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赤松国務大臣 農林水産委員会の開催に当たりまして、
委員長のお許しをいただき、所管
大臣として所信の一端を申し述べます。
私が
農林水産大臣を拝命した昨年九月十六日から約五カ月が経過しました。この日以来、私は、副
大臣、
政務官とともに、政治主導の精神のもと、全力で取り組んでまいりました。
平成二十一年度第一次補正
予算の
見直しでは、全省庁の中で最も高い割合の国費を国庫返納いたしました。さらに、
平成二十二年度の
予算、税制改正要望の
検討過程においても、前例にとらわれない、国民の生活を第一とした判断を行ってきたと自負しております。
これらの中で、この内閣における
農林水産政策の
考え方を最も色濃く体現しているのは
平成二十二年度
予算案です。厳しい財政事情のもと、
戸別所得補償制度のモデル
対策を核として、政策を大
転換する大きな一歩を踏み出しました。引き続き、政治の強いリーダーシップのもとで
農林水産行政に取り組んでまいります。
さて、
鳩山総理は、さきの施政方針演説において命を守る政治を提唱しましたが、生命の源である食を生み出す
農林水産業、その舞台となる
農山漁村は、まさに命を支える基盤となるものです。また、
地域経済の心臓として
地域を支えているのも、まさしく
農林水産業です。
しかし、残念ながら、我が国の
農林水産業の現状を見ると、
生産額の
減少、就業者の高齢者割合の増加、農地、森林の荒廃、水産
資源の
減少など、深刻な
状況に陥っています。
農山漁村は疲弊し、
地域コミュニティーの維持すら困難となっているところもあります。
国際情勢に目を転じても、決して楽観視できる
状況ではありません。中国やインドを初めとする新興国の経済成長などを要因として、世界の
食料需給は逼迫基調にあり、先進国の一員としてその安定化に寄与することが求められています。また、WTOドーハ・ラウンド交渉など、我が国の
農林水産業にも大きな
影響を与えかねない厳しい国際交渉が続いています。
このような内外を取り巻く危機的な
状況を克服し、国民の命を支える
農林水産業と
農山漁村を再生すること、すなわち食と
地域を再生することが、今、我々がなすべきことです。
このため、意欲のあるすべての
生産者に政策の恩恵が行き渡り、国民が将来にわたって安全な食の恩恵と豊かな水や緑を享受できることを目指します。その際、
農林水産業が営まれる
農山漁村は、水、緑、環境の保全などの多面的な機能を支える基盤でもあり、国民全体の安全、安心な生活に重要な役割を果たしていることについて、国民各位のより一層の理解を求めつつ、必要な支援を行っていきます。さらに、世界の食の安定に向け、国際的な議論をリードしつつ、積極的な貢献を図ってまいります。
以下、
農林水産政策に関する主要な
取り組みについて申し述べます。
国内政策では、
農林水産分野の成長
産業化を図ってまいります。
その中心となる政策は、
戸別所得補償制度です。
農山漁村に暮らす人々が将来に向けて明るい展望を持って生きていける環境をつくり出すべく、
平成二十二年度においては、
食料自給率
向上のために
水田農業のてこ入れを行う戸別
所得補償モデル
対策を実施いたします。
具体的には、
食料自給率
向上のポイントとなる麦、大豆、米粉用米、
飼料用米などについて、シンプルでわかりやすい助成
体系のもとに
生産拡大を促す
対策である
水田利活用自給力
向上事業と、
水田農業の
経営安定を図るために、恒常的に赤字に陥っている米に対して
補てんする
対策である米戸別
所得補償モデル
事業をセットで講じます。
また、その際、
生産調整達成者のみに麦、大豆等の助成金を交付するというこれまでの手法を
見直し、米の
需給調整は米のメリット
措置により実効を期す仕組みへと改め、過去四十年にわたって農村を疲弊させ、閉塞感を与えてきた
生産調整政策を大
転換します。つくらせない農政からつくる農政へとかじを切り、
食料自給率の
向上へとつなげていきます。
また、畑作、
畜産・
酪農、漁業
分野への
拡大等についても
検討を進め、実現を図ってまいります。
あわせて、
食料供給力の基本となる農地の有効
利用、意欲のある担い手の
確保に向けた
取り組みなどを展開するとともに、資金面から
農業経営の改善を支援するため、
農業改良資金法案を本国会に提出しております。
戸別所得補償制度の
導入と並び、
農林水産分野の成長
産業化の大きな柱となるのが六次
産業化です。
六次
産業化は、
農林水産物の
生産から
加工、流通まで一体的にとらえ、新たな価値を相乗的に生み出すものです。雇用の
確保と
所得の
向上を実現し、
農山漁村に活力、若者、笑顔を再び取り戻すべく、
農林漁業者による
加工、販売への主体的な
取り組みなどを
促進するための法律案も本国会に提出することとしております。
六次
産業化に当たっては、
農林水産業の重要なパートナーである食品産業との連携を初めとする多様な連携軸の構築、
農山漁村に豊富に存在するさまざまな
地域資源を活用した新産業の創出、
農林水産物や
加工食品の
輸出拡大も成功の大きなかぎを握ります。特に、
農山漁村に豊富に存在するバイオマス、太陽光、小水力、風力などの自然エネルギーの利活用は、
鳩山総理が掲げた温室効果ガスを二〇二〇年までに一九九〇年比で二五%削減するという
目標達成に大きく貢献できる
可能性を秘めており、積極的に取り組んでまいります。
一方、
農山漁村の中には、中
山間地域を初め、営農条件等が著しく不利であり、こうした
取り組みをしてもなお雇用や
所得を十分に
確保することが困難な
地域があります。このため、中
山間地域等における
生産条件の不利を補正するための
措置等を引き続き講じるとともに、
農山漁村における定住、交流の
促進を通じた
地域経済の活性化にも取り組んでまいります。
次に、森林・林業の再生です。
我が国の国土の三分の二を占める豊富な森林と、それを守る林業を支えるべく、昨年十二月に、コンクリート社会から木の社会への
転換を目指す森林・林業再生プランを策定しました。同プランに基づき、川上の
対策として、路網の整備や森林施業の集約化、林業を担う人材の
育成などを集中的に進めます。また、川下の
対策として、公共建築物等における木材の
利用を
促進するための法律案を本国会に提出するほか、住宅やエネルギーへの木材
利用を
拡大します。これらの
対策により、木材自給率を五〇%以上に
向上させることを目指します。
次に、水産
対策の
推進です。
我が国水産業は、非常に高い潜在能力を持ちながら、
資源状態の低迷等により厳しい
状況にあります。このため、藻場、干潟の保全等による水産
資源の回復を図るとともに、大型クラゲ等による漁業被害への
対策を講じます。また、燃油
高騰等による
影響を緩和する
セーフティーネットの仕組みの創設、収入
減少の
影響の緩和、融資・保証
制度の充実により、漁業
経営の支援に取り組んでまいります。さらに、マグロや鯨等の国際的な管理下にある水産
資源については、科学的な知見に基づき、持続的な
利用が
確保されるよう国際社会をリードしてまいります。
食品の安全性
向上と
消費者の信頼
確保の
分野では、食品の移動を把握するトレーサビリティー、
農業生産工程管理、HACCP、卸売市場におけるコールドチェーン体制の整備などの食品
供給行程における
取り組みを
推進します。
引き続き、日ごろから食品の安全に係る情報の収集や分析を行い、農場から食卓にわたって、科学的根拠に基づいた安全性を
向上させるための
対策を充実させるとともに、農薬や
飼料等の
生産資材の適正な使用の徹底を図ってまいります。
次に、国際交渉への
対応について申し述べます。
まず、WTOドーハ・ラウンド交渉については、昨年のWTO閣僚
会議や本年一月のダボスでの非公式閣僚会合でも改めて主張してまいりましたが、多様な
農業の共存を基本理念とし、各国の
農業がともに発展することができる貿易ルールづくりを目指して、引き続き取り組んでまいります。また、EPA、FTA交渉については、我が国全体として経済上、外交上の利益を考慮し、守るべきものはしっかりと守るとの方針のもと、
関係省庁と連携しながら、
国内の
農林水産業に悪
影響が及ばないよう十分に配慮いたします。
さらに、本年十月には、APECにおいて初めての
食料安全保障担当
大臣会合が新潟で開催されます。さきの
食料価格高騰時には、
食料不足により暴動が発生する国が幾つも生じ、また、
食料輸出国の中には、
輸出規制を行う事例も見られました。まさに、
食料が命に直結するものであるがゆえであります。私は、主催国の担当
大臣としてこの会合の議長を務める予定ですが、その中で、持続可能な
農業生産や
食料安全保障の
確保に向け、積極的に貢献してまいります。
また、国際生物多様性年に当たることし、名古屋で生物多様性条約の第十回締約国会合、COP10が開かれます。私は、これに先立ち開催される遺伝子組み換え生物の適正管理を目指すカルタヘナ議定書第五回締約国
会議、moP5の議長を務めます。こうした生物多様性を初めとする地球環境の問題について、国際的な協力
関係を強化しつつ、積極的に取り組んでまいります。
以上、
農林水産政策に関する基本的な
考え方を申し上げました。
私は、副
大臣、
政務官、そして
農林水産省の全職員と一体となって、
マニフェストの実現に向けて全身全霊を賭して取り組んでいく所存です。また、このような
取り組みが国民の皆様から信頼の得られる組織のもとで進められるよう、本国会では、
農林水産省設置法を改正する法律案を提出しております。
農林水産省が進める政策は、汗水を流しながら必死になって働かれている
現場の方々の
視点に立ったものとなって、初めて血の通ったものに仕上がります。とりわけ、本年三月には、今後の農政についての基本的な方針を盛り込んだ新たな
食料・
農業・
農村基本計画を取りまとめる予定ですが、ここでも、
農業、農村を支える必要性に対する国民的理解の醸成に努めながら、
生産者や
消費者の方々の声を十分に反映した計画にする必要があります。
そこで、私は、副
大臣、
政務官とともに、これまでも、
農林水産業に関するさまざまな御
意見を伺うべく、全国各地を訪問させていただきました。そこには、安全な
食料を安定的に
供給すべく努力をされている方々、
地元でとれた
農林水産物の販売を通じて
地域経済の底上げに取り組まれている方々、
農山漁村の環境を守るべく農地や森林などの保全に取り組まれている方々など、我が国の
農林水産業、
農山漁村を支えるために果敢なチャレンジをされている方々がたくさんおられました。
そして、国民の皆様と
お話をさせていただく中で、我々の政策が形になっていく中で、日ごとに国民の皆様方からの
期待、信頼が大きく、強くなってきていると身をもって感じております。
私は、その
期待、信頼にこたえることが
農林水産大臣としてみずからに課せられた重い使命と受けとめ、本年も果敢に
農林水産行政の大
転換を進めてまいります。
委員長を初め
委員各位におかれましては、今後とも一層の御指導、御鞭撻を賜りますよう、お願いを申し上げます。(拍手)