が有効需要を超過するという
世界的な意味での供給超過ですね、これが今回の同時不況の本当の原因であるというふうに私は
考えております。
それから雇用問題です。GDPの
成長率が高いとか低いとかいうことよりももっと重要なことは、やはり失業率をできるだけ低くするということなんですが、
アメリカでは今現在一〇%超で推移しておりますし、
日本でも五%台で推移しているということで、やはり雇用問題というものにもっと今後とも目を向けるべきだと。
それから、さて、この
世界同時不況への処方せんでございますが、先進諸国においては、先ほど申し上げましたとおり、いわゆる財政政策とか金融政策というのはほとんど効かなくなっているわけですよね。第一、その平成不況といいますか、九一年に始まったバブル
崩壊不況のときに、あれだけ金利を下げて、そしてあれだけ財政出動をやったにもかかわらず、何の効果もなかったわけですね。今回の
世界同時不況に際しても、やはりいろいろ財政金融政策を講じたけれ
ども、先進国においてはほとんど効き目がないと。したがって、先進国においては、今後
成長を期待するならば、やっぱりグリーンニューディールの実践しかないんではないかということであります。
それを言う前に、まずこの図を見ていただきたいんですが、
日本では非常に見事に、この一九五六年以降でございますが、三つの期間に分割されるわけですね。つまり、高度
成長期というのがあって、そのときの
平均年率は九%を超えているわけですね。
平均年率がですね、実質
経済成長率。それからその次に、オイルショックの後、大体四%台の
成長まで落ち込んだと。そして、その後、いわゆるバブル
崩壊以降は実質
経済成長率は一%。この間、デフレで物価が落ちていますから、だから名目
成長率はほとんど伸びていない、九〇年代に入ってこの方ですね。これは大変な危機的状況です。
それから、この図を見ていただきたいんですけど、これは耐久消費財の
普及というのが実は
成長の言わば担い手であったということを示しているわけです。つまり、これも一九五五年以降でございますが、御記憶のとおり、電気洗濯機、電気冷蔵庫そして白黒テレビというのが三種の神器と言われたわけですが、それとプラス電気掃除機というのが一九六〇年代にどんどん
普及したと。それが
普及し尽くした後に、うまく後を三つのC、つまりカラーテレビとカー、乗用車ですね、それからエアコン、当時はクーラーと言っていましたよね、三つのCがそれをフォローしたと。
そして、その中でも乗用車というのがどんどん売れるというのは、これ
御覧いただいたら皆様方もちょっと意外に思われるかもしれませんが、一九七〇年でようやく乗用車の世帯
普及率というのは二〇%をちょっと超えたんですね。そして、一九八〇年に五〇%を超えたと。そして、一九九一年に八〇%になるんですね。そして、八〇%になって、それ以降は上がったり下がったりで八〇%台の半ばぐらいをうろうろしているということは、要するに、
日本では自動車の保有に伴うコストが非常に高いということで、したがって、結局自動車の
普及は言わば頭打ち状態になる。
そして、言いたいことは、九一年以降のバブル
崩壊不況以降に
普及したものってすべてデジタル
製品なんですね、最近の薄型テレビは別にしてですね。ということは、乗用車というのが売れればあらゆる素材型産業が潤い、石油産業が潤い、損害保険会社も潤い、ショッピングセンターも潤うというふうに、ありとあらゆる産業に対する波及効果が非常に大きいのに対して、デジタル
製品は必ずしもそうではないということですね。
ですから、これから、何かがどんどん
普及して、そしてそれが
経済成長の牽引力になるとすれば、ここに書いているように、
省エネ家電・自動車、太陽光パネル、燃料電池等の
普及しかないんじゃないかと。それから、公共事業という側面で見ても、送配電網のスマートグリッド化とか、あるいは住宅・ビルの
省エネ化とか、あるいは
ドイツ型フィードインタリフ、いわゆる固定価格買取り制度ですね、
再生可能エネルギーの、そういった制度の
導入をして、それがない限り
日本経済はもはやもう
成長しないというふうに言っても決して言い過ぎではないと思います。
それから、グローバル・ケインズ主義的政策ですが、これは発展途上諸国の内需を喚起するための政策でありまして、中国は内需喚起策により、去年の第四・四半期の対前年同期比の
経済成長率は一〇・七%を記録しております。そして、それが
日本の部品・
製品メーカーにとっての福音となったということでございます。
そして、オバマ大統領は、オバマ政権はと言うべきでしょうか、オバマ政権は、米国
経済立て直しと
再生可能エネルギー、
気候変動
対策を連動させて、巨額の財政出動を
計画中であります。二〇五〇年に
温室効果ガス八〇%
削減のために
再生可能エネルギーの
普及促進と、それに伴う五百万人の雇用、これをホワイトカラー、ブルーカラーではなくグリーンカラー・ワーカーズというふうに呼んでいるわけです、そういう雇用を創出すると。そして、
再生可能エネルギー比率を二〇一二年までに一〇%、二五年までに二五%の
目標を掲げています。
ただし、ここで一言断っておかなければいけないのは、
再生可能エネルギー比率という場合には大型の水力発電所は含まないんですね。だから、水力でも小水力は含むけれ
ども大型水力発電所は含みません。
太陽光発電の固定価格制度の
導入というのは、これ
日本でも去年の十一月から始まっておりますが、
世界中各国で採用されております。
それから、グリーンニューディールにつきましては、エコカー、
再生可能エネルギーの
導入のインセンティブを仕掛ける必要があると。要するにこれは、ここで細かいことを申しませんが、この文脈の中で、例えば
環境税とか
排出量取引制度というものも出てまいるわけですね。
そして、やっぱりインセンティブと。これはある
アメリカの
経済学者が、
経済学のエッセンスはインセンティブの一語に尽きると。つまり、インセンティブをどうやって仕掛けるかというのが、これがスマートであり、そしてモダンな政策なんですよね。つまり、規制でぎしぎし縛るというのは、これは非常に野蛮なといいますか、余りスマートでないやり方だと思うんですね。ですから、スマートな政策というのはそういうインセンティブを上手に仕掛けるということが必要だと。
それで、オバマ大統領は、一月二十日の大統領就任演説の中で、我々の
エネルギー消費の在り方は敵を強化し、これは
気候変動ですね、を強化し、
地球を脅かしていることが日を追うごとに鮮明になっている、太陽、風、大地を使い自動車を動かし工場を稼働させるということを言っています。一月二十四日のネット演説で、風力、太陽光、バイオ燃料など
再生可能エネルギーの生産を三年で倍増する。延べ四千八百キロメートルの送電網、スマートグリッドを新設する。
エネルギー効率の悪い連邦
政府ビルの改築。それから二百五十万戸の住宅を
省エネ化するということですね。
それから、新興国、発展途上国の潜在的な需要の掘り起こしですが、まず途上国に潜在的な需要を掘り起こすことによって、それがブーメラン効果というやつで、例えば
日本の
製品、部品に対する需要として跳ね返ってくると。先進国でのケインズ主義的財政金融政策はもはや無効なんですから、CDM、クリーン
開発メカニズムが先進国から新興国、途上国への資金の流れをつくると。ここにも
気候変動緩和策と
経済とのポジティブな関係が見て取れるのではないでしょうかということでございます。
以上でございます。