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中野公述人 兵庫県立
大学大学院の
中野でございます。
本日は、このような機会をいただくことができまして、ありがとうございます。
私からは、
公務員制度改革の背景、それから政府案の
問題点の二つについて
お話ししたいと思います。
まず、
公務員制度改革の背景でございますが、これは主に四つあると思われます。
一つ目は、経済成長の鈍化と少子高齢化、それから財政赤字が重なったことでございます。ヨーロッパ諸国では、一九八〇年代、既にニュー・パブリック・マネジメント型の行政
改革が行われておりまして、
公務員制度にも
民間原理が導入されるようになりましたが、この背景には、ヨーロッパの苦しい
状況があったと言われております。我が国においても十年周期おくれで同様の
状況が訪れていることが、九〇年代後半以降の行政
改革、
公務員制度改革の背景にあります。
二つ目は、九〇年代以降、グローバル経済が進展し、企業活動のスピードが速まる一方で、個々人の行政サービスへのニーズがますます多様化することになったことがあります。これによって、行政は柔軟な
対応を求められるようになりました。
公務員制度に関して言えば、
政治的応答性を高めることが求められるようになったということでございます。しかも、グローバル経済の進展や財政赤字の累積という
状況は、どのような
政権であれ、
採用することのできる政策の選択の幅を大きく狭めますので、政策決定のスピードをどこまで進めるかというのが非常に重要になってまいります。
これら二つは、世界各国に共通したことでございます。それに対して、我が国に特有なこととして二つございます。
まず
一つは、セクショナリズムの問題でございます。我が国の
縦割り行政は明治
時代以来のものであり、その是正は常に叫ばれていたところでございますが、その背後に、行政機構などの側面だけでなく、
公務員制度が大きく横たわっていることに対する注目度が一層高まったのも、九〇年代後半以降の特徴だと思われます。
採用から内部での昇進、
退職管理までが
各省ベースで行われておりまして、これがさまざまな問題を引き起こしてございます。
二つ目の
問題点でございますが、
国家公務員の場合にはキャリア
官僚を中心とした
天下りの問題、地方
公務員の場合にはさまざまな手当など、
公務員に特有の雇用
慣行と官民の労働条件の乖離でございます。今や、身分保障、相対的に割高になっている
給料、社会的地位などの観点で、官民の労働条件には大きな乖離が生じております。
民間企業の場合、九〇年代後半以降、終身雇用
制度の見直しと
成果主義の導入など、競争原理をコンセプトにしたさまざま
人事制度の
改革が行われる一方で、長引く長期不況から、雇用が不安定化するとともに、
給料などは右肩下がりになっております。その象徴的結果が、非正規労働者が三〇%を超えるという現実でございます。
このような
民間の現状に比べますと、高級
官僚と呼ばれる人々の
天下りも、出先機関や地方
公務員の地場企業とかけ離れた労働条件も、批判の的になるのは避けられないということでございます。このような官民の労働条件の乖離が
公務員批判の背景になっているものと考えてございます。このようなことから、官民の労働条件の
統一、あるいは
制度の
統一というものの
改革が求められているところでございます。
なお、
公務員制度改革につきましては、諸外国の事例を見ましても、完璧な成功事例はございません。各国の文化、労働市場、
民間企業の動向などさまざまなものを踏まえながら、各国独自のものをつくり上げていく必要があると思われます。
次に、政府案の
問題点でございますが、まず、総括的な
問題点から述べさせていただきます。
第一に、
幹部公務員の役割についてでございます。これについては、さまざまな
改革が既に行われておりますが、まだまだ視点が定まらないところがあると思われます。
政治家と対比した場合の
官僚の役割としては、政官融合を前提として、
政治家と一蓮託生で
政治的色彩の強い
仕事をすることを想定しているのか、それとも、政官完全分離で、
政治家が政策決定の大部分を担い、
幹部官僚を含めて
公務員は政策執行を淡々と行うという役割を想像するかによって、大きく異なってくるのだと思われます。
近年の
公務員制度改革は物すごいスピード感を持って進んできたことは高く
評価されるべきですが、
幹部公務員の果たすべき役割、その重みについて、まだまだ揺れ動いている部分があると思われます。
第二に、
公務員をリソースとしてとらえる視点が欠如していることでございます。官民の労働条件の乖離、
公務員の不祥事それから
天下り問題などを抱えているものの、行政機関や
公務員は
国民の税金で成り立っている
制度遺産であり、時の
政権にとっては貴重なリソースであって、これをうまく使いこなして
成果を上げることが、
国民にとっても望ましいことです。このような観点から考えた場合、政府案が
公務員制度をリソースとしてとらえる視点をどの
程度持っているのか、疑問に感じるところでございます。
例えば、
政治的応答性を高めるために
幹部公務員の
人事の弾力化を図ることの必要性は理解できる反面、それが高じて
幹部公務員の労働条件のダンピング競争に陥る危険性はないのか、仮に
政治的応答性を高めるのであれば、それに応じた
給与制度などを構築する必要があると思いますが、果たしてそのようなものがどこまで想定されているのか、疑問に感じるところでございます。
第三に、
公務員制度全体の
改革をどのように進めていくのかについて、不透明感が非常に強いことです。
公務員制度は、さまざまな
制度、
慣行が寄せ木細工のように集まって、微妙な均衡の上に成り立っているものです。そのため、全体をどのように進めるのかという工程表が不可欠のものになってきますが、今回の
内閣人事局の
仕事の縮小を見ましても、今後どのような予定で
公務員制度改革を進めていくのか、極めてあいまいです。
それから、例えば、近年の
公務員制度改革では
幹部公務員制度に焦点が集まる傾向がありますが、人件費全体から考えれば
幹部公務員の占める比重はわずかでございまして、
政治主導体制が強まる今、今後も大きな影響力を持ち続けるとは想定できないところです。そのため、
幹部公務員だけにこだわることなく、出先機関の
公務員も含めて、
公務員全体の任用、
給与制度など、
公務員制度全体をどのようにマネジメントしていくのかについて
方向性をはっきり示すべきだと思われます。
次に、個別各論に入りますと、第一に、
天下りの根絶については取り組みが表面的なものに終始しており、どこまで
天下りを構造的な問題ととらえているのかについて疑問が残ります。今回の政府案でも相応の厳しい
天下り規制が打ち出されておりますし、独立行政
法人の
役員公募も導入されておりますが、
天下りの根本的な要因となっている早期退職勧奨の禁止は盛り込まれておりません。
天下りを根絶するためには、出口である非営利
法人などの
あり方だけでなく、人を押し出す要因になっている早期退職勧奨の廃止が不可欠であります。
第二に、早期退職勧奨や
天下りの根絶と関連して、
公務員の総人件費をどのように抑制していくのかについても不透明です。仮に
天下りを抑制した場合、中高年
公務員が増加するため、現行の
給与制度を維持する限り、総人件費が増大することは避けられません。この点、
採用抑制によって乗り切るという方法もありますが、
民間部門においても若年者の雇用機会の損失と中高年正
社員の既得権の対比として問題となったように、安易に
採用抑制に依存することは避けた方がよろしいかと思います。
このような観点から考えると、本来、この時期に最も急ぐべき
改革は、絶えず新規
採用を行い
組織の活性化を促しながら、
天下りの抑制で
定年まで働ける環境をつくる一方で、
公務員全体の総人件費を抑制するという非常に難しい連立方程式をどのように解くか、これに最も力を傾注すべきだと思います。
特に、
労働基本権が制約されている中で、
人事院勧告を踏まえつつ、人件費を削減するための
給与制度をどう仕組んでいくのかについては、現行のような職種別の単一の俸給表
制度で十分なのか、幾つかの地方自治体で見られるような一〇%を超えるようなドラスチックな
給与削減を
労働基本権制約との関連でどのように整理するのかという難しい問題があると思われます。いずれにしても、これらの問題を解決するためには、
給与制度、退職金
制度、総定員法、
組織管理などを総合的に考えることが重要となってきます。
第三に、
幹部公務員の
適格性審査及びその任用についてです。今回の政府案では、
適格性審査が政令に白紙委任されておりますし、昇任等についても具体的な定めがなく、今後の
運用に大きく依存することになります。
これについては、
政治主導体制、首相主導体制という側面から必要と考えられる部分があるものの、
政治状況が大きく
変化する中で、これまで
官僚利権の隠れみのとして批判されてきた行政の
中立性とか継続性というものが、逆に一層重要性を持つことも考えられます。そう考えますと、国会や
人事院、第三者
委員会の関与、だれから見ても納得がいく透明な基準などが必要と考えられます。この点について、米国においても、一部の
政治任用者については、議会での
審査、承認が必要とされております。
第四に、
幹部公務員の職制上のみなし規定についてです。政府案では、事務
次官級、局長級、
部長級を同一の職制上の
段階にあるとみなすことで
適材適所の柔軟な
人事を行うことを目指していると思われますが、これについては、
政治主導によってめり張りのある
人事を行うことができる、つまり
政治的応答性を高めることができるというメリットがある一方で、事務
次官から
部長クラスの
仕事、求められる
能力などはどこまで検証されているのか、極めて疑問です。現実に中央官庁の
仕事を見てみますと、事務
次官の
仕事と局長の
仕事と
部長の
仕事は全く違うものと思われます。そういう現実をどこまで見た上でこういう同一の職制上の
段階とみなす規定を入れたのか、極めて疑問に感じるところでございます。仮に事務
次官と
部長級で現実に行われている
仕事それから求められる
能力が全く違うものだとすると、このみなし規定というものが全く適用されないおそれもありまして、そういった場合、このみなし規定は逆に空文化のおそれもあります。
以上、政府案は個別各点で四つの問題を抱えております。
以上、
公務員制度改革の背景、政府案の
問題点について陳述させていただきました。ありがとうございました。(
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