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参考人(
山地憲治君) 東京大学の
山地でございます。
私は、
経済産業省の総合
資源エネルギー調査会という審議会がありますが、そこで今回審議されている
エネルギー関連
法案に関する議論に参加させていただいております。
今回提案の
エネルギー供給
新法といわゆる代エネ法改正につきましては、非
化石エネルギー利用の
促進ということとともに、
化石エネルギーの徹底した
有効利用を図るということで、非常に重要な意義を持つというふうに考えております。ただ、これらの
法案、大変多くの内容を含んでおりまして、また、既に国会でも数多くの議論が積み重ねていると認識しておりますので、私からは
太陽光発電の新たな買取り
制度、これについて二つの点に焦点を絞って
意見を述べさせていただきたいと思います。
まず、二つの点の第一点目は、今回の買取り
制度を
導入することによって実現が期待されているのは太陽電池の大量
導入でありますが、その太陽電池を大量
導入した場合の
電力系統のいわゆる系統安定化
コストについてでありまして、第二点目は、この新たな買取り
制度と、現在
導入しておりますRPSと言われる
制度がありますが、その
制度との関係でございます。
まず、一点目の太陽電池大量
導入に伴う系統安定化
コストですが、これについては既に
経済産業省から説明が行われていると理解しておりますけれ
ども、この系統安定化の
コストの検討は、実は私が座長を務めております低炭素
電力供給システム研究会というものがございますが、そこで行ったものです。実はあした、恐らくこれが
最後になると思うんですが、この研究会が予定されていまして、そこで報告書を取りまとめることになっております。
系統安定化
コストというのは大きく分けて
三つの対策から成ります。電圧の安定化、それから周波数の安定化、及び
電力需給の安定化であります。
太陽光発電の
導入規模が大きくなるにつれまして、電圧安定化、周波数安定化、需給
バランス、この順番で対応が、大ざっぱに言ってでありますが、必要になってくると。そして、対策の
コストもこの順番でだんだん大きくなっていくわけです。基本的なことは既に説明されていると思いますので、ここでは最も対策
コストが大きくなる可能性のある需給安定化の
コストについて説明をさせていただきます。
実は周波数の安定化という二番目の対策も、
電力需給はもう時々刻々取らなきゃいけませんから、微少なアン
バランスから発生するんですけれ
ども、需給
バランスの安定化という場合にはもう少しマクロな視点から、
太陽光発電が特に数千万キロワットというような大規模に
導入された場合の問題でありまして、そこで
電力の
需要と供給が過剰になったり不足したりという問題であります。
電力は時々刻々需給
バランスを取る必要があると申し上げましたけれ
ども、
原子力とかあるいは自流式の水力発電とか、そういうものは出力変動を行うことが、技術的に不可能とは言えませんが、少なくとも急速に行うことはできない。また、火力発電所というものは、
需要自体が変動しますので、その
需要に合わせて運転するという
意味で、ある一定
程度の出力レベルで常に稼働させておく必要がある。つまり、
電力の中で
原子力と水力とそれから火力の一定部分というのは必ず運転しなきゃいけない。
こういう供給側のある
意味制約がある中で、
電力の
需要というのは土日は低下する、お正月とかゴールデンウイークというのは特に低下するわけですが、このような中で数千万キロワットというオーダーで
太陽光発電が
導入されますと、お天気が良い昼間の発電量が過大になるという場合が出てくるわけです。特に週末などで
需要が低いときには大規模に過剰
電力が発生します。つまり、
太陽光発電の大量
導入に伴う
電力需給の
バランスというのは
電力需要が小さい場合に発生するわけですけれ
ども、このような需給
バランスの対策としては、需給のアン
バランスを解消する対策ですが、
太陽光発電の出力を抑制するか、あるいは過剰に発生した
電力をどこかに貯蔵するかしかありません。
太陽光発電の出力が増大することに合わせて
電力需要を増大させるという対策も考えられるのではありますけれ
ども、それを実現しようとすると、昨今話題になっていますスマートグリッドというような概念でもって、太陽電池であるとかあるいは家電製品とか、
需要家側に設置されている機器、これらを情報通信で供給側といわゆる情報的につないで複雑な制御をしなきゃいけない。コンセプトとしてはなかなか面白いものでありますが、当面これに頼るということは現実的ではないわけです。
そこで、低炭素
電力研究会では、ゴールデンウイークとか特に
需要が小さい期間については、一部の太陽電池は出力抑制を行う。だけど、それ以外、例えば晴れた週末に過剰になる太陽電池の発電
電力量が出れば、それは揚水発電とか蓄電池で貯蔵して平日にそれを使用すると。そういう
状況を想定しまして、
電力需給のシミュレーションを行いました。
このような
電力需給制御というのがたくさん設置された太陽電池から情報を取ってできるかどうかということについては今後の研究が必要なんですけれ
ども、シミュレーションを行ったわけですが、それによってどれぐらい蓄電池が新たに必要になるか、それを計算して蓄電池の設置
コスト、それから、そういう
電力需給マネジメントシステムの
費用を見積もって対策
コストを出したわけです。
結果は、既に多分説明されていると思うんですけれ
ども、二〇三〇年に
目標とされている
太陽光発電規模というのは二〇〇五年の約四十倍と言われているんですが、五千三百万キロワットですが、この場合でシミュレーションで計算しますと、蓄電池等の需給
バランス上の対策だけで約四兆円近い
コストが掛かります。そのほか、一部の太陽電池の出力抑制をするとか、あるいはさっきの周波数安定、電圧安定ということを考えると、五兆円近い系統側の安定化対策
コストが掛かるということになりました。これ、五兆円近いものは、実は太陽電池そのものの設置
コストと比較しても相当大きな値になる金額です。
太陽電池の
コスト、今キロワット七十万とか、実勢六十万ぐらいに下がっていると言われているんですけれ
ども、例えば二〇三〇年ごろに
目標としているのは恐らくキロワット十万円ぐらいのレベルですね、太陽電池としては。一キロワット十万円の太陽電池の設備というのを二〇三〇年に
目標としている五千三百万キロワット建てようとすると、これは単純な計算ですけど五兆三千億円になるわけです。つまり、太陽電池の設置
コストとほぼ、安くなったときの設置
コストとほぼ匹敵するぐらい系統の安定
コストが掛かると。これは理解していただきたいところです。
しかも、余り知られていないと思うんですけれ
ども、低炭素
電力研究会というのは昨年の秋から今年の一月にかけて行ったもので、つまり、新たな買取り
制度は二月に提案されて、実は先ほど茅先生から説明のあった
温暖化対策の
中期目標は六月に出されたばかりですけれ
ども、それの前でありました。
したがって、二〇二〇年の太陽電池の
導入量というのは現在の二十倍ではなくて十倍というのが想定されていて、ですから、需給
バランス対策の
コスト評価というのを行った先ほどの四兆円とか五兆円という値も、将来の
電力需要の想定としては、実は
長期エネルギー需給見通しというものがあるんですが、その中の
努力継続ケースというものの
電力需要を使っているわけです。
ところが、実は、御存じと思いますけれ
ども、先ほど茅先生が説明された
温暖化対策の
中期目標の中では、
需要は
努力継続ケースでなくて最大
導入ケースというケースの
需要が想定されていると。最大
導入というのは、しかし、何か大きくなるみたいですが、実は対策をたくさん取りますから、
電力需要は今より大幅に下がるという想定をされているんですね。さっき申し上げたように、
電力需要が小さいと、そこに大量の太陽電池が入ったときの系統側の対策
コストは上がるわけです。
したがって、
努力継続ケースで想定したこの研究会の想定というのは、今度の最大
導入ケースの
需要で想定すると実はもっと高くなります。研究会でも試算しているんですけれ
ども、十兆円をかなり超えるというような値になっていると。もちろん、これシミュレーションでありまして、しかも蓄電池というかなり高い
電力貯蔵装置を考えているわけですけれ
ども、系統側
コストが非常に電池の設置
コストと匹敵あるいはそれを上回る規模で発生するんだということは是非念頭に置いていただきたい、これが一点目でございます。
二点目は、今回の新たな買取り
制度とRPSという
制度との関係です。
RPSはリニューアブル・ポートフォリオ・スタンダードというものの頭文字を取ったものですけれ
ども、この
制度は二〇〇二年ごろの審議会で提案したわけですけれ
ども、私もメンバーとして加わっておりまして、その後設置されましたRPS法小
委員会の
委員長を務めておりますが。
まず、RPSについて説明しますと、RPSでは新
エネルギー全体の
導入目標の総量を決めます。新
エネルギー導入の総量
目標を決めておいて、その内訳である太陽電池とか風力とかバイオマス等については地域の
条件に応じて適切に組み合わせると。組み合わせるというところがポートフォリオなわけですけれ
ども、この組合せをそれぞれの
電力会社が決めるというものであります。
総量の義務付けと、それからあとRPS相当量の実は取引というものを考えて、それを通して、新
エネルギーの種別であるとかあるいは生産場所を特定せずに
日本全体として総量としての新
エネルギー導入目標を
効率的に実現すると、こういう仕組みが実はRPSであります。
これに対して、買取り
制度というのがあります。これは、一定の価格で新
エネルギーからの発電
電力を買うと。今回ですと
太陽光発電の
余剰電力の買取りを義務付けるという
制度なわけです。実は、RPS
制度導入を検討した際にも、このような固定価格での買取り
制度との比較を行いました。結果としてRPS
制度を選んだのでありますけれ
ども、
太陽光については当時から一定の価格での買取りというものが自主的には
導入されておりました。先ほど森会長がおっしゃった、
電力会社の自主的な
取組として、家庭に設置された太陽電池からの
余剰電力については家庭用の
電気料金である電灯料金で買い取るというものでありました。
私は、太陽電池というものは、
一般個人が自分の意思で新
エネルギーの生産に直接参加できるという
意味で他の新
エネルギーには見られない良い点があるというふうに考えております。したがって、
電力会社の自主的
取組というのは非常に高く評価しておりました。むしろ、この
電力会社の自主的
取組を国の
制度として安定的に
運用してはどうかと考えてもいたわけです。
現実に、実はRPS
制度は三年後見直しというのがあったり、あるいは四年ごとに次の八年の
目標を決めるというのがあるんですけれ
ども、現在は、二〇一一年からは太陽電池からの余剰購入
電力量については二倍カウントして優遇するということを決定したところでありました。このような中で、太陽電池の
余剰電力について、家庭用
電気料金の約二倍に相当する高額で買い取るというのが今回の新しい
制度として提起されてきたわけです。
ここで問題になりますのは、今回の
太陽光に対する更なる優遇
制度によって
太陽光の
導入が急速に進むと期待されているわけですが、そうしますと、新
エネルギー導入の総量を義務付けているRPS法の
制度の中で太陽電池の量が想定以上に増えると。そうすると、他の新
エネルギーの
導入インセンティブがなくなってくるわけですね、総量の中で太陽電池が増えるわけですから。
実は、昨日、RPS法小
委員会を開催しまして、この問題については既に検討を開始しております。最も重要な論点というのは、今申し上げた太陽電池以外の新
エネルギーの
導入促進のインセンティブを失わないようにどのように
目標設定をするかということであります。RPS法というのは
規制法なものですから、
導入目標量を
達成できないと
電気事業者に対して勧告とか罰金というような制裁が科されることになっておりますので、慎重な取扱いが必要。今回の新しい買取り
制度によって
導入される
太陽光発電量というのは国が定める買取り価格によって左右されるというわけですので、それによって追加される
導入量について
電気事業者というのは責任を取ることができない状態に置かれていると私は理解をしています。
したがって、今回の買取り
制度による追加
導入量、追加的な
太陽光の
導入量を含めた総量
目標を
電気事業者に対する義務量とすれば、それが
達成されなかったからといって直ちに
電気事業者に制裁を科すというのは適切でないと考えています。具体的な対応はこれからの審議によって方向を定めていくことになりますけれ
ども、新
エネルギー導入総量
目標の一部について、それが
達成されなくとも制裁を科さないような工夫を考えてRPS
制度と今回の買取り
制度の調和を図りたいと考えているところであります。
前半の
意見で申し上げましたように、
太陽光発電は設置者側の
コストだけじゃなくて、
導入を受け入れる
電力系統側にも多大な
コストが掛かると。しかし、太陽電池というのは、個々人が直接新
エネルギー生産に参加できる、いわゆるよく全員参加と言いますが、それ以外にも、
我が国の産業競争力とかあるいは雇用につながるといういい点が多々ありますので、さらに技術進歩というのが太陽電池の側面では半導体に近くて非常に速いですから、ここしばらく太陽電池に対して特別な優遇をして育成するということは必要と考えております。しかしながら、特別な太陽電池に対する優遇はあくまで過渡的なものであるべきだと考えておりまして、
長期的には太陽電池というものも
太陽光発電も、
環境も考慮した
エネルギーの選択の中で
経済的に競合可能な新
エネルギーになる必要があるというふうに考えているわけであります。
そういう
意味では、その暁には、他の新
エネルギーとともにRPSの中で競合して競争して、
環境的にも資源的にも持続可能な
エネルギーの中で太陽電池が役立つということを期待しております。
以上でございます。