○土居
参考人 皆様、こんにちは。慶應義塾大学の土居でございます。
きょうは、このような形で皆様の前で
お話をさせていただくことを大変うれしく思っております。お手元に横長の参考資料を御用意させていただきましたので、これに沿いながら
お話をさせていただきたいと存じます。
この
委員会では、特例
公債法、それから税制
改正法案、それから
租税特別措置透明化法が御審議されているというふうに伺っておりますので、それに
関連する
お話を私からはさせていただきたいと思います。
まずは、特例
公債法絡みの話でございます。
我が国は、皆様に申し上げるまでもなく、
財政赤字が累増いたしまして、非常に大きな
政府債務を抱えております。ついに、この直近に至りましては、我が国の
政府債務というものが、実は我が国の家計が蓄えている
金融資産とほぼ同じような金額に達するというような事態に陥っているというふうに思っております。
お手元の参考資料の二ページをごらんいただきたいと思いますけれ
ども、我が国の家計は一千四百兆円ぐらいの
金融資産を持っているとされております。しかし、そのうちの四百兆円ぐらいは、
自分たちの住宅ローンなどの家計の債務ということで、ほかの企業とか
政府には貸し出せない
お金ということで持っております。
自分で持っているはたで
自分で借りているという状態であります。それを差し引きますと、大体一千兆円ぐらいの純
金融資産が家計にはあるということであります。
これに対しまして
政府、これは国と地方自治体合わせてということでありますけれ
ども、それが、一般
政府と呼ばれるものではかりますと大体一千兆円、GDPの二倍という金額で、直近ではほぼ近しい値に到達しているという状況であります。
この状況は、直ちにあす
財政破綻が起こるというわけではないわけですけれ
ども、今までのように、国内で低い金利で国債を
発行できるというような状況がもはやなくなりつつあるということを意味しているというふうに御
理解いただければと存じます。
ちなみに、釈迦に説法ですが、諸外国、先進国をごらんいただきますと、三ページにありますように、去年で見ましても、欧米先進国は三%から四%の国債金利を支払っているという状況にありますが、幸いというべきか、我が国は一・四%程度の金利で済んでいるという状況であります。
しかし、これは、国内の貯蓄があって、国内で国債を消化できるという状況があって成り立つというものでありまして、それがだんだんなくなりつつある、海外の投資家から
お金を借りてこなければならないというような状況になりますと、当然のことながら海外の投資家は、そんな低い金利では貸せないよと。別に、
日本政府が信用できないということでなくても、
アメリカ政府、イギリス
政府、その他先進国の
政府と同等の信用が
日本国
政府にもあるということだとしても、同じような金利水準、つまり三%から四%の金利水準を
要求してくるという日が近づいてきているというわけであります。
直ちに三%から四%の金利になるということではないかもしれませんけれ
ども、そういう金利上昇圧力が徐々に高まっているということでありますので、私が思いますのは、できるだけ早くこの国債
発行についての歯どめないしは
財政健全化目標というものをきちんと打ち立てていただきたいというふうに思うわけであります。
さはさりながら、
財政健全化にいそしめば、
経済成長がおろそかになって、
経済成長によって
財政健全化がなし遂げられるという道をふさいでしまうのではないかという懸念があります。つまり、自然増収が税に期待できる、その税の自然増収を
財政健全化の糧にすればいいではないかという御議論があります。ただ、私がいろいろと調べておりますところによれば、残念ながら、そうした状況も期待ができなくなるというのが将来像であろうということであります。
四ページの表にあります、これは
財務省が
平成二十二年度予算にあわせて後年度影響試算ということで出した資料に基づくものでありますけれ
ども、この数字を私の学者の
立場から検証いたしますと、もし
経済成長が期待できたとして、例えば想定よりも二%高い成長が期待できたといたしましても、自然増収は二〇一一年では〇・八兆円、二〇一二年では一・七兆円、二〇一三年では二・七兆円の自然増収が期待できる。ところが、それに比して国債の金利がもし上がってしまうと、それよりも多い利払い費の増加が予想されているということであります。
確かに、
経済成長率が高まれば、国債金利がそのままであるとすれば、その分の自然増収が収支の改善につながるということでありますが、残念ながら、
経済成長というものは国債の金利をむしろ引き上げる
可能性がある。つまり、
民間での資金需要が高まれば、それだけ国債の金利は低い金利では借りられなくなるという、幸か不幸かそういう
経済の原理があります。
そういたしますと、
経済成長率が上がって喜んだ反面、金利も上昇します。その分、国債の利払い費がふえてしまうという意味で、収支が改善しにくい状況が今の我が国の
財政構造であるということは、恐らくこれは確かなことであろうというふうに思います。そういうことを踏まえながら
財政健全化の道を探っていく必要があると考えます。
五ページには、私が思っておりますことで、
財政健全化は重要であるということなんですけれ
ども、特に重要なことは、今すぐ
財政健全化のために増税せよというような意味ではなくて、むしろ少し先の話でもよいので、行く末はこういう行く末である、こちらの方向に向かって
政策のかじを切っているんだという方向を指し示し、それを人々に知らしめるということが重要だということを申し上げております。
むしろ、二〇二〇年代にどうするかというようなことでも構わないので、国債残高をこういう形に抑制していくんだとか、ないしは
財政収支をこういう形で改善していくんだというような、何らかの具体的な指標を伴いながら、それでいて低過ぎず高過ぎないハードルを設けて、その目標に向かって頑張っていく、そういうやり方が求められていると思います。
もう
一つは、これは
財政健全化と
経済成長という話の中にあっては忘れ去られがちなことなんですけれ
ども、
政府が借金を残すということは将来世代に対して負担を残すということである、将来世代の負担をふやしてしまうということで、将来世代と現役世代との間の負担の格差を生んでしまうということにもきちんと配慮をする必要があろうかと思います。そういう意味では、いわゆる霞が関埋蔵金依存は永続できないので、早い段階で恒久的な財源の
検討をお願いしたいところであります。
さはさりながら、ただ単に赤字だから増税せよというようなことは、なかなか
国民も
理解をいたしません。そういう意味では、
財政運営に対する中長期的な姿勢をきちんとした形で示すということが重要なのではないかというふうに考えております。
六ページには、私も学者としてかねがね、こういうことを我が国でも導入してはどうかということを提起しておりましたけれ
ども、鳩山
内閣になりまして、昨年十月二十三日に閣議決定されたようでありますけれ
ども、「予算編成等の在り方の改革について」ということで中期
財政フレームをお示しになるというようなことで、それについては私も非常に期待をしております。確固たる形で、よりきちんとしたコミットメントで
国民にお示しになるということを期待したいと思います。
私が思いますのは、複数年度予算編成というものは、イメージとしては九ページのところにございます。単に、二年から三年の収入と支出についてあらかじめ示すというだけの話ではなくて、むしろ、この二年から三年かけてどういう
政策目標を達成しようとするのか、目標と具体的な手段を両方セットできちんと示すということで
国民に対して約束をするとともに、コミットメントの信頼性を持って
国民を安心たらしめる、そういうような効果というものがあるのではないかというふうに思っております。
そういう意味では、中長期的な
財政運営のスタンスとして、
経済学から
一つの示唆が与えられておりまして、これは十ページにあります課税平準化
政策というメッセージであります。イメージといたしましては、十一ページの方にイメージをかかせていただいております。
単純に申しますと、できるだけ税負担の増加、増税を先送りにして、土壇場になってやむを得ず増税せざるを得ないという形で追い込まれて高い税率をかけてしまうというよりかは、毎年こつこつときちんと税をかけていく。確かに、目先は少し税負担が重くなるかもしれないけれ
ども、早い段階で税負担をお願いしていくということを通じて、将来税率がどんどん高まっていくというようなことを防ぐ、そういうふうに
財政運営を行っていくことで、逆に
経済成長にもいい影響がある。
つまり、
経済学が示唆するところでは、税率は高くなればなるほど、その税率の大きさの二乗に比例する形で
経済活動を阻害すると。例えば、消費税が五%のときの
経済活動を抑制する大きさを一とすれば、二倍の税率である一〇%のときには、単に税率が二倍になったということで
経済活動は二倍分萎縮するというのではなくて、むしろその二倍の二乗、つまり四倍の大きさで
経済活動を萎縮させる。さらには、二〇%という税率にすれば、五%のときに比べて税率は四倍ですので、その四倍の二乗で十六倍の大きさの
経済活動を阻害する悪影響が及ぶということが
経済理論では知られております。
そういう意味では、やがて上げざるを得ない税率であるならば、余り最終的な税率が高くならないようにする。そのためには、タイミングを逃さずにできるだけ早目に税率を上げて、かつ、将来は余り高く税率が上がらないようにとどめさせる、そういう
財政運営が求められると思います。
後半では、税制
改正法案に
関連するところで意見を述べさせていただきたいと存じます。
十二ページには、私が重要であろうと思う点について触れておりまして、今後の税制を考える上では、少子高齢化、グローバル化、
財政健全化、地球温暖化防止という
観点をどういう形で税制に反映していくかということが重要だというふうに思っております。
そういう意味では、効率性と公平性、特に垂直的な公平性と効率性ということでいえば、消費税と所得税との間の役割分担というものがこれからは重要になってくるという
考え方を持っております。
税制
改正法案の具体的な話に
関連いたしましては十四ページに述べておりますけれ
ども、所得控除から給付へという形で、この税制
改正、特に所得控除の見直しというものが図られた点に関しましては、私は望ましい方向だというふうに思っております。
確かに、子
ども手当というものは子育てについての社会的な支援という
観点もございますが、もう少し税制と
関連したところで、所得再分配効果がどうなっているかということで私が研究しているものの一端を御紹介させていただきたいと存じます。
十五ページですけれ
ども、私の転記ミスで、一枚紙の訂正のものを御用意させていただいております。左上に「訂正」と書いてある方が正しいものでございます。これで、皆様御
承知のように、年少扶養控除を廃止し、特定扶養控除の十八歳以下の
部分についての上乗せを廃止するということとともに、子
ども手当を支給するということの効果を見ております。
所得階層を一〇%ずつ区切りまして、下から一〇%、その次の一〇%ということで十分位の階級になっております。一が一番低い所得で十が一番高い所得層ということであります。
右下の所得純増額ということで、子
ども手当の受け取りがふえる一方で控除が減って税負担が多くなるというものの差し引きでどうなるかということで数字を見ますと、十分位、一番高い一〇%の所得層を除くと、子
ども手当の支給によって可処分所得がふえるという
経済効果、さらにその上に、
基本的にはより低所得の方々の方がより多く所得がふえるという意味で、格差是正の効果が働いているという計算結果になっております。
そういう意味では、子
ども手当は、もちろん子育て支援という意味のところが重要な
一つのポイントではありますけれ
ども、また別の側面で、所得再分配効果もより発揮されているという
経済効果が期待できるということが予想されております。
さらにもう
一つは、社会
保険料負担が実は逆進的であると。この十五ページの右上の社会
保険料負担のところをごらんいただきますと、低所得層の方ほど負担率が高いという意味で逆進的になっております。
そういう意味では、今後さらに、子
ども手当という形ではないかもしれませんけれ
ども、例えば給付つき税額控除など、逆進性緩和、所得再分配効果をより発揮させるという
観点からすれば、給付つき税額控除というのも
一つの重要な選択肢なのだろうというふうに思います。
最後に一言だけ、
租税特別措置透明化に
関連して申し上げさせていただきたいと思いますが、透明化ということは非常に重要で、これは私としても強く賛同できるところであります。ただ、今後の
課題といたしましては、単に
租税特別措置法に書かれているものだけが対象になるということなのではなくて、本則の税法、それからさまざまな
政策的な配慮、つまり税を通じた
政策の効果を発揮させるのがよいか、ほかの方法がよいかという比較考量などの
観点も交えながら、もう一段さらに再整理なさるといいのではないかというふうに思っております。
以上です。どうもありがとうございました。(拍手)