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倉橋参考人 初めまして。
倉橋と申します。
初めてこういう場に来るものですから、ちょっと緊張しております。私は、緊張するものですから、この台本に従って
お話をしようと思います。
私は、
倉橋徒夢と申します。
学校法人イーエーエス伯人学校の
理事長をしております。
ブラジルのコミュニティーの中では、エスコーラ・アレグリア・デ・サベール、知ることの
喜び学校というふうに呼ばれております。一九九五年、
愛知県は豊田市
保見団地で
日系ブラジル人の方が始められて、現在で十五年を迎えます。
教育理念は、
大学進学及び
日本語教育、これを
理念として掲げ、やっております。
現在、二〇一〇年三月の初め、私
たちの
学校で
生徒数は、幼小中高合わせて約千名おります。
ブラジル人学校全体では六千か七千名ぐらいの
生徒がいるのではないかと思っております。私
たちの
学校は、静岡、
愛知、三重、三県五校ございまして、
高校生は五校合わせて百五十名
程度おります。
私
たちの
学校は
AEBJ、
在日ブラジル人学校協議会のメンバーであります。私は、
自分の
学校のことはよくわかるので
自分の
学校のことと、そして
AEBJの一員として
ブラジル人学校全体のことをあわせて申し上げたいと思います。よろしくお願いします。
では次、一に行きまして、
ブラジル人学校とは。
ブラジル人学校というのが世間的に認知され始めたのが本当にここ最近のことなものですから、
皆さんもまだ
ブラジル人学校というのがどんなものだろうと余り御存じないかと思います。ですので、簡単に御説明申し上げます。
一つ目、無認可校というのがございます。これは、
日本の政府にも
ブラジルの政府にも認可をいただいていない
学校、いわゆる託児所が主です。小規模なものが主でして、
生徒数も三名とか五名の、本当におばちゃん一人が自宅で
子供の面倒を見る、そういう
学校が多いです。また、中には、最近
設立したばかりで、今
ブラジルの政府の認可
申請をしている途中だよという
学校も含まれます。いずれにせよ、小規模の
学校です。
そして二つ目、認可校。これが数としては一番多いです。
ブラジルの政府から認可をもらった
学校。小規模から大規模まで。
生徒数としては、五十名から、現在ですと三百名
程度までの
学校がございます。主に小中を
対象としている
学校が多いです。
ブラジル人学校の中で
高校課程までを持つ
学校というのは、実は余り多くありません。
そして三番目、
各種学校。各
都道府県から
各種学校の認可をもらった
学校で、かつ
ブラジル政府からの認可を持っている。近年、
愛知、静岡、そしてほか一部の県で、
外国人学校、
ブラジル人学校が
各種学校になるための認可
基準というのが緩和されまして、ぼちぼちと
各種学校になる
ブラジル人学校がふえております。
現在、私が把握している限りで、三重県に二校、
愛知県に四校、静岡県に一校、群馬県に一校。また、静岡県ではほかにペルー人
学校も
一つありますので、南米系
学校というくくりにしますと今
日本全国で十校、次の四月になりますと十一校もしくは十二校にふえるというふうに聞いております。
各種学校は
一つポイントがありまして、
生徒数が比較的多いということ。中規模校から大規模校。大体百二、三十から三百
程度の
学校が多いということです。そして、
各種学校になったからには、必ずその経営に
日本の方がどなたか関係されている場合が非常に多いです。なかなか在日
ブラジル人の方が
事務手続等はできないものですから、
各種学校になるということは、財政基盤もしっかりしているし、かつ経営に
日本人がかかわっていて
日本のこともよくわかっている、そういう
学校が多いです。
そしてまた、この一、二、三とは別に、一部の
ブラジル人学校及びインターナショナルスクールには、その
学校の
高校生相当年度を卒業したら
日本の大学へ進学を認めますよ、そういうふうに一部認められている
学校もございます。
そして次、注に行きまして、
ブラジルの学制ということで、少し
ブラジルの
学校制度のことを
お話しさせてください。
ブラジルの学制は
日本と同じ、義務
教育が九年間です。これは小一から小五まで小
学校が五年間、そして中一から中四まで中
学校が四年間、合計、義務
教育は九年間です。その上に、
高校生が三年間及び大学が四年間、もしくは中には三年間というところもございます。ですので、
日本の学制に相当しております。
あと、
ブラジルの
学校に行っていた
生徒に関しては、すべて、
ブラジルの政府の要請で学歴証明書というものを出さなければいけません。これは
日本の通信簿を何枚も重ねたようなものでして、例えば、小
学校一年生のときはどこの
学校で勉強したか、
学校名そしてその
学校の成績及び
出席率というのが年次ごとに載っている表です。これは
生徒に所属する書類で、
生徒が転校とか、もしくは引っ越しの際にその
学校へ出すと、ああ、君はこの
学校でここまでやったんだね、では次はうちの
学校でここからやろうか、そういうふうになる書類がございます。
そして、次は
日本の学制との大きな違いなんですが、一番大きな違いというのが、
ブラジル人学校は二月が新学期、二月から新学年ということ、そして十二月末で学年が終わるということです。一月は、向こうは南半球ですので夏休みだということになります。その夏休みも、成績が悪い子の中には進学のために補習授業を受けて勉強する方もいます。
そして、違いの二つ目、それは留年
制度があるということです。学力が身につかなかった、つまりテストで赤点をとってしまった場合、もしくは
出席率が
規定に満たなかった場合、これは小
学校一年生でも二年生でも留年をします。
そしてまた、
日本の
学校と大きく違う点、三点目なんですが、これは午前のみ、もしくは午後のみの四時間もしくは五時間
程度の
学校が多いということです。
ブラジル本国の
学校が午前、午後、夜と三部制をとっているということで、
日本に来てもそれと同じようにやっていこうということでやっております。
以上が、
ブラジルの学制です。
そして次、二番目、
ブラジル人学校の役割というところへ進ませていただきます。
ブラジル人学校というのは、在日
ブラジル人のための母国
教育を受け持つ
学校です。
ブラジル教育省のカリキュラムに基づいて
教育を行っています。
学科については、国語、算数、理科、
社会、スペイン語、ほぼ
日本の
学科と相当するものがございます。ですから、大体海外の
日本人
学校と同様の役割を果たすものというふうに御理解いただいて構わないかなと思います。ですから、
ブラジル人学校は
ブラジル人をつくっています。将来的に
ブラジルへ帰国するであろう保護者の
子供を
教育しています。
学校は文化的再生産の機構だと考えておりますので、
日本の
学校へ通う
子供が
日本人になるように、
ブラジル人学校へ通う
子供は
ブラジル人になります。
個人的には、在日
ブラジル人というのは、実は言葉として非常に否定的なイメージを持つものですから、私
たちは、
子供を在日
ブラジル人ではなくて
ブラジル人にしたい、そういうふうに思っております。
ブラジル人学校が今までやってこられたのは、
日本に来ていた
ブラジルの人が出稼ぎであり、将来的には母国へ帰るだろうと思ってこの
学校を選んでいたことが挙げられるのではないかなと思います。また、
一つ目として、
ブラジル人学校というのは、将来
ブラジルへ帰る子弟を預かる、これが第一義です。
そしてまた、第二義として、現在では、
日本の
学校に適応できない
子供の受け皿となっていることにも御注目いただきたいと思います。ポルトガル語と
日本語の言語間の距離が非常に大きい、離れているということ、ですから
子供たちが、大人もそうですけれ
ども、非常に習得に困難、そして
日本と
ブラジルの文化的な差異というのが
子供たちに適応を難しくしている。
簡単に言えば、
日本の
学校の
子供たちというのは、周りの
子供を見て、ほにゃほにゃちゃんがこうやっているから私もそうしようとか、ほにゃほにゃ君と一緒がいいやとか、こういうことが行動の
一つの判断
基準になるんですが、
ブラジル人学校では
自分がやりたいようにやれという形で、ちょっと違うんですね。ですから、結構
日本の
学校からうちへ転校してくる子だと、初めはちょっときょどきょどして周りをよく見て、周りに合わせようとするんですが、徐々になれてきて
自分がやりたいようにやる。転校生なんかを見ていると、ああ、こういうところが違うんだなというのがよくわかります。
そして、私
たちの
学校、浜松校、豊橋校を
対象に二〇〇八年、保護者にアンケートを行ったところ、
ブラジル人学校をなぜ選んだか、理由の一位が将来
ブラジルへ帰国するから、七〇%。そして第二位が
日本の
学校でうまくいかなかったから、これが二五%。これは本音を申しますと、
日本の
学校でいじめに遭ったからというのが二五%です。
いじめというのは、多分
皆さんの想像するいじめではありません。一言で言えば、これは疎外感だと思います。
自分が言葉がしゃべれない、友達ができない、先生の言っていることがわからない、何で僕は今ここに座っているのかわからないというところから、やはり寂しさ、
子供ですから、寂しさというのは周りが悪いということになってしまいがちです。ですので、そういう
意味で、広義的な孤立感というか疎外感というか、うまく適応できない
自分へのいら立ちも含めて、この
数字になっていると思っております。
そして、現在では、
ブラジル人学校は、
日本の
学校には適応できない、もしくは
日本の
学校を続けることで非常に不利益をこうむる
可能性が高いという
子供も預かることも多くなりました。また、
ブラジル人学校へ通わせ、
大学進学時点で母国へ帰ると思っていた家族が
日本で就職し、
大学進学を後回ししているケースも非常に多いです。さらに、
日本の
学校にはない独自のサービス、送迎、延長保育、休日保育などが必要だと考える方もいて、それが
ブラジル人学校を選ぶ理由にもなっております。
一つ日本の学制の枠の外に今までありながら、
子供たちの
教育をする
学校として機能していたことは評価をいただければと思います。
さらに続けます。
ブラジル人学校に通う
ブラジル人子弟も大半は将来
ブラジルに帰るでしょうが、
日本に親しみを持ち、また中には、
日本で一生涯
生活の糧を得ることを望む者もあると思います。しかし、現状では、
ブラジル人でありながら
日本の
学校に行っていたとしても、労働可能年齢に達した
子供で必要最低限のレベルを持たない
子供も多数存在します。これは、現在二十歳前後の子に非常に多く見られることなんですが、まず
日本語が中途半端。会話は一応できる
程度、意思疎通は図れるというレベル。漢字、平仮名、多少は読める、書けない。ポルトガル語、ある
程度意思疎通はできる。ですから、
日本語もいまいち、ポルトガル語もいまいち、算数は私わからないという
子供が実は結構多いんです。
私、
職業柄、面接をよくやるんですが、特に二十歳内外の子に一番こういう傾向が多く見られます。小
学校の途中まで
ブラジルにいて
ブラジルの
学校へ通っていた、そして一九九〇年代の出稼ぎブームに乗って
日本へやってきた、そこからは
日本の
学校にずっと行っているという子に多くこの傾向が見られます。ただ、これは
子供のことですので、あくまでもこれは一例であります。全体として見るとこういう子が多いというだけで、中には
日本語も堪能、ポルトガル語も非常に堪能という方も多数いらっしゃるというのは、ちょっと強く言いたいと思います。
では、続けます。
いずれにせよ、
ブラジル人学校の月謝は高額です。通わせる保護者の
方々にはそれなりの事情があり、収入の大きな
部分を占める月謝を支払わなければならない理由があります。敷衍して言えば、その理由があるにもかかわらず、収入の十分でない家族は自宅待機を
選択する
可能性があります。
AEBJの調査でも、二千六百八十八人、これは退学者です、
ブラジル人学校をやめた
生徒の一〇・五%に当たる二百八十三名が自宅待機となっております。この
数字は調査
対象の
ブラジル人学校からはじき出された
数字ですので、実際の
数字は
AEBJの非加盟校もしくは回答を留保した
学校、
日本の
学校からの退学者も合わせますので、大きな数の
子供が現在でも自宅待機である
可能性が高いと考えております。
三番、二〇〇九年
ブラジル人学校の現状、これは
AEBJの調査で明らかになったことです。
二〇〇九年の
ブラジル人学校を取り巻く環境は非常に厳しいものでした。二〇〇八年までは、
学校間の競争、
日本の
公立学校へ通う
子供の増加等のマイナス要因も、出稼ぎの増加に助けられて
ブラジル人学校は運営をしてこられました。しかし、二〇〇八年の十二月から二〇〇九年の三月まで、非常に
日本の経済が急激に悪化したときに時を同じくして、
ブラジル人の在籍
生徒も約六〇%減りましたし、また十六校の
ブラジル人学校、一九%に相当する
ブラジル人学校は閉校しました。ここで
一つ大きなあらしに
ブラジル人学校はまみれました。
そして、四番目、二〇一〇年
ブラジル人学校の展望ですが、
ブラジル人学校を取り巻く環境は、ことしもより悪くなる、もしくは変わらないと答える方が多いようです。在日
ブラジル人はその仕事のほとんどが派遣労働者、特に工場労働者になっておりますので、派遣会社の働き口が少ない現状では、まだまだ保護者の収入は安定することはないと思います。
最後、五番、提言です。
以上見てきましたように、伯人
学校、
ブラジル人学校なんですが、
ブラジル人学校は
日本の学制と非常に対応している、
日本の
学校の
高等学校に当たるものが
ブラジル人学校にはあります。ですので、まず
一つ、私
たちを
高等学校の
課程に類する
課程の
生徒として位置づけていただきたいという願いがあります。
ブラジル人学校の
立場からいえば、
高校無償化法案は非常に必要です。リーマン・ショックに端を発した世界同時不況で、在日
ブラジル人の失業率は一時五〇%以上まで上昇しました。収入のない保護者は
子供を
ブラジル人学校へ通わせることはできません。
ブラジル人学校全体で六〇%近い
子供が退学をしました。彼らの多くは現在では
ブラジルへ帰りましたが、一部不
就学、自宅待機の
子供がおります。私
たちの
学校でも、先月新学期が始まりましたけれ
ども、新規入校者のうち、やはり二〇〇九年、一年間ちょっと家でぶらぶらしていたよという子が少なくない数でおります。
文部科学省はこの現状を重く受けとめ、二〇〇九年秋ごろから、定住外国人の
子供の
就学支援事業を行ってくださいました。これによって不
就学の
子供たちは非常に助かりました。しかし、この事業も、二〇一〇年度からは
高校生に相当する学年は
対象外となります。予算の計上をしてはいけなくなります。ですので、義務
教育年齢の不
就学の子
たち、
教育の機会を奪われている子
たちはこの文科省の事業で助けられます。しかし、
高校生以上の年齢で
学校に行きたくても行けない子に今差し伸べる手は余りありません。
ブラジル人学校内での
高校進学率は今まで五〇%ぐらいでした。二〇〇八年までは徐々に増加を続けてきました。しかし、本年度は四〇%に減少しました。一〇%の減少。余り減っていないかなと思われるかもわかりませんけれ
ども、進学しない理由が例年とは変わっていました。例年であれば、就職が主な理由でした。二〇〇八年以前当時は人手不足ですから、若かろうが何だろうが仕事はあったんです。
子供たちもすぐ派遣会社に仕事を見つけてそっちに行っていた。
高校を出て十八の子が、
高校を出ずに十六の子が、手取りで多数の、お小遣いの何十倍のお金をもらえる、ちょっと魅力的です。ですので、就職というのがやはり
高校進学をしない一番の理由だったんですが、現在は経済的な理由というのが一番多いです。じゃ、何するのと言うと、お父さんが仕事見つかったら戻ってくるよとか、お母さんが仕事見つかったら戻ってくるよとか、私ちょっとバイトを見つけてそれから戻ってくるよとか、つまりそういうことですね。また、ちょっとうちお金がないから私通えないのとか、そういうケースが非常に多いです。
子供たちは、アルバイトを見つけたらとかお父さんが仕事を見つけたら戻ってくると言いますけれ
ども、なかなか今の段階でお父さん、お母さんが納得のいく仕事を見つけることは非常に難しいものですから、その
子供たちが、では
学校に戻ってくると言っても、本当に戻ってくるのか心配しております。
子供たち本人も、私、
高校は出たいんだけれ
ども、大学に行きたいんだけれ
どもという夢は持っております。今までずっと勉強していて、何で
高校二年生、次三年生になったら私やめなきゃいけないのと言う子もいます。そういう子にとっても、うちお金がないからというのは、もうどうしようもないということで受けとめられております。
そして、この
高校無償化法案なんですが、確実に彼らの背中を
学校へと押し戻してくれますし、また、彼らが
学校から背中を向けることを防いでくれます。月額一万円から二万円、私
たちの
学校では月謝の二五%から五〇%に相当します。ほかの
ブラジル人学校ではもう少し高い率になるかと思います。ですので、
教育の
機会均等という
観点からも、すべての
子供が安心して勉強を受けられる、そういう取り組み、そういう取り計らいが
ブラジル人学校にもぜひ必要で、ここにお願いを申し上げます。
以上です。ありがとうございました。(
拍手)