○
三井参考人 御
紹介いただきました横浜国大の
三井でございます。
厚かましくもお手元の
資料に自己
紹介をいっぱい書いてありますので、ごらんになっていただきたいと思いますが、私、現在、
日本中小企業学会という学会の
会長も務めておりまして、ちょうどこの九月に大会を北大で行いました。そのテーマが「
中小企業と
地域再生」ということで、まことに、ある意味においては皮肉にもこの現在の厳しい
状況にフィットする
状況でございまして、
研究者の一員としても、この
現状打開のために少しでもお役に立てればと自覚しているところでございます。
既に
上田参考人、
橋本参考人からも
お話がありましたように、この現下の世界的な
金融危機と不況の中で、
日本の
中小企業は大変苦しんでおります。そこに働く四千万近い人々の将来、そして
日本の将来がここにかかっているということは明らかだと思います。
お手元に配りました
資料は、
村本参考人のものともいろいろ重複しておりますから、詳しいことは省かせていただきます。
また、私、
村本先生のもとで
金融審のリレバンのワーキンググループにも参加してまいり、
中小企業と
金融機関のいい関係づくりが少しでも進めばと期待しており、そして、それが実際にかなり進んできたなと安心をしておりましたら、この
状況でございまして、まことにじくじたるものがあるというか、残念千万でもあります。
もっとも、
お話にもありましたように、これはもちろん
日本だけではありませんで、世界的でありまして、お隣の
韓国におきましては、
金融危機のみならず、特に円建てで
お金を借りた
企業が円の高騰、ウォンの急落で大変苦しんでおるといった
状況すら伝えられているところでございます。さきのAPECの
会議でも示されましたように、
中小企業の今後ということが世界全体にとって大変重要な課題になってきていると私は思っているところでございます。
さて、私としましては、
日本のこうした厳しい
状況をどう打開するかもございますが、やはり世界の流れの中で、かつまた中長期的に将来の
日本というものを見据えながら、このグローバル化の時代における
日本の将来、その中の
日本の
中小企業並びに
中小企業政策の将来ということを少し考えたいと思っております。
今さら「欧米か!」などということをまたここでやろうというつもりではございませんが、まねをするということではなくて、世界全体の動きということを少し知っていただきたい。その意味から申しますと、私の感じでは、もともと
日本は
中小企業に関する
研究や議論あるいは
政策というものは長い歴史を持っておる、世界の中では恐らく
日本とアメリカだけであると思います。
ところが、一九八〇年代以降、世界的にいわば
中小企業の再発見という時代が来たと思っております。これはいろいろ理由がありますけれども、先進国の
経済が不振に陥った、あるいは失業問題の長期化、果ては発展途上国が今までの
経済成長の追求というものを見直してきた、あるいはまた社会主義を標榜してきた国が市場
経済化を図る等々の動きがありまして、大きく見直しが行われてきたと思っております。その中で、大規模
経済一本やりではなくて、中小規模の
企業の効率性や機動性、柔軟性、
企業家精神の発揮、新事業への挑戦、あるいはまた、欧米ではマイクロ
企業という言い方がよく使われますが、そうした小規模な
企業の持っている潜在的な力や技能の継承、あるいは
雇用、就業、所得の機会、こういったものが再評価されるようになってきた、このように思っております。
ただし、私は、その八〇年代以降、世界的にはそうした
中小企業の再発見であると同時に、
中小企業問題の再発見でもあると思っております。これは端的には、そうしたいろいろな
可能性に期待をするのはいいんだけれども、今その
中小企業が直面している問題を解決しなければ、その役割も発揮できないではないか、単なる夢に終わってしまうではないかという、こうした流れから大きく変わってきたと思います。
象徴的には、二〇〇〇年にイタリア・ボローニャにおきましてOECDの
中小企業関係閣僚
会議というものが開かれ、発展途上国を含め多くの国が参加し、これ以来、世界八十カ国近くが世界的に
中小企業政策をめぐって共通の議論等々を行う場ができているという
状況があります。学界の
レベルでもこうした議論は最近活発になっておりまして、私も、ちょうど先月、イギリスのベルファストで開かれました国際的な
会議に行ってきたばかりでございます。
こうした中で、私として、特にこの二十年来、お手元の
資料にありますように、EU、欧州連合における
中小企業政策の動きというものに注目し、これを
研究してまいりました。先ほど申したように、別にまねをしろということではございませんが、これがいろいろな意味で世界で起こっていることを象徴し、かつまた
日本の今後に示唆するところが大きいと思うんです。
これは、何よりも非常に注目できるのは、今世界が苦しんでおる
状況と同じように、このEU、ヨーロッパにおける
中小企業への注目のきっかけは、実は
雇用問題であった。当時のヨーロッパが長期の失業といった問題に悩んでいる
状況の中で、これをどう打開するかということを
中小企業に期待したということが直接のきっかけになっておるわけです。
しかし、その後、九〇年代になりますと、やはり期待だけでもいけないよねという点が、先ほど申したようにヨーロッパの
中小企業団体や欧州議会の議員等から盛んに出てまいりました。その中で具体的な問題、例えば
金融問題、取引関係と代金支払い問題、
事業承継と税制の問題、事業環境と規制の枠組みや行政負担の問題、官公需や
政策機会への参加の問題等がいろいろ語られ、EUの行政府であります欧州
委員会としても、
中小企業の一般的な不利ということを認め、より積極的な対応を図る、こういう
状況になってきたわけで、この辺は今の世界で起こっているのをいわば先取りといいましょうか、そうした
状況があったと理解しております。
そして、二〇〇〇年、二十一世紀を前にいたしまして、当時のEU加盟国は、成長と
雇用のためのリスボン戦略というものに合意をいたしました。新しい時代の社会
経済環境のもとで、競争力あり、持続的に成長、発展できる欧州
経済を築くという壮大な戦略であります。そして、この同じときに、加盟国は欧州小
企業憲章、チャーターというものに合意をいたしました。これは、小
企業は欧州
経済のバックボーンである、
雇用の源であり、ビジネスアイデアを育てる大地であると格調高くうたいまして、小
企業というものの存在を
政策課題のトップに上げる、そして小
企業と
企業家精神に最良の環境をつくるべきであるとしたのです。それ以降、新しい加盟国を含め、多くの国々がこれに調印、参加しております。これは憲章という美しい文章にみんなで合意しただけではなくて、実は、毎年その進捗
状況を確認するレポートを出し、
会議を開き、そして各国やEU
機関がこれに沿った努力をしているのかどうかをチェックするという大変厳しいものにもなっております。
しかしなお、欧州の
中小企業団体などは、これだけではまだ不十分だ、もっと拘束力のあるものをつくれということを要求してまいりました。そして、これに基づきまして、ことしの六月、欧州
委員会として新たにSBA、スモール・ビジネス・アクト・フォー・ヨーロッパという、翻訳すれば小
企業議定書と言えるものを発表いたしました。これはついこの間開かれましたEUの最高立法
機関であります欧州
理事会で最終採択されたはずですが、まだ確認をしておりませんが、基本的には異存はないということでこれまで来ておりますので、そのまま決まったと思います。
これは、お手元の
資料の中で、大変長いもので恐縮でありますが、
中小企業家同友会全国
協議会の報告の中で翻訳を
紹介しております。私
自身、この同友会の皆さん方とことしの五月に現地へ視察、
調査に参りましたので、その際にこうした最新のSBAをめぐる
状況等も目の当たりにしてくることができました。
ごらんいただきますとわかるように、SBAは、先ほどの憲章が非常に格調高く始まっているのに比べますと非常に生々しいのであります。例えばその第二項には、倒産に瀕した正直な
企業家は第二のチャンスをすぐに得られるようにするなんということが書いてありました。再チャレンジのチャンスがなきゃいけないよねということをうたっているぐらいであります。同時に、このSBAはさまざまな法制や行政などに対する包括的枠組みを示し、EUや各国政府が今後どういうことをすべきかという政治的な関与まで含めて具体的に明記され、非常に強いものを求められているわけでございます。
そして、御案内のように、このSBAの採択ということが、世界的な
金融危機真っただ中という事態にちょうどめぐり合わせてしまったわけでございます。そこで、この
金融危機対応ということで先月招集されましたEUの競争力
理事会といったところでは、既に御案内のように、欧州
委員会として総額二千億ユーロにも上る
景気回復
計画というものが提出されて合意されたわけですが、その中でも、特にSBAを基礎としまして、
中小企業、とりわけマイクロ
企業のために全面的な
支援あるいは規制の簡素化等々を進めるということを言及され、そしてまた、このSBA実施のためのアクションプランなども承認されております。そのうちには、EIB、欧州投資銀行などから
中小企業向けの
融資を二〇〇八年から二〇一一年までの間に三百億ユーロ新たに増額するといったことを決めている。もちろん各国の政府もいろいろなことをやっておるわけでございます。
そして、こうした憲章やSBAの中で繰り返し用いられている表現は、ここのタイトルにもありますが、シンク・スモール・ファーストということでございまして、これは直訳すれば小さいところからまず考えよになりますが、端的には、小
企業を第一に考えよという意味になっておるというふうに理解できます。これがSBAの副題にもなっております。英語の発音が私のように悪いと、シンクというのをうまく発音できませんと、シンク・スモール・ファースト、小
企業を撃沈せよになってしまいまして非常にまずいのでありますが、本来はそうではない。
いずれにせよ、大事なことは、これは狭い意味での
中小企業政策を一生懸命やりなさいというだけではなくて、さまざまな法律や規則、枠組み、これは先ほど
橋本参考人もおっしゃったようなことも含めて、あるいは行政や
施策、そういうものが本当に
中小企業、なかんずく小
企業のためになっているのか、逆にその
可能性を阻み、妨げているのではないか、これをいろいろなところでチェックし是正していく、これを求めているということでございます。そのためにはリスニング・ツー・スモール・ビジネス、小
企業の声に耳を傾けるといったこともうたわれているわけであります。
こうした理念というのは、もちろん、いわゆる
中小企業の狭いエゴの主張を優先させるということではありません。しかし、ある意味そこまで踏み込まないと、欧州の
経済状況や
雇用状況がよくならない、また、ある意味ではその先にこそ
経済社会の望ましいあり方があるといった姿勢がある。これは私は、アメリカ合衆国におけるスモールビジネスというものに対する
政策の長い歴史、これにもある程度共通するものがあると思っております。それは、
一つは、
中小企業が社会的な存在であり、社会的使命に対して強い期待を持たれているということがあります。先ほど申し上げた
雇用機会の拡大はもとより、社会的結束といった概念がよくEUでは用いられておりますが、言いかえれば、
地域間や社会各層間の中の不均等の是正や
地域の
再生、社会的なニーズ等々に対応するということも同時に求められていると言えると思います。
皆様御案内のように、社会
政策や
雇用政策の面でもEUの取り組みはいろいろ知るべきところが多大にあると思いますが、
中小企業政策においても我々がいろいろ理解すべきところがあると私は思っております。
終わりに、私として、今後の
中小企業の将来、この危機と衰退から救うということをあえてうたいました。先ほど
村本参考人が指摘されましたように、
日本の
中小企業は今、数的にもどんどん減っている
状況である。実は、不思議なぐらいですが、今申し上げたEUの加盟国を初め、アメリカ等を含めて、いわゆる先進諸国というのは、基本的に
中小企業はむしろ今ふえているんです。世界の中で、先進国で減っているのは、残念ながらと申しましょうか、
日本だけなんですね。このこと自体、大変重要な意味を持っていると残念ながら思わざるを得ません。
そういう中で、こうした特に今の世界的な危機という
状況の中ですぐになすべきこと、あるいは中長期的になすべきこと、いろいろあると思います。例えば、先ほど
村本参考人がおっしゃったように、私も、
リレーションシップバンキングの中で、例えば、従来の
日本の信用補完
制度が一〇〇%
保証という形になっているのは、EU等を含めて、やはり国際的なスタンダードからはちょっと違うのではないか。やはり
金融機関にも相応のリスクは負担してもらう必要があるだろうと考え、いわゆる責任共有化という方向も是としたのですが、まことに残念なことに、それがちょうど最悪のタイミングになってしまって、世界的な
金融危機で一挙に貸し渋り、貸しはがし問題が再来するといった
状況の中では、その辺、私も考え方を反省すべきところかと思っております。
さて、そういう中で、私は、本来、今
日本の
中小企業のためにやるべきことを四点ほど挙げたいのですが、もう時間もありませんので、
一つ、二つだけに絞らせていただきます。
一つは、
中小企業の
人材問題ということでございます。
これもほかの
参考人の皆様も御指摘の点でありますが、
中小企業こそが将来の
日本を担うと同時に、
中小企業自体が
人材の力によって担われているわけでございます。これは、さきに挙げましたEUにおけるSBA、これの第一項、第八項もその点を指摘しているぐらいであります。
もちろん、
中小企業における
人材と申しましても、いろいろあります。昔からのいわゆる職人の
人たち、手の
仕事のすぐれた
人たちをどう継承するかも大きな問題ですが、それだけではなくて、やはり先ほど
村本先生がおっしゃったように、将来の
企業経営者というもの、次世代の
後継者や新しい
企業を起こす人々を含めてどう育てていくかという問題も大きいと思っております。
しかし、同時に、最近非常に大きな問題になっておりますのは、これは
上田参考人も言われたように、ものづくりの
人材をどうつないでいくかという問題があるかと思います。ただ、ものづくりといいますのも、ちょうど私、去年、ある
調査で
上田社長のところにもお邪魔をしたんですが、ただこつこつと今までの
仕事を継いでいくというだけではなくて、今の急速な
技術革新やグローバル化、こういうことに対応していけるような、そうした科学的な知識や新しい
技術の知識をどんどん取り込めるような
人たちというものが何より必要になっていると思うのでございます。
ものづくりだけではありません。新しいビジネスを開拓する、営業を開拓する、新しい
経営方法を応用する等々を含めて、そうした新しいタイプのいわば専門的な技能者、あるいは
技術者に近い技能者、こういった
人たちを育てていくことがいかに必要か。そのためには、それをただ受け継ぐだけではなくて、最新の科学
技術や新しい知識を取り込めるような、大学や教育
研究機関などとの
連携ということが何より必要になっていると思います。
しかし、これは私としてあえて申したいのでありますが、今の
日本の政府の方向としては、特に
雇用・能力開発機構といったところの今後にいろいろ批判もあるということで、いろいろ
お金の無駄もあるとは思いますが、しかし、それで職業訓練施設とかポリテクカレッジ等々を民営化するとか廃止するとかいった声がありますが、これは私が訪問した先のある
中小企業の
経営者の方がおっしゃっておりましたが、これからの
中小企業はまさに
技術の時代だよ、その時代においてこうした施設を廃止するなんというのはとんでもないことだ、自分のところは、ポリテクカレッジなどと
連携して人を育てて、いい人をどんどんつくっている、そういうことをやめられたら本当にうちは死活問題ですということをおっしゃっておられた。すべて同じ
意見であるかどうかはわかりませんが、こうした点は考えていただきたいと私は思っておるのであります。
もう一点は、今後の
中小企業政策全体のあり方でございます。
その中で、私は、
日本の
中小企業政策に
一つ欠けておるのは、やはり、先ほど申し上げたEUの動き等から見ても、いわば
政策の社会性ともいうべき点が欠けていると思っております。先ほどの
橋本参考人のように、まさに社会のニーズにこたえるようなビジネス、あるいはそれを、いわゆる営利
企業だけではなくて、NPOや協同組合や、いろいろな形のやり方がありますが、実は、EUの
中小企業政策の中には、こうしたいわゆる社会的
企業とか非営利組織までも対象にしているんですね。それは
一つ理由があります。そういうものの存在がそれぞれの社会に物すごく重要である。いわば第三の
経済として重要な役割を果たしている。これを軽視してはならない。
もう
一つは、逆に、
橋本参考人がおっしゃったように、そういうところがきちっと採算とれて持続可能な形で続きませんと、ボランティアだけではもたないわけですね。そういう意味からいうと、むしろ
企業経営的なやり方が必要だし、これに対する
政策的な
支援も有効であるという
立場があります。こういう点は、
日本の
中小企業政策の中で今後生かしていただきたい。
さらにはまた、あえて苦言を申せば、
日本の
中小企業政策は余りにも中央集権的である、また余りにも縦割り的である。先ほど申し上げたように、EUの
政策等はむしろ、
産業政策、
雇用政策、
地域政策、いろいろな面を含めて、総合的、横断的、包括的にやっており、かつまたそのベースが、一方では、EUという一番の大もとがあり、方向を定めますが、他方では、むしろ各
地域の
レベルで
政策機関といったものが大きな役割を果たし、そこで
地域のそれぞれの実情に合わせた中長期的な戦略を立て、積極的な動きをやっておるわけでございます。私
自身、そうしたEUの動き等を直接現地へ行って少しながら勉強してまいっておるわけですが、行くたびに、どうも
日本のやり方と違うよなという感じが大変するわけでございます。
今後につきまして、少し
研究者の無責任な言い方かもしれませんが、
日本の
政策全体の枠組みを考え直す時期でもないのかなと思っているところでございます。
長くなりました。失礼をいたしました。(拍手)