○大野
政府参考人 確かに、諸外国の中で、取り調べの全面的な録音、録画というのを導入している国もございます。ただ、
先ほど申し上げたような
捜査における真相解明のやり方が、そうした国々においては
日本と全く異なるということを申し上げたいというふうに思うわけでございます。
なお、これは誤解ではないかと思うのでありますけれども、諸外国の例の中で韓国が挙げられることがよくございます。韓国においても取り調べの全過程の録音、録画が義務づけられているというようなことをおっしゃる方がいるわけでありますけれども、これは事実に反します。韓国におきましては、今、
日本の検察がやっているのと同じような形で、
捜査側の裁量によって録音、録画が行われているわけでございます。したがいまして、基本的に、それは自白をした後の
状況をいわば切り取った形で録音、録画をしているということでございます。
それでは、全面的な録音、録画をしている国はどうかということでございますけれども、全面的な録音ということではイギリスを挙げることができるわけでございます。
ただ、イギリスは
日本と異なりまして、被疑者の取り調べというものに対して、真相解明機能においてほとんど役割が与えられておりません。逮捕されてから起訴するまでの間、取り調べというのは一回、それもせいぜい三十分くらい行われるだけであります。そこで被疑者が事実を否認するというような場合には、例えば矛盾する証拠を突きつけて事実はどうだったかという追及を行うこともありませんし、本当のことをしゃべりなさいということで説得を行うこともないわけであります。そして、起訴に持ち込んでしまうわけであります。
何でそんなことができるのかということでありますけれども、これは、
先ほど申し上げた、
日本においては取り調べで丁寧に事実を調べていくわけでありますけれども、イギリスにおいては、例えば通信傍受であるとか、あるいは司法取引であるとか、刑事免責であるとか、
日本においては認められていない、あるいは認められているとしても非常に幅の狭い、そうした真相の解明の手段が非常に強力に用いられているからであります。
また、イギリスにおいては、弁解を求められて、それに対して供述を拒否する、つまり黙秘権を行使したことが事実認定上不利益に用いて構わないというような規定も置かれているわけであります。ある意味では、黙秘権の不利益推認を認める規定も設けられているわけであります。
さらに、起訴基準自体も、
我が国に比べましてはるかに緩やかでございます。公判となった事件のおよそ三分の一は無罪になるわけであります。そうした点で、全く
我が国と
状況が異なります。
それからもう
一つ、違う法系の国といたしまして、イタリアも、これは全面的に録音、録画が義務づけられているわけでございます。
ただ、イタリアの場合には、マフィアの犯罪等があることからも容易にうかがわれるところでございますけれども、被疑者はなかなかしゃべらないわけであります。したがいまして、実際に
捜査において取り調べが行われる件数というのは一〇%程度である、あとの九割は取り調べを行っていないわけであります。したがって、取り調べの録音、録画というのは、自白したケースにおいて、その自白
状況をきちっと再現するというような趣旨になっておりまして、イギリスと同様に、説得であるとか、あるいは追及というものは行われません。
では、それに対する
捜査手段はどうかといいますと、通信、会話の傍受、おとり、潜入
捜査、あるいは
捜査に協力すると刑の減免を行うというような
制度が認められているわけであります。もちろん、無罪率も非常に高い。起訴したうちの三〇%ぐらいは無罪になるということでございます。
なお、イタリアは、通信傍受が最も活用されているわけでございまして、
我が国におきましては、昨年、通信傍受は年間で二十二件でございました。イタリアの場合は数万件に達するわけでございます。
つまり、そういう全く
捜査状況といいましょうか構造が違う中で行われているわけでありまして、もちろん、それぞれについて問題があり長所があるわけでありますけれども、そうした
捜査構造全体についての議論を抜きに、現在非常に大きな働きを果たしている取り調べの機能を損なうような全面的な録音、録画には問題があるんじゃないかというようなことを申し上げている趣旨でございます。