○
渥美参考人 皆様、こんにちは。
渥美と申します。
私はこれまで、海外十数カ国、ヒアリングをしてまいりました。また、都道府県あるいは政令市、ほぼ九割ヒアリングをして、先進的な取り組みをしている
自治体には何度もお邪魔をしてお話を伺っております。さらに、
子育て支援あるいはワーク・ライフ・
バランス、ダイバーシティーに取り組んでいる国内外の企業六百五十社、ヒアリングをしてまいりました。足で稼ぐ研究者だと自認しております。
本日は、
自治体あるいは企業で実際に
子育て支援あるいは少子化対策に一生懸命取り組んでいる、そうした事例を踏まえて、どうしたらこの
子ども手当をもっとよいものにできるかという観点から御提案申し上げたいと
思います。
まず、そもそも、この
子ども手当には意義もあると思っています。基本的に、すべての
子供がいる
世帯に欧米諸国並みの配慮をする、あるいは、少子化対策の抜本的な拡充があらゆる主体から言われている中で、財政支出額が大きいこういう
子ども手当のようなことはやはり国しかできないことですので、そういうことに取り組むというのは意義深いことだと思っています。
ただ、一方で、今、
子育て支援に取り組んでいる個人や主体、私も、実は二十代半ばから、週末に近くの公園で
子供会の活動を十七年続けております。そういう
子育てにかなり意識も高い、関心が深い私
たちの周りの人
たちほどこの
子ども手当にはすごく残念な
思いを感じているのは、全くもったいないことだと思っています。本当は手を携えて一緒にやっていくべき
方々が批判的な
意見を持っているのは、もっと改善の余地が大きい、知恵をもっと注ぐべき改善点が大きいからだと
思います。
私が考えている基本的な
視点というのは、まず、きめ細やかでシームレス、切れ目のない
子育て支援策を展開していかなければいけない。
また、
制度としても持続可能なものにするために、やはり財政システムではきちんとしたものをつくらないと、そもそも少子化対策としてこれから期待できるのか、これから
子育てしていくに当たって頼りになるのかという点では少子化対策という実効性が損なわれかねないので、そういう観点からもシステムはきちんとしなければいけません。そもそも、国の土台である
子供たち、そういう
社会の根本的な
部分をこれからどういうふうに持続可能なシステムの中ではぐくんでいくのかという
視点がやはり不可欠だと
思います。
さらに、この
子ども手当の
議論というのは、どうしても
部分最適で
議論されて、そもそも
子育て支援全体の
枠組みの中でどう考えていくのかという全体最適の
視点が欠けているように
思います。
この三つの観点から、私は、
二つのシームレスというのを申し上げたいと
思います。
まず、
子供の年齢に関する直線的なつながり、もう
一つは、多様な主体が連携する面的なつながり。
この直線的なつながりの
うち、経済的
支援に関しては、今回の
子ども手当あるいは高校の実質無償化で、かなりつながったかなとは
思います。ただ、一方で、先ほど来出ている、
現金給付のみならず
現物給付、この二項対立の
議論は、私は余り
意味がない、不毛な
議論だと思っています。ただ、一方で、保育、教育、青少年健全育成、ここら辺がやはりいろいろな面で課題が大きい。例えば、保育所、学童保育の待機児童、私の周りにも本当にたくさん困っている親
たちがいます。そういう点では、本来ならば、経済的
支援とサービス
支援とを結びつけたもっと全体最適なやり方というのがあるかと
思います。これは、次に一で申し上げます。
二つ目に、面的なつながりとして、やはり財政システムは避けられない
議論ですけれども、今はもうばらばらになって本当にわけがわからなくなっているような仕組みを、一元的に
給付と拠出を統合した財政システム、これはもう不可欠なものだと
思います。さらに、単に
子供や
子育てをしている親
たちを、現金であったりサービスであったりの受け手にとどめてはいけません。担い手にかえていく知恵がないと、やはり持続可能なシステムというのはできません。
この三つの点について、本来であれば、もっとこの
子ども手当の仕組みというのはよいものにできるはずです。
まず、面的なつながりについて、そういうものが実現したらどういう状況が生まれるのかということで申し上げておきたいんですが、基本的にはネットワークをイメージしてください。
社会のいろいろな構成員が手を結んで、ネットワークが網の目のように張りめぐらされれば張りめぐらされるほど、まず
一つ目の意義として、ネットワークの網の目が細かくなって、
子供を支える安全網が強固になります。トランポリン理論というのがございます。
子育てとか介護とかで
社会的に落後しかけるような方がいたとしても、この安全網があると、トランポリンで
社会に復帰できる。こういう安全網の機能は、ネットワークが広がれば広がるほど、支えられる人
たちが安全、安心面でメリットが大きいという点です。
二つ目に、現場のニーズを吸い上げて行政に知らせる、また行政からの情報も現場に伝わる連絡網、これがネットワークの
二つ目の意義です。
先ほど来、
自治体あるいは企業で取り組まれている事例を、知恵があると私は申し上げた、本当にそう
思います。現場で取り組んでいる人
たちは、お金がない中で、どうしたらもっといいものができるかと知恵を絞っています。それをいかに行政は吸い上げて、また行政の考えを伝えてというキャッチボールが生まれなきゃいけません。今の
子ども手当だと、一方的に受け手にしてしまうと、そこでまた担い手にかわっていくというインセンティブが働かない。また、その周囲でサポートしている人
たちの知恵というのが行政に伝わってこない。本当にそういう点ではもったいないと
思います。
三つ目に、
地域の力を引き出して、
子供と
子育て家庭を支える土台、
社会基盤が強固になります。これはちょっと抽象的でわかりにくいかもしれませんが、後で、右側にお示ししている
三重県の事例でお話ししたいと
思います。
ここからが私の御提案なんですけれども、まず
一つ目は、バウチャーに切りかえるべきだと
思います。
そもそも、今の
子ども手当で、使途が限定されていない状況では、親が
子供のために使う確証はございません。ただ、使えば消費に回るから経済活性化という
議論があるんですが、一方で、最も
子供にお金がかかる高校、実質無償化とはいっても、その後の進学を考えると、塾に通わせるとかあるいは習い事、いろいろな面でお金がかかる時代、さらに大学進学、そういうお金がかかるその後のことを考えると、貯蓄に回る
可能性も高い。
そういうふうに、乗数
効果が低い、
経済効果が低いようなことになりかねない状況を踏まえると、
子ども手当は、
子育て支援サービスに使途を限定するバウチャー
給付に切りかえるべきだと
思います。そうすることによって、
政策効果を高めるとともに、民間
保育サービス市場あるいは教育市場の拡大を通じて経済成長を図ることができる。福祉は経済に大きなメリットがあるというのは私もそう
思いますが、そういうふうに歯車を回すためには知恵が必要です。
二つ目に、一元的に
給付と拠出を統合した財政システム、これは不可欠なものだと
思います。
そもそも、国や
自治体以外に企業など多様な主体が参画している
フランスの
全国家族手当金庫、先ほども御紹介がありましたが、こういう財政システムをつくって、またさらに各県の
家族手当金庫にお金を流す、そういう中で、サービスの
地域間格差、不均衡を是正する、そういう仕組みをつくらないとよくないと
思います。
というのは、今、かなり
自治体の取り組みというのは濃淡があります。先進的な取り組みをやっている
自治体は幾つもあるんですけれども、そういう知恵がなかなか広がっていかないです。
私は、本年度の四月から内閣府の「共同参画」という雑誌で、
地域戦略としてのワーク・ライフ・
バランスというのをずっと連載してまいりました。例えば、
三重県、石川県、埼玉県、神奈川県、兵庫県神戸市、福岡県福岡市、北九州市、そういったユニークな取り組みを取り上げてきましたけれども、そういう先進的な取り組みをしている
自治体がある一方で、なかなか取り組みが進んでいない。かなり
地域差が今広がってきています。
地域でよい取り組みをしている事例には、どうして
効果が上がっているのかという知恵を国は学ぶべきですし、また、悩んでいる
地域にはそれを伝える義務があると
思います。
また、こういう国、
自治体以外に、企業にも一定の割合を振ることによって、より
政策効果の高い施策展開へと知恵を絞る動きが広がっていきます。今、企業も本当に、経営戦略としてワーク・ライフ・
バランス、ダイバーシティーに取り組み始めていますので、そもそも、シビアにこういう問題を考えています。そういう企業の知恵がなかなか行政に伝わってこないのは、これも本当に残念なことだと思っています。
企業に拠出を求めることは、それはやはり経済団体の
反対は容易に想像されるところではあるんですが、その一方で、企業にとってのメリットも、まずきちんと
フランスのように講じれば、そこはやはり企業にとっても国にとってもウイン・ウインという状況が必ず生まれると
思います。
三つ目に、
子育て世帯を男女ともに財政の担い手へと誘導する、こういう考え方が重要だと
思います。
今回、
所得控除から
手当へという観点から、十五歳以下の
扶養控除あるいは特定
扶養控除の一部が廃止されることになりました。これは基本的にいいことだと
思います。ただ、一方で、配偶者控除が残っていて、これもよく皆さん御案内のとおり、今後、労働力人口、年少人口が大きく減少していく中で、財政制約を抱える国は、やはり共働きをしながら
子育てもしやすい
社会モデルというものへと大きく転換する、そういういい機会だと
思います。
配偶者控除を廃止する、片働き優遇施策を廃止することによって、
子育て世帯を単なる
手当の受け手ということではなくて男女ともに財政の担い手に変えていく、こういう
視点が重要だと
思います。
三重県の次世代育成
支援というのは、本当に知恵が詰まっています。本当に今、ピラミッドでいうと、一番トップに来るのは
子供をめぐる深刻な課題です。毎日のようにメディアでは悲惨な事例というのを耳にして、私も今三歳とゼロ歳の
子供を育てている親として、本当に涙が出るような
思いで毎日、新聞記事を見ます。そういう深刻な課題にやはり行政のエネルギーというのはかなり費やされていて、なかなか、その手前にある不安、悩みを抱えている
世帯であったり、また、そこまでは至らないけれども
子育てで大変な
思いをしている人、そこには行き届かないという状況があります。
今は上の
部分にエネルギーが使われている状況ですが、
三重県は発想を変えて、この
社会の基盤、一番下のところを広く厚くすることによって、行政はコーディネーターで、ほかの民間の、
地域にいろいろな主体がありますから、そういうところがこの
子育て世帯あるいは深刻な課題を持っている
世帯に手を差し伸ばす、そういうネットワーク化というのをずっと取り組んでいます。みえ次世代育成ネットワークというものがあったり、こども
会議、みえのこども応援プロジェクト、きょうは時間の
関係もあって細かくはお話しできませんけれども、こういうふうに、
社会基盤というのを厚くすることによって、行政コストとしてはそれほどかけなくても安心して暮らせる
地域づくりというのは本当に可能です。
そういうものを本当は、この
子ども手当をきっかけにつくる、ネットワーク化というのを図るべきなのに、そこが、なかなかそういう知恵も集まってこない、また、そういう
思いを持っている人
たちが背を向けかねない状況というのは、本当に残念に
思います。
フランスの事例をここに書きました。
全国家族手当金庫については、いろいろと御紹介されることも多いので割愛させていただきます。
よく、こういうふうに企業に拠出を求めると、なかなか今のような状況だと財界はと言われるんですけれども、
フランスの場合は、企業にとってもメリットを設けています。企業の支出に対して
家族控除というのを設けていますので、こういうふうにあめとむちというのを示すことによって、
日本の企業も、既に
子育て支援あるいはワーク・ライフ、ダイバーシティーに取り組んでいる企業はいっぱいありますから、そういうところは必ず協力するはずです。協力したそういう企業の知恵をまた取り組んでいない企業に知らしめる、そういうネットワークづくり、これも国しかできないことだと
思います。
具体的に
フランスがやっているのは、保育所の創設、運営への財政補助であったり、育休中の職業訓練
費用、また、突発的なロスが発生した場合の保育
費用であったり、また今回、育児・介護休業法で
改正の
一つの大きな柱である父親の育児参画、私も三年前、上の子が生まれたときに育児休業もとったんですが、本当に男性がこういうワーク・ライフ・
バランスに取り組むと、そもそも当たり前のことを言うと、ワークの土台にあるライフ、
家庭が、妻とのきずな、
家族のきずなが強固になるとともに、本人にとってのメリットも本当に大きいと
思います。
従業員として、一労働者として働く中で、コミュニケーション能力というのは不可欠ですね。
子育てを男性がやるということは、女性が普通に持っているコミュニケーション能力、男性はなかなか持っていないです。そこを持つのに不可欠な
部分だと
思います。
そういう、企業が今既に父親
子育て支援を進めようといったことでいろいろな施策をやっている、そういうものを今国はなかなか学ぶ場がない。そういう学ぶ場として、例えば、
フランスのこの
家族手当金庫の話し合いの場として
家族会議、毎年数週間にわたり開催されていますけれども、NPOであったり、
子育てをしている親の代表であったり、また企業の代表者、そういういろいろな人
たちがディスカッションする中で、もっと国の
子育て支援というのはこういうふうに環境を整備できていくんじゃないかということを、知恵を出し合います。そういう知恵を出す場というのが、今の
日本に一番必要なものだと私は思っております。
御清聴いただきまして、まことにありがとうございました。(拍手)