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政府参考人(上田博三君) 健康局長の上田でございます。
お手元の資料に基づきまして、法案の審議の前に、
我が国における
臓器移植の経緯、現状、政府の対応状況等について御説明をいたします。
まず、最初に目次が付いておりますが、もう一枚開けていただきますと、「脳死とは」という資料がございます。まず、脳死について御説明をいたします。
社会通念上、死とは、いわゆる三徴候死でございます呼吸の停止、心臓の停止、瞳孔の散大、これは対光反射の消失ということも言われますけれども、この三つの条件で通常判断をされております。それがこの左側の呼吸循環停止により判定された死ということで、この三徴候死によって一般的には死は判断をされているわけでございますが、真ん中の段でございますけれども、脳死は、一般に脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止した状態と定義をされております。
脳幹とは、延髄など呼吸や血圧の調整など生きていくために不可欠な働きをつかさどる部分でございます。脳死に至った場合、自力で呼吸することができず、人工呼吸器によって呼吸が行えるわけでございますけれども、この人工呼吸器によって多くの場合のケースでは数日あるいは、最近では人工呼吸の管理が非常に進歩しておりまして、脳死という判断をされても心停止まで百日を超える例もあるというふうに聞いております。
右の段に参考で載せておりますが、植物状態というものがございますが、脳死と植物状態は全く異なる状態でございます。植物状態では、この図のところの白く塗った部分でございますが、いわゆる延髄などの脳幹の機能が残っておりまして、自ら呼吸できる、いわゆる自発呼吸がある場合が多うございまして、意識も回復することがございます。
このように脳死というものは、全脳機能が不可逆的に停止をして、人工呼吸の助けをなくしては状態が維持できないという状況でございまして、一方植物状態というのは、多く自発呼吸がございますので、補助的に人工呼吸器を用いることはあっても、基本的にこの自発呼吸があるかないかということが大きな一つのポイントでございます。また、脳死の場合には、全脳機能、この延髄とかそういう脳幹を含む、真っ黒にかいておりますけれども、この全体が機能を不可逆的に停止をした状態だということで、植物状態の場合にはこれが、こういう機能が一部残存をし、またこの延髄などの脳幹の部分は機能が生きて残っていると、こういう状態で、これは厳に区別されるべきものだというふうに考えております。
次に、もう一枚開けていただきますと、
臓器移植法が成立するまでの経緯について御説明をいたします。
現行の
臓器移植法でございますが、まず
我が国における移植法制につきましては、現行の
臓器移植法の前に、死体からの
臓器移植に関して昭和三十三年に角膜移植に関する法律が、その後昭和五十四年に角膜及び腎臓の移植に関する法律が定められたところでございます。脳死体からの移植に関しましては、
現行法の制定に至るまでさかのぼれば、平成元年に法律ができまして、二年の三月に第一回が開催されまして、平成四年一月二十二日に取りまとめられました
臨時脳死及び
臓器移植調査会、いわゆる脳死臨調の答申など様々な脳死、
臓器移植に関する議論がなされてきたわけでございますが、こうした議論を踏まえまして、そこにございますように、平成六年四月、中山太郎議員を始めとする先生方によりいわゆる旧中山案が
衆議院に提出をされましたが、この法案の扱う問題が個人の死生観等に深くかかわることなどから、国会におきましてもその扱いについて賛否両論がございまして、平成八年六月に、本人意思が不明なとき、家族の書面による承諾で可能とすると、この部分を削除する修正案が提出をされるなど、成立に向けた動きがございましたが、同年九月の
衆議院解散に伴い廃案となったわけでございます。
その後、同年十二月に、同じく中山太郎議員を始めとする先生方により、前述いたしました修正案と同一の内容の法案、いわゆる中山案が
衆議院に提出をされまして、脳死を人の死としない金田案との間での議論の末、参議院において脳死に関する様々な意見があることを配慮し、法第六条、
現行法の第六条第二項において、
臓器移植に際しては脳死を人の死と認めることを明記するなどの修正等を踏まえまして、平成九年六月十七日に
現行法が成立し、同年十月十六日に施行されたところでございます。
現行法は、国民の理解を得つつ、適正な形で
移植医療を実施するため、本人の
意思表示と家族の同意を
臓器提供の重要な要件としております。この法律に基づき、現在、
臓器移植が行われております。
なお、腎臓と角膜の移植については、従前の経緯を踏まえまして、心停止下については、
臓器移植法の附則によりまして、家族の承諾のみで現在も移植が可能となっているところでございます。
次に、資料の三ページから、
臓器移植法に関する法律の要点を簡単に申し上げます。
経緯でございますが、今申し上げましたように、平成九年六月十七日に成立をいたしまして、四か月後の十月十六日に法律が施行されました。
臓器移植法の要点は三つございまして、まず臓器の範囲と、臓器の摘出に関する事項と、その他の事項というふうに分けておりますけれども、この
臓器移植法で取り扱う臓器というのは、人の心臓、肺、肝臓、腎臓、その他
厚生労働省令で定める内臓ということで、この
厚生労働省令で定めております内臓は膵臓と小腸を規定をしております。それから眼球でございます。この中で、どうしても
脳死下でしか得られない臓器としては人の心臓ということになります。
それから、二の臓器の摘出に関する事項でございますが、
現行法の六条で定めておりまして、ア、イ、ウの部分でございますが、ちょっと読み上げますと、「医師は、本人が
臓器提供の意思を書面により表示しており、かつ、遺族が拒まないときには、
移植術に使用するため、死体(脳死した者の身体を含む。)から臓器を摘出することができるものとする」、「イ アの「脳死した者の死体」とは、臓器が摘出されることとなる者であって脳死と判定されたものの身体をいうこと。」、「ウ 臓器の摘出に係る脳死の判定は、本人が
脳死判定に従う意思の表示があり、かつ、家族が
脳死判定を拒まない場合に限定すること。」と、このような形で摘出に関しての条件を六条で定めております。それから、先ほど申し上げましたが、附則で、エのところでございますが、当分の間の経過措置として、眼球、これは角膜ですが、又は腎臓の摘出については、従前どおり、遺族の同意のみによって心停止後の死体から摘出を認めることになっております。
その他の事項でございますが、まず、国及び
地方公共団体は、移植についての国民の理解を深めるために必要な措置を講ずるよう努めなければならない、これは三条でございます。それから、臓器の摘出に係る脳死の判定、臓器の摘出又は
移植術を行った医師は、それぞれの記録を作成しなければならないこと、これは四条でございます。それから、臓器の売買等を禁止したこと、これは
脳死下に限らず生体の場合もそうでございますが、十一条で規定をしております。それから、エでございますが、業として死体から摘出された臓器のあっせんをしようとする者は、臓器の別ごとに
厚生労働大臣の許可を受けなければならない、これが十二条でございます。それから、法施行後三年をめどに制度全般について検討を加え、必要な措置が講ぜられるべきものとしたこと、これが附則の二条でございます。
次に、四ページを開けていただきますと、臓器の移植に関する法律の施行規則の概要を載せておりますが、まず臓器の範囲は先ほど申し上げたとおりでございます。
脳死の判定の基準でございますが、いわゆる竹内基準によって規定をされております。具体的には、そこにございますように、五つの項目について確認をし、少なくとも六時間経過した後に再び同じ項目について確認することにより実施すると。ただし、この場合は、竹内基準の経緯から、六歳未満の者はもう前提から除かれております。それから、低体温の方は脳幹の反射などが非常に弱くなるというようなこともございます。また、薬物中毒の方もそういう反射が鈍くなるということで、この方はまず判定対象から除外をされております。
五つの条件というのは、いわゆる深昏睡、ディープコーマと呼ばれるもの、それから瞳孔の固定ですね、それから
脳幹反射、これはいずれも脳の機能を見ているものです。それから平たん脳波、脳波が平たんであること。それから、先ほどのように、延髄などがもう機能を停止しているということで自発呼吸の消失と。この自発呼吸の消失については、後ほどちょっと述べますけれども、若干患者さんの方に負荷を掛けるという
可能性があることから、この確認は最後に要するということになっております。それから、
脳死判定に当たっては、聴性脳幹誘発反応の消失についても確認するように努めるものとするということになっております。
それから、次の(3)でございますが、
脳死判定等の記録につきましては、医師が作成すべき次の記録等について記載すべき具体的な項目として、そこに挙げたようなものを挙げております。
それから、四番のあっせん機関については、
厚生労働大臣の許可の手続について規定をしていると。
その他、使用されなかった部分の臓器の処理方法について、これは流用は不可でございまして、焼却をしなければならないということなどの規定を施行規則で設けているところでございます。
さらに、
ガイドラインというのがございまして、五ページ目でございますが、
臓器移植法に基づきまして臓器の移植に関する法律施行規則を定めたわけでございますが、さらに
脳死判定基準、それから
脳死判定等の記録に関する詳細な事項を規定する、そして
臓器移植の運用に当たっての必要な事項を定めるということで、
臓器移植に関する法律の運用に関する
ガイドラインというものを定めております。それが五ページでございます。最初にこれ出ましたのは、平成九年十月八日付けの通知でございます。
この
ガイドラインにおきましては、
臓器提供について
意思表示ができる年齢として、民法の遺言可能年齢等を参考として、十五歳以上と決めております。この
臓器移植法そのものでは年齢制限についてはまさに自分の意思が表示できるということを前提にはしておりますけれども、法律で年齢を決めるのではなくて、この
ガイドラインで現行十五歳以上とすることが決められているわけでございます。
それから二つ目の丸でございますが、遺族及び家族の範囲については、個々の事案に即し、家族構成等に応じて判断すべきものということで、これは当然、
脳死判定等には遺族及び家族の同意等が必要なわけでございますが、その範囲について決めておるものでございまして、原則として配偶者、子、父母、孫、祖父母及び同居の親族と。それから、全体の調整を喪主がこれも遺族の総意を取りまとめると、こういうふうなことを
ガイドラインで決めさせていただいております。
それから三つ目でございますが、
臓器提供施設の基準につきましては、適正な
脳死判定を行う体制がある施設であって、高度の医療を行う大学附属病院などの四つの施設とすることになっておりまして、そこにございますように、大学病院のほか、日本救急医学会の指導医指定施設、日本脳神経外科学会の専門医訓練施設。これは、A項となっていますのは、この中でもレベルの高い施設だということでございます。それから、救命救急センターとして認定された施設というものが
臓器提供施設となれるということをこの
ガイドラインで決めているわけでございます。これについても後ほどまた詳しく述べさせていただきます。
それから、またこれも追って詳細について述べさせていただきますけれども、
臓器移植法に基づく
脳死判定を行うまでの手順についてもこの
ガイドラインで定めているところでございます。
それから、
脳死判定に係る個々の具体的検査手法につきましては、
厚生労働省厚生科学研究費特別研究事業、
脳死判定手順に関する研究班の平成十一年度報告書でございます
法的脳死判定マニュアルに準拠して行うことを決めさせていただいております。
そのようなことがこの
ガイドラインで決めているわけでございますが、下から二つ目でございます移植施設でございますけれども、これは移植施設についても、後ほど述べますけれども、限定を掛けておりまして、移植関係学会合同
委員会において選定された施設に限定をするというようなことをしているところでございます。
次に、六ページから七ページにかけまして、
脳死下での
臓器提供の実施状況、本法が施行後の
脳死下での
臓器提供の実施状況について御説明をいたします。
まず、
臓器移植には
脳死下、それから先ほどから言っております心停止下、それから生体からの提供、この三つの形があるわけでございますが、移植できる臓器としては、現在、心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、角膜となっておりますが、先ほど申し上げましたように、医学的な特性から心臓は
脳死下のみからしか
臓器提供が可能ではありません。
そこの一にございますように、
臓器移植法が施行された平成九年十月以降の実施状況でございますが、
脳死判定が行われた事例は八十二例でございますが、そのうち
臓器提供に至った事例は八十一例ということで、一例は諸般の事情で提供が、何といいますか、臓器そのものに少し提供をするには問題があったということで提供に至らなかった事例でございます。
なお、本年一月には、ここに書いてございませんが、
我が国で初めての心肺同時移植が行われたところでございます。
そこで、臓器別で、二のところの表を見ていただきますと、これまで、心臓の移植が六十五件、肺の移植は五十一件、肝臓の移植が五十九件、腎臓の移植は七十三件、膵臓の移植が五十七件、小腸の移植は四件、角膜の移植が二十九件となっております。このように、徐々にではございますが、
脳死下からの
移植医療の実績が積み重ねてきておりますけれども、現在におきましても移植を待っている方が多くございます。
そこにございますように待機患者というふうになっておりますけれども、平成二十一年三月三十一日現在で社団法人日本
臓器移植ネットワークに登録されている移植希望者数は、心臓が百二十八名、肺が百十一名、肝臓が二百三十九名、腎臓に至っては一万名を超える方等々ということで極めて多くの待機患者がおられまして、これと脳死からの
臓器提供の数を見ると、非常に待機患者の方が上回っておりまして、中には、このままで行くと十年を待たなきゃいけないというふうなケースも想定をされるわけでございます。
次、七ページでございますが、横の表になっております。
脳死下での
臓器提供者数の推移でございますが、第一例目の
臓器提供に至ったのは平成十一年二月でございます。この年には四例の提供がございました。その後一けた台で推移しておりましたが、平成十八年からは十件以上の提供数が毎年続いているところでございます。平成二十一年は、まだ年の途中でございますが、五例となっているところでございます。
それから、八ページでございますけれども、生体間の移植の状況で、肝臓と肺と腎臓の状況をお示ししております。
まず、肝臓移植、
腎臓移植については、
脳死下での
臓器提供移植と比べて
生体間移植の件数が非常に多い傾向になっておりまして、この肝臓のところで見ていただきますと、脳死はほとんど見えないぐらいの高さになっておりますけれども、平成十九年における
生体間移植の件数を見ますと、肝臓移植は四百三十三件、
腎臓移植は一千三十七件、肺移植は九件となっているところでございます。
生体からの
臓器移植に関しましては、やむを得ない場合に例外として実施されるものであること、
臓器提供の任意性を確保するため提供者の自由意思を適切に確認すること、文書による説明及び同意を得ることなどを先ほどの
ガイドラインで定めまして、この下で実施をされているところでございます。そのほかにも、
生体移植に関しましては日本移植学会倫理指針においても定められているところでございます。
次に九ページでございますが、先ほど申し上げました、
臓器移植法において一定の要件の下で医師が死体から臓器の摘出ができることを、
脳死下でできることを認めている
臓器提供施設の条件でございますけれども、同法の施行に当たりまして、
臓器移植が国民の理解を得つつ望ましい形で定着するようにと、一定の要件を満たした施設においてのみ、
法的脳死判定を受けた者からのみ臓器の摘出ができることとしているところでございます。
具体的には、
臓器移植法に基づく脳死した者の身体からの
臓器提供を行う施設については、
ガイドラインにおきまして、当該施設全体で合意がまず得られていること、適正な
脳死判定を行う体制がある施設であって、救急医療等の関連分野において高度の医療を行う施設である、一つは大学附属病院、日本救急医学会の指導医指定施設、日本脳神経外科学会の専門医訓練施設、救命救急センターとして認定された施設の四類型を指定をしております。
臓器提供施設の数でございますけれども、平成二十年九月の状況でございますが、
厚生労働省がこういう四類型の施設に対して実際的に
臓器提供ができるかどうかということを確認をしておりますが、
臓器提供施設として必要な体制を整えていると回答した施設は、この四類型に当たる施設が四百七十四ございますが、そのうち三百三十八施設が提供できると答えているところでございます。
それから、一方、十ページでございますけれども、
脳死下での移植実施施設、今度は移植そのものを行う施設でございますけれども、脳死した者の身体から摘出された臓器の移植の実施について
ガイドラインにおいて移植関係学会合同
委員会において選定された施設に限定することにしておりますが、そこに挙げておるような施設でございます。選定されている施設の数でございますが、臓器別で、これ重複がございますが、
心臓移植は六、肝臓移植は十三、肺移植は七、膵臓移植は十四、小腸移植は九施設となっているところでございます。
これらの選定された施設に対しまして、社団法人
臓器移植ネットワークにおける移植実施施設として登録をされまして、その施設に
脳死下からの臓器が配分をされるということになります。
それから、十一ページでございますが、日本
臓器移植ネットワークの活動を示す体系図を示しております。実際の臓器の摘出から移植に至るまでの関係各機関のかかわりをこの表で見ていただければというふうに思いますが。
まず、死体から摘出された
移植術に使用される臓器のあっせんについては、
厚生労働大臣の許可の下、社団法人日本
臓器移植ネットワークにおいて実施されておりまして、ネットワークには、そこの上にございます東日本、中日本、西日本の三つの支部がございます。
臓器提供から移植に至るまでにおけるネットワークの役割について説明いたしますと、ネットワークにおきましては、ネットワークに所属する移植コーディネーター、これは本部あるいは支部に所属をしておりますけれども、こういう方々と、都道府県にも移植コーディネーターという方がおられまして、この支部の移植コーディネーターと都道府県の移植コーディネーターが連絡調整の下で、
臓器提供施設などの医療機関からネットワークに寄せられたドナー情報を基に、このコーディネーターが出向きまして、家族への
法的脳死判定、
臓器提供に関する説明を行うとともに、あらかじめ本部の方に登録されておりますレシピエントの中から適合する方を選定をいたしまして、
臓器摘出チームの派遣から、
臓器摘出、
臓器移植の実施に至るまでの一連の手続の円滑な実施を行っているところでございます。
それから、次、十二ページに参りますが、角膜については少し例外的な扱いをしていると申し上げましたが、角膜移植については、全国五十四、これは都道府県の数を超えていますが、県によっては二か所以上のアイバンクがあるところがございますので、五十四か所にあるアイバンクにおきまして角膜提供のあっせんを行っているところでございまして、平成二十年度末時点において角膜移植希望者は二千七百六十九名、角膜提供登録者は、この方は百二十一万七千六百三十一名となっておりまして、角膜
移植術は累計五万件ばかり実施をされているところでございます。
次に、十三ページでございますが、ここからが諸外国の状況ということで、論点となっております脳死を人の死とするかどうかということについて平成十三年の資料で御説明をしたいというふうに思います。全体を見れば多くの国々は脳死を人の死とすることが定着をしている状況にあると承知をしているところでございます。
具体的に申し上げますと、
アメリカ合衆国の多くの州におきましては、脳死を人の死とする大統領
委員会の人の死の判定に関する統一法案がモデル法案となりまして、これに倣って脳死に関する法律が存在をしております。カナダにおきましては、
臓器移植に関する法令の中で脳死を人の死と定義をしております。イギリスにおきましては、法令の規定はございませんが、元々慣習法の国でもございまして、脳死を人の死とする王立医学会の見解を慣習法上認めておりまして、社会的にもこれが受け入れられております。スウェーデンでございますが、死の定義について、人の死の決定のための基準に関する法律により、脳の全機能が完全かつ元には戻らない状態で停止することとされていると、このようなことで海外は運用をしているような状況でございます。
十四ページでございますが、
我が国と海外の
臓器移植法制の比較ということで、こういう表でございますが、
我が国の
臓器移植法は、現行は本人の書面による
意思表示を前提として家族の書面による同意を
臓器提供の重要な要件としているわけでございまして、日本の
臓器移植法は、そこにございますように、まず本人と遺族の承諾がないと駄目だということを原則にしているわけでございます。
一方、諸外国の
臓器移植法制を見ますと、
アメリカ合衆国、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデン、オーストラリア、大韓民国などの諸外国におきましては、本人の意思が不明の場合に遺族の承諾による臓器の摘出が可能とされているところでございます。制度としましては、遺族が拒否しても本人が承諾していれば臓器の摘出は可能とされている国もありますが、これ例えばフランスなどがそういう傾向もありますけれども、実際には遺族が拒否した場合には臓器が摘出されていない状況にあるということでございます。
それから、十五ページから十七ページでございますが、世界の
臓器提供者について説明をさせていただきます。
まず十五ページでございますけれども、
脳死下での
臓器提供は海外では広く行われておりまして、人口百万人当たり、スペインでは三十四・三件、
アメリカでは二十四・六件、韓国では二・九件、これに対して日本は
脳死下からの
臓器提供は百万人当たり〇・一件という状況でございます。
それから、次のページでございますが、
脳死下での
臓器提供を含む、これ、
脳死下と心停止下から両方合わせたいわゆる死体からの百万人当たりの
臓器提供数、二〇〇七年のものでございますけれども、人口百万人当たり、スペインでは三十四・三件、
アメリカでは二十四・六件、韓国で二・九、日本は心停止下を含めても〇・八件ということになっているわけでございます。
また、
脳死下及び心停止下の状況比較でございますが、次の十七ページでございます。
脳死下及び心停止下での
臓器提供と生体からの
臓器提供を比べましたものが次の十七ページでございますが、
欧米諸国では
脳死下及び心停止下での
臓器提供が多く、アジアでは
生体間移植が多いと、こういう傾向がこのグラフから見て取っていただけるというふうに思います。例えば、日本の場合には、死体からは〇・八ですけれども、生体からは百万人当たり十一・一でございますが、スペインの場合には、死体からが三十四・三で、生体は、これは約四ぐらいということでございましょうか、こういう傾向が見て取られます。
それから、十八ページから二十ページでございますが、これは問題になります海外への
渡航移植の現状について御説明をいたします。
まず十八ページでございますが、心臓については割と海外で移植をされた方の実施数が比較的正確に把握をされているというふうに考えております。
心臓移植については、研究班の報告でございますが、一九八八年から二〇〇五年までの十八年間で海外で移植を受けた方は百二名となっておりまして、一九九七年に現行の
臓器移植法が施行されましたが、九八年から二〇〇五年までの八年間で海外で
心臓移植を受けた方は六十五名となっております。
次に十九ページでございますが、肝臓と腎臓についての海外
渡航移植者の状況でございます。これについては、心臓ほどデータが正確でないので、こういう調査の回答の一つの結果だというふうに受け止めていただきたいんですが、ここにございます研究班報告によりますと、調査した百二十施設において外来通院している移植患者、肝臓の移植患者でございますが、二千九百八十三名ございますが、そのうち
渡航移植を受けて通院している方が二百二十一名ということになっております。それから、腎臓につきましては、調査した百三十八施設におきまして外来通院している移植患者が八千二百九十七名おられますが、そのうち海外
渡航移植をされた方というのは百九十八名となっているわけでございます。
次に、二十ページでございますが、小児の海外渡航の
心臓移植の状況とその渡航先でございますが、赤が
アメリカでございますけれども、圧倒的に
アメリカに渡航をしているという現状でございます。
これも年代別に見ますと、一九八八年から二〇〇五年までの十八年間で十八歳未満の方で海外で
心臓移植を受けた方が五十八名、それから九七年の
臓器移植法の施行以降でございますが、二〇〇五年までの八年間で海外で
心臓移植を受けた小児の方というのは四十二名となっております。
次に、二十一ページから最近の国際的な動向について簡単に御説明を申し上げます。
まず、二十一ページでございますが、
イスタンブール宣言でございます。まず、世界的な
臓器移植の不足からくる社会的、倫理的問題の改善に向けて、
国際移植学会が中心となりまして、昨年五月、トルコのイスタンブールでサミットが開かれたわけでございます。ここで、死体ドナーを自国で増やして自国での
臓器移植を増やすように呼びかけること、そのために国際協力をすることなどを内容とするいわゆる
イスタンブール宣言がまとめられたところでございます。宣言の骨子はそこにあります一、二、三ということで、一番重要なものは二の、今読み上げたところでございます。
それから、二十二ページになりますが、今度はWHOの動きでございますが、本来ならこの五月のWHOの総会で議決、決議がなされるところだったんですが、新型インフルエンザの影響を受けて、この議決そのものが来年の総会、五月の総会に延期をされたというふうに聞いております。このWHOにおきましても様々な議論がこれまでされておりますし、既に
臓器移植に関する指針というものがWHOでは定めておりますが、これを改正をする、で、新たに決議をするということで、
臓器売買や
渡航移植、いわゆる
移植ツーリズムへの対応について議論が行われる見込みでございます。
現在示されている指針
改正案の概要でございますが、臓器等と引換えに金銭を授受することその他あらゆる商取引を禁止すること、それからドナーとレシピエントに対し継続的な調査を行うこと、それからドナーとレシピエントのプライバシーを確保した上で臓器の提供及び移植の実施について透明性を確保することなどが主な改正の内容ということでございまして、二十二ページの下の方にそのことを書かせていただいています。
それから、これはまだ、その二十三ページから二十五ページまでは今申し上げました
改正案で、決定のものではございませんけれども、ちょっと英文で恐縮でございますけれども、正確を期すために英文でここに掲載をさせていただきまして、これが現在
改正案の原案となっているものでございます。
それから、二十六ページに参りますが、
脳死判定基準について御説明をいたします。
現在の
脳死判定基準でございますが、昭和六十年度の厚生省研究班によりいわゆる竹内基準が示されまして、その後、平成四年の脳死臨調の答申や平成六年の
臓器提供手続に関するワーキング・グループにおいて、当時の医学水準から見てこの基準が妥当であるとの結論をいただいていると考えているところでございます。
臓器移植法に基づく
脳死判定の標準的な手順等については臓器の移植に関する法律施行規則及び
ガイドラインにおいて定められているところでございまして、具体的には、先ほど申し上げましたが、
法的脳死判定マニュアルにのっとって行うことになっております。
臓器移植法に基づく
脳死判定は、前提条件として、脳の器質的な障害により深昏睡及び自発呼吸を消失した状態と認められ、これは前提条件のところにそれが、今の二十六ページに書かれておりますけれども、脳の器質的な障害により深昏睡及び自発呼吸を消失した状態と認められ、かつその器質的脳障害の原因となる疾患が確実に診断をされていて、その原疾患に対して行い得るすべての適切な治療を行った場合であっても回復の
可能性がないと認められた者について行うこととしているわけでございます。
その判定項目といたしましては、その
判定基準のところに、下の方に書いておりますけれども、深昏睡それから瞳孔散大・固定、
脳幹反射の消失、平たん脳波、自発呼吸の消失と、この五項目で、これを六時間以上あけて二回検査をすることで
法的脳死判定を行っているわけでございます。
なお、ちょっと二十六ページの二つ目のカラムで除外例を書いておりますが、脳幹の反射などが非常に判定しにくいものとして、急性薬物中毒それから低体温それから代謝・内分泌障害それから十五歳未満の小児、これは医学的なものではなくて、
ガイドライン上、本人の意思表明ができるかどうかということで除いておりますし、知的障害者もこの十五歳未満の小児と併せて
判定基準から除外を現行しているところでございます。
それから、これが現行の六歳以上の方については、今現在実際には行っているのは十五歳以上ですが、六歳以上についてはこのいわゆる竹内基準が適用できるものだというのが医学界ではおおよそ認められたことではないかというふうに考えておりますが、六歳未満などの小児の
脳死判定基準につきましては、厚生科学研究等におきまして、基本的に現行のこの厚生省基準を踏まえつつ小児の特性に配慮した考え方で策定すると、このような研究報告が取りまとめられているところでございます。
次、二十七ページでございますが、もう少し具体的に
脳死下での
臓器提供の流れを御説明をいたします。
臓器移植法に基づき、脳死をされた方の身体からの
臓器提供を行うことができる施設において器質的脳障害の原因となる疾患が確実に診断をされ、その疾患に対して行い得るすべての適切な医療を行った後に主治医が臨床的に脳死と診断した場合には、家族などの脳死についての理解の状況等を踏まえて、ドナーカードの所持など
臓器提供に関して本人が何らかの
意思表示を行っていたかどうか把握できたときに、これは具体的に言うと、臨床的脳死だという状態になったときにこの患者さんはドナーカードを持っていませんかというふうなことを聞いてみるとか、そういうふうなことでドナーカードを所持していることが把握をできた場合に主治医などが、まず
脳死下での
臓器提供の機会があるということ、その手続に際しては
臓器移植ネットワークなどの移植コーディネーターによる説明があるということをお伝えをして、説明を聞くことについて家族の承諾が得られた場合に初めて社団法人日本
臓器移植ネットワークに連絡をし、コーディネーターが派遣をされるということになります。
その後、家族の心情に十分配慮しながら移植コーディネーターによる説明が行われまして、
臓器提供についての家族の意思が確認できた場合には、その段階において初めて
臓器移植法に基づく
脳死判定が行われることになります。先ほど申し上げましたように、
臓器移植法に基づく
法的脳死判定は二回にわたって行われ、一回目の検査終了時から六時間以上経過した時点において行う二回目の検査において不可逆性が確認された時点が死亡だという判断になるわけでございます。
その後、レシピエントが決まり、
臓器移植を実際行う施設に連絡を行うことになりますが、その後、患者さんのところには
臓器摘出チームが到着をし、
臓器摘出が開始をされると、こういう手順になっているわけでございます。
それから、二十八ページでございますが、現行の
移植医療の普及啓発について簡単に御説明をいたします。
現行法では、臓器を提供するには本人の
意思表示をあくまでも尊重するという枠組みがございますので、そしてまた、併せて家族の同意も必要だということになっております。
臓器提供者の意思を明らかにする方法として
臓器提供意思表示カード、いわゆるドナーカードがございまして、これまで約一・二億枚が配られております。なお、このドナーカードには提供を拒否する場合についても
意思表示をする欄が設けられているところでございます。
このほか、社団法人日本
臓器移植ネットワークと連携しながら、国民に対する普及啓発としては、政府広報それから各種パンフレットの作成、配布、それから
臓器提供意思登録システムの整備などを行っているところでございます。
それから、二十九ページにありますが、
臓器移植に関する
世論調査について簡単に申し述べます。
これは、平成二十年九月に行われた
世論調査でございますが、
臓器移植に関する
世論調査は平成十年より二年ごとに実施されておりまして、直近のものは二十年九月に実施され、同年十一月に結果が公表されております。
平成十八年に実施されました前回調査からの動きのあったものについて説明いたしますと、まずドナーカードを知っていたとする回答が、そこの最初の二のところの、知っていた、知らなかったところでございますが、十八年から二十年に比べまして七一・一%と、前回より四・七ポイント増加をしております。認知度は若干増加したんではないかと思っています。ドナーカードの所持状況も、七・九から八・四%というふうに増加をしております。
しかし、その次の欄でございますが、ドナーカードの記入状況を見ますと、カード所持者のうち五〇・三%と、前回より記入している方が一〇ポイント減少しているということで、全体として記入している方が三・八%ということで、若干減少しているという現状でございます。
それから、
臓器提供に関する意思については、
脳死下、心停止下とも提供したいという回答が増加をしているというのが下の二つ目の丸のところのデータでございますが、提供したいという回答が増加をしております。
それから、十五歳未満の方の
臓器提供については、できないのはやむを得ないとする回答が二一・二%ある一方、できるようにすべきだという回答が六九・〇%、これはいずれも微増にはなっておりますけれども、こういう状況でございます。
それから、少し蛇足になりますが、三十ページは、
臓器移植について、保険適用についてでございますが、平成二十年度の診療報酬改定を受けまして、これまで先進医療の対象とされていました生体間の肺移植については新たに保険適用となったところでございます。
以上、簡単でございますけれども、あとの三十一ページからは現行の
臓器移植法の法律の本文と、それから施行規則、それから
ガイドライン、四十ページから
ガイドラインを添付をさせていただいております。
以上、簡単でございますけれども、
我が国の現状について御説明をさせていただきました。
ありがとうございました。