○鳥井
参考人 こういう場で発言させていただくことを感謝しております。
私は、
移住労働者と連帯する
全国ネットワーク、略称移住連と申しますけれ
ども、お手元にリーフレットを配付させていただいておりますけれ
ども、その移住連の事務
局長を務めております鳥井と申します。
私たちの移住連は、一九八〇年代からこの
日本の労働市場の求めによって急増した
移住労働者とその家族、ニューカマーの人々に対する差別、
人権侵害や労働問題に取り組んできた各地のNGOや労働団体によって一九九七年につくられた
全国ネットワークです。現在、九十の団体が加盟しております。
また、私自身は、個人加盟の労働組合であります全統一労働組合という、中小零細企業をフィールドとしているわけですけれ
ども、その労働組合でオルグをやっております。ちなみに、最近、職業がオルグなどと言います人はほとんどいません。伝統芸能の部類に入るなどと言われたりもしておりますけれ
ども、私は胸を張ってオルグだというふうに言っておるわけです。
さて、この全統一労働組合で、一九九一年からいわゆるニューカマーの組合加入が相次ぎました。これまでで四十カ国、約三千名の外
国籍労働者の登録がありました。とりわけ南アジア、アフリカなどからが多く、最近は中国の方もふえました。年間、平均で新規に二百件から三百件の相談事例をこなし、そして、同じく年間、新規で約百五十社との交渉などを行っております。また、一九九三年以来、いわゆる外国人春闘に取り組んでまいりました。そのような経験と、移住連におけます
全国のNGOのネットワーク
活動をもとに、現場からの立場で意見を申し述べます。
また、今回の改定に対しては、基本的に反対の立場で意見を申し上げたいと
思います。
ただ、私たちは、やみくもに反対を唱えているわけではありません。確かに、今回の改正案は、外
国籍住民、
移住労働者の置かれている困難な
状況や、外国人差別の悪用と助長や拡大によって引き起こされている労働基準の破壊やモラルの破壊がもたらすこの社会のひずみに対する、一定の政府の認識を示したものであろうかとは思っております。
私たち移住連は、それぞれの分野で、ずっと一貫して、この社会が新しい時代、多民族、多文化が始まっているということですけれ
ども、新しい時代に入ってきていることを、さまざまなところで、加盟団体によっては二十年以上にわたって訴えてきました。とりわけ
法務省はもちろんのこと、政府に対しては、省庁ごとの縦割り的、場当たり的
対応ではなく、横断的
対応と抜本的解決に向けた政策、施策を求めてきたわけです。そのことは、集住都市と言われる地方自治体にとっても認識を共有できるところが多々あるかとは
思います。
そんな私たちに対して、省庁の冷たい
対応が長年続いてきました。
しかし、二〇〇六年ごろから急速に、いわゆる受け入れ論議が沸き上がってきました。これは、人口減少社会への
対応が喫緊の課題であるとの危機感からであろうかとも
思いますが、いずれにせよ、従来の単一民族国家論からの転換を意識したものであろうと
思います。
動機に疑問がないわけではありませんが、今般の入管法改正、一括して一言でそう表現させていただきますが、入管法改正が時代の要請にこたえた動きであることは事実でしょう。つまり、多民族、多文化共生社会に向けた政策議論を始めるということにおいては、私たちが求めるところと同じであるということは言えると
思います。
ただ、しかしながら、今般の入管法改正は、余りに拙速と言わざるを得ないのです。
今起きている問題、つまり、今や既にこの社会がさまざまな分野で外
国籍の住民や労働者の存在がなくては成り立たなくなっている事実があるにもかかわらず、単一民族国家という事実に反する建前論によって、多民族、多文化を拒否する余りに起きている社会のひずみや
人権侵害、そして労働基準の破壊、壊れてしまったモラルなど、今まさに日々起きている現在進行形の本質的課題への抜本的解決を図るのではなく、これを避けて、外
国籍の住民や労働者を管理、監視の対象とするものであり、かつ、そのことが区別、差別を拡大、助長させるものであると言わざるを得ないものです。また、外国人を使い捨て労働力としてみなし、いかに効果的に活用するのかということのみにポイントがあるのではないかとの疑念さえも生まれる
内容ではないかと
思います。
例えば、入管法改正案の提出
背景といいますか情勢について、このように記述されております。抜粋しますが、「在留外国人の
国籍も多様化してきております。このような中で、転職、転居を頻繁に繰り返す方も少なからず見受けられる等、在留外国人の方々の在留
状況の正確な把握が困難になってきており、」中略しますけれ
ども、「国民健康保険、児童手当等の市区町村の個別事務に支障を来し、在留外国人に対する行政サービスの提供や義務の履行の
確保に困難を生じさせている等の問題も生じており、」となっています。事実そのとおりです。
ところが、その解決アプローチが全く違っているわけです。在留外国人、法案の言葉を使いますが、在留外国人が好きこのんで転職、転居を繰り返しているわけではありません。安定した職業、雇用があれば、転職、転居が起きないことはだれが
考えても明らかなことです。事実そうです。つまり、なぜ在留外国人に安定した雇用がないのか、派遣などの非正規雇用、非正規労働しかないのか、そのことを抜本的に解決する政策、施策が求められているのであり、在留外国人に対する罰則を強化することで
対応するというのは、社会全般を見渡した解決ではなく、一層混乱と差別拡大をもたらすものであると言わざるを得ないわけです。
さて、限られた時間ですので、
幾つか具体的な点について述べます。
個人
情報の集中とデータマッチングの問題については、既に述べられておりますから、問題があることだけを
指摘し、省略させていただきます。
所属機関の届け出義務化についても、もう既に述べられておりますが、別表第一の在留資格対象者はもう既に六十五万人にもなり、ともに働き、勉学し、家族を形成し、
地域や職場の一員となっているわけです。その外
国籍住民や労働者を対象に、企業や公共団体、宗教団体、
日本語学校、大学、専門学校などに対して、個人単位で就労
状況、在籍
状況、研修
状況、就学
状況を報告させることを義務づけています。これは外国人登録制度にはなかった新たな管理方法で、公権力の介入から独立性を保障されている大学や報道機関、宗教法人までもが
法務省の外国人管理を担うことになるわけです。
例えば、
日本語学校や大学、専門学校など教育機関からは、学生の氏名、生年月日、
国籍、在留資格、在留カード番号、在籍事実、退学、除籍、所在不明事実などを届けさせます。また、雇用先では、二〇〇七年十月から施行されている雇用
状況報告の義務化によって、厚生労働省経由で
法務省は
情報提供を求めることができることになっています。しかも、届け出事項は、
法律ではなく
法務省令で幾らでも拡大できるようになっています。これでは、外
国籍住民、労働者への行政サービス促進ではなく監視することとなってしまいますし、著しい力
関係のアンバランスが生まれ、市民社会に差別を持ち込み、拡大することになるのではないでしょうか。
次に、在留資格の取り消しについてですが、これも既に述べられているので省略させていただきます。
同時に、義務規定と罰則等についても、同様の意見が述べられております。
ただ、一九九九年の外登法改正審議の際に、この
法務委員会で附帯決議をしております。その附帯決議では、「外国人登録法に定める罰則について、他の
法律との均衡並びにこの
法律における罰則間の均衡など、適切な措置につき
検討を行うこと。」となっています。今回の入管法改正案では、この附帯決議を無視していると言わなければなりません。
次に、常時携帯ですが、常時携帯義務については、私と同様の問題に対する
指摘の意見がありましたので、これについても省略させていただきます。
在留カードの記載事項にある就労制限の有無の問題、あるいは所属機関に関する届け出による過度な負担の問題、法文ではなく省令への委任が無限定に行われている問題、自治事務を在留管
理事務に従属させる問題などがあります。また、
特例法改正案では、前述した常時携帯義務の問題や、依然として管理制度内に置こうとしている問題、超過滞在者、難民申請者の行政サービスからの排除の問題などがありますが、時間の
関係上、詳細は配付資料をごらんいただきたいと
思います。
さて、外国人研修・技能実習制度ですが、これもまた、現状起きている問題についての認識は、これまで私たちが繰り返し
指摘してきたことが幾分かは功を奏してきたのか、共有されつつあることが入管法改正案の前提認識としてうかがうことができます。しかし、今回の改正案には、この制度についても明確に反対の立場で問題を
指摘させていただきます。
今回の改正案は、基本的に、
日本への労働者の入り口として、技能実習制度あるいはその枠組みを固定化させるものであると言えます。
そもそも技能実習制度は、従来の研修をより実践的なものとして、開発途上国への技術移転を目的としていたものです。それでは今回の改正で設立される在留資格の技能実習は、研修といかなる
関係になるのかが不明確、あいまいなものとなっています。ストレートに言わせていただきますと、つけ焼き刃的な、その場しのぎの
制度改正案と言えます。
研修や技能実習を御都合主義的に言いかえていく手法は、厳に戒められるべきです。結果的に、制度のもとで、ある
意味希望を抱いて
日本に来る外国人労働者、
移住労働者に新たな権利侵害をもたらします。国際的な批判を既に受けていますが、多発する不正行為、奴隷労働、人身売買とも言える実態は、労働者を労働者として受け入れないことにすべての問題の根源があることは明白なことです。
また、今回の改正案では、外国人研修・技能実習制度が、安価な労働力補充としての活用だけではなく、副次的に生み出し、今や主ともなりつつある大きな利権構造をそのまま温存させることとなっています。当該研修生、実習生の個別の労働契約とは別に存在する、送り出し機関と受け入れ機関の労働法を無視した契約の存在に示される不正行為の温床となっている、団体監理型の第一次受け入れ機関への管理の甘さがそのことをあらわしています。
本来、研修に対する不正行為に対しては、厚生労働省がもっとしっかりすればいいわけです。つまり、従来の労働基準法研究会報告による労働者性についての
判断基準認定を、在留資格が研修だということを例外としないとすれば足りるわけです。このような場合にこそ、
法務省との横の連携が求められるわけです。
いずれにしても、この外国人研修・技能実習制度が、研修生、実習生自身への
人権侵害や、時給三百円に示される劣悪な労働条件、未払い賃金の横行などの問題だけではなく、労働基準そのものの破壊や企業経営者のモラルの破壊、私は邪悪な欲望に変身する社長と言っているんですけれ
ども、この制度が人を変えてしまうわけです。私たちのこの民主主義社会の柱の一つである労使対等原則を壊してしまっていることに早く気がつかないと、取り返しのつかないことになってしまいます。
今回の改正案は、この抜本的解決にはならず、かえって労働者の受け入れ論議をごまかすものとなっていると
思います。研修制度の厳格な運営と技能実習制度の廃止、そして労働者受け入れの制度設計を正面から議論することが求められます。この社会全体のグランドデザインにかかわる問題です。
最後に、この
日本の社会は大きな曲がり角に来ていることを申し上げたいと
思います。既に多民族、多文化は始まっています。冒頭でも述べましたが、外
国籍の住民、労働者や、あるいは
日本以外にルーツを持つ
日本人が、
地域、学校、職場の大切な一員になっています。いや、不可欠な存在となっています。
ここで私は、あえて、いわゆる不法就労者、私たちはオーバーステイと言っていますが、不法就労者について述べさせていただきます。
一九八〇年代のニューカマーのほとんどが彼ら彼女らでした。しかし、彼ら彼女らはこの社会に何をもたらしたでしょうか。
犯罪の温床となった事実はどこにもありません。それどころか、この二十年以上にわたって
日本の経済
活動を下支えしてきました。
私は、いわゆる半減化政策を恩知らず政策と言っているわけですけれ
ども、なぜなら、オーバーステイの
移住労働者は企業
活動を活性化させ、私たちの日々の生活を支えてきました。ある者は、金属プレス、メッキ、ゴム、プラスチックなどの製造業で、ある者は建設や解体の現場で、ある者は居酒屋でいやしを提供しました。ある大手居酒屋のチェーンの店舗数拡大の大躍進の陰に、彼ら彼女たちがいたことは周知の事実です。
サービス残業に抗議の声を上げ、未払い残業代支払いの先駆けとなったのもオーバーステイの彼ら彼女らでした。また、ある者は配偶者となり、
地域の重要な一員ともなっています。そして、総じてオーバーステイの彼ら彼女らは、私たちに地球というものを意識させること、つまり世界の一員であることを認識させるものとなったのです。
ところで、今回の入管法改正案は、この
日本が地球の一員、世界の一員であることを意識したものとなっているでしょうか。国連あるいはILOの条約や勧告など国際規範との
関係についての検証が不十分ではないでしょうか。
この社会の労働力としてのオーバーステイ
移住労働者から、日系労働者、そして外国人研修生、技能実習生と変遷をしてきましたが、その場しのぎ的な受け入れや、監視、管理強化を入管法改正で拙速に行うことは、今大きな曲がり角に立つこの
日本の社会にとって取り返しのつかない禍根を残すことになります。
もう一点、拙速について
指摘します。今回の入管法改正によって、管理、監視の対象あるいは影響を受ける人々に対するヒアリングなど、当事者からの声を余りにも聞いていないと
思います。
どうか、外
国籍住民、労働者を大切な
地域の一員、職場の一員として、この社会を支え、担う一員として位置づけた政策、施策が必要です。今回の改正案は、次の社会に対する広範な議論が欠如していると言わざるを得ません。これからの多民族、多文化共生社会について、
出入国管理という視点だけでは政府の施策は不十分であると言わざるを得ません。外
国籍住民、労働者を管理、監視、排除の対象としてではなく、よき隣人、働く仲間として共生していくための
法律改正、政策、施策をお願いしたいと
思います。
どうもありがとうございました。(拍手)