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田中参考人 田中でございます。おはようございます。
本日は、
国家公務員法等の一部を改正する
法律案の審議に当たりまして、
参考人として
意見を述べるチャンスを与えていただき、大変光栄に存じております。
私は、霞が関を離れまして既に十数年たっておりますが、現職のときには、行政
機構・
定員管理、行政監察、そして
行政改革、とりわけ官業の民営化や規制
改革、行政手続法とか行政情報公開法の制定に携わってまいりました。また、今の
総務省の前身であります総務庁で官房秘書課長として
人事を担当させていただきました。
退職後は、拓殖
大学政経学部で行政管理論とか
行政改革などを教え、研究する一方、
政府の行革のいろいろなプロジェクトに参加いたしました。
特に、安倍
内閣のときから
公務員制度改革に携わり、
国家公務員制度改革基本法ができるまで、各省が勧奨退職あるいは就職あっせんをやめた際の対応策としての
官民人材交流センターの設計、ただいま説明された
長谷川さんと一緒になって審議いたしました。また、
国家公務員制度改革基本法の骨組みをどうするかといった
委員会に参加し、
基本法ができてからは国家
公務員制度改革推進本部顧問
会議のメンバーとして審議に参加してまいりました。このたび審議されております
政府、野党の
法律案については、そういう意味で大変感慨深いものがございます。
このたびの
法律改正に関しまして、若干
意見を申し述べさせていただきます。
さて、戦後半世紀以上にわたり、事あるごとに
改革の俎上に上りながら、一向に
改革されてこなかったのがこの
公務員制度改革でございます。
まず、なぜ問題にされたのか。
言うまでもございませんが、社会経済情勢が大きく変化していく中で、行政がその変化に対応せず、その原因が各省の縦割り行政にあると言われてまいりました。国益よりも省益を優先させているとしか思えない権限争いのため、緊急課題に対応できないこと、あるいは国際的潮流へのおくれなどがいつも指摘されてまいったわけであります。
縦割り行政の弊害は、積極面でも消極面でも出ております。その例は挙げるまでもないでございましょう。そのため、
行政改革が試みられる際には、
内閣の総合調整
機能の強化というのがいつもテーマとして挙げられたものでございます。
問題の根っこに、採用から退職に至る
公務員制度のあり方の問題、すなわち、
能力と意欲のある
公務員が
国民の利益を実現するために働くという
制度をいかに設計し、実現していくかという問題があったわけであります。
また、目に余るのが
天下り、わたりであります。さらに、これに深く
関係するのですが、入札をめぐっての汚職であります。大きな国損を生じております。
その意味で、安倍
内閣が始めた
公務員制度全体をとらえた総合的な
公務員制度改革は、画期的なことでありました。
福田内閣の際、
与野党の修正協議を経て
国家公務員制度改革基本法が成立したことは、私どもに明るい展望を与えてくれました。
基本法は
与野党の調整を経て成立したものであり、その上に立って本日審議される両
法案がある、このように位置づけられるものと承知しております。
さて、両
法案について
幾つか
意見を申し上げたいと思います。大まかな問題を申し上げたい。
問題の第一は、
国民にとって最も困りますのは、両
法案の前提ともなります
公務員制度改革の全体像が提示されていないということでございます。
政府は、退職勧奨はしないとか、再就職のあっせんは、各省はもとより
官民人材交流センターによる再就職支援もやめるとか、その一方で、定年延長はする、
国家公務員の総
人件費は二割
削減するなどと言っておられます。総
定員法で非現業の
国家公務員数の上限が決められておる中で、
一体どうやって実現するというのでありましょうか。
政府も野党も、総
定員法を廃止せよとは言っておられません。
私は、各省に就職のあっせんをせよとか、定年延長はけしからぬとか、総
人件費が幾らふえてもいいと言っておるわけではございません。報道で言われていることが事実であれば、例えば新規採用は大幅に減らさざるを得ません。某省の官房長が新規採用を大幅に減らさざるを得ませんと
大臣に大変だと駆け込み、それでその
大臣は、これは大変だと閣僚
懇談会か何かで話題にされたと報道されておりました。
およそ、
改革というのは、総合性がなければ破綻するのは当然でございます。
国民の
理解は得られません。新規採用をストップし、あるいは大幅に減らすことが、後々、
組織にいかに重大な影響を及ぼすか、申し上げる必要はないと思います。しかも、総
人件費を二割
削減すると言われます。いかなる方策で実現するのか。スローガンでは済まない問題であります。
一方、野党案も、
制度改革の全体像が示されておらぬという点では、与党案よりもなおひどいと言えるかもわかりません。例えば、
官民人材交流センターは、
組織の改廃等により離職せざるを得ない
職員に対してすら再就職支援はしないと言っておられます。自民、公明両党とも、与党であったときには
官民人材交流センターの設置に賛成したはずであります。こういう
政策では、円滑な
人事や
組織の活性化など望むべくもなく、
人件費の膨張が懸念されます。これらの問題とともに、審議に付されている
法律案自体、私の言う
改革の全体像の中で位置づけられる必要があります。
問題の第二、
幹部職員を
内閣が管理する、その適格性を各省ではなくて
内閣が判断する、これはすばらしいことであります。問題は、どういうシステムでそれを実行するのか。これからというのでは心もとないし、
制度について的確な判断ができないことになります。
このことは、ほかの
改革面にもありまして、例えば、抜てき
人事は結構であります。どういう
仕組みでやるのかがわかりません。
政府案では、次官から部長までを同一の職制上の段階にあるものとみなし、運用するといいますが、どういうシステムでそれをやるのかが見えません。
野党案では、抜てき
人事の道を開くため、
幹部は
特別職とし、
幹部から外す
人事を可能にするといいますけれども、その
仕組みとルールが示されなければ実行されません。特に、
内閣による行政の遂行を最大限、効果的に行う上で必要と判断するときは政令で定めるところにより課長級までの特別降任が可能、こうおっしゃっておりますが、
政府案との違いを打ち出すための規定としか私には思われませんで、
中身や実効性が明確ではありません。この点は、
改革のベースとすべき
基本法においても、
幹部職員の範囲内において
幹部職員の任用、
給与の弾力化のための措置を講ずる旨規定されておりまして、これは第五条第二項第五号でございますが、それとの整合性という意味からも問題であります。
起こり得ることは、パフォーマンスを誇示するとか、積極的に
政治にすり寄るとか、既にその兆候も出ておると私は見ておりますが、情実
人事が横行するおそれが出てくることであります。現状においても、長年の勤務の中で、各人の企画力、事務遂行力、指導力がどの
程度のものかということは明らかになっておるはずであります。
私の経験からしますと、中には、間違ったとしか言えない
人事も現にございました。今回の
制度改革も、運用を含めて、きちんとした、
機能するシステムが構築されませんと、結果において、今までと余り変わりばえのしない、単なる
政治的パフォーマンスにすぎなかったと言われかねないものになってしまうおそれがございます。
くどいようでありますが、いかに立派な
改革案でございましても、それを具体化するシステムを用意しないと
制度の趣旨を換骨奪胎してしまうのが霞が関
官僚のおはこであることを想起していただかなければなりません。
第三に、第一の問題に関連しますが、両
法案に、実施を含めて、
公務員制度改革全体のスケジュールといいますか、絵といいますか、その工程表を示してほしいということであります。
基本法に大まかなことは書いてあります。
法律事項、政省令事項、その他、
制度改革全体についてどのような文脈の中で
改革が進むのか、
国民に提示していただきたいと存じます。
国民に
改革すべきことを系統的に、時系列的に示して初めて
改革に対する
理解と支持が得られるものであります。私が現実にキャップとしてタッチしました国鉄
改革の場合には、全体像を示して進めたということが成功の原因であったと
理解しております。
以上、このたび提案された両
法案について、必要最小限の問題点を申し上げましたが、私は、一昨年に成立した
国家公務員制度改革基本法自体に致命的な問題があることを指摘しておきたいと思いますが、それが当然のことながらこのたびもパスされていることをお話ししておきたいと思います。こういうことを踏まえて
改革を進めていただきたいという趣旨でございます。
第一は、
基本法の
政府提出案に入っておりました、総合職の新規採用は
内閣が行うということでありましたけれども、
民主党の修正
意見でというふうに伺っておりますけれども、従来どおり各省採用と修正されました。理由は、霞が関に優秀な
人材が来なくなるからということであったそうであります。
その理由というのは、複数の有力な省だけではなくて、何十年来、霞が関
官僚が言い続けてきたことでございます。
公務員制度改革を言い、
天下り禁止の旗を振る
民主党が霞が関の主張を支持したものと私は受けとめております。そのことは、国家
公務員制度改革を余りお好きでなかったと思われる福田総理
大臣でさえも了解され、
提出された
法案でありました。
各省採用ですと、
公務員になった途端、各省のゼッケンといいますか背番号がつくわけで、本来、
内閣が採用し、
日本国の
公務員として、省益でなく国益を追求する日の丸
公務員であるべきであります。管理職になって
内閣が一括管理しましても、既にして各省のゼッケンがついている、イヤマークがついている。
内閣採用
制度になっても、優秀な
公務員希望者が来ないわけがございません。ちょっと
考えればわかることでございます。本人の希望する省と当該省が欲しいとする者が一致すれば、
内閣が採用し、その省に配置すればいい。いわば、本籍は
内閣、現住所は各省にすればいいわけであります。希望する省に配置され、その省の
仕事になじめばそれでいいわけですし、数年たって、配置されている省の
人事当局と
内閣人事局が協議しまして、当人に他省庁を経験させるか、引き続き当該省の他部局へ異動させるか、いろいろあるでしょう。何の問題もございません。
各省採用ですと、本人の思い違い、といいますのは、自分の予想していた役所じゃなかった、あるいは、
仕事でもなかったということもあるでしょうし、役所としましても、彼は見込み違いだったということがあり得ます。
私の経験からいいますと、現状では、下手をすると、そこでいわば飼い殺しになってしまうおそれがございます。本籍が
内閣であれば、本人の
能力、気質に合った省への配置がえが非常に容易であります。本籍
内閣、現住所各省というのが日の丸
官僚を育てる基本ではないかと
考えております。
この点では、やむを得ざるところではありますが、少なくとも、今回の
法案、
政府案、野党案、どちらであっても、成立し、修正して成立してもいいわけでございますけれども、
幹部職員人事の
内閣一元管理の規定が創設された暁には、
内閣主導で、各府省横断的に、適材適所の
人材を登用するシステムを構築すること等を通じて、日の丸
官僚を育てる、省益を超えた
国民本位の行政を実現するという趣旨、理念にのっとった運用にしていただきたいと願っております。
問題の第二であります。
総務省行政管理局の
機構・
定員管理の事務を
内閣人事局に移管する問題であります。
これも、
基本法の
政府提出案には入っていなかったのですが、
与野党の修正協議によりまして、「
幹部職員等に係る各府省ごとの定数の設定及び改定」が
内閣人事局の事務として追加されました。これは、
基本法の五条四項第一号でございます。
この点、例えば財務省の
予算管理が
人件費、
給与のみならず全府省のすべての
予算に及ぶのと同様に、行政管理局の
機構・
定員管理というのは、
人事に
関係がないとは言えませんけれども、各府省の
機構の管理、
定員の管理はもとより、行政全体のあり方まで含みますので、各府省には、少なくとも、面倒な役所といいますか、うっとうしい役所ではあります。
時代の変化、社会経済の変化に行政と
国家公務員が機動的に対応し、その時々の
政策課題に迅速に、果敢に取り組むことができるような体制を
内閣のもとに構築するため、
機構・
定員管理の事務を
内閣直轄にする、
総務省から離して直轄にするということには大賛成であります。
ただ、そのことと、
機構・
定員管理の事務を
内閣人事局に移管することとは別問題であります。事務を移管するにしましても、
内閣人事局の名称では従前の
機構・
定員管理の
機能が矮小化されてしまいます。それを喜び、期待する省がないわけではありませんが、いずれにせよ、国家として大きな損失をこうむることになるおそれがあります。どうしても
人事管理の事務と
機構・
定員管理の事務を
一つの局にまとめるというのであれば、名称も、
内閣人事局ではなくて、
内閣行政管理・
人事局ともいうべきものでありましょう。
また、運用におきましても、
人事と
機構・
定員管理の間に厳密なファイアウオールを設けないと、
人事のために
組織をつくるといった、
改革に全く反したことが起こりかねません。
最後になりますが、いろいろ申し上げました。しかし、物事は、中途半端では結局成功いたしません。
法案審議に際して、私の申し上げた
意見がいささかなりとも御
参考になれば幸いであります。
御清聴ありがとうございました。(拍手)