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参考人(
宮川努君) 学習院大学の
宮川でございます。
本日、私は、現在御
審議中の
補正予算案を含みますこれからの
経済政策全般について、
経済学者の立場からお話をさせていただきたいと思います。
お手元に資料を配付しておりますので、その資料に沿いましてお話をさせていただきたいと思います。
本日の述べさせていただきます
内容でございますけれ
ども、三点ございます。まず、なぜ
景気は急速に減速したのかという、その要因についてお話をさせていただきます。続きまして、それを前提として、今取るべき
経済政策とは何かということを
短期的な視点とそれから長期的な観点に分けて御説明をさせていただきたいというふうに思っております。
最後に、私の希望といたしまして、明日につながる
政策を
お願いするという形にさせていただきたいと思います。
それでは、なぜ
景気は急速に減速したかということでございますが、今年はうし年でございます。私、うし年の時期をたどってみますと、うし年の時期というのは大きな
経済危機が続いております。昭和四十八年の第一次石油危機、それから昭和六十年の
円高ショック、それから
平成九年の
金融危機と、まさに
日本の戦後の
経済の中での十大ニュースにも記されるような大きな
経済危機が起きております。恐らく、昨年来のリーマン・ショックに端を発します米国の
金融危機、それに伴う世界的な
経済危機もこの
一つに加えられるだろうというふうに思っております。
ただ、今回の
不況の性格といたしましては、私自身は一番目の石油危機に似たという感じを持っております。その理由といたしましては、
平成九年の
金融危機と違い、
日本の
金融部門の傷は比較的浅いものでございますが、一方で
日本のリーディング
産業の傷が非常に深くなっております。これを裏付けますように、お手元の資料の図の一で
景気のピークのときから生産がどれだけ落ちたかということを示した図がございます。太線が今回の生産指数の落ち方でございますけれ
ども、それをたどっていきますと、昭和四十八年十一月からの石油危機のときの生産の落ち方とほぼ同じような急激な落ち方を示しております。
一方、図の二の方では、今回の
景気後退局面におきます就業者数を示しております。こちらは生産ほど急激な
減少を示しておりませんけれ
ども、先ほど
参考人の方がお述べになりましたように、非正規
雇用の部分については非常に急激な
減少を示しているというふうに思っております。
それでは、今回の
景気が急速に減速した要因でございますけれ
ども、これはその前の二〇〇二年からの
景気回復にその要因を求めることができます。前回の
景気回復は極端な
輸出依存でございました。これはそれまでの
景気回復と比べても顕著でございます。二〇〇二年からの
景気回復におきます純
輸出の伸びは年率三五%という激しい伸びでございました。これに対しまして、それを除く過去四回の
景気回復の平均の伸びは四・四%ということでございますから、いかに二〇〇二年からの
景気回復が大きな
輸出依存であったかということはお分かりいただけるかと思います。
したがいまして、アメリカ発の
金融危機が世界全体のマーケットの縮小をもたらし、それがかなり大きな波及効果を伴って
日本の実体
経済に影響を与えたということが今回の
景気の急減速の一番大きな要因であったというふうに思われます。
それでは、こうした
景気の低迷を受けて、今取るべき
経済政策というのは一体何だろうかということをこれから述べさせていただきたいと思います。
まず、その前に
政策を行う上での
原則ということを三点ほど述べさせていただきたいと思います。
一つは、
政府と民間の役割分担をきっちり決めておくということ、
政府と民間の
対策の中に一線をきっちり引いておくことだと思います。昨今、私が新聞等で見させていただきますと、かなり民間
企業に
政府がやるべきような
雇用対策を求めるような論調もございます。この点につきましては、やはりきっちりとした
ルール付けが必要かというふうに私は思っております。
もう
一つは、
政策を行う上での
政府の規模ということでございます。一方で、小さな
政府を志向するような
考え方もございます。この場合には実は
政策はできるだけ
ルール化すべきだというのが対応した
考え方です。もしきめ細かな
政策を行うというのであれば、
政府はそれ相応の規模を持たざるを得ないだろうということです。
もちろん、それに代わるものがございます。それはNPOやNGOの存在でありまして、例えば米国などでは小さな
政府をこれまで志向してきたわけですけれ
ども、一方で、表の一にもございますように、非市場部門、つまり非営利部門、NGOとかNPOの労働のシェアというのは
経済全体の四分の一にも上っております。欧米ではほぼこうした非市場部門が二割を超えておりますが、
日本や韓国では一五%にも満ちません。こうしたいわゆるNGOやNPOが補完的な役割を果たせるのかどうか、特に
雇用対策の場合において、そうしたことが果たせるかどうかということも含めて
政府の規模又は
政策のきめ細かさというものを決めていくべきだろうというふうに思っております。
三番目には、余りに情緒的な観点から
政策を決めるというのではなく、やはり過去の経験とデータに基づいた
政策を
実施するということが大切だと思います。これは、後に定額給付金の観点から少し述べさせていただきます。
次に、大本といたしまして、これから取るべき
経済政策は、やはり新たな
経済政策ビジョンの下に
短期及び長期の段階的な
経済政策を行うべきだと考えております。二〇〇〇年代に
政府もいろいろな
経済ビジョンを打ち出しておりますけれ
ども、これはアメリカの
金融危機によっていったん頓挫したというふうに考えて、新たな目標を据えるべきだと思います。私個人の
考え方では、新たな目標としては、やはり安定した
社会保障制度の下で自由で多様かつ創造的な
経済社会を目指すべきだというふうに思います。
この
社会保障を維持するために、できるだけ税負担を抑えるならば、一・五から二%の
経済成長が必要だと思います。そして、その
経済成長の基になるのは労働、資本、生産性でございますが、少子高齢化の下では新技術に基づく
設備投資と生産性の向上が必要であると考えます。
その下での
短期の
経済政策というのはどういうことであるべきかということですが、これはやはり当面の
国民生活の安定のためにできる限り財政出動をすべきだというふうに思っております。そうしたことは、今回の第二次
補正予算案、それから、これから
提出されます恐らく来年度の
予算案にも述べられているというふうに思っておりますが、大きな方向性を言えば、私としては広い意味でのインフラとそして
雇用対策に使うべきだということを考えております。
先ほ
どもお話がありましたように、
雇用保険の改定、それに伴う私自身は失業手当の給付
期間の延長といったようなことも考えられてよいと思います。それは、今回の
景気後退期間がかなり長くなるだろうというふうに予想するからであります。また、
社会資本の更新の前倒しということも考えて、地域の
経済の維持ということにも配慮すべきだろうというふうに思っております。
それから、今論争になっております定額給付金の評価でございますが、
経済白書の中にはかつて地域振興券の
景気浮揚効果を検証した文献がございます。そこでは、やはり
景気浮揚効果は一時的だったという評価でございます。今回はもちろん地域振興券に比べて広範な給付
対象となるわけでございますけれ
ども、
景気後退の長期化に対応できるというふうには考えられないと思います。もしこれを
景気対策ではなく
社会政策として考えるのであれば、やはり税制の変更で対応していくべきだろうというふうに私は思っております。
それから次に、
短期的な
経済政策で見落とされている点でございますが、今回は米国発の
経済危機でございます。現在の
日本の
経済構造を前提とすれば、国内向けの
経済政策だけでは十分ではありません。国際的にも積極的な
政策の関与が必要であると思います。
一つは、
金融面では、国際的な
金融システムの再
構築をアメリカだけに任せずヨーロッパとも協調して行うということ。それから、実体
経済面では、昨今のビッグスリーへの支援に見られるように、欧米が自国
産業の保護に走る前に、欧米でも
日本のような
産業再生機構をつくり、構造転換を迅速に働きかけるということが世界
経済全体にとっていいことだと考えております。
それから次に、長期的な
政策について述べさせていただきます。
長期的には、人、物、金の活性化ということが重要でございます。恐らく
金融危機が一段落すれば、先進国は新たなリーディング
産業の
創出競争を行うと思います。特に、昨日発足いたしましたオバマ政権は、かつてのクリントン政権がIT
産業やバイオ
産業をつくり出したように、新
産業の
創出を通じて
雇用の回復を図ろうとすると思います。
日本でも同様なことを行っていかざるを得ないというふうに思っております。
時間の関係もありますので少し飛ばさせていただきまして、人の活性化に移らせていただきたいと思います。
まず最初の人の活性化でございますが、サービス
産業は先ほ
ども話題に上りました
派遣労働者の活用ということで生産性を上げてきました。したがいまして、
内需中心で売上げが伸びておらず、
派遣労働者を使っているということもありまして、
人材の育成というのも頭打ちになっているというふうに私は思っております。これらのサービス
産業がどうしてこのような対応を取らなくてはいけないかというと、
内需の伸び悩みの中で生産性の向上を図るからでありまして、私自身はこうした生産性の向上は長期的には維持できないと考えております。
これからのサービス
産業は
内需依存を脱して海外でも通用する
ビジネスモデルへと転換しなくてはいけませんけれ
ども、それには従来型とは違った
人材の育成を必要といたします。それは、従来型の製造業型の
人材育成ではなく、やはりグローバルに活躍する
人材育成への転換ということでございます。先ほど来、
職業訓練というのも出ておりますが、より高度な
職業訓練のための助成
制度ということが必要とされております。
図には、九〇年代以降、非
正規労働者の一部でありますパート比率が非製造業を
中心に増えてきたということを述べておりますし、その次の図の四では、これは
日本が実は物への投資が多く行われていて、無形資産投資、人や
企業の組織という実は実体のない、技術も含みますが、目で見ることのできない投資は物への投資とかなり格差がある。実はアメリカが二〇〇〇年代になって物への投資よりも人や技術、そういったものへの投資の方が増えているということを示しております。
日本の場合は、失われた十年ということもありまして、
企業の研修費も頭打ちになっております。それがこうした差を生んでいるものだと思います。
二番目として、物の高度化ですが、これはやはりIT化ということが挙げられると思いますが、実は、次ページの図に示しておりますように、
日本のIT化は九〇年代は先進国中最低でございました。ちょっと時間が長くなりましたので、簡単にまとめます。物のこうした
環境技術も含めた高度化を行うべきだということでございます。
最後に、お金の使い方ですが、これまで述べてきましたように、物への投資だけではなくて、人や技術へお金が流れるような形で
金融システムを変えていくことが重要だろうというふうに思っております。
先ほ
ども申し上げましたように、今回の
景気後退は外生的なショックでございます。これまで
日本人は、外的なショックの場合は
経済の体質転換を通して新たな
成長ステージへと脱皮してきました。今回も、
政策手段を誤らなければ新たな
経済へと脱皮することができると思います。
これからの皆様の
政策論議が希望のわだちとなることを願いまして、私の話を終わらせていただきます。長い時間、御清聴ありがとうございました。