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公述人(井手
英策君) 今、御紹介いただきました井手でございます。今日はお呼びいただきまして、どうもありがとうございます。
今お手元に資料があるかと思いますので、こちらに沿ってお話をさせていただきたいというように思います。
本日のテーマを一言で申し上げますと、先ほどちょっと私ここに来る直前の議論でもあったようでございますけれども、人々をつなげていくための
政策というのは一体どういうものなのか、こういう観点からお話をさせていただきたいと思っております。
タイトルが
社会保障と国民生活ということでございますので、今の国民の置かれている
社会の状況というものを念頭に置きながら幾らかお話をさせていただければというように思っております。
一枚おめくりください。
現在、格差
社会、まあ二〇〇六年ぐらいから格差
社会という言葉が度々人口に膾炙しておりますけれども、この格差
社会、不思議な言葉です、私にとっては非常に不思議な言葉です。なぜかと申し上げますと、格差というのはいかなる国、いつの時代においても存在している。しかもそれが、現在が例えば高度経済成長期と比較しましてひときわに格差が広がっているというわけではありませんが、人々が格差をなぜか認識し、それが
社会問題であるというように考えるようになっている。
そのときに私が今日
一つキーワードとしてお示ししたいのが人々の信頼感、特に
政府に対する信頼感の問題でございます。
一番最初に、これは先進国だけではありませんで、途上国も含めた人々の
政府に対する信頼度を
調査しました国際統計でございます。質問はいろいろございますが、幾つか印象的なものだけピックアップいたしますと、例えば、
政府は私の考えることに無関心であるという質問に対しまして、強く賛成ないし賛成と答える人が七五%に達しており、これが先進国、途上国を合わせた国の中で下から、まあ上から八番目に高い数字ということですが、下から九番目に悪い成績ということになります。
同様に、例えば公務員のところを御覧いただきますと、上から四つ目になりますが、国民に奉仕をしている、そうだと思う人は一七・五%で、これは二番目に低い数字、あるいは
自分の過ちを修正する、これも同様にそう思うという答えが二三%で同じく下から二番目に低い数字、三番目ですね、というようになっています。
こういった数字を御覧いただくと分かると思うんですが、人々が政治家ないし
政府、公務員に対して抱いている信頼感というのが実は九〇年代の終わりごろから決定的に崩れてまいります。このことが人々をして他者に対して不信を感じさせる、格差を気付かせることの
一つのきっかけではないのかというのが今日の問題提起であります。
一枚おめくりください。
こういった前提で考えてまいりますと、実は不思議なことに気付かされます。それは何かと申し上げますと、信頼が高い状況と信頼が低い状況では同じ財政
政策でも異なるインパクトを持つという事実であります。
やや具体的に申し上げますと、もうこれはマスコミ等で随分騒がれておりますので大体皆さんの印象と同じではないかと思いますが、例えば、
政府に対する不信感が非常に強ければ、まず第一に増税の前に歳出を削減しなさいという国民の要求が出てまいります。しかしながら、公共事業を減らす、福祉を減らす、あるいは今日の状況のように非正規
雇用も含めた
雇用の流動化が進む、格差が広がるといった状況の中でこういった
政策を打てば、言うまでもなく所得逆再分配的な
政策、つまり人々の所得を減らすような方向に作用いたします。しかしながら、
社会的な弱者が増えていけば福祉に対するニーズは増えてくる。
つまり、ここで言いたいのは何かといいますと、歳出を減らすと赤字が減ると我々は考えてきたわけでありますけれども、人々の不信感が高まっている状況の中で歳出を切っていくと、なかなか増税のできない状況が生み出されることによって税収が減るという形で赤字が増える
可能性があるんだ、少なくとも小泉改革以降、我々が経験したことはそういうことではなかったのかということでございます。
ですから、問題だったのは、
政府が大きいか小さいかではない。大きくても税収が多ければ赤字は少ないんです。小さくても税収が少なければ赤字は大きくなる。ですから、そういった観点で、なぜ
日本は、特に戦後最長の好景気を享受しながらも増税ができなかったのかということを考えなければいけないと思うわけであります。
一枚おめくりください。
信頼が崩れているということを今日申し上げましたけれども、ソーシャルキャピタルセオリーという、今
社会科学で恐らく最も注目を集めている議論の
一つによりますと、人々の信頼をつくるためには
一つの明確な条件があるということが明らかにされつつあります。その条件とは何かといいますと、今日の二つ目のキーワードでありますユニバーサルデザインの福祉
サービスが重要だという事実であります。
このユニバーサルデザインという言葉はなじみのない方もおられるかもしれませんが、一言で言えば所得
審査が不要である、そして裕福な人も貧しい人も平等に受給できる
サービスのことをユニバーサル
サービスというふうに申しております。言うなれば、一言で言いますと、あらゆる人々がひとしく取り扱われるということへの確信が人々の信頼を強化する。ですから、福祉
サービスの内容を現在のターゲット主義、いわゆる貧しい人のみに福祉を出すやり方ではなくて、裕福な人もそうでない人もみんな、例えば子供が生まれれば児童手当を出しましょう、あるいは図書館であれば所得の多寡に
関係なく使えるようにしましょう、
社会をユニバーサルにデザインしていくことが信頼を強化する一番の手だてであるというような議論が今活発になされているわけであります。
一枚おめくりください。
では、当然、
一つ疑問がわくわけでありまして、なぜそのユニバーサルデザインがそんなにすばらしいのか。大きく三つポイントを指摘したいと思います。
一つは、所得
審査を伴うターゲット主義でやりますと、救済してもらうというその人々の意識自体が疎外感となって現れてしまうという事実が
一つございます。アメリカが典型でありますけれども、低所得者がフードスタンプをもらう、このフードスタンプを使えば食料を買うことができる、しかしながら、列に並んでいる人は、あいつは税金を使って酒を買っている、あるいはあいつは税金を使ってたばこを吸っているじゃないか、そういった目で人を見てしまう、そういうこと自体が人々の信頼感を損ねるというのが
一つ目の理由であります。
もう
一つは、これは
自治体が
関係することでありますけれども、この
住民は貧しくて救済できる
住民、この
住民は貧しいけれど救済しない
住民と選別をすることが
住民の意識にマイナスの影響を与える。あるいは、そもそもその
自治体職員が、ああ、こいつはもしかするとうそをついて
生活保護をもらおうとしているのではないかというふうに人々を猜疑心を持って眺めること自体、人々の信頼を損ねる作用がある。
第三のポイントとしまして、中高所得者層は負担者になり、そして低所得者層が受益者になりますので、負担と受益の対立が生じてしまう。これは七〇年代終わりのアメリカもそうですし、恐らく今の
日本もそうだと私は考えておりますけれども、福祉を減らして増税をするなというのが合い言葉になるんですね。これはなぜかというと、
中間層が受益者になれないためです。
こういった観点から、ユニバーサルデザインにすることは、あるいは選別主義、ターゲット主義を採用することは人々の信頼を損ねる、ゆえにユニバーサルに切り替えていくことが重要だと、こういうふうな議論になるわけであります。
一枚おめくりくださいませ。
ただ、このように申し上げると、必ず反論が出てまいります。
それは何かというと、まず
一つ目、ユニバーサリズムということは、あらゆる人に福祉を配るのであれば、それは恐らく大きな
政府になりますね、高福祉高負担になればそれは非効率ではありませんか、こういう批判が必ず出てまいります。しかし、
現実を見ると、アメリカの医療費の対GDP比でございますけれども、大きな
政府で有名な北欧諸国の一・六倍から一・八倍に達しているという
現実がある。理由は単純であります。
民間で医療保険を扱えば、それは
民間の
会社は配当を出さなくてはいけませんので保険料を高くしなくてはならない、そういった観点から一人当たりの医療費が高く付くということでございます。
二つ目、大きな
政府は
民間の経済
活動を圧迫するというような批判がございます。しかしながら、現在、北欧諸国を御覧いただきますと分かりますように、経済成長率は
日本よりも高いわけであります。このときによく言われるのが、いや、北欧は小さいじゃないか。ところが、経済学の教えるところによりますと、規模のメリット、スケールメリットという概念がありまして、つまり大きくなれば大きくなるほど効率性が働くというのが経済学の教えるところでありますから、人口が小さいから効率的であるというのは本来の経済学の考え方とはそぐわないわけでございます。
最後に、選別主義、ターゲット主義の方が効率的ではないかという批判がございます。
一つ申し上げておきたい、今日はここポイントになりますけれども、全員に福祉を配ると格差は是正されないんじゃないのかと普通考えてしまいますが、そのようなことはございません。ユニバーサルな形で福祉を供給しても、人々の格差を是正することはできます。
それともう
一つは、選別主義でやりますと、先ほど申し上げましたように、
中間層は負担者、そして貧しい人は受益者、そういった形での分断が進むと、間違いなく政治的多数である
中間層が増税に反対するんですね。そういう
意味で、フリーランチを食べさせるなが合い言葉になってしまう。言わば
制度としての持続
可能性が低まってしまうというのが選別主義の問題なわけであります。
おめくりください。
今、ユニバーサルで福祉を供給することでも格差が是正できるということを申し上げましたので、ごく簡単な資料をお目にかけたいと思います。
これは、一番
左側、ABC三人の当初所得二百、一千、二千という形で当初所得を設定しております。税金を三〇%の税率で掛けますと、六十、三百、六百という形で税金が取られることになります。これを引いた課税後所得が百四十、七百、一千四百ということになるわけでありますけれども、これに対して、例えば、例えばですけれど、一律で家族給付を百万、百万、百万と出してみたらどうなるかということを考えてみればいいわけです。そうすると、最終所得はこの百万を足し合わせた一番
右側の数字ということになります。
当初、二百万と二千万の間では十倍の格差がございます。しかしながら、一律の給付を含めた最終所得の二百四十と千五百の格差で見ますと、これは六・三に修正されるわけであります。このように、ひとしく福祉を供給することによっても格差を是正することは当然できるということをお示ししておきたいと思います。
それともう
一つ、先ほどの誤解と関連いたしまして、大きな
政府は非効率であるという批判に対してでありますけれども、スウェーデンの幾つかの統計を今日は持ってまいりました。これはスウェーデンだけではなく北欧諸国四か国挙げても大体同じような数字を取ることができると思います。
一つのポイントは、税収のGDP比を見ますと、先進国で一番高い数字になっているわけであります。同時に歳出水準を見ても、先進国でほぼ一番高いと言っていい数字になっております。しかしながら、我が国よりもはるかに財政赤字は少ないわけであります。
それともう
一つ、ジニ係数、所得の平等度を測っている指数でありますけれども、これを見ても先進国で一番平等度が高い。
そして、下から二番目を御覧いただきますと、国際競争力ランキングというのがございまして、これは先進国で四番目の数字となっている。
つまり、大きな
政府であったとしても、効率的にあるいは国際競争力を実現することは十分可能だということをここでは申し上げておきたいわけでございます。
一枚おめくりください。
では、そういった人々の信頼が崩壊していこうとする状況、そういう状況の中で財政赤字がどんどん増えていく。じゃ、税収を上げるためにはどうしたらいいか。人々の信頼が大事であって、ユニバーサル
サービスが大事だということを今申し上げましたが、現状の
日本の福祉国家はどういう形になっているかということを、もう
皆さん御存じだと思いますが、確認してみたいと思います。
一つは、戦後
日本の福祉国家の特徴は、公共事業によって
雇用を保障してきたという点であります。こうすることによって、通常であれば、ここがもしも
貧困ラインだとすると、ここを割り込んで
生活保護の受給者になりそうな人を
雇用保障することでこちらに来ないようにしていたというのが
日本の仕組みであります。ですので、
社会保険
制度によって、つまり保険料の払える人は受益者になれるという仕組みの下で非常に小さい福祉を実現してきた。これは、逆に言うと保険料を払えない人は受益者になれないわけですけれど、そういう人には公共事業を通じて
雇用を保障してきたというのが
日本のやり方だったわけであります。
しかしながら、御存じのように、近年においては公共事業の削減によって、元々であれば、保険料を払えなくて受益者になれない、だから
生活保護等々によって助けてもらっているという、言わば
社会的スティグマというふうに我々は言いますが、失格者の烙印を押されるという言い方をしますけれど、そういった人々が、職を得ることでそうならずに済んだ
人たちが、公共事業がなくなったことによってこちら側に来てしまっている、公的扶助の受給者になってきているというのが現状の問題としてあります。もちろん、景気が良ければ非正規
雇用の形で吸収されていたわけでありますけれども、そこが
派遣切り等々を始めてしまえば
生活保護の受給者の方に回ってこざるを得ない。
もう
一つは、高齢化が進展してくると、当然のことながら無年金者の存在に光が当てられるようになってまいります。ですから、同じ
社会保険の仕組みの下でも、
社会保険
制度の受益者になれる人となれない人が明確に区切られてきているのが今の状況だと思うわけです。ですから、こういった形を分断型の福祉国家というふうに私は呼ぶようにしております。こういった
社会保険方式を前提とする
社会の分断というのは、財政危機をもたらすという点に注意しておく必要があると思います。
一枚おめくりください。
一つは、納税者が二重の
意味で減少してまいります。それはどういうことかといえば、
一つは、非正規
雇用が進むということは所得が低下するということでございますので、これはよくいろんな統計で出ていますが、女性が結婚する一番の理由は男性の経済力であるといったときの男性の経済力がどんどん低下していっているわけですね。あるいは、女性自身がまた二極分化していて、要は職に就くことができて、それで結婚が遅れてくる女性、あるいは子供が産みにくくなっている女性も増えてまいります。そして、結婚できない男性が増えれば当然子供の数も減ってまいります。これは、結婚できている女性の出生率で見た完結出生児数がほとんど横ばいで来ているという事実でも明らかになるわけでありますけれども、結婚していない人が増えて、子供が減ってくる。そうすると、根本的に納税者が減ってくるわけですね。これが第一の点。
もう
一つは、言うまでもなく、非正規
雇用化が進めば低所得化が進みますから、納税者の所得が減ってくる、つまり税収が減るということになるわけであります。さらには、年金保険料や医療保険料が払えなければ、年金
制度の不安定化や医療
制度の不安定化は当然促されてまいります。さらには、失業給付、
雇用保険を通じた失業給付が増えたり、あるいは
生活保護受給者が増えれば、当然公的扶助の支出も増大してまいります。こういった形で歳出の増大圧力も高まってくる。
ですから、実は、公共事業を打ち切ることによって財政支出が削減できる部分は当然ありますけれども、それをやめて
雇用の非正規化を進めた結果、実は今、異なる形で財政支出の増大圧力が働こうとしている。ですから、そこをトータルで考えなければいけない。しかも、ユニバーサルに
制度を仕組んでないために、人々の信頼が低下していて、そのことが増税の困難さに結び付いているということを指摘したいわけであります。
ここで強調したいのは、ヨーロッパにおける税方式への流れという点であります。これは、一言で言いますと、保険料を集めて、保険料を払える人だけを受益者にするという理念ではなくて、税を通じてあらゆる人を受益者にするという仕組みに今ヨーロッパでも変わりつつある。特に、
社会保険
モデルを使ってきたドイツ、ビスマルク
モデルと言われるような所得比例型の
社会保険を使ってきたドイツやフランスにおいても税方式への移行が進みつつあるという事実であります。
ドイツでは、御存じかもしれませんが、
社会保険料の引下げと同時に付加価値税の増税を行いました。ただ、重要な点は、付加価値税三%上げた
うちの一%を
雇用保険に使い、残りの一部を年金に使ったわけでありますけれども、同時に所得税の最高税率の引上げを行っているという事実であります。これは金持ち税という呼び方をすることもありますけれども、これを使って、消費税の増税と富裕者に対する課税をセットで入れたということですね。これを福祉の財源にしたというのが
一つ。
フランスの場合で申し上げますと、同じように
社会保険料を引き下げて、この財源としてCSGと呼ばれる一般
社会拠出金を導入いたしました。この一般
社会拠出金は、家族手当、老齢、疾病部門に使用されるわけでありますけれども、ここのポイントは、保険料に比べて、新しく導入された一般
社会拠出金は課税ベースが広がっているということであります。もっと端的に言えば、資産所得に対する課税を織り込むことによって、富裕者に対する課税をここで入れてきている。ですから、ドイツと同じなんです。これを入れることでCSGの導入に国民が賛成しているという事実であります。
そして最後に、イギリスでは、給付付きの税額控除、負の所得税と呼ばれるものが導入されておりますけれども、この中では、
日本も二〇〇二年に児童扶養手当の法改正が起きましたけれど、あのときの議論のように、福祉の、何といえばいいですか、受給者を減らす、支出を減らすという観点から法改正をするのではなくて、支出を増やすことで人々が就労可能な状況をつくりましょうというのがイギリスのやり方なんですね。支出を減らすために就労に追い込むといういわゆるワークフェアとは実は本当はイギリスは違っているという点、ここを強調しておきたいと思います。
いずれにしても、低所得者に対する配慮をしながら税方式に移行して、貧しい人も含めたあらゆる人が受益者になる仕組みを導入しているということがヨーロッパの流れとして言えるわけであります。
ちょっと時間がなくなってまいりましたので、次のページのユニバーサルな公共事業を目指してというところの一番をちょっと中心に、今日の関連しているところでございますから、お話をさせていただきたいと思います。
今申し上げましたように、医療、介護、年金等々を税方式で行っていけば当然支出が増えます。ここ増えないというのはうそです。増えます。しかしながら、それはまず
雇用を生む重要なポイントになるということを確認しておきたいと思います。それは当然、今の状況を見ていれば分かるように、介護診療でありますとか、そういったものが結局十分に地方の方で現状に見合った形で決定ができなければ、そこで
雇用を生み出そうと思ってもなかなか難しいです。ですから、そういった価格の決定権を地方に握らせるということ。それは同時に、実はコムスンのような価格競争ではなくて、
民間を導入してもいいんですが、質の競争をやらせるということですね。つまり、価格を同じにすることによって質が良い方がニーズが増えてくるという仕組みをつくる、これが非常に重要な点になってくると思います。
それと、もう一点だけ言わせていただきたいのは、公共投資の中身を、実はこれまでのような新規の建設投資から維持補修型に切り替えていく必要があるということであります。これは、メンテナンスのための公共事業は二重で
意味を持ちます。それは何かというと、
一つは
雇用を生むということです。もう
一つは、実は、日々のメンテナンスを毎年の
予算で
予算を平準化して出していくことによって施設を長寿命化できるんですね。これはもう実証されています。長寿命化できると実は将来の造り替えのコストが劇的に削減できます。ですから、維持補修の公共投資というのは実は将来の赤字を減らすための公共投資なんですね。こういった観点から公共投資の中身を組み替えていくことが大事ではないかと思います。
ここでのポイントは、福祉やあるいは公共投資の転換を通じて
雇用を生み出すということです。こういった形を通じて、今までのような非正規の問題に対して
日本型の福祉国家は
雇用を保障するところに本質があったわけですから、今の非正規の
派遣切りの問題をここで吸収していくような仕組みをつくっていくことが大切だということです。しかも、そうやって医療の中身、福祉の中身あるいは
雇用の中身をユニバーサルに変えることによって人々の信頼を高めることができるということがポイントであります。
最後に十三ページを御覧ください。
今申し上げた点で
一つだけ強調しておきたいのは、歳出が増えるという事実から目をそらしてはいけないということであります。しかしながら、こういった
制度設計は実は大きな変化を財政にもたらします。
一つは、まず、
雇用をうまく保障することができれば、
中間層が分厚くなって税収が飛躍的に伸びるということであります。
次に、失業保険や
生活保護の受給者も当然減ってくるという事実であります。
そしてさらに、保険料を払うことができれば、これは、税方式に切り替えれば今度は保険料ではなくなりますけれども、医療や公的扶助
制度の安定化につながるということであります。あるいは、所得を増やしていけば、経済や
企業収益の活性化、これは更に言えば法人税収となっても跳ね返ってまいります。
そして、今日のテーマでありますけれども、一番重要なポイントとして、
中間層を受益者にするような福祉への改革、
雇用政策の進展を進めることによって、実は
中間層が受益者になると増税に対するコンセンサスが形成しやすくなるということなんですね。そして、人々の信頼が高まれば増税がしやすくなる環境ができてくる。これは逆に言うと、
社会的な
政府に対する信頼度が高いところは大きな
政府と高い税収を実現しているという事実を間接的に表現したものでございます。
済みません。以上であります。