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参考人(
森田明美君)
東洋大学社会学部で
児童福祉を
専門にしております
森田明美でございます。どうも今日はありがとうございます。
私は、長く
子育てや
子どもたちの育ちの問題を、
地域で暮らしている
子どもたちや
子育て家庭の現実の中からどのような
制度が必要なのかということを
研究してまいりました。こういった機会に、
意見陳述をさせていただくという機会を与えられまして、是非、私がやってまいりましたこれまでの調査あるいは
地域での実践ということを基にお話をさせていただこうと思います。
本日、私のレジュメを用意してございますので、それに従ってお話をさせていただきます。
まず、私は、次世代育成
支援行動計画という、ちょうどこの年度末に、各自治体が今作っております計画がございますが、関東周辺で六つぐらいの自治体の計画にかかわってまいりました。
その中で、具体的には、今、
子どもたちや
子育て家庭がどんな状況にあるかと申しますと、
一つは、やはり非常に
家計というものが厳しくて、その
家計をどう支えるかということにきゅうきゅうとしておりまして、
子どもたちの
成長、
発達というところの非常に大きな役割のところに思いやあるいは時間やあるいは具体的な活動というものが割けない状況になっております。
皆さんのお
手元にこんなおだんごのような図があります。ちょっと御覧いただきたいと思いますが、これ、私がずっとこの自治体での計画作りの中で作り上げてきた図なんですね。
実は今の状況というのは、もう
家計の確保というところにきゅうきゅうとしておりまして、
子育て家庭というのは、ほかにも
生活を回していくということだとか、もっと一番大事なことは
子どもを後見していくという大変大きな役割があるわけですが、もうそこが非常に小さくなってしまっているということ。
それからもう
一つ、非常に大きなところでいうと、
子どもの後見をする、つまり
子どもを
社会として一人前の人間に育てていくということなんですが、このことがほとんどできなくなってしまっている。
そしてまた、
子育て家庭の非常に大きな役割の中で、
渥美さんなんかはよくワーク・ライフ・バランスということをおっしゃいますけれども、女性だとかあるいは
子育て家庭が
子どもを育てることにきゅうきゅうになってしまって自己実現というところがほとんど果たせない。
こういう状況の中でいうと、
子どもたちや、あるいは
子育て家庭の中で病んでしまったり、あるいは時には
家族が崩壊してしまったりというようなことになってしまう。このバランスをどう取っていくのかということが非常に今重要だというふうに思っているわけなんですが、なかなかこんなふうにきちんと
自分自身の自己実現と
子どもの後見ができる暮らしというのが実現できないという状況の中にあるわけです。この状況をどうしたら私
たちは
地域の中で実現できるかということです。
実際、今どんな状況かというところから私はお話をさせていただいて、実は、
子ども手当というのも非常に重要なんだけれども、その重要な施策と同時に、もう
一つ車の両輪であるところの基盤整備ということをしないと、この
子ども手当という大変重要な施策も
意味を成さないようなものになってしまうということを今日申し上げたいというふうに思っているわけです。
具体的には、その次の三
ページのところの少し表を見ていただきたいと思います。
これは実は私が大変大事にしている、二〇〇七年に、これ
日本ではほとんど行われていない、母子家庭で
生活をしていらっしゃる方
たちに協力をいただいて初めて自治体で調査をしたものです。これ千百四十四人という方が御協力くださって、千葉県の八千代市という
人口十八万強の自治体で行った調査です。
この調査の中でいろんなことがはっきりしてきているんですが、具体的に見ていただきますとお分かりいただけるのが、まず、今までの例えば非常にスティグマの強い
生活保護だとかあるいは
児童扶養
手当だとかという経済
給付がありますが、これが余り
効果を出していない。つまり、それは非常に
生活ではぎりぎりのセーフティーネットですから大事なんですが、ただこれだけでは、見ていただくとお分かりになるんですが、母子家庭になって一年目、二年目、そして四年目、七年以上と、こんなふうに分析をしてみますと、具体的には例えばカードローン、
借金のことなんというのは七年以上になると二三%ぐらいの人が今悩んでいる状況になっていきますし、あるいは
自分の健康のことというのも、当初のときは二七%ぐらいだったものが四〇%近い、三九%の人が
自分の健康のことに不安を抱くようになっていく。やはりこういった、よく言うんですが福祉
手当あるいは公的扶助というふうに言いますが、そういったものだけではやはり健康状態ということを確保できないというのが現状の中にあるわけです。
私はですから、よりスティグマ性の弱い、そして普遍性の高い、やはりこういった
子ども手当のようなものがきちんと整備されていくというのは
日本の
社会において非常に重要だということは思っております。
ただし、もう
一つ見ていただきたいのが、この具体的な表二なんですが、母子家庭の中で母親が精神的に頼りにしている人はだれかという質問があるんですが、この中で具体的には
子どもです。
児童扶養
手当を申請していらっしゃるこの方
たちの、母親の年齢が大体三十五歳ぐらいです。そして
平均的に
子どもが十二歳ぐらいの年齢なんですが、見ていただくとお分かりになるように、
子どもというのが八〇%を超えているんですね。
生活保護を受給していらっしゃる家庭もほぼ同じなんですが、
子どもの年齢が十一歳ぐらいでもうちょっと低いんですね。このところでも七一%が
子どもを精神的に頼りにしていると。つまり、母子共に非常に孤立化しているという状況に今あるということを申し上げたかったわけです。
そういう中で私
たちが考えなければならないことというのは、単に今、福祉的、保護的な
制度だけじゃなくて、もっと普遍的、そしてなおかつそこをきちんと日常的にケアしていくような
仕組みというのを
地域でつくり出さなければならないということを申し上げたいというふうに思っています。
四
ページ目のところに、私は、
子ども手当の創設に当たって
子どもの権利の
視点に立つことの重要性というのを申し上げたいということで
意見を書かせていただいております。
先ほど
高橋参考人もお話しになっていらっしゃいましたけれども、具体的に今回の
手当ですが、非常に重要な
視点が、
子育て家庭の貧困ということだけではなくて、これは
子どもの
視点に立つという
視点を明確にされたこと、これは私は大変重要だと思っております。
特にこの点では、ちょうど今
日本は、
子どもの権利条約を採択して、国連が、二十年になります、そして
日本が批准して十五年という時期を迎えております。この
子どもの権利条約ですが、
日本は今ちょうど三回目の
審査を
子どもの権利
委員会で受ける段階に来ております。
子どもの問題に取り組むグローバルスタンダードと言えます国連
子どもの権利条約というものですが、この理念に基づく
制度設計というものが急務という状況にあるわけです。
そのために、じゃ、その
子どもの権利条約というものをひとつ
参考にして今のこの
日本の様々な
制度というものを検討してみたらどうなるだろうということなんです。
一つは、親の
所得に関係なく
子どもに出される
手当であるということ、これを
子どもの権利ベースにどう近づけていくかということ、とても大事だと思っております。二番目にですが、
児童養護施設利用中の
子どもたちの
手当ということが
衆議院の方でも
議論なさり、そしてこの問題については、こども安心基金をお使いになるということで対応してくださるということでした。
私は、むしろ
子どもの権利ベースで考えるならば、いろんなところで
議論されておりますように、例えば
子ども手当を高校生、つまり
児童養護施設というのは高校修了のところまでいられる施設ですので、本来ならばそこまで
手当を
給付して、もう少し
子どもたちの
生活というものが独り立ちしていくための基金として使えるような、そんな
仕組みというものは考えられないだろうかということを考えております。
それからもう
一つ、非常にその保護者への
批判というものが強く出されておりますが、私はこのときに非常に感じましたのが、だれが負担し、だれに払うか、そしてそれがどのように使われるかということが非常に今疑義が強く出てきておりまして、私はそのことを考えるときに、
日本の
仕組みというのは、むしろ親とかあるいは国、あるいは自治体、こういったところだけがこの
議論の中に参画していて、
子どもたち自身は一体どう考えているのか、こういったものが全くこの中で考慮されていないということに大変不安を感じるわけです。
私は、自治体でこういった計画を作っておりまして、先ほども申し上げましたように、六つの自治体の中で、ちょうど今回ですが、次世代をつくっていくための調査というのをいたしました。この三番目のところにちょうど千葉県の八千代市の調査結果というのを書かせていただきましたが、
親たちの希望というのは、やはり
手当の
支給だとか税制、こういったものへの優遇ということに対して希望は非常に高く、で、二番目、三番目、四番目見ていただきますと、やはり
保育園の整備、そして医療救急
制度、そしてなおかつ安全な道路だとか交通機関の整備、こういったものに対しても非常に高い希望が出てきているわけです。
つまり、
自分の力でできることと、やはり
子どもというのは
地域社会で育っていくわけですから、家庭だけではできないことというのがたくさんある。こういったものを具体的には
地域やあるいはその国、こういったところがその役割を明確にさせながらこの問題をきちんと
議論していっていただきたいということが希望されているわけです。
国の方は、今
子ども手当というものができます。この
子ども手当というものがもし仮に
支給されたといたしましても、
子育て支援だとかあるいは
子どもを
支援していくということを整備しようとしましても、具体的には今の
日本には
子どもの権利を実現するための立法というものがなされていないわけですね、総合的立法がない。これは、
子どもの権利
委員会からも常々
批判されているところでございます。こういった個別の法律ができていったとして、これを総合的にやはり
日本の中で考えていくための
一つの骨格づくりというものを是非国会議員の先生方にはやっていただきたいということを願っております。
そしてまた、特にですが、国が何をするかということと同時に、この
日本は分権化が非常に今急速に進んでおります。私は特に基礎自治体との関係の中で
政策づくりをしてまいりました。その中でいきますと、都道府県、市町村の役割というものは非常に重要で、ここをどういうふうに首長あるいは議員の
方々が決断をなさって
子どもの権利に根差した整備をなさるかということがとても重要で、そこを具体的に
支援、指導していくような
政策のかじ取りということを国にはお願いしたいということを思っております。
時間がございませんので十分なお話はできませんが、
最後にこの図だけ皆さんに御覧いただきたく思います。
具体的には、今までの
日本の
子育て支援、
子ども施策というのは少子化という対策で、具体的な
子どもたちの育ちだとか
子育てへの
支援というものは後回しにされてきました。特に
子ども支援というのはほとんど、名前としては使われておりますけれども、具体的な施策としては展開してきませんでした。その結果、
支援を必要としている
子どもたちがこの
地域にほうり出されております。このほうり出されている
地域にいる
子どもたちや
子育て家庭というものが具体的に保護の必要な状況にすとんと落ちないように
地域でしっかりセーフティーネットをつくり上げていく、こういう
仕組みを
市民と一緒に、あるいは
市民社会と一緒につくり上げていくという仕掛けを是非この機につくっていただきたいということがお願いでございます。
以上です。