○細川
参考人 今、政府からは
消費者庁法案、
民主党の方からは
消費者権利院法案が出ているということで、メーンは、器、形の違いというところが
議論の中心になっていますけれども、私はちょっと
視点を変えまして、形はちょっと横に置いておいて、今後の
消費者行政が持つべき
機能について、何が必要なのか、そういう点でお話をさせていただきたいと思います。
これについても、いろいろ
議論は今までさんざんされてきたところだと思いますので、私から見てその
議論で抜け落ちている部分、そこら辺をピックアップして私の
意見とさせていただきたいと思います。
きょうは資料をつくっておりまして、初めに六枚のレジュメがございます。その後、隣の韓国が、
日本の
消費者行政の不備を把握しながらよりよいものをつくるという工夫をしてきたという歴史がありますので、「韓国の
消費者政策の概要」という参考資料をつけております。その後に新聞記事が四枚ほどありますけれども、これは、私が今まで
日本の
消費者行政で問題だなと思うところを問題提起したものをちょっとピックアップしまして、こういうところに問題があるというのを議員の先生方に御理解いただければと思ってつけた資料でございます。
それでは、資料に基づきましてお話しさせていただきます。
まず、
日本の
消費者行政の
現状ということで、これも語られていることですので簡単に御紹介したいと思いますけれども、やはり
行政の役割としては、基本的には
二つの
方法があるということが言われてきました。
一つは、強い
立場にある
企業に対して
規制をかけるという、それを
規制行政というふうにすれば、弱い
立場にある
消費者を手助けするということで、これを
支援行政、この
規制行政と
支援行政という二元的な
行政というのが
日本の
消費者行政の特徴だったわけですね。
ただ、
規制行政というのは、
権限はあるけれども、どうも私どもから見ると理念がない。
支援行政の方は、理念はあるけれども
権限がないというような形で、ちょっと中途半端な形で進んできたんじゃないのかなというのが私の見解です。
そして、
規制行政の問題点としては、
消費者の権益を守るということをメーンとした
法律が十分でない、各省庁に
消費者の権益を徹底的に守ろうとする意識がない、あと、
縦割り行政の中で、新たな
消費者問題に対応するのが不十分であるというような問題があります。包括的な
権限を持っているのは
公正取引委員会ですけれども、
公正取引委員会も、
消費者問題でいえば、景表法の運用による景品と
表示の
規制というところを中心に行ってきて、これも不十分だったということです。
次に、
支援行政の問題としては、まず
日本は、
行政庁というのは民事
救済に
行政権限は行使しないという
原則がありますから、各省庁の
消費者被害救済活動というのは皆無です。だからこそ、
国民生活センターとか
消費生活センターが
支援行政としてそれを
救済してきたわけですけれども、ただ、その
救済も、当事者の合意を基本とした非公式なあっせんというような形でしか行ってこられなかったということで、これも私から見ると不十分なケースが多いということになります。また、
消費者教育の重要性が叫ばれているんですけれども、学校教育を
所管する文科省の理解不足、あるいは連携不足もあって、これもなかなか進んでいないという
現状がございました。
そして、民事訴訟、当然、
消費者被害というのは民民の間で起こるわけですけれども、その民事
救済の
制度というものも、民事
消費者法の
整備がおくれてきているということで十分ではなかったということです。そして、それゆえに、
事業者の不当
利益を吐き出させてそれを
消費者、
被害者に還元するというような法
制度もうまく
機能していないということが言えるのではないかなと思います。
このように、
日本の
消費者法制というのは、
違法行為のやり得を許し、かつ
被害者が十分に
救済されていないという
現状がありますので、私は、
消費者行政の改革というのは、この問題の解決に寄与するものでなければならないというふうに思っております。
今、
消費者行政の考え方として、
規制行政と
支援行政という考え方があるとお話ししましたけれども、最近、これに加えて新たな考えが出てきました。それは、
協働行政という考えと
救済行政という考え方です。
協働行政というのは、
自主行動基準の制定を国とか政府が支援したり、あるいは
事業者団体の自主
規制を支援、あるいは民間ADRの支援というような形で、協働してよりよい
社会をつくっていこう、そういう
動きが
一つです。
もう
一つは
救済行政ということで、これは二〇〇七年、OECDの
理事会
勧告があるんですけれども、
消費者保護の執行機関が
消費者の
被害救済のための
損害賠償請求等を行える
仕組みの
整備というものを求めています。我が国には、こういう
制度というのは、
組織犯罪における
被害回復給付金の
制度があるだけで、ほかには皆無です。
ただ、
支援行政として
国民生活センターとか
消費生活センターが今まで活動してきたのに、なぜ
救済行政という概念が出てきたかというところが重要でして、今までは、
行政サービスとして非公式に
事業者と
消費者の仲介をするという程度のものだったんですけれども、もっと一歩踏み込んで、
行政の責任において民事案件である
消費者被害を
救済するということがOECD
勧告でも求められているということですね。これがいわゆる父権訴訟というもので、
行政が、
被害者、
消費者にかわって民事裁判を起こして
損害賠償を請求するというような
制度であります。
ただ、必ずしも政府だけがこういう役割を果たせるわけではありませんから、
民主党御提案のような、公益的な
消費者団体が
損害賠償請求をできる、そういう
仕組みもこの中にも考えられるのではないかなと思います。
そうしたことで、私の提言というような形でまとめていますけれども、まず
一つが、私は、
消費者の
権利と新
組織の
権利擁護義務の明確化というのがぜひとも必要だというふうに思っています。やはり理念というのは大事で、これが土台だと私は思うんですね。土台が何かあやふやだと、その上に建物を建てたって、それはいいものはできない。そういう
意味で、
消費者庁設置法の中に
消費者の
権利を守るということを入れるべきだという
議論もここでなされていましたけれども、それよりも
一つ前に、私は、
消費者基本法の中の理念
規定も不十分だというふうに思っています。かなり不十分です。
ここに書いておきましたけれども、第二条、理念という中に何か文言を押し込んだというような形で、そして、これこれこういうことが
消費者の
権利であると言われているからそれを尊重するという、ちょっと奥歯に物が挟まったような、直接的な表現ではないんですね。しかも、初めの
二つの
消費者の
権利規定が「確保される中で、」というような形でくくられていて、この「中で、」というのは、もう実現されたということなのか、ちょっとここら辺の
意味がよくわからないということですね。
ちなみに、隣の韓国は、参考までにつけておりますけれども、これこれこれが
消費者の
権利だよとちゃんと明示して、そして、それに対して
権利を守る義務が国家及び
地方自治体にはあるんだということを明らかに書いているわけですね。こういうものこそ
権利規定だと私は思いますので、余り
消費者基本法の
改正とかという
議論はないですけれども、基本法ゆえの問題点ということもありますけれども、できたら基本法も含めて考えていただきたいというのが私の
意見でございます。
二番目に、
消費者行政苦情というような概念を持っていただきたい。
消費者苦情については
議論されていますけれども、
消費者行政に関する苦情というものが今までは無視をされてきたというふうに私は思っています。
国民生活センターとか
消費生活センターでの
相談の分類は、問い合わせ、苦情、要望という形なんですね。それで、最後の要望というのは、聞きおくだけでほぼ無視してきたんですね。これこそ非常に重要な
情報ではないかなというふうに思います。
かつて、衆議院で平成目安箱という、通称ですけれども、それをつくっていろいろ苦情を受け付けていたんです。私もちょっと苦情を申し上げたことがあるんですけれども、この前、衆議院の事務局に電話したら、平成目安箱なんて知らないと言われてしまいまして、若い職員の方だったかもしれませんけれども、どうも今の決算
行政監視
委員会における
行政苦情受け付け
窓口だそうですけれども、こういうものを
消費者の
視点で
制度化して、そういったものを生かすという
仕組みづくりも必要じゃないかなと思います。
まさに、そういった各省庁でのいろいろな
消費者の
視点からの問題点というのがあるわけでして、例えばの例で挙げています。これは新聞記事にもありますけれども、例えば、交通機関の運賃認可に際し、国交大臣の諮問に対して答申する運輸審
議会というのがありますけれども、これは驚いたことに、利用者、
消費者を利害関係人ではないというふうに言っているんですね。また、特定の路線の運賃認可においては、それは軽微な事案だからということで審議を省略してしまっている、こういうような問題もあります。
あるいは、最近、美容整形等の自由診療トラブルというのは非常に多いんですね。ところが、民事の問題だからということで、厚生労働省は何ら対応しない。そもそも
消費者問題というのは民事なんです。ところが、民事であるということで何にも対応しない、刑事処分を受けたらそれは何か
行政処分はするけれどもというような、非常に冷たいというか、そういう
状況だ。ぜひこういうものは改善されるべきだというふうに思います。
三番目が、消費生活
相談体制の
整備ということで、昭和四十年に兵庫県立神戸生活科学
センターができたのが
消費生活センターの初めと言われています。ですから、四十年以上にわたり
消費生活センターが
日本の
消費者政策の重要な拠点として
一定の役割を果たしてきたわけですけれども、御承知のように、
相談処理というのは、
行政官ではない、ボランティアに近い主婦を中心とした
相談員により非公式に行われてきたわけですね。その結果、解決事例も判例のように蓄積されず、しかも
紛争解決基準のようなものも非常に乏しい。すべてが個別交渉という中で行われてきた。したがって、苦情処理要領だとか補償
基準みたいなものも未
整備のままであるということだと思います。
一九七九年、
消費者問題が起きたときに、一橋大学の宮沢教授は既にこういうことを言っています。私は、これは非常に重要な一文だと思ったので、書かせていただきました。
論点の一核心は、
消費者と
事業者との一般関係を、
社会的にどのように設計するのが合理的か、というにある。当事者間の個別交渉で、主張の強い一部の
被害者だけに補償がなされたり、
消費者の顔色をみながらの対応で、
企業の負担がまちまちであったりするのでは、
社会的不公平は放置されたままとなる。
事業者と
消費者の関係を、個別的交渉の不統一な形のままにおく代わりに、これに一般ルールの基盤を用意することが目指されなければならない
一九七九年にこういうことを言われているわけです。まさにこれが
消費者行政あるいは
紛争解決の本当の
基準、原理だと私は思いますけれども、なかなかそれにこたえる形に
現状はなっていないということではないかなと思います。
ちなみに、韓国では、大統領令による
消費者紛争解決基準というものを設けまして、これによって、返金などのあっせん案の提示を韓国
消費者院長名で行っております。あるいは英国の市民助言局という、市民のあらゆる
相談を受け付ける、
消費者問題も受け付ける部署がありますけれども、
相談員が
相談処理のために関連法規を検索できる電子
情報システムを
整備して、本当にこの専門家でない人も、
相談に関係する法令とか条例がわかりやすく画面に出てくるというようなシステムをつくっているんですね。
日本では、どうもこういう、
相談員さんが中心にやっていて、そういった
相談を支援するというような
状況が乏しいということですね。
相談員個人の資質や力量に頼り過ぎているということです。私は、
消費者が、あるいは
企業にとってもそうだと思うんです、どこの
センターのどの
相談員さんが苦情を処理しても
一定の水準、
基準を満たした
紛争解決を受けられるようにすべきだと思います。
相談員さんの賃金改善、これは重要ですけれども、どうもそこばかりに何か焦点が行っていまして、
相談処理手続の
制度化とか
体制の
整備というものをこの際しっかりやるべきだなというふうに思っています。
そこで、
相談処理の十分の一
原則という、これは私が何となく思うものですけれども、
相談が一万件あると、何らかの
相談処理、あっせんが必要なものはその十分の一ぐらいは本当はあるはずなんですね。そして、その中のまた十分の一ぐらいは、より公正な手続、調停などが必要なものが多分あるだろう。そして、その十分の一ぐらいは、やはり裁判に持ち込まなければ解決できないものが本来あるはずなんですけれども、どうもこういう形になっていない。何か無理やり終了させてしまったり、
消費者があきらめてしまったりということが多いんですね。
そういう
意味でいうと、第一ステップ、この一万件は
相談受け付け、これは
相談員さんがやっていいだろう。それで第二ステップは、余りにも
相談員さんがすべてやっていて、私は第二ステップは、簡便なものとより複雑なものがあると思いますので、ここはもう少し分けて
制度的にやる必要があるだろう。初めの段階は
相談員さん、だけれども、複雑だとか重大な案件については、
相談員さんだけじゃなくて職員がやるとか、あるいはちゃんと
消費生活センターの所長があっせん案を提示するとか、そういう
制度として行うべきだと思います。
ちなみに、埼玉県の話を聞きましたら、主任
相談員、そういう
制度をつくって今公募しているということでありますし、職員も、消費生活専門
相談員の資格を取って、そういう勉強をするようにしたという話がございました。
そして、第三ステップとして、苦情処理
委員会などによる調停というものがなされる。それでもだめなものは訴訟になりますけれども、これは、実は
消費者保護条例、自治体の条例では、訴訟支援ということで訴訟費用の貸し付けというような
制度もあるんですけれども、ほとんど活用されていない。あるいは
弁護士紹介をしたり、プロボノ方式という、ボランティアでやるようなそういったものだとか、あるいは裁判所で、
行政が積極的に
消費者を支援して、例えば証言する。これは、アメリカで裁判所の友、アミカスキュリエというものがありますけれども、積極的に
行政も、そういった民事訴訟であっても支援するというようなことも必要ではないかなと思います。
今出ました自治体の苦情処理
委員会、これがほとんど
機能しておりません。その理由としては、その開催が当事者の申し出によるものではなく、知事の申し出が開催要件になっているということと、予算措置も講じられていないからということです。ここら辺の
整備が必要です。
ちなみに、韓国
消費者院では年間二千件の紛争調停をやっています。さらに、最近、集団紛争調停
規定というのを設けて、
一定期間告示して、同種事例の
被害を持っている人は呼びかけて、それで集めて一括して
相談処理する、そういう方式も持っています。
五番目に、
消費者教育とか啓発のための専門機関の
整備というのが必要だと思います。
今自民党でも、仮称
消費者教育推進法ですか、その
動きがあるのは承知していますけれども、ぜひこの
消費者庁とあわせて、何か
消費者庁の中に盛り込んでいただきたいと思いますし、文科省との連携が必要だったら、文科省の中に
消費者教育課という課をつくらせるぐらい、そのぐらいのことはしていただきたいと思います。
次に、
消費者大学校の設立と書いてありますけれども、実は
国民生活センターの研修部というのは、初めは
消費者大学校構想から始まったんですね。だからあれだけの研修施設があるわけですけれども、自民党、
民主党とも、
一つの省庁ですべての
消費者問題を
所管することはできないということはどちらも考えていることだと思いますので、とすれば、各省庁でちゃんと、
国民、
消費者の
視点で
行政、施策をしてもらう必要があるわけですから、そういう教育機関としての
消費者大学校なんというようなものを設立するというものもいいのではないかなと思います。その中で
国家公務員研修、
地方公務員研修、あるいは
相談員の養成というようなこともやっていいんじゃないかなというふうに思います。
七番目が、刑事
消費者法の活用ということで、これも余り
議論されておりませんけれども、やはり
消費者被害を引き起こす
事業者の行為には犯罪に該当するものが結構多いんですね。ところが、摘発が不十分ではないかなと思います。やはりそういった違法性をいち早く認識できるのは、
消費生活センターとか
主務官庁だと思います。
刑事訴訟法では、公務員はその職務を行うことにより犯罪があると思料するときは告発をしなければならないという
規定があるんですね。ところが、
消費者行政がそういった告発をしたということはほとんど聞きません。こういった検察との連携というものも図る必要があるのではないかなというふうに思います。
最後にですけれども、今まで、
製造物責任法、
消費者保護基本法の
改正、
消費者契約法の制定と
改正等、
消費者法の
整備はかなり進んできたと思います。しかし、その内容については、
消費者サイドから見れば不満がある内容でした。
今回の
消費者庁構想は、与党がそれを推し進めているということでは画期的でありますし、今までの関係者の努力に対しては私は非常に敬意を表しております。ただ、つくるなら庁じゃなくて省という話もございましたし、人員とか予算が一けた少ないと言う方もおられます。
そうした中で、必ず出てくるのが、小さく産んで大きく育てるということですけれども、余り小さく産むと、どうも霞が関には天敵が多いので、食べられちゃうんじゃないかなという思いもありますので、せっかくつくるならもう少し頑丈な、丈夫な体のものをつくってもいいんじゃないかなと思います。
消費者庁構想をベースに考えるにしても、私は今まで
議論もお聞きしていましたけれども、
消費者政策委員会の独立性とか優越性とか機動性ということが重要になると思います。あるいはほかの国のいろいろな
組織を見ますと、例えば
委員会とかをつくって合議制にしても、それでも
消費者パネルとか
消費者ボードという監査機関をつくるんですね。
監査というのは非常に重要なんです。
日本はそれが非常に弱い。だから、
消費者庁とかをまた監査するような、そういう
組織もつくってもいいんではないかなというふうに思います。
少なくとも、
消費者問題に携わる者としては、先送りだけはぜひ避けていただきたいというふうに思っておりますので、ぜひ考えを絞って、工夫していただいて、なるべくよりよいものを今
国会で実現していただきたいと思います。
以上、私の
意見を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)