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池田清治君
北海道大学の
池田と申します。
本日は、このような機会を与えていただきまして、ありがとうございました。また、先生方には、お忙しい中、本当にお疲れさまでございます。
私は、
現場に身を置く者というよりも研究者ですけれども、今から二十年以上前に書きました最初の論文というのは
消費者契約とも関連するものでございます。また二〇〇二年には、
内閣府の研究会で、本日も取り上げることになります
消費者団体訴訟について
検討をさせていただきました。さらに二〇〇六年には、北大の法学部というのは研究活動が非常に活発なところでございまして、
消費者法に関するシンポジウムを開きまして、さらに二〇〇七年には、日本私法学会という一番大きな学会で、
消費者法も含んだ形のシンポジウムで
報告をさせていただきまして、さらに、つい二カ月前の二月にも、
消費者法に関するグローバルCOEという大きなプロジェクトのシンポジウムを
開催した次第でございます。したがって、本日は、基本的にそのような研究者の立場からという
意見になります。
しかし他方で、二〇〇五年以来、私は
北海道の消費生活
審議会の
委員を務めておりまして、〇七年からは会長をしております。
現場の実情ということになりますと、
渡邉さん、あるいは
橋本さん、さらに
砂川さんの方がよく御存じだと思いますけれども、この間の
地方の窮状というものは著しいものがございますので、その点についても、全体的な枠組みについて少しだけ述べさせていただきたいと存じます。
本日、レジュメといいますか、十五分ですので、A4一枚の資料をお配りさせていただきました。
まず、「はじめに」ということなんですけれども、最初に基本的な立場を明確にしておきたいと思います。
一研究者としてというよりも、一
国民として
消費者政策を一歩でも二歩でも前に進めていただきたいというのが率直なお願いでございます。
消費者の
権利とか利益を守ることを任務とする行政庁の存在というのは、それが
消費者庁であれあるいは
消費者権利院であれ、とにかく必要なものだと思っております。
次に、
消費者庁の構想と
権利院の構想を拝読させていただきましたけれども、その相違というのは、政策の企画立案の機能と監視の機能、これのどちらに重点を置くのかということではないかと存じます。そして、そのどちらを重視した方が実効性が上がるのかという認識の違いに基づくように感じておりますけれども、しかしながら、政策の企画立案機能と監視機能というのは、これはいずれも必要な機能でございます。しかも、一つの
組織で完全に実現可能という保証はございません。そうだとすると、
消費者庁にある種の限界があったとしても、そのような機関はおよそ不要であるということにはならないと思いますし、
権利院構想に何らかの
問題点があったとしても、その
組織に、あるいはそのような
考え方、発想に
一定の有用性があることは疑いがないのではないかと僕は思っております。
ですので、
問題点のみを指摘しちゃうという議論は、その
意味では余り生産的ではないと思いますので、私は、きょうはそれぞれの機能ごとに、つまりレジュメで申しますと、2で企画・立案機能、それから3で監視・実効化機能という
お話をさせていただいた上で、
消費者団体訴訟についても今回の
提出法案は触れられているところがありますので、4でそれを
検討させていただき、5で
地方における実効的な
制度について少し
意見を述べさせていただきたいと存じます。このような順番で話を進めさせていただきます。
そこで、2でございますけれども、要するに、
消費者政策の企画立案機能ということでございます。
消費者政策の企画立案を目的とした省庁、つまり、自分の力で
法律を立案して議会に
提出することのできるような省庁があるということ、それ自体は望ましいことだと
考えております。しかしながら、だからといって、別に
権利院のような存在が不要であると言っているわけではございません。ですので、
消費者庁という発想は実効的な
消費者政策に資すると思うんですけれども、
法案を読ませていただいた限り、私の理解不足かもしれませんけれども、なお改善すべき点が若干はあるのではないかと
考えております。
まず第一点目、1、2と書かせていただきましたけれども、まずは
所管する
法律が二十九しかない、その中でも、いわゆる共管が多いという点ですけれども、これらは先生方にはむしろ釈迦に説法だと思っております。
残りの四十三はどうしたということなんですけれども、例えば、私が研究者として少し関連があります分野でも、金融商品販売法は共管になっておりますけれども、金融商品取引法は共管ですらないということになっています。もちろん、この区別に
理由がないと言っているわけではありません。ありませんけれども、これらの
法律は一体となって企画立案され、そして運用されていくべきものなのではないかと感じております。ですので、もちろん
所管の
法律をどうするかというのは慎重な
検討が必要だろうと思いますものですから、今すぐにとは申しませんけれども、継続的に、そして前向きに御
検討いただきたいと存じております。
ところで、この第一点目を指摘いたしますと、すぐに反論が返ってきそうでございまして、そんな場合でも、
所管の
法律じゃなくても
消費者政策委員会が
意見具申できるではないか、こういうふうにおっしゃられるかもしれません。しかし、そもそも
意見具申だけで十分だったら、それは
権利院構想の勧告だけでも十分ではないか。要するに、
所管する
法律を持つということは、他人に指図をしているだけでは足りない、それでは遅くなってしまう、まさに自分の
責任で
国会に最終的には
法案を
提出する、そういう
意味があるのではないか。もちろん、そこには限界があるのかもしれませんけれども、あるのではないかと思います。ですので、その点は、そこに矢印で「今後もさらに
検討。」などと生意気なことを書かせていただきましたけれども、ぜひとも御
検討をお願いしたいと存じます。
二番目なんですけれども、まさにこれは
意見具申にかかわる問題でございます。
端的に申しまして、
意見具申をした後は一体どうなるんだろうかということでございます。もちろん、誠実に対応されるでしょうし、対応が期待されるということなんでございましょうけれども、そういう保証というのはどこにもない。どこかにあるというわけでもございません。このような観点から
権利院の構想の方を拝見いたしますと、すぐれた工夫がなされているように思います。
それは具体的にどういうことかというと、期間を区切って回答
義務を課すという点でございます。では、こういう
制度づくりは別に
消費者政策委員会制度においても可能ではないかと思うわけでございます。
意見とその回答等を例えば
消費者庁のホームページにできましたら載せて、
国民に公表して風通しをよくする、
国民に最終的に監視させる、そういう方法もあり得るのではないかと思う次第でございます。
次に、3の「監視・実効化機能」と書かせていただきました。そちらに移らせていただきます。
消費者権利院という発想でございますけれども、監視を通じまして政策の実効性を上げようとする
権利院の構想には、さすがにいろいろな工夫が施されていると私は感じました。ただ、
権利院構想自体が、
法律を
所管する、あるいは総合的に
消費者政策を
考えていくという
消費者庁構想そのものを否定するものなのかというと、どうも、必ずしもそうではないのではないかと思います。先ほども申し上げましたとおり、私は
消費者庁というそういう存在は今すぐにでも必要な存在ではないかと
考えておりますけれども、しかし、そうであるにしても、この
権利院構想で示された知恵あるいは工夫というものは取り入れるべき点が多々あるのではないかと感じております。
具体的に申します。これが(2)でございます。これは「
消費者庁法案の要考慮点」ということでございます。
まず、
消費者庁の
法案によると、
消費者庁の長官は
関係機関に
協力を求めることができるとされているわけでございまして、できるんだから必ず回答があるだろうということはわからないわけでもないんですけれども、むしろ、そういう回答とか、例えば資料提供を求められたときにはちゃんと提供しなければならないと
義務づけるような条文があってもいいのではないかと思います。
それから、先ほども申し上げました
意見具申と同じ趣旨からですけれども、例えば
内閣総理
大臣が措置要求をした、それについてどういう対応をしたのかということをきちんと公表していくということも大変大切なことなのではないか。もちろん、十分に対応すれば別に公表しなくたって大丈夫じゃないかというのはわからないわけではありませんけれども、
国民への透明性を確保するという
意味からも、そういう措置というのは重要ではないかと思っております。
さらに三番目、3の(2)の3のところでございますけれども、「
消費者政策委員会の機動性」という点を書かせていただきました。
法案を見せていただく限り、
消費者政策委員会には、重要基本事項の調査
審議のみならず、
意見具申の
権限まで認められております。その
意見の中には、ひょっとすると迅速性を要するような
意見もあり得るのではないか。例えば、
内閣総理
大臣、これは今危ないから直ちに措置要求してくださいというような
意見が
考えられると思うんですけれども、しかし、そうであるとすると、非常勤の十五名から成る
委員会ではなかなか小回りがきかない可能性もあるのではないかと思います。
これは、決して十五人の
委員会が悪いと言っているわけではございません。そうではなくて、中長期的な
消費者政策を企画立案するというのであれば、従来の国生審と同様、このぐらいのサイズの
委員会で議論するというのはいいとは思うんです。しかしながら、
意見具申という、ある
意味では監視機能とかかわりのあるそういうものであったとしますと、少なくとも十五名のうち数名は常勤として
事務局と一緒になって汗をかいていく、恒常的に汗をかいていく、そういうタスクフォースみたいな、そういうことも
考えられるのではないかと思います。あってほしいとは思いませんけれども、
消費者庁ができ上がって、何か最初のことですから、若干機能不全が起こるかもしれません。そういうときに、
消費者庁長官に物を直接言える
委員会の存在というのは非常に重要ではないか、こういうふうに
考えております。
要するに、私の意図するところは、せっかく
委員会をつくるんだったら、それを少しでもよりよい
意味のあるものというのは
考えられないのだろうかということでございます。
以上は、要するに、既に、先生方はごらんになればわかるとおり、
権利院構想で示された工夫をこういう形で生かす方法はないのだろうかという
考えでございます。とりわけ、最初の情報提供の
義務化とか、措置要求とそれに対する対応の公表というのは、財政的措置さえ別に必要がないはずのものでございますので、ぜひお
考えをいただきたいと存じます。
次に、
消費者団体訴訟について述べさせていただきます。
違法収益の剥奪を目指す
法案が
提出された、そのこと自体は大変重要だ
考えておりますし、
提出された先生方には敬意を表したいと思います。それから、政府から出されなかったことは、それはいろいろ
検討し残った点があるとは存じますけれども、私としては非常に残念な思いをしております。
また、出された
法案を読ませていただく限り、実にさまざまな工夫がなされているように感じました。例えば、あらかじめ財産を差し押さえておく仮差し押さえ
制度ですとか、あるいは分配して残った財産は国庫に入れるという点、その点がきれいであるという点は大変考慮されている。ほかにもいろいろあると思いますけれども、大変工夫されている点があるのではないかと思います。
ただ、(2)でございますが、要考慮点と書かせていただきましたけれども、別にこのままの形でも特に問題はないのかなと思うんですが、まだまだ、改善しようと思えばその余地がないわけではない点があるのではないかと存じます。
第一点目は、これはやや学問的になって恐縮なのですけれども、損害賠償というのと違法収益の剥奪というのは必ずしも同一ではございません。
例えば、具体的に申しますと、百グラムのものを一キロと称して売っている場合、これは
消費者には損害があって、その損害の額とほとんど同じ額が悪徳業者には利得がある、こういう形になるわけでございます。この場合は違法収益の剥奪と損害賠償とはイコールでありまして、このような事案を想定する限り、この
法案は実によくできていると思います。これはどうしてそういうことが言えるかというと、損害がある種数量的、定型的だからでございます。しかしながら、例えば有毒物質を混入したような商品を食べて
消費者が
被害を受けた場合はどうかと申しますと、これは
消費者には損害があります、しかしながら業者に利得があるとは限りません。しかも、損害自体に個人差が結構ある場合がございます。すなわち、定型的ではないということです。
そうなりますと、こういう場合ももちろん団体訴訟を
活用する方法はあると思うんですけれども、一々一人一人の損害額云々をやっていくのか、それとも、
消費者が団体に望みたいのは、違法な行為だったんだ、過失もあったんだ、だから損害賠償の基礎となる要件はそろっているんだ、あとは、損害額は私の方で立証してやっていきますよ、こういう場合もあるのではないかと思いまして、このような事態に備えた規定もあるとなおいいかなと思うんですけれども、ただ、これがそもそもいい法制かどうかと聞かれると、なお慎重な
検討が必要と思いますので、この点で、今回出された
法案について何のかんのと言うつもりはございません。いろいろな事態に備えたものは
検討を継続した方がいいのではないかという点です。
二番目の、私が感じましたより深刻なと申しますか問題は、この
法案によると、分配手続まで団体が行うことになっております。勘違いしないでいただきたいんですが、だから絶対だめだと言っているわけではありません。しかしながら、訴訟提起についてすら費用的に難しい
消費者団体に果たして分配までさせられることができるんだろうか、実効性に乏しいのではないかという点でございます。もちろん、
法案を読む限り、いろいろな支援が用意されております。しかしながら、それが本当に実現できるのかというと、さて、どうなのか、よくわからない点があります。
この際、むしろ、取ったお金については訴訟費用を抜いた上で国庫に入れる、国庫に入れるというのは基本的にどういうことかというと、分配の手続は国に任せてしまう、国の費用でやってもらうという工夫の仕方もあるのではないかと思います。そんな根拠はあるのかと言われるかもしれませんけれども、例えば
被害回復給付金
制度、この場合については現に法務省がやっているはずでございます。これが二番目の問いかけでございます。
三番目なんですけれども、これはこの
法案とは
関係がございません。ございませんが、こういう
制度もなければいけないのではないかという提言でございます。
要するに、違法収益の剥奪を団体訴訟だけで任せていってうまくいくのだろうか。現実問題として、団体ができるのはこれは象徴的な事件だけではないかと思います。いかに支援したとしても、費用も時間もかかります。ですので、この際、違法収益の剥奪を目指した課徴金
制度のようなものを導入するべきではないかと
考えております。
これが
消費者団体訴訟に関する点でございます。
五番目でございます。
地方における実効的な
制度ということでございます。
伺うところによると、
消費生活相談員を
国家公務員にするのか、
地方に
財政支援することでその待遇改善を図るのかという点で御議論が分かれているとのことでございますけれども、次の二点だけは確認をさせていただきたいと存じます。
まず、相談する市民の側としては、すぐに相談に応じてもらえる体制、これが重要なのでありまして、
相談員の皆さんがどういう身分であるのかというのは、極論をすれば余り
関係のある話ではないということでございます。
二番目なんですけれども、いずれの構想にも、不安といっては失礼なんですけれども、危惧感のようなものはあります。
国家公務員化については、これで本当に
地方の役所とかあるいは警察との
連携がうまくいくのかという点がありますけれども、もちろん、中には周到にも
連携を図るという規定があることは存じておりますけれども、うまくいくのかなという不安というか危惧感でございます。
他方、
地方に
財政支援をすることで待遇改善と人員の増加を図るという政府の御方針だと思うんですけれども、では本当にそうなるんだろうかということがなかなかわからないところがございまして、
地方交付税の積算の基準を変えても、総額に変化がなければ結局別のところにという話もあるのではないかと思います。ただし、この種の
お話については、次の
渡邉さん、あるいは
橋本さん、
砂川さん、こちらの方がお詳しいと思いますので、そちらにゆだねたいと存じます。
最後に、「キーポイント」と書かせていただきました。
キーポイントだけははっきりしていると思います。人材育成には時間がかかります。ですので、恒久的な
予算措置が必要なのではないかと思います。結局は人、
人件費であらなければいけないと思っております。もちろん、スキルアップのための
予算というものは大事ですけれども、その対象となる人がいなくなったり、あるいは
現状に余りにも失望して去っていくような形では
意味がないと申しますか、大変残念な結果になるのではないかと思います。私は、
審議会で、ある
委員の方から、かなり前なんですけれども、その方は別に
相談員をなさっていた方ではないんですけれども、これはもはや人権問題ですよ、こういうふうに言われたこともございました。
また、そのような観点からしますと、最後のところの基金の
お話なんでございますけれども、基金をどうも
人件費には使えないという
お話があるようでございますが、率直に疑問です。
要するに、豊富なメニューを用意したということなんでしょうけれども、肝心のメニューがないと申しますか、それに、自治
事務だ、
地方のことなんだ、
地方のことは
地方に任せるんだとおっしゃるのであれば、せっかくの基金なんですから、このお金の使い方も
地方に任せていただくわけにはいかないのだろうか。自治
事務である以上、
人件費に充てることができないという建前というか原則論はわからないわけではないんですけれども、何せ今は非常時だと思います。原則論だけでうまくいっていくという時期ではないのではないかと思いますので、先生方のお力で何とかお願いしたいということでございます。
地方の窮状を伝えようとする余り、若干何か陳情まがいになってしまいまして、あるいは大変失礼な物言いがあったかもしれませんけれども、同じ百五十億円を使うんだったら、少しでも生きた形でという一心からでございますので、この点はどうか御了解をお願いできるならと存じます。
本日は、重ねまして、このような機会を与えていただきましたことを心より
感謝申し上げます。
どうもありがとうございました。(拍手)