○
参考人(
金子勝君)
金子でございます。遅れてしまいまして、どうも申し訳ありませんでした。
私自身はこの
産業活力再生法改正に関して一切の利害関係を持ちませんので、この法律を含む全般的な
産業戦略の在り方そのものに関して
意見を述べさせていただきたいと思います。
まず第一に、皆さんお手元の
資料を見ていただければ分かりますように、G7の中における鉱工業生産の落ち込みは、二〇〇一年末を
基準といたしますと、日本の落ち込みは極めて顕著な、突出していると言っても過言ではない
状況を示しております。つい先ごろ修正されたIMFの世界
経済見通しでも、日本は二〇〇九年度
マイナス五・八%、独り負けと言ってもいい
状況にあります。欧米各国がおおむね
マイナス二から
マイナス三%であるのと比べると、本来サブプライムローン絡みの証券を日本の
金融機関は欧米
金融機関に比べればそれほど多くは買っていないと言われていた。直接的な
影響が少ないはずにもかかわらず、その落ち込みが極めてひどいということは、なぜそうした事態が起きているのか、あるいは、こうした
危機的状況に対して危機であるという認識がないことが危機なのではないかというふうに私は考えます。
この構造は、様々な統計データを見て観察をしておりますと、この落ち込みは極めて、割とはっきりとした
数字上で観察することができます。それは、
輸出が対前年でほぼ半分に減るという
状況が表れて、それにつれて鉱工業生産が引きずられるように落ち込み始めて、
景気循環で主軸となるような
設備投資がそれにつれて落ち込んでくるという形の因果連関を示しております。
このことは、
我が国においてなぜこうした事態がもたらされたかということを真剣に考えると、これまで行われてきた構造改革
政策なるものが実はこうした事態を生み出してしまったのだというふうに認識すべきだろうと。恐らく
意見の違いはあるかもしれませんが、構造改革の中で、
経済産業委員会においてもきちんと議論されるべきであると思う点は、米国の投資銀行をモデルとした日本の
金融立国路線というのは完全に破綻をしてしまったと。それから、アメリカにおいては
製造業の
金融化も失敗をしてしまった。GEキャピタルやGMACがその典型であります。
そういうふうに考えますと、千五百兆円の国民の資産をアメリカをモデルにして
運用すれば
日本経済が立ち直るというようなこれまでしかれてきた
産業の戦略の在り方では立ち行かないと。この国はどのような
産業で食べていくのかという
産業戦略をいま一度立て直さなければいけないということが基本にあります。構造改革は、市場化、規制緩和や民営化によって低い
生産性部門から高い生産部門へ人や金が流れるはずでありました。しかし、残念ながら、
金融自由化が生んだのはグリーンメーラー、買収屋であり、労働市場の規制緩和が生んだのは派遣業の中でも極めて悪質な
企業が大
企業化するというような事態でありました。
それから、これまで、インフレターゲット派と日本では言いますが、こうした人
たちが主張してきた
金融緩和
政策が、とりわけて
日銀の超低金利
政策が継続された結果、円安が誘導される、それから構造改革の中で労働市場の規制緩和によって労賃コストを抑制する、こういった
政策が行われてきた結果、
輸出依存度がずっと高まってくる、
輸出主導のもろい
経済構造ができてしまった。これは、結果的に見ると既存の
輸出産業の既得権益保護
政策にすぎなかったと。構造改革というのは、結果的にはそういう意味で
産業転換に失敗したのだということを認めなければいけないだろうと。
その一方で、私
たちは、構造改革によって
内需へ波及する経路が断ち切られてしまいました。それは、年金や医療、介護などの社会保障
制度が極めて
制度として動揺し、労働市場の規制緩和で個人間の格差が広がり、あるいは地方交付税や診療報酬のカットで
地域間格差が拡大させられ、貧困問題が生まれましたので、その一方で、法人税減税を続けて、税で富を吸収して地方へ配分する資金をどんどん断ち切ってきてしまった。こうした
状況の下で世界
同時不況になって
輸出依存体質が直撃を受けたために、先ほどグラフで見たような極めて深刻な事態に我々は直面してしまっていると。そういう意味では、
雇用や社会保障の抜本的な改革が必要でありますが、これは当面、
産業ということでいえば直接的ではない、
日本経済全体の守りをどうするかという話であります。
問題は、
産業戦略という点でこの国は世界的な
環境エネルギー革命から完全に取り残されつつある
現状があります。欧米諸国では、それぞれ国によって違いはあれ、
再生可能エネルギーへの転換など
環境エネルギー革命で
雇用や需要をつくり出そうという動きが急速に進んでおります。この点でも、小泉政権が京都議定書つぶしに走ってきたブッシュ政権に追随してきたために国際的に立ち遅れてしまっているということを認めなければいけないと思います。
今日、京都議定書を、目標を達成できていないために、国際的な批判は高まっております。例えば、国際NGOは日本に化石賞を与えたり、どの
環境政策の国際ランキングでも日本は常に下位の方に低迷しております。つい最近でいえば、ゴルバチョフ元ソ連大統領が設立した
環境保護団体のグリーンクロスインターナショナルのリポートによれば、ドイツはAランクですが、かつてリーダーだった日本はCランクであります。米国全体はCプラスでありますが、カリフォルニア州はBであります。
こういう
状況を見ても、日本は完全に世界の中で
環境先進国ではなくなっていることを認めざるを得ません。にもかかわらず、IRENAのような国際
再生エネルギー機関への参加も見送られております。そういう意味では、国際的な動きの中で立ち遅れている現実を直視する必要がある。
その上で、今、
再生可能エネルギーの領域は現在約十五兆円
規模だというふうに言われておりまして、毎年平均でいえば六〇%ぐらいの成長を遂げております。このペースで伸びていけば十年後には
自動車産業に匹敵するような
規模になるでしょう。
それから、太陽光や風力を含め、とりわけて太陽光の場合そうですが、国内で市場が急速に広がってまいりますと半導体と似たような学習
効果というのが働いてコストが急激に落ちていくという意味で、意図的に市場
環境を整えた国が急速にその
産業の育成のスピードを速めるという、そういう性質を持っております。
残念ながら、そういう意味では、ドイツのような国々、同じ物づくりでいえばドイツのような国々にどんどん追い抜かれているというのが
現状であります。典型的なのは、旧東ドイツ
地域にできたキューセルズに日本のシャープが追い抜かれて世界一の地位を滑り落ちました。国としても、二〇〇八年は世界第六位に転落をしてきております。風力も地熱発電も同様であります。その背後には、ドイツ等では
環境税や
再生可能エネルギーの固定価格買取り
制度、排出権取引などの強力な誘導
政策があるのに対して、日本ではほとんどこうした
政策が真剣に考えられていないということにあります。
太陽光については余りのスピードで、先ほど申し上げたように学習
効果が働きますので、
再生可能エネルギーの固定価格買取り
制度を
実施しますと、早い段階でみんなが参入しようといたします。生産が急激に拡大してコストが削減いたしますので、こういう流れの中で急激に落ちて、
経済産業省も慌ててこれに
対応をしようとしているという実態であります。しかし、これまで原発中心でやってこようとした
政策もあって、常に後手後手に回っている
状況であることは否めません。
さらに、GE、ゼネラル・エレクトリックとグーグルが手掛けているスマートグリッドを軸としたネットワーク型の双方向的な送配電網でも決定的な遅れを遂げております。蓄電技術やITによる制御技術、地熱発電などの技術も、これまで蓄積された日本の技術が海外需要頼みで、そちらで活動することが中心になってきますと、やがて研究機能も含めて海外に流出していくことを私は
懸念しております。その意味では、日本国内において強力な
政策でこれを巻き返すという必要性が今あるのではないかと。成長
産業をどこに置くかという戦略がしっかりしていないと、皆後ろ向きの救済的なタイプの
政策だけが並ぶことになってしまうということを私は
懸念しております。
時間も少なくなってきましたので、あと一点、
政策の発想が極めてイデオロギー的で時代遅れであるのではないかということを私は最後に強調したいと思います。
一つは、
金融危機、エネルギー危機、地球温暖化の三重の危機への対処として
環境エネルギー革命が進められておりますが、恐らく、OPECの生産調整及び原油価格の下落による石油開発投資の遅滞、停滞、メキシコのカンタレル油田に象徴される油田の枯渇などによって生産調整能力が低下しておりますので、やがて
景気の
回復局面がもし訪れたとしても、原油価格の上昇する局面で、中東石油に過度に依存する日本は更に世界から取り残されていく危険性があると私は考えております。
戦後最大の世界
金融危機の下で、大きなバブル崩壊に打ちかつためには大きな投資ブームを必要といたします。しかし、バブル循環への回帰は問題解決とはなりません。この投資ブームは、より大きな
産業と市場のフロンティアを生む分野で起こしていく必要があります。それが百年に一度のエネルギー転換であり、欧米諸国がこの分野に注目している最大の理由だろうと思います。
しかも、
政府のこの
政策においては
政府の適切な役割が必要でありますが、これは単なるケインズ主義的な
政策ではありません。
環境税、
再生可能エネルギーの固定価格買取り
制度、排出権取引などは、
政府や公社などに収入をもたらし投資を誘発する
政策でありまして、あるいは排ガス規制などは規制によって投資を誘発する
政策であるからです。これは大きな
政府か小さな
政府かというような従来の単純な二分法で切ることはできません。こうした
産業政策は、アメリカでも行われている公的資金注入や銀行国有化などとともに、既存の
経済学のテキストには登場しない性格の
政策であります。これは、ある意味で
経済学も百年に一度の危機にあるのかもしれません。その意味では、新しい
政策の発想が求められているというふうに私は考えております。
政策の日本の中の立ち遅れについては、この中にも書いてありますように、レーガン
政策、レーガンの
経済再建税法に対する誤った認識、これが一九八六年には廃止、縮小された歴史的な事実が忘れ去られ、なおも財政投融資やこうした減税
政策に頼っているような
政策の体系の在り方は転換しなければいけません。
さらに、
環境エネルギー革命において目立つのは、
経済産業省と
環境省の間の官庁間の対立とも見られるような
政策の調整能力の低さであります。同時に、製鉄業や電力業が相変わらず財界の中心を占めており、
経済界自身が既存の
輸出産業を軸とした、あるいはインフラ
産業を軸とした既得権益の保護に明け暮れた結果が構造改革
政策を遂行させることになってしまったと。洞爺湖サミットにおけるセクター別アプローチの失敗がその典型であります。
そして、この場であえて政治家の皆さんに訴えておきたいのは、電力業に対しては気の毒な面もあります。政治がリーダーシップを取って大胆に
環境エネルギー革命をするということを政治家が訴えないと、電力
会社は値上げをする、実質上、例えば
再生エネルギーに料金を乗せた場合に、国民に向かって自分
たちが矢面に立って値上げの理由を説明しなければならなくなります。
そういう意味では、政治が強いリーダーシップを持ってこういう
状況を転換していくんだというメッセージを送り出すことによって
産業界も引っ張られていくという関係がここに成立すると。その意味で、世界中で政治が強いリーダーシップを発揮して
環境エネルギー革命を遂行しているのはそうした背景があるからであるというふうに私は考えます。その意味で、この
委員会の場を借りて、そうした点でこの
委員会が強いリーダーシップを持って
産業戦略について討議をされていただくことを願ってやみません。
発言を以上で終わります。どうもありがとうございました。