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国務大臣(中曽根弘文君) 外交の基本方針について所信を申し述べます。
外交の目的は、
我が国の国益、すなわち
我が国の安全と繁栄及び
我が国国民の生命、財産の確保にあります。そのためには、
世界の平和と繁栄が不可欠であり、
我が国としても、その実現に大きな
責任を有しております。現在、
国際社会は深刻な
経済危機に直面しています。また、国際テロリズム、やむことのない
地域紛争、待ったなしの
気候変動問題と、引き続き困難で早急に取り組むべき
課題が山積をしております。今こそ諸
課題に対する
我が国の考えを明確に示し、
国際社会をリードする積極的、主体的な外交を展開すべきと考えます。私は、
時代の
変化に適応した
戦略を持って外交を進めるため、
全力で取り組んでまいります。
昨年、
我が国は、北海道洞爺湖サミット、第四回アフリカ
開発会議、TICADⅣを主催し、
国際社会共通の
課題の
解決に向け大きな成果を達成いたしました。本年から二
年間、
我が国は国連安全保障理事会の一員として
国際社会の中で新たな重責を担うことが期待されています。
国際社会の現状を見れば、私
たちの歩むべき道は決して平たんではありません。
我が国が自らの繁栄を追求し、
国際社会において名誉ある地位を得んと希望するのであれば、国を挙げて現下の諸困難に立ち向かう気概が必要であります。
本年、
日本外交が自らに課すべき命題として、第一に、
日米同盟の
強化と近隣諸国との
協力関係の
推進、第二に、基本的価値を共有する諸国との
連携を深めつつ国際情勢の安定を図ること、第三に、
我が国の経験と英知を
活用して人類共通の問題の
解決にリーダーシップを発揮することの三点につき申し述べます。
日米同盟は
日本外交のかなめであり、同時に
アジア太平洋地域の平和と安定の礎です。この一月二十日には、アメリカ
国民の期待が極めて高いオバマ氏が新たな
責任の
時代を掲げ大統領に就任いたしました。同大統領は、外交政策においては、引き続き国際的リーダーシップを発揮し、
世界の平和と安定に
貢献していく旨、度々明言しています。新政権との間で強固な
信頼関係の下、
我が国から率直かつ具体的な提案を行うことにより、共に
課題に取り組む緊密な
協力関係を
構築し、
日米同盟を一層
強化するとともに、
アジア太平洋地域と
世界の平和と繁栄に向けて力を尽くしてまいります。その一環として、抑止力の維持と沖縄など地元の
負担軽減を図るべく
在日米軍再編を着実に実施し、日米安保体制を堅持してまいります。
さらに、
世界の平和と繁栄の実現に向け、金融・
世界経済の問題、テロとの闘い、
気候変動・エネルギー、核軍縮・不拡散及びアフリカ
開発といったグローバルな
課題への
対応においても新政権と一層緊密に
連携してまいります。
我が国は、
アジアの一員として、
アジア太平洋諸国とともに
地域の平和と安定を維持し、共に繁栄し
発展していかねばなりません。
昨年末、初の単独開催となる第一回日中韓サミットを福岡で開催し、様々な分野における
協力の
推進について
一致するという大きな成果を上げました。
日本、中国、韓国が互いに
連携と
協力を
推進することは、
アジア地域の今後の
発展にとっても有意義であります。個別の懸案は存在するものの、三か国の首脳が個人的な
信頼関係を築くという意味でも極めて意義深い会合でした。今後とも、両国とは首脳レベルはもとより外相レベルにおいても頻繁に
意見交換を行うよう努めてまいります。
中国とは、引き続き首脳を含むハイレベルでの交流を積み重ね、東シナ海の
資源開発や食の安全などの個別の懸案にも適切に対処しながら、
戦略的互恵関係の
構築を引き続き
推進し、
アジアと
世界の平和と安定に共に
貢献していく考えです。
先日、麻生
総理は、シャトル首脳外交の一環として韓国を訪問しました。首脳会談において確認されたとおり、
未来志向の成熟した
パートナーシップ関係の
構築に向け、二国間にとどまらず、
国際社会においても幅広い
協力関係を築いていく所存です。
北朝鮮については、日朝平壌宣言にのっとり、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に
解決し、不幸な過去を清算して日朝国交正常化を図るべく、引き続き努めてまいります。
六者会合において早期にしっかりとした検証の具体的
枠組みに合意し、非核化プロセスを前進させると同時に、早期に北朝鮮による拉致問題の全面的な調査のやり直しが開始され、生存者の帰国につながるような成果が得られるよう、引き続き真剣に取り組みます。
重要な隣国であるロシアとは、昨年十一月に行われた日ロ首脳会談の結果を踏まえ、
アジア太平洋地域における重要なパートナーとしての
関係を
構築するため、外相レベルを含めて北方
領土問題の最終的
解決に向けて強い意思を持って交渉を進めます。また、極東・東シベリア
地域での
協力を含め、幅広い分野での
協力を進展させます。
基本的価値を共有するインドや豪州との間でも、安全保障や
経済連携を含め、多様な分野で
関係を
発展させていきます。
東南
アジア諸国連合、ASEANの
各国との
関係を、本年の日メコン交流年や重層的な
経済連携の
取組などを通じて多くの分野で
強化し、また、ASEANの統合と
発展を力強く
支援してまいります。
現下の
世界的な金融、
経済の
混乱の中で、
アジア諸国が開かれた
成長センターとして
世界経済に
貢献することが重要です。
アジア太平洋
経済協力、APECや東
アジア首脳
会議などの
枠組みを
活用して、
アジア諸国とともにこの
地域の
経済的安定と
発展のために
一致して取り組んでまいります。
本年五月に北海道にて開催する第五回太平洋・島サミットを通じ、
気候変動を含む様々な
課題の
解決に向けた
取組への
支援を
強化し、太平洋島嶼国との
関係強化を図ります。
アジア以外の
地域においても、基本的価値を共有する国々と
連携しつつ、平和と安定のために
協力してまいります。
基本的価値を共有する欧州諸国や欧州連合、北大西洋条約機構などとの
連携を
強化してまいります。また、バルト諸国や中・東欧、中央
アジア・コーカサス、南
アジアといった民主化と
市場経済化を進める国々との対話や
協力に引き続き取り組んでまいります。
我が国が原油の約九割を輸入する中東
地域の平和と安定は、
世界全体の安定と
我が国のエネルギー安全保障にとって不可欠の条件です。中東諸国との間で、
資源にとどまらない重層的な
関係を
強化してまいります。
最近のガザにおける情勢悪化により、民間人に多数の死傷者が出たことを遺憾に思います。イスラエル、パレスチナ武装勢力の双方による停戦の表明を歓迎いたしますが、これが永続的な停戦につながることが重要であります。そのための
関係者への働きかけやガザ地区の人道状況改善のための一千万ドルの
支援などを着実に実施してまいります。その上で、平和と繁栄の回廊構想などを通じ、中東和平プロセスの進展を
最大限
支援してまいります。
先般、自衛隊は、約五年にわたるイラクでの任務を無事完了いたしました。その活動は、イラクを始め、国連、
関係諸国から高い評価と多くの感謝を受けております。私も、隊員一人一人が厳しい
環境下にありながら、使命感を持って立派に任務を果たしたことに、心から御苦労さまでしたと言葉を掛けたいと思います。
我が国としては、引き続き、復興
支援の成果を根付かせ、イラクとの幅広い分野での
協力及び長期的な友好
関係を
構築してまいります。
イランの核問題の平和的、外交的
解決のため、
国際社会と緊密に
協力するとともに、伝統的な友好
関係に基づくイランへの働きかけを行ってまいります。
ブラジル及びメキシコを始め、
経済面での存在感と国際場裏での
発言力を増している中南米諸国との
関係も
強化してまいります。その一環として、東
アジア・ラテンアメリカ
協力フォーラムの外相会合を
日本で開催し、
アジアと中南米との
協力強化に主導的
役割を果たしてまいります。
次に、
我が国の経験と知見を生かして国際的なリーダーシップを発揮すべき問題について何点か取り上げたいと思います。
中でも、現下の金融
経済危機の克服は、
我が国を含む
国際社会の喫緊の
課題です。麻生
総理は、昨年十一月の金融・
世界経済に関する首脳会合において、
我が国の経験を踏まえた具体的な提案を行い、
各国の連帯を呼びかけました。早急に実体
経済の悪化を食い止め、
各国が
保護主義に陥ることを防ぐことにより、
世界経済の安定を確保し、
危機再発を防止することが必要であります。
我が国は、四月にロンドンで開催される第二回首脳会合などを通じて、
各国と
協調して積極的に取り組んでまいります。
世界貿易機関、WTOドーハ・ラウンド交渉の
早期妥結、
経済連携協定や投資協定などの交渉及びこれら協定の
活用に積極的に取り組みます。知的財産権保護の
強化に向けた国際的な
取組にも引き続き注力いたします。
また、中長期的視点に立って、エネルギー、
資源を安定的に確保するため、主要
生産国との
関係強化に加え、輸入先とエネルギー源双方の多様化を図ります。二国間及び多国間の
協力を通じて輸送路の安全
対策も
強化してまいります。さらに、近年の
世界的食料需給の逼迫を踏まえ、食料安全保障の一層の
強化に向けた具体的施策に取り組んでまいります。
地球
環境の保全は、
未来に対する我々の
責任です。特に
気候変動問題については、二〇一三年以降の
枠組みについて、本年末の国連
気候変動枠組条約第十五回締約国
会議、COP15において合意を得ることとされており、本年は国際交渉が本格化します。
我が国としては、北海道洞爺湖サミットやCOP14の成果を踏まえ、すべての主要
経済国が
責任ある形で参加する実効的な
枠組みの
構築に向け、引き続きリーダーシップを発揮してまいります。また、途上国の
温室効果ガス排出削減や
気候変動の悪影響への
対応などに積極的に
協力をいたします。
さらに、
我が国の知見や
技術を生かし、新興
経済国におけるエネルギー効率の向上、再生可能エネルギーや省エネ
技術の
活用に向けて
国際社会と
協力して取り組むとともに、核不拡散、原子力安全及び核セキュリティーの確保を大前提として原子力
協力を
推進してまいります。
先月、私はノルウェーを訪問し、クラスター弾に関する条約に署名してまいりました。この条約は、人道上懸念のあるクラスター弾を禁止する歴史的意義のあるものです。
我が国は、被害者
支援を含む国際的な
取組に引き続き積極的に
協力してまいります。
また、
我が国は、唯一の被爆国として、核兵器のない
世界の実現に向け、現実的かつ具体的な
取組を主導します。二〇一〇年核兵器不拡散条約(NPT)運用検討
会議の成功に向けて、核不拡散・核軍縮に関する国際委員会を含め、
関係国との
協力を
強化していく考えです。さらに、
我が国の優れた科学
技術を生かし、国際
協力や宇宙分野での
取組などを
推進してまいります。
テロリズムは自由で開かれた
社会に対する挑戦であり、テロリズムの撲滅は
我が国自身の国益です。インドのムンバイにおける連続テロ事件では、
日本人を含め多くの
方々が犠牲になりました。改めて犠牲者の
皆様に心から哀悼の意を表します。
我が国は、テロ
対策としてインド洋における補給
支援活動を行っているほか、アフガニスタンが再びテロの温床にならないよう、同国において治安面や
経済復興において
医療や
教育を始め幅広い
支援を実施してきています。アフガニスタンの
地方復興チームへの文民派遣などを含め、
支援の
取組を一層
強化していきます。さらに、テロとの闘いの前線国家であるパキスタンにおけるテロ撲滅や
経済安定化への同国
政府の
取組を
支援してまいります。
海洋国家であり貿易国家でもある
我が国にとって、航行の安全や海上の安全確保は国家の存立と繁栄に直結する極めて重要な問題です。現在、海上交通路において海賊行為が多発、急増していることは大変懸念すべき事態です。航行の安全確保や、何よりも、
日本国民の生命及び財産の保護の観点から、海賊
対策はまさに火急の
課題であり、新たな法整備の検討を進めるとともに、できることから早急に
措置を講じてまいります。
国際社会の平和と安定があってこそ
我が国の国益も実現されるとの思いから、国連平和維持活動、PKOを始めとする国際的な平和活動を一層拡充する考えです。
今後二
年間、国連安全保障理事会の一員として、積極的かつ建設的な
役割を果たしてまいります。同時に、国連がより
効果的にその任務を果たすためにも、
我が国の常任理事国入りを含む安保理
改革の早期実現を目指し、本年二月に開始される
政府間交渉に臨む決意であります。
重要な外交手段である
政府開発援助、ODAを積極的に
活用し、途上国の
人づくり、
国づくりを
支援するとともに、地球的
規模の
課題の
解決に
貢献することは、
我が国自身の国益にかなうものです。
我が国として
戦略的な国際
協力の実施に一層努めてまいります。
第四回アフリカ
開発会議、TICADⅣや北海道洞爺湖サミットで約束した
支援策を着実に実施してまいります。人間の安全保障の理念に基づき、アフリカ諸国を始めとする
開発途上国に対し、貧困削減、
教育、保健、水・衛生などの分野で
支援し、ミレニアム
開発目標達成に向けても
貢献してまいります。同時に、平和の定着、民主化・良い統治の実現に加え、
市場経済化、法制度整備、貿易・投資
環境整備など、途上国の
経済成長の加速化と
我が国との
経済交流に役立つ
支援にもODAを積極的に
活用していくこととしています。
非
政府組織、NGOや民間
経済界とも
連携を
強化し、ODAの
効果的、効率的な実施と、質の一層の改善を進め、援助
効果の更なる向上に努めます。
以上のような
日本外交の基本方針について諸
外国の理解と
信頼を増進させることは、外交政策の円滑な
推進にも資するものです。このため、
我が国の外交方針を力強く対外発信いたします。また、伝統文化からポップカルチャーまで
我が国の文化の魅力を
戦略的に発信するとともに、
日本語の普及、知的交流の促進にも取り組んでまいります。二〇一六年東京五輪の開催実現に向けた招致活動を積極的に
支援していくほか、スポーツ分野での交流も一層促進していく考えです。
最後に、外交実施体制について一言申し上げます。
山積する外交
課題に迅速に対処し、また、海外における
日本人の生命、財産を適切に保護するためにも、需要に見合った形での人員、組織及び情報収集・管理体制などの
強化が不可欠であります。
国民の
皆様の御理解を得ながら、外交基盤を充実させ、
我が国の外交力を一層
強化してまいります。
私は、
外務大臣就任前から現在に至るまで、数多くの国を訪問し、それぞれの国の
国民に接してきました。そこで共通して感じましたことは、国の大小を問わず、いずれの国においても、人々が自分の国を愛し自分の国に誇りを持っているということです。
我が国の憲法においても、「
国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」とうたわれているように、他国から
信頼され尊敬されるとともに、
国民が自国に誇りを持てる
国づくりをすることが重要であると考えます。
冒頭でも述べましたように、外交の目的は、
我が国の国益、すなわち
我が国の安全と繁栄及び
我が国国民の生命、財産の確保、さらに、国家の名誉や威信を守ることであり、
国民が自国に誇りを持てるようにすることでもあると信じます。
日本は、科学
技術の力、人的
資源、幾多の困難を乗り越えた実績、いずれを取っても
世界に誇れるものを持っています。
国際社会が山積する困難を抱えている今、
我が国が積極的、主体的な外交を展開し、
国際社会の中で活躍することは、
国民が自信や誇りを得ることにつながるものと確信します。外交は、党利党略を超え、与野党が
一致して取り組むべきものと考えます。
国民の
皆様と党派を超えた議員各位の御理解と御
協力をお願い申し上げます。(
拍手)
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