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参考人(
西村美香君) 成蹊大学の
西村と申します。
ちょっと、つたない話で、お聞きいただくの申し訳ないんですけれども、お付き合いいただきたいと思います。
私の報告内容につきましては、レジュメがお手元にあるかと思います。そちらの方を御
参考になってお聞きいただきたいと思います。
限られた時間でございますので、
公務員制度改革について
三つの論点についてお話をしたいと思います。
まず、一点目です。
一の、どのような
政治主導を実現したいのかという理想の下に、
政策決定の
在り方から政官
関係の再検討をしていただきたいということです。
これまで官僚支配がいけなかった、官僚主導がいけなかったとさんざん批判されてきましたが、私はそれだけではないというふうに思っています。これまで
政治家と官僚と業界の間の
関係がある意味閉ざされた空間をつくり、利益誘導や税金の無駄遣いを助長する仕組みになってきたことこそが最大の問題だというふうに思っています。ですから、
政権に目指していただきたいのは、官僚、それから
政治家、そして業界、
国民との間に新しい
関係をつくっていただきたいということです。そして、そうした新しい
関係においてどのような
政治主導をしていくのかということを示していただきたいと思っております。
公務員制度改革とのかかわりでいえば、政官
関係の総論が大切になってきます。
公務員制度改革は一九九〇年代から抜本的な再検討が行われてきて、総論も各論も出尽くしたと考えられている方も多いかもしれません。しかし、私は違うと思います。
政治家と官僚の
関係、すなわち政官
関係については、
公務員制度改革のかなめであるにもかかわらず、再検討が不十分なまま、言わば不明確なままに
幹部職員の
一元管理や
採用試験制度の改編などといった各論に当たるような具体策ばかりが先に出てきているという印象を受けます。どのような政官
関係を目指すのか、もう一度総論から
議論し直すべきだと思います。
政官
関係を見直すに当たってかぎとなるのは、
政策決定過程をどう変えたいのかということです。民主党
政権になって、各
省庁では政務三役が
政策決定において主導的役割を果たしているようですが、政務三役と官僚との協働
関係は各
省庁によってばらつきがあり、これといった望ましい形が示されていません。また、重要
政策の
決定プロセスにおける官邸と各
省庁との
関係についても
国民にはよく見えてきません。まずは、官邸の中で、官邸と各
省庁間で、そして各
省庁内でどのような
決定過程を取りたいのか、そこにおける
政治家と官僚の
役割分担をどうしたいのかということを明確にするべきだと思います。
そうして再検討をして、理想とする政官
関係を基に各論である
内閣人事局、それから
幹部職員の人事管理の
在り方を検討するべきだと思います。
最もポイントとなってくるのは、
幹部職員を今までのように資格任用のままにするのか、それとも
政治任用あるいは自由任用にするのかということだと思います。
幹部職員を資格任用のままにするのであれば、
政治的中立性の
原則を貫き、政治は安易に人事に介入すべきではなく、人事院のような
中立的
人事行政機関の関与が必要となります。
幹部職員の人事管理は政治からかなり自立性を持つことになりますので、
政策決定過程においては、
政治家の顔色をうかがわずに、それこそマニフェストに相反する提言すら行うこともできます。そのため、
政治主導に当たっては官僚が抵抗勢力と感じられることもあるかもしれません。
一方、
政治任用であれば、
政治的中立性は必要なく、
政権への忠誠心が求められ、
政権と命運を共にするため、
政権の意向に沿わない
政策を提言しません。官僚の人事権も政治が持つことで
政治主導は行いやすくなりますが、政治が道を誤れば、
行政の専門家の立場からこれを止める勢力は
政府内にほとんどなくなると思います。
今申し上げましたように、資格任用のままであれば、官僚は強いままだとか、一方、
政治任用にしたら、
政治家がともすれば道を外して利益誘導をやりやすくなってしまうのではないかといったデメリットも懸念されます。しかし、このデメリットは
政府という閉じた中でだけ力
関係を考えるから起こるのだと思います。
そういうことが起こらないようにするためには、私は、
公務員制度改革だけでなく
政策決定過程の
透明化をお願いしたいと思います。これまでの
政策決定過程は
国民にとって大変分かりにくいものでした。そのことが官僚支配や利益誘導とやゆされる事態を生み出す温床になってきたと思います。
したがって、こうした問題をなくすために、
政策決定過程をオープンにし、併せて
公務員制度の人事管理の
透明化にも取り組んでいくことが重要であると思います。
公務員制度改革だけを切り出して取り組んでも効果は上がりません。
行政全体の
改革と連動してこそ信頼できる
公務員制度の再構築につながると思います。
次に、論点の
二つ目ですけれども、
天下り問題については、一般
国民との公平さということを念頭に広い
視点から総合的な取組をお願いしたいと思います。
国民感情からも、そして私自身も
天下りの廃止が望ましいと思っています。しかし、いきなり全面的に
公務員の再就職を禁止するというやり方は、
公務員の人事管理に大きな混乱を起こす危険があります。
天下りをなくすためには総合的な取組を中長期的にやっていく必要がある、そのくらい難しい
政策だということを十分に認識することが
改革のスタート地点として大切だと思います。
次に、総合的に取り組んでほしいと申し上げましたが、総合的といってもどのように取り組むのかということですけれども、これについては
天下りの問題点から対策を考えるべきだと思います。
私は、
天下りの問題点は大きく分けて
三つばかりあると思います。
まず
一つ目は、一般
国民の再就職に比べて優遇され過ぎているということです。これについては、再就職を組織的にあっせんすることや、現給保障、それから高い
退職金、わたりといった慣行をすぐに廃止するのがよいと思います。
これまで各
省庁では
天下りも含めて人事ということが考えられてきましたけれども、やはり
国民との
関係で考えれば、
退職とともに人事は切らなければいけないというふうに思います。しかし、その一方で、
公務員の再就職を全面禁止するというのは行き過ぎだと思います。少子高齢化の時代でもあり、高齢者の雇用保障も重要です。求められているのは、高齢者にとって官民平等な労働市場の形成だと思います。現在、再雇用や再任用を除いてはそういった労働市場が確立しているとは言い難い状況です。ですから、
政府はそうした高齢者の労働市場を積極的につくっていってもよいのではないかというふうに思っています。
官民
人材交流センターは廃止されることになっているというふうに伺っております。確かに、
公務員の再就職あっせんに重点が置かれるならば、官民公平とは言えず問題があると思います。しかし、名称どおりに官から民へ、民から官への両方向の
人材交流の仲介を行うなら、官民平等な労働市場をつくることもできるのではないかと考えています。
今回、官民
人材登用・再就職
適正化センターというのが設けられるような話も伺っておりますが、こういったセンターがどのような働きをするのか注目したいと思っています。
それから、
公務員に関しては、その
職務の性質から、やはり再就職を無制限に認めることはできないのではないかというふうにも思っています。再就職については、問題を起こしそうなケースについては一定の制限をする、それから再就職後のロビー活動なども禁止していけるように
制度的な監視体制を整える必要があると思います。再就職等監視・
適正化委員会のような機関がつくられるようですけれども、こういった監視機関というのはやはり必要だと思います。
ただ、更に言うと、高齢になっても働き続けなければ生活できない、子供を高校や大学にやれないような社会というのはいかがなものかなというふうにも思います。官民平等な高齢者の労働市場を形成してくださいと申し上げたわけですけれども、それと同時に、きちんとした
年金制度や教育支援など、少子高齢化
政策の底上げを望みたいと思います。
それから、
天下り問題の
二つ目の問題点ですけれども、
天下りを通して官民癒着を生みやすくしているということが非常に大きな問題だと思います。ただ、これについては、
公務員制度改革だけでは対応できないと思います。むしろ、
政策決定過程の
改革こそが重要だと思います。先ほどの政官
関係のところでも申し上げましたが、
公務員制度の
改革は、単なる人事管理の
改革ととらえてはいけないと思います。
政策決定過程の
改革と連動しなければ本当の問題は解決できないと思います。
では、どのように変えたらよいのかということですが、
天下りに関しては
二つのポイントがあると思います。
一つ目は、随意契約をやめて競争入札を徹底する、
行政指導の
在り方を透明性の高いものにする、そういったことを通して
政策決定過程全体をオープンにして、癒着の
余地をなくしていくということが大切だと思います。
それから、もう
一つのポイントは、規制
改革と地方分権によって中央集権、
行政集権を是正して口利きの
余地をなくすることです。
天下りの
三つ目の問題点ですけれども、税金が無駄遣いをされているというのも非常に
国民の怒りを買っているところだと思います。これに対しては、大きく分けて
二つの面から
改革が必要だと思います。
一つは、
政府の予算・財務管理を
改革するということです。主なものとしては、会計検査の徹底や決算の重視による無駄遣いの摘発、是正、特別会計の
改革、予算編成の
改革などです。
それから、もう
一つ重要な
改革としては、各種の公的機関の
改革です。無駄な特殊法人、認可法人、独立
行政法人、公益法人などについては統廃合をきちんとするべきだと思います。その上で、残った公的法人の中の人事管理、財務管理の見直しを図り、
適正化を図っていくべきだと思います。
無駄遣いできないような予算・財務管理になり、公的な機関もクリーンな団体になれば、私は元
公務員の方が再就職することも構わないと思います。むしろ、キャリアからいってそうした公的団体のために役立つ方も多いと思います。ただ、今は無駄を省く
改革が完全ではなく、
国民の信頼が得られていないために、その公的機関への再就職なども悪くとらえがちだと思います。だからといって、今後、一切駄目だと決めてしまうのは早計だと思います。
最後に、現在の
天下り禁止の
政策について気になることをもう
一つ申し上げます。
人件費の大幅削減と同時に取り組むのが困難だということです。
天下りを全面禁止してすべての
公務員を定年まで働けるようにしようという
政策が考えられていますが、これは単純に言って人件費を増加させます。その増加を抑制するために、年功序列的
給与を見直し、
能力・実績主義を徹底する方向で進んできていると思いますが、
能力・実績主義的な人事管理が人件費削減につながる保証はありませんし、また、人件費削減を目標として
能力・実績主義を徹底させようとすると矛盾が生じます。
能力・実績主義の徹底で削減ができないということになると、結局は新規
採用を抑制するしかなくなります。しかし、新規
採用の抑制は中長期的に人事管理をゆがめることになります。
無駄をなくす努力を怠るべきではありませんが、
公務員の再就職を一気に全面禁止するならば、それと同時に厳しい人件費削減を課するのは大変危険なことだと思います。
それから、
三つ目の論点として、労働基本権問題について少し触れたいと思います。
労働基本権問題については、
公務員の基本的人権の尊重と
国民の理解との間でバランスを取ることが大切だと思います。
公務員の労働基本権問題は長らく討議をされてきておりますが、なかなか具体的な解決策が見えておりません。時として、コストベネフィットの観点からも検討しなければいけないということも言われておりますし、確かにそういう面もございますが、この問題については、あくまでも労働基本権が基本的人権であり、
公務員に対してもできる限り保障するべきだというところを出発点にしなければいけないと思います。そして、その上でどういう仕組みをつくれば
国民の理解を得られるかということを考えていくべきだと思います。
どういう形でつくれば
国民の理解を得られるかということですけれども、そのためには、これまでの
給与決定の歴史ということも十分に
考慮した上で考えていくことが重要だと思います。何も外国と同じ
制度である必要はなく、日本独自の労使
関係をつくっていくべきだと思います。
これまで、日本は人事院勧告
制度という日本独自の
制度の下で比較的安定した労使
関係を築いてきました。
中立的第三者機関が入ることで
給与削減がしにくいという批判もありましたが、一方で
給与の大幅増というのを抑制し、
給与水準に対してある程度の
国民の納得も得られてきたと思います。かつて、労使の談合のような形で地方
公務員の
給与が高騰したというような歴史もありました。そういうことを考えますと、労使交渉で
給与条件あるいは
勤務条件を
決定するという
制度に移行するにしても、
国民に代わって一定の関与をするようなそうした第三者機関の関与を考えてもいいと思います。紛争がなくても最初から
中立的第三者機関が関与するということになれば、これは日本独自の労使交渉
制度になると思います。
しかし、
公務員制度は、国によってその歴史も、取り巻く政治、経済、文化の状況も非常に異なります。労使交渉
制度だけよそのどこかの国と全く同じ画一的な
制度である必要はないと思います。最終的に大切なのは、
国民に対して円滑な
行政サービスが提供されるということです。労使交渉をいきなり導入して、もしそのことで混乱を生じてサービスの提供に支障が起きるということはあってはいけないと思います。また、もしそういう支障があれば、
国民の理解もなかなか得られないと思います。
国民の目はかなりシビアなところもございますので、基本的人権の尊重ということを中心に据えつつも、
国民の理解が得られるような形で日本独自の労使交渉
制度をつくっていくべきではないかというふうに思います。
もちろん、
中立的な機関が関与するということになれば、これは
国民の監視を肩代わりするというような役割も果たすと同時に、一定の保障にもなります。その辺りをどう考えるかというバランスの問題だと思います。
ちょっと時間が短くなりましたけれども、私から報告させていただきたいことは以上です。
御清聴ありがとうございました。