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水島参考人 意見を述べる
機会を与えていただきまして、どうもありがとうございます。
ただいま、
海運や
海上交通の現場にかかわる三つの立場の
方々から御
意見を拝聴しました。とりわけ直接海で働く人々の
組合の御
意見は大変重く響きました。
海上における
生命財産を脅かす
海賊行為は許されるものではなく、これを取り締まる必要性については、もちろん異論はございません。
国連海洋法条約も、公
海上等における
海賊行為の抑止への協力を定めております。
問題は、憲法第九条を有する
我が国日本の場合、
海賊対処の目的のためにいかなる手段が適切なのかどうか、この視点からの検証が必要であるという立場でございます。
そこで、私の
意見の結論を申し上げますと、私は、自衛隊による
海賊対処には憲法上疑義があり、現在の
エスコート活動などから一定の抑制的効果があるということがあったとしても、長期的に見て
日本がとるべき政策ではないと考えております。直接の
海賊対処はあくまでも
海上保安庁で行い、自衛隊の海外
派遣ルートの開拓に資するような
海賊対処行動の新設は見送るべきであると考えております。
理由は、ここでは自衛隊の憲法適合性の問題はひとまずおくとしても、長年にわたる
政府解釈(法制局)の
観点に立ったとしても、武器使用のハードルを下げることは、自衛隊の合憲性を担保してきたぎりぎりの線を超える可能性が高いからであります。
何よりも問題なのは、現在
活動中の
護衛艦「さざなみ」「さみだれ」の
活動について、その法的根拠が自衛隊法八十二条の海警
行動とされた点であります。まずは
派遣ありきのいわば法的根拠の創出。そして海警
行動は、一九五四年、自衛隊法が制定されたとき、いわゆる領海警備
行動規定と公
海上の警備
行動規定がもともと分けて定められるべきだという提案に対して、最終的にこれを一本化して八十二条とされた、そういう立法経過、趣旨及び条文上の構造から見て、これを公
海上に拡大することについては無理があると考えております。
海上警備行動の発動は、特別の必要がある場合、すなわち
海上保安庁の
対処困難性が明らかな場合に限られます。今回、そのような厳密な検証があったでしょうか。もちろん、
海上保安庁の現在の能力その他についての
国会における御審議がございましたけれ
ども、政治がまず海自
派遣ありきで先行させたことによって、むしろその検証が十分ではなかったのではないかと考えております。
海賊という非
国家的主体が相手であって、目的も、
海賊対処という警察目的であるという表面的な論理だけでは不十分であります。実質的に見た場合、
各国が海
軍艦艇によって当たっておりますけれ
ども、
日本の
海上自衛隊も、国際法上はこの
軍艦の位置づけを与えられてきます。その能力からして、既に海外に出て武器使用の可能性に直面させていること自体、いわば実質的に、
政府解釈の基礎にある必要最小限度という部分を超える
活動に連動しかねません。
この
法案に対する私の
意見は、自衛隊が海外において
海賊対策を行うことは妥当ではないこと、憲法九条を持つ
日本としては、
海上警察
活動には
海上警察をもって
対処すべきであり、いきなり自衛隊をもって制圧にかかるのは筋が通らないことであります。そもそも、自衛隊に
海上警備行動などの形で
海上警察
活動を認めること自体が問題だったのであり、海保の装備が足りないのであれば、なぜ海保の能力を向上させる方向に議論を向けなかったかが問題であります。自衛隊の国際政治的利用、私の言葉で言うと、現内閣になってから、自衛隊の政局的運用が目立っていることが危惧されるのであります。
以下、
法案の個別的な問題点について五つ指摘いたします。
第一に、第二条で
海賊行為が定義されておりますけれ
ども、
海賊それ自体の定義はありません。
国連海洋法条約でも同様であります。しかし、
海賊法案は
日本の
法律であり、刑法に
海賊行為がないために、初めてその構成要件を定めるという意味では特別刑法の性質を持ちます。
行為に着目した定義だけでなく、
海賊という主体に着目した場合、例えば、反
政府ゲリラが同種の
行為を行った場合、あるいは内戦当事者が交戦団体として戦闘に接続ないし付随して、
法案二条のような
行為を行った場合はどうなるのかなどの問題があります。
ソマリアしか想定しないで、恒久法の性格を持つ
法律を急いで制定するところに危うさを感じます。これは
ソマリア海賊特措法ではないという点に問題が、より詰めた定義の検討などが必要だと考えます。
第二に、
法案第三条に
海賊についての犯罪構成要件は定められていますが、公
海上の犯罪に対する刑事手続の
規定はありません。
ソマリア沖で
海賊を拘束した場合、その後の刑事訴追をどうするか、そういう手段について十分ではないのであります。
法案九条にある公務執行妨害罪など
日本法を
外国人に適用した場合、
日本で刑事訴追をするのであればいかなる問題が起こるか。EUが既に協定等をケニアで結んでおりますけれ
ども、これは人権保障にかかわる重要な問題であり、よもや十三条の政令に委任するということはないと信じますけれ
ども、この点についての整理が多分に疑問であります。
そして第三に、
海上保安庁と自衛隊の役割分担もあいまいであります。
日本の内水、領海で行われる
海賊行為についても自衛隊が
対処するのはなぜか。個別の刑法の
規定に違反した場合、例えば陸上の強盗犯人について、警察が
対処し切れない場合には自衛隊が
対処するということを正面から定めた制度はもちろんありません。
法案は、構成要件を掲げ、個別の構成要件に該当する
行為には、特別の必要があれば自衛隊が
対処することを
規定しています。
司法警察の領域である個別の
犯罪行為を
対象として自衛隊が関与するような制度はほかにないのではないか。制度としてのバランスはとれているのか。なぜ自衛隊は、
法律に基づいて犯罪とされる
行為の
うち、陸上のものについては
対処せず、数多くの
海上犯罪の
うち、
海賊行為にだけ
対処するのか。能力的に海保が
対応できないケースがあるというのであるならば、海保の能力の向上が筋ではないか。これでは、司法警察制度に対する自衛隊の過度の介入ではないか。このように疑問が尽きないのであります。
なお、治安出動についての警察と自衛隊の
関係については、旧防衛庁、
国家公安
委員会との間に特別協定及び細部協定があり、役割分担は明確とされています。また、治安出動は、一般の警察力をもっては治安が維持できないと認められる場合に限定されていますが、
海賊対処の場合、特別の必要がある場合の判断は、そのときの
政府の選択にゆだねられているのであります。
第四に、
法案六条、八条で武器使用が緩和されていることであります。六条で準用される警職法の七条、海保法の二十条一項の武器使用基準のほか、
船舶を用いた三つの
行為、すなわち、他
船舶への、一、著しい接近
行為、二、つきまとい
行為、三、進行妨害
行為に対して武器が使用できます。例えば、つきまとい
行為というのはストーカー規制法二条を想起させますが、正当防衛、緊急避難のケースでなくても、
海賊のつきまといに武器使用が可能となることは従来の枠を大きく踏み越えるものではないでしょうか。任務遂行射撃を事実上定着させる一歩になり得ます。
海賊対処という合意を得やすいケースで先例をつくり、後に、海外
派遣恒久法にこの法的枠組みをスライドしていくということが危惧されるのであります。
第五に、
法案第七条の特別の必要性の判断根拠もあいまいであり、また、
国会承認も重視されておりません。これまで自衛隊の海外
派遣の中で、最も武器使用の可能性が指摘されている
派遣形態であり、
国会承認は不可欠と考えます。
国会への
報告についても、
法案は事前でも事後でもよいかのように読めます。原則事前とすべきであり、この点、民主党の修正案に賛成をいたします。
なお、
法案七条二項に、防衛大臣が内閣総理大臣に
海賊対処行動の承認を受けるとするときは、それが現に行われている場合、
行動の概要を通知すれば足りると定めております。この通知すれば足りるという表現は違和感があります。この表現を使った
法律を探したところ、十例ありましたけれ
ども、
会社法とか不動産登記法などでありまして、このような重要な公法については、自衛隊法百十五条の十六に一カ所のみでありまして、これも、自衛隊の部隊の道路使用許可を得るとき、それが複数の警察署にまたがったとき一つの警察署で足りるというレベルでございまして、その意味では、今回、
国会承認を欠いただけでなく、あくまでも現場
優先の判断が強まっていることがうかがわれます。
法律レベルで足りているといっても、憲法レベルで見れば民主的正当性は足りていない疑義があるわけであります。
以上、本
法案の問題点を個々指摘しましたが、これに尽きるものではありません。野党の修正提案も出ておりますが、私は、海警
行動で出した
護衛艦を
日本に戻し、本
法案では自衛隊の部分を削除して、
海上保安庁を軸に再検討して、
日本がやるべき
海賊対処行動の
方針を抜本的に仕切り直すべきであると考えます。
アフリカの角の
海域を通る船はすべて効果的に
保護しようとすると、全
世界のすべての軍隊を動員しても足りないという指摘があります。短期的に軍事介入は副作用が強く、また、既に
エスコートのような象徴的
活動で一般的抑止の段階は終わり、先週からかなり
ソマリアの海は荒れてまいりました。フランスと米国の
艦艇が強硬策をとって死者を出しています。クリントン国務長官は、四月十五日、
海賊との闘いを宣言しました。既に米軍は、
海賊との闘いで強硬手段をとり、先週三人を射殺しました。荒波の中、二十四メートルの距離からの狙撃であります。
海賊側も報復を訴えております。
日本が
護衛艦を継続してこの
海域に出すことは、いずれ
日本も暴力の連鎖にコミットすることになります。
護衛艦「さみだれ」が不審船と遭遇したとき、他
国籍の船について
対応しています。海警
行動は根拠づけられないので、防衛省は
船員法十四条のシーマンシップで説明しましたし、海幕長は人道的
観点から
対応したと言います。先ほどの海の男の
仁義というものはとうといわけではございますけれ
ども、
海上自衛隊の
艦船は、まさに
日本におけるいわば武装組織を海外に出すという枠組みにかかわる部分でありまして、このような海の男のシーマンシップだけで正当化できるものではないと私は考えております。仕切り直しが必要であると考えております。
国連海洋法条約は、百七条で、
海賊拿捕
権限のある
船舶を、
軍艦だけでなく
政府の公務に使用される
船舶としております。司法警察
活動である
海上強盗に対する
海上保安庁の武器使用については、ぎりぎり憲法九条に違反しないと考えます。
海保は外洋型巡視船を保有していますが、まず海自ありきの政治判断に
影響され、過剰に抑制的になっているように私は見ております。海保の能力を発揮することこそ肝要でありましょう。
海賊は組織犯罪であり、それに
対応するのは海の警察である、こういうふうに
思います。
なお、ドイツのカッセル大学の平和研究所の提言「
海賊に
対処は正しい手段で」によりますと、プリントやレジュメに書きましたような、
ソマリアの政治的安定化や、また、
ソマリアとイエメンの沿岸警備隊の国際的支援、さらには、
海賊の国際的なネットワークができておりますので、組織犯罪
対策への多角的協力、これは国際刑事警察機構などとの関連です、このような形で
海賊の組織犯罪とのネットワークを断つことも大切であります。そして、何よりも、これは
ソマリア沖において、ヨーロッパやその他の国々による違法操業や、とりわけ
海洋投棄等によって、
ソマリアの住民たちが大変先進国に対する反発を抱いていた、そういう報道あるいは研究がございます。
さらに、国際海事機構、IMOは、
ソマリア沖海賊対策では、
海上取締官を養成する、そういうセンターを周辺諸国に勧告しています。これは、直接的には、現在行われている
海賊行為を阻止するという、いわば即効的な
対応にはならないという批判があるかもわかりません。しかし、
日本が恒久法を制定し、本
委員会で審議し、決定し、
国会の
法律という形になる以上、恒久法である以上は、そのような多角的な検証をした上で行うべきだと私は考えております。既に
海上保安庁は、東南アジアの
海賊対策についてさまざまな形で蓄積をしており、また、そういう蓄積をアフリカにも応用しつつあります。
日本は、
護衛艦派遣という方向で特化するのではなく、むしろ海保を軸に、資金援助や人的援助、巡視船の提供等、さまざまな形で
海賊の
対策に協力する道を選択すべきであると私は思っています。
そして、何よりも
ソマリアの
状況は果たして例外
状況かということであります。つまり、
ソマリア沖が大変今注目されていますけれ
ども、このように破綻した
国家が
海賊化して先進国の船に向かってくる状態というのは、今後もいろいろな場面に起こり得る。現在のグローバル格差社会という中で、このような貧しい国々や、その貧困がこういう不幸な形で出てくる。そこに
日本の
船員やさまざまな国の
船員たちが
犠牲になる。そういうことをなくしていかなきゃいけない。そのためにもこういう例外状態を使って、いわば軍事的な機能の常態化を図るのではなく、私たちは、より根本的な視点が必要ではないか、そういう意味では思考の幅は狭められてはならないというふうに考えております。
以上の
観点から、本
法案についての慎重審議を求め、これで私の陳述を終わります。
ありがとうございました。(
拍手)