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参考人(
村田晃嗣君)
村田でございます。
既に、ただいま
川上参考人から非常に詳細な
意見の陳述がございまして、私もほぼ同
意見でございますけれども、簡単に私見を申し述べたいというふうに思います。
まず、先ほどの
川上先生の
お話にもありましたように、この
オバマ政権の
発足、
アメリカ外交の変化の
意味ということでございますけれども、
オバマ政権あるいは
オバマ大統領の登場というのは、共和党八年から民主党に
政権が替わった、あるいは
アメリカの歴史上初のアフロ
アメリカンの
大統領が登場した、もちろんそういう
意味もあるわけですけれども、私はもっと大きな国際システム上の変化に根差したものだろうというふうに思います。
アメリカのイラク、そしてアフガニスタンでの軍事行動によって、
アメリカは軍事的にかなりの程度消耗をしている。さらには、グローバルな金融危機の中で
アメリカの
経済力に大きな陰りが見えるという中で、
アメリカの国力が後退の局面に入っている。
アメリカの学者の中にはこれを地政学的後退、ジオポリティカルセットバックというふうに言う者もありますけれども、そういう
アメリカの国力の後退。さらに、
アメリカの論者の中には、かつての米ソ二極から冷戦後の
アメリカ一極になり、その
アメリカの力が緩んで、今やもう極のない世界、ノンポーラーの世界に世界は移りつつあるというふうに論ずる者もあります。あるいは、
アメリカの時代という大きな時代が終わって、ポスト
アメリカンの時代が始まりつつあるというふうに論ずる者もあります。
そういう大きな国際システムの変動を機に、
オバマという、より多国間協調を重視し、
アメリカの限られた国力とリソースを
外交関係を活用しながら展開しようとするリーダーが登場したということであろうと思います。
そして、
オバマ大統領が
外交と内政両面で変化ということを強調していることはよく知られるところであります。しかしながら、
オバマ外交を考えるときに、実は、我が国を取り巻くアジア太平洋地域では、変化よりもむしろ継続の側面の方がはるかに強いということが指摘できようかと思います。それは、なぜならば、ブッシュ
外交においてこのアジア太平洋での
政策は数少ない例外的な成功というふうに目されているからであります。そういう
意味で、ブッシュ
外交から
オバマ外交というのは、実はアジア太平洋においては継続の側面というのが非常に高いものであるということが言えようと思います。
さらに、とりわけこの対日
政策について言うならば、継続の側面は更に強いと言ってよいと思います。既に、先生方も御案内のように、リチャード・アーミテージ元国務副長官と、そしてハーバード大学のジョセフ・ナイ教授を共同議長にして、過去二度にわたってアーミテージ・ナイ・レポートという日米同盟強化に関する報告書が
アメリカで取りまとめられているわけでして、ここ数年間、対日
政策に関して言うならば、
アメリカははっきりとバイパーティザンの、超党派の姿勢で臨んできていて、共和党と民主党の
政権の変化ということは対日
政策の大きな路線に変化をもたらすものではないというふうに思います。
さらに、人事の
お話が先ほどもございましたけれども、国防省でこの東アジア太平洋地域を担当するグレッグソン将軍の国防次官補の
承認が恐らく昨日ですか、
上院で認められたと思いますけれども、グレッグソン氏は
海兵隊の司令官として
沖縄に深く関与した人物ですし、そして、国務省で東アジア太平洋地域の国務次官補に指名を受けているカート・キャンベル氏もクリントン
政権で国防次官補代理としてアジア太平洋
政策に深くかかわった人であります。つまり、この対日
政策、さらに、この
沖縄の問題に関して言うならば、ブッシュから
オバマに継続しているだけではなくて、そもそもクリントン元
政権から一貫して過去十何年間かの
政策と人事の継続というものが見て取れるということだろうと思います。
したがいまして、私が申し上げたいことは、
日本が
アメリカの
外交を考えるときに、
オバマの登場によるドラスチックな変化というものと、そして
政策の継続というもの、この両方を我々は非常に慎重に考えなければならないのではないか。そして、
オバマ外交の変化というのは
日本にとっても大変大きなチャンスをもたらすわけでありまして、例えば地球環境問題について
アメリカがブッシュ前
政権のころと比べて格段に熱心になっている、これは
日本にとって非常に大きなチャンスであります。あるいは、エネルギー問題についても
アメリカは非常に国際協調的になっているということも、日米だけではなくて、日米中を巻き込んだ形で我々がどれだけリーダーシップを取れるかというチャンスであります。
さらに、御案内のように、去る四月、まさに北朝鮮が彼らが人工衛星と称するミサイルの発射実験を行ったときには、
オバマ大統領はプラハで核のない世界についての演説を行ったわけです。
アメリカが核保有国として、そして唯一の核を使用した国として核廃絶についての道義的責任があるというふうに
アメリカの
大統領が高らかと語ったわけです。このことは、戦後一貫して唯一の被爆国として核廃絶を唱えてきた
日本外交の姿勢にむしろ
アメリカ外交が歩み寄ってきたということであって、
日本外交にとって非常に大きなチャンスであります。
こういうグローバルなイシューで
アメリカの変化を積極的に
日本が受け入れて、そして
アメリカの信頼できるパートナーとしてグローバルな課題で日米が協力していくためにも、日米
関係で継続している、そして繰り越されている案件について、我々が
アメリカにとって重要かつ信頼できるパートナーであるということを示すことが、我々がグローバルな課題での責任を果たす
意味でも非常に重要なことであろうというふうに思うわけです。
去る二月に
クリントン国務長官が来日をして、そしてここで審議をされておりますところの
協定がまとめられたわけでございますけれども、これが国際
条約であるのか、あるいはいかなる法的な
意味合いを持つ
協定であるのかという法律的な解釈はともかく、先ほど
川上参考人も
お話しになりましたように、
大統領就任百日目で六九%の高い
支持率を誇る
大統領の最も有力な国務長官が
最初の訪問先として
日本を選び、そこで取りまとめた
協定であって、この政治的な
意義というのは非常に大きいものであろうというふうに思います。
法的
拘束力いかんにかかわらず、この政治的約束というものを軽視することは
オバマ政権にとって非常に難しいことであろうというふうに思いますし、そういう
オバマ政権の一連の対日重視の姿勢というものを、彼らがこの対日重視の姿勢に疲れ果ててしまう前に我々がこのチャンスを積極的に生かす必要があるのではなかろうかというふうに思うところでございます。
さて、より具体的に
グアム移転協定の
意義ということについて、これはもう既に
川上参考人が非常に詳細に
お話しになりましたので改めて私が付け加えることはないわけですけれども、一方で
アメリカのグローバルな戦略の変化に対応してこのアジア太平洋地域での
米軍の機動力と柔軟性をいかに確保し高めるかということと、そして他方では
沖縄に集中する
米軍基地の
負担軽減の問題という
二つの要素があることは言うまでもありません。
さらには、この
海兵隊の
移転の後に私どもが強く願うところの
普天間の
移転でも、先ほどこれは
佐藤参考人の
お話にもありましたけれども、V字形の
滑走路の設置について、
地元の住民の方々が被られる騒音のような被害の問題と、そして
滑走路を沖合に出すことによって生ずる
ジュゴンの被害という、こういう問題を我々は抱えているわけですけれども。
私がここで申し上げたいことは、国会議員の先生方にまさにこれは釈迦に説法でございますけれども、
地元の住民の希望、騒音を軽減したい、あるいは環境を
維持したい、これは全く、何と申しましょうか、もっともな希望なわけです。しかしながら、希望をそのまま政治の場に持ち込むことは必ずしも政治家の仕事ではないと。有権者や住民の希望をそのまま伝えるだけでは、これは世論
調査会社がその任を果たすのであって、政治家の使命は、住民や有権者の希望を政治的に利用可能な資源との
関係でどのように
優先順位を立て、どのように
実施するかの戦略を立てるのが政治家の使命であって、有権者の希望そのものを繰り返し伝えるのであれば、我々は間接民主制で国会議員を持っている
意味はないということになるかと思います。
願望、希望と利用可能な資源との間の組合せをどう考えるか。今、改めてビスマルクを持ち出すまでもなく、政治というのは
可能性の芸術なのであって、そのような
可能性をどう考えるかということだと思います。
一方で
抑止力の
維持、そして他方では住民の
負担軽減、この
二つの達成しなければならない目標の中で、我々が持っている資源との
関係でどのようなバランスを取るのか、
ジュゴン、環境の保全という問題と住民の騒音の軽減というこの
二つの課題の中で、このバランスをどう取りながら我々の資源をマックスに利用していくかということを考えなければならないというので、だれもが一〇〇%納得できるような答えを
実施することはできないのであって、そういう様々な目標の間でのバランスをどう取っていくかというのが政治に求められている課題ではないかというふうに強く考えるところでございます。
さらに、先ほど
川上参考人がこれも御指摘になりましたように、この
グアム移転協定の問題というのはこれだけを取り出して単独に考えることはできないのでありまして、中国の軍事近代化や増強の問題、それから北朝鮮によって繰り返される軍事的な挑発行為の問題、こういう
日本を取り巻く戦略環境の変化というものを我々がどうとらえるかという戦略
認識の問題であろうと思います。
更に言いますと、
アメリカが冷戦後、とりわけここ数年来、
日本、そしてイギリス、そしてこの
移転の対象となっておりますところの
グアム、それからディエゴガルシア、これを海外における戦略的な非常に重要な拠点というふうに考えているということは、我が国にとって、
アメリカが
日本を非常に重要な戦略的拠点と考えていることは、ある
意味で
負担にもつながりますけれども、同時に千載一遇のチャンスでもあって、我が国の
経済力が相対的に低下し少子高齢化が進む中で我が国が依然として
アメリカの重要な戦略的パートナーであるという立場を
維持するということは、大変に重要なことではなかろうかというふうに存じます。
もちろん、この
沖縄における更なる
負担の軽減措置というのは様々な形で
検討されるべきことでありましょうし、
日本政府とそして
地元との円滑な
意見交換というものをより一層進める必要があるというふうに思います。
しかしながら、この
グアム移転協定、更に申しますならば
在日米軍の
再編の問題というのは、一九九六年でしたか、
橋本・クリントンの
日米安保の共同宣言以降、言うならば十数年間論じられてきたことであって、
アメリカからすれば、政治的約束を履行してこなかったのは
日本側であるという見方もこれは十分あり得ることだろうというふうに思います。そして、
アメリカはそういう政治的継続の中でこの案件を考えているのだろうというふうに推察することはできます。
ここで
日本が政治的責任を果たし、
アメリカにとって信頼できるパートナーであるという姿勢を示すことで、冒頭申し上げましたように、地球環境、エネルギー、核廃絶、そして、今豚インフルエンザで大変大きな問題になっておりますけれども、世界的な伝染性疾患、こういったグローバルな課題に
日本が責任ある国際社会の一員としてより一層大きな役割を果たす上でも、ここで日米の協力、連帯というものを示すということが大変重要な
日本外交の課題であって、本当に大きなパッケージというのは、
グアム移転と
普天間とその他
基地の返還ということではなくて、グローバルな国際イシューで日米が協力するために、この日米の二国間の案件でどれだけ我々が信頼できるパートナーであるかという姿勢を示すというのが本当に大きな日米の戦略的パッケージではないかというふうに存じます。
以上でございます。