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松本参考人 御紹介いただきました全国
農業会議所の専務
理事の
松本でございます。
農林水産
委員会の先生方には、日ごろから
農業、農村の振興と
農業委員会の事業推進に御尽力を賜り、厚く御礼を申し上げます。また、本日は、こうした貴重な発言の機会をいただきましたこと、まことに厚く御礼申し上げます。
さて、この
農地法等改正法案は、
農地の総量確保と
利用促進の方策を初め、
農地を相続した際の
農業委員会への届け出の義務づけ、
農地の共有持ち分の二分の一を超える同意による
利用権設定などの相続
農地対策の拡充など、私ども
農業委員会系統組織が積み上げてまいりました政策提案や
意見を基本的に反映していただいたものとなっております。私は、賛成の
立場から
意見を申し上げたいと考えております。
まず、今回の
改正は、世界的な食料需給が逼迫の度を増す中で、我が国の食料供給力を強化するため、生産、
経営資源であると同時に多面的な機能をあわせ持つ重要な
地域資源であります
農地を確保し、
有効利用を目指すものだと認識しております。このことは、今後の
農業、農村のあり方にも大きな影響を及ぼすものと考え、我々
農業委員会系統組織といたしましては、これまでも、
農地行政の一端を担う組織として真摯に受けとめ、これを検討し、数回にわたりまして
意見を述べてまいったところであります。
私からは、六点に絞りまして
意見を申し上げたいと存じます。
第一点は、
農地の確保と転用
規制の強化についてであります。
食料自給率の向上に向け
農地総量の確保の方針を明確にされたことは、私ども
農業委員会系統組織にとってまことに心強い限りでございます。
法案には、
農地の確保に向け、
農地転用
規制の厳格化と農用
地区域内
農地の確保
措置が明記されております。特に、これまで
農地転用の
許可が不要とされてきた公共転用について、新たに
許可の対象とされ、法定協議
制度が導入されております。
これまでの
農地転用
面積を見ますと、毎年一万七千ヘクタール前後ですが、そのうちの約二割が公共転用で、その多くが病院や学校、役場の庁舎などの公共施設への転用でありました。ここを起点に周辺部まで波及して転用されていくケースが少なくありません。しかも、ほとんどが地価水準が低い市街化区域外に集中しているのが実態であります。
公共転用が
許可の対象となることで、こうした公共転用が適正に誘導され、いたずらに優良な
農地を減少させることに歯どめをかける効果は大きいと考えており、評価できるものと考えております。この点は、都市計画
制度においても、まちづくり三法で中心市街地の再開発による
活性化の方向が明確となっており、外延的な開発の拡大は抑制の傾向にあることと軌を一にしております。
改正法案では、都道府県知事が
許可権者となっている二ヘクタール以下の
農地転用について、必要であれば、農林水産大臣は都道府県知事に対し、転用
許可事務の適切な執行を求めることができるとされております。また、農振法においても、都道府県知事が確保すべき農用地
面積の目標を設定することが
法律に明記され、その達成状況が著しく不十分であれば農林水産大臣が是正要求を行うこととしたことは、国民の
農地の確保の意識を醸成する上で効果があるものと考えております。
我々
農業委員会系統組織としましても、
農地を守るという毅然たる姿勢で対応していくことは当然のこととして、都道府県の
農地行政においても厳格な運用が図られるよう努めることが重要であると考えております。
第二点目は、
農地の
権利移動
規制の見直しについてであります。
私どもの基本的なスタンスは、
地域の担い手の確保、育成とその
農地利用に支障を来さないこと、不
耕作や転貸を
目的とする
農地の
権利取得を排除すること、
株式会社一般の
農地所有権を認めないことであります。
改正法案では、
農地の
権利移動の
規制について、
農地のすべてを効率的に
利用すること、
個人の場合は
農作業に常時従事すること、
法人の場合は
農業生産法人であること、この三点を
原則とし、
所有権規制にはこれまでどおり厳しい要件を課すこととなっております。
改正法案では、
利用権の設定については要件を緩和し、
一般企業の
参入を拡大することになりますが、第一に、
法案では、周辺の
地域における
農地等の
農業上の効率的かつ総合的な
利用の確保に支障を生ずるおそれがある場合は
許可しないとされております。これは、言うなれば、
一般企業の
参入が認定
農業者や集落営農組織など
地域の担い手の取り組みに支障を及ぼすことのないようにと、要件が課されるものと考えております。
現行の特定
法人貸付
制度のリース方式による
一般企業の
参入は、遊休
農地の
利用を基本としており、いわば担い手不足を補完する位置づけとなっております。今回の法
改正で、
地域を限った補完的な位置づけが変わり、
一般の
企業も担い手と同等の資格で
農業に
参入できることになることから、従来の担い手との競合という問題が現場で大変
心配されているということであります。
食料・
農業・農村基本法におきましても、第二十二条において家族
農業経営の
活性化がうたわれております。そこで、
地域の担い手を優先するということを明確にするとともに、
農業委員会の
許可事務が透明性を持って行われますよう、客観的かつ具体的な判断基準が必要不可欠であると考えます。
第二は、
農地の適正
利用の担保
措置として、適正に
利用していない場合には
貸借を
解除する旨の
条件が契約に付されていることに限るとされております。その上で、当事者が契約を
解除しない場合は
農業委員会が
許可を取り消すとする
措置も講じられることとされております。
一般企業の
参入に伴う
地域の担い手との競合と
農地の適正
利用の確保の問題は、現場にとって最も不安や懸念がある点であり、我々も十分な検討を求めてまいりました。現場で
農業委員会が判断できる客観的かつ実務的な基準や実効ある担保
措置について今後の政令、省令等で明確にし、現場で新
制度が円滑に運用できるようにすることが極めて重要だと考えております。
また、入り口
規制を緩やかにしたことで、
権利設定後の監視、
規制の役割がますます重要となってきます。とりわけ、
農業委員会による
農地パトロールや
法案に位置づけられている
利用状況調査などによって
許可後の
農地の
利用状況の把握や監視に努め、
関係機関、団体が連携を密にし、
耕作放棄や産業廃棄物の投棄など不正な
利用を早期に発見し、是正することが重要であります。
なお、重ねてお願い申し上げますが、将来とも、
一般企業の
所有権取得については認めないようにお願いを申し上げます。
第三点目は、
農地の
権利取得の下限
面積制限の弾力化についてであります。
現行法では、
権利取得後の
経営面積が都府県で
原則五十アール以上、北海道は二ヘクタール以上で、知事の決定により十アールまで引き下げ可能となっていますが、
改正法案では、
地域の実情に応じて
農業委員会の判断で引き下げられるようにするというものであります。
この要件緩和は、
所有権取得も含めたものであります。
法案全体の
目的である
農地の確保と担い手への
農地利用集積の促進に支障を及ぼすことがあってはなりませんし、地価水準の高い都市近郊での不
耕作目的や転用期待の
農地取得につながるなど、
地域の
農地利用秩序に悪影響を及ぼすことのないような対応が極めて重要だと考えております。
農業委員会が下限
面積引き下げの判断を下す場合の透明性、公平性を確保する
観点からも、判断基準の明確化が不可欠だと考えますので、よろしくお願いいたします。
第四点目は、
標準小作料の
廃止についてであります。
標準小作料は、契約小作料の客観的な目安として現場に定着しております。
農地の貸し借りの促進にとって重要なものでありました。平均で約三十ヘクタールを
経営する全国稲作
経営者
会議の会員への調査でも、七割を超える
経営者が必要、参考にしていると答えるなど、存続を望む
意見は強いものがありました。
廃止にかわって、
農地改革プランでは、実勢
借地料の情報を提供する仕組みを新たに設けるとされ、この
改正法案では、借賃等の動向その他の
農地に関する情報の提供を行うものとするとされていることは、現場の要求にこたえるものと考えております。なお、新たな仕組みが現場で円滑に運用、活用されるよう支援することが重要だと考えていますので、この点につきましてもよろしくお願いをいたします。
五点目は、
農業経営基盤強化促進法に位置づけられます
農地の面的集積の促進についてであります。
現状の分散錯圃、
耕作放棄地の解消に向けて、
改正法案で
農地利用集積円滑化事業が創設されます。現場には、相対を含めましてさまざまな
農地の
貸借形態があります。この事業は、他の仕組みを否定するものではなく、より担い手に面的に集積していこうというものですから、さまざまな支援
措置を通じてこの仕組みに乗せていくことが大切だと考えます。
そのための支援のあり方、実施主体や
地域の
農業者の自主努力を大事にする
やり方等々、現場でしっかり機能させるためには、私ども
農業委員会系統組織との連携を含めました具体的な推進体制の整備を急ぐ必要がある、かように考えております。
これらのほか、冒頭に申し上げましたとおり、相続
農地対策や、
所有者が確認できない遊休
農地の管理
耕作の仕組みが新たに盛り込まれましたことは、大変大きな前進だと考えております。
最後に、
農業委員会についてであります。
既に御案内のとおり、今回の
改正において、
農業委員会の役割と機能が新たに加えられ、
農業委員会の判断にゆだねられる部分も多くなっております。
農業委員会の
農地事務は質量ともに増大が避けられません。さらに、
農地の監視活動も今まで以上の取り組みの強化が求められてまいります。
しかし、
農業委員会は、この間の地方分権、市町村合併等に伴いまして、
農業委員会数は、
平成十年の三千二百三十五
委員会から十九年には千八百十八
委員会に、四四%減少しました。
農業委員数も、六万五十二人から三万八千五百七十九人と三六%減少しております。
農業委員一人当たりの守備範囲、
農地面積も、全国平均で
平成十年の八十二ヘクタールから十九年には百二十一ヘクタールと大幅に拡大してまいっております。また、事務局職員数も、
平成十二年の一万七百六十人から
平成十九年には八千四十四人と二割減少しております。一
農業委員会当たりで見ますと、
平成十二年の三・三人から十九年に四・四人、専任職員数は一・八人から二・四人と微増にとどまり、
農業委員会当たりの
農地面積の拡大に全く追いつかない状況となっております。
他方で、担い手に対する
農地のあっせん、調整、遊休
農地の実態把握や解消、違反転用の是正など、
農業委員会の業務は質量ともに増大しております。最近では、地方分権により
農地転用
許可事務が都道府県知事から市町村長に移譲され、その上、その大半が
農業委員会に事務委任される、こういう状況もございます。
また、
改正法案に伴い、
農業委員会には新たに、
貸借規制の緩和に伴う
地域の担い手育成と、効率的かつ総合的な
農地利用との
整合性確保の判断、
許可後の
農地の適正
利用に向けた事後監視や
許可取り消し、遊休
農地の是正指導権限の強化に伴う指導、勧告など、八項目にわたる新たな業務、役割が求められることになります。
こうしたことを踏まえますと、ぜひお願いしたい第一点は、国、都道府県、市町村の理解と御支援による
農業委員会の体制の整備、強化であります。具体的には、事務局の人員確保、特に
農地制度、実務に精通した職員の確保、
農業委員の意識改革と資質向上、活動予算の増額確保、さらに
農業委員会を支援する都道府県
農業会議の体制の整備、強化など、新たな
農地制度を現場で円滑に定着、運用していくための
措置が不可欠であります。
第二点目は、審査、判断の透明性と公平性の確保であります。さまざまな
農地の許認可事務の判断基準について、国としてできるだけ明確に示すとともに、
農業委員会間、都道府県
農地行政との密接な連携が必要であります。
もう一つは、
農業委員会で整備している
農地基本台帳であります。今回の
法案で
制度化された
農業委員会による年一回の
農地利用状況調査を
農地基本台帳に的確に反映させた
農地情報を整備するとともに、住民基本台帳や固定資産課税台帳との照合が円滑にできるよう、一層の整備、強化に向け御検討いただきたいと考えております。
最後に、我々
農業委員会系統組織では、今回の
改正法案を含め、
農地行政について、
農業者の公的な代表の行政
委員会として、透明性、公平性、公正性を基本に、
関係者が一丸となって全力で取り組んでまいる所存であります。
農地の確保と効率的な
利用を実現するためには、
農業者の所得の増大と
農業経営の安定に向けた対策が不可欠であります。
農業者、とりわけ
地域を担う担い手や若者が意欲と誇りを持って
農業に取り組める、そんな環境づくりにさらに御尽力いただきますようお願いを申し上げまして、私の
意見を終わりといたします。
本日はどうもありがとうございました。(拍手)