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2009-03-17 第171回国会 参議院 予算委員会公聴会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成二十一年三月十七日(火曜日)    午前十時開会     ─────────────    委員の異動  三月十六日     辞任         補欠選任      脇  雅史君     山本 一太君  三月十七日     辞任         補欠選任      澤  雄二君     西田 実仁君      大門実紀史君     井上 哲士君     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         溝手 顕正君     理 事                 犬塚 直史君                 小林 正夫君                 前川 清成君                 峰崎 直樹君                 森 ゆうこ君                 岩永 浩美君                 坂本由紀子君                 鶴保 庸介君                 荒木 清寛君     委 員                 相原久美子君                 石井  一君                 尾立 源幸君                 大石 尚子君                 大河原雅子君                 大久保 勉君                 大塚 耕平君                 自見庄三郎君                 下田 敦子君                 富岡由紀夫君                 広田  一君                 福山 哲郎君                 藤末 健三君                 藤本 祐司君                 牧山ひろえ君                 市川 一朗君                 木村  仁君                北川イッセイ君                 佐藤 信秋君                 関口 昌一君                 南野知惠子君                 林  芳正君                 山本 一太君                 加藤 修一君                 草川 昭三君                 澤  雄二君                 西田 実仁君                 井上 哲士君                 大門実紀史君                 福島みずほ君                 荒井 広幸君    事務局側        常任委員会専門        員        村松  帝君    公述人        反貧困ネットワ        ーク事務局長        NPO法人自立        生活サポートセ        ンター・もやい        事務局長     湯浅  誠君        大阪大学大学院        国際公共政策研        究科准教授    赤井 伸郎君        北海道大学大学        院法学研究科教        授        山口 二郎君        会社顧問     落合たおさ君        横浜国立大学大        学院国際社会科        学研究科准教授  井手 英策君        神奈川県立保健        福祉大学保健福        祉学部教授    山崎 泰彦君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○平成二十一年度一般会計予算内閣提出衆議  院送付) ○平成二十一年度特別会計予算内閣提出衆議  院送付) ○平成二十一年度政府関係機関予算内閣提出、  衆議院送付)     ─────────────
  2. 溝手顕正

    委員長溝手顕正君) ただいまから予算委員会公聴会を開会いたします。  本日は、平成二十一年度一般会計予算平成二十一年度特別会計予算及び平成二十一年度政府関係機関予算につきまして、六名の公述人から順次項目別に御意見をお伺いしたいと存じます。  この際、公述人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多忙中のところ本委員会に御出席をいただき、誠にありがとうございます。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。  本日は、平成二十一年度予算三案につきましてお二方から忌憚のない御意見を拝聴し、今後の審査の参考にいたしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いをいたします。  次に、会議の進め方について申し上げます。  まず、お一人二十分程度で御意見をお述べいただいた後、委員の質疑にお答え願いたいと存じます。  それでは、財政・経済・雇用について、公述人貧困ネットワーク事務局長NPO法人自立生活サポートセンターもやい事務局長湯浅誠君及び大阪大学大学院国際公共政策研究科准教授赤井伸郎君から順次御意見を伺います。  まず、湯浅公述人にお願いいたします。湯浅公述人
  3. 湯浅誠

    公述人湯浅誠君) おはようございます。よろしくお願いします。  レジュメを、タイトルが、派遣村から見た日本社会というタイトルで配っていただいていると思いますが、私、今日は具体的に一つ政策を実現していただきたいと思って、それをお願いしに参りました。一枚めくっていただいて二枚目のところを見ていただくと、いろいろ図がかいてあって文章が書いてあるものがあると思いますが、要は、今後の雇用不安の中で住宅にたどり着けないあるいは失う人たちが更に一層増えていくという中で、国が直接に会社寮民間アパートを借り上げていただきたいということをお願いしたいと思います。それを説明する中で、なぜそういうことが必要なのかなどについても時間の許す範囲で触れたいと思いますので、よろしくお願いします。  この図なんですけれども、一番左の下の方に会社寮というのがあって、この間、雇用不安が深刻化する中で多くの方が製造業を中心に失職している、それはもう皆さん御存じのとおりと思います。二月の雇用統計で十五万八千人ということですが、同じデータの中で、寮も追い出されて行く先もない、要するに居所がなくなってしまう人が三千八十五人だと、これは厚労省データで出ています。ところが、さらにその中には追っかけられない不明の二万人というのがおりますので、全体としてはもうちょっと増えるだろうということです。  他方、ホームレス数というのは毎年毎年減少していて、今年の調査では一万五千七百人ということになっていて、昨年一万六千人でしたから三百人ほど減っておるんですけれども、ですが、これ諸々の事情があって見えなくなっているだけだという面が強いということです。つまり、私、東京活動していますが、新宿や渋谷や池袋のあの炊き出しはもう年末からずっと一・五倍ぐらいに増えていますので、全体の数は増えているんですね。ですが、この厚労省調査というのは昼間の目視調査なもので、昼間電車に乗っていたり図書館にいたり公民館にいたりする人はカウントされないという問題がありまして、それで見かけ上は減っているんですが、不可視化している面があります。  もちろん、製造業だけにもうとどまりません。製造業が落ち込んでいけば物流が直接の影響を受けますし、また様々な余波は建設等にも及んでいきますから、そういう意味では、やはり今まで住み込みなり寮にいて、それで出されちゃう人が増えるというのは、これはもうそのとおりのことだろうと思います。そうすると、路上に出るなりネットカフェで暮らすなり、サウナ、カプセルホテル友人宅知人宅、いろんな形がありますが、これはやはり広い意味では住所不定状態になってしまうということです。要するに、住民票を失う状態ですね。  そうすると、福祉事務所なりハローワークなり、二番を通じて公的なサービスにアクセスするわけですが、今現在、その三番の既設のシェルターとか雇用促進住宅というのはもういっぱいでして、例えば東京ですと、五百人分程度の施設があって、シェルター、緊急一時保護センターと言われるものですが、雇用促進住宅はもう八王子のバスで二十分ぐらいのところに数戸あるだけなので、東京の場合は雇用促進住宅はほとんどないに等しいんですが。あるいは生活保護法内の宿泊所などもあるんですけれども、そういうところは今はほとんどいっぱいで使えません。私たちが役所の方に付いて同行して相談に行くと、とにかく今はいっぱいでどこも紹介できるところはないから自分で探してきてねと言われてしまうのが実情です。  ただ、それもどんどんどんどん増えていっていますから、いつまでもこの状態が続いていくと、やはり、四番ですが、その具体的なアクセスの道が断たれることで自殺犯罪社会不安に至る可能性があって、これは本人にとってはもちろんですが、社会全体にとっても何もいいことがないわけです。  そこで、私たちこの間、新しくシェルターを建てるのはやはり住民の理解や様々なものがありますから時間が掛かる、そういう中で会社寮空き室民間アパート地方自治体が何とかしてくれないかということで、国に対しても地方自治体に働きかけるように、あるいは地方自治体に対しても具体的に考えてくれということをお願いしてきました。  国の方も、二月の六日に政令市会議などでその予算は一定付けるので本年度中、三月中に一定の住宅確保に努められたいというようなことは口頭で指示していただいています。やはりその後一か月たって、三月末になりつつありますけれども、やはり自治体の方はなかなか動けないというのが実情のようで、難しいようです。  そこで、何とか国の方がある程度直接にそれを借り上げるということを考えてもらえないかというのが、私のその最後の七番ですね、趣旨なんですが、その吹き出しの中に、一、二、三、四、五と、また丸を付けたものを書いておきましたけど、結局この問題どういう問題かということなんですが、例えば求職活動にしても雇用保険にしても、この間行われた就職安定資金付けにしても、あるいは生活保護申請した後に審査期間中どこにいるかというそういう居所の問題にしても、住民票住居を失ってしまうとそういうものからこぼれ落ちてしまう、ごそっとこぼれ落ちてしまうんですね。  そういう意味住民票というのは、上記のような雇用関係の諸施策だけじゃなくてもちろん選挙権の問題もあります、そういう諸権利フックになっていて、住民票を失うとこのフックの下にぶら下がっている権利を全部一緒に失うというそういう関係になっていますので、ほぼ市民権を失いかねないような、そういう状態に行ってしまいます。  実際にある程度貯蓄があったり蓄えがあったりということであれば、例えば雇用保険受けるまで、今、会社都合であっても何だかんだで二か月ぐらいは掛かるわけですが、その二か月の生活資金みたいのがある人は、あるいはそこを援助してくれる、あるいは転がり込める実家がある、そういう人は何とかそこを不安定にならずにつなげられるわけですが、やっぱりそういう人ばっかりではないんですね。  就職安定資金付けなどは一般的にはつなぎ融資と言われていますが、そのつなぎ融資にたどり着くのも、これ書類そろえるのにやっぱり一月ぐらいはどうしても掛かります。そのつなぎのためのつなぎがどうしても要るんですね。そこが言ってみれば貧困対策だということになります。  先ほど自治体の話をしましたけれども、自治体は、この間いろいろお話を伺っていても、どうしても集中してしまうという懸念を持っているわけですね、うちが手を挙げたら集まってきちゃうと。だから、それはうち住民でもない人にはサービスできないんだということですね。  それから、あとは、やはり自治体住民サービスだということになりますから、例えば公営住宅は開放するけれども、うち自治体に住んでから半年以上たっている人じゃないと駄目だとか一年以上たっている人じゃないと駄目だと、そういう要件が付いてしまいます。そうなると、雇用自体はもう流動化しているわけですね。二か月、三か月周期で人々は動いています。だけれども、自治体サービスを利用しようとするとがちっとそこで住民要件ではめられちゃうので、結局対応できないんですね。そういう意味住宅確保には限界がある。  例えば東京都は、昨日職員の方と話しましたが、この年度末危機に向けて確保されている住宅、新たに確保した住宅は八十戸です。これは生活保護法外でですね。東京のこれだけの規模で八十戸というのはやはり間に合わないだろうと思うんですが、都にしてみたらそれが精いっぱいなんですね。  そういう中で、例えば三番に書いた名古屋市は、元会社寮を、これは会社寮もどんどん会社福利厚生が縮小する中で、人が入らなくて困っているわけですね。会社寮として活用されることを当て込んで建てた大家さんとかは実際にいるわけです。だけれども、そこには人が入らないと、これは困っているんですね。それで、名古屋市がこの間五か所二百八十人分を確保して、会社寮をですね、会社寮賃料が月額九万五千円なので、それに生活保護相談に来た人をあっせんして、そこの宿所で対応しているということで、この間ずっとそれを回してきています。これ、一つモデルだと思うんですね。二か月でアパートに転宅するということをやっていて。これは名古屋職員の方に聞くと、会社寮の方から言ってきているんですね。つまり、自分たちも困っていますから、じゃ名古屋市が面倒見てくれるんだったら使ってくれというふうに会社寮の方から言ってくるということです。そういうことを考えると、会社寮の側にも今空き室多いですから、ニーズはある。  一時期、私、それで、じゃこの名古屋のようなモデルを全国的に広げられないかというふうに思っていたんですが、先ほど二番目で言ったような事情でなかなか動く自治体は多くないんですね。ですので、四番目なんですが、例えばこういう考え方などはできないかということなんですけれども、今、国は、会社寮を出さなければ、失職しちゃったんだけれども寮から追い出さないという会社に対しては、その賃料相当額を補助するということをやっています。これは、厚労省会社に電話掛けて、うちサービス使えるから使ってくれないかということを言ってやっているわけですね。その結果、大体実績ベースで三千六百件程度人たちが追い出されずにそこで居続けられている。その間に雇用保険を受給するなりそういうことをして次のステップを築いていくということをやっているということです。  例えば、これにより強いインセンティブを与えることで国が直接確保する、そういうことはできないかということです。今自分のところで雇っていた人を出さないでいるなら賃料相当額。じゃ、そうじゃない、自分のところで雇っていたわけでもない人だけれども受け入れたらその一・五倍なり二倍のインセンティブを与えますよというふうに言えば、大家さんは大家さんで入居者がなくて困っていますので、そこを何とかつなげられないかということです。  五番目としては、その間、箱はできた、じゃ当座の生活費行動費としてはどうしたらいいかということですが、生活保護申請した人には五万円、あるいは他施策手続中の人には十万円などの形で社会福祉協議会緊急小口付けなどを特例適用できないかということです。  これは、例えば厚生労働省の方がおっしゃっていますが、生活保護申請受け付けても、審査には二週間なり一月掛かるんですね。今現在、皆さんお金のあるうち自分で何とかしようと思って就職活動されていますから、その間に見付からないとお金がなくなっちゃうので、お金のない状態の人が多いわけです。そうすると、申請したはいいけれども、二週間から一月の間はお金が入ってこないんですね、審査期間中だということで。その間の住居も、これは国の責任ではないというふうに厚労省の方おっしゃっているので、要するに自分で見付けてきてねということになっているんですが、だけれども、そういうお金がなくて、申請はしたはいいけれどもお金ももらっていなくて食う物もない所持金もないという人に、じゃアパートを貸してくれる大家さんいるかというと、やっぱりそれは普通難しいと思うんですね。だとすると、そこを何らかの形で手当てする、そういうつなぎのものがどうしても必要になるということになって、生活保護申請の方なんかは開始決定がなされればそこから五万円引いて渡せばいいだけですから取りっぱぐれることはないということで、そういうような仕組みを何らかの形でつくってもらえないかというのが、私が今日一番にお願いしたいところです。  これは、もうちょっと大きく言うと、やはり今回様々な雇用対策が打たれています。これだけ大変な状況ですから当然だと思うんですが、そういう中に貧困対策というのを加えて含めていただきたいということです。なかなか通常は、大企業中小企業、あるいは雇用保険受けられる人、そういう人のサービスが充実していって、どうしても雇用保険までたどり着かない人とか、あるいは就職安定資金までたどり着かない人、そういう人の問題ってなかなか見えてこないんですね。ですが、私たちのような活動をしていると、そこばっかりが見えてきます。そこが結構効いていないんだなと、ここにたどり着かないで漏れちゃう人がいっぱいいるんだなっていうのが分かるんですね。  なので、それは是非とも、お金は私のいいかげんな試算ですが、そんなにすごい何か一千億も二千億も要らないです。その全体のパッケージの中にちょっと加えてもらえればそれで相当助かる人たちがいて、これはもう具体的に命の問題なので、政策効果は高いと思います。そういう中で、全体として様々な人が今大変になっている中で、一番底の方の人も含めて国はちゃんと見て支えていくんですよという温かい政治のメッセージを是非出していただきたい。  時間は余りないんですね。四番のように既存の政策の延長線上でやってくれないかと言っているのは、要するに、新たにまた一からつくり直すと時間が掛かるだろうということです。なので、本当は三月末の、大量に切られますから、この年度末に間に合わせてもらいたかったんですが、今から年度末というのも難しいかもしれませんけれども、できるだけ四月、五月の早い時期にある程度国として全体で、例えば五千戸確保したから安心して相談に来てくれというようなメッセージを出していただきたい。それはやっぱり将来不安みたいなところが深刻化している中ではとても大きなメッセージ力を持つんだと思うんですね。  なので、私、こういうことを年末年始に派遣村やってからずうっと考えたり情報を集めたりしてきたんですけれども、少なくともちょっと今の段階ではもうこれ以外やりようがないんじゃないか。自治体やれと、自治体やらないといかぬぞと幾ら言っても、やっぱり自治体としては、ある程度中核的な大都市圏は、やっぱりうちだったら、昨日東京都の方も言ってましたけれども、東京都がじゃ二千用意するといったら二千埋まっちゃうんだ、三千用意するといったら三千埋まっちゃうんだ、切りがないんだと。こういうのはやっぱり自治体がいろいろ横並びでやらないと無理なんだというわけですね。だけれども、じゃその自治体の足並みがきれいにそろうかといったらやっぱりそろいませんので、そうしたら国が、例えば人口比率でこれぐらいの数を政令市ごとに割り当てて、それぐらいは国の責任確保するというふうにやっていただけると自治体も助かります。あっせんできる、紹介できる住居がないことは自治体も今悩みの大きな種の一つ。それはもう間違いないんですね。そういうことを是非考えていただきたいということです。  かなり話が具体的なところで終わっちゃいましたが、三ページ以降は、なぜそういうふうにたどり着かないで貧困状態に陥っちゃう人が増えてきているのかということについての私の見解等を書いてあります。三ページがその全体、私、滑り台社会ということを言っていますけれども、この四角でバッテン付けているところですね。止まる人はいいわけです、止まる人はそしてたくさんいます。ですが、止まらない人が増えていっちゃっている、それも事実で、だからこそ、ワーキングプアとか貧困とかという言葉が最近言われるようになった。それはだれにとってもいいことではないわけですよね。  ですから、そこは何とか、いろいろ御意見あるのは承知しています、本人がもうちょっと努力すれば何とかなるはずだろうというのも、御意見あるのは承知しているんですが、実際には何ともならないんですね。なので、そこはそのまま放置すると、結局、さっき言ったような自殺犯罪や、そういう社会不安にしか結び付きませんから、何とかそこを温かく見ていただきたい。  四ページは派遣労働現実実態について書いていて、なかなかこれ、お金ためられるような働き方じゃないんですと。特に去年の秋口から待機期間が長くなってきていますので、待機の間はお金支払われませんから、どうしても貯蓄がない状態に寮にいる間からなっちゃっているということですね。  五ページは産経新聞の記者さんの記事ですけれども、実際に取材に出てみたら、雇用保険を受けている人の取材しようと思って出てみたら、雇用保険まで行き着かないのが現実だった、そういう人ばっかりだったということを書いていて、それはもう我々が見ている実態そのままだなということで挙げておきました。  それから六ページは、緊急小口付け、先ほど言ったつなぎつなぎですね。これは制度としてはあるので、じゃ、今の制度を活用すればいいじゃないかという方もおられるんですが、実際はこれ、線を引いておきましたけれども、東京二十三区のある社協では年間の相談件数うち付けに至ったのは一%ですので、これは要件が厳し過ぎて今のままでは使えません。なので、要件緩和をしていただかないと、実際にはそこからもうみんなが漏れていってしまうということになります。  七ページは、それに至っての、じゃ、それをどうしていくかということの私のイメージですが、右側の方に書いたぎざぎざの線は、つまり滑り台階段をつくっていただきたいということです。階段であれば人が、普通の人が普通に上っていくことができます。滑り台を逆からその気になれば駆け上れるだろうといっても、実際上れる人はおるでしょうが、それはやっぱり少数なんですね。普通の人が普通にステップを上っていけるようにしていただければと。  もう一つは、右側がこれは全体として貧困状態に陥っちゃった人たち救貧対策だとしたら、やっぱり左側防貧になって、こっちが本丸です。だから、中長期的には、この左側滑り台階段をつくっていただいて、だれでもどこかでは引っかかる、そこで貧困まで落ち込まない安心できる社会というのをつくっていただければと思っています。  そういう中で、やはり私は、最終的には、これは中長期的な課題になりますが、やっぱり日本の中でワーキングプアとか貧困とか言われていますが、あるいは子供の貧困問題も深刻ですけれども、どれだけの人たちがそういう状態で暮らしているのか。  そういう中で、じゃ、それを例えば日本政府は十年掛けて三分の一まで減らすんだとか半分に減らすんだとか、これは今、国連でやっていますが、貧困を二〇一五年までに半減させるという、ああいう目標、ああいうのを目標として立てて、そのために政策はこういうふうにやったら、こういうふうにやったら、雇用はこうする、教育はこうする、住宅はこうする、そういうような大きなビジョンを出していただけると、今、中間層相当生活きつくなってきている中で、これだったら自分たちも落ちずにやっていける、あるいは落ちても復活できるという安心感が与えられるのではないかと。それを国のリーダーシップで中長期的には是非お願いしたい。  繰り返しになりますが、短期的には、今回の様々な政策パッケージ、雇用対策のパッケージの中に是非こういう形での住宅提供、住宅確保を入れていただきたいということを最後にもう一度お願いして、終わります。  ありがとうございました。
  4. 溝手顕正

    委員長溝手顕正君) ありがとうございました。  次に、赤井公述人にお願いいたします。赤井公述人
  5. 赤井伸郎

    公述人赤井伸郎君) 赤井でございます。座らせていただきます。  私は、現在、大阪大学で主に財政学を研究しておりまして、今のお話はより現場でのお話ということだったんですが、私は、国全体で財政の在り方、主に地方財政、例えば最近でよく言われます地方分権、道州制とか、その辺りを経済学の立場からデータを分析するなどして研究をさせていただいております。  本日は、今後の予算作成に向けた制度設計ということで、その視点から幾つかの視点を紹介させていただければと思います。  一ページおめくりいただきまして、これは参考程度ということで、今年の予算というもののデータというか、財務省の資料を少し付けさせていただいておりますけれども、雇用はもちろんのこと、重要課題の推進枠としまして、特に重要な社会保険、地域の活性化、あと教育、あと産業政策と、こういうようなところを中心に現在の予算が、今年の予算案ができているということで、その辺りの支出をどのようにしていくのかというところの視点、さらには、次のページを見ていただきますと、もちろんもう皆さん御存じのように、我が国の財政事情はほかの国に比べますとやはり厳しいものがあって、当然ながら歳出を拡大して景気対策をするのは重要ですけれども、その一方で、将来世代にツケが回るというか、負担が行くという点も考慮しながら歳出の在り方というのを考えなければならないということでございます。  四ページのところで、簡単にこの予算を見て私が感じたことを述べさせていただくと、国民生活を守る対策として、当然ながら今お話しされた雇用対策重要だと思います。これは、短期的に今何とかしなければいけないと、そういうような政策であると思われますが、その一方で、多額の債務を抱える我が国において、限られた予算、どのように有効に使うのかと。特に、有効かどうかというのは難しいものもあると思うんですけれども、可能な限り事後的にでも効果検証するという視点も重要であろうと。高質と書いていますけれども、ワイズスペンディングといいますか、価値のあるような効果的な予算作成をする視点が重要で、特に一言で言いますと、その支出が長期的に効果を持続できるのかどうか。単に支出をして、それが終わってしまうともうまた元に戻ってしまうのでは意味がないと。雇用においては、人材育成につながる支出が望ましいと、そういう点ですね。  それをまとめますと、効果的な支出を促す私が特に興味を持っています行政制度、ガバナンス、そういうような制度の構築がどうあるべきなのか、そこのところに関してこれから三つほどの視点を簡単に述べさせていただければと思います。  まず、ガバナンスの視点の一にかかわるところですけれども、これも財務省の資料を二ページほど付けておりますけれども、歳出改革ですね、歳出を改革するというところで、推進という面でめり張りを付けたというのが今年の予算としてこういうような分野で書かれております。それぞれこの額自体が本当にそれが適正なものなのかというのはなかなか検証が難しいわけですけれども、当然、めり張りを付けるということはその何らかの効果を期待している。当然、めり張りを付けるという裏には、それによってそれを受け取る側が何らかのインセンティブといいますか、行動を起こすわけですけれども、その行動が将来につながる、何らかの行動への影響があるわけで、その行動というものがどういうものを持っているのか、そういう視点ですね、そういう視点を見るべきではないかというのがこの資料からも感じたことです。  どんどん行きますけれども、七ページのところにも徹底した無駄の削減ということで、本年度、無駄がこれほど削減されたというお話がありまして、無駄かどうかというところは難しいんですけれども、無駄とすれば、そこの部分はできるだけ効率化していくというのは重要だと思われます。  公益法人向け支出に関しても削減額、四〇%削減ということで、これは効果的であったとは思われますけれども、あえて見れば、その公益法人向け支出の中身がどうなのかとか、その支出によってどのように社会が変わるのか。当然ながら、無駄な支出であればそれは削ればよかったんですけれども、そういうところのデータの検証とか、今後さらに無駄の部分をいかに見出していくのか、その視点というのが重要なのではないかということで、八ページのところでございますが、特にガバナンスの視点で私が日ごろから思っているのが、検証による適正支出インセンティブの付与ということで、当然ながら、支出によって影響を受ける人はそれによって何らかの行動を起こすわけですけれども、それを当然期待して政府も支出を行うわけですけれども、事後的な検証がない場合には、いいかげんに使ってしまうというか、本来思った効果というのが見出せないと。限界はあると思うんですけれども、事後的に検証をするということですね。検証をするということがあれば、当然いいかげんな使い方をしていれば責任が生じてきますので、事後的な責任を通じて、事前にどのように歳出を執行するのか、どのように行動を変えるのか、そういう部分の適正化のインセンティブを付与することができると。それは究極的にガバナンスという形になると思うんですけれども、政府におけるそのガバナンス体制の強化ということもこの予算の中で今後重要になってくる視点ではないかと。  私が最近興味を持っている一つの分野に教育分野というのがあるんですけれども、教育分野は特に、お金のある時代は教育の理念というのが割と重要で、どういう教育をすればいいのかということで、余りお金の問題は気にせず支出されてきたと思うんですけれども、最近の限られた予算の中で教育分野にどのぐらいお金を割いていくのか、効果的な教育をしていくのかという部分に関してはデータの検証が必要なのではないかと。  特に、これまで余り教育分野に関してはデータ構築がなされてこなかったということで、その効果に関して余り検証されてきていないと。行政支出総点検会議というものでも、様々なモデル事業というのがなされているんですけれども、教育分野のモデル事業、費用対効果の観点からその価値があるのかどうかというところが特に議論になっておりまして、前年度に比べて三割ぐらいの削減があったと。削減をするということが目的であってはいけないと思うんですけれども、検証を促すという意味で、検証がきちっとできているものから重点的にお金を割り振っていくと、そういうような視点も重要なのではないかと。  特に教育分野、例えば海外で私が研究する場合でも、例えば海外だと、学校ごとにあらゆるデータがもうネットで見れるようになっていますし、どのような教育をしているのかというのがもうすべて情報公開されています。検証もかなり行われています。論文に関しましても、研究論文も様々な論文がそういうデータを用いて分析されています。  その一方で、教育分野に関しては、特に財政学的な分野とか、データを用いてお金に見合った効果が上がっているのかどうか、そういう分野に関しての研究というのは、教育財政の分野ともいいますけれども、ほとんどありません。それはデータがないということもありまして、そういう検証をするということと、さらに、検証をするという、事後的に検証されるということが分かっていれば、それでお金をどのように使ったかという責任が実際執行者にも掛かってきますので、事前の段階で適正な支出を行うというインセンティブ確保されると、そういうような流れがあるのではないかというふうに思います。  次に、ガバナンスの視点で、一つ目がデータと検証ということでしたが、視点の二つ目で、私が特に今までの研究の中で時代の流れで重要かと思っているのは、これも御議論たくさんあると思うんですけれども、官民の役割分担ですね。役割分担の明確化と執行ということで、民を活用するということが重要かと思うんですけれども、民間ばかりに任せていてはなかなかうまくいかないということも確かでして、当然ながら、民に任せる、完全な民間市場に関しては規制で市場を確保するということになると思われますが、民にここでいう任せるというのはエージェンシーという意味で、官が責任を持つ部分に関しても民の活力を有効に利用することができないであろうかと。  その辺りは、契約を含む官の能力向上が不可欠ということで、海外では様々な契約で物事が動いていますけれども、日本ではなかなか契約というものがなじんでいないという部分、民と民の間であれば契約というのはかなりなじんでいるんですが、なかなかそこがなじんでいないという部分。ただ、このグローバル社会においては、当然ながら外資も入ってきますし、外国企業と官、政府ですね、国、地方が連携して行うということもあり得るでしょうから、そういう意味では、グローバル社会における契約での流れというものを受けて、そういう能力向上というのが重要になってくるのではないかと。  海外で様々な事例があって、それを日本に適用しようということで、市場化テストとか、公営企業、公社、第三セクター、指定管理者、PFI、PPP、様々な言葉が出ておりますけれども、これの究極的な視点は、やはり民を官がどのように契約でインセンティブを与えながら活用していくのかと、そういう視点が重要なのではないかと。  例えば、指定管理者制度にしろPFIにしろ、もうそれはすべて成功するんだというようなイメージを持たれている方も多いと思うんですけれども、当然ながら将来リスクはありますので、そのリスクをいかにコントロールするのかというのが重要で、PFIでも失敗事例はあるんですけれども、そういうことから学ぶことも多いですし、一つ失敗してもほかで成功していれば全体としては望ましかったということも見れるわけですので、その手法の在り方、リスク管理を検討していくべきではないかと。  特に最近私が興味を持っていますのがインフラの分野なんですけれども、空港、あと特に道路ですね。道路は民営化というのがなされましたので、特に興味を持っているのが地方の道路公社、地方の有料道路ですね。あと、地下鉄、バス、あとは公共施設。公共施設に関しては指定管理者がかなり導入されていますけれども、ほかの面の例えば空港とかインフラ分野、あとは教育分野、そういう分野に関してこの視点をどのように活用していくのか、まさにこれが今後の予算設計の上で重要になってくるのではないかと。  単なる委託ではなくてインセンティブを持たせると。今でも委託はかなり行われているわけですね。道路にしろ、道路の管理というのは業者がやっているわけですけれども、そこにいかにインセンティブを与えて管理させていくのかと、そういうところを更に官がその能力を向上させてスキルを磨いていくということが重要なのではないかと。  十一ページのところは参考程度に、例えば国家は、参考程度の資料を出しておりますけれども、民間に任したときに国がどれぐらいの責任を負うべきなのかというところで、なかなか道理管理は難しいという議論もあるんですけれども、ここのところも、損害の原因についてその責任がある場合には請求できるというような議論もありますし、またPFI事業者の公物管理法上の位置付けという部分に関しても支障が生じることはないという見解もありますし、その辺りをこれから厳密に見ていくことによってより有効活用ができるのではないかと、そのように思われます。  最後、三番目の視点ですけれども、次は国と地方の役割分担というところに関しての視点でございます。  この資料、地方財政対策の概要という、これも皆さん御存じのとおりの資料でございます。  かなり地方財政というのはややこしいんですけれども、今年の予算のポイントとしては地方交付税を一兆円増額すると。これはそこの資料にもありますように、半分程度雇用創出という部分が重要になっております。あとは事業を円滑化するという部分ですけれども、本来、今、地方の歳出というのはどんどん削られていく一方なんですけれども、その一方で一兆円ほどの額を確保して経済対策を行おうと、そういうような視点が今年の予算には織り込まれていると。  これを踏まえて私の視点なんですけれども、十四ページのところですが、国と地方の役割と責任ということで、今年の予算は交付税一兆円増額されました。この一兆円レベルが望ましいのかどうかというところはなかなか評価が難しいんですけれども、バランスとしては景気対策の効果と、やはりその一兆円というのは将来負担になりますので世代間の公平性という部分での視点からの評価が重要なのではないかと。  もう一つの視点としては、現在、地方財政、地方分権というふうに言われていますけれども、地方財政制度というのは国が地方を財源保障しているという状況にありますので、地方で当然ながら地方税が減って財源不足が見込まれる場合には国がある程度のレベルまで保障しなければならないというようなことで、今年も一般会計で交付税が増えるという状況になっているわけですけれども、その一方で、その交付税原資、国が地方に渡すために用意している財源ですね、それも当然景気とともに減少しているわけです。  そのような仕組みがあるわけですけれども、この仕組み自体がなかなか景気が良くなったり悪化した場合に不安定化する要素になっていると。つまり、地方の財源が安定化していないために少し景気が悪くなると大幅に交付税を増額させないと財源が保障できない、そういうようなことになっていると。つまり、景気後退による財源不足の拡大は交付税の原資とともに地方財源の不安定化というものが要因になっているのだと。  昨今、中期プログラムでも言われていますように、国、地方を通じた安定財源の確保と。当然ながら、地方に安定財源を確保していくということであれば地方税の充実ということになると思うんですが、その中身とともに、充実していくと、いわゆる東京問題と呼ばれますように都市部と地方部で格差が生まれてきます。それとともに格差是正の視点というものも重要になってきます。その格差是正を国がどのぐらい行うべきなのかという国の役割の明確化、つまり国の責任部分なのか、地方同士で財政調整するのか、よく言われている地方共有税も含めてその辺りの責任主体の問題、これが地方分権、さらに道州制とともに絡んでくるのではないかと。  この安定財源確保に関しましては、よく言われている消費税が安定しているのではないかというふうに、消費は法人税に比べると安定化していることは事実ですので、そういう視点がありますけれども、一方で、中期プログラムでも地方消費税の充実という一方で社会保障財源としての消費税の充実、そこのバランスをどのように見ていくのか、その辺り。ただ、リスクを吸収できるのは地方よりも国という意味では、地方により安定的な財源を与える方がいいのではないか。その安定財源を与えるということと財源保障部分を拡大するということはまた別で、安定財源を与えるというのは組替えですね、法人税に依存しているものを消費税に切り替えるという意味で、消費税分それだけ地方が増えるのがいいかどうかというのはまた別の問題なんですけれども、そういうような視点が重要になってくるのではないかと。  その続きですけれども、十五ページのところで、やはり国と地方の役割と責任ということで、最近、地方分権、道州制という議論がされていますけれども、そこのところが一番重要で、やはり効率性と地域間公平性のバランスですね。  やはり効果的なのは都市により多くの資金を配分して将来的な成長、競争力を強化するという部分になってくるかと思うんですが、そうすればやはり地域間で不公平が生まれてくる、そこのバランスをどのように取っていくのか。その公平性、不公平性というのが各分野で生まれてきた場合に、国民はどこまで不公平性というものを認めるのか。  道州制でも私も専門委員で入らせていただいて議論していますと、やはりその格差というものを国民がどこまで認めてくるのか。例えば都道府県レベルでの格差よりか道州制の方がまだ広いのでそれほど格差は起きないという議論もありますが、やはり格差は完全に国が何もしなければ格差が出てくるわけですので、そこの辺り、どこまで国民はその効率性を求めるのか、公平性を求めるのか、そのデータ把握というのがない限りなかなか議論が進まないと、そういう視点を持って将来設計していくべきではないかと。  その下には、ちょっと私が興味を持っている教育とインフラの話ですけれども、義務教育、中等教育、高等教育、最終責任はだれが持って財源はどのように持つのか。例えば義務教育ですと、三位一体改革の折に文部科学省から地方の一般財源という形に一部切り替わったわけですけれども、その責任は最終的にだれが持つのか、道州制になった場合に義務教育はだれが責任を持つのかというようなお話。  最近は高等教育ということで、例えば国立学校の来年また中期計画というのが始まるわけですけれども、国立学校において、全国に、国立大学というものが地方にもあるわけですけれども、その地方の国立大学をどのようにしていくのか、全国に国立大学を設置することがまた国の公平性という面で重要なのか、それが必要なのかとか、そういうような部分。  さらに、例えばインフラですと、全国に空港があるわけですけれども、地方が運営している空港もあれば国が運営している空港が地方にあったりします。それをどう考えるのか。港湾も、最近はスーパー中枢港湾ということで集中と選択でお金が今年も予算が組まれていますけれども、その一方で、全国に約千近くの地方港があります。港は地方にとっては欲しいわけですね。ところが、たくさんの港を造れば一つ当たりの貨物の量が減ってきますので、そういう意味では競争力が失われる、そのバランスをどのように取っていくのか、その視点が重要なのではないかというふうに思います。  以上、三点ほどの視点を以前ちょっとまとめた新聞記事がありますので、その辺りを三つほど最後の方に付けさせていただきました。  一つ目が、公営企業の改革、官と民の役割分担をどうするのか、そこはなかなかリスクの点とかいろいろな視点があると思うんですが、実際コストで見れば明らかに公営の方が高い、中にある表でそれを示しているんですが、給与とかその点の違いが大きい。  二つ目の記事は、根拠あいまいな是正規模というふうに書いていますけれども、格差是正ということで、昨年度から地方法人特別税というような形で、これは地方分権と逆行するんですが、一度国に集めて地方で公平的に配分するというような政策が取られていますけれども、その根拠、その格差をどのように見るのかというところをどのように考えるべきなのかというような御議論。  それから、最後が道州制ですね。道州制、なかなか国と地方をどのように分けるのか、権限を分けるのが難しいんですけれども、確かに都道府県レベルを州レベルまで広域化することによるコスト削減、これはもう事務ごとに違うんですけれども、コスト削減というものもできるのではないか。その辺り、データ分析がほとんどないので、ここではデータ分析をした結果をちょっと紹介させていただいているということでございます。  雑駁ではございましたが、以上で発表とさせていただきます。
  6. 溝手顕正

    委員長溝手顕正君) ありがとうございました。  以上で公述人の御意見の陳述は終わりました。  それでは、これから公述人に対する質疑に入ります。  質疑のある方は順次発言願います。
  7. 藤本祐司

    ○藤本祐司君 おはようございます。民主党の藤本祐司でございます。  本日は、湯浅公述人そして赤井公述人、どうも本当にありがとうございました。お忙しいところありがとうございます。  お二人のお話をお伺いをしていますと、ある意味共通項のところはあるんですが、ちょっとテーマが少し違うものですから、なかなか一緒に併せて質問するということができにくいかなと。まあ無理無理すればいいんですが、そうすると無理無理答えることになってしまいますので、分かりやすく別々にちょっとお聞きしたいと思いますが。  湯浅公述人にまずお聞きしたいと思います。  今日は本当に直近の問題にあって、住まいを何とかしたいと、そこからスタートしなきゃいけないというような問題意識だったというふうに認識をしておるんですけれども、元々湯浅公述人事務局長を務められているNPO法人は、十五年ほど前でしょうか、二〇〇一年ですか、二〇〇一年から、そしてまた実際には九五年ぐらいからいろいろな活動をされているというふうに認識をしておるんですけれども、十年あるいは十五年ぐらい前の状況と今の状況というのは大分状況が違うのではないかなと。  そういう意味で、活動を開始されたときの問題意識と今の問題意識がどういうように変わってきていて、十年前はこうだった、今はこうだった、それは社会環境の変化がこうだったからだという、ちょっとそこのところをお聞きしたいと思います。
  8. 湯浅誠

    公述人湯浅誠君) ありがとうございます。  私が九五年にホームレスの方の支援を始めたときは、ほぼ七、八割方はやっぱり日雇の方が多かったと思います。それは何でかというと、例えば一九六〇年に中学卒業して金の卵とかと言われて都会に来て、道路造ったり、橋造ったり、ビル造ったりしていた人が、九五年には五十歳ですね。なので、やっぱりそこら辺になると、ちょっと労災とか高血圧とか怖いから、まあちょっとおっちゃん遠慮してくれやという感じで仕事からだんだんあぶれていくようになって、それで野宿の人たちが町中で徐々に徐々に目立ち始めた。あれが九〇年代半ばだったと思うんですね。  私たち、二〇〇一年から「もやい」という団体で相談活動を受けていますが、当初は、ですから相談に来る方というのは元野宿の方あるいは母子世帯の人たちですね、DV被害を受けているような人が多かったです。外国籍の方とか、日本籍の方ももちろんですが、多くて、元日雇の野宿の人あるいはDV被害の母子世帯の人、大体これが我々のところに相談に来る人というイメージだったんですけど、二〇〇〇年代に入ってから変わってきたなと思ったのは、まず若い人たちが増えたですね。二十代、三十代で、あとは一般世帯が増えていきました。両親そろっているんだけど食っていけないという。  それは、私の感じからいうと、ずっと日雇とか母子世帯の人たちが、私、元祖ワーキングプアと言っているんですけど、その人たち貧困がずっと続いているのの、それを一階部分だとしたら、そこの二階部分に乗っかってきたという感じですかね、若い人とか一般世帯の人が。それがしばらく、これまでどんどんどんどん増え続けていて、昨年暮れからは、今度は派遣切りの被害者のような人がばんと三階部分に乗ってきたという感じで、前の人たちも減らないけど、更にそこに積み上がっていくという感じですかね。そういう感覚を持っています。  これは居住形態の面からいうと、元々野宿とかあるいはDVで逃げてきて、着のみ着のまま逃げてきて、取りあえず女性シェルターに駆け込んだ人とか、そういう人が相談のメーンだったんですけど、そのうちネットカフェで暮らしている人とかそういう人に広がっていって、しまいには、アパート住んでいるんだけど食っていけないという人に広がってきたという感じですね。  そうすると、最初私はホームレス問題をやっているんですと答えていたんですけど、アパート住んでいるけど食っていけない人ってこれはどこからどう見てもホームレスじゃないですからね。もう自分はホームレス問題をやっていますと言えなくなっちゃって、それで自分がやっているのは貧困問題なんだと言うしかなくなっちゃったということです。なので、私の実感ベースで言うと、同じような活動をずっとやってきているんですが、やっているうちに世の中がこう落ちてきちゃったという感覚を持っています。  それはいろんな要因があるんだと思うんですが、やっぱり一つには企業福祉が縮小していったということが一つ大きいと思うんですね。雇用の流動化が進んでいって賃金がだんだん低賃金化していきますと、やっぱり生活の不安定な人が増えていきます。そういう中で、今までは企業に支えられない人は今度は家族が支えるんだということで、もう一方に家族福祉があったわけだと思うんですが、これもだんだん世帯主とか稼ぎ頭がやっぱり収入減っていく中で家族もだんだんだんだん支え切れなくなってきますから、しかも私以降の世代は基本的に核家族ですからね。余り地域でというか、地域ぐるみで、あるいは大家族の中でいろいろやるということもできなくなっちゃって、家族の福祉も縮小してきた。そういう中で、今までは企業福祉、家族福祉がそれなりに大きかったから、箱の中に風船があるようなもので、ある程度風船が大きいと押し合ってすき間って小さくなるわけですけど、企業福祉も縮小して家族福祉も縮小してくる中で底が見えやすくなっちゃった。そういう社会になってきたと思うんですね。  だとすると、やっぱり社会保障、公的な社会保障の風船を今までよりはもうちょっと増やして膨らましていかないと、なかなかこのすき間は埋まらなくて、そこが、もちろん財源の問題等いろいろあるのは承知していますが、何らかの形で手当てしないとこのすき間に落ち込んじゃう人の問題というのはどうしても解決できないんじゃないかなと思っています。  以上です。
  9. 藤本祐司

    ○藤本祐司君 企業福祉が縮小してきて、家族による福祉が縮小してきた、それは核家族の問題というのが出てくるだろうと。ちょっとそれはまた後でお聞きしたいと思うんですが、今日お話が出てこなかったんですが、いわゆる公共事業が、湯浅公述人によりますと、特に地方においてはいわゆる公共事業というのが社会保障的な意味合いというか機能を持っていたというようなお話が幾つかの論文等々で見受けられるんですが、これはどういう意味なんでしょうか。
  10. 湯浅誠

    公述人湯浅誠君) 今この部屋に入る前に赤井さんと少しお話ししていたら、何かちょっと違う、私が間違っているようで、専門ではないので私よく分からないんですけど、私は素朴にこう思っているんですね。  要するに、日本社会保障費はOECD平均に比べてずっと低いよということですね。これはそのとおり、数字のとおり。だけど、日本社会ってそれなりに回ってきた。何で回ってきたんだろう、何が社会保障的な機能を果たしてきたんだろうということですよね。何かがそこを補っていなければ問題が起こっていたはずなんですけど、大きな意味では問題が起こっていなかった。じゃ何なのかというと、それは公共事業だったんじゃないかと思うんですね。公共事業が、特に地方財政について、経済については言ってみれば雇用確保とかそういう社会保障的な機能を担ってきていた、だから公的なセーフティーネットというのは必ずしもそんなに昔から強くなかったけど、それなりにやれる人が多かったということなんではないか。  今、企業福祉と家族福祉が全体縮小していって貧困が見えてきちゃう中で、やっぱり社会保障費を上げなきゃいけないということは出てくるんだと思うんですけど、その中でもう一つ考えてみたらいいんじゃないかというのは、やっぱり公共事業のそういう社会保障的な性格というのをもうちょっと強めるというようなことはできないものなのかと思っているんですね。例えば、今公共事業は、入札は、例えば人件費に幾ら掛かるよ、それにどんどん部品に幾ら掛かるよという積み上げ方式らしいですけれども、それで全体でこれを受注するためにはこれだけのお金が掛かりますというふうにして入札するそうなんですが、そのときに出てくる人件費って、これ元請の人件費なんですよね。だけど、それは下請、孫請と下りていくうちに、やっぱりどんどん日給五千円とか六千円になっちゃって、結局、地方の工務店の人が孫請で請けるときには、もうそんな余裕ないから、現場で働く人にはもうこれぐらいでやってもらうしかないみたいな感じで最賃すれすれの賃金になっちゃったりする。  だとしたら、もうちょっと現場に下りていくときの、この現場で働く人の賃金はこれだけなんだと、そこにいろいろ積み上げていくようにして公共事業みたいのをやれないか。あるいは、この公共事業というのはそういう意味社会保障的な機能を担っているんだから、例えば地元の人を何%以上雇わなきゃいけないとか、そういうのが公契約条例と言われたりするんだと思うんですけど、そういう要素をいろいろ入れていってそこである程度は支えていくというふうに、もちろんそこからこぼれちゃう人はそれはそれでやらないといけませんが、何かそういうふうにもうちょっと明確にしてもいいんじゃないかということを、私は素人考えですが、素朴に思っているということですね。  そうでないと、何かみんなが公的なセーフティーネットだけで支えるんだというのもやっぱりそれは今までの日本社会の流れからいってもうまくいかないだろうし、でも、かといって、じゃ、今までのままではいかぬし、だとすると、そこら辺のメッセージをもう一回明確に出して、削らなきゃいけない部分ももちろん公共事業の中で出てくると思いますが、そこは分配の仕方を変えて、あとは全体を見直すという意味で、そういうところに手を付けることで社会保障の問題も公共事業の問題と一体的に考えていくみたいなことができないものなのかなと思っているということです。
  11. 藤本祐司

    ○藤本祐司君 例えばバブル経済が壊れてしまった後とか、公共事業のいわゆる経済効果、波及効果というのは非常に高かったということは事実なんだろうと思うんですけれども、果たしてこれがこれから続くのかどうかということはやっぱり考えないといけないのかなと。  ある意味、公共事業は、おっしゃるとおり景気対策を主眼に置いたいわゆる雇用対策の側面がありましたので、それは社会保障的な機能というのは非常に強かったんだろうというふうに思っていますが、逆に、ある意味そこにおんぶにだっこみたいなところがありまして、公共事業をやることで地方経済を活性化するんだという何か神話みたいなところができ上がっちゃって、本来であったらば七〇ぐらいの需要だったものを無理無理一〇〇まで需要を高めて雇用対策なんだと。確かにそのとおりな部分があるので、それをやってきた結果として、例えば産業構造のパラダイムシフトに乗り遅れてしまったという考え方は出てくるんだと思うんですね。  そうなってくると、今、じゃ、こういう状況になったときに、公共事業の経済効果があるかないかというのとは別問題として、産業構造が変わった、あるいはリーディング産業が変わりつつあるといったときに産業間移動が人ができなくなってしまうという、そういう意味での政策の、失敗とまでは言いませんけれども、余りそこのところが手当てできなかったのではないかなというような意味合いで、いわゆる人材育成、中長期的な意味での人材を育成するという視点が欠けていたのではないかなというふうに思うんですけれども。  ちょっとお二人にお聞きしたいんですが、そもそも公共事業は社会保障的機能を持っているからといって、今後やはりこういう、今、湯浅公述人はこの辺をもう少し仕組みを変えていくんだというようなお話があって、確かに下請に行けば行くほど厳しい、要するに利幅なんかほとんどない中でやっていくというような状況でありますので、そこのところの仕組みを変えるということが必要なんだろうと思うんですけれども、地方財政、地方経済という点からも含めまして、ちょっとお二人に、今後もやはりこの意味合い、雇用対策というか公共事業が持つ意味というか、もし分かれば教えていただきたいと思いますが。お二人にです。
  12. 赤井伸郎

    公述人赤井伸郎君) ありがとうございます。  今おっしゃられましたように、確かに公共事業というのは以前はかなり、全国に鉄道網引くなり道路を引くなりということで、それ自体が効果的と。その効果によって更に経済が活性化して雇用が生まれるという循環があったんですけれども、なかなかそれが薄れてきていると。当然今でも重要な部分はあると思うんですけれども。  そういう意味で確かに公共事業というのは雇用対策の面を持っていたんですけれども、そのまま同じ状況を続けていいのかと。そういう危機感から公共事業の削減というのも進んでいると思うんですけれども、先ほどおっしゃられましたように、確かに産業構造の転換ということもありますので、単に雇って、よく言う穴を掘って埋めるだけでいいのかと、そういう時代ではなかなかなかろうということで、同じ公共事業にしてもより効果的なもの、将来に、もちろん経済活性化につながるということですけれども、先ほど湯浅さんからもおっしゃられましたように、人材育成ですね。実際その公共事業を行う上でも、単に労働を使うというわけではなくて、それで労働の機会を与えることが何らかの形でスキルアップにつながって、それが人材育成、さらに社会を活性化していくと、そういうような視点が重要なのではないかと。そういう意味では、公共事業の中身というのを変えながらやっていくということも重要なのではないかというふうに思います。  以上です。
  13. 湯浅誠

    公述人湯浅誠君) ありがとうございます。  全体として公共事業がかなり大きな国だったことは間違いないですから、そこをシフトしていくことはもちろん必要なんだと思うんですが、もちろん、それで全体をある程度圧縮しつつ分配の仕方を変えるということを私はしたらいいじゃないかと思っているんですけれども。  ただ、何というんですか、それで三十年、四十年生きてきた人がいるんですよね、きっと、それぞれの現場でというか地方で。なので、なかなかそこは、もうそういう時代じゃなくなったからといってすっと変えられるかというと、人間ってそういうものでもないので、やっぱりソフトランディングなんだと思うんですね。そのときには、その人たちがやってきたことも受け止めたりあるいは持続させながら徐々に徐々に切り替えていくということがやっぱり必要なんじゃないかなと。  だから、全体としてOECD平均よりかなり高いのは、今でもそうですから、そこは社会保障費を上げる代わりに減らしていくみたいなことは必要になってくるとは思います。それはそうなるだろうと思うんですけれども、そのときに、何というか、そこで生きてきて、道路を造ってきたり橋造ってきた人たちが何か使い捨てられたような、そういうふうにならないような、この持っていた機能をある程度明確にして、それはそれで社会保障的な機能を担わせつつシフトしていくような、今まで日本社会がそうなってきちゃったのはいろいろ問題があったと私も思いますけれども、その事実をある程度踏まえた上で徐々に徐々に転換していく、現実の人間を扱うというのはそういうやり方しかないんじゃないかと思っているということです。
  14. 藤本祐司

    ○藤本祐司君 確かにそういうところがあると思います。私もいろいろ建設業とかの話を聞きますと、公共事業これからこれだけあるぞと、どんどんどんどんやれやれみたいなところがあって、結構事業規模を拡大をしていった。と思ったら、もう公共事業はなくなるよといったら、じゃそこの人たち雇用をどうするんだという問題というのは当然出てくるので、そこのところはやっぱり慎重に考えないといけないということはおっしゃるとおりだというふうに思いますが。  今日の湯浅公述人の、とにかくまず住まいを確保するんだと。ただ、その裏には、先ほどのいわゆる貧困を救うというところから、本来はそこだけではなくて、貧困にならないようにするとか、そこが、よく貧困から脱出するとか、そういうことが本来の目的なんだろうというふうに聞いておりましたけれども、そのために、やっぱり自立をどうやって支援するのかというところに次のステップとしてはあるんだろう。直接、去年の十二月の派遣村の状況、あるいは九月からの世界同時不況の状況を見ると、まずここのところは手当てをしないといけないけれども、やっぱりもっと自立をしていかないといけないと。  その自立支援というのをやっていかないといけないということなんだろうなというふうに思いますが、その自立支援というのも、かつては企業が結構教育訓練などをやって、OJTなどで訓練をしながらやっていったところが、やはり企業任せでもうできなくなってきている状況にあると。  住宅手当だとかいろんなものは、とにかく企業に任せてきた。雇用保険企業が折半して払ってくれるとか、そういった企業丸抱えだったわけですね。これはある意味、従業員は家族であるというようなコンセプトの中で、結局、企業がすべてを担って企業側に依存をしてきたという体質だったと思うんですが、今回の住まいの話を見て分かるとおり、当初は企業側に、とにかくそれを確保して寮を、住まわせてくれという話をしていたけれども、やっぱり企業だけにその責任を持たせてしまうとその企業自体が倒産してしまうということにつながってくるとなると、やはり社会全体というのかな、そこのところでセーフティーネットを張っていかないとならないという、そういう動きに多分なって、今、地方自治体が駄目だから国だというような話になっているんだろうというふうに認識をしておるんですけれども、この社会全体でのセーフティーネット、多分いろんなメニューがあって、いろんなレベルがあると思うんですね。  ここのところでちょっとお聞きしたいんですが、もうこれ地方分権の話とも実はかかわってきて、今の時点では地方自治体にそこまで分権ということで権限も財源も渡っていないという流れの中で、やはり地方自治体に寮なり住宅確保してくれというのはなかなか難しいから国だという話があるんですけれども、これは本来は国がやることなのか、あるいはもう少し広域的な自治体でやることなのか、あるいは今の都道府県レベルなのか、地方自治体、基礎自治体レベルなのか、その辺りをどういうふうにセーフティーネットの考え方をしたらいいのか。  これはメニューによっても多分違うと思うんです。住宅はこうだけれども、さっき言った自立支援、教育は国でやるべきだ、あるいは民間にもっと任せてしまった方がいいという考え方があるんだろうと思うんですが、先ほど赤井公述人も官と民の役割分担という話もありましたので、ちょっとここのところ、セーフティーネットの考え方、それを、各項目であってもいいし、全体であっても構わないと思うんですが、お考えをお聞きしたいと思います。
  15. 赤井伸郎

    公述人赤井伸郎君) ありがとうございます。  そのセーフティーネットの在り方、大きく言うとナショナルミニマムをどこまで国が見るのかという話にもかかわると思うんですけれども、特に地方分権、道州制でも国と地方の役割分担ということが言われていまして、最低限の部分は公平性の観点から確保しないといけないと。その一方で、よりきめ細かなサービスができるのは地方ではないかというようなことですね。  今回でもセーフティーネットというところで国が全国的に、当然国の方が余力があるのでできるということなんですけれども、なかなか地方に任せるとそれができない。それはどうしてなのかという、そういう制度設計の視点が今後重要なのかなというふうに思うんですね。  当然、地方においても、限られた予算だと思うんですけれども、それがもし一番重要であればそこに、ほかの支出を抑えてでもそちらにお金を回しているはずなのに、それが回らない。その理由は何なのかと。それは、バブルのときに発行した借金のツケが回ってきて、それの返済のためにかなりお金を食われるとか、さらに、少し景気が悪くなると一気に財源が減ってしまうとか、そういう安定財源がないとか、その財源の問題であったり、借金の問題であったり、これまでのいろいろな制度の積み重ねがなかなかそれができなくしているということなので、本来、地方が細かいところまで見れればそれを任せれるという段階にあると思うんですけれども、そこまでいっていないので、その将来設計の制度設計の中でそこの分担というのが重要になってくるのではないかなというふうに思います。  以上です。
  16. 湯浅誠

    公述人湯浅誠君) ありがとうございます。  基本的には、今、赤井さんがおっしゃったように、ナショナルミニマムを国が持って、上乗せ部分を自治体に任すということに、やっぱりそれはいろんな分野でそうなるんじゃないかなと思うんですけど、例えば住宅サービスとか、今回のもそうなんですけど、じゃ、これはナショナルミニマムなのかどうかというと、分からなくなっちゃうんですよね。  ナショナルミニマムとやっぱり位置付けられてはいないので、なので、うち自治体がやっているとうちに集まってきちゃうと、そういう話になっちゃうんだと思うんですけど、やっぱりある程度住宅確保、恒久的な住宅じゃなくても、せめて自分民間アパートを探したりできるような条件までつくるような、そういう今回言っているようなシェルターとか、そこまではやっぱりある程度ナショナルミニマムだというふうにして位置付けてやってほしいなというのが私の正直なところですね、形式的な区分がどっちなのかというのは私にはよく分からないですけど。  そうでないと、こういう活動をやっているとつくづく思うんですけど、住民票を失うと本当、ごそっといろんな権利を失うんですよね。それは、何か就職も十分にできないし、様々な公的なサービスにもアクセスできないし、もちろん選挙権もないし、何か社会的に非常に肩身の狭い思いを感じるしということで、非常に、単に寝起きする場所がないという以上のダメージを本人に与えてしまうので、そこはやっぱり国民、市民ですから、そこを支えていくのはある程度ナショナルミニマムだと、立てていただきたいなと思います。
  17. 藤本祐司

    ○藤本祐司君 ありがとうございます。  住まいを確保して、さあ、これから仕事就けれるぞと、就いて仕事ができるぞという、そういう希望がわいてくると、やっぱり人間って大分、今まで仕事にありつけなかったということよりは前向きになってくるんだろうと思うんですが、そういう意味では住居って大変必要だなというふうに思いますが、住居だけではなくて、生活していかなきゃいけませんので、住居があればそれですべて解決するかという問題では恐らくないんだろうということで、短期的な意味合いと中長期的な意味合いをくっつけ合わせながらやはりやっていかないといけないのかなというふうには思っておるんですが。  例えば、よくこういう問題が出てくると最近はスウェーデンだとかデンマークだとかオランダだとかの例がいろんなところで引き合いに出されるわけなんですけれども、まあ一言で北欧というふうに言ってしまうと実は一緒みたいに見えますが、制度が全部違っているわけで、スウェーデンとデンマークなんかはいわゆる雇用を守るか守らないか、要するに解雇ができやすいかできにくいかというところも違ったりするわけですけれども。  実際には、じゃ解雇しやすくなったデンマークというところでは、やっぱり教育訓練というところをいわゆる生活と一緒に見ているということでございますので、多分、教育訓練を受けても今日の食費がままならないんじゃどうしようもないということで、それを一緒に見ていくということになると、教育訓練を受けた人には生活、失業手当みたいなものをきっちり何年間出して、生活をしながら教育を受けられるよと、その代わり教育訓練を受けない人にはそれを出さないよみたいな、そういうような制度というのは多分出てくるのかなというふうには思うんですけれども。  ちょっと時間も足りないのでお二人にお聞きしたいんですが、教育ということを考えたときに、地方でできれば本当はやった方がいいんではないかという考え方、一つあると思うんですが、私、以前ノースカロライナに行って話を聞いて、いわゆるリサーチ・トライアングル・パークですよね、あそこのところでの教育訓練というのは、基本的にはコミュニティーカレッジがベースになってやっていると。その器だけの問題ではなくて、プログラムも、リサーチ・トライアングル・パークの場合、IBMという企業がどんとありますので、その関連産業があって、基本的にIBMと相談しながらプログラムをいつもいつも組んで二年、三年ごとにどんどんどんどん変えていく、そしてそこで使えるというか欲しい人材を生み出していく、そのことによって雇用を創出していくというやり方をやっているわけですので、そういう意味では、その地域に密着したプログラムなり教育訓練の場というものをやっぱりやると結構そこで雇用創出が生まれているということを聞いたことがあるんですね。  そうなってくると、やはり地域密着でやった方がいいのかな、地域の産業構造というのはもう北海道から沖縄まで違うわけですから、そういう地域ごとに考えていくというやり方の教育というのはあるんだろうと思います。  ですから、ちょっとそれについてのお二人の御意見をいただきたいのと、赤井公述人に関しては、ソフトインフラとしての大学というのが、インフラの有効活用ということと、教育に最近関心があるという先ほどお話がございましたので、大学の生かし方ですね。大学といっても四年制大学だけではなくて、大学というか、高等教育機関と言った方がいいんでしょうかね、そちらの活用の仕方、有効活用というところについて、もしお考えがあればお聞かせいただきたいと思います。
  18. 赤井伸郎

    公述人赤井伸郎君) ありがとうございます。  教育についてはまだまだ勉強をし始めたところでなかなかどうあるべきかという結論までは至っていないんですけれども、データが余りないということで研究が進んでいない分野ですので、今後研究する価値があるのかなということで研究をさせていただいているんですけれども。  まだ研究結果というわけではないんですが、個人的な気持ちとしましては、やはり義務教育はある程度国責任を持って、当然ながら義務教育を執行する主体は地域の学校ですので、そこには裁量をある程度与えながら、自由には当然して、先ほど言われましたように、地域密着で、当然自由にはするんですけれども、やはり格差というものができてしまうと、日本全体として、ある地域では当然すばらしい教育がある地域ではなかなかされないというと、そこにはある程度日本人全体として格差というのは容認できないと思いますので、そういう意味では、義務教育は、自由度を当然与えるけれども、最終的な責任は国全体でどのぐらいの格差があるのかを見て、その格差がある場合にはなくすことが重要なのではないかと。  それが中等高等教育までどこまで通用するかということなんですけれども、教育分野の、実際、教育学などをやっていらっしゃる先生方とお話ししますと、国立大学、大学ですね、国立大学が全国にあるのも、当然ながら大学に行く機会を与えるのも、ナショナルミニマム的な国全体としての義務だというふうに言う議論もありまして、ここのところはなかなか難しいんですけれども、大学レベルまで行くと地方がある程度責任を持ってやるとか、国として、大学は全国にあってもいいと思うんですけれども、国立大学、国のお金で維持していく大学というのはある程度選択と集中で、本当に国でしかリスクが取れないような宇宙開発とか、そういう将来的に重要なところの研究を促す機関として集中と選択というのもある程度重要なのかなというふうに思います。なかなかそこは結論には至っていない状況です。  以上です。
  19. 湯浅誠

    公述人湯浅誠君) ありがとうございます。難しいですね。  地域に密着した職業訓練というか、地域を目指した職業訓練ということであれば、やっぱりそれなりに内需拡大されていて、そこが受皿にもなるということが多分前提になるんだろうと思うんですね。輸出用製品作っていて、名古屋でやっていようが長野でやっていようが福岡でやっていようが、それはいきなり海外としかつながっていないということだと何か地域サービスとしての意味はないような気がするので、そうすると内需をどうやって拡大していくか。  そういう産業、先ほどの産業転換にもありますが、そういうのをある程度促していくというようなことを含めてやっていくということになると思うんですけれども、そういう中で、例えば先ほどおっしゃったような職業訓練中の生活保障給付みたいなのは国としてセッティングしながら、個々の科目を地域の実情に応じて選択してもらうというようなやり方とかはあるかなと思います。  ただ、現場で見ていて、そこが、いろいろ今でもそういうのって行われているんですが、職員の人が、余りにもそれがいろいろいろいろ出て、対応できていないんですね、現場の実際にサービスをする人に接する人がですね。それは、例えば今回もハローワークなんかもう典型的ですが、もう次から次へと雇用対策、いろんなサービスが出てきて、ハローワークはただでさえ長蛇の列の中でやっているものだから、その一つ一つ制度を十分かみ砕いて理解する余裕が職員にない。そういうところで間違った説明しちゃったり、こういう説明されたんだけどって我々のところに相談に来ると、間違った説明されていたりするんですけれども。  それは、やっぱりある程度そこでサービスの担い手としての人たちの人員配置とかそういうのもしっかりさせていかないと、何というかな、もちろん地域密着型はいいんですけれども、実際、今東京都なんかで活動していても、今度はそうやって、じゃ、幾つかあるメニューを自分たちで考えて手を挙げてくれたらそれに予算付けるよって言われるんだけれども、結局手が挙がらないという、そこまで考える余裕がないみたいな感じの現場の声とかも聞こえてきたりするので、そういうのは両方見ながら、要するに地方分権とかいろいろ言われていることがナショナルミニマムの解体にならない方向でつくっていっていただければなと思います。  以上です。
  20. 溝手顕正

    委員長溝手顕正君) 公述人に申し上げます。  委員の質問が限られておりますので、できるだけ簡潔にひとつよろしくお願いを。
  21. 市川一朗

    ○市川一朗君 自由民主党の市川一朗でございます。  今日は大変ありがとうございます。持ち時間が限られていますので早速質問に入りたいと思うんでございますが、今、来年度予算を審議中でございまして、与野党いろいろ議論している最中ですから申し述べ方は気を付けなきゃいけないんですけれども、もうこの経済情勢ですから、私は、この予算は税制改正等の関連法案も含めて、とにかく年度内に成立させて、そして確実に実行する、執行してもらうと。それも、今まで例はなかったわけではありませんが、最高のレベルで早期執行、それから大幅前倒し、これをやっていって、そしてその後で次から次といろんな経済対策を打っていかないとこの不況を乗り切るのは容易ではないかなと、こういうふうに思っているわけでございまして。  実は今日はお二人の公述人に、この予算予算として、これから打っていかなきゃならない経済対策について何かお考えがあれば是非お聞きしたいと思っておったんですが、湯浅さんから非常に具体的な話もありましたので、赤井先生にも後でお聞きしたいと思いますけれども、取りあえず湯浅公述人に、非常に具体的な御提案がございました。  これは、おっしゃるように、金額もそれほど大きくはないが、ただかなり急がないと間に合わないという点も深く受け止めまして、普通ですと、急ぐ場合は公共団体が実行していただいて、それを例えば特交とか、特別交付税等で裏打ちするというようなやり方もないわけじゃないと思いますけれども、まあこの部分は一応承りましたのでおいておいて、今早急に手を打たなきゃならないという意味も含めて、何かもう少し具体的なお話はないかなと思うわけです。  といいますのは、今回の問題の背景には派遣労働法の大幅改正というのがあったわけですね。それによって非常に限られた業種で派遣労働が行われていたのが基本的にはあらゆる業種に拡大したと。そこへ、いろいろ言われておりますように、国際競争力といいますか、グローバル化の中で企業もいろいろ競争力強化しなきゃいけないということで人件費のコストダウンも図っていったと。それが正社員から派遣社員あるいは臨時社員という方に移っていったと。  こういう企業サイドの問題もあることはあるんですが、当然御存じだと思いますが、一方、若者を中心として何か余り正社員になりたくないという状況もあるんですね。それにつきましては、やっぱりどうしても余りそういう責任ある仕事には就きたくないとか、趣味で生きる人生を求めたいとかというのもございますけれども、また正社員それ自体で、いわゆるサービス残業を強制されるとか、あるいは職場の非常に拘束の中でストレスがたまってきて耐えられないとか、そういったことで若者にも必ずしも正社員を求めない傾向があると。  これは、私自身は雇用問題に関する究極のセーフティーネットは終身雇用だと思っているんですよね。これがやっぱり一番セーフティーネットだと思っているんですが、しかし、時代が時代で若者も含めてそういう状況であるとすれば、何というんですか、働く在り方について、最近のはやり言葉でいきますとワークスタイルの多様化というんでしょうか、そういったことは避けて通れないとするならば、やっぱりこの際、先ほどもお話出ていましたけれども、きちっとした終身雇用に代わるセーフティーネットをつくっていかなきゃいけないと。  それは赤井公述人がおっしゃる制度設計の話になっていくと思うんですが、取りあえずそういう観点で、今早急にこういうことをやったら有効じゃないかなということについて、思い付きでも結構ですからお願いします。
  22. 湯浅誠

    公述人湯浅誠君) ありがとうございます。簡潔にですよね。  要は、企業の家族の一員であってもなくても生活ができる社会ということだと思うんですね。非正規労働の拡大は何が一番問題だったかというと、非正規労働そのものが問題だったというよりは、非正規労働になったら途端に無権利労働になっちゃった、余り保護されない、どんな目に遭ってもしようがない、細切れ雇用でもしようがないし雇い止めがあってもしようがないというふうになっちゃったところが問題だと思うんです。  一方で、かつて猛烈サラリーマンとかサラリーマン企業戦士とかいろいろ言われましたけど、それは自分は選びたくないなと思う人がいるのはそれも事実だと思います。だけど、そうなったときに、今回のように、じゃこの人は企業の傘に入ってこない人だから、あとはもう企業は面倒見ないと。それはあとは野となれ山となれで、実は、実際そこには何の雇用上のセーフティーネットもなかったということになると、やっぱりそれは今回のような事態を招いてしまうので、その企業内でやっていく人もいるでしょうが、やっぱりその外側に、ある一定の雇用の流動化が進んでその外側がある程度出てきたんだとしたら、そこを渡って生きていく人もいると。じゃ、この人たちの生活は横断的な労働市場とか社会全体で支えていって、そこには、企業自身もその人たちを雇って使うわけですから、非正規であったって、それなりに負担してもらって支えるという、そういう形をつくるしかないんじゃないかと思うんですね。全員が企業の中で正社員で終身雇用だということは、多分いまだかつて一度もなかったと思いますから。  だとすると、今までのような系列というだけではなくて、横に非正規が更に広がってきた中で、個々が生活できるような社会、そんなに高い所得は得られなくてもちゃんと子供も育てられて、子供の将来それなりに楽しみにできてというような、やっぱりそういう社会が方向としては望ましいんではないかと思います。
  23. 市川一朗

    ○市川一朗君 どうもありがとうございます。  関連した質問を赤井公述人にもお聞きしたいんですけれども、実は、私、是非赤井先生にお会いしてみたいなと思っていたことがございまして、日経新聞等で、昨年ですか、いろいろ発表されたのを拝見いたしまして、私自身もいろいろと共感を感じた記憶もあるわけでございますが。  実は、我々参議院は超党派を挙げて、この二院制の中で参議院の特徴を出すためにやっぱり決算重視でいこうということで、かなりもういろいろと積み重ねてきたわけでございます。これからもそれはみんなで取り組んでいくつもりなんですが、まさに決算重視という問題が国の予算とかそういったものにどういった影響を与えるかということについては、我々は、決算を審議することによって次の予算編成に直接的な影響を与えるということが我々の思いなんですね。先生のレジュメの中で、これはガバナンスの視点一に書いてあったと思うんですが、事後的な検証は、事後的な責任を通じて、事前の歳出執行に対し、適正化のインセンティブを付与することができるということで、この言葉は少なくとも我々と考え方一致しているんです。  問題は、そこから先がなかなか難しいんでございますが、我々もその実践の場でそれは積み重ねていきたいと思いますけれども、先生自身、こういった思いで参議院が取り組んでいるということになるとすると、我々の考え方に対するまさに社会科学方法論、マックス・ウェーバーなんですね、先生はね。そういう感じがするんで、もう一度改めて、それならこういうふうにやれよというところがありましたら御指摘いただきたいと思います。
  24. 赤井伸郎

    公述人赤井伸郎君) ありがとうございます。  なかなかどうすればいいのかというのはすぐには難しいと思うんですけれども、やはりインセンティブを与えるということで、事後的に全くチェックされないとなると、どうしても自分のしたいように使ってしまうと。したいように使うのが社会的にも一番望ましいものであればいいんですけれども、なかなかそうはいかないと。事後的なチェックを掛けてそのインセンティブ社会的に価値あるものに変えていくというようなところで、その一番重要な、一番価値があるということで最近取り入れられているのが情報公開というようなところで、公開してだれがチェックするか分からなくても、公開されているということを感じるだけでも何らかの形で適正に使わなければならないというインセンティブが入りますので、それは様々な側面でその公開の仕方とかあると思うんですけれども、そういうものがまず一番重要かなというふうに思います。  以上です。
  25. 市川一朗

    ○市川一朗君 公述人の方も発言時間を制約されているのでなかなか言いにくいと思いますけれども。  実現は不可能だと思いますが、究極的には、我々決算審議で、これは駄目だといったものは次の予算にはのせない、それから、これはいいという場合はそれは予算として執行できるし増やしてもいくと。先生の言うめり張りをはっきり付けていくということになると思いますが、しかし、それにはやっぱり科学的な根拠がないと、本当の意味での、広い意味での国民の納得は得られないと。政治家が党派の、政治の世界で判断しているんじゃないかというやゆもあり得るわけでございまして、そういう意味で、先生の考え方を実現の方向に向かっていけるようになお我々は努力しますので、一層詰めていただきたいと思う次第でございます。  それから、地方分権の問題なんですけれども、要するに、結局格差が生じているし、地方財政は厳しくなってしまいましたね。三位一体をやった、それから修正的な改正もいろいろ、改革もやったんですけれども、結局のところ、例えば交付税を一つ例に取りますと、御案内のとおり、交付税というのは地方財政が困っているときに足すというふうになっていますから、自主財源を増やしていくと、七五%、二五%の差はありますけれども、とにかく自主財源を増やしていくと交付税が減るんですよね。その仕組みはもう基本的にあるわけです。  それから、交付税の財源は何だということでいいますと、それは国税ですから、そうすると、地方分権で権限を移譲し、なおかつ国税の分を地方税に回しますと、その交付税の原資になる金額が減ってくるわけですから、そういう分母が減るという問題もあるわけです。いろいろと難しいので、かといって、交付税のような調整機能をなくしては地方間格差は埋まらない。この辺は先生の先ほどのお話にもございましたし、数々の論文にもその辺指摘されておられて、なかなか難しい問題であるというふうに思っております。  法人事業税を消費税の方に移行したらどうだという検証もなさっておるのも拝見いたしましたが、そういった問題について、しかし、やはり私どもは地方分権は進めなきゃならない、その際に地方格差という問題を克服した、是正した形での地方分権でなければならないというふうに思っているんですが、改めて、先生はどう考えておられるか、お願いします。
  26. 赤井伸郎

    公述人赤井伸郎君) ありがとうございます。  なかなかまさにおっしゃるとおり難しい問題でして、地方財源の充実ということは地方税増やしていくということですけれども、偏在が起きておりますし、特に事業税なんかでいうと都市部に集中していますし、消費税でも幾らかの格差はございますので、充実していきますとやはり格差が生まれてくると。その格差を容認していくのか、その格差をどのように調整していくのか。交付税は足りない部分を埋めるということですので、格差で余ってしまったところはどんどん裕福になっていくわけですね。それで格差という部分が問題視された部分もありますので、その辺りはちょっとなかなか答えは出しにくいので、またじっくりといろいろと議論をしながら考えていかないといけないかなということで。済みません。
  27. 市川一朗

    ○市川一朗君 どうもいろいろありがとうございます。  湯浅公述人、いろいろ聞いておられて、またいろいろお考えがあるんじゃないかなと思いますが、私も先ほど来のお話を聞いていてちょっと思っていることは、この地方格差の問題なんですが、東京独り勝ちなんですよ、今、日本は。これをどうしたらいいか。  これは今に始まったわけじゃなくて、もう何十年来、国土の均衡ある発展というテーマもすべて、三全総でも何でもあれなんです、東京独り勝ちをどうしようかという問題なんですが、先ほどお聞きしましたら、住宅の提供は東京は八十五戸しか提供ができない、あっ、数字違っている。
  28. 湯浅誠

    公述人湯浅誠君) 新たに。
  29. 市川一朗

    ○市川一朗君 新たにね。ああ、そうかと。そういうことであるならば、元々新しい雇用の場として、農村とかそれから山村に期待する面があるというのはいろいろ報道等でもあります。  しかし、実際に若者が本当に行ってくれるか、定住してくれるかというためには、しっかりとしたそういう受入れ体制、それから研修、そういったことをきちっと、それもある程度腰を据えてやらなきゃいけないと。それを我々は今実は考えているんですけれども、この際、この機会に東京独り勝ちを変えることができるかもしれないなというふうに思ったわけですが、若者は行きますかね、地方に。
  30. 湯浅誠

    公述人湯浅誠君) ありがとうございます。  基本的にミスマッチ論というやつですよね。私、ミスマッチ論については、多分少子化と同じような発想で考えたらいいんじゃないかと思っているんですけれども、つまり、子供どんどんどんどん減ってきている、産まなくなってきていますよね。でも、あれは、じゃあその気になれば産めるだろうって幾ら言われても、でもやっぱり産まないですよね。それはやっぱり何でかというと、産んで、その子供を育てて、やっぱりその後将来が開けるような、産みたくなるような社会じゃないと、どれだけその気になれば産めるだろう、頑張ってみなさいと言われても、やっぱり人間だから、そこはやっぱりそういうふうになると思うんです。  だから、ミスマッチ論も、私、産業転換必要だと思います。地方に行く、そうやって介護や農業などに移るのはいいと思うので、行きたくなるような職に是非していただきたいということですね。そんなぜいたく言わずに行けよと言っても、やっぱり現実は人間なので、そこはなかなかそうすっとは動かない。それは子供と同じだと思いますから、やっぱり行きたくなるような職になれば自然と人は動く。そこは、何というか、人間を扱うのが政治のお仕事だと思うので、やっぱりそういうふうなところで仕組みをつくっていただけたらと思っています。  あと、ごめんなさい、さっき取りあえず緊急でできることという御質問されていたのに、ちょっとほかのところに引っかかっちゃって別な話になっちゃったので、緊急な話で幾つかいいですか。──手短にやります。いいですか、手短にやります。  まず、是非情報提供していただきたいということがあります。つまり、例えば周辺家賃相場と同じぐらいの家賃を取っていたら、これは賃貸借契約なので簡単には追い出しちゃいけないよというような、要するに一般のアパート賃貸と変わらないよというような最高裁判決ってあるんですね。ところが、こういうことを本人が知らない。なので、会社からもうリミットだから出ていってねと言われたら、そんなものだろうと。要するに、会社寮と聞いた途端に福利厚生だ、だからメンバーシップを失ったら寮も出ていかなきゃいけないんだという一般のイメージにやっぱり足をすくわれちゃうんですね。  なので、今までの発想は、基本的には会社というのはコンプライアンスを守っているはずのものだから、違反があったときは労働局や労働基準監督署に言ってきてくれれば対処しますよということなんですが、今やっぱり大量に切られている、寮を追われている人たちは実際にそのことをきちんと情報提供されていません。なので、これは何か一人一人にやっぱり十分な情報提供を直接にやる必要があると思います。その直接にやるというのは、例えば国がパンフレットを十万部刷りました、いろんなところに置いておきますからどうぞ取りに来てくださいというふうにやるとか、そういうようなことは是非やっていただきたいと思います。  それから、あと、寮の住まいの話に集中しちゃいましたけれども、先ほど言った中には緊急告知の話にも出ています。短期で借りられるような、そういうつなぎつなぎですね。就職安定資金付けも、今ちょうど与野党で調整に入ったという基金ですか、雇用保険を受けられない人たちの、その話もそこに行くまでのつなぎが必要になります。それを何とかつなぎつなぎを活用できるようにしていただきたい。そのためには要件緩和は是非必要です。
  31. 市川一朗

    ○市川一朗君 どうもありがとうございました。  赤井公述人にもいろいろ予算のことでお聞きしたいと思ったのでございますが、時間が来ましたので、また後ほどよろしくお願い申し上げます。  ありがとうございました。
  32. 加藤修一

    ○加藤修一君 公明党の加藤修一でございます。  今日は、湯浅公述人赤井公述人、大変ありがとうございます。とりわけ、湯浅公述人からは極めて深刻な具体的なリアルな話を聞けて、非常に価値的な思いでおります。  それで、労働者派遣法の関係も、湯浅公述人は、七ページだったでしょうか、その改正の関係について若干触れられているわけですけれども、現在衆議院の方で趣旨説明は終わりましたが、まだ審議に入っていないと、野党から対案が出てくるということでありますので、その両者併せてしっかりと審議していくという、そういう方向であるようでございます。  我々も様々な団体からヒアリングをしておりまして、特にこの労働者派遣法の関係で製造派遣の禁止という点でございますけれども、これは湯浅公述人にお願いしたいわけでありますけれども、反対ということも中にはございます。その反対の理由として、海外への生産シフトが懸念される、あるいは労働者の働き方の多様なニーズに制限が掛かる、あるいはさらに経済が復調した際の雇用機会の喪失につながる懸念を挙げているわけでありますけれども、これについては湯浅さんはどのようにお感じになりますか。
  33. 湯浅誠

    公述人湯浅誠君) ありがとうございます。  そういうふうに言われている意見がいろいろあるのは承知しています。ただ、私、労働者派遣法については、基本的な問題は、雇用先の雇用責任を明確にするということをちゃんとやっていくというその構造の問題をいじらないと、例えば日雇派遣を禁止する、製造業が今度問題になったから製造業派遣を禁止する、そこの話だけでは、構造そのものが手を付けられないので、そうすると、結局、今派遣労働者の平均賃金もずっと下がり続けていますけれども、このダンピングに歯止めが掛からないので、結局、次はまた別の業種で問題が起こるだろうというふうに思うので、大事なことは、派遣元と派遣先が商取引関係になっていて、そこが要するに人間の雇用責任派遣先が負わないというところに一番の問題があるところですから、そこを何らかの形できちんと対応する。そういう中で、製造業派遣は私は禁止に賛成ですけれども、そういう問題にもいじっていくということに、その順序が必要なんだと思います。そうでないと、より劣悪な形態にどんどん移行していってしまう。それは結局、個々の業種を止めても構造をいじらない限り全体の地盤沈下の歯止めにならないだろうということです。
  34. 加藤修一

    ○加藤修一君 配付資料の四ページには具体的な賃金の関係を含めて出ているわけでありますけれども、手取りが相当低くなってしまうという話で、この関係ではマージン率をどう具体的にされているのか、相当大きく取っているんではないかと、そういった話があるわけでありますけれども。  様々な議論の中でマージン率の上限規制ということについても議論がされているわけでありますけれども、これについては反対という意見の中の理由としては、適正なコンプライアンスを行うための費用を考えるとやはり一五%以上の原価を伴うと、そういう言い方がされておりまして、通常時は適正に運用している派遣会社の経常利益率は二から三%で決して暴利ではないと、こういうことから、やはり上限の規制というのは加えるべきではないという、そういう意見もあるわけで、この辺についてはどのようにお考えですか。
  35. 湯浅誠

    公述人湯浅誠君) ありがとうございます。  私が自分で働いた日雇派遣会社は四二%取っていたんですね。ですから、上限というのは、例えば、別に五%にしろ六%にしろという話ではなくて、やっぱりある程度、今のお話であれば、例えば一五%がぎりぎりなんだというのであれば二〇%にとどめるとか、そういうことはあってもいいんじゃないかと思います。  ただ、例えば四ページの表に言及していただいたのでちょっとあれなんですが、何でこんなに寮費が高いかなんですよね。それは、つまり利ざやがどんどんどんどん、要するに人材派遣会社って派遣先に対して弱い立場ですから、どんどんダンピングしなきゃいけなくて、もう労賃からは取れない。そういう中で、ほかから吸い上げないといけないから、だから寮費からも利益を上げるとか、いろんな名目で利益を上げないともたないというふうになっていっちゃう。それは、例えば労賃のマージン率を、上限決めたらそういうことがなくなるのかといったら、なくならないですね。  なので、要するに、先ほど構造の問題だと申し上げましたけれども、そういう全体の、生活全体から、何かいろんなところから吸い上げられちゃうみたいな構造を見ないと、そこも結局、マージンだけの話にしてはいけないんではないかと思っています。
  36. 加藤修一

    ○加藤修一君 報道によれば、政府は麻生首相の下に経済危機克服のための有識者会合を新設するということで、たしか湯浅公述人も呼ばれているように聞いておりますけれども、総理に向かって何が一番言いたいですかね。お願いいたします。
  37. 湯浅誠

    公述人湯浅誠君) ありがとうございます。  あれは三分らしいんですね。
  38. 加藤修一

    ○加藤修一君 三分。十分じゃないですか。
  39. 湯浅誠

    公述人湯浅誠君) ええ、三分と聞きました。なので、もうほとんど一発芸の世界なので、三分で何を言えるかと。私、今日話したこれを言うつもりです。とにかく、四月、五月でやってくれと。  私は現場でやっていて、今とにかく一人一人の住居確保するのがとても大変なんですね、役所に行ってもお手上げだと言われちゃうので、でも、本人は生きていけなくなっちゃっていますから、その住居一つ一つ確保していく作業が現場ではとても大変です。これをやっぱりちゃんと、じゃお願いしますといってその人が次の生活を築けるように、我々みたいなボランティア団体でそんないっぱいできませんからということで、とにかくそこの仕組みをつくっていただきたいということを三分ですからお願いしてくるつもりです。
  40. 加藤修一

    ○加藤修一君 それでは、赤井公述人にお願いしたいと思いますけれども、追加的な経済対策を懸命に政府はやっていかなければいけないという、そういう報道もあるわけでありますけれども、私は資源枯渇の問題というのは極めて重要であると思っていまして、少資源国と言われる日本にとって資源の枯渇というのは極めて深刻な事態であるというふうに考えざるを得ないと。外需で海外貿易で懸命になって稼いだ国富が、海外から購入している資源価格の高騰によりまして国内の国富が全部外に抜けてしまうと。そういったことを考えてまいりますと、やはりそういうことに対する対応を少しでも取っていくことが極めて重要であると、そういうふうに思います。  今後とも資源価格の高騰は十分あり得る話でありまして、資源外交もそれはそれで当然でありますけれども、やはり循環型社会をどうつくるかとか、あるいはさらに未利用資源、これは国内にある未利用資源をどういうふうに活用するかというのは極めて重要で、例えば日本は世界の人工林の十二分の一あるわけでありますから、こういう森林資源をうまくどう使うかということもありますし、あるいはバイオエタノールをこういう森林化学工業から作っていくことも十分可能であると。あるいはさらには、日本は海洋資源ということを考えていきますと、排他的経済水域も当然あります。そういったところの海洋資源からバイオ燃料を取ることも可能であるというふうに言われております。  それがガソリンの全体の一割に相当するという話もあったり、それ以外に都市鉱山の関係があったり、こういった面についてはやはり中長期的に検討していかなければいけない問題だと思いますけれども、行政のいわゆる適正な資源の配分、こういった面から考えた場合には、やはり私は非常にここに配分をかなり重点的にやっていくことは極めて重要だと、そういうふうに考えておりますけれども、その辺についての御見解をお願いいたします。
  41. 赤井伸郎

    公述人赤井伸郎君) ありがとうございます。  確かに資源エネルギー政策、重要だと思うんですけれども、その部分に関して余り研究をしておりませんので詳しくはないんですけれども、やはり長期的に経済が持続していくために何が重要なのかという視点からその部分をより深めていくことは重要かなというふうに私も、個人的ですけれども、思っています。  そのときにもやはり、選択と集中といいますか、何が重要なのかを見極めて限られた予算の中でそこに集中投資していく、先ほどの決算ではありませんけれども、それをきちっとどのぐらい効果があったのかを検証していくというような、そういう制度設計が重要なのではないかなというふうに思います。ありがとうございます。
  42. 加藤修一

    ○加藤修一君 ありがとうございます。
  43. 大門実紀史

    大門実紀史君 日本共産党の大門実紀史でございます。  湯浅公述人にお伺いいたします。  まず、湯浅さんとか宇都宮健児弁護士さん、そして労働組合の皆さんが年末頑張られた派遣村、あれが国会にといいますか政治に大きな示唆を与えた、大きな影響力を与えられたということをまず心から敬意を表しておきたいというふうに思います。  私自身は、宇都宮先生とは多重債務、クレサラ問題で、自民党の後藤田正純衆議院議員なんかも一緒でしたけれども、みんなでクレサラ問題やって、結局、多重債務の根底にあるのが貧困問題だと、貧困をなくさなきゃいけないということで、宇都宮先生始め弁護士の皆さん中心に反貧困問題やろうとなって、それと湯浅さんたちがやっていらっしゃるホームレスとか貧困の問題、この流れが一つになって大きな反貧困の運動になってきたんだというふうに思っておるところでございます。その最初のころに湯浅さんともお会いしたことがございますが、非常に現実的な提案を今日もしていただいてありがとうございます。  私の方も具体的なことを今日はお聞きしたいと思いますけれども、湯浅さんの資料の十ページのところの右の上の方に書いてございますが、雇用保険機能の強化と。まさに今、国会で、衆議院の方で今改正案が審議に入っておりますし、我が党も我が党なりに保険料の納付期間の問題とか給付日数の問題で修正提案もしているところですけれども、この枠の中でもう少し、ちょうど今焦点になっておりますので、どういうことを要望されているのか、余り時間気にしなくて結構ですから、教えていただけますか。
  44. 湯浅誠

    公述人湯浅誠君) ありがとうございます。  雇用保険についてはいっぱいあると思うんですね、制度面の手直しの問題もあるし、運用の手直しの問題もあるし。  とにかく、この間、派遣切りなんかで現場で今深刻になっているのは、派遣切りというからには会社都合だと思ったら自己都合のを発行されちゃう人が結構いるとか、また、会社都合のが欲しいんだったら一月待てと言われて、しかも、会社都合の離職票をもらって、そこから登録して、登録というかハローワーク行ってからまた雇用保険説明会があってそれから支給ですから、結局二か月ぐらいかかっちゃう。そういう問題をじゃどう、その間をどうやって生活するかとか、そういうことが運用面でも山積みだと感じますが。  基本的に、私は前から言っているのは、有期雇用期間と雇用保険の整合性を基本的には取ってほしいというふうに言っていて、例えば、今回、一年以上だった雇用見込みから六か月以上までは雇用保険の対象にしますという改正になっておりますが、一方で、日雇派遣については、一か月以上なら、禁止して一か月以上の雇用を認める、あるいは二か月以上を認めるということになっている。そうすると、二か月以上、一か月以上の有期雇用は認めるけれども、でも雇用保険の加入資格は六か月以上だよということになればここが落ちてしまうと。だったらば、六か月以上の雇用に対して雇用保険も認めない、六か月以上でないと認めないというんだったら有期雇用も六か月以上にしてくれと、一か月以上のものを認めるんだったら一か月から入れるようにしてくれと。  やっぱり、そうやって継ぎ目ない状態にしていかないと、結局現実的には人が漏れていっちゃうんですよね。そこはそういうふうな形で整合性を取っていただきたいと思っていますし、自己都合にしろ会社都合にしろ、実際にそこまでたどり着けない現実がありますから、そこをつなぐものを解雇時に早急に出すのと同時に、それでもそこまで行き着かない状態を解消するためのつなぎ融資、やっぱりそれはつなぎ融資ということになるんだと思うんですが、そういうのも開発してもらいたい。そうでないと、もちろんある程度の人はそこで支えられるでしょうが、そこで支えられない人というのが確実に出てきてしまうということになります。  あとは、雇用保険そのもののトランポリン的な機能を持たすと。これは既にもういろいろ言われていることだと思いますけれども、そこから職業訓練を受けて次のステップに至るということですね。  ただ、私、このときに重要なのは、きちんと資格が評価されるようなある程度の強制的な規制を掛けていかないと、結局、何の資格を取ったかんの資格を取ったといっても、雇う側がそれを評価してくれなければゼロと一緒だということになると、取った資格の強制力がないんですよね。なので、それだと、結局職業訓練校でいろんな資格を身に付けましたけれども、結局働いてみたら全く資格持っていない人と同じ賃金でしたということであれば、やっぱりそれは何か頑張って取ろうという気にならないのが普通なので、職業訓練を充実させると同時に、それがきちんと評価される仕組みですね、労働市場の中で、そういうのを同時に組み立てていってもらいたいと思っています。  雇用保険以外のことにもだから当然影響しちゃうと思うんですが、今言ったような、雇用保険については基本的な発想はそういうことで。
  45. 大門実紀史

    大門実紀史君 もう余り時間がないんですけれども、もう一つ湯浅さんと一緒にちょっと取り組んだことがございますけれども、生活保護の問題で、制度と現状でこの機会に言っておきたいことがあれば発言してもらえればと思います。
  46. 湯浅誠

    公述人湯浅誠君) ありがとうございます。  私、この間厚労省の方と、事務方の方と会ってびっくりしたのは、さっきも触れましたけれども、申請は受け付ける、水際作戦はやらない、だけど、その間、住居のない人に住居確保するのは国の責任じゃないよと。一か月、決定のときに住居確保できていなければ、それは支給はできないよと。つまり、自分確保してきなさい、自分で見付けられなかったらそれはもう受けられなくてもしようがないんだ。しようがないんだとは言いませんでした。だけど、それは、その状態が好ましいとは思っていませんと。じゃどうするんですかと言ったら、社協の緊急小口付け使ってくれればいいんだと言うんですけれども、これは使えないんですよという話をしたら、えっ、使えないんですかという顔をそのとき初めてしたことに私はショックを受けたんですね。つまり、知られていない、実態が分かっていない。  そういうところで、生活保護みたいな最後のセーフティーネットが、そこからも漏れる人をつくっちゃって、それを厚労省がしようがないみたいなことを言うのは極めてまずいと思います。  私、厚労省の事務方の人がああいうことを言うのを聞いたのは初めてなんですね。なので、そこはさすがに、ちょっと考え方を直す、何とかつないでいけるような仕組みをつくるという方向に持っていかないと、今後非常に、何かそこからほつれていってえらいことになっていくんじゃないかという気がしていて、それはもう一度国のナショナルミニマムの責任というところを思い起こしていただきたいと思うので、それは厚労省に働きかけていただければと思います。
  47. 大門実紀史

    大門実紀史君 赤井公述人、失礼いたしました。  終わります。
  48. 福島みずほ

    福島みずほ君 社民党の福島みずほです。  今日は御両人、公述人、本当にありがとうございます。  湯浅参考人に、この間、ホームレス、それから生活保護、それから自由と生存のメーデーももう三年になりますが、派遣村を始め果敢な、みんなとネットワークを組みながらやっている活動に心から敬意を表し、国会の中で頑張ってきましたが、やはり派遣村は貧困派遣切りを可視化したという点が非常に大きな功績があるというふうに思っています。  まず第一点目、二〇〇九年三月までにやるべきことで、シェルターと総合相談窓口開設で、実はこれ国会で厚労省政府に迫っています。厚労省は設置していますと言うんですが、総合相談窓口のイメージが違う。こちらは派遣村のような形で、国とそれから自治体と、それからできれば弁護士的なサービスやいろんな就職支援も含めてもっと総合的にやってほしいという、これがどうも伝わらないんですが、三月までにやるべきこと、総合相談窓口開設について、これをつくれというのを一言お願いします。
  49. 湯浅誠

    公述人湯浅誠君) ありがとうございます。  おっしゃるように、今やっているのはハローワークの職員住宅相談もやってもらうということなんですけど、さっき言ったように無理があります。ハローワークの職員の人というのは仕事を紹介するプロですが、住宅の話やれって言われてもそんなに上手にできないんですね。なので、それは職業の、就職の話、あるいは生活の話、住宅の話というのが、やっぱり縦割りを超えてつくらないといけないということなんだと思います。  それは私は、今回のような派遣村対応みたいなだけじゃなくて、一般の住民サービスとしてやっていけばいいと思うんですね。月に一回公民館にそういう窓口が回ってくるということになれば、住民の人はそこに行けば、高齢の方とか全部一度で済むんだから助かるはずなんですね。ところが今は、あれは、その話は五階に行きなさい、その話は別庁舎だ、その話は一階に行ってってやられるから疲れちゃうんで、それは別に今回のことだけじゃなくて、そういう一般サービスに拡大していく方向で、前向きに建設的に考えてもらえないものかと思っています。
  50. 福島みずほ

    福島みずほ君 三月までにやるべきことというのが国会にも振り向けられているので、頑張ってやっていきます。  二点目は、住宅の件をおっしゃったんですが、雇用促進住宅に関して、社民党は半年間、一年間、これを開放せよと、いろんなところを、愛知、東京を見に行き、廃止決定をした雇用促進住宅も開放せよと、最後はそこまで行きました。  国がある程度そういうストックを持っていることは実は重要で、官から民へと全部、かんぽの宿じゃないが、売り飛ばしていくことには社民党は反対なんですが、雇用促進住宅などストックをちゃんと持っておくべきだ、私は廃止決定したものもちょっとそれ見直せというぐらい思っているんですが、いかがでしょうか。
  51. 湯浅誠

    公述人湯浅誠君) ありがとうございます。  雇用促進住宅の廃止決定分三万戸の活用については、去年末に舛添大臣がおっしゃられていましたよね。あれどうなったんですかね。
  52. 福島みずほ

    福島みずほ君 いや、一応開放しています。
  53. 湯浅誠

    公述人湯浅誠君) ああ、そうですか、はい。まだ使われ始めていないですが。  雇用促進住宅って、元々は炭坑閉鎖の中で、炭坑で働いていた人たち雇用を流動化していくための受皿ですよね。今それ以上の大規模に雇用の流動化が進んでいる中で、私は増設の話が出たっていいぐらいだと思っています。だって、人はどんどんどんどん移っているのに、会社寮しかない、高い家賃取られて、結局不況になったらぽんと捨てられる、それでは雇用も促進されない、生活の再建にも資さないですよね。別に雇用促進住宅を増やさなくてもいいと思いますけど、そういうふうなところでの住宅の流動化に合わせた形、対応できる形、それは何らかの形でつくってくれないと、雇用促進住宅がそもそも何のためにできたのかという趣旨も含めて考え起こしてみてもいいんじゃないかと思います。
  54. 福島みずほ

    福島みずほ君 企業社会責任について一言教えてください。
  55. 湯浅誠

    公述人湯浅誠君) ありがとうございます。  企業は私は社会のものだと思います。社会に資するからこそ存在を認められ、様々な税制上の優遇も受けながら、雇用を創出し、良質な商品を安く提供する、そういう役割を果たすからこそ社会の中に位置がある。それはもう社会責任があるということであって、企業社会責任がないって言っちゃったら、それはじゃ社会と敵対する存在なんですかということになりますから、そんなことであるはずがない。それに、日本の経営者の人たちも多くはそんなふうに思っているはずがないと思っています。
  56. 福島みずほ

    福島みずほ君 論文の中で、社会保障が最大の景気対策とインタビューなどで答えていらっしゃることに非常に感銘を受けています。  雇用保険は、つい最近、二千二百億円社会保障費カットの中で、半年間働いていたらいいものを、一年間働き続けなければ駄目だと、取りにくくしちゃったんですね。今度また、それはやっぱり駄目だということで見直すことになったんですが、この社会保障のセーフティーネットをこの十年間たたき壊してきたことという責任も大きいと思います。また、長期的に見ても、あるべき社会というのは社会保障、これは景気対策、内需拡大にもつながると思いますが、その点について御意見をお聞かせください。
  57. 湯浅誠

    公述人湯浅誠君) ありがとうございます。  私は、根本にあるのはセーフティーネットお荷物論だと言っているんですけれども、セーフティーネットというのは社会に対してお荷物なんだというイメージですね。だから、あんなのはない方が、本当はない方がいいんだと。だけど、実際にはこぼれちゃう、努力しない、頑張らない人たちがいるので、でもそれを死なすわけにいかないからしようがないよねと。でも、このしようがないものはない方が、むしろ本当はない方がいいんだという、何か社会にとってのお荷物だという発想を転換していくことが必要だと。そういうふうに、社会全体もそうだし、政治もそれを転換していかないと、今後ある程度社会保障を積み上げていこうというときに、何かどうしてもその気になれないという感じがします。  やっぱり、セーフティーネットというのは、それがあって初めて労働市場の下げ止まりも止まる、底抜けに歯止めを掛ける。例えばそれは、生活保護基準と最低賃金が連動するようになりましたけれども、あれに象徴されているように、生活保護基準が下がれば最低賃金下がったって最低生活費満たしていることになっちゃいますから、ある程度やっぱりそれを上げることによって労働市場の質も保たれる。それは、介護報酬が減らされていけば介護労働者の労働条件は悪くなる、そういうのと同じですね。  そういう意味で、セーフティーネットというのは、社会を健全に回すために、人々が生き生きと生きていくために必要な必要経費なんだというふうな発想にやっぱり社会が切り替わっていく、そこからいろんなものが積み上がっていく、具体的な政策が積み上がっていくんだと思うので、その転換を私は社会的に働きかけたいし、政治の分野でも働きかけていただければと思います。  以上です。
  58. 福島みずほ

    福島みずほ君 終わります。  赤井公述人、ちょっと時間が少なくて済みませんでした。
  59. 荒井広幸

    ○荒井広幸君 荒井でございます。  赤井参考人にお尋ねします。長い間、時間、申し訳ありませんが。  レベニュー債ですね、地域ごとに事業目的を立てて、それに住民含めて広くお金を集める。一番今、財源問題、非常に重要なところに来ております。これからどんどん追加の、あるいは厚みのある不況そして雇用対策をやっていくというときに、財源必ず問題になるわけで、冒頭お話がありましたけれども、レベニュー債、これを地域でどのように取り入れていったらいいか、意味があるかどうか、この辺についてお尋ねします。
  60. 赤井伸郎

    公述人赤井伸郎君) ありがとうございます。  道州制、地方分権の流れの中で、より住民が参加してその事業自体をどのように行っていくのかという流れの中で、海外ではよく取り入れられているんですけれども、レベニュー債というのを少し考えているというのを記事にも書かせていただいているんですけれども。  今、PFIというものがありまして、それも一種のレベニューというか、事業の採算性を取り入れた公共プロジェクトということであるんですけれども、どうしても契約がまだ十分、あいまいであったり、出している出し手が企業であったりということで住民との接点が余りないと。それで、レベニュー債というような形で実際、公共インフラというものを地域で支えていくんだと。  地域が、当然ながら、それは必ずしもすべてするというわけではなくて、住民にその価値があるのかというのを問うて、その価値があれば当然お金が集まるわけですので、現在、市場公募債というのはありますけれども、お金が完全にその事業にリンクしているわけではありませんので、そこがあいまいになっていますので、その部分で価値があるのかなというふうに思っています。  以上です。
  61. 荒井広幸

    ○荒井広幸君 確かに、そういうこと有意義だと思うんですね。  私、今考えているのはまさに市場公募債と同じで、環境に善意の気持ちがあって多少余裕がある、税金以外に協力したい、まあ温かいお金の流れということを私言っているんですが、それは決してそれで事業の元手が取れるものではないんですね。  しかし、そういうお金の集め方というのはあるだろうというようなことを考えておりましたので、地域にとっても一つの事業、住民の意思で形作っていく事業、それについて自分たちが参加して、そしてちゃんと透明性で回っていく、それで返済もできると、こういうことは大変有意義だと思いますので、赤井参考人の記事を読んでおりまして、大変勉強になっていたところでございます。  それから、湯浅参考人さんには御苦労さまです。相談役でいろいろ御苦労もあると思いますけれども、おねぎらいを申し上げます。  私も三分芸でございまして、短い時間しかないので私も三分芸だなと、このように思ったんですが。  こういうお話が時々出るんです。本当にもう理不尽な形で切られちゃって行くところがない、本当に気の毒だと、親族とか家族はどうなっているのかなというのが常に出てくる話なんですね。これは、政治も含めて、ある意味で人間社会一つの、恐らく先進国と言われるところの課題であろうと思うんですが、家族とか親族とか血縁、地縁ですね。昔は社縁というのがあったのかもしれませんが、それが全く機能していないわけですけれども。血縁とか地縁、こういったものをどのように考えていらっしゃいますか、ちょっと広い意味でございますけれども。
  62. 湯浅誠

    公述人湯浅誠君) ありがとうございます。  家族福祉が縮小してきちゃったという話をしましたけど、まず、先ほどの二月の雇用統計の十五万八千人という、例えば製造業ですね、あのうちの九割とかもうちょっとの人は、それは何らかのまだ家族とのつながりが残っていて、帰れる場所があったりするとは思うんですね。ちょっと分からないですよ、分からないですが、それぐらいはやっぱりあるんじゃないかと思っています。  だけど、やっぱりそこは、例えばもう両親がそもそもいないとか、あるいはもう高齢化しちゃってとてもじゃないが頼れないとか、別に人間関係が悪くなくても頼りようがないという人はやっぱり一定いて、あとは、そういう中で家族とうまくいかないというようなことがある人もやっぱり相当数いるだろうと。  そういう中で、やっぱり地縁、血縁、ずっとこの間、地方経済の疲弊もそうですが、やっぱり壊れてきちゃった、あるいは壊されてきたような面があると思うわけです、地方商店街のシャッター通り化とかですね。  そういうふうな面もあるけれども、他方で、じゃ今から何ができるかと考えたら、やっぱり私は、地縁、血縁以外の有志の居場所みたいなのも同時につくっていって、やっぱりリセットできる関係をつくっていく。ただ家族ともめていてうまくいかないのであれば、それをリセットしながらまた戻っていくとか、そういうふうにして家族の負担を余り重くさせ過ぎないようにしながら、回復とかそういうのをつなぎ直していく、紡ぎ直していくということは考えてもいいんじゃないかと思います。ただ、全体として力が弱くなってきているのは、これは否めないかなと。
  63. 荒井広幸

    ○荒井広幸君 そういう力をみんなでどのようにかしてお互いに助け合いながら戻していきたいと、このように思っているんですが。  もう一つは、先ほどの雇用促進住宅ですけれども、福島先生からもお話がありましたが、昨日、厚労大臣が、六月までに、あるいは二十三年までに三分の一のものをこれを譲渡、廃止するというところなんです。そこに一千人の方が今お住まいになっているんですよ、急遽。それは、平成二十三年までにというところの中期目標がありますので、それを削除するところに入ったということですから、それは当座御心配ございません。  ただ、これは、小泉内閣のときのいわゆる行革推進法などを基にした、こういうセーフティーネットとか弱者に対しての配慮というよりも、アメリカ型の強者をつくっていくことによって、その人たちが施しを結果受ける的な、そういうつくりなんです。それはやっぱり非常に、先ほどの助け合いとか家族とか、そういうものまで壊していく、金で金を生んでくるわけですから。これは今はっきりしてきているわけです。  やっぱりそういうところを含めて、今、麻生総理も舛添さんもそこを見直すということをやってきていますので、そういう意味では大きな方向転換をしていくべきだ、有事対応、弱者配慮、地方配慮をしていくべきだと、こう考えているわけです。  ありがとうございました。
  64. 溝手顕正

    委員長溝手顕正君) 以上で公述人に対する質疑は終了いたしました。  この際、公述人の方々に一言お礼を申し上げます。  本日は、有益な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼申し上げます。  午後一時に再開することとし、休憩いたします。    午後零時十一分休憩      ─────・─────    午後一時開会
  65. 溝手顕正

    委員長溝手顕正君) ただいまから予算委員会公聴会を再開いたします。  休憩前に引き続き、平成二十一年度予算三案につきまして、公述人の方々から御意見を伺います。  この際、公述人の方々に一言ごあいさつ申し上げます。  本日は、御多忙中のところ本委員会に御出席を賜りまして、誠にありがとうございます。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。  本日は、平成二十一年度予算三案につきましてお二方から忌憚のない御意見を拝聴し、今後の審査の参考にしたいと存じますので、どうかよろしくお願い申し上げます。  次に、会議の進め方について申し上げます。  まず、お一人二十分程度で御意見をお述べいただいた後、委員の質疑にお答え願いたいと存じます。  委員の質疑時間は限られておりますので、どうか答弁は簡潔にお願いをいたしたいと思います。  それでは、まず行政改革につきまして、公述人北海道大学大学院法学研究科教授山口二郎君の御意見を伺います。山口公述人
  66. 山口二郎

    公述人(山口二郎君) 山口でございます。  今日は、こういう機会を与えていただきまして、まずお礼を申し上げます。  私は、行政学、日本の官僚機構について勉強してまいりましたので、全般的な政策決定の在り方について意見を申し上げたいと思います。あとはお手元のレジュメ、資料に沿いましてお話をいたします。  二月の中旬にちょっとアメリカに行ってまいりました。ちょうどオバマ政権の最初の課題であります経済対策法案の議会審議をしている真っ最中でありました。そこでの議論を聞いておりまして、日本人として誠に情けないというか、ある意味では興味深い議論を目撃いたしました。  そこにありますように、オバマ大統領は日本の経済対策はツーリトル・ツーレートであったゆえに我々はその轍を踏まないと言って、日本円にして数十兆円単位の大規模な財政出動を行うということを主張いたしました。これに対して野党共和党の方は、一九九〇年代の日本の景気刺激策は財政赤字を増やしただけで効果がなかったと。要するに、大統領も野党共和党も両方とも日本のことを引き合いに出しまして、自分たち日本と違うんだということを一生懸命言っていたわけであります。誠に日本人としては悲しい思いをしたわけであります。この二つの主張というのは、ぶつかっているようで実はある事実の側面をついているわけであります。  そこで、バブル崩壊以後、一九九〇年代の政策決定の教訓をここで振り返ってみたいと思います。なぜ赤字を増やすだけで効果が薄かったのか。私は次のようなからくりがあったと考えております。  まず、当時の大蔵省は表面的な健全財政主義に固執しておりました。当初予算においては規模を抑制する、要するに財布のひもを締めて格好だけ健全財政をしこうとするわけであります。しかしながら、実際に年度の途中で経済情勢が悪化をしてくるということになりますと、補正予算によって景気対策を行うということが決められます。  補正予算というのは、やはり年度の途中で作るものですから時間が限られておりますし、特に総枠、例えば十兆とか二十兆とかというその外枠が決まりますと中身を埋めるのが大変な作業になってまいります。そういたしますと、当初予算でおっこちたような筋の悪い案件にどんどん金が付くということになります。要するに中身は問わない、ともかく予算を使えということで、予算消化がそれ自体として目的になってしまうという問題が起こります。  バブルが崩壊してから、宮澤政権、細川政権以降約十年間で、総額百四十兆円もの追加景気対策を行ったわけでありますが、しかし、他方で、例えば国土の基幹インフラであります高速道路網もあるいは整備新幹線もできていないと、あのお金は一体どこに消えたのか。北海道なんかで実態を見ておりますと、結局その当時の建設省の道路局、それから河川局、あるいは旧運輸省の港湾局といった縦割りで事業を上げさせてそこにお金付けるということで、言わば穴の空いた水道管にどんどん水を流すという結果に終わったわけであります。  そこから私は、次のような教訓を引き出すわけであります。第一、財務官僚の近視眼的な健全財政主義は経済を悪化させるということであります。第二、政策の優先順位に踏み込んだ政治的な指導力が不可欠であるという点であります。あの時代の景気対策を見ますと、政治の方は総額例えば十五兆円とか枠は示すわけでありますが、その中身についてはやはり各省から要求を上げさせるという手法を取っていたわけであります。  返す返すももったいない話でありますが、例えば最初から百兆円を景気対策に使うということを政治的にきちっと方向付けをし、その中で、例えば高速道路に十兆回すとか整備新幹線に五兆回すとか、そういったことが政治主導で決められていれば、今の日本の経済社会はうんと違ったものになっていたのではないかと悔いが残るわけであります。したがいまして、各省庁に政策対応を指示しても良い知恵は出てこない。要するに、既存の優先順位の低かった事業にただお金が回るという結果に終わるだけであります。  そういう意味で、今回、当初予算が成立をした後、早速補正予算を組むということを内閣の最高指導者がおっしゃっているようでありますが、これは言わば十数年前の失敗を繰り返すということになると私は憂慮しております。どうせやるなら、当初予算の段階からもっと大掛かりな財政出動などを行って現在の経済危機に対応していくという、強い政治的な方針あるいは指導力というものが必要であるというふうに考えるわけであります。  さて、そういうことで、今までの政策形成システムには大きな問題点があったと思うわけなんですけれども、現在のこの経済社会の大変な危機に対して政策はどのように取り組むべきかということについて、次に私見を申し上げたいと思います。  日本の場合は、戦後長い間、繁栄そして平等を実現してきた。つい十数年前までは日本の経済社会の安定について私たちは大変強い誇りと自信を持っていたわけであります。そのからくりについて一言説明をしておきますと、お配りしたレジュメの二ページ目に図がありますので、ちょっとこれを御覧ください。  縦軸にリスクの社会化、リスクの個人化と書いておりますけれども、これは失業とか貧困とか病気とか自然災害とか、そういった人間の生活を脅かす様々な危険や災難、問題というものをリスクというふうに総称するわけで、リスクの個人化というのは自己責任型の社会ということであります。リスクの社会化というのは、要するに病気とか自然災害とかというのは個人の責任によらない問題であって、その種の災難や問題については国民全体がお金を出し合って、社会全体として対応していくべきだという考えであります。言うまでもありませんが、先進国の中でリスクの個人化路線を徹底しているのはアメリカであります。これに対して日本やヨーロッパの先進国は、程度の違いはありましてもリスクの社会化路線を取ってまいりました。  日本とヨーロッパの違いはどこにあるかと申しますと、これは横軸にかかわる点でありまして、左側に裁量、右側に普遍的と書いてあります。裁量型政策というのは、例えば公共事業補助金の箇所付けとかあるいは護送船団方式の行政指導とか、そういったルールや基準のない利益の配分、利害の調整、これを裁量型政策と申します。普遍的政策というのは、公的年金とか義務教育みたいにルール、基準がはっきりしている、同じ問題を抱えている人にはひとしく政策的な恩恵が及ぶというのが普遍的政策であります。  日本の場合は、確かに普遍的政策もあるにはありましたが、その下にありますように、社会保障給付費というのは経済規模に比べて著しく小さいわけであります。確かに、かつての自民党政治というのは心優しい保守政治でありまして、地方や弱者に対してお金をちゃんと配分をしていた。しかし、それが、例えば補助金とかあるいは護送船団方式の業界に対する行政指導とか、そういった形で、不透明な中で官僚の裁量によって個別的に地域や業界に対して保護の手を差し伸べてきた。したがって、この図で言えば、左上のところにかつての再分配政策というか日本型の平等志向的政策が位置付けられるわけであります。  このような政策によって社会の安定が実現されたわけなんですけれども、大体こういう仕組みがバブルの崩壊、それから冷戦崩壊以後のグローバリゼーションの中で急速に揺らいできたわけであります。そして、財政赤字が増えるとか、あるいはグローバリゼーションでもって規制緩和とか民営化とかそういった大きなルールの変更を余儀なくされるとかいったことで、九〇年代後半から二十一世紀にかけて政策が大分変わってまいりました。それがまさに小泉政権の下で行われた構造改革というものでありまして、言ってみればこの構造改革というのはリスクの個人化路線に大幅にかじを切るということを意味したわけであります。  さて、さっきの図に戻りますと、すっきりルール、基準を当てはめて競争原理を徹底するというのならまだしも救いがあるわけですが、日本の場合は昨今の郵政の財産の売却問題に見られるように非常に不明朗な世界が残存しておりまして、新たな裁量型の利益配分、あるいは利権の政治というものがまだまだ根強く残っているということも言えるわけであります。  さて、現在の日本経済の危機、レジュメに戻りまして、私は二重の問題だというふうに考えております。確かにアメリカ発の金融危機で日本は巻き込まれたという側面もないことはありません。しかし、もっと根本的な問題があると私は考えております。すなわち、小泉構造改革以降日本の経済社会が大きく疲弊してまいりました。まさに社会の基礎体力が消耗していたところに今回の金融危機が襲ってきたわけであります。雇用の危機あるいは地域経済の崩壊というものは、まさに小泉政権における社会保障支出の削減、地方交付税の削減、公共事業の削減、あるいは労働の規制緩和、こういった政策がもたらした結果であり、人災であります。  私は非常に不思議に思うんですが、本来雇用の規制緩和というのは、不景気のときに企業が労働者を合法的かつ容易に首切りできるようにするために行われたわけであります。したがいまして、昨今の非正規労働者のいわゆる派遣切りなどという現象は、まさに小泉構造改革の成果が上がっている証左であります。私はあえて竹中さんや小泉さんにおめでとうと申し上げたい。あなた方が目指した社会はこうやって実現したんだというふうに思うわけであります。  そういうことで、まさに社会保障費をどんどん削減すれば医療崩壊が起こるのは当たり前でありますし、地方の自治体に対する交付税や公共事業費を削減すれば地域経済が疲弊するのは当たり前であります。そういう原因をきちんと踏まえて今後の経済対策というものを立てることが、まさに有効な政策をつくるための必要不可欠の手順であると私は考えております。  経済対策を立てていく手順として、まず第一に、先ほどの繰り返しですが、構造改革の誤りを率直に認めるということから始めるべきだと思います。小さな政府というのは国民を不幸にするわけであります。小さな政府の言わば総本山でありますアメリカにおいてさえ、今回の経済危機に対応してオバマ政権は大変大きな政府資金の投入、財政出動を行っているわけでありまして、アメリカでさえ新自由主義の時代は終わったわけであります。小さな政府の時代は終わったわけであります。  アメリカは先ほどリスクの個人化の社会だと申し上げました。医療の世界なんというのはその典型でありまして、アメリカには国民皆保険などという発想がなかった。しかし、オバマ政権はようやく国民に対する普遍的な医療サービスの保障ということを始めようとしている。それぐらいリスクの個人化路線というものが特に力の弱い普通の人々、弱者に過酷な結果をもたらしたということが現実であります。  政策を立て直す際の二つ目の手順としては、基本的な価値観というものを明確にするということだと思います。何といっても人間の尊厳を守るということ、それから基本的な平等、私はあえて結果の平等とは申しません。基本的な平等と公平を回復するということ。例えば、今日、親の金がないために中等高等教育を受けることができないという若者が大量に発生しております。あるいは、昨年、秋葉原の連続殺人事件、あるいは大学進学の夢を絶たれた若者が岡山駅のホームで人を突き落としたとか、福岡市で発達障害の子供を抱えた母親が子供を殺したとか、そういった悲惨な事件が相次ぎました。  およそ日本の政治を論じる者は、我々学者もまた先生方も、このような事件に対して、社会的なサポートがもっとしっかりしていればこういった事件を防ぐことができた、死なずに済んだ人を死なせてしまったというざんきの念を持つことから始めるべきであると思います。そういう意味で、政策によってどのような社会を目指すのか、その基本的な価値観をもう一回明らかにしていく必要があると考えます。  それから、政策立案の手順の三つ目としては、必要な政策に十分な資金を投入するということであります。言ってみれば、従来の構造改革路線というのは、財務省の理屈で歳出をカットしてきたわけであります。ギリシャ神話にプロクルステスのベッドという話がありまして、このプロクルステスという追いはぎが旅人を捕まえてきて自分ちのベッドにくくりつける、そのベッドからはみ出す手や足をちょん切るという大変残虐な追いはぎの話であります。言ってみれば、平成日本では財務省がプロクルステスでありまして、国家財政という狭いベッドに国民をくくりつけ、そのベッドからはみ出す手や足を財政再建とか財政健全化という名目でちょん切った、まさに医療費の削減なんかはその典型例であります。  逆に、やはり国民生活を支えるためにはこれだけの資金が必要なんだということを医療でも介護でも教育でもきちんと測り、それに見合うだけの歳入を確保していくということこそが本来の政策論議の手順であります。言うまでもなく、私は、そういった必要を賄うためには、もちろん中長期的には増税は不可避であると思っております。しかし、いずれにしても、やっぱり議論の手順として、私たちはこのような社会をつくりたい、国民生活を支えていきたい、そういう理念をはっきりさせた上で負担について国民に議論を問うていくということが必要であると思います。  最後に、多少具体的にこれから何をなすべきかというテーマについてお話をしていきたいと思います。  もう一度先ほどの図に戻っていただきたいんですが、今の日本に必要なのは普遍的政策によるリスクの社会化であります。従来、普遍的政策としてありました公的年金、公的医療保険、地方交付税、こういった仕組みがまさにプロクルステスのベッド状態で切り刻まれているわけであります。そこにもっと資金を投入していくこと、これが緊急の課題であると私は考えます。  したがいまして、お役所の裁量の入る余地のない制度的な再分配の部分にもっと財源を投入していくということ、これがまず第一の課題でありまして、それから二つ目の課題といたしまして、人への投資ということを申し上げたいと思います。  景気対策の中で公共事業というのはどれくらい必要かというのは、これはいろいろ議論があります。例えば北海道なんかにいますと基幹的なインフラは大分できてまいりまして、従来型の建設公共事業というのはもはや余りやる余地がないという問題もあります。これからはやはり人への投資にもっとお金を掛けるということが必要になってまいります。  したがって、教育と労働をセットにした能力開発や就労支援の政策でありますとか、医療、介護を中心とした新しい社会サービスの創造でありますとか、そのような分野にもっとお金を投入していくということこそが中長期的に日本の経済社会の活力を回復していくかぎになるはずであります。  そして最後に、もう一つ申し上げたいことは、改革と自己責任の呪縛を断ち切るということであります。  およそ政策というものは利害関係の変更であります。小泉時代には、例えば労働の規制緩和のように強い者に弱い者から富を移転する、労働者の取り分を減らして経営者の賞与を増やすという、これが改革と称賛されてきました。他方、地方に対してもう少し交付税を増やそうとか公共事業を回そうかと言うと、それはばらまきというふうに批判をされました。これは誠におかしい話であります。これからやはり改革という言葉は極力避けて、中身に即して政策を論じていく必要があると思います。  それからもう一つ、リスクの社会化ということを考えていくときに、自己責任の呪縛を断ち切る必要がある。やはり人間というのは自分責任によらない理由で様々な災難に遭うわけでありまして、そういうものを救済するためにこそ政治があるわけであります。そういった観点から、今後の経済財政政策についてしっかりと議論をいただき、現在の危機を救済すべく果敢な行動を取っていただくようお願い申し上げて、私の話は終わりといたします。  ありがとうございました。
  67. 溝手顕正

    委員長溝手顕正君) ありがとうございました。  次に、外交・安全保障について、公述人会社顧問落合たおさ君の御意見を伺います。落合公述人
  68. 落合たおさ

    公述人(落合たおさ君) ただいま御紹介をいただきました落合でございます。本日は参議院の予算委員会の公聴会にお招きいただきまして光栄に存じます。  私は平成八年まで海上自衛隊に勤務しておりました。その間、平成三年に勃発いたしました湾岸戦争後、自衛隊創設以来初の海外国際協力実任務となりましたペルシャ湾掃海部隊の指揮官を命ぜられました。その経験を通じまして強く印象に残っていることについてお話をさせていただきます。  まず、ペルシャ湾掃海作業の概要でございますけれども、平成二年の八月二日にイラクのクウェート侵攻に端を発しました湾岸危機、そして翌三年の一月十七日にアメリカを中核としました多国籍軍によるクウェート解放のために勃発しました湾岸戦争、このときイラクがペルシャ湾に約千二百個の機雷を敷設しました。この機雷が船舶の安全航行の重大な障害となりました。特に、中東地域から大量の原油を輸入している我が国にとっては深刻な問題となりました。  掃海艇派遣を求める国内外の要請を受けました。もちろん、このときに日本は百三十億ドルという資金援助をいたしました。したがって、国際社会からサンキュー・ベリー・マッチ、ジャパン・サンキューと言われると思ったら大間違いでありまして、今の山口先生のお話で大変懐かしい十八年前のことを思い出しておりますが、金は出しても人を出さない、ツーリトル・ツーレート、命の危険を冒すのはおまえらに任すからこちらは少々金を出そう、何という汚い国だ、国際的な非難を浴びました。  こういった掃海艇派遣を求める国内外の要請を受けて、政府派遣を検討し、四月十六日に当時の防衛庁長官は海上自衛隊に対しまして準備を命令、当時はいわゆるPKO法案なるものが成立しておりません。したがって、自衛隊法第九十九条、機雷等海上における危険物の除去を根拠にしまして、政府は二十四日に安全保障会議及び閣議において派遣を決定しました。この決定を受けて、二日後の四月二十六日に掃海艇四隻、掃海母艦一隻、補給艦一隻、計六隻の艦艇と五百十一名で編成されましたペルシャ湾掃海部隊が日本を出発しました。  日本からペルシャ湾まで七千マイル、約一万三千キロございます。速力の遅い掃海艇では相当な日数が掛かり、しかも補給能力が乏しいものですから、食料も真水も燃料も七日分しかもちません。したがって、七日ごとにどこかに寄港して補給しなければたどり着かないわけであります。日本を出てから一か月と一日後の五月二十七日に現地に入りまして、六月五日から約四か月半にわたり掃海作業に従事しまして、十月の三十日の帰国まで百八十八日間の行動をいたしました。  この作業を通じまして強く印象に残っております五件のことについて申し上げます。  まず、不測事態対処ということであります。  安全を確保しつついかに任務を遂行するかが指揮官の私に与えられた大きな課題でございました。  当時は既に休戦協定が締結されておりまして、戦闘は終結しておりました。しかし、休戦協定が結ばれて即翌日から全く安全で平和な状態になるとは限りません。相当の期間、戦争でもなく平和でなく、どろどろした灰色の状態が続くのが一般的であります。実際に我々が現地で掃海作業に従事しておりますときも、まだ国籍不明の小型高速集団がばっこをしておりまして、米海軍の水中処分隊のボートが取り囲まれたり、哨戒飛行中のヘリコプターが撃たれたり、そういったような事案がありました。私たちの部隊も夜間、近距離まで接近されたこともございました。  こうした不測事態に対処するために正当防衛と緊急避難が認められておりました。しかし、それに対応する派遣部隊の武器は、掃海母艦「はやせ」の三インチ砲のみでありました。補給艦は砲を装備しておりません。掃海艇は前甲板に二十ミリ機銃を装備しておりますが、これは船を撃ったりするのではなくて、浮かんできた機雷缶を射撃処分するものであります。  こういった状況の中で、同盟国の対空、対水上警護の下で、掃海作業を実施いたしました。ほとんど無防備に近い掃海艇の派遣には、やはり護衛艦を含めた部隊編成が必要だと強く思いました。  また、自衛隊の海外派遣に際して、派遣部隊の装備についてよく議論がされます。例えば、機関銃は何丁、小銃は何丁。これらのことは、例えばコントラクトブリッジやマージャンのときに相手に自分の手のうちを全部オープンにしてゲームをすることであります。反対に言いますと、派遣部隊を危険な状態に陥れるおそれがあります。派遣された部隊が危険な目に遭わないように、海賊対処法を制定し、部隊が持てる力を十分に発揮できることを望みます。  二番目に、国際協力について申し上げます。  クウェートに寄港した折に国連の停戦監視団を表敬訪問いたしました。当時、二十数か国から派遣された約七百名の隊員たちが例の青いベレー帽をかぶって勤務しておりました。司令官はオーストリア陸軍のグラインデル中将の話ですが、イラクとクウェートの国境沿いに二十六か所の停戦監視所を設け、中佐を長にして一チーム五名で一週間交代の監視業務を実施しているところでした。司令官の、期間の長短、規模の大小は問わない、少しでも多くの国が参加してくれればみんなが助かるんだという言葉が強く印象に残りました。そうそうたる先進諸国に混じって、小さな国ではありますが、ごく少人数ではありますが、隊員が派遣されておりまして、現地では高い評価を得て感謝されておりました。  日本の場合、貿易立国という我が国の立場から、国際社会の安定と海上交通路の安全が必須条件であり、日本が国際平和の維持、あるいは平和の再構築のために活動することは、言わば義務であり、また日本の国益にかなうことでもあり、ひいては安全保障につながると考えております。  我が国には集団的自衛権等諸制約があるので、国際協力をするにしても、非軍事面に限ってすればよいと主張する人もおりますが、現在地球上に約七十億近い人間がおり、二百ぐらいの国があります。どこの国だって、自国の青年が国際協力のために命を落とすことを希望する国はありません。できればみんな非軍事面のみの協力にしたいと願っているわけであります。そうしますと、国際平和の維持、あるいは平和が壊れた場合の再構築が困難になります。したがって、各国はそれぞれの国力、国情に応じて応分のリスクを分かち合って軍事面の協力を実施しているのが現状であります。国際社会における日本の立場、また我が国の国益、安全保障、特にシーレーンの安全確保意味から、日本が協力することは当然の義務と考えております。  三番目に、日米協同について申し上げます。  ペルシャ湾における掃海作業は、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、サウジアラビア及び日本の九か国から派遣された四十隻の掃海艇がそれぞれの担当海域を受け持ち、実施いたしました。その間、各国部隊はお互いの不足機能を補完し合い、また情報交換等の協力をしながら実施いたしました。我々は、平素から緊密な関係にある米海軍掃海部隊との協同作業を基軸として、掃海作業を行いました。  本作業中、米海軍からいろいろな支援を受けました。ヘリコプターによる事前掃海、対空警戒、対水上警戒、航空機による人員輸送、通信及び気象・海洋予報の提供、基地施設の使用等の便宜供与、様々な支援を受けました。また、我々も米海軍掃海部隊に対して、掃海艇及び支援船に対する燃料補給等、できる範囲の協力をいたしました。米海軍掃海部隊との協同がペルシャ湾掃海の成功の大きな要因と考えております。長年にわたり先輩たちが築いてくれた米海軍との固いきずなのおかげでと感謝しております。  海上自衛隊の掃海部隊は長年にわたり米海軍掃海部隊と協同訓練を実施してまいりました。第一回目の日米協同掃海訓練は、一九五五年、米海軍掃海艇四隻、日本の掃海艇四隻、計八隻が一週間にわたり九州の佐世保沖で実施されました。それ以来、現在まで約八十回以上の日米協同掃海訓練が実施されております。そこで培われた訓練の成果がペルシャ湾掃海で実を結んだと思っております。日米安保の重要性を痛切に感じました。  一方、米海軍も我々に感謝をしております。それは、ヨーロッパ部隊が三年七月に帰国してしまった後、最後まで米海軍掃海部隊と一緒に掃海作業を続行したこと、もう一つは、国交が正常ではないイランとの調整についてであります。余計なトラブルを避けるために、イランの海軍少佐が二名、連絡士官として掃海母艦「はやせ」に乗り組んで勤務をしておりました。  米軍は今までも今後とも大切なパートナーであり、日米安全保障条約は我が国の安全保障にとって不可欠なものであります。また、日本も同盟国としてきっちりと義務を果たしていくことが大切だと考えております。  四番目に、隊員たちの使命感について申し上げます。  当時のペルシャ湾の状況でありますが、ちょうど真夏の時期であり、最高気温が五十度、クウェートの油田火災のばい煙、砂漠からの砂じん、海中の有害生物、浮遊機雷等、劣悪な環境でありました。こうした環境の下で長期間にわたり機雷処分という危険な作業に従事していたわけでありますから、隊員たちは大変に苦労をしました。派遣部隊の隊員の平均年齢は三十二・五歳、二十歳前後の若者が五十名乗り組んでおりました。彼らは一言も苦情を言わず、それぞれの立場で最善の努力をいたしました。  各艦艇は、百八十八日間、一〇〇%の任務可動を維持いたしました。しかし、大きな故障の原因となるいわゆる故障の芽は三百十五件発生いたしました。すべて隊員たちの手で修理いたしました。浮遊機雷の漂う危険な海域を航行中には船首に見張りを立てますが、この役目を先任海曹といったベテラン隊員たちが、少なくとも若いやつらはおれたちよりも長生きする権利があるんだ、おれたちが立とうと率先垂範、この役目を自ら買って出ました。やはり若い隊員たちは、こうした先輩の背中を見ながら成長します。現地を視察に見えたある国会議員が、ペルシャ湾掃海は若者を鍛える道場じゃと感想を述べておりました。  欧米の掃海艇に比較して当時の日本の掃海艇は、水中テレビもなく、コンピューターも未装備でありました。装備の不備を隊員たちの卓越した技量でカバーしたのであります。水中処分隊員は、潜水して、元々爆発するようにできている機雷に近接して、そして自分の目で確認し、機雷に爆薬を取り付けて処分いたしました。隊員たちの自己の任務に対する強い使命感と、それを実行できる高度の技術力があったからであります。  国の防衛に携わる者は、国民から絶大な敬意と信頼、期待を受けて、国家のため、国民のため、国の命令に基づき、身の危険をも顧みず任務を遂行する、国家と国民に奉仕すること、そのことを名誉とし、自分自身の誇りにするのであります。そこに強固な使命感が生じ、育っていくのだとも考えております。隊員たちが名誉と誇りを持って任務に邁進できるように憲法上の身分を明確にすることを望みます。  最後に、伝統と訓練及び国民の支援ということについて申し上げます。  九月、クウェート政府の要請によりアル・シュワイク港に寄港した折に記者会見があり、地元の記者からある質問を受けました。その趣旨は、第二次世界大戦後一回も戦争をしていない日本の掃海部隊が、その間にベトナム戦争、スエズ紛争等、実際に機雷が使用された戦争を体験したアメリカやイギリスやフランス等の海軍と同等に機雷掃海という難しい技術を持っているのかという内容でございました。  私は、日本は大戦末期、周辺海域に一万二千個の機雷を敷設された、日本海軍はその除去に取り組み、その作業は終戦後も営々と継続され、やがて海上自衛隊に引き継がれた、海軍が残してくれた良き伝統と任務を引き継いだ海上自衛隊が堅実に訓練に励み、技量を磨いてきたからであると答えました。自衛隊がいざというときに国のために力を発揮するためには、どうしても日ごろからこうした訓練を継続実施する必要があります。  派遣期間中、三千通に及ぶ、いわゆる一般国民から、ありがとう、感謝します、日本のために頑張ってという激励をいただきました。劣悪な環境下で危険極まりない機雷との戦いに従事しておりました五百十一名の男たちの心を支えてくれました。この種の作業は、やはり多くの国民の支援がいかに大切かということを痛切に感じました。  最近、我が国でも、アメリカにおける出征兵士を励ますイエローハンカチーフの掲揚という風習が定着しまして、良いことだと思っております。国民の派遣部隊や自衛隊が実施する訓練に対する更なる温かい理解を望んでおります。  以上でございます。
  69. 溝手顕正

    委員長溝手顕正君) ありがとうございました。  以上で公述人の御意見の陳述は終わりました。  それでは、これより公述人に対する質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言願います。
  70. 犬塚直史

    ○犬塚直史君 本日は、大変御多用中のところ、山口公述人そして落合公述人、お越しいただきまして、貴重なお話いただきました。本当にありがとうございます。  今日は、テーマが行政改革と外交・安全保障という、どちらも大変に大きいテーマでございまして、一度にこれを話題にするのはなかなか難しいのかなと、こう思うわけでありますが、その視点から考えますと、やっぱり落合公述人が先ほどおっしゃった平和の構築というものをどういうふうに考えるのかなと、これを公でやるのか民でやるのか、この公の仕事を言わば行政がやるのか、民でやるのかということを中心に今日はお話を伺いたいと思います。  まず、先ほどおっしゃった一万三千キロ向こうの機雷除去、大変御苦労さまでした。今、先ほど一千二百個の機雷が対象であったとお話がありましたが、今全世界でどのぐらいの機雷がまだ未処理があるんでしょうか。
  71. 落合たおさ

    公述人(落合たおさ君) 先生の御質問ですが、恐らく天文学的数字があると思います。といいますのも元々機雷というのは弱小海軍の国、これが自分の海岸線に相手が来るのを防ぐ、大海軍のところはそんなことはいたしません。ということは、一九九〇年ぐらいまでのところで冷戦構造も残っておったころに、そういった機雷が山ほど残っています。  私は、いつもそれを心配しているのは、本当に安いんです。安価大量というのが機雷敷設のコンセプトであります。だから、安いから怖くないかって、やっぱり怖いんです。これが世界中にあふれておりまして、しかも安い。  これが正規の国、そういう単位で買ってくれるなら、これはどこに行ったというのは大体分かりそうなんですが、そうではない非正規の組織が、非正規に使われますと、世界経済と申しますか、海洋を自由に使っている国々、世界貿易の大きな障害になります。これがしかも、何も太平洋の真ん中にまくやつはいませんから、キーポイントと申しますか、どうしても通らなければならない水道、そういうところが世界に数か所はあります。そういうところでそういう事態が起こりますと、これはまた一国では対処できないぐらいな大変な労働が掛かります。  たかだかペルシャ湾のあの限られた範囲で、クウェート沖に千二百の機雷、たかだか千二百の機雷でも、あれでも、私のこれ私見でございますが、もしイラクがここに敷設したよという敷設原図を手に入れなかったら九か国の四十隻の掃海艇が掛かりましても恐らく何年という仕事になったと思います。そのくらい今は機雷掃海というのは非常に時間と労力が掛かる仕事でありまして、そういった面からは先生の御質問で、何個というふうに言われても、ともかく天文学的数字が、今あり余って困っているのが現状だと思います。
  72. 犬塚直史

    ○犬塚直史君 今、我が国はソマリア沖の海賊対策でいよいよ具体的な行動に移ろうとしているそのやさきでありますが、例えばこのアデン湾、まあ何百年の昔からあそこは大変な海の交通の要所でありますけれども、あちらでの機雷敷設の状況というのは何か御存じでしょうか。
  73. 溝手顕正

    委員長溝手顕正君) 恐れ入りますけれども、できるだけ簡潔に。
  74. 落合たおさ

    公述人(落合たおさ君) 恐らく、まだ入ったという情報はありませんけれども、あの辺、それからかつて経験しましたスエズ、ペルシャ湾、マラッカ海峡、こういったところにそれが入ると大変な国際海上ルートの混乱が起こると思います。
  75. 犬塚直史

    ○犬塚直史君 御指摘のとおり、ここにもし安価でしかも大変危険な機雷が大量に仕掛けられたら一体どうなるのかと、マラッカ海峡はどうなるのかと、ペルシャ湾はどうなるのかと、まさに気が遠くなるような思いがするわけでありますが。  これ、陸上にいきますと、御存じのように自衛官のOBの方がやっておられるJMASという対人地雷の除去をボランティアでずっとやっている団体がございますが、この対人地雷の世界の状況、そしてこれを除去しようとする動きについてはどのような御認識を持っておられますか。
  76. 落合たおさ

    公述人(落合たおさ君) 残念ながらまだ海上自衛隊のOBで卒業してからそれをやろうというのはちょっと私も伺っていませんけれども、やはりそういうことも大切じゃないかと思うんですけれども。  一つは、機雷というのは、はっきり申し上げますと掃海しなくてもいいんですね。ほっとけばいいんです。ここ危険だよ、通るなら自分でリスクを負いなさい。で、二十年たったら電池切れますから。そういう手段もあります。  しかし、そうはできないところ、今、先生が御指摘のとおり、重要な交通路、ここはやはり少なくとも船が安全に通れるだけの可航幅、それが一万メートルなのか一万二千か知りませんけれども、ともかく船が自由に行くところだけは空けないかぬと、この努力はやはりどうしてもするべきだと思います。
  77. 犬塚直史

    ○犬塚直史君 今、例えばアフガニスタンなんかではこの地雷除去を、非常に手間の掛かる、それこそ気の遠くなるような手間仕事でありますので、これを現地の、言わば、言い方は悪いんですが、雇用対策の一環として使っていると、これで収入が得られるような道を今考えていると。つまり、外国からの、あるいは自国の官軍が行くだけではなくて、それを民と一緒になって平和構築をしていこうという動きがあるというふうに聞いております。  そこで、先ほど両公述人がおっしゃっていた、アメリカで日本のやっていたことがツーリトル・ツーレートだと言われたというお話をちょっと伺いまして、本当にそうなのかなと私は思うわけですね。もっと言うと、あんたのところには言われたくないよと、私なんかそう思うわけですね。  なぜかといいますと、大統領を辞める間際のアメリカ大統領が大昔に言った言葉で、産軍複合体というのがありますね。つまり、山口公述人が先ほどおっしゃっていた予算消化の自己目的化。つまり、一つの防衛省というものをつくったときに、その組織が肥大していくことが自己目的になってしまうと。そこにどんどんどんどんお金を使っていってしまうと。今のアメリカの軍事予算の使い方というのはそういうものがあるんじゃないかと。  という視点から、今のツーリトル・ツーレートについて山口公述人に少し反論をしていただきたいんですけど、いかがでしょうか。
  78. 山口二郎

    公述人(山口二郎君) アメリカの場合は、やはりブッシュ政権時代に、それまであった財政黒字を全部食いつぶして富裕層への減税に、あるいはイラク戦争でもって随分赤字も増やしてということで、やっぱり非常に誤った経済政策で国内の矛盾が広がったということがあると思います。  したがいまして、日本のことを引き合いに出すよりは、やっぱり自分たち自身の政策の誤りをきちっと反省し、総括をして、それから対策を立てるべきだというふうに思うわけであります。
  79. 犬塚直史

    ○犬塚直史君 その軍事の肥大化というのが、イラク戦争以来、今度は軍事の民営化という方向になってまいりました。  私の非常に少ない経験なんですけれども、アフガニスタンに今年行った際にコントロール・リスク社という会社がおりまして、町の中を出歩くのにやっぱり護衛がいないと出歩けないわけですね。そこで、防弾車に乗って、ガードマンを付けてということに、二日間で、後で戻ってきてから払ったんですが、五十万円掛かったんですね。これ、日給にしたらガードマンの人幾らになるのかなと思うと、いや、こういうことに、例えばイギリスや何かの特殊部隊の経験者が、この民間の、こういう言わば平和構築のすその広いところにどんどん入ってくるんだろうなと。逆に言うと、金があれば、例えば革命勢力が、金があれば革命が成就できるとか、金があれば小さな国の運命が決まってしまうという事態に今はなりつつあるんじゃないかなと。  そういう中にあって、山口公述人、いかがでしょうか、先ほど来おっしゃっていただいている予算消化の自己目的化、ここに私は非常に大きな危機感を覚えるんですが、公述人の御意見を承りたいと思います。
  80. 山口二郎

    公述人(山口二郎君) こういう問題は、改革ということが言われたにもかかわらず、実態においてそれほど改まっていないんじゃないかということを感じるわけであります。  やはり政策をつくるというときに各省の各課レベルから事業のアイデアを上げていきまして、やっぱりそれぞれ組織が自己保存の本能を持っておりますので、そういう意味社会的な有用性、効果というものを外部の目からきちっと検証するということ。それから、今まで、もちろん政治の側からそういうものをきちっとチェックしていくということ、それをきちっとやっていかないと、やはり各省にアイデアを出せと言っていると、ますます生き残りのための知恵だけが膨らんでいくという危険性が大きいというふうに思います。
  81. 犬塚直史

    ○犬塚直史君 さらに、海外での例えば在外公館なんかにお世話になって感じますことは、大変皆さんよくやっておられる。非常に少ない人数の中で大変よくやっておられるんだが、いかにも人員が足りない。  その反対に、現地で採用されている例えば期間限定の、外務省でいえば半年とか一年、二年で限定で採用されている方たちの中には、例えばアフリカについては大変思い入れのあって、これを一生の仕事にしたいと思われるような方たちがたくさんいる。自衛隊のOBの方でも地雷除去を一生懸命やっている方もいっぱいおられるという中にあって、余りにも正社員優遇の教育体制、余りにも雇用の流動性が少な過ぎると私は感じるんですけれども、両公述人から御意見を伺いたいと思います。
  82. 山口二郎

    公述人(山口二郎君) 雇用の硬直性という問題は確かにあります。従来の終身雇用制に戻るということは恐らくやっぱり現状では無理でありまして、しかし、いわゆる非正規労働の人たちに対する例えば社会保障ですとか、あるいは最低賃金制ですとか、あるいは失業給付とか教育訓練とか、そういった政策的な言わばバックアップをきちっとした上じゃないと、単に正社員優遇だからということで雇用の流動化、規制緩和を図るとやはりとんでもない今日のような労働破壊が起こるということで、そういう意味ではやはり政策の役割というものは非常に大きいというふうに考えております。
  83. 落合たおさ

    公述人(落合たおさ君) 確かに、先生御指摘のとおり、例えば地雷の処理とか、それから災害派遣、そういったようなノウハウを隊員たちは本当によく知っている、もったいない、それが定年になって辞めてしまう、それをそのまま何とか生かせないかなというふうには常々思っておりますけれども、それは全く御指摘のとおり、そういう活用の場があれば大変有り難いことじゃないかなと思います。
  84. 犬塚直史

    ○犬塚直史君 例えば、それじゃ掃海のノウハウを退官後に活用できるというような現実に今場がございますか。
  85. 落合たおさ

    公述人(落合たおさ君) 残念ながら、日本の民の世界ではそういうのはございません。ただ、欧米を見ますと、そういう特殊技能を持った者は、傭兵というんじゃないけれども、小さな発展途上国の国の指導官あるいは先生のようなことで貢献している例はたくさん知っております。
  86. 犬塚直史

    ○犬塚直史君 それでは、山口公述人が先ほどこの図を示していただきましたけれども、リスクの社会化、そして普遍的政策、こちらの軸の方に日本は第三の道を探っていくべきではないかというお話を伺いましたが、このページのこの表をもう少し分かりやすく御説明いただけますでしょうか。
  87. 山口二郎

    公述人(山口二郎君) リスクの社会化、個人化というのは、要するに、先ほど申しましたように、病気や失業や貧困という問題を社会全体の問題として税や社会保険料で解決するのか、自己責任で個人個人に押し付けるのかという対立でありまして、これはやはり先進国というのは大体アメリカを除いてリスクを社会化していると。そのために社会保険制度とか労働政策とか教育政策とか、そういったものがあるわけであります。  横軸の裁量と普遍と申しますのは、要するにルール、基準に基づいて透明性の高い過程を通して政策を実行するか否かということであります。  従来、例えば談合とかあるいは補助金による公共事業とか、あるいは行政指導による業界保護とか、非常に不透明な過程で弱者が保護されてきたとか地方にてこ入れがされてきたという事実があって、そこでやっぱり腐敗とか無駄とかいろんな問題が起こったわけでありまして、景気が悪いからといってそういう昔に戻ることはもうできないと。やはり、これからは透明性が高い、かつルール、基準にのっとって国民にサービスやあるいは現金を給付していくという仕組みに転換していくべきだということだと思います。  例えば生活保護なんというのも本来は普遍的政策であるべきなんですが、日本の場合余りにも予算が少なくて、生活保護をやっている地方自治体で、本来受けるべき人たちの中で更に選別をして一部の人だけに生活保護を出すというような裁量型政策ができてしまっているということですから、裁量型政策から普遍的政策に転換するというときには、やはり問題を解決するために必要な予算をきちっと付ける。そうしないと、結局、同じ問題抱えていても救済を受ける人とそうじゃない人という差が出てくる。そこをやはりこれから解決していくことが必要だと思います。
  88. 犬塚直史

    ○犬塚直史君 まさに今日午前中の質疑でも、生活保護を受けられない、受けようとしているんだけれども、なかなかすき間からこぼれていってしまうと、そんな話があったわけなんですけれども。  結局、午前中の話もよく考えてみますと、日本社会というのは、新規学卒で大学を毎年毎年何万人も卒業してこられる、その人たちが新規学卒一括採用という形で大きな組織の中に新人として入る、入った後は何年かはOJTとか、あるいは、何しろ一つのところに入ってぐるぐるぐるぐる回ることによって何となく仕事を覚えていくと。しかし、そこからいったん外れてしまった人には、そうした教育の機会もなければ、社会的に階段を上っていくというシステムになかなかなっていないのかなと。  その一点の部分、つまり、新卒で大学を卒業した人たちが無条件にどの学部を卒業してもすべて大企業なり大きな役場にどんと入ることができるというところが、諸外国の雇用制度と比べて一番違うのかなと。結局、下からは何千人も入ってくる、一番上は一人しかいない、巨大なピラミッドである、どこかで出ていかなければいけないと、それはさようならというわけにはいかないというところが一番違うのかなという気がいたしましたが、山口公述人、どのようにお考えでしょうか。
  89. 山口二郎

    公述人(山口二郎君) おっしゃるように、終身雇用制、つまり入口の段階でもう一生が決まってしまうという点は、雇用の安定性という面で長所はあったわけですが、他方、人間の生き方を縛ってしまうという問題もあり、また、コストの面から長期安定雇用、終身雇用というのはもう合わないと。グローバル化の中で競争が激しくなって、企業がもうこれを放棄したわけですね。  そうすると、それに対応して働く人間の能力を高めるということで、何歳になっても小さい費用で高等教育あるいは大学教育等を受けられるという、言わば学校と社会の間の往復をもっと容易にするような政策、奨学金等々、こういった政策を強化していくということ。それから、やはり最近高校の中退なんかもどんどん増えていまして、そういう人たちが本当にもう社会の下層に滞留していくという現象が現に日本でも起こっているわけでありまして、そういう人たちに再チャレンジというか、ちゃんともう一回教育を受けてより良い仕事に就けるような条件を整えていくという、やはりそういう政策をこれから強力に展開していく必要があると思います。
  90. 犬塚直史

    ○犬塚直史君 そういう政策を展開していくのに当たって一つの大きなネックは中途採用に対する考え方だと思うんですが、大きな省庁や大企業民間も公も問わず、大きくなればなるほど中途採用というのはほとんど行われない、中途採用が入ってくるときにはどうやってこれを評価していいかも、はっきりした物差し、社会的なキャリアといいますか、それぞれの分野での物差しもなかなかないという中で、この雇用の流動性というのを山口公述人、どのように確保したらよいと思われますか。
  91. 山口二郎

    公述人(山口二郎君) 私、十年ほど前から度々イギリスに留学をいたしまして、労働党、ブレア時代の労働党政権の社会政策雇用・教育政策等も多少勉強をしてまいりました。そこでやはり一つ参考になるなと思いましたのは、狭い意味の学校教育だけじゃなくて、職業能力の開発というもの、そういう教育と、それから労働政策ですね、職業紹介とか就労支援とか、そういうものを連結して若年層の失業者に仕事を与えるという非常に包括的な取組をしているという点です。  やはり、一定期間失業給付をちゃんとやる、あるいは住宅等を確保していくという土台をまず整備をしていく。それから、きちっとそのトレーニングをさせる。また、その技能を積んだ者に対して一定の資格等を付与していく、サーティフィケーションという、そういう資格認証みたいなことをきちっと行って人材の質を保証していくということ。そして、企業に対しては、言わば就労支援のNPOみたいなものがあっせんをしていって若い人が定着できるように導いていくという、そういったことは日本でもこれから是非ともやっていかなきゃいけないというふうに考えております。
  92. 犬塚直史

    ○犬塚直史君 例えば建築業界でいいますと、昔ながらの大工さんが道具箱を一つ持って、本当であれば日本全国どこに行こうが同じ仕事をすれば、中小零細で働こうが大企業で働こうが同じ給与が得られて自分の人生設計がきちんと描けるというような世界が望ましいのかなと、こう思うんでありますが、残念なことになかなかそこに至るまでの、その能力評価も含めてイギリスのような方向性には今行っているようにはなかなか思えないと思うんですが、いま一つこれ、山口公述人、どこが、日本社会の特殊性がどういうふうにここのところに影響してうまく進まないとお考えになりますか。
  93. 山口二郎

    公述人(山口二郎君) 非常に難しい御質問ですが、先ほどから申しておりますように、かつての長期安定雇用が崩壊をしたという現実は不可避だと思うわけです。あとは、流動的な仕事に就きながら、ともかく生活はきちっと安定してできるという住宅ですとか医療等の社会保障、それから子供の教育、こういった分野でやはり公的なサポートというか制度的土台をきちっと提供していくということ、これが余りにも手薄過ぎると。大企業という大きな船からほうり出されると、途端にもう大海に一人で投げ出されるというような形になって、もうあっぷあっぷになってしまうという、そこに一つの問題があるのかなというふうに考えております。
  94. 犬塚直史

    ○犬塚直史君 そこで、落合公述人、話がソマリアに戻るわけですが、実は、日本のやった東南アジアの、御存じかもしれませんが、海賊対策が非常に大きな効果を上げました。これは、二〇〇三年には百七十件あった東南アジアの海賊の発生が二〇〇八年には五十四件に激減をして、今度のジブチ会合でも日本のこの動きに対しては非常に期待感のある目を持って見られていると。  これは一体どこが主体的に行ったかといいますと、言わば沿岸諸国、エンパワーメント、つまり、例えばフィリピンなんかであれば海上保安庁はなかったんですね。この海上保安庁を設置したのが一九九八年と記憶しておりますが、日本の海上保安庁が協力をしてこれを設置をしたと。この周辺国に対して、JICA、海上保安庁、もちろん海上自衛隊もそこには大きな役割を有形無形の形で行ったと思いますけれども。  私は、日本の最も得意とするのがこの現地のエンパワーメントじゃないかと思うんです。つまり、緊急避難的に軍艦を送って、そこで抑止を持って航行を何とか安定させようと、これはあくまでも緊急避難であって、しかし、じゃその人たちがいなくなったときにおもちゃみたいな安い機雷をそこらじゅうに並べられたら、これはもう話にならないわけですね。  ということは、一番避けなければいけないのは、国際社会対ソマリア等の現地の昔からいる漁民の人たち貧困層の対立軸には絶対してはならない。つまり、日本がやらなければいけないのは周辺国のエンパワーメントであるというふうに私は思うんですけれども、このソマリア海賊対策に対する落合公述人の御意見を是非承りたいと思います。
  95. 落合たおさ

    公述人(落合たおさ君) 先生御指摘のとおりだと思います。  先ほど御指摘がございましたマラッカ海峡を含めた東南アジアの南シナ海、あの辺も海賊が出ておりました。これは本当に沿岸各国の努力によって大分収まって、今、主役はソマリアの方に行きました。  今先生御指摘のとおり、確かに、護衛艦で力で抑え込むというのも一つの方法だと思いますけれども、望ましいのは、関係国と申しますか、そこでやはりあの長い海上交通路を一国で云々なんということはとても難しいことでありますので、やはりそこの協力というか連合といいますか、そういった協力が一番大本になるのではないかと思います。  今回の場合は、実際に被害が出ていて何とかせにゃいかぬということで分かりますけれども、恒久的には、そういった東南アジアの連合、連合といいますか、ああいう形が望ましいとは思います。
  96. 犬塚直史

    ○犬塚直史君 そこで、少し具体的なお話を伺いたいんですが、今回のアデン湾沖の国際社会の対応に二十数か国が軍艦を派遣するという形になっているんですね。しかし、その一覧表を見ますと、唯一イエメン、イエメンが最も当事者、当事国でありますが、イエメンが自国の海上保安庁を出しているわけですね。  やっぱり、こういう会合をやるのはいいが、この会合を行う主体が国際社会では駄目だと思うんですね。ましてや西洋諸国は駄目だと。つまり、こういう会合をやるのはあくまでもイエメンがやるんだと、イエメンがやることに対して国際社会はお手伝いをしていくんだという形で、もし必要であれば技術協力も資金協力もしていくんだ、法整備も行っていくんだ、あるいは内陸における貧困対策も行っていくんだ、地雷除去も行っていくんだ、やるのであれば十年二十年の単位でこれは見ていくんだと。一万五千キロも離れたところに行くわけですから、軍艦を二隻送って、あとは知らないよというわけにはいかないわけでありまして、大変複雑な話だと思うんですが、今後、日本が平和構築分野において世界にまさに尊敬されるような自衛隊の使い方を行うためには、現場を最もよく知っておられる落合公述人の最後の御意見を伺って、私の質問を終わりにしたいと思います。
  97. 落合たおさ

    公述人(落合たおさ君) 先生御指摘のとおりだと思いますけれども、確かに、息の長い、誠実にそういうところで対応していくというのが国際的な信頼につながって、だんだんだんだんそうなっていくと思いますけれども、是非そうありたいと思います。
  98. 山本一太

    山本一太君 山口公述人、落合公述人、今日は本当にありがとうございました。大変お二人のお話は参考にさせていただきました。  今、民主党委員の質問を聞きながら、私も何とかお二人への質問を有機的に結合して同じ質問にしようとしたんですが、私のちょっとシンプルな頭では整理が付かないものですから、申し訳ないので、お一人お一人御質問させていただきたいと思います。  まず、今日初めて山口先生のお話をこんな近くで拝聴いたしました。ちょっと私と考えは違うんですが、大変参考にさせていただきました。  山口先生が今日、日本の危機をどう読み解くか、これからどういう経済対策の手順を踏んでいくかという中で、構造改革の誤りを率直に認めることだというふうに主張しておられます。その中で、「小さな政府は国民を不幸にする」と。ということは、大きな政府は国民を幸せにするということなのかと。  去年かおととしかちょっと覚えてないんですが、山口先生と竹中平蔵教授が文芸春秋か中央公論で対談をされた、中央公論ですかね、それをちょっと読んだ覚えがあるんですが。私の記憶が正しければ、先生がその中で、例えばサブプライムローンに見られるように、マーケットが暴走するようなときは政府が国民の守り手として登場してくると。ただし、その政府が機能不全に陥るようなときがあれば、それは市場メカニズムというものを少し強化して、経済を活性化するあるいは効率化すると。そういう、右に行ったり左に行ったり、ペンデュラムが振れている中でみんなが物を考えているんじゃないかというようなことをおっしゃった記憶があるんですが。  ここで、「小さな政府は国民を不幸にする」と書いてあることを見ると、やはりそのもうペンデュラムは振れないと、すなわち政府が機能不全に陥って、もっと例えば市場の機能というものを高めて、もっと経済を活性化するという流れは出てこないと、もうこれからは。そうお考えになっているのかどうかをまずちょっとお聞かせいただきたいと思います。
  99. 山口二郎

    公述人(山口二郎君) 私は必ずしも大きな政府が国民を幸福にするとは思っておりません。問題は、役に立つ政府、賢い政府をいかにつくるかということであります。  現在、日本で起こっておりますのは、言ってみれば政策における需要と供給のミスマッチということでありまして、言ってはなんですが、例えば農業分野とかあるいは国土交通省関係とか、需要がないところに供給ばっかり大きくて無駄が起こるという問題がある一方で、例えば保育所だとかあるいは介護とか、供給が圧倒的に不足して需要があるのに政策的なサービスが追い付かないと、こういうミスマッチが問題で、私はそこのミスマッチを解消していくことこそが本当の改革だというふうに考えています。  今の御質問にお答えするなら、例えば一九八〇年代のアメリカの規制緩和路線、これはそれ以前のアメリカの民主党政権の大きな政府路線のやっぱりひずみが行き過ぎたことへの反省で出てきたものであって、それはやっぱり必然性があったものだというふうに思います。  したがって、私は大きな政府が万能だと思いませんで、ある局面では行政整理とか規制緩和とかということで小さくすることが必要なこともあり得るけれども、現状においては、やはり小さな政府が国民生活を痛め付けているという認識から出発すべきだというふうに考えております。
  100. 山本一太

    山本一太君 少し先生のおっしゃりたいことがクリアになった感じがするんですが、もう一問、山口先生にお聞きしたいと思うんですね。  先生の今日のお話によれば、一の日本政策形成システムのところで、教訓があると、その一つは財務官僚の近視眼的健全財政主義が経済を悪化させることだと。そして、例えば、これまで政治は予算の枠を示したけれども、中身については各省からのいろんな要望を吸い上げてやっているので、これではちょっと意味がないというようなお話をされて、政治主導もやはり過去の反省として不足をしていたということをおっしゃっているんですが。  ここ何年もの間、国会では公務員制度改革の議論が進んでいます。私も公務員制度改革の議論に参加しているんですが、今日ちょうど私の隣に座っている林芳正参議院議員はミスター行革と自民党では呼ばれているんですけれども、公務員制度……(発言する者あり)そうなんだよ、公務員制度改革の目的は何かとちょっと今彼に聞いたら、それは一言で言うと、官の生産性を高めることではないかという答えが返ってきて、なるほどなというふうに思ったんですが。  非常に原理的な質問なんですけれども、山口公述人、先生から見て、公務員制度改革の目的は何なのか。これは、今お話をしたように、官の効率性、生産性を高めることなのか、それとも官僚が暴走しないようにコントロールすることなのか、それとも、省益ではなくて、そのときにいろいろ変わってくるんでしょうけれども、国益によって動く官僚をつくることなのか、そこら辺について先生のお考えをお聞きしたいと思います。
  101. 山口二郎

    公述人(山口二郎君) 公務員といっても、中央省庁のいわゆるキャリアみたいな政策形成の中枢を担う部分と、それから一般的な行政事務とか対国民サービスを担う部分とは、やっぱり全然組織原理が違うわけであります。  私が公務員制度改革で特に大事だと思うのは、その政策形成を補佐する中枢部分の問題だと思います。つまり、真のスペシャリストを育てるということ、これが公務員制度改革の眼目だと私は考えております。この間、十数年振り返ってみますと、日本は、例えば知的財産とか金融規制とか国際的なルールメーキングの過程で決定的に後れを取った。それはやっぱり、国際的な舞台できちっとその国益を担ってネゴシエーションをするだけの能力を持った、その意味のスペシャリストがやっぱり不在であったということだと思うんですね。  したがって、私、公務員の士気を、モラールを高める、また必要な処遇はちゃんとやる、しかし国のために本来の専門知識を発揮してもらうという、そういう意味のエキスパートをつくっていくということを第一の目的にしていくべきだと思います。  その他の一般的な行政事務については、おっしゃるように生産性を高める、あるいは成果主義みたいなものをきちっと的確に導入していって、ただただ長い時間役所にいればいいというような、そういう役所仕事のイメージを変えていくということも必要だと思います。  やっぱり、レベルによって複数の原理を当てはめていくということが必要だと思います。
  102. 山本一太

    山本一太君 今、公務員制度改革の目的は、スペシャリスト、政策のスペシャリストをつくることだというようなことを今先生はおっしゃいました。  実は、私も自民党の中でこの公務員制度改革のいろんな委員会とか部会とかに出て発言をしているんですが、天下り、それからわたり、これを廃止をしなければいけないというのはもう当然のことだと思うんですが、実は自分の中にちょっと迷いがあって、基本的に公務員制度改革をやることによって官の力を最大限に引き出す、一人一人の役人のやる気を引き出すという方法についてちょっと自分の中で迷いがあって今日そういう質問を先生にぶつけたんですが、さっきスペシャリストを育てることが一義的な目的ではないかとおっしゃいましたが、そうだとすると、日本の公務員制度改革が行き着く先、そこを先生はどういうふうにイメージをされているのか。  例えば、フランス型のまさに超エリート養成型なのか、あるいは、なかなか日本では難しいかもしれませんけれども、アメリカのようなリボルビングドア、制度も違うし随分習慣も違いますからこれは難しいと思いますが、なのか、あるいはポリシーユニットなんかはありますけれども、イギリスがエリート養成主義かどうか分かりませんけれども、先生の頭の中では、例えば今の公務員制度改革、スペシャリストをちゃんとつくらなければいけないという目的で公務員制度改革をやっているとすると、日本が行き着くモデルはどういう感覚で先生が御覧になっているのか、それを是非お聞きしたいと思います。
  103. 山口二郎

    公述人(山口二郎君) 私はやっぱりイギリス型の政治制度、行政制度を勉強してきまして、日本の議院内閣制と近いわけですし、そういう意味では日本にとってやっぱり一番目指すべきモデルはイギリスだと思います。  イギリスの場合は、やはり行政官というものが、政治が打ち出した方向を具体化するというところに自らの役割を見出しているということで、そういう意味で行政が中立的であると。やはり、価値観の選択、方向付けということをきちっと政治が行って、それを肉付ける作業というものを行政官、シビルサーバントが行うという、こういう役割分担をきちっと徹底するということが日本にとっても必要だと思います。
  104. 山本一太

    山本一太君 いろいろお聞きしたいことはあるんですが、ここで外交・安全保障の方に行きたいと思いますので、落合公述人に御質問させていただきたいと思います。  先ほどお話を伺って、大変生々しい体験、正当防衛と緊急避難というルールの下で派遣をされて、三インチ砲しかない、まさに装備が十分でない無防備のような状態で現地に派遣されて、やはり護衛艦が必要じゃないかと思ったお話とか、あるいは国際協力の重要性を肌で感じられたとか、日米協力の重要性を知ったとか、隊員の使命感に大変感銘を受けられたと、こんな大変生々しいお話を伺って、このペルシャ湾の掃海艇の作業というものは国際的に非常に高い評価を受けたと、日本の技術はレベルが高いという評価を受けたという話を思い出したわけなんですけれども、このペルシャ湾の掃海作業というのは、ある意味でいうと、今は自衛隊法ではっきり本体業務に、本来業務に位置付けられた国際協力業務の言わばこれ先駆的な活動だったと思うんですね。  落合公述人が現役で活躍してこられたときと比べると、PKO協力法もできたり、あるいはイラク特措法もできたり、随分日本もPKOで実績を積んできたわけなんですけれども、実際にこの先駆的な活動に参加をされた立場から、今のPKO協力についての評価、あるいは今後の課題みたいなものについて率直な御意見をいただければと思います。
  105. 落合たおさ

    公述人(落合たおさ君) 先生御指摘のとおり、平成三年のペルシャ湾派遣以来、本当にいわゆる自衛隊のPKO関連の進展というのは目覚ましいものがありまして、平成四年にはもう法律ができちゃう。それから、カンボジアに行く、ルワンダに行く、それから佐藤先生が活躍したイラクにも行くということで、本当に目覚ましい活躍でした。  その間、大変に陸海空の自衛隊員たちの士気の高さといいますか、規律の良さ、これが国際的に認められて、願わくば、もうちょっと何といいますか、隊員たちが、部隊が自由にできるように、今回は海賊新法が制定されつつありますけれども、それと同じような、部隊の指揮官として佐藤先生なんかが一番困難な、苦しく思ったのは、要するに身分と権限だと思うんですね。それが手足縛られたような形で行っているんで、それがだんだんだんだん改善されつつあるけれども、まだよその国と比べると普通ではないというのが実感であります。
  106. 山本一太

    山本一太君 続けて落合公述人にお聞きしたいと思うんですけれども、先ほども出たソマリア沖の海賊対策で、海上自衛隊の二つの船がもう出動しています。  先ほど、当時落合公述人がペルシャ湾に行かれたときはほとんど無防備のような状況だったと、しかも正当防衛と緊急避難しか武器は使えない状況だったと。今、これから議論が始まる海賊対策の法案では、いわゆる危害射撃というか、停船射撃みたいなものも認められたということで、これは先ほどのお話ですよね、そのお話ともマッチする部分があると思うんですが、この状況を見て、もちろんこれ法律が通らないといけないわけなんですけれども、この海賊対策法が成立をしたと、日本がこれからほかの船についても恐らく守れるようになるという形になる中で、落合公述人が見て、これで十分なのか、何か実際のオペレーションに参加されて、心配な点、依然残っている課題というのがあれば教えていただきたいと思います。
  107. 落合たおさ

    公述人(落合たおさ君) 新法の案を見ますと、今までできなかった、近づいてくるもの、これは一言簡単に言っていますけれども、現地であの広い海でその小さなやつが本当にどういう意図を持っているかというのは大変難しいことであります。それで、今までですと、正当防衛、緊急避難ですから、何かやらなきゃやっちゃいかぬよというばかな話であります。ですから、今回はそれが近づいてきて、しかも事前に警告する、それでもなお聞かない、そのときは警告射撃ができる、その次にさらに従わなかったらできるということで、大分派遣された部隊の指揮官は気が楽になったと思いますが、そういった意味で、是非これを制定して隊員たちが安心して働けるようにお願いしたいと思います。
  108. 山本一太

    山本一太君 続けてお伺いしたいと思うんですが、今北朝鮮が人工衛星を打ち上げると予告しています。これは人工衛星であろうが何だろうが、当然、二〇〇六年の安保理決議に違反をするわけで、これは日本政府も繰り返し明言をしていると。アメリカも、もちろん韓国も、そしてヨーロッパの国々もこれは安保理決議違反だというふうに言っているわけなんですが、万が一北朝鮮がこの実験を行った場合、場合によってはBMD、ミサイル防衛システムを稼働させて迎撃するということになります。これはもう釈迦に説法ですけれども、まず最初に海上自衛隊のイージス艦から発射されるSM3で迎撃して、そこで撃ち漏らしたやつは地上配備のPAC3、地対空ミサイルですかね、これで破壊するということになっているんですが、私はこのBMDシステムというのはまさに海上自衛隊を中心に進んでいると思っているんです。新しいイージス艦に対応する能力向上型のミサイルの予算ももちろん議論されているわけであって、ここから本当に海上自衛隊の役割というのは大きくなると思うんですが。  こういう事態に際して、まさに海上自衛隊におられた立場から、ミサイル防衛の運用についてどういうふうなお考えを持っているのか。  さらに、恐らくイージス艦でミサイル防衛を担当する職員には高度な訓練が必要だと思うんですけれども、それにはもちろん予算も掛かるし時間も掛かると思うんですけれども、そこら辺について、実際海上自衛隊におられた立場から少し御意見を伺えればと思います。
  109. 落合たおさ

    公述人(落合たおさ君) 山本先生が御指摘のとおり、練度を上げるのは大変に時間と費用が掛かります。しかし、そうしなければ、いざというときの力になりません。したがって、やはり時間と費用とを掛ける。  それから、もう一つ私がお願いしたいのは、政治の決断です。朝鮮半島と国土とは本当に何秒という話ですから、そのときに本当にトップが決断されますか。自衛隊は政府の決断によって動くんです。自衛隊だけで動くんじゃありません。海上自衛隊のイージス艦が撃つか撃たないか、これは政治の決断であります。ひとつよろしくお願いします。
  110. 山本一太

    山本一太君 時間もう二分になったんで、最後の質問にさせていただきたいと思いますが、ちょっとここにメモしてきたんですが、防衛省改革についてちょっと伺いたいと思います。  防衛省改革については、昨年、官邸の防衛省改革会議の報告書が出ました。これによれば、平成二十一年度から、例えば防衛参事官制度の廃止、防衛大臣補佐官の新設なんかが始まるということで、特に二十二年度からはいわゆる制服組とそれから背広組、ユニフォームとシビリアンを、これを混在させて、共同体制を確立する組織改革がいよいよ実施されるということになります。これによって、内局の防衛政策局に自衛官が来る、あるいは内局の運用企画局廃止したり、統合幕僚監部への機能移行とか、いろんなことがあるんですが。  これ最後の質問になって、あと一分ぐらいなんですが、御自身の制服組としての勤務経験を踏まえて、この防衛省改革についてどう思われるか、率直にお聞きしたいと思います。
  111. 落合たおさ

    公述人(落合たおさ君) 大分改革されてくると思われます。本来そうあるべきだと私は思います。制服の者がそういうところに入れないというの自体がおかしな話でありまして、軍の、軍という言葉を使うと怒られちゃうかもしれないけれども、部隊の運用は制服サイドの者が一番よく知っているわけです。その辺の改革を是非進めてもらいたいと思います。
  112. 山本一太

    山本一太君 もう多分回答の時間もないと思うので、これで終わります。
  113. 荒木清寛

    ○荒木清寛君 公明党の荒木です。  両公述人には、今日はありがとうございます。  まず、山口公述人にお尋ねいたします。  私たちも既にもう少子高齢社会に突入しているわけですから、我が国はもう福祉社会の道しかあり得ませんので、先生が言われているように、小さな政府は国民を不幸にするということについては賛同いたします。ただ、その前段で言われた構造改革の誤りを率直に認めるということがもしこの小泉改革を全部否定するという、そういう趣旨であればちょっと違うんではないかと思うんですね。  この前段にも公共事業のお話がありましたが、小泉改革で公共事業は毎年削減をしまして、確かにそのことが地方経済の疲弊につながったことは事実なんですが、ただ、もうそういう公共事業の大盤振る舞いをできるような財政状況ではなかったし、また地元に行きましても、有権者からは本当にもう無駄な事業はやめろという声が渦巻いていたわけですね。ですから、そういう中での選択というのはもうあれ以外なかったと思いますし、あるいは不良債権の処理にしましても、もしこれをしていなければ今の金融危機の中でもっと大変な状況になっていただろうなというふうに思うんですね。  そうしますと、これまでの政策を評価すべきは評価し、ただ弊害ですとか行き過ぎた点は具体的に軌道修正していくというのが今我々の取るべき政治の選択ではないかというふうに思いますけれども、この点の御見解をお願いいたします。
  114. 山口二郎

    公述人(山口二郎君) 小泉時代の改革で何かいいことがあったかと言われますと、私はちょっと思い浮かぶことが余りないんですけれども、確かに不良債権処理は進んだと、しかしながら、例えば旧長銀や日債銀の処分の過程で不透明な、まさに裁量的行政があったんじゃないかとか、いろんな疑問もあるわけですね。  それから、公共事業費を削減したというのは私は必要なことだとは思うんですけれども、やはり他方で、公共事業費を削減することによる地域経済への打撃をどのようにカバーするかという、そちらの言わばアフターケアがないままにばさばさ切っていったということでありまして、私、行き過ぎを改めるとか弊害という話じゃなくて、やっぱりそもそも目指すべき方向そのものが現在の日本にとっては的外れであったのではないかというふうに考えております。
  115. 荒木清寛

    ○荒木清寛君 小泉改革の中で増税議論というのはもう全く封印しまして、まず削っていこうというところでいろいろひずみがあったことは事実だと思います。  そこで、公述人も中長期的に増税は不可避というふうに言及をされましたが、当然すぐにという意見ではないと思いますし、それに至るプロセスといいますか、どういう手順を踏んでそうしたこと、そうした方向に持っていくべきなのか、お考えを聞きたいと思います。
  116. 山口二郎

    公述人(山口二郎君) トータルというか全体的な数字で申しますと、日本の国民所得に対する税、社会保険料のいわゆる国民負担率は四〇%弱ぐらいで、アメリカよりもちょっと多い、しかし、ヨーロッパのいわゆる福祉国家に比べれば十ポイントから二十数ポイントぐらい低いという状況でありますので、このままで福祉国家をつくるのは不可能であります。  私は、一方で、今増税ができる環境にはないとも思いますし、民主主義の中で国民の合意を調達する必要もあるというふうにも思います。やはり、目指すべき方向として、医療、介護中心にどういう福祉社会をつくるのかというそのイメージをはっきりさせた上で、そのためにこれだけ必要なんだというきちっとした長期展望と情報開示の下で増税論議をするということが必要だと思いますし、いずれ私は消費税も上げなきゃいけないと思いますが、例えば所得税の累進性をちょっときつくするとか、あるいは企業の従業員に対する年金、医療保険の雇主負担を非正規雇用の部分にも広げていくとか、そういったことをきちっとやった上で消費税増税という議論をすべきだと思います。
  117. 荒木清寛

    ○荒木清寛君 次に、落合公述人にお尋ねをいたします。  この間の国際協力についての自衛隊各位の御苦労には本当に敬意を表するものでございます。  それで、先ほど五点ありまして、特に国際協力の必要性ということをおっしゃいました。一方で、非軍事面のみでの協力でよいという、このことについては、何といいますか、それではいけないんだというお話でございました。一方で、普通の国といいますか、ほかの諸国がやっている同じステージで、条件で協力しなければいけないという意見もあるわけですね。  そういう中で我々が取ってきた道というのは、今の日本国憲法の解釈の中で、それはその解釈自体がガラス細工のようだという批判も一方ではあるんですけれども、精緻な解釈を積み重ねて、確かにほかの国とは違う在り方ですけれども、その中でできることとできないことを峻別してやってきたのが我が国の在り方で、私はこの在り方というのは、特にアジアの中で信頼を得ていく、あるいは国民のコンセンサスを得るという意味でも非常に現実的で評価すべき道だったと思うんですけれども。  一方で、ただ現実には、現場の中でいろいろ御苦労があったと思うんですね。日本独自の基準でいろいろ活動しなければいけないという点もあったと思うんですが、この国際協力といいますか、これまで取ってきた日本の国際協力の在り方について、今私が述べた点で何か御見解があれば伺いたいと思います。
  118. 落合たおさ

    公述人(落合たおさ君) 先生の御指摘のとおり、平成三年の湾岸戦争以後の我が国の取ってきました国際協力の道、平成四年にはいわゆるPKO法が成立しまして、それからもう十年来、本当にあっという間に定着といいますか進展しました。そして、それは国際社会で高く評価されております。  先生御指摘のとおり、何も日本だけがしゃかりきに張り切って何でもかんでもやるんだという必要はないと思うんです。やはりこれは国際社会の中で割り当てるというか、できる範囲のことを話し合ってやっていけばいいことであって、今までやってきた積み重ねは非常に大きいと思います。特にイラクの平和の再構築、佐藤先生大活躍されましたけれども、あれも非常に大きいと思っています。
  119. 荒木清寛

    ○荒木清寛君 落合参考人に、隊員たちの使命感ということをおっしゃいました。私も現場の隊員の、本当に日本人というのはそういう意味で非常にまじめといいますか、思うわけですけれども。一方で、一昨年、防衛庁の事務次官が逮捕されるという不祥事があったわけで、そうしたことが現場の隊員の士気に影響しなければいいなということを当時から心配しておったんですけれども、この点は、今はOBですけれども、大丈夫ですか、現場の隊員の士気といいますかね。
  120. 落合たおさ

    公述人(落合たおさ君) 大変残念でありますが、先生御指摘のとおり、ああいう事件が起こりますとがくっと来ます。ただ、こんなことに負けないでちゃんと前向いていこうよということで各部隊の指揮官は一生懸命、隊員に相当力を掛けていると思います。ただし、大変に残念なことと思っております。
  121. 荒木清寛

    ○荒木清寛君 以上、終わります。
  122. 井上哲士

    井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。  今日は二人の公述人の方、ありがとうございます。  まず、落合公述人にお聞きします。  実際に現場に行かれた方ならではの公述だったと思うんですが、今もお話ありました隊員の使命感ということなんですね。大変困難な現場での中でこれが大事だということを言われたんですが、実は私はふだん外交防衛委員会に所属しておりまして、昨年、前航空幕僚長の問題で、この場で参考人質疑もありました。  あの前航空幕僚長はいろんなことを書かれているんですが、使命感にかかわってこういうことを言われています。今や時代は変わって、自衛隊はインド洋やイラクまで出かけて行動する、これからは自衛隊を張り子のトラにしておくことでは済まない、行動する自衛隊は士気が高くなければ任務を遂行することはできないと、こう言われた上で、じゃ、どうやって士気を高くするのかと。我が国の歴史に対する贖罪意識を持っているようでは部隊を元気にすることはできないと。分かりやすく言うと、昔、日本は悪いことをやったと思っていたら士気が上がらないということで、あの方はいろんな歴史教育なんかもやられたようなんですが、そういうやはり過去の問題で、そういう立場でなければやはり士気が上がらないと、こういうお考えについてはどうお思いでしょうか。
  123. 落合たおさ

    公述人(落合たおさ君) 先生御指摘の、そういう歴史認識を持たなければ駄目だという意見もありましょう。しかし、現実、陸海空の部隊、我々がいたころの隊員たちというのはそういうものじゃなくて、やはり自分、先ほど申しましたように、国家国民のための奉仕、それに、国の命令に基づいて身の危険を顧みず自分でベストを尽くす、国家に奉仕し国民に奉仕する、そのこと自体を自分の名誉とする、そこに使命感ができてくると私は思っています。私もそういうふうにずっと指導してきたつもりであります。
  124. 井上哲士

    井上哲士君 次に、山口公述人にお聞きいたします。  先ほど公述の中で少しだけ郵政民営化に触れられて、この間話題になっているかんぽの宿の問題等にも少し触れられました。  お書きになったものを読んでおりますと、例えば、これは民営化というよりも私物化といった方がよかったんじゃないかというふうなことも言われているわけですが、この郵政民営化自体の評価、それからさらに、結局、官から民へというスローガンで何でも民営化ということが言われてきたわけでありますが、このこと自体へのお考えについていただきたいと思います。
  125. 山口二郎

    公述人(山口二郎君) 私はなぜ郵政を民営化する必要があったのかということについて納得いたしておりません。今になって、あのかんぽの宿の売却がけしからぬとか東京中央郵便局の局舎を壊すなとか言っていますけれども、民営化した以上はああいうことが起こるのは当然であります、金もうけをするために民営化したわけですから。ですから、やっぱり根本の目的がおかしかったということであります。郵便局というのはやっぱり社会のインフラでありまして、これを公共の財産として国営というか公営で維持していくということ、なぜ悪いのか、全く私には理解できておりません。
  126. 井上哲士

    井上哲士君 いわゆる官から民へというスローガンで何でも民営化よしという風潮がやられたこと自体についてはどうお考えでしょうか。
  127. 山口二郎

    公述人(山口二郎君) もちろん、日本は市場経済の国ですから、民間が頑張ってお金もうけすること自体は、言わば経済、社会の活力でありまして、そのことは全然問題ないと思いますが、本来、公共セクターが行うべき仕事、例えば保育所とか各種の行政サービスをどんどんアウトソーシングしていくということについては、これはいろいろな問題が起こる、安全性が低下するとか、あるいは公共セクターで非正規労働をどんどん増やすことによって言わば官製ワーキングプアが増えるとか、そういったものが起こるわけでありまして、やはり一律に官から民へというんじゃなくて、公共セクターと市場とのやはり役割分担というのを不断に見直していくということが必要なんだと思います。
  128. 井上哲士

    井上哲士君 構造改革を進める上で自己責任論というのが非常に喧伝をされました。収入も低かったり、いい仕事に就けないのは自己責任だという声が随分振りまかれたわけでありますが、今これ自体にいろんな見直しの声が上がっておりますけれども、こういういわゆる自己責任論が果たした役割やこのこと自体についての公述人の御意見をいただきたいと思います。
  129. 山口二郎

    公述人(山口二郎君) 自己責任論というのは結局強者の論理ですよね。要するに、自分たちが成功した、金もうけができたのは自分たちが努力したおかげだ、逆に貧しい人、失敗した人に対しては努力が足りないからだということで、結局いわゆる社会ダーウィン主義というか、勝った者が偉いと、負けた者は駄目だから淘汰されたんだ、そういう議論になっていくわけであります。  しかし、やはり人間というのは、自分で選べない、あるいは自分責任ではとても制御できない事柄にいっぱい直面するわけですよね。どういう家庭に生まれるかとか、どういう場所に生まれるかとか、そういうことから始まって、自分責任じゃないことでやっぱり一生がかなり左右されることは事実なんでありまして、自分責任によらないことで不幸になるということを避けることこそが政治の役割だということを私は常に主張してきたつもりであります。
  130. 井上哲士

    井上哲士君 一言だけ。いわゆる第二のニューディール政策が必要だと言われていましたが、余り時間がないので中心だけ一言お願いします。
  131. 山口二郎

    公述人(山口二郎君) やはり建設公共事業というのは限界がある。やっぱり少しはやった方がいいんですけれども、必要な部分もあるとは思うんですけれども、やはり今後の環境を中心として新しい産業分野を切り開いていくという意味で、その技術開発、それから森林を中心とした環境保全、それから日本の場合は特に食料生産、食料自給率を上げていくという観点からの農業への投資、こういったことが今後の言わば日本版ニューディールの課題になってくるだろうと思います。
  132. 井上哲士

    井上哲士君 ありがとうございました。  終わります。
  133. 福島みずほ

    福島みずほ君 社民党の福島みずほです。今日はお二人の公述人、どうもありがとうございます。  まず始めに、山口公述人にお聞きをいたします。  おっしゃるとおり、今は新自由主義からハンドルを切り替えなくちゃいけない、つまりブレーキを踏むという問題ではなく行く先を変えなければならないというときだと思いますが、その行く先を変えるということができていないと思いますが、いかがでしょうか。
  134. 山口二郎

    公述人(山口二郎君) やはり、こういうことをこの場で申し上げると今の与党の方には誠に失礼なんですが、政策の方向を変える、ハンドルを切るということはやっぱり政権交代でしかできないと。アメリカでも共和党から民主党オバマに替わったことによって政策の転換が起こったわけでありまして、やっぱり権力の座にいる人が徐々に政策を変えようとしても根本的な転換はできないというのは、これは民主主義の国における言わば一般的な法則であろうと思います。
  135. 福島みずほ

    福島みずほ君 社会民主主義を日本で樹立するために頑張ろうと思い、実は国会議員になりました。この日本版第三の道、社会ということを大事にすることと普遍的政策をやっていく、自己責任だけでない連帯、共生、平等、公平、公正という社会をつくるということは本当にみんなのために必要だというふうに思っています。  現在も、公共サービスを切り捨てる、何でもかんでも公務員でやれというのは不経済ですし、問題ではあるんですが、公立病院、公立保育園がどんどん民営化され、PFIになったり失敗をしたり、まだこれが続いているわけですが、こういうことについてもどうお考えでしょうか。
  136. 山口二郎

    公述人(山口二郎君) 結局、地方自治体が非常に財政危機に陥って、アウトソーシングをすることによってコスト削減するということでおっしゃったような民営化が進むわけですよね。  やはりこれは議論の順番が逆なんでして、住民サービスとしてここまではきちっと公共的責任でやるんだ、そのためにはこれだけの財源が必要なんだ、したがってその税源ないし地方交付税はこういう形で確保するんだと、こういう順番で議論をしていかなきゃいけないのに、とにかく構造改革によって、三位一体と言いながら実は交付税がどんどん減ってくると。そういう中で自治体がもう財政的に苦しくなって、結局住民サービスを切り捨てるという形になっていくわけで、やっぱり議論の順番を根本的に変える必要があると思います。
  137. 福島みずほ

    福島みずほ君 去年、ギリシャ・アテネで開かれたソーシャリスト・インターナショナル、社会主義インターの五年ぶりの世界会議に参加をしました。世界中の社会民主主義政党が結集し、ヨーロッパは当然社会民主主義とても強いですが、今は南アメリカ、それからアフリカも大変社会民主主義政党が増え、新自由主義の潮流を変えようという、そういう会議でした。  山口公述人はヨーロッパの事情に大変お詳しいわけですが、是非多元的価値ということも政治に必要ではないか。政権交代で、二大政党制だけでなく、是非多元的価値が国会に必要だ、いかがでしょうか。
  138. 山口二郎

    公述人(山口二郎君) 日本の場合は、比例代表制が衆参両院にありますから、やっぱり多党制で、連立政権というものがこれからもずっと続くだろうと思います。  ただ、社民党の中には政権交代に及び腰だとか、連立政権に入りたくないという人がいっぱいいるようでありまして、そこのところは是非とも福島党首の指導力を発揮していただきたいと思います。
  139. 福島みずほ

    福島みずほ君 社会民主主義の樹立のためにお互い頑張りましょう。  落合公述人にお聞きをいたします。  今回のソマリア沖の派遣なんですが、私はやっぱり国会議員として、事前の同意も承認も説明もない。イラク特措法、テロ特措法は私たち社民党は反対をしました。しかし、少なくとも法律の論争というのはあったわけですが、今回、国会の事前承認、事前の同意、説明なく自衛隊が出ていくということに、やはり大きな危機感、一つ、民主主義的なコントロールという点で、そこに疑問をまず持ちます。  総理は代表質問の答弁で、応急処置的に出して、それから新法を作ると。それは極めて自衛隊の派遣という憲法上も問題となる大きなことに関しておかしいじゃないかと思いますが、いかがでしょうか。
  140. 落合たおさ

    公述人(落合たおさ君) 私の方はそういう立場でないんですけれども、我々は、政府が行けと、全部国会というか、政府の決意で行っていますので、自衛隊自身がのそのそ行くとか、そういうことは絶対あり得ません。国の決定で動いているわけです。
  141. 福島みずほ

    福島みずほ君 だからこそ、政府の決定、それから国会の関与や国会のコントロール、あるいは国会の決意ということがとても重要だと思います。  社民党は、機雷の除去や、社民党自身が地雷防止、クラスター爆弾の廃止、劣化ウラン弾の廃止はまだできていませんが、あと核の廃絶など努力をしたいと、努力中というか、頑張ろうと思っていますので、今日、落合公述人の機雷除去の努力の話などは非常に心を打つものでした。  ですから、平和的なことであるいは非軍事的なところで国際貢献というところは大歓迎なんですが、イラク違憲判決、名古屋高裁で確定をしたイラク違憲判決は、イラク特措法が合憲だとしても自衛隊が行くことは戦争をやっていることになるんだ、だから違憲だという判決を出しましたが、これをどう受け止めていらっしゃいますでしょうか。
  142. 落合たおさ

    公述人(落合たおさ君) 私、そういう辺は分かりません。国とそういった係争中のことはよく分かりませんけれども、だといって、それでは日本が何にもしなくていいのかと、こういう話は確かであると思います。
  143. 福島みずほ

    福島みずほ君 山口公述人に、もう時間があと一分なんですが、まず何をなすべきか、三点だけ言ってください。済みません、何か変な質問で、社会民主主義の樹立のために。
  144. 山口二郎

    公述人(山口二郎君) やはり社会福祉、社会保障分野、特に介護、医療に予算をうんと増やすということですよね。それから、教育面で、経済的事情で学校教育を受けられないという人間をゼロにするということ。三つ目、やっぱり地方交付税をもうちょっと増やして自治体の行政サービスの基盤をつくる。取りあえずこれだけあれば日本社会はうんと良くなると思います。
  145. 福島みずほ

    福島みずほ君 終わります。ありがとうございました。
  146. 荒井広幸

    ○荒井広幸君 今日は長い時間ありがとうございました。  落合公述人にお尋ねしますが、私、消防団に行ったときに、入ったこともないものです。しかし、ああやってボランティアでやっていただける、有り難いと思って。ラッパ隊が吹くわけです、パッパカパッパッパーと。そうすると、どうやっていいものか分からないわけです。で、こうおじぎをしておりますが。  だれから押し付けられるものでもなく、先ほど百八十八日間の日本人と日本を守るための使命感に基づく御苦労のお話を聞きまして、心から敬意を表するわけですが、そういうときにどういうふうに体で表していいかと。武官の方はこうやるでしょうけれども、私は心臓の上にこう手を当てるというのはどうかなと、こういうふうに思っておるんですが、そういう我々の側の使命感も行動も取りますという表現でもあり、相手に対して自然な意味での敬意を表する。これは押し付けで決めるわけではないですが、どんな取り方があると思われますか。
  147. 落合たおさ

    公述人(落合たおさ君) 今先生がおっしゃったことで一番正しいんじゃないでしょうか。
  148. 荒井広幸

    ○荒井広幸君 ありがとうございます。  というのは、非常に大きなところなんです。自衛隊員の身分の明確化、位置付け、これ本質ですよね。そういう意味におきまして、私はこういうふうに、みんながそれを、押し付けではなくて、本当にそういうふうに思うのであれば、あるいは違う局面で自分責任を果たすというあかしにもなるようにそういう一つの形というのはあっていいんじゃないかと、このように思っている次第です。  さて、山口公述人には、政権交代はさておきまして、時折私は理論的に学術的に先生のを納得して私も使っているところがあるわけでございまして、お礼を申し上げますが、非常にお話の中で私も同感と思いつつ詳しく聞きたいと思いましたことは、現在、社会経済が疲弊してきている、基礎体力の消耗だと。この基礎体力、先ほどのお話の中でおおよそ意味は通じるんですが、改めて社会の本当に大切な要素、基礎体力というのはどの点を示されているんでしょう。
  149. 山口二郎

    公述人(山口二郎君) やはり大人の人間がきちっと仕事に就いて収入を得て、自分の得た収入で生活をしていく、それから結婚して家族を持って子供を産んで育てていくということ、こういうことが当たり前にできる社会が基礎体力のある健全な社会だと思うんですが、今は安定した仕事がない、若い人はなかなか結婚できない、まして子供をつくれないと。こういう状況で、社会そのものの存亡がこれから脅かされてくるということを申し上げたかったわけであります。
  150. 荒井広幸

    ○荒井広幸君 五年ぶりで、山口公述人、私、結婚式の仲人をやったんです。最近、仲人を立てる結婚式に呼ばれたことがございません。落合参考人、先生方はいかがです。本当に仲人いないんですね。あれ仲人にお礼しなくちゃいけないから嫌なのかなとかいろいろ思いますけれども。実は、先ほどの山口先生のお話にもありましたように、ここにもまたリスクの社会化というものからどんどん懸け離れたものがあると思うんですね。困ったときには仲人が、私の父親、母親の世代を見てもございました。何かあるとやっぱり仲人様に言ってこいとか、家族では言えないから仲人から言ってもらうとか。そういうことを含めて、いわゆるリスクの社会化、私の言葉で言うと、私は思いやりの改革というようなことを言ってずっと選挙をやってきたんですが、助け合いというものをそのコアに入れているんですが、お互いに助け合っていく、理解し合っていく。私もそんな立派なことは言えないんですが、だからこそないと思って言っているんですが、助け合うという意味での世の中の回し方というのがあるんだと思うんですね。  例えば、アメリカ型の資本主義、市場原理についても同じだと思うんですね。計算してみますと、本当に金融だけがもうかっているんですよね、アメリカの富というのは。そして、それが何%の人かに偏っている。それで、今度もまたどこでしたか、大統領がボーナス出すな、金出すなと言って、のほほんとやっているわけですよ、今も。こういうのを見ましても、困っている人がいるということを分かっていながらもらえるという感覚はちょっと分からないんですが。  助け合う、こういうような気持ち、そういう気持ちを復活させて、その助け合いの仕組みを市場原理にも入れ込む、そして政治の、あるいは政府部門にも入れ込む、そしてもう壊れてしまいそうな地域や家庭、そういう地縁、血縁、こういったところにももう一回組み込むことというのが必要だと思うんですが、そういうものについての先生の御見解ございましたらお教えください。
  151. 山口二郎

    公述人(山口二郎君) 誠に同感であります。  私、荒井先生の政治家としての行動を非常に尊敬しておりまして、良き意味の保守政治というものを今受け継ぐ非常に数少ない方だというふうに考えております。つまり、小泉時代に自民党が良き保守政治から完全に離れてしまった。弱肉強食、金もうけ万能の思想に染まってしまったというふうに私は大変憂慮しております。  コミュニティーというものを守っていくためには、やっぱりコミュニティーとか地域社会ですね、ちゃんと仕事があって、また公共サービスを提供してというやっぱり土台が必要でありまして、そういう意味で、特に田舎の方は自立的経済というのはやっぱりなかなか難しい。やっぱり公共セクターがある程度仕事をしながら地域を支えていくということはこれは不可避なんでありまして、そういう意味で私はやっぱり郵便局なんていうのもそういう非常に大事なインフラであったというふうに考えています。  ともかく、結論をもう一回申しますと、保守政治というものが持っていた、本来そういうコミュニティーを大事にしていくという精神を今やっぱり思い出さないと日本の世の中これから本当に変になっていくということを大変憂慮しているわけであります。
  152. 荒井広幸

    ○荒井広幸君 実は、こうしてお話しするのは先生とは初めてでございますから。  最後に、先ほどの、手順と順番を狂うと違う方向に行く、私全くそのとおりだと思うんです。ですから、大方の方がやっぱり意見が違う時代ですし、しかし、納得はできなくても、そうかというその助け合う気持ち、思いやりで寄り添うことはできるんですね。そうすると、小泉改革の一番の失敗というのは、いいところもありました、しかし最大の失敗は自分を押し付けたことだと思うんです。これはやっぱりやるべきでなかっただろうなというふうに思っていますので、やはり我々参議院に籍をみんなで置くわけで、超党派でやるべきことをやっていく、その手順やプロセスに大勢の人が共感、賛同を持って、それが権威となって、権威付けとなって、ある程度納得できない人も、じゃ協力しよう、こういうことになっていくんじゃないかと思っているわけです。  今日はありがとうございました。
  153. 溝手顕正

    委員長溝手顕正君) 以上で公述人に対する質疑は終了いたしました。  この際、公述人の方々に一言お礼を申し上げます。  本日は、有益な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございます。委員会を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。(拍手)  速記を止めてください。    〔速記中止〕
  154. 溝手顕正

    委員長溝手顕正君) 速記を起こしてください。     ─────────────
  155. 溝手顕正

    委員長溝手顕正君) それでは、引き続き公述人の方々から御意見を伺います。  この際、公述人の方々に一言ごあいさつ申し上げます。  本日は、御多忙中のところ本委員会に御出席を賜りまして、誠にありがとうございます。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。  本日は、平成二十一年度予算三案につきましてお二方から忌憚のない御意見を拝聴し、今後の審査の参考にいたしたいと存じますので、何とぞよろしくお願い申し上げます。  次に、会議の進め方について申し上げます。  まず、お一人二十分程度で御意見をお述べいただいた後、委員の質疑にお答え願いたいと存じます。  委員の質疑時間は限られておりますので、誠に恐縮でございますが、答弁は簡潔にお願いをいたしたいと思います。  それでは、社会保障・国民生活について、公述人横浜国立大学大学院国際社会科学研究科准教授井手英策君及び神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部教授山崎泰彦君から順次御意見を伺います。  まず、井手公述人にお願いいたします。井手公述人
  156. 井手英策

    公述人(井手英策君) 今、御紹介いただきました井手でございます。今日はお呼びいただきまして、どうもありがとうございます。  今お手元に資料があるかと思いますので、こちらに沿ってお話をさせていただきたいというように思います。  本日のテーマを一言で申し上げますと、先ほどちょっと私ここに来る直前の議論でもあったようでございますけれども、人々をつなげていくための政策というのは一体どういうものなのか、こういう観点からお話をさせていただきたいと思っております。タイトル社会保障と国民生活ということでございますので、今の国民の置かれている社会の状況というものを念頭に置きながら幾らかお話をさせていただければというように思っております。  一枚おめくりください。  現在、格差社会、まあ二〇〇六年ぐらいから格差社会という言葉が度々人口に膾炙しておりますけれども、この格差社会、不思議な言葉です、私にとっては非常に不思議な言葉です。なぜかと申し上げますと、格差というのはいかなる国、いつの時代においても存在している。しかもそれが、現在が例えば高度経済成長期と比較しましてひときわに格差が広がっているというわけではありませんが、人々が格差をなぜか認識し、それが社会問題であるというように考えるようになっている。  そのときに私が今日一つキーワードとしてお示ししたいのが人々の信頼感、特に政府に対する信頼感の問題でございます。  一番最初に、これは先進国だけではありませんで、途上国も含めた人々の政府に対する信頼度を調査しました国際統計でございます。質問はいろいろございますが、幾つか印象的なものだけピックアップいたしますと、例えば、政府は私の考えることに無関心であるという質問に対しまして、強く賛成ないし賛成と答える人が七五%に達しており、これが先進国、途上国を合わせた国の中で下から、まあ上から八番目に高い数字ということですが、下から九番目に悪い成績ということになります。  同様に、例えば公務員のところを御覧いただきますと、上から四つ目になりますが、国民に奉仕をしている、そうだと思う人は一七・五%で、これは二番目に低い数字、あるいは自分の過ちを修正する、これも同様にそう思うという答えが二三%で同じく下から二番目に低い数字、三番目ですね、というようになっています。  こういった数字を御覧いただくと分かると思うんですが、人々が政治家ないし政府、公務員に対して抱いている信頼感というのが実は九〇年代の終わりごろから決定的に崩れてまいります。このことが人々をして他者に対して不信を感じさせる、格差を気付かせることの一つのきっかけではないのかというのが今日の問題提起であります。  一枚おめくりください。  こういった前提で考えてまいりますと、実は不思議なことに気付かされます。それは何かと申し上げますと、信頼が高い状況と信頼が低い状況では同じ財政政策でも異なるインパクトを持つという事実であります。  やや具体的に申し上げますと、もうこれはマスコミ等で随分騒がれておりますので大体皆さんの印象と同じではないかと思いますが、例えば、政府に対する不信感が非常に強ければ、まず第一に増税の前に歳出を削減しなさいという国民の要求が出てまいります。しかしながら、公共事業を減らす、福祉を減らす、あるいは今日の状況のように非正規雇用も含めた雇用の流動化が進む、格差が広がるといった状況の中でこういった政策を打てば、言うまでもなく所得逆再分配的な政策、つまり人々の所得を減らすような方向に作用いたします。しかしながら、社会的な弱者が増えていけば福祉に対するニーズは増えてくる。  つまり、ここで言いたいのは何かといいますと、歳出を減らすと赤字が減ると我々は考えてきたわけでありますけれども、人々の不信感が高まっている状況の中で歳出を切っていくと、なかなか増税のできない状況が生み出されることによって税収が減るという形で赤字が増える可能性があるんだ、少なくとも小泉改革以降、我々が経験したことはそういうことではなかったのかということでございます。  ですから、問題だったのは、政府が大きいか小さいかではない。大きくても税収が多ければ赤字は少ないんです。小さくても税収が少なければ赤字は大きくなる。ですから、そういった観点で、なぜ日本は、特に戦後最長の好景気を享受しながらも増税ができなかったのかということを考えなければいけないと思うわけであります。  一枚おめくりください。  信頼が崩れているということを今日申し上げましたけれども、ソーシャルキャピタルセオリーという、今社会科学で恐らく最も注目を集めている議論の一つによりますと、人々の信頼をつくるためには一つの明確な条件があるということが明らかにされつつあります。その条件とは何かといいますと、今日の二つ目のキーワードでありますユニバーサルデザインの福祉サービスが重要だという事実であります。  このユニバーサルデザインという言葉はなじみのない方もおられるかもしれませんが、一言で言えば所得審査が不要である、そして裕福な人も貧しい人も平等に受給できるサービスのことをユニバーサルサービスというふうに申しております。言うなれば、一言で言いますと、あらゆる人々がひとしく取り扱われるということへの確信が人々の信頼を強化する。ですから、福祉サービスの内容を現在のターゲット主義、いわゆる貧しい人のみに福祉を出すやり方ではなくて、裕福な人もそうでない人もみんな、例えば子供が生まれれば児童手当を出しましょう、あるいは図書館であれば所得の多寡に関係なく使えるようにしましょう、社会をユニバーサルにデザインしていくことが信頼を強化する一番の手だてであるというような議論が今活発になされているわけであります。  一枚おめくりください。  では、当然、一つ疑問がわくわけでありまして、なぜそのユニバーサルデザインがそんなにすばらしいのか。大きく三つポイントを指摘したいと思います。  一つは、所得審査を伴うターゲット主義でやりますと、救済してもらうというその人々の意識自体が疎外感となって現れてしまうという事実が一つございます。アメリカが典型でありますけれども、低所得者がフードスタンプをもらう、このフードスタンプを使えば食料を買うことができる、しかしながら、列に並んでいる人は、あいつは税金を使って酒を買っている、あるいはあいつは税金を使ってたばこを吸っているじゃないか、そういった目で人を見てしまう、そういうこと自体が人々の信頼感を損ねるというのが一つ目の理由であります。  もう一つは、これは自治体関係することでありますけれども、この住民は貧しくて救済できる住民、この住民は貧しいけれど救済しない住民と選別をすることが住民の意識にマイナスの影響を与える。あるいは、そもそもその自治体職員が、ああ、こいつはもしかするとうそをついて生活保護をもらおうとしているのではないかというふうに人々を猜疑心を持って眺めること自体、人々の信頼を損ねる作用がある。  第三のポイントとしまして、中高所得者層は負担者になり、そして低所得者層が受益者になりますので、負担と受益の対立が生じてしまう。これは七〇年代終わりのアメリカもそうですし、恐らく今の日本もそうだと私は考えておりますけれども、福祉を減らして増税をするなというのが合い言葉になるんですね。これはなぜかというと、中間層が受益者になれないためです。  こういった観点から、ユニバーサルデザインにすることは、あるいは選別主義、ターゲット主義を採用することは人々の信頼を損ねる、ゆえにユニバーサルに切り替えていくことが重要だと、こういうふうな議論になるわけであります。  一枚おめくりくださいませ。  ただ、このように申し上げると、必ず反論が出てまいります。  それは何かというと、まず一つ目、ユニバーサリズムということは、あらゆる人に福祉を配るのであれば、それは恐らく大きな政府になりますね、高福祉高負担になればそれは非効率ではありませんか、こういう批判が必ず出てまいります。しかし、現実を見ると、アメリカの医療費の対GDP比でございますけれども、大きな政府で有名な北欧諸国の一・六倍から一・八倍に達しているという現実がある。理由は単純であります。民間で医療保険を扱えば、それは民間会社は配当を出さなくてはいけませんので保険料を高くしなくてはならない、そういった観点から一人当たりの医療費が高く付くということでございます。  二つ目、大きな政府民間の経済活動を圧迫するというような批判がございます。しかしながら、現在、北欧諸国を御覧いただきますと分かりますように、経済成長率は日本よりも高いわけであります。このときによく言われるのが、いや、北欧は小さいじゃないか。ところが、経済学の教えるところによりますと、規模のメリット、スケールメリットという概念がありまして、つまり大きくなれば大きくなるほど効率性が働くというのが経済学の教えるところでありますから、人口が小さいから効率的であるというのは本来の経済学の考え方とはそぐわないわけでございます。  最後に、選別主義、ターゲット主義の方が効率的ではないかという批判がございます。一つ申し上げておきたい、今日はここポイントになりますけれども、全員に福祉を配ると格差は是正されないんじゃないのかと普通考えてしまいますが、そのようなことはございません。ユニバーサルな形で福祉を供給しても、人々の格差を是正することはできます。  それともう一つは、選別主義でやりますと、先ほど申し上げましたように、中間層は負担者、そして貧しい人は受益者、そういった形での分断が進むと、間違いなく政治的多数である中間層が増税に反対するんですね。そういう意味で、フリーランチを食べさせるなが合い言葉になってしまう。言わば制度としての持続可能性が低まってしまうというのが選別主義の問題なわけであります。  おめくりください。  今、ユニバーサルで福祉を供給することでも格差が是正できるということを申し上げましたので、ごく簡単な資料をお目にかけたいと思います。  これは、一番左側、ABC三人の当初所得二百、一千、二千という形で当初所得を設定しております。税金を三〇%の税率で掛けますと、六十、三百、六百という形で税金が取られることになります。これを引いた課税後所得が百四十、七百、一千四百ということになるわけでありますけれども、これに対して、例えば、例えばですけれど、一律で家族給付を百万、百万、百万と出してみたらどうなるかということを考えてみればいいわけです。そうすると、最終所得はこの百万を足し合わせた一番右側の数字ということになります。  当初、二百万と二千万の間では十倍の格差がございます。しかしながら、一律の給付を含めた最終所得の二百四十と千五百の格差で見ますと、これは六・三に修正されるわけであります。このように、ひとしく福祉を供給することによっても格差を是正することは当然できるということをお示ししておきたいと思います。  それともう一つ、先ほどの誤解と関連いたしまして、大きな政府は非効率であるという批判に対してでありますけれども、スウェーデンの幾つかの統計を今日は持ってまいりました。これはスウェーデンだけではなく北欧諸国四か国挙げても大体同じような数字を取ることができると思います。  一つのポイントは、税収のGDP比を見ますと、先進国で一番高い数字になっているわけであります。同時に歳出水準を見ても、先進国でほぼ一番高いと言っていい数字になっております。しかしながら、我が国よりもはるかに財政赤字は少ないわけであります。  それともう一つ、ジニ係数、所得の平等度を測っている指数でありますけれども、これを見ても先進国で一番平等度が高い。  そして、下から二番目を御覧いただきますと、国際競争力ランキングというのがございまして、これは先進国で四番目の数字となっている。  つまり、大きな政府であったとしても、効率的にあるいは国際競争力を実現することは十分可能だということをここでは申し上げておきたいわけでございます。  一枚おめくりください。  では、そういった人々の信頼が崩壊していこうとする状況、そういう状況の中で財政赤字がどんどん増えていく。じゃ、税収を上げるためにはどうしたらいいか。人々の信頼が大事であって、ユニバーサルサービスが大事だということを今申し上げましたが、現状の日本の福祉国家はどういう形になっているかということを、もう皆さん御存じだと思いますが、確認してみたいと思います。  一つは、戦後日本の福祉国家の特徴は、公共事業によって雇用を保障してきたという点であります。こうすることによって、通常であれば、ここがもしも貧困ラインだとすると、ここを割り込んで生活保護の受給者になりそうな人を雇用保障することでこちらに来ないようにしていたというのが日本の仕組みであります。ですので、社会保険制度によって、つまり保険料の払える人は受益者になれるという仕組みの下で非常に小さい福祉を実現してきた。これは、逆に言うと保険料を払えない人は受益者になれないわけですけれど、そういう人には公共事業を通じて雇用を保障してきたというのが日本のやり方だったわけであります。  しかしながら、御存じのように、近年においては公共事業の削減によって、元々であれば、保険料を払えなくて受益者になれない、だから生活保護等々によって助けてもらっているという、言わば社会的スティグマというふうに我々は言いますが、失格者の烙印を押されるという言い方をしますけれど、そういった人々が、職を得ることでそうならずに済んだ人たちが、公共事業がなくなったことによってこちら側に来てしまっている、公的扶助の受給者になってきているというのが現状の問題としてあります。もちろん、景気が良ければ非正規雇用の形で吸収されていたわけでありますけれども、そこが派遣切り等々を始めてしまえば生活保護の受給者の方に回ってこざるを得ない。  もう一つは、高齢化が進展してくると、当然のことながら無年金者の存在に光が当てられるようになってまいります。ですから、同じ社会保険の仕組みの下でも、社会保険制度の受益者になれる人となれない人が明確に区切られてきているのが今の状況だと思うわけです。ですから、こういった形を分断型の福祉国家というふうに私は呼ぶようにしております。こういった社会保険方式を前提とする社会の分断というのは、財政危機をもたらすという点に注意しておく必要があると思います。  一枚おめくりください。  一つは、納税者が二重の意味で減少してまいります。それはどういうことかといえば、一つは、非正規雇用が進むということは所得が低下するということでございますので、これはよくいろんな統計で出ていますが、女性が結婚する一番の理由は男性の経済力であるといったときの男性の経済力がどんどん低下していっているわけですね。あるいは、女性自身がまた二極分化していて、要は職に就くことができて、それで結婚が遅れてくる女性、あるいは子供が産みにくくなっている女性も増えてまいります。そして、結婚できない男性が増えれば当然子供の数も減ってまいります。これは、結婚できている女性の出生率で見た完結出生児数がほとんど横ばいで来ているという事実でも明らかになるわけでありますけれども、結婚していない人が増えて、子供が減ってくる。そうすると、根本的に納税者が減ってくるわけですね。これが第一の点。  もう一つは、言うまでもなく、非正規雇用化が進めば低所得化が進みますから、納税者の所得が減ってくる、つまり税収が減るということになるわけであります。さらには、年金保険料や医療保険料が払えなければ、年金制度の不安定化や医療制度の不安定化は当然促されてまいります。さらには、失業給付、雇用保険を通じた失業給付が増えたり、あるいは生活保護受給者が増えれば、当然公的扶助の支出も増大してまいります。こういった形で歳出の増大圧力も高まってくる。  ですから、実は、公共事業を打ち切ることによって財政支出が削減できる部分は当然ありますけれども、それをやめて雇用の非正規化を進めた結果、実は今、異なる形で財政支出の増大圧力が働こうとしている。ですから、そこをトータルで考えなければいけない。しかも、ユニバーサルに制度を仕組んでないために、人々の信頼が低下していて、そのことが増税の困難さに結び付いているということを指摘したいわけであります。  ここで強調したいのは、ヨーロッパにおける税方式への流れという点であります。これは、一言で言いますと、保険料を集めて、保険料を払える人だけを受益者にするという理念ではなくて、税を通じてあらゆる人を受益者にするという仕組みに今ヨーロッパでも変わりつつある。特に、社会保険モデルを使ってきたドイツ、ビスマルクモデルと言われるような所得比例型の社会保険を使ってきたドイツやフランスにおいても税方式への移行が進みつつあるという事実であります。  ドイツでは、御存じかもしれませんが、社会保険料の引下げと同時に付加価値税の増税を行いました。ただ、重要な点は、付加価値税三%上げたうちの一%を雇用保険に使い、残りの一部を年金に使ったわけでありますけれども、同時に所得税の最高税率の引上げを行っているという事実であります。これは金持ち税という呼び方をすることもありますけれども、これを使って、消費税の増税と富裕者に対する課税をセットで入れたということですね。これを福祉の財源にしたというのが一つ。  フランスの場合で申し上げますと、同じように社会保険料を引き下げて、この財源としてCSGと呼ばれる一般社会拠出金を導入いたしました。この一般社会拠出金は、家族手当、老齢、疾病部門に使用されるわけでありますけれども、ここのポイントは、保険料に比べて、新しく導入された一般社会拠出金は課税ベースが広がっているということであります。もっと端的に言えば、資産所得に対する課税を織り込むことによって、富裕者に対する課税をここで入れてきている。ですから、ドイツと同じなんです。これを入れることでCSGの導入に国民が賛成しているという事実であります。  そして最後に、イギリスでは、給付付きの税額控除、負の所得税と呼ばれるものが導入されておりますけれども、この中では、日本も二〇〇二年に児童扶養手当の法改正が起きましたけれど、あのときの議論のように、福祉の、何といえばいいですか、受給者を減らす、支出を減らすという観点から法改正をするのではなくて、支出を増やすことで人々が就労可能な状況をつくりましょうというのがイギリスのやり方なんですね。支出を減らすために就労に追い込むといういわゆるワークフェアとは実は本当はイギリスは違っているという点、ここを強調しておきたいと思います。  いずれにしても、低所得者に対する配慮をしながら税方式に移行して、貧しい人も含めたあらゆる人が受益者になる仕組みを導入しているということがヨーロッパの流れとして言えるわけであります。  ちょっと時間がなくなってまいりましたので、次のページのユニバーサルな公共事業を目指してというところの一番をちょっと中心に、今日の関連しているところでございますから、お話をさせていただきたいと思います。  今申し上げましたように、医療、介護、年金等々を税方式で行っていけば当然支出が増えます。ここ増えないというのはうそです。増えます。しかしながら、それはまず雇用を生む重要なポイントになるということを確認しておきたいと思います。それは当然、今の状況を見ていれば分かるように、介護診療でありますとか、そういったものが結局十分に地方の方で現状に見合った形で決定ができなければ、そこで雇用を生み出そうと思ってもなかなか難しいです。ですから、そういった価格の決定権を地方に握らせるということ。それは同時に、実はコムスンのような価格競争ではなくて、民間を導入してもいいんですが、質の競争をやらせるということですね。つまり、価格を同じにすることによって質が良い方がニーズが増えてくるという仕組みをつくる、これが非常に重要な点になってくると思います。  それと、もう一点だけ言わせていただきたいのは、公共投資の中身を、実はこれまでのような新規の建設投資から維持補修型に切り替えていく必要があるということであります。これは、メンテナンスのための公共事業は二重で意味を持ちます。それは何かというと、一つ雇用を生むということです。もう一つは、実は、日々のメンテナンスを毎年の予算予算を平準化して出していくことによって施設を長寿命化できるんですね。これはもう実証されています。長寿命化できると実は将来の造り替えのコストが劇的に削減できます。ですから、維持補修の公共投資というのは実は将来の赤字を減らすための公共投資なんですね。こういった観点から公共投資の中身を組み替えていくことが大事ではないかと思います。  ここでのポイントは、福祉やあるいは公共投資の転換を通じて雇用を生み出すということです。こういった形を通じて、今までのような非正規の問題に対して日本型の福祉国家は雇用を保障するところに本質があったわけですから、今の非正規の派遣切りの問題をここで吸収していくような仕組みをつくっていくことが大切だということです。しかも、そうやって医療の中身、福祉の中身あるいは雇用の中身をユニバーサルに変えることによって人々の信頼を高めることができるということがポイントであります。  最後に十三ページを御覧ください。  今申し上げた点で一つだけ強調しておきたいのは、歳出が増えるという事実から目をそらしてはいけないということであります。しかしながら、こういった制度設計は実は大きな変化を財政にもたらします。  一つは、まず、雇用をうまく保障することができれば、中間層が分厚くなって税収が飛躍的に伸びるということであります。  次に、失業保険や生活保護の受給者も当然減ってくるという事実であります。  そしてさらに、保険料を払うことができれば、これは、税方式に切り替えれば今度は保険料ではなくなりますけれども、医療や公的扶助制度の安定化につながるということであります。あるいは、所得を増やしていけば、経済や企業収益の活性化、これは更に言えば法人税収となっても跳ね返ってまいります。  そして、今日のテーマでありますけれども、一番重要なポイントとして、中間層を受益者にするような福祉への改革、雇用政策の進展を進めることによって、実は中間層が受益者になると増税に対するコンセンサスが形成しやすくなるということなんですね。そして、人々の信頼が高まれば増税がしやすくなる環境ができてくる。これは逆に言うと、社会的な政府に対する信頼度が高いところは大きな政府と高い税収を実現しているという事実を間接的に表現したものでございます。  済みません。以上であります。
  157. 溝手顕正

    委員長溝手顕正君) ありがとうございました。  次に、山崎公述人にお願いいたします。山崎公述人
  158. 山崎泰彦

    公述人(山崎泰彦君) 神奈川県立保健福祉大学の山崎でございます。今日はお招きいただきまして、ありがとうございました。  ただいま井手先生の非常に壮大なロマンに満ちたお話を伺って、私もかなり感銘するところがありました。ただ、私は、差し当たって、今日は予算委員会でございますが、当面の社会保障が直面している課題に重点を置いたお話をさせていただきたいと思います。  一つは、恐らく今国会の最も重要な法案は国民年金法等の改正法案でございます。国庫負担の割合を二分の一に引き上げるというものでございます。これにより、当面、平成二十一年度と二十二年度については、特別会計から一般会計への特例的な繰入れによって二分の一への引上げの財源が確保されることとなります。しかし、これを恒久化するための安定財源の確保というのが大きな課題として残されています。また、法案では、附則の検討規定におきまして、基礎年金の最低保障機能の強化等に関する検討を進め、そのための安定財源を確保した上で段階的にその具体化を図ることを求めております。これも極めて重要でございます。  ところで、平成十六年の年金改正以来、与野党の間で年金改革が大きな争点になってきました。その一つ社会保険方式か、今、井手先生もお話しになりました税方式かという年金制度が依拠する基本原理をめぐる対立でございました。社会保険方式の下での改革を推進する政府・与党に対し、一般に野党は基礎年金の税方式化を提案しており、相対立する提案になっておりました。  しかし実は、詳細を見ますと、最大野党である民主党が提案する最低保障年金としての基礎年金は、未加入者や滞納者にまで無条件に保障するものではなく、あくまでも年金制度への加入を条件として低所得者に重点化して給付するものであって、本質的には社会保険方式による基礎年金の提案でありました。つまり、国庫負担を全加入者一律に二分の一に引き上げるという政府・与党の提案に対して、民主党案は、国庫負担による基礎年金を高所得層には支給せず、低所得層に重点化して支給するものであります。つまり、基礎年金に対する国庫負担の配分方法の違いにすぎず、本質的な違いではないというのが当時からの私の見方でありました。  その後、政府内でも年金制度の更なる改善に向けて検討が進められてきました。昨年十一月にまとめられました社会保障国民会議の最終報告だとか、あるいは社会保障審議会年金部会の中間的整理では、共に無年金あるいは低年金問題への対応など、基礎年金の最低保障機能を強化する、そのための財源確保の検討を求めています。こうして民主党案と政府・与党の目指す方向は収れんする傾向にあると私は見ております。対立から協調への機運が高まっていることに注目したいと思います。超党派の取組をお願いする次第であります。  それから次に、年金記録問題について述べさせていただきます。  一昨年以来、年金問題に関しては制度改革論議よりもむしろ年金記録問題が大きくクローズアップされてきました。全力を挙げて取り組み、早く解決していただきたいと願っておりますけれども、年金記録問題への対応に追われ、日常の通常業務にしわ寄せが出ているように思います。過労やストレスによる休職者や退職者が増え、欠員が生じ、それを補うために任期付きの職員雇用しておりますが、正規職員に比べるとかなり力量が劣る人が多く、通常業務が滞っているということであります。  年金業務につきましては、かなり高度な専門的知識が必要であって、人手を増やせばこなせるという仕事ではないのであります。その結果、現実には、保険料の収納率が下がり、相談業務などの窓口サービス業務にも支障が生じています。職員に無理を強いることがミスを招き、問題の再発になりかねない状況があります。年金記録問題への対応と本来の通常業務とをはっきり区別し、両者のバランスの取れた仕事ができるよう配慮していただきたいというふうに思います。  三つ目に、高齢者医療制度見直しについて述べさせていただきます。  昨年四月に発足しました後期高齢者医療制度につきましては、制度の施行に当たっての説明が不十分であった、あるいは高齢者の心情に対する配慮や旧制度からの移行に当たっての経過措置や低所得者対策が不十分であったといったことなどにより施行時には大きな混乱がありましたが、その後の広報活動や見直し等によって、今ではかなり収拾、鎮静化したように思います。今年になってからの世論調査では、制度の存続又は細部を見直して存続させるという声の方が多数になり、制度を廃止して元に戻せという声はむしろ少数になりつつあります。特に高齢者層においてそのような傾向がはっきりと見られます。  高齢者医療制度を創設することとした平成十八年の医療制度改正に当たっては、約十年に及ぶ議論があり、様々な提案がありました。日本医師会、健保連、経団連の独立型の提案、連合の突き抜け型の提案、つまりサラリーマングループと自営業者は別々の制度体系を構築するという提案であります。それから、学識者の多くが提案するリスク構造調整、制度は分離していても構造的な不均衡要因は完全に財政調整するという提案であります。それから、国民健康保険関係の団体が提案する言わば制度の一本化、一元化の提案であります。今でもこれらの利害関係団体の主張には変わりはありません。  そういう中で、現在の制度は、これらの利害関係団体が互いに譲歩しつつ何とか折り合いを付けて合意をしてスタートしたものであります。その関係者の合意形成の努力の価値を尊重するとすれば、当面の見直しは現行制度の基本的枠組みを前提にした調整にとどめ、中長期的な課題に対しては十分な時間を掛けて、国民的な合意形成を図りつつ取り組むべきだと考えております。拙速な見直しは混乱を招くだけだと思います。  また、近年、国民の間で医療に対する不安が高まっておりますが、その相当な部分は診療報酬の過度な抑制に起因するものだと私は見ております。救急、産科、小児科等の医療問題に象徴される問題でございますが、このような診療報酬の抑制と、それから高齢者医療制度などの医療保険制度の枠組みとは区別して考えるべきだと思います。私自身は、医療への資源配分はもっと大きくするべきだと考えております。  次に、この高齢者医療制度の当面の見直しの課題でございますが、特に健康保険組合の拠出金の在り方を取り上げたいと思います。  老人保健制度の廃止を求めた最大の勢力は健康保険組合あるいは労使でありましたが、ぎりぎり合意をしてスタートしたはずでありましたけれども、その健康保険組合等の十分な今支持が得られていない状況にあります。健康保険組合にとっては予想外の拠出金の負担増であったということのようであります。こうして健康保険組合は、前期高齢者医療に対する拠出金の増加による組合の財政圧迫を問題にしています。その典型が西濃運輸等の一部の組合の解散であります。  しかし問題は、千五百余りの健康保険組合の間で著しい格差があるということであります。平成二十年度予算では、保険料収入に対する高齢者医療の拠出金の割合が六〇%以上になる組合がある一方で、二〇%に満たない組合もあります。その主な原因は、高齢者医療のための拠出金が組合の財政力を一切考慮しない、被扶養者である家族も含む加入者数に応じた頭割りの負担であることにあります。ちなみに、家族も含む加入者一人当たりの総報酬額が最も高い健康保険組合は年収五百二十七万円でありますが、最も低い健康保険組合は百六十九万円であります。つまり、加入者一人当たりの総報酬に三・一倍の格差があるんですが、加入者一人につき同じ負担を求めているのが高齢者医療制度であります。極めて逆進的な拠出金の負担であります。  これは老人保健制度の時代にもあった問題でありますけれども、前期高齢者医療制度による制度間の財政調整の強化によって新制度では更に問題が大きくなりました。実は西濃運輸は比較的報酬が低い、一方で保険料を払わない扶養家族が多いのですが、にもかかわらず頭割りの拠出金を求められているということが私は決定的な要因だったと思います。  この問題を解決するには、職域の被用者保険の保険者に限定して、高齢者医療の拠出金について総報酬額に応じた応能負担とすべきだと考えております。あるいは、組合主義を推進するという観点から、健康保険組合が自ら組合間の財政調整事業、言わば助け合いの事業を拡大、本格化するという対応もあります。  ところで、健康保険組合連合会は、前期高齢者医療に対しても公費負担の導入を求めています。しかし、現在の社会保障予算の配分の優先順位からすると、最も緊急の重要な順位に挙げられるのが基礎年金の国庫負担割合引上げのための安定財源の確保だろうと思います。次が社会保障の中で最も遅れている少子化問題への本格的な取組のための財源だろうと思います。第三位は、急増する高齢者介護への対応であるように思います。高齢者医療制度などの医療保険制度への配分については優先順位がその後に来るのではないかと思います。将来的な課題として前期高齢者医療に対する公費負担の導入があり得るとしても、当面はまず被用者保険の拠出金負担を応能負担の仕組みに改めて、組合間の調整をする中で負担能力がある組合に応分の負担を求めつつ財政の安定化を図るべきだと考えております。  ところで、後期高齢者医療制度をめぐる混乱を見ておりまして非常に不思議なことがありました。実は、この後期高齢者医療制度というのは介護保険制度に極めて類似したものであるにもかかわらず、なぜこのように問題になるのかということであります。  共通点を申し上げます。いずれも、高齢者と現役世代を区分した高齢者独立制度であることでございます。それから、いずれも高齢者の一人一人を被保険者として適用し、応分の保険料負担を求めています。財源は公費と保険料が二分の一ずつであります。そして、今では後期高齢者医療の方では見直しがされましたが、当初の制度では保険料は共に原則として年金からの天引きでありました。そして、共に地域を基盤にした地域保険であるということも共通点でありました。  違いは、わずかに、一方は七十五、一方は六十五という年齢、一方は都道府県単位の広域連合に対して一方は市町村保険者であるという違いであって、本質的な違いではないと私は思います。  にもかかわらず、介護保険制度の基本的枠組みについては超党派の合意があり、これを廃止して昔の制度に戻せという声は聞かれません。一方、高齢者医療制度については、野党四党は元の老人保健制度に戻すことを主張し、与野党が激突しているわけであります。  なぜ、介護保険制度で合意されたことが後期高齢者医療制度では合意できないかということであります。  私は、決定的な違いは、介護保険制度が国民的な広がりを持った市民運動や先進的な地方自治体の首長さんたちの運動の盛り上がりの中で生まれたものであること、そして政治家や厚労省の官僚あるいは地方自治体の行政官が市民の中に入って、市民と対話し、市民の声に耳を傾ける中で地域に根差した市民参加型の制度の創設に結び付けたことにあると思います。  一方、高齢者医療は、今日まで市民不在、特に当事者である高齢者不在の中で専ら利害関係者の間での議論に終始してきたように思います。これが問題であります。高齢者医療制度の見直しに当たっては、何よりも当事者である高齢者や地域の医療や福祉の担い手、さらには地方自治体の声に耳を傾け、地域にしっかり根を張った制度として再構築していただきたいと思います。教訓は介護保険であります。  最後に、少子化問題についてお話しします。  御承知のように、我が国の社会保障制度を費用面から見ますと、その特徴の一つは、規模が極めて小さいことでございます。世界で最も高齢化を遂げながら、ヨーロッパ主要国と比べるとかなり小さい規模になっています。もう一つは、給付費の部門別構成で見て児童・家族関係費が著しく小さいということであります。新聞の見出しにもなるように、高齢者関係に七割、児童・家族関係はわずか四%という状況であります。  年金も医療もそして高齢者介護も、それを支える基本的部分に関しては社会全体で支えるという社会化を進めてまいりました。その理念は、国民連帯であり、世代間扶養でありました。しかし、子供を産み育てるという営みに関しては基本的には親の責任とされ、社会化が大きく立ち遅れています。  幸いに、近年になって政府レベルでも次世代育成を社会全体で支援する方向に向けて、その具体策の検討が進められてきました。しかし、会議は踊る、されど進まずという状況でございます。進まない決定的な理由は、安定財源が確保できない中で議論をしているからでございます。しかも、本格的な施策展開のためには、何割増という小さな規模ではなく、現在の二倍とか三倍という財源を要するものであります。今後の社会保障改革の最重点課題として次世代育成支援対策の推進を位置付け、そのための安定財源の確保をしていただきますようお願いいたします。  以上で、私の意見陳述を終わります。御清聴ありがとうございました。
  159. 溝手顕正

    委員長溝手顕正君) ありがとうございました。  以上で公述人意見の陳述は終わりました。  それでは、これより公述人に対する質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  160. 広田一

    ○広田一君 民主党・新緑風会・国民新・日本の広田一でございます。どうかよろしくまたお願い申し上げます。  私のような者が社会保障・国民生活に関しまして公述人の皆様方に質疑をさせていただくというのは大変恐縮でございますけれども、よろしくお願いをしたいというふうに思います。  まず、井手公述人にお伺いをしたいと思うんですけれども、実は私、参議院の調査会で国民生活・経済に関する調査会というのがございまして、その調査会の方にかつて神野先生が来ていただきました。その際に、社会心理学のことをおっしゃいまして、やはり悲観的な未来というものを描いたら、そうなると信じれば本当に悲観的な世の中になってしまう、だから肯定的な未来のビジョンを描いて取り組んでいくことが大切であるというふうなことをおっしゃってくださったんですけれども、本当に井手公述人のお話を聞くとそのように思った次第でございます。  おっしゃるとおり、今安心というものが崩壊しかけている中で信頼社会というものをそれに代わってつくっていかなければならない、そしてそのためにはユニバーサルデザインが大変重要であるというふうなお話に大変共感するものでございますけれども、そこでちょっとお伺いしたいんですが、こういった井手公述人が考えられる社会をつくるために一体最低何年掛かるというふうにお考えなんでしょうか。そして、それまでのプロセスというものを具体的にどのように考えているのか。つまり、どういったところでまずユニバーサルデザインの社会というものを実現していくのか、そういうロードマップみたいなものが頭にあれば教えていただきたいと思います。
  161. 井手英策

    公述人(井手英策君) ありがとうございます。  今御指摘になった点、何年と、おっしゃるとおりで、目の前にある景気対策のようなものとはもう根本的に違いますから、その意味では当然時間が掛かると。ただ、冷静に考えてみますと、一九九〇年にバブルが崩壊しまして、それから失われた十年という言い方をしますけれども、もう現実には失われた二十年になろうとしているわけですね。ですから、じゃ目先のことだけでいいのかというと、やっぱりそこには疑問を感ぜざるを得ないわけです。  今日は、例えば幾つか例を出しましたけれども、ドイツの例で申し上げますと、九三年ぐらいから付加価値税を上げて、九八年、二〇〇七年ぐらいだったと思いますが、ちょっと数字は正確ではありませんけれど、その中でやっぱりずっと議論しながら、ビスマルク方式をいきなり変えるというやり方ではなくて、付加価値税を上げて、これをじゃここの保険料の引下げに使いましょう、あそこに使いましょうということの議論を積み重ねて、それとてもう十五年たっているわけですね。そうして、そうした中でビスマルク方式から漸次移行をすると。  ですから、もちろん私は学者ですので大胆に世の中を変えればそれでいいと心の中では思いますが、現実には、今申し上げたように、少なくとも十五年、二十年掛けて、しかし、それとて日々の議論の積み重ねでそういうふうになるということではないのかというように思います。
  162. 広田一

    ○広田一君 どうもありがとうございます。  お話を聞きまして、まず、そういう十五年ぐらい掛けてやらなければいけないということは、やはりこれ与党、野党関係なくそういった社会をつくっていこうというふうな合意形成というものが図られなければいけませんし、そのためには、例えばスウェーデンみたいに、与党、野党で合意形成というものを非常に技術的に高めていく、そういうふうな取組も必要じゃないかなというふうにお話を聞いて感じました。  それでは、具体的に平成二十一年度社会保障予算に関連してお伺いをしたいというふうに思います。  私は、やはり社会保障と財源論というのはワンセットで考えていかなければならないというふうに思いまして、そういう視点で予算を見ますと、先ほど山崎公述人の方からもお話がございましたように、来年度予算案の目玉の一つは、基礎年金の国庫負担の三分の一から二分の一への引上げになろうかと思います。予算規模は二兆三千億円というふうなことで、その財源は財投特会の金利変動準備金を使うということになっております。  私の理解では、この引上げの目的というのが、やはり人口の高齢化が進む中、そして人口減少が進展する中で、やっぱり年金財政というものを安定化していかなければならない、また、仕方がないとはいえ、保険料の抑制というものを進めていかなければならない、そういったことで引上げを行うというふうに理解をしているわけでございますけれども。よって、政府は、この二分の一の引上げ財源というものには安定財源でなければならない、公述人おっしゃるとおりだと思うわけでございますが。  そこで、今回の、確認の意味にもなるんですけれども、この金利変動準備金といったものは安定財源というふうに考えられるのか。安定財源というものの定義をしていただいて、これ位置付けられるかどうか。これは両公述人にお伺いしたいと思います。
  163. 山崎泰彦

    公述人(山崎泰彦君) お答えします。  恐らく、だれもが不安定財源だと思っております。ですから、本格的な景気回復を待って税制改革をしなければならない。その安定財源というのは多くの人が消費税だと思っているけど、しかし部分的に相続税だとか所得税の見直しも必要だろうというのも多くの方の御意見だと思います。私もそのように思います。
  164. 井手英策

    公述人(井手英策君) 財政学者の立場から申し上げますと、正直に言って財投特会でも外為特会でも、あの辺の準備金を使うというのは相当良くないことだと私は個人的に思っております。というのは、財政には必ずバッファーが必要で、そのバッファーを失った財政ほどもろいものはないんですね。  ただ、問題なのは、今までは財務省の予算統制というのは議会統制と違うところでワークしていましたから、その観点でいうと、結局そこが、だれも分からないところで準備金がそこはかとなく使われているというところが問題なわけですね。ただ、そのことと準備金が要らないということとはまた別問題ですから、そこはきちっと整理する必要があるというのが一つ目でございます。  あとは、安定財源のお話に関して言えば、それはもう単純に言って消費税でいいと思いますが、それは一概に言えないんですね。各国の経験を見ると、二つやることがあると思います。  一つは、フランスのように付加価値税が上がり切っているところで上げられない、逆にドイツのように、むしろそこに余地があるところは上げる。  ただ、もう二つ目、大事な点は、消費税、付加価値税を上げるとしても、そこだけを上げるという形の選択は今のところ余り見られない。それは、低所得者層に対する配慮があって、逆進性をうまく是正するために所得税の改正等々、あるいは課税ベースを広げるというようなことをセットで出しているという形での、つまり安定財源の意味ですが、人々がそれを見て、これは公正さが埋め込まれた税制改革であるというふうに思われることが、私は、先ほどの安定性の定義ではありませんけれど、重要な点ではないのかというふうに考えております。
  165. 広田一

    ○広田一君 どうもありがとうございます。  井手公述人のお言葉を借りれば、今回の二分の一の引上げ財源のことを聞きますと、やはり政府への信頼というものは更に低下してしまうのかなというふうに感じてしまいました。  もう一つの目玉が、社会保障費自然増の二千二百億円の、これは抑制と言ったり削減と言われる方がいらっしゃるんですけれども、これに関しましてお伺いをしたいと思います。  来年度予算は何とか一応目鼻は付けたというふうなことでございますけれども、財源としては、年金特別会計にあります特別保健福祉事業資金の清算、これで千三百億円とか、あと道路特定財源が一般財源化するに伴いまして地域活力基盤創造交付金というものができました。そこから六百億円を回すとか、そういったところで財源手当てをしておるんですけれども、これも両公述人にお聞きしたいんですけれども、こういった財源措置というのをどのように評価されているのかということと、あわせて、これまた新たな財源というものが求められているわけでございますけれども、もうお忘れになった方も多いかもしれませんが、当時はたばこ税をこれを上げて充てればいいんじゃないかなというふうなお話があったんですが、このような社会保障費の二千二百億円にこのたばこ税というものを充てることについてどのように考えられているのか、併せてお伺いをしたいと思います。
  166. 山崎泰彦

    公述人(山崎泰彦君) 恐らくこれは井手先生の方が御専門なんでしょう、私は税制のことはよく分かりませんが、今回は一応形の上では二千二百億円の抑制を続けるということになったけれども、実質的には崩れているというふうに理解しておりまして、何かいろんなからくりがあるような気がしてなりません。そういう印象でございます。細部は分かりません。
  167. 井手英策

    公述人(井手英策君) 財源の問題でありますけれども、たばこ税というのは元々、今環境の方もそういう議論になりつつありますけれども、バッヅ課税という整理を我々はやります。要は、何か人々に対して、あるいは社会に対して害悪を与えるものに対してそのバッヅを抑えるという発想から課税をする。だから、そういった税の原則が社会保障の財源という部分にマッチするのかどうかということを理論的に考えれば余り整合性はないというのが私の考えであります。
  168. 広田一

    ○広田一君 どうもありがとうございます。  この二つを重ね合わせますと、やはり社会保障の安定財源としては消費税というものの議論は避けて通れないということになるわけでございますけれども、この消費税について若干ちょっとお伺いをしたいというふうに思います。  この消費税ですね、消費税は何%ですかというふうに聞かれればだれしも五%ですというふうに答えるわけでございますけれども、ただ、消費税法の第二十九条に税率が書いてあるんですが、これは消費税の税率は百分の四であるというふうに書いております。だから、残りの一%はどこへ行ったんだというふうなことは実は地方税法の方に飛んでおりまして、この七十二条の八十二、八十三で、これはまた官僚の方というのは非常に分かりにくくすることが上手でございまして、地方消費税は百分の四の百分の二十五で、これは計算すると一%になるというふうな位置付けをしているわけでございます。  ここで、まずもってお伺いしたいのは、特に前川理事が聞きたがっていたんですけれども、一体これは何%にすべきなんだということをまずお伺いしたいと思います。  政府の方は、早ければ二〇一一年度に消費税の引上げをすると。引上げをするということの方向性は出しているんですが、一体どれぐらい引き上げればいいのかということについては、これはなかなか言うことはできないというふうなことでございますが、溝手委員長の方から、冒頭、忌憚のない御意見というふうなお話がございましたので、是非、忌憚のないところで何%ぐらいがいいのかなということをお伺いできればと思います。
  169. 井手英策

    公述人(井手英策君) 私なりに試算をしたことが実はございます。端的に言えば、私は三%ぐらいで本当はいいんじゃないのかというふうに思っております。  というのは、なぜかと言えば、消費税の増税は避けて通れないけれども、最後の選択肢だと私は考えているからです。その前にまずは、せめて先進国並みに累進性を強化する必要があるでしょうし、あるいは金融所得等をどうするかという問題もございます。今、税調でも議論になっているように相続税の問題もございます。そういった税制に公正さをビルトインするということが一方であって、それと同時に消費税をどれぐらい上げるのかという議論だと思うんですね。  そのときに、大体一%上げて二・六から二・七兆消費税が入ってくるとするならば、例えば、まず当面、年金を所得比例型の、私が申し上げた、社会保険方式ではない所得比例型の年金でやろうと思うのであれば、あらゆる者が受益者になる仕組みでやろうと思えば、大体十兆円強追加財源が必要になると思います。  ですから、先ほど申し上げた税制の正常化、公正さをビルトインする、そういう税制改革と、それの残りで、二・六兆円の大体三%ぐらいの、七兆円前後の税収があれば、基本的に年金制度のみに限定していえば大丈夫ではないのかというのが私の考えです。
  170. 山崎泰彦

    公述人(山崎泰彦君) 手元に資料はございませんが、たしか社会保障国民会議社会保障の機能を強化すると、ただ、前提条件として、社会保険方式を基本にした上でという条件もあったし、あるいは税方式に切り替えた場合とあったと思いますが、いずれにしても消費税率は二けたになるということでございました。  社会保障国民会議は、とにかく社会保障の機能を強化したいということを前提にしてこれだけの新たな財源が必要とするというふうなまとめだったと思います。
  171. 広田一

    ○広田一君 少し具体的にお聞きしたいんですけれども、井手公述人の方にお聞きしたいんですが、先ほど言いましたように、信頼社会をつくっていくためにユニバーサルデザインを推進すると、そこを実行していくためには地方分権というものを進めていかなければいけないということをおっしゃっているのを論文で拝見したことがあるんでございますけれども。  私がさっき何か消費税法と地方税法とのお話を出しましたのは、やはりそういう中で、今は四%に対する一%ということで地方消費税というのは位置付けられているんですけれども、先ほど三%ぐらいというふうなお話があったんですが、今後、今のような割合で上げるにしても進めていくのがいいのか、それとも井手公述人のお話のようにこれからは地方なんだというふうなことになると、やっぱりその割合というものを変えていくべきがいいのか、ちょっと方向性についてお話がいただければと思います。
  172. 井手英策

    公述人(井手英策君) 要は年金に限定した議論をするのか、もうちょっと広く福祉全体で議論するかということだと思うんですね。  もう御存じのように、地方が年金をやる国家なんてありませんから、そういった場合に国レベルでどれぐらいの財源が必要かという議論と、もう一方では、ヨーロッパを見ると分かるように、大体福祉や教育は市町村レベル、都道府県、都道府県って都はあれですけれども、そういう県ぐらいのレベルでやれば大体医療とか職業訓練とかという形になってくるとするならば、やはりそちらの方をどの程度拡充するかということによって地方が取るべき消費税の額も変わってくると思います。  その意味で申し上げれば、少なくとも、今日、山崎公述人の方もおっしゃっていましたけれども、せいぜい、せめて、北欧にしろとは言わないので、ヨーロッパの平均並みの福祉にやりましょうねということがもしも議論の前提であれば、年金部分というのは比較的うまくいっていると思います。残りの部分はやはり現物給付を中心とした地方が供給するサービスと私は考えますので、その観点からもう少し地方の取り分というのを増やしていかなければならない方向に行くのではないかと考えております。
  173. 山崎泰彦

    公述人(山崎泰彦君) 私は、今の井手公述人のお話に関連してお答えさせていただきたいと思います。  多くの学者が一致しているのは、年金は国単位で進めると、それに対して医療や介護等の福祉は思い切って地方分権を進めるということだろうと思います。  そして、私は、井手先生の非常にロマンに満ちた提案に大賛成なんでございますが、恐らく一億二千万から三千万のこの国でいきなり連帯を求めても無理だというふうに思います。それよりは、都道府県単位で医療や福祉というところに重点を置いた新たなユニバーサルデザイン型の医療・介護・福祉サービスのシステムを構築してはどうだろうかというふうに思っております。  そういう観点からいうと、消費税を上げる場合には思い切って地方に重点配分して、そして医療や福祉については国よりもむしろ地方に権限も移すという仕組みがいいと思います。結果的に地域間の格差はある程度出てきてもこれはやむを得ないものだと思いますが、日本人はちょっとした違いでも非常に敏感でございます。その辺が非常に気掛かりなんですが、しかし、まあ自治体によって地域特性に見合って住民が給付と負担の関係を決めるという社会の方がいい社会だと私は思っております。
  174. 広田一

    ○広田一君 お二人の公述人とも地方重視というふうなお立場だというふうに理解をさせていただきたいと思います。  それでは、これは山崎公述人にお伺いしたいと思うんですが、冒頭のお話の中で若干介護保険制度についてのお話がございました。それに関連してなんですけれども、一昨日の朝日新聞の方に、四月に改定されます介護保険料についての記事がございました。これによりますと、全国の半数の自治体が六十五歳以上の保険料を引き上げるというふうな方針でございまして、その増額する主な自治体というのはやはり高齢化、過疎化が進んでおりまして、財政が大変厳しい小規模自治体に多いというふうな傾向があるというふうなことでございました。また、保険料のばらつきというもの、また格差も顕著になってまいったというふうに思うわけでございます。  そういったときに常に出てくる議論がやはり運営主体の規模の拡大というふうなことでございまして、具体的には都道府県単位として、広域連合なのかどうかは別にして、そういう形で保険料の平準化を図るべきであるというふうな意見が出てくるわけでございますが、山崎公述人は介護と医療の連携強化というふうなことで、これは連携すると同時に効率化もしていかなければならないと。そして、将来は介護保険と高齢者医療とを地域保険として統合すべきであるというふうな御主張をされているというふうに思いますけれども、ちょっと具体的にこの介護保険と高齢者医療における地方自治体の役割と責任の方向性、こういった事柄も踏まえてお話をいただければなと思います。
  175. 山崎泰彦

    公述人(山崎泰彦君) 本当にいい御質問をいただいたと思います。  一般的に言うと、年金は国が責任を持つと、医療は県が、そして介護等の福祉は市町村がというわけでございますが、実は医療も、特に高齢者医療に限定しますと限りなく地域密着型のサービスだろうと思います。ですから、介護が市町村なら高齢者医療の基本は市町村に置いた方がいいと思っております。  それから、高齢者以外の一般の我々現役世代におきましても、全国的に見ると大体第二次医療圏、これは生活圏と言ってもいいんですが、サービスの利用と供給が一致していると。ほとんどその圏域内での受診に限定されるという状況でございます。第二次医療圏というのが三百五十くらいでございまして、実は長期的には日本の基礎的な自治体は三百とか三百五十だとかその辺に再編成していただければ、医療も介護もそういう単位でうまく仕組めるのではないかなというふうに思っております。ただ現実は、地域に限りなく密着しているはずの後期高齢者医療が都道府県単位の広域連合、比較的広がりを持っているはずの現役世代の医療が自営業者については市町村単位という、むしろ逆転しているのではないかなというふうに思います。  ですから、私は、いきなり都道府県単位というのは医療や介護の利用実態からすると無理があって、むしろ市町村を基本にする、あるいはその市町村の合併を更に進めていって基礎的自治体としての力を付けていく中で県が後方支援を強化するというのがいい姿だと思っております。
  176. 広田一

    ○広田一君 どうもありがとうございます。  それにちょっと関連して、後期高齢者医療制度、長寿医療制度についてなんですけれども、これに対する批判の一つとしては、年齢で区切ることについて非常に差別的ではないかというふうな、感情論として許せないというふうなお話がございます。これに対しまして山崎公述人、どういうふうなお考えを持っているのか。  やはり、この年齢区分というものは原則維持した上で、しかしながら、先ほどのお話をお聞きしますと、介護保険とまた年金の支給とが六十五歳であるのでそういったところに拡大をして、まさしく一体として整備していったらいいじゃないかとか、とにかく年齢区分については長い議論もあったわけですから維持をしていくというふうな理解でいいのかということと、あわせて、これは私自身素人なのでよく分からないんですけれども、国保自体がもうほとんど破綻の危機に陥っているということで、やはりそれと国保財政などと一体的に合わせた議論を進めていかなければいけないんじゃないかなというふうなことは思いますので、この後期高齢者医療制度の問題については、何か冒頭のお話では、もう今は存続を望んでいる声の方が多いんだというふうな話があるわけでございますけれども、やはりこれを機に、与野党でどういったより良い制度がいいのかというふうな議論を進めるためにも、何か御提言、御提案等がございましたらお話をいただければと思います。
  177. 山崎泰彦

    公述人(山崎泰彦君) 今私が一番発言したい質問をしていただきまして、ありがとうございました。  一つは、国保も後期高齢者医療も共に都道府県単位にして、しかも広域連合ではなくて県に直営させたいという考え方があります。これは舛添厚生労働大臣の提案であります。ところが私は、医療制度改革の議論が始まった平成十七年の日本経済新聞の「経済教室」に書きましたけれども、国保はもう元々市町村単位でございますが、高齢者医療も市町村単位にして、ですから市町村に国保以外に新たな高齢者医療も引き受けていただいたらどうだろうかと、それが一番いいと思っておりました。したがって、高齢者のほとんどは国保でございますから、若いときは国保、高齢者になって、高齢者医療制度になるけど実は国保が引き受けてくれるということになれば、年齢で区分されない、保険証も変わらないということになります。  ですから、私自身はむしろ市町村に基盤を置いて、国保も従来どおり、そして新たに高齢者医療制度も展開するのが一番いいと思っておりましたが、先生御承知のように、市町村長さんはもうこれ以上嫌だとおっしゃっているわけでございますが、しかし、医療や福祉というのは市町村が逃げては成り立たないというふうに思っております。ですから、市町村の足腰を強くするために、国も都道府県も何ができるかという議論をしていただいた方がいいんではないかということになると思います。そういう基礎的なプライマリーケアと言われる医療や介護等の福祉ができない自治体というのは、あってはいけないというふうに私は思います。国がやれるものではないと思うんでございます。国がやれるのは別の、法律、制度を整備し財源もきちっと手当てするというところにとどまるんじゃないかなというふうに思います。
  178. 広田一

    ○広田一君 どうもありがとうございます。  お話を聞いておりましたら、三百から三百五十ぐらいの自治体に再編ということは、どこかの党で聞いたような数だなというふうに思いながら、やはりそれも民主党の案というものがなかなか説得力あるのかなというふうに私も思ってしまったわけでございます。  続きまして、井手公述人をちょっと中心にお話を聞きたいと思うんですけれども、これまでの予算委員会の議論を踏まえましてお聞きしたいのが、子供の貧困についてということでございます。  これはもう、だれしもが親の財布によって子供の発達とか成長というものが阻害されていいはずはありません。先日の参考人質疑も行ったんですけれども、慶應大学の駒村教授もこの点については大変な危惧をされておりまして、もはやこの国は所得格差論から貧困論に移っているんだと、悪い方向に行っているというふうなお話がございました。ですから、良い貧困というものがあるはずがないので、これは何らかの手を打っていかなければいけないと。  今、私たちは子育て世代でございまして、特に私たちの世代が非常に貧困率が上昇をしているわけでございます。これは午前中の湯浅公述人の方も実感を持ってお話をされておりました。  こういったことを考えたときに、やはり義務教育のセーフティーネットの一つとして就学援助制度というものがあるわけでございます。これは、学用品であるとか修学旅行の費用だとかを支援、援助するものなんですけれども、この受給というのがこの十年で百四十一万人に達して、援助総額は九百二十一億円になっているというふうなことでございますけれども、これは、三位一体の改革の影響でこの国庫補助というものが廃止をされて一般財源化をされたわけでございまして、懸念していたとおり、先ほど言いましたように、支援対象者数というのは増えております。と同時に、地方財政というものが厳しい現状になって、じゃどうするのかというと認定基準を引き上げるというふうな傾向がございました。  この実態を放置することはできないということで、我が会派の牧山委員とか、あと共産党の山下委員さんが、これを何とか改善しなければいけないんじゃないかなというふうなことをおっしゃっているわけでございます。  井手公述人の方も、これからは量というよりかは的確な、適正な支出が重要だということで、先ほど出ましたように、そのためには地方分権というものを進めていかなければならないというふうなお話でございました。  実は、この国庫補助制度の廃止というのは、地方六団体の方から国に対して、補助金の削減メニューとして、本音かどうかは分かりませんけれども、廃止をして税源移譲すべき国庫補助負担金であるというふうに、メニューでこの就学援助の制度を出されたわけでございます。  公述人のユニバーサルサービスというふうな観点、また地方分権を進めていくというふうな観点からいうと、この就学援助制度の問題というのは一つの考えるきっかけに私自身なったんですけれども、所得は同じでも住むところによって結果として支援が受けられないというふうなところに対して、こういうふうな、教育におけるユニバーサルサービスというふうな観点から御所見をいただければと思います。
  179. 井手英策

    公述人(井手英策君) ありがとうございます。  今の私にとっては一番クリティカルな問題だと思います。それは、おっしゃるように、もう子供たちの間の格差というのは極めて深刻な状況に来ていると。これはやっぱり所得格差の問題ではなく社会的排除の問題、貧困の問題になってきているわけですね。幾ら政治家が例えば効率性や市場原理というものを強調したとしても、人々が、特に子供たちが、もはや社会に公正さは埋め込まれていないと分かったときに、その不平等な競争を一体受け入れるのかどうか。それは僕は恐らく無理だと思うんですね。  そのときに、実は北陸に調査に行って非常に面白かった点が一つございます。それは、もう御存じかもしれませんけれども、生活保護の受給者の率と一方で子供の学力テストの相関を取ると、これは見事に右下がりの関係が出てしまうわけですね。つまり、貧しい地域には子供の学力が低い子が多い。あるいは、生活保護の受給者が多い地域にはそういうふうな子供が多い。これ、でも実はもう一発、三世代同居率というのを縦軸に取りますと、全く逆の相関が出るんですね。つまり、おじいちゃん、おばあちゃんが子育てをしている社会は、女性が社会進出をできて世帯当たりの稼得賃金も上がってくるので、そうすると生活保護の受給率が下がり、子供の貧困も抑制される。  実は、そういうサイクルというのは、今言いたいのは二つなんです。  一つは、おっしゃるような子供の就学支援というのはもっとユニバーサルにやらなければいけないと思います。特に、これは小学校だけではなくて高校、大学でお金を借金して学校に行く貧しい子供たちがいるわけですけれども、人生のスタート地点において負債を背負うということはやっぱりどう考えてもおかしいんです。これはユニバーサルの観点から一つの問題です。  もう一つは、実は、女性の就労がきちっとできる環境を整えることが子供の学力と深く相関しているということをはっきりしておく必要があると思います。その意味では、子供の学力の問題はもう一つ、育児、保育のサービスをどれぐらい出すのかということとも深く結び付いている。これは女性の職業の問題ですから重要な点だと思います。
  180. 広田一

    ○広田一君 どうもありがとうございました。
  181. 南野知惠子

    南野知惠子君 お疲れさまです。自由民主党の南野でございます。よろしゅうございますか。  大変高邁な御高説を聞かせていただきました。お尋ねしようと思っていた幾つかの部分はもう既に聞かれておりますけれども、これからお尋ね申し上げますことをお許しください。  まず、この前にいただきました資料がございます。その資料の中で、井手公述人は、どんな財政出動が必要かという書物の中で、人間が希薄になっているというようなことをお話しになられました。先生がお考えになっている希薄な人間性、我が国の今現状、そういったものを、井手先生、山崎先生、順にお聞かせいただきたいと思います。
  182. 井手英策

    公述人(井手英策君) 私がそれを申し上げましたのはNHK放送文化研究所の資料でしたでしょうか、ちょっと正確ではございませんが、要は職場、近隣世帯、そして家族の中において、一九七三年以降、人間関係はどう変わりましたかという質問に対しての答えであったように思います。それは七三年から、二〇〇三年が一番新しかったんでしょうか、ちょっと済みません、不正確で、五年刻みに取っておりますけれども、それはすべての領域において人々の付き合いが形式的になってしまった、親密な深い付き合いはなくなってしまったというような回答が出ておりました。私はそういうふうに認識しております。
  183. 南野知惠子

    南野知惠子君 ありがとうございます。
  184. 山崎泰彦

    公述人(山崎泰彦君) 私、大学におりまして、先日、学生たちにレポートを書かせました。レポートの課題は、地域社会と私という課題でございました。実は、はっきりした傾向が見えておりまして、地方から来た子はすぐ書けるんです、いろんなことを書けます。ところが、都会の子が書けないのでございます。都会の子が書くのは、部活であったり、あるいはアルバイト先であったりという、つまり地域には帰属していないということなのでございます。  もう一つ申し上げますと、地方から来た子がアパート住まいをするということで大家さんにあいさつに行って、どの程度のあいさつを御近所にしたらいいかということですね。恐らく親御さんが、御近所付き合いは大切だからきちっとあいさつしておきなさいよ、まあ手ぬぐい一つでも持っていけと、こういうことを言ったんだろうと思うんですね。そこで大家さんに相談したんですが、一切その必要はないという答えであったそうでございます。つまり、隣近所がどういう人か分からない中で生活するというのは、これは非常に不安でございます。  また、最近読んだ本の中で、横浜の副市長をされていた前田正子さんが岩波書店から、正確なタイトルは忘れましたが、横浜の福祉の実情について事細かに書いております。人と人とのつながりが本当に希薄になった、そういう希薄な中で福祉を進めるというのは非常に困難だと。もう保育園でも送迎バスを出してくれという要求がすぐ来るというんですね。前田正子さんに言わせますと、御近所の目こそ、あなたのお子さんの安全を守ってくれるんですよと答えたと言うんですが、どうも都会ではそれはむなしい。どうしたらいいのか、お互いに考えなければいけない問題だと思います。
  185. 南野知惠子

    南野知惠子君 ありがとうございます。  確かにそのようだというふうに思っておりますし、また、最近の家族の中には夫婦が離婚するという形もあって、親と子のきずなも多少希薄になっていくところも見えてくるのかなと、そのように思っておりますが、日本はまだ戸籍をしっかりした国でありますので、そこら辺での関連もあるんですけれども。  井手先生は欧州がお好きなようでございますので、欧州は戸籍をそれほど、日本ほど慎重に考えていないというふうに私は理解しているんですが、それが正しいのか間違っているのか、それについてのお考えがあれば教えていただきたい。
  186. 井手英策

    公述人(井手英策君) 私、それは専門ではございませんけれども、財政学者の間では、例えば住民票がないとか戸籍が不十分であることはよく議論いたします。
  187. 南野知惠子

    南野知惠子君 ありがとうございます。  そういうところの中から、日本の今までの良さは、先ほど山崎公述人がお話しくださいましたように、やっぱり二世代、三世代と共有した生活の空間を持っているということだろうと。そこら辺からやっぱり尊敬という念とかいろいろな問題が出てくるんだろうというふうに思いますが。  井手先生のこの二ページでございますか、公述人の、信頼の崩壊をどうすべきかということの中で、二つの丸がございます。市場が機能するには、信頼や道徳、規範、ネットワークといったソーシャルキャピタリティーが必要であるということからして、日本はどのレベルにあるんでしょうか、教えてください。
  188. 井手英策

    公述人(井手英策君) このソーシャルキャピタルというのがちょっと定義が難しくて、幾つか整理しなくてはいけません。まず、信頼と申しましたときに、政府に対する信頼と人々の一般的な信頼感というのをまず区別します。政府への信頼に関しましては、先進国、途上国を通じてももうほぼびりに近い成績と言っていいと思います。  人々の、いわゆる信頼に関しては真ん中よりちょっと上ぐらいだと思っていいんですね。ところが、ここも注意が必要で、逆に同時に、人間は他人を裏切ると思いますかという質問、人々は信頼できますかという質問と別に、人間は他人を裏切ると思いますかという質問をやると、これ日本は世界で一番高いんです、ということであると思います。ですから、非常によくないレベルにあると言っていいんじゃないかというふうに考えております。
  189. 南野知惠子

    南野知惠子君 そういうレベルの中から、みんなが一緒に仲よくやっていこうという方向に目指していきたいものだというふうに思っております。  井手公述人の資料の中に、福祉をユニバーサルにしようと、ユニバーサルサービスにしようというところの文章を見付けたんでございますけれども、これまで日本の福祉の問題点は、ターゲット主義であったというところから貧しい人にねらいを定めてお金や物でやっていたんだと。先ほどもお触れいただきましたけれども、ターゲット主義の福祉システムでは持続性がないとお述べになっておられます。日本とアメリカを除く先進国では、ターゲット主義ではなくユニバーサルサービスという形式を取っておると。  だれもがひとしく福祉を享受できるということであるわけですが、介護保険も、それから後期高齢医療も全部ターゲット主義であると。一部の人だけが受益者で、他の人が負担者という形になってくる、これもユニバーサル仕様というふうにおっしゃっておられました。福祉にユニバーサルという特別なお気持ちがあれば、教えていただきたいです。
  190. 井手英策

    公述人(井手英策君) 本来であれば、ユニバーサルというのは社会を支える原理なんですね。ですから、その意味でいいますと、あらゆる人々がひとしく取り扱われているということに対する確信が人々の連帯を生む社会日本の場合は、むしろ雇用を通じて所得保障やってきましたから、その意味でいいますと、賃金を通じて消費財を買うことでいわゆる中流意識を持つという形で連帯してきた社会と私は押さえています。  その意味では、まずユニバーサル化するというときには、単に、本当は福祉だけではなくて雇用の問題も含めてそれを原理として位置付ける必要があると思います。ただ、その中で特に公共部門の役割としていったときに重要になってくるのが、一つ雇用の問題ですけれども、もう一つの柱が福祉というふうなことでございます。
  191. 南野知惠子

    南野知惠子君 ありがとうございました。  やはり、福祉の問題にユニバーサル化が必要であるということについては同感でございます。  もう一つ、本の続きでございますが、不信社会の克服に向けてという題がございます。現代は格差社会だと言われているというところから、人が人を信頼できない社会になり始めているから不公平感、格差感を強く持つのであると。これは格差社会というよりも不信社会であるとお述べになっておられます。そして、さらに今の日本社会が成り立たなくなっている状態になりつつあると。  だれもが一緒に参加し、みんなで共有する社会にしていくために労働組合が担うべき社会的役割は大きいという御期待を寄せておられますが、その心をちょっとのぞかせていただきたい。
  192. 井手英策

    公述人(井手英策君) それはちょっと、今の文章だけだと誤解を招く表現かもしれません。  私が基本的に思っていることは、例えば今、今日湯浅さんがお見えになってという話もありましたけれども、要は、例えば全国ユニオンと、例えばああいうふうに支えている人たち派遣村の問題ありましたけれども、今までの労働組合の問題というのは、むしろ、例えばフランスなんかがいい例だと思いますが、どんなに組織率が低くてもどこかがゼネストを打つとみんながばっと参加する。日本の場合は、組合の参入率高いのになかなかそういうふうにならない。なぜかといえば、それは人々の利益ではなくて、ある企業の労働者、私たちの利益を議論するところに限界があったのではないのか。  そういう意味では、ユニオンだけを特に褒めるつもりはございませんが、例えば非正規という形で職域も何も超えて連帯をする。この横の広がりを持っているということは、今までの日本の組合とはまた違った形での問題提起になるのではないのかというような観察を私はしております。そういった意味で、その組合の果たす役割は今後大きくなるんじゃないのかということでございます。
  193. 南野知惠子

    南野知惠子君 それで理解ができました。  やはり、組合の方たちと対応して社会をつくっていこうとする受皿といいますか、その両者も共にいい形で進んでいかなきゃいけないというふうに思っております。  山崎公述人にお尋ねしたいんですが、先ほどいろいろな診療費の問題なども出てまいりました。公述人がお考えになっておられる中医協に対して何かお考えがあれば教えてください。なければよろしゅうございます。診療報酬の問題が絡んでまいります。
  194. 山崎泰彦

    公述人(山崎泰彦君) 非常に民主的に開かれた審議をされていると思いますが、ちょっと最近性格が変わってきたんでしょうか。つまり、総枠は首相官邸の方でお決めになると。後は配分だけということになると、非常に不自由な思いを委員の先生方はされているのかなというふうに思いますが、あの仕組みはとてもいい仕組みだというふうに思っております。つまり、診療担当者側、支払側、公益側の三者構成で、かなり開かれた審議をされているように私は思います。
  195. 南野知惠子

    南野知惠子君 私が少し不満があるのはあの中に看護職が入っていないことでございまして、介護、看護という分野が今の医療の中で一番大切であるにもかかわらず少しサイドに置かれているのかなというような感じがいたします。  さらに、介護の問題につきましては、この前、ドイツの人が訪ねてこられました。日本で介護を設定するときに、ドイツとそれからフィンランド辺りに視察に行かせていただきました。ドイツは消費税一九%の国であります。我が国は五%、その当時三%だったと思いますが。そういう状況の中で介護をどのようにすべきかといったときに、価値観をどう見るのかということと同時に、我が国では既に障害者の問題点は一つの枠がございました。でも、介護をつくろうといったときには、いわゆる認知症の方たちはどうするのかと。加齢に従って我々はそれをグルーピングしていこうというところの意見を持っていったわけですが、ドイツはその当時は障害者と高齢者をワンブロックにして検討していこうということでございました。  この度お越しになられた問題は、ケアマネジャーを何人ぐらいでケアできるのかということの話題で来られました。我が方では大体三十人ぐらいが今どうだろうかと検討している最中でありますが、ドイツでは百人の人のケアマネジャーをやりたいというようなお話でございましたが、欧州の問題又はドイツの課題について、どのようにその問題点についてお考えなのか教えていただきたい。井手公述人に。
  196. 井手英策

    公述人(井手英策君) 先ほど、北陸に調査に行ったという話をしましたけれども、あの中で、もう御存じと思いますが、富山型デイサービスってございますよね。ああいう形で今、高齢者と障害を持つ方のパッケージというお話がありましたけれども、そういうことはもう現実日本の地方でも起きつつあるわけであって、そういった動きをどう拡大していくかということは非常に重要な点だと思います。  それともう一つは、先ほどの山崎公述人とも意見を同じくするわけですけれども、やはり後期高齢者医療の問題にしても介護保険の問題にしても、私の立場からいえば、ユニバーサリズムの観点からいえばやっぱり選別主義なんですよね。それは、特定の人が負担者になり、特定の人が受益者になると。そういう仕組みというのはやっぱり基本的に良くないと私は考えております。逆に言えば、介護保険は日本とドイツぐらいなものでございますから、そういう意味ではもうちょっと医療保険という形で包括的に位置付けた方がいいのではないのかというのが私の考えであります。
  197. 南野知惠子

    南野知惠子君 その御意見は私も同感でございますが。  次に、今、井手公述人がおっしゃっておられる非正規雇用がもたらす財政危機というカテゴリーの中で、今、我が国は女性の雇用ということについて非正規雇用の問題をどのようにつくり上げていったらいいかというふうに向かっている段階だというふうに思いますが、この非正規雇用とのかかわり合いの中で女性を排除するようなニュアンスにも見えるんですが、そうでないということを教えていただきたい。
  198. 井手英策

    公述人(井手英策君) それは申し上げるまでもなく全く誤解でございまして、一つは、先ほどの広田先生からの御質問の中でも答えましたけれども、やっぱり女性の社会進出を促すことこそが子供の教育格差をなくす最も重要なポイントであるということが一つと、もう一つは、実は非正規の問題、今日資料には準備しませんでしたが、三十代の女性にインタビューを、インタビューというか質問をすると、結局は、当然、子供を出産しますから、労働力として働く割合は減っていくわけですよね。ところが、それと反比例して、働きたいという希望が高まってくる。そういう観点からは、むしろそういう女性がちゃんと働ける環境をつくることこそがユニバーサルな社会ですから、私が考えているのは言い訳をしておきますとそういうことではございません。
  199. 南野知惠子

    南野知惠子君 分かりました。  時間も大分過ぎてきておりますが、最後にお聞きしたいのは、介護離職という言葉が今、日本に出始めました。そういう問題点についてお二人の公述人からお伺いしたいと思います。
  200. 山崎泰彦

    公述人(山崎泰彦君) 非常に深刻な問題でございまして、差し当たってできることというのは介護休業制度を充実させるということと、それからやはり職場の配慮が必要で、そういう意味であれば育児休業に準じた扱いを介護休業の方もしていかないといけないんじゃないかなと思います。  ただ、本質的に育児休業というのは期限が定まっている、ですから辛抱できるけれども、本当に不確定、いつまで続くのか分からないということになりますと、それなりの仕組みの弾力化、より職場の理解が必要なのではないかなというふうに思います。休業しないで済むようにするにはということでございます。
  201. 井手英策

    公述人(井手英策君) 今御指摘になられた点と、もう一つは、やはり今日私申し上げましたように、公共部門がきちっとサービスを提供することができるかどうかって重要だと思うんですね。その限りで申し上げれば、ちょっと介護とか育児とかで話は少し違ってきますけれども、例えば今介護の問題でいえば、その職員の低い賃金というのが問題になっていて、つまり十分なサービスを供給できない側の問題もあるわけですよね。そうなったときに、やっぱりこの賃金をどこで決めるのかということはまじめに議論をしなきゃいけない問題だと思うんです。僕はその観点から分権を進めるべきだというふうに考えております。これは育児にも恐らく同じようなことが当てはまるわけで、そういった介護や育児がもしも産業として成り立つことがあるのであれば、その前提として賃金をどういうふうに設定するかという供給サイドの問題があるような気がいたします。
  202. 南野知惠子

    南野知惠子君 ありがとうございます。  私が介護休業と申しましたのは、親孝行をしたいために、自分会社に勤めているけれども、両親を見なければならないといって会社を辞めてくると。介護ということの最初にも、親孝行どうなんだろうかと、介護とどうリンクさせてすべきかというのも、私も真剣に考えました。自分の手元で見てあげるのか施設で見てあげるのか、そこら辺の大きな問題があり、自分の仕事を辞めてまでも親を見ているという事例が出てき出したということでございますので、また何か一言ございましたら。
  203. 井手英策

    公述人(井手英策君) それは恐らく北欧なんかが典型ですけれども、人間のもう権利として介護をする権利というのを認めるということなんだと思うんですね。それは恐らく私の言うユニバーサリズムの基本にかかわる問題だと思います。  それは、結局、働くということをどう考えるかと。今日、私、日本の事例ばかり言いましたけれども、要は賃金を稼得するために労働する、あとはそうではなくて、労働はそもそも尊いから労働しなければいけない。この労働というのは、賃金を稼ぐというところを外してしまえば、尊いからやるというのであれば、人々を、家族を介護する権利というのも尊い労働のはずなんですね。そういったものをどう社会に位置付けていくかということではないのかと思います。
  204. 山崎泰彦

    公述人(山崎泰彦君) ちょっと現実の問題からしますと、自分の親が要介護状態になって、その程度にもよると思うんですが、比較的軽度であれば外のサービスを利用することによって勤めは続けられると思いますが、重度になったときに二十四時間丸々というのは今のサービスでは無理だと、したがって休業せざるを得ないのが現実だというふうに思います。ですから、休業を充実させていただきたいというふうに思います。
  205. 南野知惠子

    南野知惠子君 ありがとうございました。
  206. 荒木清寛

    ○荒木清寛君 公明党の荒木です。お二人の公述人には大変ありがとうございます。  私は、まず山崎公述人からお尋ねいたしますが、冒頭、今回の国民年金法等の改正が最重要法案だとおっしゃられたのは大変意を強くいたしました。その中に、今後の課題としておっしゃったように、最低年金、最低保障機能の強化ということが盛り込まれております。国民年金で満額で六万六千円ですけれども、実際にはそれ以下の方が多いわけでありまして、本当に何とかもう少し底上げをしたいという思いがあるわけです。  今後の検討をしていくわけですが、山崎公述人としてはどういう形で最低保障機能の強化を図るべきか、財源も含めてお考えをお聞きしたいと思います。
  207. 山崎泰彦

    公述人(山崎泰彦君) この点では民主党の提案も、今政府が、厚生労働省が考えている、つまり審議会の御議論から浮かび上がってくることでございますが、今の国民年金でいいますと所得ゼロの人は保険料全額免除で、そして国庫負担割合が二分の一に上がりますと、二分の一までは基礎年金が出るわけです。ですから、生涯例えば生活保護を受けていた人は六万六千円の半分の三万三千円が出るんですが、今議論が進んでいるのは、元々所得がない、したがって納められない人に対しては満額出そうということでございます。これは民主党も同じ考え方でございます。ですから、私は意外に共通点があるのかなというふうに思っております。例えば、介護保険では生活保護を受けている方も被保険者として保険料は全額公費で出しております。ですから、払えない人には保険料相当分を公費で支援して仲間に入ってもらうということでございます。  以上でございます。
  208. 荒木清寛

    ○荒木清寛君 続いて山崎参考人に、長寿医療制度、これについては、昨年のことについては我々も非常に反省すべき点があったわけでありますが、我々というのは政府・与党、与党ですかね、どうしても医療費を抑えるあるいは負担を求めるという点ばかりがクローズアップをされてしまったわけですが、ただ今回の改正には、長寿医療、七十五歳以上の方の医療の質を高めるという点ももちろんあったわけですね。そこは注目されませんでしたし、不十分であったという点もあろうかと思います。  それで、今後また手直しをしていくわけでありますけれども、そうした長寿医療の医療の質を高めるという点ではどういう今後手直し、改正をしていったらいいのか、この点について御見解を聞きたいと思います。
  209. 山崎泰彦

    公述人(山崎泰彦君) 恐らく、批判がありますように、七十五歳以上の方にはこういう医療だというのは私は間違いだというふうに思います。こういう状態にある人であれば、六十五の人も七十五の人に対しても同じ医療が提供されなけりゃいけない。つまり、急性期か慢性期か回復期かというふうな病状の段階に応じたサービスを提供するのが本来のやり方だろうと思います。  ただ、高齢者医療につきましては、恐らく、質を改善するということになりますと、日常的なプライマリーケアの段階で十分な相談が受けられる、それはお医者さんも出来高ではなくて、安心してかかっていただく、そのためには包括払いのような方向の方がなじむのかなと、相談機能も含めて、そういう感じはするんですが、日本の場合にはいきなりそれを強制するというよりも、やはり現実には選択制の方がなじむのかなという気がします。  高齢者についてはよりそれがなじむと言いましたが、実はどの世代もかかりつけ医を持って十分相談にも応じていただけるという体制の方が本来はいいのではないかなというふうに思います。高齢者だけということになりますと、何か受診抑制というようなイメージを生んでしまう。それは政府も提案者も本意ではなかったというふうに思います。その辺の十分な配慮をしつつ進めていくということが大事だろうと思います。
  210. 荒木清寛

    ○荒木清寛君 次いで、井手公述人にお尋ねいたします。  このユニバーサルデザインということについては、本当に私も発想の転換を迫られる刺激的なお話でした。  それで、定額給付金のときの議論も、これが福祉的といいますか、福祉的な意味合いがあるんであれば高額所得者には支給すべきではないではないかと、こういう議論もあって、先生のお話をもっと早く私も知っておればよかったと、こう思うわけなんですけど。  それはそれとしましても、先生のこの七ページの、そうはいいましても、確かに高額所得の方に給付をしても格差是正できるという、これはそのとおりなんですが、ただ、その分をもっと中低所得者の方にあげればもっと是正されますし、それはもっとほかに使えばいいではないかという議論も当然あるわけなんですが、そういうことも含めてやはりこのユニバーサルデザインの考え方というのは採用すべきだという、こういうお考えなんですか。
  211. 井手英策

    公述人(井手英策君) 二つございます。  一つは、今日申し上げましたように、選別主義の問題は必ず中間層が反対に回るということなんですね。自分たちが受益者になれないので、貧しい人のみが利益者になると負担を嫌がるわけですね、中間層が。これは政治的にもたないというのが一つであります。  もう一つは、今日、七ページの図でお示ししようと思ったことは何かといえば、僕は今日申し上げましたように、消費税を増税するプロセスがあると思っています。その前にやるべき税制改革はあります。ただ、そのやるべきことをやった後でもしも消費税の増税をするとするならば、実はそのフラットタックスですね、税率これ三〇パーにしていますけれど、要は比例税ですから所得税と同じことを意味しますけれども、こういった税を導入して、これはもう逆進性持つということを必ず言われるわけですけど、給付面をセットにして出すことで、しかもそれが別にターゲット主義ではなくても、つまり政治的にコンセンサスの取りにくいターゲット主義ではなくても、普遍主義の形での給付によって格差も是正できるということをお示ししたかったというのがこの表の趣旨でございます。
  212. 荒木清寛

    ○荒木清寛君 井手公述人にもう一つ。ちょうど次の八ページになるわけですが、これも、我々も、いわゆる北欧の例ですね、この負担増が成長の鈍化につながらないという、これも非常に参考にすべきだと思うんですが。  ただ、よく言われますのは、国の規模が違う、日本にそれは妥当しないではないかとか、そもそもそういう歴史的、社会的背景も違うという、こういうこともよく言われるわけで、私もどう考えたらいいのかと思うんでありますけれども、こうした点について更に御示唆があれば教えていただきたいと考えます。
  213. 井手英策

    公述人(井手英策君) 一つは、今日申し上げたことのかかわりで言いますと、経済学の教えはスケールメリット、つまり規模が大きくなれば効率性が働くというのが経済学の指摘でありますから、つまり小さくなれば効率的になるという議論はちょっと経済学者の目から見るとよく分からない議論なんですね。ですから、むしろ大きな国の方が効率性は働くんじゃないですかというのがまず一点であります。  それと、もう一つは、ここでこの図を使って申し上げたかったことは何かといえば、実はこの中に入ってない指標が一つだけあるんですけれども、今日、社会的信頼というのを私、議論しましたけれど、この信頼が世界の中で突出して高いのは北欧なんですよ。ですから、そこをセットで考えていただきたいと。つまり、人々が信頼する社会はたくさん税金を払う社会なんですね。政府を信頼したり人々を信頼する社会は税をたくさん払う社会。税をたくさん取れる国家は人々に充実した福祉を提供できる国家。そして、このソーシャルキャピタルの教えるところによれば、人々に適切にユニバーサルサービスを出せる国家は社会的信頼を強めることができる国家なんです。この循環をどのように考えるのかというのが僕は今回スウェーデンをお示しした一つの意図であります。
  214. 荒木清寛

    ○荒木清寛君 ありがとうございました。
  215. 井上哲士

    井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。お二人の公述人、ありがとうございます。  ちょうど数日前にフィンランドで長く暮らした方の新書を読む機会がありまして、最近は教育のことがよく言われますけれども、子育てや医療なども含めて本当にだれでもが受けれるというのを改めて認識をし、そしていろんな高負担にはいろんなやはり不満はあるけれども、やはり政府への信頼が高いというのを読んだところで、今日のお話を聞きましてその裏付けといいましょうか、というのが大変よく理解をできたように思っております。  そこで、まずお二人にお聞きするんですが、そういう中で、日本についてはターゲット主義だということが言われるんですが、実際には今、その低所得者自身が、本来一番福祉を受けるべき人がむしろ排除されるということが出てきていると思うんですね。国保料が高過ぎて払えないといろんな短期になったりしたり、子供が行けなくなったりするであるとか、それから介護の利用料が払えないことによって実際には受けれないであるとか、それから最近でいいますと、雇用や住まいを一遍に失った人が雇用保険も受けれないとか、こういうことが起きていると思うんですが、こういう現状についてどのように評価をされているか、それぞれからお願いしたいと思います。
  216. 井手英策

    公述人(井手英策君) そこはもうまさにおっしゃるとおりで、今日私が申し上げたかった点もその点に尽きると言っても構いません。  それは、要は日本の場合は雇用を保障することで小さな政府を実現してきた国ですね。つまり、御存じのように、一九九〇年代、あれだけ公共事業をやったのにピーク時でも一般政府レベルで見るとOECDの平均レベルですね。決して大きな政府ではない。なぜかといえば、それは雇用を保障することで社会保障の領域をぐっと小さくできたというところがポイントなんですね。この社会保障を実は家族とか大企業とかが供給してきたと。  ところが、もうこのやり方がもたなくなってきている。本当はそこで雇用を保障された人たちはそれで生きていけたんだけれども、ここで雇用が保障されなくなっちゃうと公的扶助なんかを受給するしかなくなってくる。ところが、現実には政府の財政が厳しくてここも絞り込むということで起きている問題だと思います。  ですから、現状認識というのとは少し違ってきますが、問われているのは戦後の日本型の福祉国家、雇用保障型国家というのをどのように切り替えていくかということではないのかというふうに思います。
  217. 山崎泰彦

    公述人(山崎泰彦君) 日本社会保険を中心に社会保障の発展を図ってきました。その過程で今まさにいろんな問題が、払えない人、それは保険料であったり利用者負担であったりと、そういう問題が出てくるんですが、本当に払えない人に対してはきちっとした公費で支援をすべきだと思いますが、現実にはしばしばサボりがあるわけでございます。そこをうまく区別する方法がないかなといつも考えております。  例えば、国民年金でいえば年収一千万円以上ある方で結構滞納があるんですね。払えない払えないと言いながら、生命保険などには結構保険料は払っておられる。そういった人たちに税でというふうには日本ではならないんだろうというふうに思います。  以上です。
  218. 井上哲士

    井上哲士君 政府への信頼ということも関係するのかなと思って聞いておりました。  財源の問題なんですが、井手公述人のものを読んでおりますと、税制改革でいえば、所得税の累進性の強化と、それによって高所得者層への適切な課税ということをかなり言われておるわけですが、戦後の日本の税制の出発点であればシャウプ勧告の諸原則ということになるわけで、直接税中心主義あるいは所得税中心主義、それから総合性、累進性、生計費非課税と、こういうことが今全体的に見直されていると思うんですけれども、この点についてどうかということが一つと、それからもう一点、やはり書かれたものを読んでおりますと、法人税にしても課税ベースを拡大することなく税率を下げてきたということも指摘をされているわけでありますが、こういう社会保障財源という点で法人税であるとか、そして企業社会保障料負担というものはヨーロッパなどと比較してどうあるべきかということも含めて、いただきたいと思います。
  219. 井手英策

    公述人(井手英策君) まず前者のシャウプ勧告の評価でございますけれども、あの時期は当然ですけれど、福祉国家という概念が人々にそんなに浸透していない中での議論ですね。ですから、そのすべてを今に当てはめることは難しいと思います。  ただ、さはさりながら、包括的所得税概念と申しまして、御存じかもしれませんが、きちっと所得を幅広く押さえれるところをすべて押さえるという前提で議論をしておりますので、これはまさに先ほど御指摘いただきましたように、税制を公平化、公正化する、つまりちゃんとみんなに平等に負担を求めるということと、その包括的所得税の概念は合致するわけですね。これは金融資産とか金融所得をどう扱うかという問題になってきますけれど。まずはそういう観点から評価できるというのが前者のお答えであります。  もう一つ社会保険料との関係、ヨーロッパの方との関係でお話をしておけば、幾つか指摘したいことはございますが、一つのトレンドは、やはり企業社会保険料負担は下げる方向で来ているというのがヨーロッパのトレンドと言わざるを得ないと思います。  ただ同時に、先ほど申し上げましたように、付加価値税ないしは所得税を増税するわけでありますけれども、そのときには必ず、所得税であれば課税ベースを広げて富裕者の税負担を上げる。今のはフランスの場合ですね。あるいは、ドイツの場合であれば、付加価値税を入れるのと同時に所得税の最高税率を引き上げるというようなことをセットでする中で社会保険料の負担を下げていく。  もう一つだけ言わせていただければ、日本がちょっと問題だというか珍しい例なのは、消費税を上げる国というのはみんなやっぱり企業の負担は大きいんですよね。だから、企業の負担が小さい中で消費税だけ上げろと、ここはちょっとアンバランスな議論なのかなとヨーロッパを見ていると思います。
  220. 井上哲士

    井上哲士君 最後に井手公述人ですが、今の経済の立て直しの上でいいますと内需の拡大の必要性ということが非常に強調されるんですが、こういう医療や介護、社会福祉の分野というものがこの内需拡大にもたらす役割というんでしょうか、その辺をお願いしたいと思います。
  221. 井手英策

    公述人(井手英策君) 一点は、今日私が申し上げましたような、福祉産業を発展させることによって正規での雇用保障ができるようになると。これは実は、中間層の育成につながっていくというのは財政面で見ると非常に大きい点です。これは税収が飛躍的に伸びてきますし、私が申し上げたように、所得税の累進性を少しでも強化しておけば税収が全然違ってくる。  ただ、もう一つ問題なのは、ただ福祉だけでじゃすべてがうまく回るかというとそうではなくて、それは、公共事業の中身を今までのような新規建設の中心の形から、維持補修をきちっとする社会に、メンテナンス型の社会に切り替えていくことが重要になってまいります。  それはなぜかというと、今日ちょっと申し上げましたけれども、要は施設の長寿化を可能にするんですね。そうすると、橋であれば架け替え、道路であれば造り直しの、実はこれ、コストで見るとけた違いに大きいわけです。ここをなくすことができる。つまり、将来の赤字を減らすための公共事業なんです。そういう観点からの平準化したメンテナンス支出というのをきちんと位置付けていく必要がある。これをセットで人々の雇用を保障していくということではないかと思います。
  222. 井上哲士

    井上哲士君 ありがとうございました。
  223. 荒井広幸

    ○荒井広幸君 荒井でございます。最後になります。どうぞよろしくお願いしたいと思います。  まず、山崎公述人にお尋ねをいたしたいと思います。  お話を聞いていて、大体大づかみに言えばそういうことかなと、与野党の制度設計の部分ですね。時間軸の問題かなと。そこに行くまでの調整というものもあれば、制度をそこに持っていくための時間、こういったところが非常にポイントになるのかなと、このように聞いておりましたが、一つお尋ねしたいのは、いわゆる先ほどの全額税方式というのも一つなんですが、しかし、これ極めて基礎、最低保障的な意味ですから、ある意味においては生活保護に近いところの概念でおっしゃっていると思うんですが、保険制度というものを考えた場合に、私は、あるいは税方式と両方考えたとき私が一つこだわりたいのは、助け合っていくという気持ちを壊してはならないというふうにも思うんですね。  税というのは確かに漠然と納めているわけでございまして、目的化はされていないわけです。その再配分は国に国民の代表としてゆだねられていると。しかし、保険の場合は、ある意味において助け合いというのが明確に分かる。そういう気持ちや仕組みというものの有効性というのはまだまだ私はあると思うんです。  そういう意味で、今どちらかというと、とにかく助け合いは大変だから何かお上がやってくれる。しかし、そのお上がやってくれるということであったって、税であれば自分が応益分の負担をしなきゃいけないわけですね。  そういう気持ちがなくなっているところですから、もう少し私は助け合うというものの意味、こういったことを社会全体でもう一回、その長所、短所、物によっても違いますけれども、今回の社会保障全般について、助け合うという、世代間の、あるいは見ず知らずの子供から仕送り的に年金はもらうわけですね、こういうものの意味。それから、自分は健康であるけれども、万が一、情けは人のためならずだと、自分もそれで助かることもある、この子供もそうだと。そういうものを山崎公述人、助け合いというのをどのように社会保障全般でお考えになりますか。
  224. 山崎泰彦

    公述人(山崎泰彦君) 何か同じようなことを考えているみたいでございますが、やはりお互いに会費を払って会を運営していこうということだろうと思うんですよね。地域の自治会、町会でもそうでございます。いろんなところのサークルもそうでございます。  やはり助け合うというシンボルが会費、社会保障では保険料だろうと思います。そして、みんなで集めたお金であればお互いに大事にしようということになるわけでございまして、恐らくそういう助け合うという意識というのは、比較的小さな集団になるほど発揮されるのかなと、集団が大きくなればなるほど希薄になっていくのかなという気がします。  したがって、保険というのは比較的小さな集団の方がうまく機能すると思うんですが、しかしいろんな格差が出てくると思いますから、その辺の調整をするのが国の役割かなというふうに思っておりまして、いずれにしても、目に見える形で会費を払うというのは非常に美しいことだというふうに思っておりまして、いきなり国の責任だと、市町村の責任だというふうにはいかないんじゃないかなと。まずお互いに助け合うことから始まって、どうしても困った人がいる、払えない人がいると、あるいは、もっといいサービスをお互いに提供したいということになって市町村長さんに相談に行くと、議会にもかけていただいて、じゃそういう助け合いをもっと広めるために市町村としても応分の負担をしようかな、あるいは国の支援も求めようかなというのが今の日本社会保険だろうと思います。ですから、保険料を出して助け合うという仕組みがうまく機能するように国が今相当なお金を出しているし、医療や介護では都道府県、市町村も応援しているわけですね。いきなり国の責任だ、自治体責任だというのは、これは社会主義かなと。  要するに、お互いに助け合うという自立自助の気持ちを大事にしてそれを国や市町村が支援するという仕組みが、いろいろ問題はありますが、一番原点に根差した仕組みかなというふうに思います。
  225. 荒井広幸

    ○荒井広幸君 また井手公述人にお尋ねさせていただきたいんですが、いわゆるユニバーサルデザイン、これは我々で一番耳になじんでいるのが郵便局なんですよ。先ほどお話がありましたように、あらゆる人々がひとしく取り扱われることが信頼を強化していくし、すべてが受益者となると。実は、山崎公述人からもありましたけれども、この保険制度の最大の問題は、いかに分母が大きくなけりゃならないかということですね。大数の法則が利かなきゃいけないわけです。その中でリスクが取れていくわけですね。  そういうもので考えていくと、郵便局の簡易保険というのは、国がやっているというだけで七割の世帯が入っていたときがあるんです。つまり、非常に分母が大きくてリスクの大きい人を吸収できるという、実は公的手段によらないいわゆる助け合いの形、心を形にした世界でもまれな仕組みなんです。だから、全国どこでも保険に入れるから分母が広くなってくるんですね、私も入ろうと。どんどん店舗撤回しますから、お詳しいのは岩永先生でありますけれども、どんどんまた入る人が少なくなるということで、この郵政を民営化するという段階にはもっとこうした議論をしなくちゃいけなかったわけです。  こういうところが非常に欠けていたと思うんですが、郵政の場合、ユニバーサルデザイン、井手公述人はどのように郵政の仕組み、哲学というのを見ていらっしゃったか、現在の比較でも結構です。お願いします。
  226. 井手英策

    公述人(井手英策君) おっしゃるように、恐らく国民でユニバーサルデザインといったときに真っ先に浮かぶのは、福祉じゃなくて郵便局なのかなという感じは私も正直に申し上げるといたします。  簡保の問題、全く同意見です。ただ、もう一つ言っておきたいのは、財政投融資の問題なんですね。二〇〇一年に財投改革がありまして、小泉改革以降、実はここが物すごい勢いで切られていくわけですね。これは、実は日本の私が申し上げるところの雇用を保障することで社会を安定させる国家としては最も致命的な選択だったわけです。  だから、結局は、連帯ということで申し上げれば、財投のお金というのは、みんなで集めたお金、これをいったん大蔵省、財務省に預託しながら、今度は農村を中心として言わば恵まれない地域に再分配するということを財投はやってきたわけですね。そして、どこに住んでも同じような生活ができるというナショナルミニマムの一部を形成してきた。ここの部分ががさっと切られて、一つは連帯がなくなるということと、もう一つ雇用を保障されない人々が増える。これを社会保障できちっと吸収していけばいいですけれども、ここを非正規に投げちゃったわけですね。その問題というのは大きいと思います。今度は景気が悪くなると非正規が切られて、さあどうするんだということになってくる。  だから、そういう意味では、郵便局の問題というのは、私は財政学者の目から見ても非常に重要な論点だというように考えております。
  227. 荒井広幸

    ○荒井広幸君 終わります。ありがとうございました。
  228. 溝手顕正

    委員長溝手顕正君) 以上で公述人に対する質疑は終了いたしました。  この際、公述人の方々に一言御礼を申し上げます。  本日は、有益な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼申し上げます。(拍手)  明日は午後一時から委員会を開会することとし、これをもって公聴会を散会いたします。    午後五時一分散会